記録十九・開かれたパンドラの箱
Side~フォート=トレイア
2m近くの人型機械がひしめく中、俺達は手近な道を突っ走っていた。
囲まれないように後続の相手をフレアさんとシグナムさんに任せ、俺とフェイトさんとスバルさんでつかず離れずに分かれ道や扉を調べて回る。
「っ…らぁっ!!」
二対の剣を手に斬りかかる。が、まともに当たったのにへこんで痕がついただけだった。
硬い…っ!
機械が振るってくる腕についたブレードを剣で防ぐが、超振動を起こしているその剣は防御がどうにかなる代物でなく、俺の剣はアッサリ砕けた。
下がってどうにかブレードを回避し、大剣を展開。
二本の片手剣じゃ一撃の威力が足りないならと、両手で持った大剣を全力で振りぬいた。
が、今度はかわしやがった。
左腕を向けて光弾を放ってくる機体。
大剣で防いだところで、丁度俺の前に光が割って入った。
「はぁっ!!」
高速移動で割って入ったフェイトさんだったようで、二本の剣となったバルディッシュをふるって機体の首と腕を落とす。
「この機体は硬い!私達で引き受けるからフォートは温存しておいて!」
親切な言い方だが、俺にこいつらと戦わせたくないだけだろう。
…オマケにくっ付いておいて再会だけ現地で、なんて情けない真似はごめんだ。
「っ…らぁっ!!」
右手に剣とブースターをつけて、突きと共にブースターを吹かす。
胸部の装甲に命中した突きは、そのまま機体にめり込んだ。
「量産の人形なんかに負けてられるかよ。」
深々と剣が突き刺さった機体を左足で蹴りながら右手を引っ張る。
突き刺さった剣が抜けるのと同時、胸部から小さな爆発と煙が出て来た。
「…あまり、無理はしないでね。」
「問題ない、調子は普段よりいいくらいだ。」
こっちを気遣うフェイトさん相手に強がりでもなく告げると、フェイトさんは小さく微笑んだ。
ある意味俺にとっては最終目標が目の前に迫っているようなものなんだ。
先の戦闘での怪我も残っているが、さして問題ない…所か、気分と相まって調子がいいように感じている。
「こっちです!」
別道を調べていたスバルさんの声がしたので、他の敵を放って声がしたほうへ向かう。
大きめの扉を、スバルさんがナックルで無理矢理破った先に、大広間があった。
突き当たりに階段、左右の道からぞろぞろとさっきから出てきてる機械兵士が出て来た。
「…おそらくは、陸戦用空間シミュレータと同じ技術だ。六課でもデータを入力して擬似再現する事でガジェットや地形を出力していた。」
「ですね、そうでなければこの性能の機体をこんな数保有、起動させるのは割が悪すぎます。それに、施設全体からエネルギーの反応がありますし。」
「この地下基地そのものが訓練場みたいになってるって事ですか?」
技術的には詳しいって程でもない俺にはよく分からない話題で盛り上がっている隊長さん達。でも、話を聞く限り重要な事には気がついた。
「それ、施設のエネルギー尽きるまでこの人形無制限に出てくるって事か?」
一体一体結構な性能の機体だが、データ再現ならコピー&ペーストで終わりの話だ。
シミュレータって言うならシミュレータ上でしか動けないって欠点はあるんだろうが、『施設全体』をそう設定しておけば、本物の精密機器等以外の地形、通路情報なんかは自由自在に弄り倒せるし、ついでに掃除も模様替えもスイッチ一つで出来る。
…物は使いようだな、ホント。
ディバイダーがあれば一発で片付いたんだろうが、トーマ達を敵地襲撃には巻き込めないからな。
「…実体化フェーズはやりやすいように専用のポートか何かがあるはずだ。私とフレアであの通路を見てくる。左は任せて良いかフレア?」
「あぁ。」
さらっと左右の通路…機体がぞろぞろ歩いてくる通路を示すシグナムさん。
…特務関係者が滅茶苦茶なのは今更だけど、よくもまぁあの先を『見てくる』で済ませるな。
ま、いい。雑魚を引き受けてくれるならありがたい。俺は誰かを捕らえたり敵を倒したりしに来た訳じゃないんだから。
「なら先に行ってるぞ。」
言うなり、俺は真正面に駆け出した。
正面にいた3体が、俺に向けて左腕を向ける。
