記録十四・信じる友達なのは
Side~トーマ=アヴェニール
いきなりドゥビルから繋がれた通信、その内容と感じた魔力の反応に俺は困惑するしかなかった。
「ラプターが盗まれる?堕天使と交戦って…」
『上司への報告、対処はそちらで好きにするがいい。』
今日搬入予定のラプターを盗むために、グレンデル一家という一団が襲撃に来るらしい。
いろんな意味でどうしてそんな事知ってるのか気になるような話をするドゥビルだったけど、急いでいるらしく細かく説明はしてもらえなかった。
『だが…お前達は出てくるな。』
「え!?」
『感染者同士の戦闘も危険だが…奴はお前達も殺しかねない。お前を護って戦ってやるほどの余裕はない。』
こっちの困惑を他所に、通信は切られた。
堕天使の戦闘については、あれだけ派手な魔力反応があればもう感知してるはずだ。
「ど、どうするのトーマ?」
「どうするって、行かない訳には行かないよ。どの道報告はしないといけないんだ。急ごう!」
「ちょ、トーマ!?」
飛び出そうとする俺の肩を掴むアイシス。
フォートの見解が伝わってしまってる今、フッケバインの皆を助けに飛び出そうとしているようで不安にさせてるのは分かる。
「大丈夫、報告後は指示に従うって。護ってくれてるアイシスに迷惑はかけないよ。」
仲間とか、犯罪とか、善悪とか。
正直言って、自分でも定まってるのかあやしい、分からない部分はある。
でも…たった一つだけ、はっきりしてることがある。
その為に、俺は急いだ。
Side~サイファー
「っ…おおおぉぉぉ!!!」
双剣である事を利用して、連撃を途切れさせないようつめる。
だが…
「ふっ!」
「っ…」
少し荒くなったタイミングを見切られ、柄で思いっきり右腕を跳ね上げられた。
崩れた姿勢のまま、左の剣で粒子剣を放つ。
が、すれ違うように回避して距離を詰めてきた彼女は…
喉に下から刺さるような貫手を繰り出してきた。
「が…」
体が持ち上がるような強さの強打を喉に受けてさすがに硬直する。
間髪入れずに、右手で握ったままだった鎌を振りぬかれた。
胴体で両断されるのだけは避けようと、跳ね上げられた右腕をそのまま背中まで振りかぶり、迫ってくる刃を受けて、吹き飛ばされる。
吹っ飛ばされた先から一度雲隠れしようと思ったが…
魔力の収束を感じ、咄嗟に動かず防御。
「ぐ…おぉぉぉ!!!」
先に放たれた、渦を巻いた貫通性の高い砲撃。
ディバイドも働いているはずだと言うのに、対策でもあるのか高威力が過ぎるからか消しきれずに壁にめり込んで行く。
「な…めるな!!!」
力任せに周囲の瓦礫を払いつつ切り裂く。
大威力とはいえ所詮魔法、ダメージは無視して、攻め手をとる。
つもりでいたのだが…
「はっ!」
「っ!」
タイミングを合わせて振るわれた鎌の一撃を二刀で受けて、押し負けた。
どうなってる、こいつは…っ!
考える間もなく跳躍とともに攻めかかって来る。
飛び込んできたところに、右の剣を突き出した。
が、空中で身体を捻って回避した彼女は、伸びきった私の右肘を鎌の柄で叩いた。
折れた。
だが、左腕が残っている!
