記録十八・加速する歯車
Side~サイファー
「っ…」
廃屋の片隅で、私は半分吹っ飛ばされた左腕を押さえてうずくまっていた。
全く…特務の連中も滅茶苦茶してくれる…
いくらビルに短距離瞬間移動能力があるとは言っても、局が包囲を固めている街中でエース数人に囲まれるような事になったら拙いと判断して、離脱と援護、どちらも手早く出来る丁度いい位置を考えて待機したつもりだったのだが…
そのおかげでビルとの戦いを預けて離脱したあの女剣士に捕捉されてしまった。
奴が持っていたAEC装備は対鋼破蝕で破壊してやったものの、逆に言えばそこまでしか出来ず片腕を落とされた。
さすがに援護のどうのと言える状況でもなく離脱してきたのだが…
瞬間移動で合流したビルは、リアクトの解けた姿で胸元から多量の血を流しながら前のめりに倒れた。
「お、おい…」
「問題ない…再生はあらかた済んだ…っぐ…」
どうみても心臓部を貫かれている。
生身なら…どころか、これでは程度によっては感染者でも死んでるだろう。
幸いと言うべきか、我々フッケバインは感染強度が高いメンバーばかりだから、これで死亡確定なのは非戦闘員のソニカくらいだろうが、それにしても…
あの女剣士もだが、特務の連中容赦ないな。
「…グレンデルの連中が片付いたとなれば、我々にも捜査の手が伸びる可能性がある。」
「まぁ…そうだな、ふっ!」
気合一つ、腕の再生を一気に済ませる。
ビルの方も、戦闘を離脱しているし、高速再生能力持ちだからもう問題なく動けるようだ。
それにしても…いずれ力を手に入れなければ、我々も危険だな。
カレンの探す『原初の種』…早めに手を打たねばな。
Side~トーマ=アヴェニール
結局…ラプター強奪の為に襲撃に来たグレンデル一家については計4名、全員捕縛出来たんだけど…
狙撃手と戦ってたアイシスが、すっごい分かりやすく機嫌斜めだった。
ティア姉を運んできてくれたヘリパイロットのアーちゃんの操縦するヘリの中、護送中のグレンデルの皆を見張っているんだけど、ヘリの中に2桁近い人数が集まってるから、どうしたって機嫌が悪いのが伝わってくる。
「ど、どうしたのアイシス?」
「別にっ!拗ねてないしっ!」
おそるおそる聞いてみるが、どー聞いても拗ねてる人の台詞が返ってきた。
「まぁまぁ、アイシスが抑えてくれてたおかげで狙撃被害が殆どなかった訳だし。誰が止めたかとかは気にしない。」
「分かってますけど…」
なだめるなのはさん相手にむくれるアイシス。
なんでも、狙撃手のマリーヤ=ラネスカヤを相手に、あちこち手を出されないように牽制捕縛戦闘を続けてた所に、件の堕天使に逃げられたなのはさんが近場から援護にって顔を出して、一瞬で片付けてしまったらしい。
…まぁ、実戦で必死だったところが一瞬で片付くなら、危険の中戦ってたのが馬鹿らしくなるのも分かる気がする。
ただ…それを言うなら、俺は頼りっぱなしだった。
クインと戦ってた段階からエリオ君に助けられて、二人と別れてクインを追ってからも結局つめきれず、最終的に離脱したクインが向かった先、捕縛されたカートと一緒にいたチンク姉の手を借りてしまう羽目になった。
「そう言えばカート、ありがとう。」
「んぁ?」
「フォートの事だよ。幼馴染の事物凄く想ってるから…」
カートが伝えてくれた情報の結果、あの着物の女性に攻勢をかけられたって聞いてる。
見かけても逮捕に繋がらない、なんてもどかしい事が続いたらフォートが黙って局にいてくれたかも分からないし、本当にありがたかったんだけど…
「フォートが離れれば逃げられると思ったからでしょ?」
冷めた反応をするアイシス。
確かに、何の利点もないのに話だけする訳がないし、それは分かるけど…言っちゃ身も蓋もない。
「ひょっとして、フォートについていけなかったから?」
「う…」
リリィの問いかけにあからさまに表情を曇らせるアイシス。
でもそれは仕方ない、だって俺たちそもそもフッケバインに顔を見られて保護されている感染者なんだし。
