記録十五・ラプター防衛戦
Side~フォート=トレイア
いきなり市街地で例の堕天使とフッケバインが交戦とか言う状態になったせいでごたごたの状況で、どうにかラプターを無事に搬送しなきゃならないって事で、隊長達が離れる関係で俺と見習い組みがラプターの護衛につかされたんだが…
フッケバインからの通信にあった、グレンデルとか言う連中の首領、カート=グレンデルと交戦状態に入った。
正直、あんな化物が近場でうろついてるって時に出てくる小物なんていないと思ってたんだが…自分達を大物だと思ってるのかそれとも戦力判断もしないほどの馬鹿なのか。
「はああぁっ!!!」
二刀を展開して斬りかかる俺の一撃をディバイダーで防いだカートは…
「ディバイド・ブレイク!!」
俺の剣を握り砕いた。
ディバイド自体は効き難くても、俺の出力の関係上あまり強度はないので、分断効果を利用した破壊攻撃は武装破壊されるには十二分だ。
けど、そんな事は俺にとって日常通りなので、さっさと次の剣を精製して、剣を砕いたのをいい事に振りぬいてきたディバイダーを受け止める。
「お?」
「はっ!」
砕いた剣が即出て来たのに驚いたのか、目を丸くしているカートを他所に、空いている右の剣で突きを放つ。
咄嗟に左手で剣の先端を掴んだカートだったが、さすがに突き刺さって血が出た。
「うぉ!いてぇ!…ディバイド!!!」
接触状態などだと効果が高いらしいディバイド。
突き刺さったとはいえ止められた右の剣だけでなく、ディバイダーを防いでいた左の剣も纏めて砕かれる。
「ウェーイ!隙だらけ!!」
両手の武装を砕いて意気揚々とディバイダーを構えたカートは、今度は射撃を放ってくる。
左腕に展開した盾で防いだ俺は、そのまま踏み込んで盾で鼻っ柱を強打した。
「ふごぁ!…なんの!」
「が…っち!!!」
別に死なないからか、ダメージを無視したカートは鼻から血を流したままでディバイドで盾を砕き、左手を伸ばしてきて俺の首を掴む。
俺は右手に精製した短刀を、伸びきった左腕の肘に裏から思い切りつきたてた。
基本的に身体能力だけで化物じみてる感染者だが、構造自体が別物になる訳じゃないので、筋に当たる部分なんかを切られれば当然治るまで力は入らない。
右手に握るディバイダーで俺を攻撃しようとしたカートだが、何か作るより早いと判断した俺はそのまま左拳で鼻血を流す顔面を殴りつけた。
よたよた下がったカートは、鼻を押さえて血の塊を鼻から抜いて綺麗さっぱり治った顔で俺を睨む。
「っだぁめんどくせぇ!何なんだテメェ!武器庫かなんかか!」
「再生怪人のお前等に言われたくないっての。雑魚相手に時間使ってられないんだ、とっとと捕まれ。」
「おいおい、俺様はいずれこの町の王になる男だぜ?舐めてもらっちゃ困るなぁ。」
ディバイダーを手にニヤリと笑うカート。
…ああ、なるほど。
「大物だと思いこんでる小物なのか馬鹿なのか、どっちかと思ってたんだが…両方だったか。」
「オイこら!人を馬鹿にすんのも程ほどにしとけ!!」
怒るカートだったが、本当に小物かどうかは置いとくとして、俺の優先事項の中で低いのは間違いない。
こいつを引き受けた関係でラプターについてるトーマ達の方も気になるし、空の堕天使の相手もなのはさん一人じゃいくらなんでも危険が過ぎる。
フッケバインに関しては無策じゃないらしいが…とにかく急がないとな。
Side~トーマ=アヴェニール
折角フォートが首領を引き受けてくれたって言うのに…ノコギリ状の刃を持つ刀を手にした少女に襲撃されて、ラプターを運んでいたトラックを止められてしまった。
「頸部。」
「っ…」
わざわざ宣言とともに刃をふるって来る少女。
全く見えない何かの斬撃が飛んできて、首を庇った腕が裂ける。
速くて鋭い…コッチは第二形態、向こうはリアクトもしてないって言うのに、アッサリ身体が傷つけられるなんて並の斬撃じゃない。
「トーマ!」
「上腕動脈。」
カノンを手に援護に来てくれたエリオ君が、攻撃態勢に入ったにも関わらず、砲撃を撃つよりも速く振るわれた斬撃。
咄嗟に防御に入ったエリオ君だったけど、結構頑丈なカノンまで一撃で切断された。
…フォートなら、ここで引くのをむしろ躊躇うんだろうけど…基本的に未知に無策で突っ込むのはよくない。
「リリィ、視界モードの切り替えを。」
『あ、うん。』
通常視界から、情報表示が含まれる視界に切り替える。
視界フィルター。リアクター所有感染者の能力の一つ。
俺とリリィの小さな会話を聞き取ったのか、エリオ君が壊れたカノンを手に少女に攻めかかる。
「大腿動脈。」
動きを見せたエリオ君目掛けて放たれる斬撃。壊れたカノンの残った部分を使ってその斬撃を受けるエリオ君。
今度は、見えた。
「っ…トーマ!」
「えと、性質不明のエネルギーみたいな斬撃!刀身から斬撃にあわせて伸びてる!」
必要な情報をどうにか伝えようとアレコレ喋っているうちに、少女がまた斬撃のモーションに入る。
そして…
「頚椎…っ!?」
次の斬撃が放たれた時、エリオ君の姿は『消えて』いた。
…ソニックムーブだ、模擬戦の時も見たけど、ホント消えて見える位速い。
「紫電一閃!!」
「く…ぁっ…」
完全に懐に潜り込まれた少女は、バチバチと放電するエリオ君の右拳を左腕でガードする。
立っている姿勢こそ維持しているものの、感染者を魔力打撃でああも吹き飛ばすなんて…
やっぱり凄いな特務の皆は。
「この…」
「キャロ!!」
「プラズマショット…シュートッ!」
エリオ君の声かけで、一緒に来て控えてくれていたキャロさんがフォートレスの盾から放たれた射撃が、剣を振るう間も無く少女を飲み込んだ。
「こん…のぉーっ!!」
爆煙の中から、少女が巨大になった…どう見てもリアクトしたらしい回転刃付きの大剣を手に飛び出してくる少女。
カノンを破壊されたエリオ君は防ぐ術がまるでない!
