なのは+『心のちから』   作:黒影翼

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記録十七・高嶺の花を穿て

 

 

 

 

記録十七・高嶺の花を穿て

 

 

 

Side~フォート=トレイア

 

 

 

開いた扇を手に立つ着物の女は、どこか楽しそうにすら見える様子で口を開いた。

 

「もしあんさん等がウチに一撃でも当てられたなら…フェアレ嬢ん居場所、教えましょか。」

「何…」

「相手にしなくていい!ただの時間稼ぎだ!!」

 

笑顔を崩さずたたずむ着物の女の告げる言葉に困惑する俺を他所に、カノンの砲口を向けるエリオ。

感染者相手ではないため非殺傷の砲撃が放たれた。

だが…

 

「そないに邪険にせんでも…」

「っ…」

 

映像で見た、シグナムさんと戦った時に使ってた砲撃の投げ返し。

それで砲撃を投げ返したかと思ったら、振りぬいた扇を戻して風を起こす。

全身を掠める風の刃に軽く刻まれながら姿勢を崩したエリオは、どうにか道路に着地した。

 

「…お前等なんかに一撃受けるなんてありえない…って事か。」

「ふふ…試していただいて、一向にかまいまへんよ。」

 

余裕ぶる女だが、よくよく考えれば当てなきゃ倒せないし、倒せなきゃ情報聞けない。

何のつもりかは知らないが、どっちみちやる事は一緒だな。

どの道倒す。

 

宣言どおりにフェアレの居場所を教えるならよし、言わなきゃ捕まえるまでだ。

 

 

「バレット…スコール!」

 

 

単純な結論に至った俺は、二丁拳銃を展開し連射を放つ。

放った弾幕は、思いっきり開かれた扇に受けられ、全て止められた。

 

射撃じゃ駄目か、なら…

 

単純極まりないが、盾と剣を展開して突撃。

扇を振るわれ、刃を伴う風を起こされブレーキになるが、盾を構えたままで強行突破。

 

ここで斬りかかっても読まれるだろうと思って、前に構えた盾でそのまま体当たりするように突撃した。

 

が、突き出した盾とすれ違うように左側に入られて、左腕を閉じた扇で叩かれる。

 

「っ…そ!」

 

無視して右の剣を横薙ぎに一閃。

だが、やわらかいステップで下がった女は、アッサリその斬撃もかわす。

 

「…ウェイブステップ…か?」

「あら?貴方もインターミドルのファンどすか?いかにも…アクア=トーティア選手が使うとったウェイブステップと同質の移動術『駒草』。…高嶺の花に無粋な殿方やと触れられまへんよ。」

 

敵相手に楽しげに語る着物の女。

二対一であんな事を言うくらいだ、かなりの自信があるんだろう。

 

…二対一?

 

「はあぁぁぁっ!!」

 

エリオがカノンを構えて着物の女の足元目掛けて広範囲炸裂攻撃を放つ。

『跳躍』で避けた着物の女。

 

「キャロ!!」

「フリード!」

 

丁度、そこにキャロがやってきた。愛竜、フリードと合流してきたらしい。

そう言えば一緒にいたっけこの二人。なんか二対一って考えて変だと思った訳だ。

 

白い竜が吐いた炎が、丁度宙を舞う女に向かっていく。

 

「残念。」

「っぁ…」

 

クルリと空中で回転して扇を振るった着物の女。

炎を巻き込んだ風が押し返されてフリードとその背にのるキャロを飲み込もうとする。

 

防御魔法で返された炎を防ぐキャロ。

防いでるし、あっちは大丈夫だ。

 

「はあぁぁぁぁっ!!!」

 

足のつくかつかないか位のタイミングを狙って斬りかかる。

が…『さっきと同じように』揺らめくような動きで音も無く俺の斬撃を回避して見せた。

しかも、今度は離れるでもなく近づいてきて…

 

死角になった顎の下のほうからゆらりと上がってきた、閉じた扇の先端から、砲撃魔法が放たれた。

 

顔面に直撃した俺は、吹っ飛ばされて道路を転がる。

 

 

「同質…やけど、同レベル、とは違います。死蝶の舞、無粋な兵器や止まりまへん。」

 

 

倒れ伏した俺が聞いたのは、そんな絶対の自信に満ちた声だった。

 

 

 

