なのは+『心のちから』   作:黒影翼

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記録十三・毒を持つ仲間

 

 

 

記録十三・毒を持つ仲間

 

 

 

Side~フォート=トレイア

 

 

 

見習いですらない扱いの俺は、会議室やなんかに直接顔も出せないため、後から別個に話を聞く必要がある。

って事で、今日あった話をアイシスに聞いているわけだが…

 

「進展ねぇなおい。」

「あたしに言われても困るってそれ。」

 

見事に進展がない。

あれから2ヶ月半。フッケバインも見つからず、堕天使も派手に動かない。

船を離れていたフッケバインは大体堕天使に殺されたようだし、残った連中は慎重に動いているんだろう。

 

フェアレ達にしたって、あの力の実験のつもりで来たなら、今は研究の為何処かの施設に篭もりきりなんて状況かもしれない。都合よく敵施設でも発見できなきゃどうしようもないだろう。

その間あった事と言えば…

 

フッケバインからの、直接通信によるトーマ達見習い組みの勧誘。

 

「なんだかトーマ変にフッケバインの連中と仲良い気がして…善悪の判断が独特だって、皆心配してたくらいでさ。」

「善悪の判断…ね。」

 

いかにも、ただの正義の味方が陥りそうな考え方だけど…多分、もっと単純なもので、大切な二つのもののせいでトーマは彷徨ってる。

 

…釘さしておくか。

 

 

 

Side~トーマ=アヴェニール

 

 

 

夜。

仕事もあらかた片付いた頃、俺はフォートに呼び出されて一人で外に出て来た。

本当はリリィとは出来るだけ離れないほうがいいんだけど、誰にも聞かれないほうが都合がいいって。

 

さすがに真面目な話なんだろうと、気を引き締めたつもりでいて…

 

 

 

「お前、フッケバインの仲間なんだよ。」

 

 

 

予想を上回る一言で始まった。

仲間意識を感じるな、善悪の判断がおかしい。

そんな感じに釘を刺され続けた事はあるけれど、こんな形で断定された事は無かったから、一瞬訳が分からなくなった。

 

「ど、どういう…俺は別に何もしてないぞ!返事を返す許可だってもらえてないから」

「別に六課を裏切ったとかそういう話じゃない。」

 

特務を裏切ったって話じゃないなら、一体どうして俺がフッケバインの皆と仲間だなんて言うのか。

分からないまま、焦りが胸によぎる。

まるで、突かれたくない隠し事をばらされるような…

 

「犯罪者になりたい訳でもないし、スバルさんを裏切りたい訳でもない。けど…」

「けど…なんだよ…」

「許されたい犯罪があるだろ、お前。」

「っ!!」

 

思わず力が入る。

俺が、許されたい犯罪…復讐…

 

俺の大切なものを壊したアイツラを…

 

「お前が普通になろうとしてるのは、スバルさん達大切な人を自分で裏切るのが嫌だからで、もし先にフッケバインに助けられていたなら躊躇い無く仲間でいたんじゃないのか?」

「それは…」

 

否定しようとして、出来なかった。

何の言葉も出てこない。

 

「エクリプスに感染して、憎悪を抱えてる。オマケに、その憎悪に従って行いたい犯罪もある。これだけ自分に揃ってて、フッケバイン相手だけ、『お前達は悪党だ』なんて台詞が出てくるわけないよな。」

 

俺は、とうとう俯くように頷いてしまった。

 

助けてくれたのは、スゥちゃんもフッケバインの皆も一緒で、フッケバインは凶悪犯だけど、俺はそれを責められない願い事を持っている。

 

「友達ではないかもしれない。でも、仲間なんだよ、お前は。」

 

同属、同類。そんな意味での仲間。

だから…俺にはフッケバインの皆を責める事が出来なかった。

 

皆を責める事は俺にとって、自分の『本当』を否定するのに等しいから。

 