ディバイダーを手に、割って入る。
どう見ても剣士の彼女相手に今の俺がどれだけやれるか…でも…!
「私はグレンデル一家の特攻、クイン=ガーランドだ!お前達位…全殺す!」
「っ…でえぇぇいっ!!!」
振るわれた破壊の一撃を、ただ気迫負けしないように全身全霊でとめて迫り返す。
重さと破壊力のありそうな剣での一撃を、リアクト前でも傷つけられた素人相手に押し負けると思ってなかったのか、クインと名乗った彼女は軽く目を開いて驚きを見せた後、俺を睨む。
と…
「っ…ラプター…」
止められたトラックから、ラプターが次々出て来た。
包囲される形になった少女…クインは、周りを見渡して歯噛みする。
とりあえずこっちはとめられる…かな?
堕天使に、サイファーとドゥビルも来てるらしいしこのまま終わってはくれないだろうけど、だったらだったで尚更早く片付けて何処でも手伝いに行かないと。
Side~高町なのは
私の問いかけに黙りこくっていた彼女は、私を真っ直ぐ見返して来た。
「誰…と言われても、リライヴとしか名乗りようがないんだけど…ね。」
私の目を真っ直ぐに見て答えを返してくれた彼女。
意外にも、その目に嘘偽りは見えず、交渉や打算が働いてるようにも思えなかった。
まぁ、リライヴちゃんがそういうの得意とは思えないけど。力と技術と作戦で渡ってきてただけで、詐欺とか働いてたわけじゃないし。
けれど、目の前の『別人』と感じる彼女までがそんな風に真っ直ぐ答えを返してくれるとは思ってなかったから、少し面食らう。
「ただ、貴女の言葉がただのデタラメじゃない可能性、無くはない。」
「え?…っ!?」
「色々と問題のある仮説だけどね。でも、私自身それは確かめてなかった。」
涙も怒りも見せずに語る彼女の言葉の意味に気付いた私は、こっちが泣きたくなった。
記憶転写クローン。
問題と言うのは、魔力や戦闘能力の事だろう。
戦闘能力や魔法素養までの複製は出来ない筈で、事実、記憶も姿も持つフェイトちゃんやエリオは、その違いで深い傷を負っている。
自分の持っている気持ちが記憶が、作られた偽者だって傷。
エリオは誰一人信用できずに数年フェイトちゃんに支えられてようやく立ち直り、フェイトちゃんにいたっては心身喪失しかけたほど、自身すら信用できなくなるその傷は深い。
彼女は…私の一言だけで、その可能性を、傷を自分から抉り出して見せた。
確証や推測なんて、私だってちゃんと立てられてた訳じゃないって言うのに。
躊躇いも無く自分の存在について疑って見せるなんて…それは…どれだけ絶望に苦痛に慣れていれば出来る諸行なのか。
「…もしそうなら、このまま戦ってたら『誰か』に都合いい可能性があるのか。」
呟いて、分かりやすく舌打ちをする彼女。
…自分でリライヴちゃんじゃないとか言っておきながら何だけど、そしたら彼女をなんて呼べばいいのか。
「私は貴女の推測を確かめてくる、もし本心なら、本物と連絡をつけるといい。少なくとも、確実に単独で動けてる間に起こした『リライヴ』の犯行は、多分全部私のものだから。」
言いつつ、彼女は一つのディスクをデバイスから取り出して放り投げてきた。
壊れないようにそっと受け取る。
「それは『私』の行動履歴、参考にして。それじゃ。」
「まっ…あ!れ、レイジングハート!!」
転移魔法を展開した彼女を前に、拘束しようとデバイスを構えようとして、手にしているディスクに気付く。
私達にとってはあまりにも壊れやすそうな、プラスチックの使われたディスク。
少なくとも、手に持って砲撃魔法なんて撃っていいものじゃない。
慌ててレイジングハートにしまって貰うも遅く、さっさと転移魔法を使って消えてしまった。
やられた…なんでこんな時に冷静に動けるのあの子!?