Side~エリオ=モンディアル

 

 

倒れたフォートは、身じろぎ程度に動いていたから多分無事だ。

喰らった場所が顔面だけに心配だったけれど、今はそれよりも…

 

『キャロ…』

『何?』

『普通に行ってみる、力を貸して貰える?』

 

それだけの念話で僕の頼みを察してくれたのか、小さく頷く姿が見えた。

 

『無粋な兵器や止まりまへん。』

 

それはそうだろう。

アクアさんが使ってたウェイブステップでさえ厄介な高等技術なのに、着地時に連続使用出来ないって面が解決されてる。

より洗練されているともなれば、いくらAEC装備に慣性制御機構があるとはいえ、こんな兵器を振り回してとめられる訳がない。

 

 

だったら話は簡単だ。

 

 

「ブーストアップ・アクセラレイション!ストライクパワー!」

「行くよ!ストラーダ!!」

『了解。』

 

 

借り物の兵装でなく、己が武器を使えばいい。

 

僕はカノンとハンマーを置き、ストラーダを起動させた。

 

感染者相手に対策の済んでない通常デバイスなんて壊されるだけでろくに使えなかったけれど…彼女は普通の人間だ、気にする必要はない。

 

 

「ブースターつきの大槍…無粋なんは変わらへん気ぃしますが…っ!?」

 

 

語る彼女を無視して背後へ高速移動。

背後からその背を横薙ぎに払う。

捕らえた。けど…

 

「ふぅ…っ…」

 

閉じた扇で受けられただけで、軽い感触と共に離脱される。

 

「これはこれは…冷や汗もんでんなぁ…」

「それで…済ませるか!!」

 

僕は、ストラーダのブースターを使って突撃する。

砲撃を返してくるくらいだ、ただの突撃なら払ったり投げに入ったりカウンターを入れてきたりするはず。

 

だから、突進から衝突寸前まで来たところで再度高速移動魔法を使う。

今度は側面から、足払い。

 

「っ…ふっ!」

 

やわらかく跳躍して回避した彼女は、着地を待たずに僕の居る辺りに向かって扇を振るう。

風と刃が向かってくる。けど…!

 

「サンダー…レイジ!」

 

振るったストラーダで風を裂きつつ、湛えた雷撃を放つ。

風で炎は返せても、雷撃は返せない。

 

が…扇は二対。余っていたもう一つを開いて受け止められ…

 

「っ!」

 

ブーストを行使しつつフリードを制御して一撃を狙っていたキャロに向かって逸らした。

 

「く…はあぁっ!」

 

幸いにして防いだけど、補助を潰すのは常套手段だけど…

よりによって僕の攻撃を使ってキャロを狙われたのにちょっと怒りを覚えた僕は、今度は真正面の懐に低い姿勢で入って、そこからブーストを吹かして槍を突き出す。

 

が、すれ違う形で突きを回避された僕は、顔面を閉じた扇で殴られて地面に仰向けに倒れた。

追撃とばかりに放たれた砲撃を後転で回避しながら起き上がる。

けど、頭と視界がぐらついた。

 

「たいそう見事なもんですが…やっぱりその重い武器やとあきまへんなぁ…」

「く…っ…」

 

まともに入れば一撃で勝てるんだろうけれど、その一撃を全く入れられる気がしない。

速人さん達と同タイプの高位技能者…それも魔法もきちんと使いこなしてる。

堕天使ほどではないと思うけれど、それでも僕達の敵う相手じゃなさそうだ。

 

どうする…どう…

 

 

バン!と、地面を叩く音が響き渡る。

 

 

拳を叩きつけるようにして、フォートが立ち上がっていた。

 

「フォート…」

「あら…無事なら眠っとけばええのに…無茶するもんやおまへんよ?」

 

無言のフォートは、そのまま開いた両手に剣を精製。

そして…

 

着物の女性に向かって左の剣を投げた。

 

「気張るんもええけど…そればっかやとどうもなりまへんよ。」

 

投げられた剣を扇で弾く着物の女性。

そんな女性に向かって、迷わず駆け出すフォート。

 

「っ…おおおぉぉぉぉっ!!」

 

がむしゃらと言っていいほど真っ直ぐに女性を追いかけ、二対の剣を振るうフォート。

けど駄目だ。いくらただ頑張ってもあのステップと脱力状態から使われる高等技術を捕らえられる訳がない。

 

