なのは+『心のちから』   作:黒影翼

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記録二十一・崩壊の時

 

 

 

記録二十一・崩壊の時

 

 

 

Side~フォート=トレイア

 

 

 

エフス相手に剣を振るい、わかった事がある。

相応に修練は積んでるみたいだけど、さすがに薊とか言う着物の女程の腕じゃない。

 

 

なのに…

 

 

「っそぉ!」

 

俺の振るった剣は、防護服を纏っただけのエフスの腕で止められた。

装甲ですらない。いくらなんでも直撃させてノーダメージなんてそこまで弱いわけが…

 

 

思考をはさむ間なんてものはなかった。

 

 

鳩尾への肘鉄、下がった顎をアッパーで打ち上げられ、掌底で吹き飛ばされ背中から扉にぶつかる。

 

動こうとしたが、それより先に俺の全身を糸のようなものが縛り上げた。

 

「感染者と戦い、薊と戦い、施設に乗り込んで機兵を相当数屠り…無能の身で持つにはあまりにも見事な力…いや、意志力と言っておこうか。」

 

褒めるにしてはあまりにも冷めた目で俺を見るエフス。

 

「途中から…いや、貴様はおそらく、この施設に来た頃には今の程度の力まで消耗していたんだ、俺のジャケット一枚破れないほどにな。だが、火事場の馬鹿力の例にあるように…命の危機、ないしはそれに類する程強い望みの前には温存等の配慮が身体から消える。貴様の力の源は、命の危機に類する程フェアレの救出が望みだった事そのものだろう。」

「だから…なんだって…」

「今のお前に命がけの戦いを演じる理由は無い。」

 

エフスの言葉を聞けば聞くほど、体が重くなっていく気がする。

いや…重い事を自覚してきているんだ。

 

そもそも、エリオが戦闘不能にされるカウンターの直撃を、俺だって一緒に受けている。

運よく急所を避けていたとして、だから平気ですなんて訳がない。

 

「…最後の忠告だ、諦めろ。」

「っ…こ…とわるっ!!」

 

俺は体内から刃を射出、拘束する糸を斬り…

 

 

鳩尾に拳がめり込んだ。

 

 

 

 

「なら壊すまでだ。」

 

 

 

 

急所密着状態の拳から放たれた砲撃魔法を直撃して、俺は意識を失った。

 

 

 

 

Side~シグナム

 

 

 

「おおおぉぉぉ!」

 

 

剣本体があの有様なので、鞘を手に殴りかかる。

 

「っ…鞘だけやんに見事なもんで…」

 

右の扇で受け流され、閉じた左の扇を腹部に叩き込まれる。

…こいつの技量、能力は厄介極まりない、もとより無傷で済ませる気はない!

 

「掴んだぞ。」

「あら…」

 

空いていた右の手で薊の左腕を掴む。これで早々自由はきくまい。

フレアは声をかけるまでもなく、駆け出す。

だが…

 

緩やかに身体をそらされ、迫るフレアの前をさえぎるように私の身体を倒す。

合気か…っ!

 

「末摘花。」

「っ…ぐ…」

 

私は風に飲まれて吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。が、フレアはそんな私を棒高跳びのように飛び越えた。

 

「はっ!」

「と…っ!?」

 

跳躍からのうち下ろしをどうにか横に回避した薊だったが、間髪いれずに横薙ぎに切り替えたフレアの一撃をまともに受け止める。

 

扇で防御はしたが、遠心力を加えられた横薙ぎの一撃は片手で止めきれるものでもなく、右肩にフレアの槍の先端が触れた。

少々食い込んだ程度、だがようやく通ったと言う意味では希望になる。

 

「ふふ…っ!まさか傷つけられるとは思わへんでした。」

「っ…」

 

壁を背に笑う薊を見ながら、追撃に出なかったフレアが歯噛みする。

理由は分かっている、『嫌な予感』を感じさせられたのだろう。

 

テスタロッサがアッサリやられた理由、その洗脳術。

戦っているとさすがに種が分かってきたが…奴が言うとおり対処方がない。

 

