記録一・少年少女の邂逅
Side~フォート=トレイア
目を覚ますと、女が俺の顔を見ていた。
「あ、気がついた?」
俺は飛び起きる。傷を負ったらしい体が痛みを発するが、いつもの事なので気にはしない。
よくみれば、焚き火を囲むような形でもう一人女と、男が居た。
誰も彼も俺と同年代くらいの子供らしいが…ん?
「そう言えばお前…感染者だな?」
「感染者?」
「おいおい…」
傍らの男、その姿がさっき戦いで変わっていた事をおぼろげに思い出して聞いてみるも、当人の方が首をかしげた。
エクリプスの感染者が人助けなんてした挙句、逃げようって様子も無いから変だとは思ったけど…何にも知らないまま感染したのかよ。
『あの…なにか知ってるの?私の事。』
「何かって言われてもな…」
いきなり念話…なのかよく分からん感応で話しかけられて、首を傾げる。
教会に飛び込んで、誰も助けられずに戦ってるところにいきなりここにいた男が来ただけだから、今の状況があんまり分かってないんだが…
「とりあえず、自己紹介からどう。怪我痛むんでしょ?無理しないで。」
俺の顔を覗き込んでいた女が座るように薦めてくる。
「…フォート=トレイアだ。」
隠し事が無いわけじゃないが、今こいつらが聞きたいだろう事を隠す理由はない。
話に付き合うくらいかまわないかと思い、俺は傍の木に背を預けた。
「おいおい…」
事情を聞いて呆れざるを得なかった。
男…トーマ=アヴェニールは助けを呼ぶ声に導かれて人の施設に乗り込んだ挙句、やばそうな研究成果を見ても引かずに救出活動。
リアクトプラグの少女、リリィ=シュトロゼックの救出、エクリプスに感染したらしい。
そんなトーマ達を見て、本人曰く『なんとなく』で首を突っ込んだらしいアイシス。
「馬鹿集団だな。」
「いきなりだな!」
「集団ってあたしも!?」
トーマとは拗ねたように目を細め、アイシスは手を振り上げて抗議する。
誰が見ても馬鹿に入るだろうが…初対面で馬鹿呼ばわりされれば無理もない反応ではある。
それに…俺がまともってわけじゃないし、人の事は言えないんだが。
「俺よりマシだけどな。射撃音聞いて飛び込んでおきながら、間に合わなかった。」
助けられたらしいリリィを指差しつつ肩を竦めて言うと、皆が表情を曇らせた。
救えなかったシスター達は、トーマも見ているはずだ。
目の前で死体を見て『死んじゃったねー』なんて済ませられるほどにはぶっ壊れてないんだろう。
話を変えるためか、もともと気がかりだったからか、トーマがそこで口を開いた。
「感染者って、どういう事なんだ?」
「生命体を兵器化するエクリプス。それに感染したって事だよ。魔力結合を分断無力化して、身体も片っ端から再生する不死身の兵器になるらしい。」
俺も詳しく知ってるって訳でもない。とはいえ、エクリプスに関わってる人間なら知ってて当たり前って所ぐらいの情報から知らないとなると、本当にただの被害者だろう。
全く情報がないこいつらよりはマシだから話せるだけの事と対策案くらいは出しておいたほうがいい。
「人を殺したくて仕方がなくなる性質も含めて、世界を殺す猛毒とか言われてる。管理局もそれ用に部隊を編成するとか何とか。」
「人…を?」
「あぁ、症状が今の段で落ち着いてればいいけど、進行したら結構拙いぞ。大分前から存在自体はあって、その性質のせいで局ですら対応がきつくなりがちだしな。」
隠してもアレかと思って知ってるだけ話してみたが…空気が悪い。
トーマは落ち込むはリリィは泣きそうだわ。
アイシスは、トーマ自身が聞いた事に答えてるだけの俺を止めるわけにも行かず、厳しい表情でこっちとトーマを見比べる。
…これじゃ、ただの死刑宣告だな。
「エクリプス『専用』に部隊を編成するって事は、治療法も考えてはくれてるはずだ。正気のうちに治療を望む患者は、犯罪者じゃないからな。」
お役所ではあるが…いや、お役所だからこそ、手続き踏める条件が揃った相手でなければ始末一択なんて事も無いはず…と思いたい。
「その部隊にちゃんと接触するか、さっきお前が言ってた信頼できる人とやらに連絡つけるか…どの道、それなりに早めにすませなきゃな。」
精神状態も影響あるモノだし、希望を持たせるために俺が思いつくだけの提案をする。
が…アイシスは表情を険しいものにした。
「管理局っていったって…人体実験されるだけなんじゃ?」
言いながらアイシスが出した紙には、『施設襲撃からの犯人像』としてトーマの人相書きがあった。
地域警邏…一応管理局の手配を受けているって状況だ。
この状況で局の事が信用しづらくなってるんだろう。
「ハズレを引いたらそうなるかもしれないけどな。ただ…お前は治療出来るか?」
「そりゃ…無理だけど…」
アイシスは言いながら俯いた。
医者じゃなきゃ…と言うか、医者でもそうそう無理な案件だ。専門家を探す他ない。
