記録十六・現れた影
Side~ロロ=アンディーブ
その『異変』に気付いたのは、たぶんあたしが最初だったんじゃないかと思う。
や、まぁ別に特別得意げに威張る事でもなく、予想以上に局さんの包囲やら戦力やらが凄くて、グレンデル一家運び屋担当として誰か来るまで動けないって状況の中、フリーだったからなんだけど。
起こった『異変』が、電磁関係だったのも理由だ。
「…命令信号?」
発せられた信号の意味まではさすがに解析なり何なりしないと分からないが、とにかく、現在戦闘が起こっている一帯に妙な信号が走った。
…電波ってだけなら文字通り星の数ほど行き交っているこの世界。勿論、次元通信なんかに使われるものも含めれば、異変として感知したその信号だけがおかしいって言う確証はない。
大体、ラプターにだってリアルタイムでの情報共有のシステムが搭載されているし…
ラプター?
一瞬疑念を抱いたけれど、それについて考えている暇は無かった。
「グレンデル一家の運び屋で間違いないかしら?」
「はいッ!?」
いくら異変があったからってそこまで極端に油断した訳じゃない。
にもかかわらず、いきなり背後から声をかけられた。
振り返った先にいたのは、片手サイズの銃を手にした、オレンジのロングヘアーを靡かせた局員さん。
こ、この乱戦の中、一体何処から!?
「おとなしく投降して貰えるかしら?」
「えー…とぉ…」
逮捕するつもりか、左手に拘束具を手にした状態で距離をつめてくる女性。
油断が過ぎる。銃の距離を捨ててこのまま近づいて来てくれるなら…!
「それは…出来ない相談で!!ぇ?」
完全に間合いに入ってから、あたしから先に動いて、スタナーを抜いた。
彼女は右手にしていた銃をコッチに向けてもいなかった、そのはずだった。
なのに、手の中のスタナーは銃で撃たれて壊れていた。
目を瞬かせて呆然とするあたしを前に、彼女は拘束具を手にした左手を持ち上げる。
「手加減は今のが最後よ、おとなしくして貰えるかしら?」
手加減。
そりゃそうだ。今のついでで何処撃ったって良かったのに、見逃してくれたんだから。
ここで頑張れるほどバリバリの戦闘要員でないあたしは、両手を上げて俯いた。
ごめーんヘッド!あとは何とかして!
Side~トーマ=アヴェニール
クインと名乗る少女を包囲して捕らえようとした、その時…
包囲していたはずのラプターが、唐突に俺の方を見て、みんな倒れた。
「え?な、えっ!?」
「トーマ!っ…」
何が起こったのかと動揺する俺の前に現れたエリオ君。その前には、回転刃をうならせる大剣を振り上げたクインの姿。
俺ごと斬ろうとするクインの斬撃を、俺を庇いつつかわすエリオ君。
「ぐ…キャロ!」
「させるか!!」
「え、っぅ…」
刀の時と違って重くて取り回し悪そうな剣になっているにもかかわらず、すばやく振るった一閃から放たれた粒子剣が、キャロさんが射撃を放とうとしていた盾を切り裂く。
一方、俺を庇ったエリオ君も浅くだけど胸元を切り裂かれている。
装備をあらかた破壊したところで、クインは俺達から離脱した。
「まずい…追わないと!」
「そ、それは俺がやる!怪我もだけど、素手じゃ無理だって!」
「っ…分かった、慌てないように。」
負傷したエリオ君をキャロさんに任せ、俺は離れたクインを追った。
AEC装備は魔力に頼らない装備、性能的に互角に戦えるようにはなってるけど、手持ちで持ってきた装備を一回破壊されたらそれでおしまいって言うのはさすがに厳しい。
デバイスならコアが完全にやられない限り修復も可能だし、ディバイダーも再構成は同じように可能だ。
感染者相手だとどうしても不利に回らざるをえない、まして殺さず逮捕しようなんて言うなら尚更だ。
俺がやる。
リリィが捜して泣いてたドライバーにふさわしい身になるためにも、こんなところで止まってられないんだ。
『新たに戦闘発生!エリオとキャロは準備が済み次第そちらへ向かってくれ!』
『『了解!』』
離れた傍から通信が入る。
新たに?
急にラプターがおかしな動きをしたことといい、なんか嫌な感じだ。
なんだか…何もかもが知らない所で動いているような、そんな気がした。
Side~エリオ=モンディアル
倒れたラプターからカノンとハンマーを借り受け、指示された戦闘区域に顔を出すと、二人の女性の姿があった。
一人は…前回改造されたフェアレさんをつれていた、シグナム隊長をあしらった着物の女性だ。
もう一人は…一…人?
