なのは+『心のちから』   作:黒影翼

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記録二十・絶望の箱の中

 

 

 

記録二十・絶望の箱の中

 

 

 

Side~フェイト=T=ハラオウン

 

 

 

「あぁ、けど急いだほうがええですよ。」

「何…」

「勝てる相手にかまけて雑兵を見過ごすなんてヘマ…普通せえへんでしょう?」

 

告げて笑う着物の女性に、最悪の可能性に思い至る。

 

フェアレ=アートが、要救助者でなく彼女達の仲間である可能性。

 

家を焼かれて誘拐、改造までされているのにありえない。そう言いきりたいが…そもそも改造されているんだ。ルーテシアのような洗脳誤認、記憶操作を施されていたら元の境遇など当てにならない。

 

着物の女性の楽しげな笑みと余裕ある瞳に、フォートの危機を悟る。

 

「く…っ!!」

 

二刀を手に斬りかかる。

扇の片方を取り落としているから手数で攻めれば捕らえられると踏んだのだけど…

 

右の袈裟切り、左の横薙ぎと連続で防がれ、次いで放った右の突きは、かわされた上に懐に潜り込まれた。

…ウェイブステップ!?

 

「集中できてまへんなぁ…」

「ぐ…あぁっ!」

 

よりにもよって、さっき強打されたばかりの左足の膝を扇で強打され、地面を転がりながら後退する。

 

くっ…駄目だ、近接戦闘で簡単にどうにか出来る相手じゃない。それにもう足が…なら!

 

「サンダー…」

 

部屋ごと雷撃でなぎ払おうと思ったその時、彼女が目の前に迫ってきていた。

 

「が…っ!?」

 

閉じた扇による突きが、水月に深々と食い込んでくる。

 

「屋内の距離で変幻自在移動相手に大技なんてどうしました?…ふふっ。」

 

耳元で囁かれるように告げられた女性の言葉に、初めて違和感を覚える。

おかしい…『私の方が普通に戦えてない』…っ!?

 

 

「茉莉花・零。」

 

気付いた所で手遅れで、大した防御力もない身で零距離砲撃を急所に喰らった私の意識はそこで途絶えた。

 

 

 

Side~フォート=トレイア

 

 

 

「…は?」

 

俺は、一瞬意味が分からなかった。

再会早々に謝られ、理解が追いつく訳がない。

 

「何言ってんだよ、謝るならむしろ五年もかかった俺の…っ!?」

「その通りだな。」

 

背後で、いきなり気配を感じてフェアレの傍に跳躍しつつ振り返る。

転送魔法を駆使していたと思われる三人目…紫色の髪の男が部屋の入り口に立っていた。

メンテナンスルームとか言うところにいたのか?

 

「俺はエフス。この人造兵器開発研究施設の研究者の一人だ。何のために貴様を招き、こうしてこの場を用意したか…それを説明しに来た。」

「説明?」

 

俺は剣と盾を手に、フェアレとエフスの間で構えを取る。

 

人造兵器開発研究者を名乗っておきながら話とは、ずいぶんふざけた奴だ。

要はフェアレをこんな有様にした奴の一人って事だろうに。

 

「端的に言おう、訳あって彼女は我等に協力を約束している。脅し…では一応ないのだが、いくつかの取引を彼女から持ちかけてきた為だ。」

「何?」

 

咄嗟に不可解な反応を返してしまったものの、よくよく考えればおかしな話でもない気がした。

口約束を律儀に護ると思ったが…俺はここに招かれたのか。

だが、洗脳でもなく協力しているって言うのも妙な話だ。

 

「此方側の目的について詳細を語るわけには行かないが、彼女が我々への協力を申し出てくれている訳の一つを伝えに来た。」

「伝えにって何だよ、フェアレ本人がここにい」

「彼女は記憶を消費している、過去の記憶などもう殆ど存在しないんだ。」

 

 

俺は口を開いたまま固まった。

 

 

呆然としたまま硬直していると、俺の背後にいたはずのフェアレがいつの間にかエフスの元に向かってゆっくりと歩き出していた。

 