「そう言う事だよ。何、俺も管理局のハズレにエクリプス保有者を預けるのは都合悪いしな、しばらく護ってやるさ。」
「そう言えば、フォートはなんでこんな事知ってるんだ?俺を渡すのが都合悪いって…」
一同が俺を見る。
状況によっては、俺が教会襲撃犯と同じようなものになるから、無理もない。
どの道、隠す気はなかった。トーマとアイシスは旅してたらしいし、聞けることがあれば聞きたい。
「俺は…人探しで『アンチエクリプス』を追ってるんだ。」
「アンチ…エクリプス?」
「あぁ、知り合いから聞いたこの名前を頼りに調査して、エクリプスについてちょっと知ってたって訳だ。ついでに研究者の連中を叩きのめしたりもしてな。」
エクリプスの研究者なんて、治療研究以外ろくなもんじゃない。
とはいえ、異界となると局員は手続き面倒で楽には来れない。管理外なら尚更。
復讐やら世直しやら言う感染者が襲撃すると皆殺し。
生きたまま逮捕させるなら俺みたいなただの不良魔導師が適当にのして局員が来るタイミングで引き払うとかしないといけなかった。
勝手が過ぎるし犯罪のカテゴリーだが、俺も俺で情報が要るので気にしてられない。
「それじゃ、ここにいたのは…」
「リリィが幽閉されてた?っていう施設だな。そこに襲撃かけた上で情報引き出そうかなーと。トーマの方が一足先に動いたらしいが。」
「それはそれで思いっきり犯罪じゃん。」
呆れるアイシス。否定は出来ない。
出来ないが…
「犯罪者、って言うなら施設進入および破壊の犯人に、それを庇って逃走の先導中。バッチリ全員該当してるな。」
トーマとアイシスを指差し、同類項である事を示すと揃って顔を逸らした。
うん?少年犯罪者の一団ってことになるのかこれ?
悪事が好みって訳じゃないからそれは嫌だな。
『あの…人探しって?』
気になっていたのか、罪状話を変えたかったのか、問いかけてくるリリィ。
「幼馴染…さ。家ごと爆破、炎上されたけど、両親の遺体しか見つかってないんだ。物取りが家破壊して得はないし、攫われたなら生きてるだろ。」
5年も前の話になる以上保障なんてまるでないわけだが、それでも探すと決めたんだ。
「誰かが狙って来そうな、局への接触もまだのエクリプス保有者。もし絡んでるならアンチエクリプス関係の情報も手に入るかもしれない。これが俺がトーマを護る理由だ、逃げてもついて行かせて貰うぞ。」
「逃げないって。俺の状態に今一番詳しいのこの中でフォートみたいだし。ただ…アイシスはどうする?」
トーマは言いながら、アイシスを見る。
境遇を聞いた所、首を突っ込んだだけの知り合いらしいし、命がけのとんでも案件に付き合うには、あんまりにも関係がなさ過ぎる。
「なーに言ってんの、約束したでしょ?ピンチの時は助けてあげるって。」
「でも…話を聞いた限りじゃ、下手すると俺が…」
「大事な人が傍に居たほうがいい。我を忘れさせる衝動に振り回されないようにするなら尚更な。」
トーマもアイシスも、俺の呟きに照れた様子を見せたが、俺が真剣に言ってる事を察して言葉を飲み込んだ。
我を忘れ、殺意に呑まれる。
傍に殺したくない人がいる状況の方が、取り返しのつかない真似を我慢する理由になる。
ただそれは、トーマにアイシスが必要な理由で、アイシスにしてみれば危険しか無い筈だが…引く様子はなさそうだ。
「とにかく、状態の安定化だな…リリィ、何か情報ないのか?お前の記憶がどうにかなれば、トーマも少しは持つと思うんだが…」
『ごめんなさい…何も……少し…は?』
引っ掛かりを覚えたリリィが謝罪の中俺を見る。
別段隠す気もない、急がなきゃならないってのは事実なんだから。
俺は、リングをしているトーマの右腕を指差した。
「その模様が進行状態だ。止まる奴は止まるらしいが…そうでないって事は、このまますすむと人間止めざるを得なくなるかもしれない。リアクターに制御法の覚えがないなら、やっぱり局と接触するのが一番安全か?物騒な奴らでないといいんだがな…」
言いつつ、俺は考えに耽る。
…時空管理局…か。素直に最後までついてったら、俺下手すると捕まるな。
とはいえ、放り出す訳にも行かない。護るって言ったから。
約束したからな。
Side~アイシス=イーグレット
ショックなのか、ウイルスの進行とか言うのなのか、トーマが熱を出し始めた中、あたしはフォートと二人で少しトーマ達から離れた。
町の様子を見て、手当てやなんかに必要なものをいくらか調達してこないとって事なんだけど…
正直、胡散臭いって言うか…うん、まぁ、会う人会う人疑ってたらキリが無いって言うのはあるんだけど…
「何だ?」
「うーん…」
都合が、良すぎる。
理由も聞いたとおりなら、矛盾は無い。
けど…別に嘘をつけない訳じゃない。シスターさん達が逃げる間もなく全滅してて、それでも戦ってるって言うのは疑える材料に…なるかなぁ?