やがて、左右の剣を弾き飛ばされたフォート。

 

「残念。」

 

割って入ろうにももう遅く、女性は閉じた扇を振り下ろす。

武器を弾かれたフォートの頭に扇が直撃して鈍い音が響いた。

 

 

 

 

「ぁつっ…」

「え?」

 

 

 

 

一瞬、事態が分からなかった。

いや、ちょっと離れて見てたから見えたは見えたんだけど…

 

隙だらけの頭に扇を振り下ろされたフォート。

回避も防御もしないで直撃したフォートは…

 

 

代わりに無手から放ったフォトンバレットを着物の女性の身体に命中させていた。

 

 

鈍器のような…と言うか、デバイスによる打撃を頭で直撃するのに躊躇わず反撃を放り込むなんてどうかしてる。

案の定たたらを踏んで後退したフォートは…それでも踏ん張って、真っ直ぐ顔を上げる。

 

 

 

「一撃当てる…思ったよりも簡単だったな。約束を護るなら俺はフェアレの元に行くから見逃すが、このまま逮捕されるまでやるか?」

 

 

 

額から血を流しながら、フォートはなんでもないことのようにさらっとそう言った。

 

む…無茶苦茶だ…骨を断たせて肉斬ってる…

 

元からそんな人って言うのは分かってるけど、本当頭を抱えたくなった。

 

 

 

Side~フォート=トレイア

 

 

 

とりあえず、先端やなんかの一番効果が高い位置で受けなきゃ大概耐えられるって事で、あえて無手で踏み込んで見たが、どうやら皮がつぶれた程度で骨は無害で済んだようだ。

 

武器を手にがむしゃらに攻めているフリから、無手のフォトンバレット。

予想し辛いだろうとは踏んだが、綺麗に決まってくれた。

 

「っ…ふ…ふふっ…ははははっ…」

 

確実に当たるようにと思って変に急所とか狙わなかったから、ダメージそのものは大したことないだろう。

何が可笑しいのか笑い出す着物の女。

 

「何だよ。」

「いえいえ、さすがフォート=トレイア。フェアレ姫の王子様だけの事はありまんなぁ…ふふふっ…」

 

どこまでか俺の話でも聞いているのか、知り合いのような言い方をする女。

と、唐突に魔法陣が展開された。

 

…送還魔法陣。

 

 

「逃がすか!」

 

明らかな逃げを示した女に向かって剣を再生成して飛び掛る。

と、同時に、挟み撃ちになるように高速移動を行ったエリオが、槍を思いきり振りかぶっていた。

俺と一緒で、とにかく叩いて魔法陣の範囲から追い出すつもりらしい。

 

が…

 

 

「桜吹雪。」

 

 

放ったガラス容器を割りながら振るわれた、開いた扇から巻き起こる風が、中の破片のようなものを伴った強力な風として四方に散った。

 

ただでさえ風の刃を伴うだけで危険だったものが容器と中身の破片を含んで更に凶悪な殺傷技になって俺とエリオに向かってきた。

 

全力で攻撃を仕掛ける気だったため、結構まともに喰らってしまう。

 

「…此方で少しだけお待ちします、来ん方がええでしょうけど…ね。」

 

そんな一言を最後に、着物の女の姿は消えた。

 

 

一枚の紙を残して。

 

 

俺は即刻、その紙を手に取る。

地図にバツで印がつけられていた。

 

 

距離はあるが…次元転移する必要はないようだな。よし…

 

「ま、待ったフォート…」

 

止められても止まるつもりは無かったんだが、静止の声が弱弱しいものだった事に気が引けて視線を移すと、座り込んで身体を抱えるようにしているエリオの姿があった。

 

…防御能力に関してそこまで強くない上にあんな形でカウンターを受けたから、出血がやばいのかもしれないな。

ただ、俺に治癒が出来る訳でもないし、キャロが降りてくるのが見えたから多分大丈夫だろう。

 

「止めても無駄だ、俺はその為に…」

『止めへんよ。ただ、一人突っ込まれても困る。』

 

どうやら、部隊長の指示を仰ぐためだったらしく、通信端末を起動させて休息に入るエリオ。

こういう事態になったら繋ぐように連絡でも行ってたのか。

 