盾と剣を展開して、盾を真正面の一体に投げつつ高速移動魔法を使用。盾を喰らって視界を防がれた機体の上に移動する。
停止制御を適当に済ませて、勢いが多少残ったままの状態で天井に足から激突。
高速移動の慣性を重力代わりに、跳躍するように天井を蹴って、下の機体の装甲を貫いた。
「ってお…とっ…」
着地も何も考えてなかった俺は、貫いた機体と重なり合うように倒れた。
他が残ってるのでとりあえずその場にはとどまらず、横に転がりながら起き上がる。
と、俺が片付けた真正面の一機の両隣にいた二機は、スバルさんとフェイトさんが片付けていた。
「大丈夫?」
「問題ない!」
心配するスバルさんの心配を晴らす気で強めに答えて先陣を切る。
フェアレ…待ってろ、すぐに行く。
Side~ルーテシア=アルピーノ
特務のフェイトさん達に遅れて現着した私は、少々感心していた。
フェイトさんの車が止まっている位置が奇妙だったので周辺地形にインゼクトをばら撒いてみたけど、天然の地下洞窟があるから空洞感知だけで周囲を探ったとしても基地なんて見つからないし、転移魔法陣も起動してないと殆ど反応が分からない。
オマケに、通気口とかどうしてるのか知らないけれど、インゼクトのサイズでも基地に通れる所がない。
一応魔法陣は見つけたし内部に突入してもよかったのだけど、罠の可能性もあるなら巻き込まれるよりは送還準備をしておいたほうがいい。
最近の敵さん方は通信傍受も平気でこなしてくるし大変だ。
外部から『インゼクトで把握できていない』空洞の形状を把握する事で基地内の大体の地形の把握に勤める。
うん、いい感じ…なんだけど…
「…あの、さすがにもう少し力抜きません?」
「御気になさらず。」
ついて来てくれているフレア空尉の隊に所属してる二人の局員さんが、無言、直立不動、常時警戒態勢。
そんな強面の男の人二人に傍にいられるとちょっと気疲れする。
あの実力で武装隊の一尉なのに部下二人なんてどうかとおもうし、魔導師の実力者は女の子割と多いのに…どっちも男の人。
まぁ…女の子が残れる空気じゃなかったんだろう。
大体、このお二人にしたって、私が同時に相手にし辛いレベルだ。
普通の航空隊ならトーレやセッテに部隊単位であっさり片付けられてた事を考えると、遥かに強い。
訓練も生活もきっついんだろうなぁ…
諦めた私は、検索に集中する事にした。
何度も送還、転送でいいようにやられてるらしいし、ここで詰めてやる。
Side~スバル=ナカジマ
「生体反応!?」
シグナム隊長とフレアさんを置いて進んでいたあたし達。
けど、施設に来て感じた事のなかった生体反応を感知して足を止めた。
下への階段と直進通路。
生体反応は下からしている。
犯人にしろ要救助者にしろ、どう考えても下に行くべきなんだけど…
「…フェアレは正面だな、俺一人で行くからあんたら局員として仕事に行ったらどうだ?」
フォートが告げた通りに、正面から隠す気もない魔力反応が感じられた。
それなりに大きいそれは、間違いなくこの施設に招いた張本人の着物の女性のものだ。
「スバル、研究員なら逮捕、誘拐された要救助者なら安全を確保してあげて。着物の女性の方は私が行くから。」
「…信用ねぇのな。」
「フッケバインと共に会った空の時には二人でフェアレさんを連れていた。まだもう一人がいない以上単独は危険だよ。」
…元々フォートは管理局員って訳でもないし、さすがに焦っているようにも見える。
焦らないようにって思うくらいの余裕はあるんだろうけど…長年の探し人だ、落ち着くほうがおかしい。
「分かりました!」
決まったら即行動。あたしは一気に下へ向かった。
機械兵は隊長達が相手にしてくれてる場所で生まれてるのか、あの部屋を過ぎてからあまり数を見ない。
道を塞ぐ何体かを蹴散らして進む。
多くの生体反応の元に近づいてきているのを感じながら、一人通路に立っている子がいた。
「え…」
あたしは一瞬驚いた。
インターミドルにヴィヴィオ達が初出場した時、選考会でアインハルトと当たって一撃で倒された槍使いの子だ。
出場前だったから番号で呼ばれてて名前すら聞いていないけれど、そんな子がどうしてこんな施設で、『武器を持って』突っ立っている?