「トーマを俺一人に任せるって程には信頼されてないってとこか?」
「そりゃ…正直、あんな兵器の事知ってて関わる位だし、犯罪者って自分で言う位だし…」
「口ごもるあたりは自分も人の事言えないってのは分かってんだろ?今の話を聞いて興味本位でついて行こうなんて普通な訳ないからな。」
痛いところを突かれて何も言えなくなる。
トラブルに首突っ込むのは好きだけど、無報酬の命がけなんて普通やらない。
「旅は道連れ…ってね。ちょっとの間だけだけど、友達になった二人を放っておけないだけだよ。変?」
一見変な話じゃないかもしれないけれど…護れる自信がないと変な話ではある。殺人犯に狙われてるんだから。
つまりそれは、あたしがある程度自信あるって証明にもなってる訳で…
「俺の探し人、いなくなったのは5年も前の話なんだ。放っておけないってのは分かるさ。」
あたしの素性なんて知るはずないフォートからみれば、あたしは正体不明の実力者に見えるはずなのに、真剣な表情でそう答えてくれた。
鋭いけれど、真っ直ぐあたしを見るフォートの目を見ていると、なんだか変な勘繰りをしているのが悪い気になってくる。
「わかったよ、トーマから離れたくないんだよね?」
「あぁ。」
理由は当然、いつ誰が襲ってくるかわかんないような状態だから。
それは分かるし、フォートは信用したげてもいい。ただ…
「あっさりやられちゃうんじゃないの?」
実力はまた別の問題だ。
ズタボロにやられて気絶、あたしに担いでこられた身で護衛。
それはそれで不安だ。ダメージだって抜ける訳がないし。
「…お前より感染者の情報も経験もあるつもりだけどな。」
平静を装っているみたいだけど、拗ねたようにも見えるフォート。
なんだかその様子が年相応って言うか、張り詰めっぱなしに見えた様子から少し砕けてくれたように見えて、思わず笑ってしまう。
「分かった分かった。それじゃ、トーマとリリィの事お願いね。」
「言われなくてもな。」
強気な返事に笑みを返して、あたしは町へ向かって駆け出した。
Side~八神はやて
手持ちの案件とそれに関する発表なんかも全部片付いて、ようやく特務六課に合流できる。
フッケバイン、エクリプスへの対策として再編成された元機動六課隊員を中心に構成される特務隊。
同窓会にはなるけど、正直そんな事言ってられる案件やなかった。
それに…
ちゃんと同窓会と言うには、少し、大きく、足りないモノがあった。
私はある事件の記事を表示して眺める。
人体実験まで含めてあれこれと、言いたくはないけど…珍しくも無いこの管理世界で、その事件は小さなものだった。
けれど、私達と管理局にとっては、それなりに大きな事件。
『カレドヴルフ・テクニクス襲撃事件。』
開発途中だったラプターと、その設計図の破壊を企てられたこの一件。
大規模だったにも関わらずとっておいたバックアップの為、幸いにして直接被害は機材だけで済んでいる。
主犯とみられる高町速人は、多量の出血痕を残して消息不明。共犯と見られるリライヴも逃亡、行方をくらましている。
局内でも噂話のあったヒーローと白い堕天使。
その襲撃という事で、カレドヴルフ・テクニクスはそれなりに疑いの目を向けられた。
けど、どうしても何一つ不審な点は見られず、結果としてただの襲撃事件として処理され、速人達は本格的な手配をされることとなった。
当然すぐに包囲されたエメラルドスイーツ店内は、もぬけの殻となっていた。
『ごめん』と、紙を張っておいてあった一箱のケーキを残して、誰一人残らず綺麗さっぱりと消えていた。雲隠れの準備は常にしていたらしい。
生活感こそ残ったまま、けれど、装備や武装、その整備環境なんかは一切合財消えてなくなっていた。
ディアーチェ達紫天の騎士も、レジアス元中将や忍さん達も、誰も彼もいなくなったその場所は、家財がそのままの形で残っているのに、寂しくて、悲しかった。
CW社は、ウチの部隊の対EC装備を生産してくれとる大規模メーカー。
何が狙いにしろ、CW社そのものが狙いなら、エクリプスを追ううちに必ず関われるはずだ。
何にしろ…あの馬鹿共絶対ぶん殴る!!
何の相談もせんと勝手に無茶して失敗したにしても…最悪うち等を、なのはちゃんを裏切ったんやとしても、絶対に一発ぶん殴る。そう決めて、一人拳を握り締めた。
SIDE OUT
時間軸がForceなので少々重めに進む予定です。