確認されたもう一人の、金髪の女性には…生体反応が無かった。
ラプターと同じ、機体の反応だ。
なんでラプターが急に動作不全を起こした?何でその中で彼女は稼動している?
「あらあら、局の方がきはりましたか。」
「ち…っ、ひらひらうっとおしい奴だね!」
「ふふ…素晴らしい『作り物』どす。けんど…」
かなりの鋭さで振るわれた金髪の女性のブレードを、閉じた巨大な扇を使って受け流した着物の女性は、もう片手に握った開いた扇を振るう。
刃を伴う風が、ブレードをそらされて態勢を崩された金髪の女性を吹き飛ばした。
「あぐ…っ!」
「所詮うち等に使用される為に生まれたもん…そこが限界やわ。」
振るった扇を閉じて、溜息交じりに呟く着物の女性の言葉に、金髪の女性は明らかな怒りを見せて立ち上がる。
「舐めるな…っ…魔導師だろうがなんだろうが!このあたしがぶっ壊してやる!!」
凶器をはらんだ台詞と共に、金髪の女性は鞭を抜いた。
ブン、と、軽く振るわれたそれは、明らかに使いこなしているもののそれで…
命中した道路が軽く溶け焦げる程に青白い光を湛えたその鞭は、異常な高温と電力を宿していた。
「お廻りはん、アレの回収がウチの仕事なんですが…さすがに公務執行妨害とはいいまへんよね?」
「っ…」
ヴァンデイン相手に礼状なり証言なり証拠なりが必要なように、こんな念の押され方をしては強行に出るわけには行かず、僕は困惑する。
先の使用魔法も非殺傷設定が成されていたし、そもそも明らかな殺傷用のブレードに対しての反撃だ。危険と強制逮捕を執行する事もままならない。
「では、ちょう犯人の情報を…自動人形、イレイン。高出力雷鞭『静かなる蛇』他、殺傷武装を多数搭載した危険物。完全破壊する気でかまへんので…よろしゅう。」
いい様に縛られてる感はしなくもない。けれど…
「殺人未遂の容疑で貴女を逮捕します、おとなしくしてください。」
「はっ!できるならやってみなボーヤ!!」
こうも好戦的な物理破壊兵器満載の彼女を前に、街中三つ巴などやるわけにも行かず、結局乗せられるしかなかった。
完全破壊といわれても、意志がある彼女をはいそうですかと壊す気には到底なれず、射撃武装を持っていないことを利用してカノンの捕縛用弾頭を使う事にする。
が…
「遅いってんだよっ!!」
「っ…」
いともたやすく回避した女性…イレインは、何のためらいも無く僕に向かって手にした鞭を振るう。
回避したけど…やっぱり彼女は危険が過ぎる。
どうにかとめないと…
「茉莉花。」
「っ!」
僕とイレインの間に割ってはいるように放たれた砲撃魔法。
…あくまでも、着物の女性は共闘しようという事らしい。
「この…っ!」
イレインが怒りをあらわに、再度鞭を振り上げ…
唐突に、爆弾が僕達の前に投げ込まれた。
「は?」
「な…」
「あら…」
直後、爆発。
破壊を想定して防御魔法を張るが、どうやらチャフ効果のある煙幕だったらしく、通信、視界がさえぎられる。
「…ふむ。」
着物の女性が、関心したような一声と共に扇を振るう。
巻き起こった風で煙幕が晴れたが、後にはイレインの姿が無かった。
しまった…逃げられた…
それにしても、ろくな気配も無く煙幕を投げ込んでくるなんて…
一瞬、それがアッサリ出来そうな人の姿を思い出して内心で否定する。
「さすがにやりますなぁ…」
呟いた着物の女性は、すぐに周囲に意識を配り始める。
索敵しているのだろう。僕も様子を伺って…
フォートが、コッチにすっ飛んできた。
「貴方は…あら…」
現れたフォートは、着物の女性に向かって剣を構えた。
「カートからお前の所業を聞いてきた、フェアレは返して貰うぞ。」
単純に見るなら、幼馴染の手がかりに焦っている、と評価されるだろうフォートの行動。
でも…フォートに迷いは無かった。
怒りに突き動かされてる訳でもなく、その目はただ真っ直ぐに着物の女性を…
―きっと、その先に居る、大切な人を―見ていた。
局員としてはその所業の詳細を確認してから戦闘態勢に入りたいところだけど…
シグナム隊長をやり込める彼女相手に、話しこむ余裕はない。
…正直この着物の女性は、此方の段取りを見越して行動してるような気がしてならないし、到底全うな者に見えない。
僕は、フォートに呼応する形でカノンを女性に向けた。