「復讐心を捨てて…フッケバインの皆をはっきり拒めって?」

 

…痛かったんだ、心が。

感染したエクリプスに呼び起こされた憎しみが、はっきりと自覚させる。

俺の大切な物を傷つけ奪った事、その痛み。

 

スゥちゃんに助けられて、普通を知って尚、簡単に割り切れずに旅に出たんだ。言われて捨てられるほど軽いものじゃ…ない。

 

善悪の判断がどうこうって話なら聞き流す…あるいは素直に頷く事も出来ることもある。

けどこれは…俺に根付いてる本心への注意。

 

「捨てられないか?でも、復讐を果たしても…自分の意志で人を殺しても、スバルさん達と今まで通りでいられるとも思ってないんだろ?」

「っ…」

 

痛い。

 

反論のしようなんてなかった。

心のどこかで望んでいながら、そんな都合のいい話ある訳がないことは分かっていた。

 

「重い話を急いて悪いが、エクリプスに感染してるお前は、余裕があるうちに覚悟きめとかないと拙い事になる可能性がある。」

「皆が傍にいる中で、唐突に復讐心に呑まれた挙句、暴走したら…」

「ああ。選択、なんて言ってられずに自分で自分の大切な物を壊す可能性がある。」

 

ゼロを二発も撃てば皆死ぬ。

リリィが傍にいて、進行防止治療を受けている今でも、復讐の気持ちは消えていない。

 

 

「お前が誰かを殺す選択をするなら、俺はお前と戦う必要がある。多分局の人達も。逆に言えば、『それでもいいなら』フッケバインに加わるのも選択だろうな。」

 

 

離反を促すようなフォートの言葉に驚き、整理がつかない間に…

 

木の枝が折れる、鈍い音が聞こえた。

 

俺もフォートも、弾かれたように音がしたほうを向く。

音がした木、その裏から…

 

「スゥ…ちゃん…」

 

スゥちゃんが姿を見せた。

 

 

 

Side~フォート=トレイア

 

 

 

どうやら影から様子を伺っていたらしいスバルさん。

 

…失敗したか?

 

トーマに自覚も覚悟もないままでフッケバインの勧誘や、仇との遭遇なんて事態になったらと思ってわざわざ呼び出してこんな話を振ったが、自分で決めるトーマはともかく、スバルさんにしてみれば、弟を犯罪者に仕立て上げようとする台詞だ。

 

案の定と言うか、悲しげな表情で俺達を見るスバルさん。

 

 

「…言われたからって理由で不安定なまま我慢してても、エクリプスにつられれば耐え切れなくなる。自分で決めないと駄目なんだ。」

 

 

俺だって別にトーマにフッケバインについて欲しくて言ってる訳じゃない。

でも、だからこそこの形で話を振ったんだ。

 

フッケバインは復讐を餌に声をかけるだろうし、エクリプスの衝動にしたって何の覚悟もないまま起きれば最悪の事態になる。

 

「後は自分で大事な物を、大事な事を決めるといい。」

 

さすがにスバルさんがいる状態でこの話をこれ以上続ける気にもなれないし、言うべきことは言った。

注意でもされない限りはもう引き払ったほうがいいと思って部屋へ足を向け…

 

 

「ありがとう。」

 

 

トーマからのお礼に、思わず足を止めてトーマに視線を移した。

 

「…正直、聞きたくもない話だと思ったんだけど。」

「うん、痛い話だった。でも、リイン司令補から『悪意の持ち主は笑顔で近づいてくる』って言われてる。案外、一番痛い言葉を伝えたフォートが、本気で俺の心配をしてくれてたんじゃないかって、そう思ったんだ。」

 

アイシスも結構ガミガミ注意してくるし。と、本人が聞いたら怒りそうな台詞を吐くトーマ。

俺は軽く肩を竦める。

 