「アンチエクリプス…あの力場の発生に記憶を消費すると判明した、貴様を覚えている段階で、俺と薊…あの着物の女が、ある願いを託された。フォート=トレイアを死なせるな…とな。」

 

言葉を区切り、わざとらしく肩を落とし息を吐くエフス。

 

「まさか誘拐から五年、今その約束を果たす事になるとはな。…今更他人の貴様に救われた所でまともな先行きなど見えないだろう。遅すぎたんだ、何もかも。」

「あの…エフス、それ以上…」

 

愚痴のように語るエフスをとめたのは、傍らにいたフェアレだった。

エフスは、フェアレの頬に軽く手を添えて…

 

 

 

 

 

唇を触れ合わせた。

 

 

 

 

 

「…メンテナンスルームで待っていろ、俺もすぐに行く。」

「はい…ごめんなさい…」

 

目を合わせず、再度俺に向けて頭を下げて部屋を去るフェアレ。

俺は何も言えずに、ただ呆然とその姿を見送る事しか出来なかった。

 

 

「フォート=トレイア、今ここで武器を下げて全てを諦めろ。」

「な…に…?」

「嘘でも諦めを口にしてしまえば、お前は二度と戦えまい。…得られない幻に縋ってこれ以上傷つくな、それがお前のフェアレ=アートの唯一つの願い事だ。」

 

 

全てを奪った身の癖に、この状況を作った一人の癖に、よくもそんな事を…っ…!!

 

 

ドクン。

 

 

胸が跳ねる。

 

 

ドクン。

 

 

湧き上がる怒りに、剣を持つ手が軋む。

 

 

ドクン。

 

 

 

『お前のせいで―』

 

 

 

手にした剣を投げつけるように床に突き刺して両手で頬を張る。

左腕には盾があったせいで同時に叩けなくて頭が少し揺れたけど、かえって良かった。

 

歯を食いしばる、涙も虚無感も踏み潰し、突き刺した剣を手にして、エフスに突きつける。

 

「…八つ当たりか?」

「モテない男の僻みほどみっともない事はねぇからな、それは飲み込ませて貰う。だが…一つ約束がある。」

 

交わした当人が覚えていない…記憶そのものが消滅してるらしいのに、未練がましいにも程があるが…藁に縋る様にソレを手放さない理由は、俺にある。

 

「この状況を作った奴等を、この状況を作るのに躊躇いのない奴等を放置してはおけない。お前がフェアレと結ばれるってだけなら見過ごすが、非人道機関に関わり続けるなら…俺は引かない、絶対に!!」

「…無傷で帰すのは無理か、よくも耐えるものだな。」

 

エフスは、どこか感心したように瞬くと、静かに拳を握って構えを取る。

…ストライクアーツ…か?こいつ、後衛のオマケじゃないらしいな。

 

「心か身体、どちらかが折れればそれで終わりだ。前者が無理なら後者を折るまでだ。」

「俺はこんな所で終わらない…終われるかっ!!」

 

俺は握りなおした剣を振りかぶり、エフスに向かって斬りかかった。

 

 

 

Side~シグナム

 

 

 

左右に分かれた道の先、予想通り機体の精製区画があった為、すぐ移せる資料のみ確保して区画ごと連結刃を操ってずたずたに破壊する。

 

新たな機体の出現がないことだけ確認して、元の通路に戻ると丁度フレアの方も片付いたのか顔を出していたので、合流して先に進む。

別れ道があったが、前方の部屋からの音に前に進む。

 

 

部屋に入って見たのは、扉の隣の壁に背中からずるずるとすべるように崩れ落ちるテスタロッサの姿だった。

息はある…が、意識もないまま口から血が流れている辺り、内臓に損傷を負っている。

 

 

犯人を捜すと、着物の少女が部屋の隅でデバイスを拾い上げていた。

 

「あらあら…おそろいでようこそ。執務官殺しの犯人、薊と申します…と、自己紹介できればいかにも悪そうでおもろかったんどすが…中々にしぶといようで。」

 

開いた扇で口元を隠しながらわざとらしい笑い声を漏らす、薊と名乗る着物の少女。

見る限り無傷…あのテスタロッサが一触れすら出来ず瀕死に?