驚きも一瞬、彼女が襲ってきたのでそれどころじゃなくなった。
それどころじゃない理由はもう一つ…
「っぐ…」
突進から振るわれた横薙ぎの一撃は、あたしを防御ごとズラした。
重い。
あっさりカウンター狙える速さじゃなかった。
ここまで変わるなんてそうそうない。それに…
目の焦点があっていなかった。
正気じゃない…何かされてる。
操られてるだけなら、下手なことも出来ないし…
とにかく、とめるしかない。
ちょっと加減きかないかもしれないけれど、早く先に進まなきゃいけないんだから。
Side~フェイト=T=ハラオウン
それまでと違い、無機質ないかにも研究所って扉とは少し違う扉に辿り着く。
…血の臭い。
勢いよく扉を開く。
「やっぱり来てもうたなぁ…」
壁を背にしてノンビリしていた着物の女性。
その隣に…胸元から腹部までを潰された老人の遺体があった。
「彼はっ…」
「感染者被害で息子はんとお孫はんを失って、復讐の為にアンチエクリプスを開発…の為に、フェアレ嬢を改造した研究者。儚い末路でんなぁ…」
扇で口元を隠してくすくすと笑う着物の女性。
口封じ…か?でも、そんな必要があるならなんでわざわざこの場所を教えた?
「フェアレは何処だ。」
「『居場所を』教える約束でしたなぁ…この施設最奥の部屋、うちの後ろの部屋に。」
「いけるものなら行ってみろ…って事か。」
二対の扇を構えた女性を見て、二本の剣を展開するフォート。
今のエリオが負けるくらいだ、私が引き受ける。
ソニックムーブで女性の目の間に移動、そして…
集中。
集中集中集中…っ!!
視界が緩やかになる、相手の動作の仔細が見える。
アクセルドライブ。
御神の人が使う『奥義』を相手取る可能性もあって、内輪で調べ、鍛えて私が辿り着いた陸戦、武器、身体強化以外の魔法不使用状態でのみ使用可能な、極限集中状態の呼称。
今のところ局で試すような使用者は私とヴィヴィオしか確認できてないから効果の詳細なんかがどう違うか分からない。
ただ、御神の人達のそれは長くても十数秒の持続時間なのに対して私達は連続数分程。
つまり、『密度』で圧倒的に劣っている。彼等の奥義は実際の動作速度も機敏になっているし。
一方こっちは自由に切り替えられるほど都合がいいものじゃない。ただ…
それでも十二分に優れた力だ。
右の剣が閉じた扇に触れそうになった所で、扇を手にしている彼女の手首が動く。
合気系技術の使い手…エリオでも勝てない訳だ。
右の剣をわざと手放し、巻き込んで私の腕ごと逸らそうとしていた扇を空いた手で掴む。
「っ…」
扇を通して直接変換雷撃を流そうとしたが、私が掴んでいる扇を手放した彼女は、左の扇を振るってくる。
「はあぁぁぁっ!!!」
あわせるように私も左を一閃。
衝突した瞬間、衝撃で私と彼女は互いに数歩分ほど弾かれる。
…オーバーS…いや、私がフルドライブではないからニアS程度の出力?