下手したら、精神力はリライヴちゃん本人以上かもしれない。
絶望に慣れてる、で済んでいいレベルじゃない。
…どっちにしろ、とめなきゃならない強敵なのは間違いなく、街中からあっさり逃がしてしまった彼女とまた戦う事を考えると、頭の痛い話だった。
Side~シグナム
いつかの女剣士と雪辱戦…と言うわけには行かず、彼女は私の相手を男の方一人に任せて離脱してしまった。
トーマ救出戦の折に飛び出してきた斧使いだったか。
あの時はアンチエクリプスが発動した結果、リアクトもせず大した力を見せなかったが…
案の定特殊能力持ちだったようで、姿が消えた。
短距離瞬間移動能力者か…だが。
速さで言うならテスタロッサやエリオの方が厄介だな。
「はぁっ!」
「む…」
振り返りながら、左腕の盾で首目掛けて振るわれた斧を逸らす。
そのまま右の剣を振るうと男は下がって回避した。
AEC装備の一つ、グラディエイター。
剣と盾で構成された近接戦闘用兵装。
長年を共にしたレヴァンティンを振るえないのは少々癪だが、拘って敗北していては何の意味もない以上、使いこなす他ない。
「…AEC装備か。」
振り返りで放った一閃が掠めた胸元から出血が見えたが、一瞬で傷がふさがった。
…ただの感染者の回復速度じゃない、おそらくはそういうタイプの能力もあるのだろう。
「無駄だ。」
斧で自分の腕に斬り、リアクトを行う男。
途端に、全身を重鎧で覆われたような姿に変化する。
この重装に高い再生能力か、つくづく硬いらしいな。
「…何がおかしい?」
「あまりに都合のいい相手だったのでな。」
思わず笑みを漏らしてしまっていたらしい。
眉を潜める斧使いに返事を返しつつ私は剣を下ろす。
女剣士の方も逃がす訳には行かない、それに…
後は任せればいい。
直後、転送魔法陣が展開され、魔法陣から一人の人影が姿を見せる。
「装備は大丈夫か?フレア。」
「問題はない、最低限対策は済んでいる。」
現れた影…局とっておきの増援は、心配すべきか安心すべきかよく分からない返事を返してきた。
全く…私とて語りが得意なほうではないが、そんな私から見ても無愛想なものだな。
Side~フレア=ライト
別件で実働隊として動いていた私は、呼ばれていた特務がラプターの警備を行っている地区に来るのが遅れた。
ルーテシアに転移させて貰えたため逃げられる前に合流できたが、フッケバインの一人は先に離れてしまっているようだし、早々に片をつけるべきか。
全身を鎧で覆った…否、身体を鎧に変化させたような姿の大男。
その体躯に似合う巨大な斧を手にしている。
「お前は?」
「フレア=ライト一等空尉だ。感染者相手では殺さずに済ませる自信はない、投降してもらえるか?」
「…馬鹿な事を。」
一応最低限魔導殺し用の対策は組んであるとはいえ、通常デバイスの域を出ない槍、グレイブを手にしている私を見て、若干呆れてすらいる様相の男。
…尤もな反応ではある。
だが、それ故につまらない。
返答は無く、斧を振りかぶった男はそのまま斬りかかってきた。
明らかに超重武器だが、短剣でも振るうかの用な速さだ。
打ち下ろしの一撃を旋回しながらかわしつつ、横薙ぎに槍を一閃。
バキン…と、小気味いい音と共にグレイブが折れた。
あいている左拳を握っていた男は、私の一撃を無視するかのようにその拳を振るう。
武器を振りぬいた直後の私は、その一撃を受けて吹き飛ばされ…
立ち上がると同時に、背後から斧を振り下ろされた。
私は、振り返りつつ片手を斧の側面に添えて、なぞるように軌道を変える。
アスファルトに突き刺さった斧を見送るように後方に飛び、先に折れたグレイブの前方部分を拾い、魔力を通して修復する。
斧を引き抜いた男は、冷めた目で私を見ながら口を開く。
「無駄だ、それでは傷一つ」
言い切る前に、男の鎧に小さな罅が入った。
かすかなもので、すぐに修復されたが、それですら意外だったのか男は罅の消えた部分を見て少しばかり硬直する。
「予想通り、殺さずに逮捕するのは難しそうだな。」
魔力結合を分断し、対策なしでは魔法のダメージをほぼ無効化するディバイド。
並の兵器では装備所か身体にすら通らなくなる身体変化。
それらに加えてあの鎧への変化。
いつも通りただ振るったダメージは、大体予想通りだった。
「投降する気はないか?」
一応は念押しで聞いてみたが、男は目を細め、無言で斧を構えた。
やれやれ…身内同然の彼女達には悪いが…
止める為には、抹消する気で行く必要がありそうだ。
SIDE OUT
多人数組織の複数が入り乱れるって大変な混戦ですね(汗)。