 

ありえない。

 

かつてよく聞いた、生身での修行の果てに体得する人の力の一つ。

アクセルドライブと局内で呼称されているソレに、テスタロッサは踏み込めるようになった一人だ。

私は剣士だと言うのに、アレの間は近づくのを躊躇うほどに『キレ』た反応速度を見せる。

 

だと言うのに、掠り傷の一つもなく凌ぐなんて事が…

 

「自白何よりだ、強制逮捕させて貰う。」

 

テスタロッサが倒される相手、と言うところに思考を挟んで警戒していたつもりだが、まるで気にしない奴が一人いた事を失念していた。

 

単独で槍を手に飛び掛るフレア。

だが、揺らめくように動いた薊に、槍による斬撃を回避される。

 

「歩法『駒草』、高嶺の花にはそう簡単に触れられまへん。」

 

緩急が自在らしく、奇妙な事に一瞬たりとも止まらず、速くもなるのに遅く見える。

普通に追っていてはマタドールと暴れ牛のようなものだ。

いくらフレアの奴でも、アレを捕らえるのは至難の業だろう。

 

…敵の施設だ、気を遣うことはない。

 

「レヴァンティン!」

『シュランゲフォルム。』

 

このまま振るうだけなら進歩はないし、魔法として何かを行使するだけでは捌かれる。

 

ヴィータも速人達と会って苦い思いをし続け、自分なりにアイゼンの扱いを見出していると言うのに、私だけ何の進歩のないと言う訳には行かない。

 

 

故に扱う…操刃術。

 

 

「焔乃大蛇!!」

 

 

本来、宙域で多少の空間制圧を行えるほどの長さをうねる蛇腹剣形態、シュランゲフォルム。

だが、大きな弧を描けば戦闘機の旋回のように、いくら速くてもはっきり目に捉えられる。

 

だからこそ…短い範囲を蛇の群れのように連続で小刻みにうねらせながら標的へ向かう軌道を描く、魔法ではない技術。

先端部に変換資質によって炎を纏わせ、軌道の正確な視認をより困難にしてある。

 

「あ、あらあら…これは…っ…」

 

直撃でなくても炎を纏っている先端、紙一重の回避では焼かれるし、大きく避けていては自由度の高い歩法とやらも無駄になる。

本来空間制圧用に伸縮、機動速度共にかなり速めのシュランゲフォルム。

ソレを小刻みに方向転換を繰り返して振るっているのだ、さすがに逃げ切れないと判断してか、足を止めた薊は…

 

 

着物型の防護服を脱いだ。

 

 

薊が振るった着物型の防護服をレヴァンティンが貫いて、先端部以外に絡まった防護服のせいで動かせなくなる。

 

 

「鳳仙花。」

 

 

瞬間、絡まった防護服が魔力光に変わり、爆発。

バリアジャケットにはリアクターパージの機能が備わっている…瞬間的に緊急防御魔法に変換できる。

だからと言って、防護服を攻撃魔法に変換する魔法などよくもまぁ…

 

「だが、詰んでいる。」

「は?…っ!」

 

レヴァンティンをやられたが、その間にフレアが、魔力刃を飛ばして天井を切り崩していた。

裸で降り注ぐ瓦礫の直撃を受ければソレはそれで問題だ。

彼女は開いた扇をふるって刃を含む風を起こし、降り注ぐ瓦礫を刻んで周囲に払う。

 

破片の散った足場、扇を振るったばかりの薊。

そこに…

 

 

「乾坤一擲…アブソリュートランサー!!!」

 

 

 

フレアがトドメの一撃を…一撃?

 

防護服の再構成も間に合っていない相手に何で奴がフルパワーでいく必要がある?