どっちにしても…その力でこの技量、かなりの実力者だ。
「ふ…ぅっ…こら驚きましたなぁ…」
どう聞いても驚いているようには思えない、笑みを浮かべたままの彼女。
けど…笑みの通りに余裕と言うわけでもないだろう。
何しろ…
「あらっ?」
「じゃあな。」
フォートが既に扉に手をかけていることに気付いていないのだから。
「ハーケン…セイバー!!」
余所見をしたところに、大鎌形態にしたバルディッシュを振るい、円盤状の魔力刃を放つ。
フォートの邪魔を諦めたのか、彼女は私が放った魔力刃を開いた扇で受け…
「花水木。」
投げ返してきた。
何が相手でもお構いなしみたいだ。でも…
「あら、誘導斬撃どすか。」
弧を描くような軌道で戻ってきた魔力刃を、開いていた扇を閉じて叩き壊す彼女。
もう片方は私がさっき掴んだ際に遠くに放り投げてある、つまり…
片方しかない扇を振り切れば隙が出来る。
バルディッシュを振りかぶり接近。そして…
大鎌ではかわされる可能性があると判断した私は、鎌を振りかぶったままの体勢から横蹴りを放った。
簡単には読めないし、見えても防ぐか何かで次に繋げる。
その筈だった。
「ぁっ!!!」
伸びきった左足の膝を強打された私は、ぐらついて後退した。
鎌を振りかぶった右の懐に、私が丁度左足蹴りを放ったタイミングで入ってきた。
私が普通に鎌を振っていたら直撃だったはずだ、何でそんなリスクを…読まれた?
「見事な技量、近接戦闘で一歩上に立てる領域に入れる上、魔導師としても大成しとって、その魔力量に変換資質。貴女の実力はウチのそれを確実に上回っとります。でも…」
彼女は、閉じた扇を私に突き付けて笑う。
その瞳にあるのは、自信や過信と言うより、正解を知っていて言いたくて仕方ないような、そんな子供のような色。
「貴女は『何故か』扇一つのウチにすら絶対に勝てまへん。…こん謎を解くか、自信過剰と無視するか、承知の上でお廻りはんとして玉砕するか…ご自由にどうぞ。」
膝の皿を避けて関節部を直接強打された足は…壊れてこそいないけど、自由にって訳にも行かない。
おそらく彼女が言うように何かからくりがあるんだろうけれど…私が引けば彼女はフォートを後ろから追うだろう。
…やるしかない。
こんな仕事だ、アンノウンには慣れている。
二本の剣に分離したバルディッシュを構え、私は余裕たっぷりの彼女と向かい合った。
Side~フォート=トレイア
着物の女をフェイトさんに任せて先行、扉を閉めると以外にも戦闘音も何も聞こえなくなった。
相当な防音処置がなされているらしい。
短い廊下の右手に『メンテナンスルーム』とあり、突き当たりに何の記述もない扉があった。
傍にメンテナンスルームを置いておく必要がある部屋…
顔から頭の半分近くを機械で覆われたフェアレの姿を思い出し、確信する。
ここにいる。
罠…か何か知らないが、理由は間違いなくあるだろう。
ただ、あの着物の女が嘘を言っているとは何故か思わなかった。
ドアノブに手をかけ…ゆっくりと開く。
他と違う、明らかな生活空間。
本棚やベッドが置かれたその部屋で、少女は椅子に腰掛けて机に向かって何かを綴っていた。
が、ドアの開いた音に気付いて、ゆっくりと振り返り、俺の姿を見て椅子から立ち上がる。
「フェアレ…」
どうしたものか分からなかった。
良かった。って言うのも違う気がするし、大丈夫って言うのも俺が言ってどうするって感じだし。
でも、ようやく…ようやく辿り着いたんだって…そう思って…
「ごめんなさい。」
困惑する俺の目の前で、何故かフェアレは笑うでも怒るでもなく、頭を下げて謝ってきた。
SIDE OUT
フレア直属の部下。…実はそんなものが居るだけで前衛としては作中一番厚遇なんじゃなかろうか(汗)。