それについで、この一件に関われるように見習いに加わってるけれど、基本的に俺たちは攻め手に回っていい人間じゃない。
アイシスは俺の護衛だし、本人もそれが分かってるからか、特に何も言わなかった。
ただ…ついて行くいかないはともかく、心配って言うのは分かる。
エリオ君が重傷に持ち込まれた相手がいる、しかも敵の残した情報の元に乗り込むんだ。
何があるか予測もつかないし、そもそもここで戦い通した後なのに、休みなしで向かうんだから。
漠然と不安はあったけど、信じるしかなかった。
Side~フェイト=T=ハラオウン
緊急用のランプを点灯させて、ドライブテクニックをフルに駆使して車を飛ばす。
六課のヘリはグレンデル一家を運ぶ必要があり、船を飛ばすにも陸続きの同世界。
車両を全力で吹かしたほうが速いと言うことで、全力でアクセルを踏み込んでいる。
「ぼ、防災士長としてはっ…止めなきゃいけない運転ですが…」
助手席のスバルが少し震え声でそう言う。
私は運転に集中してるから、地図を手に進路を決めてくれているのはスバルなんだけど、飛ばしてるからそれなりに怖がらせているみたいだ。
「ゴメン、さすがにアリシアほど綺麗には…」
「アレは思い出させないでください…」
私は飛ばすとどうしても揺らしてしまうから、気分悪くなってないかと謝ったんだけど…アリシアの運転する車に乗った事のあるスバルが珍しく苦い声で静止してくる。
上手いのと、安心できるのは別の話なんだな…
「フォートは大丈夫?」
後部座席には、戦力として着いてきて貰ったシグナムとフレア。それから、今回が目的のフォートがついている。
現地にはフレアと一緒に別の調査を行っていたルーテシアが別で向かってくれている。
施設規模にもよるけど、普通の一国位なら軽く相手取れる戦力だ。
戦力自体は十分すぎる、けど…問題なのはフォートの消耗だ。
エリオと一緒に着物の女性の相手をしていて、エリオが重傷を負っているのに、ほぼ同じかそれ以上のダメージを負っているフォートが平気な訳がない。
車での移動の間に回復させろ。っていう無茶振りを装った台詞で車に同乗させて休む時間を作ったはやての指示を素直に聞いてくれたのはいいけど…この運転じゃ休めているかどうか。
「安心しろ、携行食料を胃に流し込んで眠っている。」
「ね、寝てる!?」
呆れ混じりに返ってくるシグナムからの台詞に、私が驚いてしまった。
休んでるどころじゃなかった。
気絶じゃないのか軽く心配になる。だって私ならこの運転で休める気がしないから。
「運転で神経を使うんだ、こんな時まで人を気にするな。」
「すみません、調子が悪くなるようなら言ってください。」
フレアの少し淡白な、それでも、私が模擬戦とか色々と声をかけるようになってから少しは打ち解けてきている小さな気遣いに、私は運転に集中する事で答えた。
少し待つ、と着物の女性は言っていたらしい。
罠を張っている最中にしろ、逃走準備にしろ、急がないと手がかりを失って準備が整ってしまうのは間違いない。
スバルが息を呑む音が聞こえる中、急げるだけ急ごうとアクセルを踏み込んだ。
Side~八神はやて
結論から言えば、ハーディス=ヴァンデイン氏は簡単に逮捕できた。
まず、捕らえたグレンデル一家は、皆割と素直な子達やった。
エクリプス感染者に仕立て上げられた際に頭の中に自壊ユニットと呼ばれる小型爆弾を仕掛けられていることを理由に、雇い主を答えられないと告白。
けど、固有能力か何かを使って、仕掛けられた爆弾の位置を首筋まで移動させたらしく、大怪我こそしたものの、皆ヴァンデイン氏についての自供をしてくれた。
彼等のリアクターもヴァンデインコーポレーションで押収した品と一致した為、ヴァンデイン氏の逮捕に向かう事が出来た。
抵抗、逃亡も懸念された為、なのはちゃんやキャロなんかのコッチに残した六課の戦力を用いて包囲した状態で確保したんやけど、備えた抵抗も逃亡も無かった。
これで、事件は一歩進んだと言っていい。