 

 

疑問も一瞬、すれ違うように喉を閉じた扇で強打されたフレアの姿があった。

 

「っ…おおぉぉぉぉ!!!」

 

思考よりも早く体が動いた。

なりふり構わず地面を…散った破片を蹴り飛ばす。

 

此方に気付いた薊は、自身を覆うように扇を開いて破片を防ぎ、その場を離れる。

扇を閉じると、防護服を再構築していた。

 

「っ…ふ…」

 

喉を押さえたフレアは、血を切るようにして小さく息をして血の塊を吐き出す。

…おかしい、明らかに何かが妙だ。

 

「…洗脳か?」

「ご明察。」

 

一人呟き気味に漏らしただけだったのだが、意外にも薊はあっさり答えた。

 

「種が割れても避けようおまへんかんなぁ…もう勝負ついたようなもんやし。」

 

余裕に満ちた彼女の言い様に、此方の状況を省みる。

私はレヴァンティンの刀身が半分ほど損壊、フレアは無駄に使わされたフルパワーに加え、それにカウンターを直撃。

ここまでやってもまだ無傷、余裕があるわけだ。

 

 

「舐めるな。」

 

 

フレアが吐き捨てるように言って槍を構える。

フレアは極端すぎるが、どちらかと言えば私も一兵士の側だ。

 

戦場にて主の敵を討つ、選択の余地がある場面ならともかく、今は…

 

半分程になったレヴァンティンを戻して構えると、薊は笑って扇を手に構えた。

 

 

 

Side~スバル=ナカジマ

 

 

 

断続的に繰り出される洗練された槍。

けれど、さすがに無機質に攻撃を繰り返されればさすがに見えてきた。

ただ…完全に回避してたらいつまでも終わらない。

 

 

「おおおぉぉぉぉっ!!!」

 

 

身体を裂いていく突きとすれ違う。

急所だけは避けて全力で踏み込んで、アッパーで顎を跳ね上げた。

上体ごとそれた所に、リボルバースパイク。

よく使う基本的なコンビネーションだけれど、私の力で直撃させれば感染者にだって…って!?

 

『骨までは行きましたが?』

「あぁ!しまったつい!」

 

今更なマッハキャリバーからの注意にあたしは叫んだ。

 

どう見ても操られている人相手にしてたのに、感染者の相手してたのと違法研究所で敵だったって事でつい失念してしまった。

た、確かに強かったけど…二発目のスパイクはもう少し加減できたのに。

 

…とにかくこれで先に進める。

 

倒れた彼女には悪いけれど、余裕がないから先に進む。

最奥の部屋まで辿り着いたところでその扉を開く。

 

 

 

「っ…」

 

 

中には、大量のカプセルとその中に浸かる人々の姿があった。

 

想像できないではなかった。

生体兵器研究機関に生命反応と言う時点で、ろくな扱いじゃないこと位は。

ただ…あたし達は突撃制圧メンバーだから、医療班はいない。

つれてきてても合流予定のルーテシア達。

 

いきなりカプセル壊して何かあったら危険だから、少し調べてから…

 

 

 

 

 

 

動力システム。

 

 

 

 

 

 

調べる最中見かけた、あまりにも不吉な一文。

 

沢山のカプセルの脇にある、緑だったり赤だったりするランプ。

 

何か感じる妙な魔力の流れ。

 

 

「こ…のおぉぉっ!!!!」

 

 

今度は耐えていられなかった。

振動破砕を用いて近くの緑のランプが灯ったカプセル…おそらくは『内部動力源が生きている』事を示しているものを叩き割って、中の人を引き剥がす。

待ってる場合じゃない。ここから引き剥がしておかないと死ぬまで魔力をこの施設に流され続け…っ!?

 

「ぇ…?」

 

カプセルから出した人は、脳死状態だった。

あたしが判断を間違えて死んだ…と言うには、あまりにも前からこんな形で…いや、違う、ここ…

 

 

 

「っぐ…っ!!」

 

 

 

唐突に、魔力弾の直撃を受けた。

見れば、脳死状態のはずのその人が、私に掌を向けている。

 

 

よく、見れば、カプセルの内何人か、同じ顔の人が…いて…

 

 

それは…つまり…クローン…作ったけど…希望する性能まで行かなかった魔力値だけ高い個体が…『勿体無い』から…

 

 

 

「侵入者…排除…」

「…の…をっ…」

「侵入者…排除…」

「命をっ…何だと思ってるんだああぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 

 

 

溢れる涙が視界を埋める中、あたしは拳を握り、無機質に同じ台詞を繰り返す彼女をどけてシステムの中枢を叩き潰した。

 

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 




食事を自動で魔力に変換、ある意味クリーンエネルギー…笑えませんが。
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