「知るか止めるな、罠でも何でも俺は行くぞ。」

『うんうん、罠って発想が出来る位の冷静さは残っとるんやな。ええ感じや。フェイト執務官!』

『はい。』

 

通信を更に繋ぐ部隊長。

車両に乗ってこっちに向かってきているフェイトさんと通信が繋がる。

 

『彼一人に権限もないし拠点の制圧となると戦力も足りん、何人か連れて彼と一緒に被害者少女の救出を。』

『グレンデルの方は?』

『逮捕後、こっちで尋問を行ってヴァンデインとの関係が明らかになったらランスター執務官に向かって貰う。…フォート!』

 

大体の話が済んだらしく、俺に話を振るはやてさん。

大概笑ってるこの人にしては珍しく、真剣な表情だった。

 

『他はコッチで引き受ける。君は、君の大切な人をきっちり助けて来るんや、ええな?』

「…ああ!」

 

気前のいい采配をしてくれたはやてさんに少し感謝しつつ、俺は力強く答えた。

 

 

 

Side~フレア=ライト

 

 

 

斧を持ったフッケバインの大男…かなりの手練だ。

 

短距離転移も再生もそうだが、相応に修行も積んでいる。

感染者としての能力を一切持たずとも、六課のフォワードチーム位ならいい勝負をしそうだ。

 

だが…いい加減に見えてきた。

 

背後への転移。

攻撃は打ち下ろし。

 

それだけ分かった時点で、左足を軸に半回転。そして…

 

 

 

「終わりだ。」

 

 

 

アブソリュートランサー。

 

 

砲撃を使って腕ごと放つ必殺の突き。

尖端強度も相まって、あらゆるものを貫く一撃は…

 

 

 

 

「な…がっ…」

 

 

 

 

鎧ごと、心臓を貫いた。

貫けぬものなき黒き槍。対策も不完全な魔導武器に完全に自身の鎧が破られたのが意外だったのか、どれほど打ち合っても冷静だった男はさすがに目を見開いていて…

 

 

 

 

「ぐ…」

「なっ…」

 

 

 

 

確実に心臓を貫いた。背から突き出しているデバイスの尖端が見える。

なのに、男は突き出した私の腕を掴んだ。

 

掴んでそして…

 

 

「おおおぉぉぉぉ!!!」

「っ!」

 

 

投げた。

 

横向きに適当に振り回して投げられた私は、どうにか宙で姿勢を整え、足から着地し地面を滑る。

すさまじい力だが…手加減された?

そもそも、奴の力ならば握った私の腕をそのまま潰す事だって、それこそ頭を掴んでいればそれで殺す事だって出来たはずだと言うのに。

 

例によって分断効果か、武器としての状態を砕かれコアだけになったグレイブを拾った男は、それを私に投げ返してくる。

 

「…何のつもりだ?」

「お前達はあの女を追うのだろう?戦力は多いほうがいい。」

 

それだけ言ってまた消失する。

今度はどこから来るかと警戒していたが、今度は姿を見せなかった。

 

逃亡の為に使用したか…厄介だな、宙域等で広域封鎖できていないと戦闘用の移動か逃走用の移動か分かったものじゃない。

 

『フレア空尉、誘拐犯と思しきものから位置情報を得たんでフェイト執務官が調査、逮捕に向かうんですが、済みませんがそちらの助力願えますか?』

「問題ありません、誘拐犯となれば尚更です。」

 

見計らったように八神部隊長から入った通信に、二つ返事で頷く。

私が別で配備されている誘拐事件の調査とも用事が重なる可能性が高い。

となれば、手伝い所かもう此方の案件でもある。断る理由は無かった。

 

しかし…さっきのフッケバイン…

心臓を破壊されれば…数分も経たずに、失血と酸素供給不可で死ぬ。逆に言えば、連中にとっては頭だけ護れれば後は事と次第でどうにか出来るのか。

魔法無効化と言うだけで厄介極まりない相手だと言うのに、こんなものを殺さず相手した上で捕らえようとしている八神部隊長等には感心せざるを得なかった。

 

ともあれ、誘拐犯相手ならば通常通りの形で戦力となる。反省や対策は戻ってからだ。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 




発症した感染者は局では一応抹消しても問題ないらしいので…と言ったって初戦心臓狙いは問答無用にも程がありますが(汗)
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