なのは+『心のちから』   作:黒影翼

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記録二十二・誓いに隠れた傷

 

 

記録二十二・誓いに隠れた傷

 

 

 

Side~ルーテシア=アルピーノ

 

 

 

近隣の部隊の人に車を出して貰っていたけれど、その待機範囲まで施設倒壊の影響を受けて、車で待機してた人は車を放り出して飛行したりなんだったりで大変な事になっていた。

通信障害も起きて、とりあえず高度を上げて障害の範囲を脱出した私は、まず六課に施設倒壊の旨を伝える事にした。

 

向こうの方は無事にハーディス=ヴァンデイン氏の逮捕まで淡々と行ったらしく、手の空いたなのはさんがこっちに名乗り出た。

 

確かに、なのはさん一人だけでも呼べれば、言い方は悪いけど、制御できるサーチャーの数にしろ航空機動にしろ、地方の方が足と人数揃えるより遥かに上だ。

長距離の召還にはなるけれど、無理を推してそれをやる価値も…理由もあった。

 

連絡がつかないうちのフェイトさんは、なのはさんにとって他の誰も割って入れない位の親友なんだ。

まして、兄の速人さんが生死不明に陥って一年、平気を装ったって平気な訳が無い。

 

 

痛む腕を無視して、召還用の陣の構成を急ぐ。

 

 

と、そんな中通信が繋がった。

 

 

『無事か、ルーテシア。』

「シグナム空尉!良かった、ご無事でしたか。」

『私はな。』

 

待ち望んでいた突入班からの通信だったけれど、あまり良い顔をしていないシグナムさん。

 

『フォートが意識不明の重体、テスタロッサも一度倒されたらしい。脱出の才意識を取り戻してはいたから一度カウンターを受けたフレアにテスタロッサを任せて私はフォートの方を拾ったのだが、連絡がつかない。』

 

どんなメンバーが施設に居たのかは分からないが、相当な施設だったのは間違いないらしい。

あのフレア空尉が、射砲で押し切られるならともかくカウンターでダメージを受けるなんて簡単に信じられない。

 

「…シグナム空尉は動けますか?」

『私はレヴァンティンが損傷したくらいだ、フォートを何処に運べばいい?』

「医療班の座標を送ります。今なのはさんを召還するところで手が放せなくて。」

『了解した。』

 

聞くだけ聞くと、すぐに移動を始めるシグナム空尉。さすがに迅速だ。

 

『スバルとも途中で別れているのだが…』

「そちらは問題ないです。海中の人命、施設残骸情報の捜索に回ってますから。」

『分かった、詳細はフォートをおいてから聞こう。』

「はい。」

 

伝えるだけの現状を伝え、通信を切る。

私もシグナム空尉も急ぐ事がある今、ちまちま報告作業と言うわけにも行かない。

 

 

 

Side~シグナム

 

 

 

「だーっ!最初っからアタシを連れてけば良かったのに!」

 

小型の為高町と共に飛んで来られたアギトと合流した私は、開口一番怒鳴られていた。

 

本当に手ごわいのはエクリプスだし、六課の本題でもある。

そう踏んだ為、施設解体程度ならと六課の方の後処理をアギトに振って出て来ていた。

 

それで突入部隊全部返り討ちでは面目立たないにも程がある。

 

「…すまん。」

「ぅ…いやまぁそうしんみりされても困んだけどよ…」

 

言い訳も出来ん私は、本気で頭を下げた。

 

AMFからエクリプス、一時レヴァンティンまで砂糖細工のようにあしらわれ、心のどこかに『魔法が普通に通じるなら』と言う思いがあったのかもしれない。

 

ハーディス=ヴァンデインが無抵抗で素直に逮捕された、と言う状況が予定外と言うのもあるが、向こうが滞りなく済んでしまったことを考えるとアギトをおいて出たのは完全に失敗だ。

 

「フォートの奴…大丈夫なのか?」

「内包しているリベリオンも治癒効果を働かせている、これ以上怪我を負わなければ問題ないだろう。」

「そっか…おし、それじゃ周辺警戒はりきっていくぜ!」

 

…私達に損害を出す気で施設まで潰したなら、これで引くにはあまりに粗末過ぎる。

再襲撃、攻撃などが行われれば、近隣の通常部隊ではひとたまりも無いので、捜索が終わるまで近隣警護についていることになっている。

 

さすがに、怪我人のトドメに来られたらひとたまりも無い。

 

そうは言っても、私とてレヴァンティンの損傷がある為近隣部隊から予備の剣デバイスを借りているような状態だ。アギトが居るとはいえ無茶は出来ない。

 

敗戦気味の結果に俯く気も無いが、自重は心がけよう。

 

 

 

Side~フェイト=T=ハラオウン

 

 

 

近場の岬に上げてもらった私は、痛む身体に目を閉じた。

 

「う…くっ…」

 