脇腹を狙って斬りかかったが、彼女は鎌を手放した右手でアッサリと私の腕をとって持ち上げた。
「魔導師に魔法無効なんてデタラメなハンデ戦を強いて、貴方達に効かせるために作られた武器を使わされてるなのは達とようやく互角の貴方達が…強者だとでも思ってるの?」
「貴様…」
「舐めてるのはそっちだ害鳥。」
掴まれた左腕を、振り下ろすと同時に捻られ、筋が切れた感触が腕から伝わってくる。
オマケに体が前に傾いて…
掴んでいた腕を放した彼女は、そのまま私の顔面に右肘を叩き込んだ。
魔導師…じゃない…少なくとも、ただ魔導師として強いんじゃない。
一度会った特務の剣士には、完全に剣で一枚上手を行かれていた。この身体で無ければ確実に負けていただろう。
彼女の場合、それが武器戦闘だろうと格闘戦だろうと魔法戦だろうとお構いなしでその領域だ。仮に剣と鎌で互角の打ち合いが演じられても、距離を詰められても離されても部が悪くなるのでは…
瞬間、ビルが堕天使の背後に転移してきた。
短距離瞬間移動。
反応される事なく死角から致命打を打ち込める、ビルの持つ能力の一つ。
死角から―
「っ!ビル!!」
「っが…」
不可視攻撃を目を閉じたままで払った彼女の姿を思い出した私は、注意の意を込めて叫んだが、間に合うはずも無かった。
背後を振り返る事すらせずに下がった彼女は、何処から取り出したのか左手に逆手に持ったナイフをビルの首に突き立てていた。
「くおおおぉぉ!!!」
両腕の再生が間に合っていないため、蹴りだけになるが飛び掛った。
ビルの首にさしたナイフを手放し、私を飛び越えるようにして蹴りをかわす堕天使。
反撃に何か食らうつもりではいたので、回避されただけなのを意外に感じ…
「仲間を気遣う心がありながら…人を何だと思ってる!」
膨れ上がった魔力を鎌に宿して振り上げている彼女の姿に、そんな甘い人間でないことを悟る。
こいつ…私を殺すだけなら最初から出来たのか!?ビルが戻ってくるのを待って、この一撃を纏めて叩き込むつもりで…っ!!
死を示す一撃が振るわれる、まさにその瞬間…
視界が桜色に染まった。
どうやら、地上から貫通するように放たれた砲撃らしく、辺りが崩れ始めている。
受けたダメージを修復しつつ、崩落から逃れ地上に出ると…
そこには、亜麻色の髪を靡かせた女性が浮かんでいた。
私達を一瞥した女性は…
「貴方達は『逮捕』します。殺されないうちに離れて下さい。」
それだけ言って、崩落した地下に視線を移した。
『なのは達とようやく互角の貴方達が…強者だとでも思ってるの?』
地下で聞いた台詞が思い起こされ、苛立ちが募る。
再生は当に済んでいる。先に斬り殺してやろうかとも思って…
「久しぶりだな、フッケバイン。投降するつもりはないか?」
いつか会った、特務の女剣士が私達の前に来た。
…こっちが私達を担当するわけか…上等だ。
Side~高町なのは
射程、貫通性を優先したディバインバスター。
普通ならこんな街中で地下に向かって撃つものじゃない。被害が洒落にならない。
けれど…その『こんな街中』で、『星斬りの一撃』を振らせる訳には行かなかった。
さすがに今の一撃だけで終わってくれる訳は無く、瓦礫の中から飛び出るように出てくる影。
「…また邪魔する訳だね。思えば、要所で決めて来るのは速人だったけど、要所のきっかけ、パスを出すような位置にいたのは常に君な気がする。」
大鎌に灰色のバリアジャケット。
ちょっとだけ昔のフェイトちゃんの姿を思い起こすような装備の彼女は、私を見ながらうっとおしそうにそう告げた。
余裕のない曇った表情、薬物の影響なのか悪い顔色。
悲劇なんてありふれた世界…と言っても、見ていて痛ましいものは痛ましい。
「…殺人未遂他の現行犯で逮捕します、投降してもらえますか?」
「すると思う?」
思わない。
利害で動いている訳じゃないだろう、無理矢理戦闘不能にしたって死ぬまで従ってはくれないはずだ。
「だったら…強制逮捕します。」
フォートレスを背にカノンを構えた私を見て、彼女は鎌を振りかぶる。
「管理局と戦う意味はないんだけど…そういう訳にもいかなそうだね。」
戦闘を決め、デバイスを構えた。
ただそれだけ。なのに…すさまじい緊張感が身を包み込んだ。
当たり前…か、魔導殺し対策もしてあるんだろうとは言え、通常魔法戦でフッケバインを殺しかけるくらいなんだから。
「ファイアっ!!!」
右手のカノンから砲撃を放つ。
今回の一件には珍しくただの魔導師相手の為、物理破壊設定は許可が出ない。