当たり前だが、間合いや攻撃手段の全てを『計算、演算』で決めている訳ではない。

自分の判断、戦闘勘とでも言うものが必ず絡んでくる。

 

厄介なのが、奴が使っているらしい洗脳術が、『弱く優しい』物である事だ。

 

此方の思考を捻じ曲げ変えるのではなく、いくつかあって悩む選択の内から、奴にとって有利なものを『自然と選ばせる』程度の洗脳。

合気洗脳術とでも言うのか、強い意志で破ると言うような抵抗の意志が沸かないもので、更に、『毎回は使ってこない』ので、そのうち自分の判断なのか奴の洗脳なのか、疑心暗鬼に陥っていく。

 

 

「さて、続け…あら?」

 

 

言いかけたところで、部屋の扉…薊が背にしていた扉が吹き飛んだ。

と同時に、人影が転がり込んで…

 

 

「フォート…っ!」

 

 

扉を突き破って飛び入ってきた人影は、フォートだった。

砲撃によって全身を押されたのか、ふさがっていた全身の傷口も開いて所々赤く滲んでいる。

 

「これで用事は済みました、後は無作法なお客様の処分を済ませればおしまい…と。」

 

傷だらけのフォートを見て小さく息を吐いた薊は、小さな魔法陣を展開して何かを起動する。

直後、施設に轟音が届いた。

 

施設の自爆?地下への突入という事で爆発物についてはテスタロッサが道中探査していたはず…見つけ損ねたのか?

 

「たまには海水浴もええもんや思いますよ、ゆるりとしはって下さいな。」

 

言いつつ、薊はフォートが吹き飛んできた扉の跡へ向かう。

天然の洞穴と海に近い場所…爆薬など使わなくとも、水流が流れ込む設計にすれば自然崩壊させられるという事か、つくづく厄介な!!

 

「に…がすかっ!!!」

 

折れた刀身と鞘を組んで、無理矢理に弓を形成する。

ボーゲンフォルム。

 

 

「あらら、弓まで使いますか。」

 

 

呑気に話す薊は無視して、一矢を放つ。

これでも、高町の砲撃クラスの高威力攻撃、切り札の一つだ。

 

まして…ここまで近接戦のイメージしかないだろう相手には、格好の奇襲になる!

 

 

「シュツルム…ファルケン!!」

「あ…ら、これは…っ!」

 

 

だが、さすがに集中させた魔力でただの一矢ではないことに気付いたのか、扇二つを展開して受けに入る。

 

轟音、衝撃と共に、開いた扇に触れた矢は…

 

 

「っ…さ、さすがに返すんは…っ…」

 

 

そらされて直撃しなかった。

が、さすがに立っていられなかったのか尻餅をついている。

 

間髪入れずに動き出すフレア。

…ここで薊を逃がす訳にはいかない、こいつの力は、まともに相手をしては、『達人であればあるほど』太刀打ちし辛くなる力。まともな対処法がないに等しい。

 

完全にとめるしか…ない。

 

そして、フレアなら、必要なら…やる。

 

 

轟音が響くと同時、漆黒の光が放たれた。

 

 

 

 

Side~フェイト=T=ハラオウン

 

 

 

派手な音と振動に目が覚める。

今は…そうだ、フォートが危なかったはず…

どれだけ意識を失っていたのか知らないけど、この音と振動ならまだ何もかも終わった訳じゃないはずだ。

 

目を開く。

 

ぼやけた視界に飛び込んできたのは…

 

 

 

 

 

私に向かって槍を突き出したフレアの姿だった。

 

 

 

 

 

「なんや戦争でもしとるか思うくらいおっかない人かと思たけど、敵を討つより仲間を助けるほうを優先するくらいには優しい人やったんやなぁ…」

 

言いながら立ち上がったのは、着物の女性。

 

 

助ける。

 

 

私に槍を向けたフレアが、仲間を助けた?