「そりゃスバルさんに失礼だ。単に皆脳天お花畑で復讐なんて気持ちに気付かなかったんだろ?」

「あぅ…フォートの方が失礼だよ。そりゃティアにもお花畑とか言われたことあるけど…」

 

傍らで話を聞いていたスバルさんが、おだやかな方に流れた話に乗って、ようやく口を開く。

別に、トーマの心配をしてたってわけじゃない。俺が気付けたのはただ…

 

「フェアレは襲撃されてるんだ。俺だって…敵を潰すほうに意識が一回も向かなかった、なんて聖人じゃない。だから…衝動より大切な物は忘れないようにって、ずっと思ってる。ただそれだけだ。」

 

似たものを抱いた事があるってだけ。

感染者のトーマにしてみれば、殺意は衝動と言うよりむしろ発作に近い訳だが。

だからこそ尚更忘れたら拙いんじゃないかって思う。

 

なんにしても、後はトーマ次第だ。

何を望むかなんて自分の中にしかないんだから。

 

 

 

Side~スバル=ナカジマ

 

 

 

「そう…フォートがそんな事を…」

 

誰にでもおおっぴらにしたい話でもなく、でも誰にも話さずにいられる話でもなくて、あたしは結局ティアに話す事にした。

 

「犯罪を助長しそうな事言って回って欲しいものでもないけど…一理あるだけにキツイわね。」

 

ティアが苦い表情で言う言葉に、あたしも頷きで返す。

 

 

説教に上辺だけで頷いておいて、本心に気付かないまま仇を前にして暴走。

 

 

上辺だけ、なんて言うとトーマが嘘吐く悪い子みたいで誤解を招きそうだけど、復讐心みたいな強く心に残る傷って、いわばトラウマだ。

余程自分で意識して抑え込まないと耐えられない。精神病に近いものが、お説教だけで治るわけがないんだから。

 

「世界を汚す毒物として同じだって、フッケバインから散々言われてたみたいだし、フォートにまで仲間なんて言われて…」

「…ま、心配なのは分かるけど、それだとフォートにはまた負けてるんじゃない?」

 

それなりに重い話を持ち込んだと思っていたけれど、ティアは笑顔で言葉を返してきた。

あたしはちょっとビックリしてティアを見る。

 

「負けてるって?」

「話してトーマが敵対するのを選ぶって思ってたら、わざわざ本人に言わないでしょ?トーマが犯罪者にならない…少なくとも、自分達と敵対したい訳がないって信じてるから、そんな話をしたのよ。」

「あ…」

 

敵対しないって信じてる。

心配で盗み聞きしてた中聞いた言葉を思い出す。

 

『お前が誰かを殺す選択をするなら、俺はお前と戦う必要がある。』

 

フォートは確かにこう言ってた。トーマの犯罪なんて望んでるわけがない。

 

「さすがに何も注意しないってわけには行かないけど…弟分なんだから、ちょっとは信じてあげましょ。」

「…うん。」

 

執務官って役職柄なのか分からないけど、雫ちゃん相手の時といい話の本意を察するのに長けてきてる気がする。

 

役職柄の話なら、あたしだって前よりずっと速く強く動けるようになっている。

 

本当にとめたり助けたりしなきゃいけない何かがあったらきっと…真っ直ぐに駆けつけて見せる。

 

 

 

 

Side~八神はやて

 

 

 

AEC戦用として特別仕様で組まれた自立作動方汎用端末、ラプターが6機納入される。

単純な意味で戦力増強、その他の狙いで…

 

これで、手配中の速人等が動く可能性。

 

一体何がどうしてラプターのデータが狙われたのか結局つかめていないが、そのラプターを六課で抱えようって話が知れたなら、間違いなく介入してくるはずだ。

 

 

問題は…彼等と渡り合える戦力。

 

 

襲撃が予想されていながら、全滅させられましたなんて洒落にもならない。

ならないが、彼等相手に準備不足ではほぼ確実にそうなる。

 