とはいえ、感染者相手には魔法が直接効かないため、レイジングハートにはこっちの演算補助なんかに回ってもらう設定になってる。
ただの斬撃で砲撃を相殺した彼女は、鎌を振り切ってから接近してくる。
フォートレスを分離。盾を障害に多角攻撃を…
「っ!?」
障害物になるように軌道上においておいたフォートレスの一基を掴んだ彼女は…
「はっ!!」
フリスビーのようにコッチにぶん投げてきた。
慣性制御なしだとそれなりの重さがあって、ディバイド込みでも簡単に砕けない強度もある盾。
刃があるわけじゃないといってもさすがに直撃するわけにもいかず、カノンで受けとめる。
分離した残りの2ユニットから彼女を囲うように砲撃を放つ。
盾を投げたままの姿勢で、淡い光に包まれながら私の砲撃に飲まれ…
私は咄嗟に、全展防御を全力展開した。
なりふりなんて構っていられなかった。
一撃こそバーストセイバーで名が知れてるけど、アレは本来、一回で放出可能な魔力値を超えて使用可能にした、バーストモードの派生技。
砲撃の残滓の中から、無傷の彼女が一瞬で接近してきた。
全身にブースターをつけて無理矢理動かしているような状態だから彼女自身への負荷も大きいが、直角だろうと何だろうと高速で動いてくるのは危険極まりない。
私が張った防御魔法だけでは一瞬もつのがせいぜいで、抜かれた鎌の先端が迫ってくる。
どうにかその一瞬で、鎌の軌道にカノンをはさむ事が出来た。
甲高い衝撃音とともに、カノンに罅が入った。
「バーストモードでの一撃で斬れないか、さすが対感染者用の盾だ。」
「よく…言う…っ!!」
普通の金属じゃ砂糖細工みたいに砕ける感染者相手に、分断効果を阻害しつつ防御も可能にするための砲盾。
それを大技でも分断効果も無いただの一振りの斬撃で壊すなんて…
投げ返された、近接用ユニットを私と彼女の間に入るように飛来させ、一瞬間を空ける。
罅の入ったカノンを投げた私は…
「バスターッ!!!」
傍らのレイジングハートに杖形態に戻って貰い、罅の入ったカノンを貫通するような形で砲撃を放った。
「っ…あいも変わらず物騒な真似を…」
苦い表情で告げた彼女は、防御魔法を展開していた体勢から、別の魔法を展開する。
シューティングスターだ。
視界を埋めるような弾幕を、フォートレスの防御機能をフルに展開して防ぐ。
物理破壊設定になっているらしく、感染者の火気すら防げるフォートレス越しにビリビリと衝撃が抜けてくる。
弾幕にさらされ、それを防いでいる中、一つの塊が投げられた。
はっきり見えないけど、爆発物。
しかも、狙いは下で交戦中のシグナム一尉とフッケバイン達。
『管理局と戦う意味はないんだけど…』
宣言通りに意味のあるほうを狙いに行ったらしい。
無色の魔力弾を扱えるから、死角からの攻撃が来るんじゃないかと思って警戒していたというのに…あっさり私じゃなくてフッケバインに狙いを切り替えるあたり、本当いい性格してる。
分離させてあるフォートレスの一基からの狙撃で、投げられた塊を打ち抜くと、塊は爆発、炎上した。
爆薬としての威力が高いと広い範囲を壊す破目になるからか、発生した熱は高いものの、範囲はそう広くないものだった。
「この程度じゃ抜かせてくれないか、本当に毎回毎回厄介だね。」
私を見ながら、言葉の通りにうっとおしそうにする彼女。
殺傷を目的として動いている事に、それに躊躇いがない事に、疲れたような諦めたような仕草に、私を見る瞳に…
聞かずには…いられなくなった。
「貴女は…誰?」
私の言葉に、彼女は不理解の色を見せる。
リライヴちゃんと同じ姿、世に二つあると思えない無色の魔力光、桁外れの…リライヴちゃんの魔法を使用した高い戦闘能力。
一見…と言うか、どう見てもリライヴちゃんに見える、灰色のドレスの堕天使。
疑う余地なんてない、私の問いかけの方がおかしい。
でも…
慰霊碑の前で泣いていた私の友達と、彼女の姿がどうしても重ならない。
薬物を打たれた位だ、きっとリリィみたいに酷い目にも遭っているはず。
それでも…
「親戚って位の昔馴染みなんだから、分かるよ。貴女は違う…届かない願いを叶えるために戦ってた、私の友達じゃない。」
頭を弄くられたのかなんなのか、理由は分からない。
それでも…私の身体は、心は、目の前の灰色の少女がリライヴちゃんだと認めなかった。
SIDE OUT
カオス度悪化な回(爆)。でも事態そのものは少しずつ判明してきます(汗)。