飛行可能な魔導師なら水中でも同様に推進力を得られる…とはいえ、抵抗が強い分同じ速さと言うわけには行かないけれど。

でも、泳げるだけ体が動かないような状況ではそんな力でも補助にはなった…と思う。

 

フレアに抱えられながらの脱出になった私は、そう思うしかなかった。

 

してやられた。

でも、スバルは災害に慣れている筈だし、シグナムならフォートを連れても逃げられているだろう。

 

色々任せきりにしてしまっているかと思い、フレアの姿を探すと…

 

 

 

フレアは、海を見て棒立ちしていた。

 

 

 

いつも仕事に手早く、味方への対応が惨い以外…特に対応次第で民間人への被害が出るような仕事では、張るつめた空気なんて表現で済まないくらい真剣な筈の…

そんな彼の背中に、力が感じられなかった。

 

 

 

「止められた…筈だった。」

 

 

 

呆然とフレアの背を眺めていた私の耳に届いたのは、聞いたことの無い声だった。

 

 

 

「止めなければ…ならなかった。」

 

 

 

握った拳が震えていた。

見れば、爪が掌を突き破っているのか、掌から血が滴っていた。

 

 

 

「所詮…奴の血を引く愚か者だったと言うのか…私は…」

 

 

 

滴る血の向こう、背を向けていて見えないはずのフレアが、泣いている気がして…

 

 

 

 

 

「公私の私を…選んでしまった…」

 

 

 

 

 

顔なんて見えなくても泣いている事に、その理由に気付いた私は、いてもたってもいられなくなった。

 

 

 

Side~フレア=ライト

 

 

 

戦い、裁き、身を削る。

それが当然で、それが出来なければ治安維持など務まる訳もなく、それが出来る者でありたかった。

 

私欲で捕まった父、その煽りを受け過労から死に至った母。

こんな事、あってたまるか。

その一念で局員として、無辜の民を護る事を最優先にしてきた。

 

 

だが…気付いていた。

こんな私を気にかけ、関わろうとしてきたエリオやフェイトに触れ、のどかと言える一時を強く拒まず過ごしている内から、心のどこかでは、きっと気付いていたのだ。

 

 

私欲で捕まった父、その煽りを受け過労から死に至った母。

こんな事、あってたまるか。

その一念は…

 

 

失われるべきでない大切な者が失われる事に耐えられない…と言う意味でもある事に。

 

周囲をあえて突き放すような冷めた語りも、心を閉ざしきったような振る舞いもきっと、初めから失うモノを作らない為で…

 

 

奴…薊は、リライヴとは赴きが違うが、同様に…否、救い手たる気が無い分遥かに危険極まりない災厄だ。

かつて相打とうとしたグリフと同じく、放置しておいてはならないもの。

既に災厄を生んでいるし、逃がした以上これからも…

 

砂利のすれる音に振り返ると、フェイトが立ち上がっていた。

 

 

「っ…」

 

 

振り返ってしまって、その顔を見ていられずに目を閉じる。

まるで怒られるのを怖がっているようで情けないと自分で思いつつも、それでも見ていられずに、足音だけを聞く。

 

触れるほどの距離まで近づいたと思ったら…

 

 

抱きしめられた。

 

 

立ちすくんでいる私の怯えを、怒りを納めるように優しく。

目を開く。フェイトは、私の胸元に表情を見せないように額を預けていた。

 

「…声をかけて、模擬戦とかに誘うようになって…フレアがそれに来てくれるようになって、嬉しかった。仲間を拒まなってくれたって…」

 

嬉しかった、と言う言葉の割にあまりにも悲しげなフェイトの声。

それは、勤めて私に声をかけてきていた時とは違い、本当に悲しそうなもので…

 

 

 

「だから…お願いだからっ…『助けてしまった』なんて言わないで…」

 

 

 

泣いていた。

当たり前だった。

 

フェイトを助けたのは私自身だ。

だが、私の過去も行動理念も知っていて、自分を助けるためにそれを手放してしまったと知れば、平気な顔をしていられないだろう。彼女はとても優しいから。

 

 

「…すまない。」

「ち、ちがっ…私が…私が倒れてなかったら…」

「泣くな。」

 

 

フェイトの頬に手を添え、顔を上げる。

涙を流す瞳を、そっと指でなぞる。

その身体は、戦いを生業とするにはあまりにも綺麗で…今にも壊れてしまいそうだ。

きっとそれが、とても恐ろしい事だったのだ。

 

「奴を仕留め損ねた結果、この先の犠牲がどうなるか分からない。それは、後からより多くを救えばいいという話でもない。」

 

フェイトは小さく頷く。

今回の施設の研究内容も、私達を罠にかけたその方法も、その為にあっさり捨てたもの…つまり、『施設一つが捨てられる程度の組織』であると言う事も、ただ事ではすまない。

そんな所に、特務の人間を数人相手にして殆ど無傷で済ませるような奴が加担している状況は、あまりにも危険だ、止めるべきだった。

 

 

それでも…

 

 

 