その、嫌な言葉に、自分の状況をゆっくりと把握する。

 

 

ぼうっと頭上を見れば、天井が崩れたのか大穴が空いていた。

 

 

視界に、ぱらぱらと、何かを壊した破片のようなものが降り注いで来ていて…

崩れた天井の瓦礫を砕いたような…そんな破片が…散っていて…

 

「では、ウチはこの辺で。」

「っ…」

 

扇を振るい、施設内に風を起こした彼女は、そのまま扉奥へと消えていった。

 

フレアは動かず、珍しく防御魔法を展開して風を防ぐ。

 

よくよく見れば、傷だらけのフォートが意識を失って転がっていた。

こんな状態で範囲攻撃を通すわけには行かなかったのだろう。

 

それでも、風のせいで室内が更に軋む。

 

いつの間にか、施設そのものが倒壊間近になっていたらしい。

私は痛む身体を押して立ち上がり…

 

「っぐ…」

 

喉の奥からする血の味に静止する。

まずい…内臓にダメージが…

 

「ち…脱出する!フレア!テスタロッサは任せるぞ!」

 

意識を失ったフォートを担ぐシグナム。

振られたフレアは、返事も何もなく私の元に駆けてきて…

 

 

 

 

壁が裂け、水流が全てを飲み込んだ。

 

 

 

 

Side~ルーテシア=アルピーノ

 

 

 

冗談じゃ…ないっての。

私は息を切らせた状態で、ふざけた襲撃者集団に歯噛みしていた。

 

髪こそショートに切られていた、三人のギンガさんだった。

しかも、全員が全員、無表情で別々の戦闘術を使ってくる。

 

空尉の部下の二人が一人を引き受けてくれて、私はガリューと一緒に二人をどうにかとめたんだけど…

 

「っぅ…ガリュー大丈夫?」

 

素体としての能力はギンガさんに匹敵…何をされたのか、それ以上まで引き上げられている上、痛みも脳震盪もお構いなしなのか何を喰らっても止まらない。

そんなのにばらばらの近接戦闘を行われ、前衛を張ったガリューはボロボロだし、私も片腕折られた。

 

ガリューは明らかに重傷だけれど、見せない風でアスクレピオスに戻っていった。

 

後は護衛のお二人の方だけど…耳のいいガリューが戻ってしまった辺り、多分…

 

 

「っ!?」

 

 

突然、轟音と振動。そして、水流の音が響いてきだした。

 

まだ『少しは』遠いけど、考えてる時間はない。飲み込まれる。

内部の皆は…駄目だ、正確な座標が分からない。それに、送還したって私達が洞窟内じゃ…

 

「く…っ…」

 

比較的近くで気絶していた二人だけを見つけ、私はどうにか洞窟外へ転移した。

 

 

 

突入班は、その実力を信じる他なかった。

皆…本当無事でいてよ…

 

 

 

Side~スバル=ナカジマ

 

 

 

水中を突っ切るように、海面を目指す。

 

装置を破壊したところでいきなり施設が轟音を響かせ始めた上、ジャミングなのか施設倒壊の悪影響のせいか、隊長達とも連絡が取れず、とりあえず先にカプセルから出していた人だけ抱えて脱出せざるを得なかったから。

 

近場の陸地に乗り上げ、抱えてきた子に簡単な応急処置を施して拘束。

 

通信が繋がるか試しては見るが、隊長達にもルーテシアにも繋がらない。

 

ジャミングなのか、それとも死―

 

 

「…な…せるか!!!」

 

 

あたしを探しに来た人と入れ違いになる訳には行かないので、信号の送受信を行う端末だけは設置して、再び海中に飛び込んだ。

 

 

そして見たのは…海を漂う、吹き飛んでばらばらになった人間のパーツ。

 

 

おそらくは、施設倒壊にあわせて処分するために仕掛けでもあったんだろう。

洞窟を倒壊させるような荒れた水流の中、所々赤が滲む水中の様相に歯噛みする。

 

 

命を使った外法研究。

JS事件に関わる身として、無関係でもないけれど…エクリプスにしたって悲惨だけど…

 

 

 

『ありふれた悲劇』なんて言葉は使いたくなかった。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 

 

 




ありふれててたまるか!と、言いたい所ですが…最近のニュースを見ていると本物の地球上すら笑えない話です。
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