フッケバインはまだ補足仕切れてないし、ヴァンデイン氏周りの感染者勢が残ってる筈…と言っても、なのはちゃんが受け取ったディスクにあった『堕天使』の活動記録を見る限り、フッケバインやらそうでないのやら結構な感染者が殺されとるから、動く雑多な連中がいるかどうかが分からん。
しいて言うなら、ヴァンデイン第八企画室縁のメンバーが他所でまだエクリプスについて研究しだしたりしないか、警戒が必要って所か。
フェイトちゃん達があの三人を逮捕、フェアレの救出が出来、フッケバインが確保できればそれでほぼエクリプスの一件については片付いたと言っていい。
…おかしい。
いくらなんでも上手く『行き過ぎとる』。
それに、急に起動を停止して崩れ落ちたラプター達の件も、そんな中現れた人型機体、イレインについてもろくにわかってない。
CW社にも改めて話を聞かなアカン。
にしても…ラプターか…
高町速人とその一行が関わっている、ラプターの設計図破壊。
ここへ来て、エクリプスでなくウチ側と繋がりが出来るとは。
元から厄介な案件なのは承知の上やけど、なんだか嫌な予感がした。
Side~トーマ=アヴェニール
「カート、本当にありがとう。」
「あ?」
「フォートの事から黒幕の話まで、素直に教えてくれて。この一件、本当に早く止めたいからさ。」
内輪で盛り上がってしまった結果いい加減になってしまっていたお礼を改めて告げると、カートは呆れたように息を吐いて眉を顰める。
「…そのフォートもだけどよ、甘いにも程があるぜ。犯罪者の首領をころっと信用してよぉ。」
「それはカートの自慢にしてもいいんじゃないかな?俺だって誰も彼もの全部なんて信用できないよ。ただ、カートは信用できた。首領って言うけど、グレンデルの皆が君についてきてくれてるのだって一緒なんじゃないかな?」
止めなきゃならない犯罪を犯した身であるって事と、その人の全てが信用に値しないって事とはきっと別だ。
現に、ここでの情報が発覚するまで逮捕の対象にまではなっていなかったハーディス=ヴァンデインって人は、なんか元々信用ならなかったし。
「へっ、お気楽だな。一回ろくでもない目にあって見た方がいいんじゃ」
「あるよ。」
真っ直ぐにカートを見て告げると、カートも俺を見て笑みを消して真顔になる。
「…そりゃそうか、坊主は本物の感染者だしな。」
「なんでこんな事にって、本気で憎んで許せない事があった。エクリプスの衝動につられて出て来たあの気持ちは、今でもはっきり覚えてる。『大切なものを傷つけようとする怖いものなんて、全て消えてなくなればいい』…って。」
フッケバインの皆と管理局の皆。
その交戦、敵意が伝わってきて…直後、俺はその全てを『分断』した。
『お前、フッケバインの仲間なんだよ。』
フォートに告げられた、俺がフッケバインのみんなを否定できない理由。
これを拒めない根源、憎しみ、それは確かに俺の中にある。
でも…だからこそ分かる本当があった。
「俺は…人が傷つくのを見ているのが嫌なんだ。」
それは、善悪の基準だの法や犯罪だのと全く関係のない話。
カートがおおっぴらに宣言した、町の王になるって夢と同じように、ただの拙い願い事。
だからこそ、エクリプスにつられ『争い』を憎んだ。
「クイン一人に振り回されてたお前じゃフッケバイン相手にそれは過ぎた夢だな。」
「あぁ、だから強くならないとな。願い事の方は…きっと変わりはしないから。でしょ?」
俺を笑うカートにそのまま返すと、カートは怪訝そうな表情を見せる。
でも、過ぎた夢なんて俺だけ笑われてるのも癪だから、言う事は言わせて貰う。
「町の王になるって奴だよ。俺と、六課の皆を出し抜いて、上回ってみせるって言うなら相当強くならないといけないんじゃないか?カートだって。」
「カカカッ!言うじゃねぇか坊主!!」
過ぎた夢はお互い様のはずだ。
そして、それを止める気がきっとないのも。
楽しげに笑うカートの反応を見てる限り、きっと捕まったから止めたなんて投げたりしないはずだ。