戦力が欲しいところやけど、候補の一人は厄介な案件に関わってるためか、そうしょっちゅうは呼べない。

今日の搬入は様子見に来てくれるそうやけど、それもすぐつくかはわからん。

 

なのはちゃんも張りきっとるけど…一人一人がコッチと互角のエース級、オマケに最大戦力と予想される堕天使はエース数人分って規格外。

フォワードチームも見習い組みも当然手も足も出ん相手…って言うより、手も足も出るメンバーなんて局中探して何人いるか。

 

あとは、搬入されるラプターの戦力がどんな感じか…

 

 

 

って、期待して報告聞いてみて、私は頬が引きつった。

 

 

 

ラプターは頼もしい戦力である事は間違いないらしく、トーマがぼこぼこにのされたらしい。

うん、ラプターが頼もしいのはええんやけど…最悪この子が彼等と戦闘になるんか…

 

 

ゼロ因子保有者と言う重要人物でもあるだけに、余計に頭の痛い話だった。

 

 

 

Side~サイファー

 

 

 

敵対組織を潰しつつ情報を集めていた私とビルは、少々困った情報を耳にした。

特務に搬入される予定のラプター。その強奪を、感染者のグレンデル一家が狙っていると言う情報を手にしたのだ。

 

戦闘に巻き込まれる事になれば、最悪トーマ達では瞬殺されて終わってしまう可能性がある。

それを避けるためにと通信を繋ごうとしたのだが…

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

悪寒が走った。

 

こんな感覚は久々だった。

命の危機を、全身が訴えている。まだ戦闘にすらなっていないのに…だ。

 

「ふ…ん、なるほど。カレンが引いて、単独行動を禁止させる訳だ。」

 

足音の反響する地下駐車場、だんだんその姿がはっきりしてくる。

 

大鎌を手に立つ灰色のドレスの女。

間違いなく、件の堕天使だ。

 

「ビル、トーマ達への連絡を。こんなところで下手に騒いで局の目を此方に向けては拙い。」

「…分かった、すぐ戻る。」

 

ビルのリアクトでは、破壊力がありすぎてどう頑張っても騒ぎになる。

結果的に局が出てくるのはかまわないが、先に此方だけに気付いたせいでグレンデルの連中に付け入る隙をやるのは好ましくない。

 

「…どうした?来ないのか?」

 

ビルが離れても私を見たまま動こうとしない堕天使相手に声をかけてみる。

すると、彼女は…

 

 

 

つまらなそうに…目を閉じて俯いた。

 

 

 

あまりにも呆れ、頭にくる隙だらけの様相に、間髪入れずに粒子剣を首目掛けて放つ。

 

剣からエネルギーを噴出する、通常不可視攻撃なのだが…

 

 

彼女は、片手を無造作に振って私の一撃を払った。

 

 

こいつ…見える見えない以前に、見てないんだぞ?一体何がどうなっている。

 

 

「公務員じゃないし、そう気にする事でもない…か。」

「何?」

「スパイラルバスター!!」

 

嫌な予感がする台詞の直後、町の地下だと言うのに砲撃魔法を放ってきた。

防御も分断も働かせたはずだが、駐車場を丸ごと吹き飛ばすような大爆発はさすがに防ぎきれずに吹っ飛んだ。

 

 

SS級が化物なのは、前回の一戦で特務の氷結魔法や飛空挺に傷すらつけた魔力斬撃で重々承知していたが…

 

「その力をこんな場所で振るうか…」

「お前達に殺される人間を考えれば、直せる町の被害なんて気にするのも疲れた。」

「はっ、破壊者がいい気になるな!!」

 

リアクトを済ませ、二刀を手にした私は灰の天使に斬りかかった。

周辺被害も『多少は』気にしているのか、砲撃の威力も全力といった様子ではなかった。

 

 

なら、それを利用してここで殺す。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 




最新鋭機とはいえ、量産機といい勝負の感染者て…トーマがんばれー(汗)
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