少し驚いたように目を見開いた女性は、楽しそうに微笑む。
「では…一手、お付き合いいたしましょう。正義の味方はん。」
局の包囲網の中、そうとは思えないほど優雅な姿勢で着物の女性は微笑んだ。
Side~カート=グレンデル
フォートとか名乗った、ゼロの周りに付きまとってるらしい男。
飛びぬけた戦力ってわけでもなさそうだと睨んで、実際戦闘からすぐその通りだと思ったんだが…
「ぜぇ…ぜぇっ…て、テメぇなんなんだこら…感染者相手に粘り倒しやがって…」
コッチを再生怪人とか呼んだくせに、そんな感染者相手に、長時間粘り倒す事で優位に進めようなんて正気の沙汰じゃねぇ。
胸と脇腹に刺さった短剣を引き抜いて、ディバイドで砕く。
治る身体で治る怪我でも、普通致命の攻撃を何度も治すエネルギー自体は俺自身のもの、いずれ尽きる。
致命の怪我や失血を再生能力で無理矢理補えば当然その消耗も楽じゃすまねぇ。
こいつ…特別桁外れの戦闘能力もねぇが、いつどれだけ何を打ち込んでも凌いでいつまでたっても押し切れねぇ。
包囲を進められてるってのにコッチが粘られて力尽きるなんて洒落にならねぇ展開になりそうで、どうしたもんかと思ってると…
唐突に起こった戦闘反応。そっちの方に視線を移したフォートは、目を見開いた。
余所見とばかりに一、二撃放り込んでも良かったが、俺等とフッケバイン以外の戦闘の反応だったから、俺も気になって視線を追う。
「あの女…」
驚いた。
クインを助けた時の一味に混じっていた着物女だ。
確か…魔導やその他の能力素養を持った人間を攫って材料に『何か』の研究を行ってる研究所、そこの護衛か実働隊かなんかだったはずだ。
研究内容にまで興味はねぇし、助けたくなった…助けられたクインだけ拾ってとっとと離脱したが…
「っ!何か知ってるのか?着物の女の方の事!」
「へ?」
いきなり血相を変えたフォートが、武器を下ろして俺に焦った様子で質問を投げかけてくる。
…なるほど、あの女の情報が欲しいのか。
ま、俺の持ってる情報だけでも裏が取れれば『逮捕』には十分、本人から聞きたい事があるにしてもお役所には動く理由が必要だ。
うずうずしながらあの女の方にとびかからねぇのはそのせいか。
「俺様がそれに答える理由は感じねぇがなぁ。」
「分かってる、それでも頼む。」
あわよくばとりあえずコッチの有利な状況で話を進めようと思った。ただそれだけだったんだが…
フォートの奴は、深々と頭を下げやがった。
「…あのな、俺はラプター強奪の現行犯よ?」
呆れて聞いてみると、顔を上げたフォートは…
「二度も不意を突く機会を捨てたけどな。」
真っ直ぐ俺の目を見て、そう言った。
こいつ…焦って我を忘れやがったんじゃなくて、自分から隙だらけになったってのか?
それで俺が攻撃しなかったから、倒して吐かせるとかでもなくこうやって頼んで…
俺は、ディバイダーに残る戦闘記録から、一つの映像データだけをフォートのデバイスに向けて送る。
幾人かの子供を連行する連中の中にいる、着物の女の姿。
「詳しい事は知らねぇが、ある誘拐犯軍団の施設の一員だ。その映像と俺の証言で、とりあえず逮捕許可くらいは出るんじゃねぇの?」
「っ…助かった、ありがとう!」
フォートは、笑顔でそう言うと、着物女のいる方目掛けてわき目も振らずに吹っ飛んだ。
…ブースターつけてやがる、あんなもんまであったのかあの全身兵器。
「ありがとうって…なぁ…」
ついさっきまで敵対していた犯罪者、それも、俺は割と死んでも気にしねぇ感じで攻撃してたってのに。
…調子が狂う。
エクリプス…こんなものが出回って、どいつもこいつも好き勝手やって、保護されてる力ねぇ民間人がいつ誰に何されるかと思うような世界で…
「悪いなグレンデル、フォートの奴は感謝しているようだし、我々としてもありがたいのだが、かと言って見逃すわけにもいかなくてな。」
疲れと調子が狂ったのが相まってか、妙なほうに思考が流れてる内に眼帯をした銀髪のチビが傍に来ていた。
あ、こいつ見習いとかじゃねぇ、やべぇな…
へとへとの身のまま、俺は一息吐いてディバイダーを構えた。
やれやれ…こりゃお縄になってから恩返しして貰う事になりかねねぇな…
SIDE OUT
明らかにきな臭いって言ってもそれだけだと即逮捕ってわけには行かない公務員側だと結構色々大変ですね。