「俺はカートの言うとおりの甘い坊主みたいだからさ、どっちかって言うと刑期削減の為に見習いに加わって、出所した後普通に選挙でも出てくれたほうが健全でいいんだけど。」
俺の要望を聞いたカートは目を丸くして硬直した後、これでもかって位に大笑いした。
グレンデルの皆の見舞いを終え、寮に戻った俺は、最低限の事だけ済ませて再び外に。
『クイン一人に振り回されてたお前じゃフッケバイン相手にそれは過ぎた夢だな。』
グレンデルの剣士の少女、クイン。
結局つめきれないどころか下手したら俺がやられてたくらいの彼女の実力でも、サイファーやシグナム隊長には遠く及ばない。
その二人だってきっと堕天使にはまだ…
「焦っても仕方ないのは分かってる。でも…」
エクリプスのおかげで、滅多な事で壊れない身体には変わってくれている。
後は、それを生かせる俺自身の問題。
「付き合うよ。」
「私も。」
基礎練習を積もうとしてたところに顔を出したのは、アイシスとリリィだった。
二人とももう休んでると思ったのに…
「明日の訓練に響かない程度にトーマにも気を使って貰わないといけないからね。あたし達が一緒ならフォートみたいな滅茶苦茶はしないでしょ?」
「あ、あはは…」
暗に、『一人だったらとことん無茶しただろう』って言ってくるアイシスに、俺は苦笑いしか返せなかった。
…見習いチームとか言うけど、きっちり狙撃手一人抑えてたアイシスと違って、リリィの力を借りておきながら俺が一番何も出来てない。実はそれなりに思うところはあったから無茶しそうだった。
「ゴメン、一緒にやろう。」
「オッケー!」
「うん!」
明確な答え、と言えないかも知れない。でも、カートに伝えたあの話を、ちゃんとフォートとスゥちゃんにもしなきゃいけない。
だから…二人とも、ちゃんと無事に帰ってきてくれ。
Side~フェイト=T=ハラオウン
現地に着くと、変わった構造になっている事が分かった。
海に近い場所にある森の中、小さな転移用魔法陣があった。
自然の地下空洞が走る地域で、地面を調べても空洞があるのが当たり前。
つまり…転移先に地下基地があっても魔法陣さえ知れなきゃそう簡単には割れない。
人の出入りと言っても、食料、エネルギーさえあれば頻繁に外に出なくてもいいような研究所なのだろう。その魔法陣としか直接道として繋がっていない地下施設だった。
デバイスからのプットアウトである程度のサイズならコンパクトに持ち運べるし、エネルギーが解決するだけで殆ど人の出入りの形跡をなくせる。
転移した先、本当の入り口の、何かのシェルターのような巨大な扉の前で私はフォートを見る。
「フォート、一応言っておくけれどまだ女性が残した紙の場所って言うだけで、暴れまわっていい訳じゃないから、調査名目で私が先行…」
言っている最中に、触れてもいないのに扉の方から勝手に左右に開いた。
中からは、ぞろぞろと機体が出てくる。
いつか地球で見た傀儡兵の新型…のようだ。
「向こうはやる気満々らしいけど?」
「あー…」
熱意、と言うよりは若干冷めた様子のフォート。
なんだかその目から、『黙ってやられればいいのか?』って言いたそうな空気を感じてどうしたものかと言葉に困り…
「お前は温存しておけフォート。」
「元々私達の仕事だからな。」
「え?あ、ちょ、シグナム?フレア?」
「「押し通る!」」
フォートより先に、レヴァンティンを手にしたシグナムとグレイブを手にしたフレアが飛び出してしまった。
フッケバイン相手に自分の武器を生かしきれてなかったから…ひょっとしたらそれなりに鬱憤とかあったのかもしれない。
「まぁ…こうなっちゃったら今更ですよね。誘拐されてる人もいるかもしれませんし…行っちゃいましょうか。」
あくまでも内部の人の心配をするスバルの後押し。
…武装機兵まで用意されてあれこれ考える必要もない…か。
私はバルディッシュを起動させて、先に戦闘を始めてしまった二人に続くように傀儡兵の中へ飛び込んだ。
SIDE OUT
相棒を腐らせるのは思い入れあればあるほど鬱憤たまりそうなものです。