「それでも私は…お前を失いたくなかったんだと…そう思う。」

「ぅ…ぁ…」

 

 

 

私を見ていたフェイトは俯いて顔を隠したものの、抱きついている腕は離さなかった。

 

 

 

失いたく…ない。

 

 

 

何もかも願う通りに通せる力など、それを追いかけて行方知れずの風のお陰で、どれだけあっても追いつかないと承知している。

けれど…初めてその贅沢が叶うだけの力が欲しいと、そう思った。

 

 

 

Side~高町なのは

 

 

 

その時の気分を、なんて表現すればいいのやら分からなかった。

 

敵施設丸ごと自壊させての、しかも平地でなく地下での水流を利用した罠。

爆薬でも危険だけれど、魔法、移動に自由が利く地上や空中より、慣れない海中の方が遥かに危険だ。射砲で瓦礫を吹き飛ばして脱出…なんて簡単な話でもすまないし。

 

 

 

報告を聞いて、捜索にと真っ先に私をルーテシアに呼んでもらった。

 

大切な人の無事が保障されていない事なんて、十二分に思い知っている、そして、それが口先で分かってると言ってもそう簡単には耐えられない事も。

 

 

広域へのサーチャー散布とともに空を駆け、必死の捜索の末…

 

 

 

 

見つけた親友がすっごい全力でいちゃついてる光景を見た気分。

 

 

 

 

…え?何?夜の岬で抱き合うって…それどんな状態?

って言うか、聞く限り大ダメージ受けてるんじゃなかったっけ?何してるの二人して?

 

 

 

あ、キスした。

 

 

 

いや、うん。二人とも無事で安心したよ、うん。ホント。

フレアさんがそれだけ大事に出来る人が出来たって言うのも、昔から知ってる身としてはフェイトちゃんの影響がちゃんと良いほうに向かったんだなーと思えるよ、うん。

 

 

…でも、私の心配なんだったんだろ?

 

そう思うと、何だか怒りって程じゃないけど、拗ねたくなるというか何というか。

 

もやもやとする気分にしたがって、私はフラッシュ機能を使用して隠す事もなく堂々と二人を撮影してやった。

 

後ではやてちゃんにも見せて米叩きつけてやるんだから。

 

 

 

 

Side~エフス

 

 

 

「戻ったか。」

「彼ん始末は滞りなく。六課のお廻りはんは…どうでしょうなぁ?」

 

自分から殺しきれなかった六課の話を、楽しげに持ち出す薊。

そんな娘の様子を見て、男は溜息を吐いた。

 

「やれやれ、お前には普通に仕置きをした所で喜ぶだけだからな…あまり遊ぶなよ?」

「堪忍え、お父様。けんど資料にしたって拾う人員が必要やろうし、彼女との約束を護るためにフォートを連れてって貰う人は必要やったし。」

 

一応は人間のフェアレを気遣う薊の台詞に再び溜息を漏らす。

 

「お前は復讐の為に薊にその名を与えたんだろう?ずいぶん淡白な反応だな。」

「『世界の終わり』を殺す手段の一つなのだろう?その娘は。少しくらい厚遇で構わないだろう。俺も復讐とは言え殲滅が目的ではないからな。」

 

薊から聞いた限りでは人間への復讐が目的らしいが…俺は研究室篭りか送還、転移の移動補助に回っていたくらいでこいつとは初対面だから、聞いていた感じと違って妙におとなしい。こういう類の奴がおとなしいと危ない気しかしないが…

 

しかし、世界の終わりを殺す手段…か。

彼女の研究について力の全貌は見えてきているが、スポンサーの言うそれが一体なんなのか未だに判明していない辺りはどうなのか。

 

まぁいい、これでフェアレと俺が居なければ話が進まない状況にはなってくれたし、あの老人が死んで無意味にフェアレの消耗を進行させる事もなくなった。

 

スポンサーの狙いはどうだろうが、とりあえず生活には困るまい。

俺は世界がどうのと言うのにあまり興味が無いしな。

 

生命は、生き残る為に人までを過ごしてきた。

それでいい、それ以上は高望みと言うものだ。

 

どいつもこいつも…抱えきれない夢や願いなど、初めから持たなければいいんだ。

 

 

『俺はこんな所で終わらない…終われるかっ!!』

 

 

結局何にも届かず何にもなれず倒れた男を思い出し、俺は小さく舌打ちした。

過ぎた夢の先などそんなものだ、一般家庭に生まれたなら全てを忘れてサラリーマンにでもなっておけばよかったものを。

 

「…ごめんなさい、エフス。」

「気にするな、俺も喉から手が出るほど欲しかったものを捨てている奴に苛立っていたし丁度よかった。」

 

あれだけ完璧にへし折れば心の方が立ち直れまい。仮に気力が繋いでも、障害が残る程度にはダメージを与えたはずだ。

復讐心に呑まれ、エクリプスにでも感染しない限り、もうフォートが戦う事も無いだろう。

 

 

夢さえ見なければ、普通に幸せになれるのだから。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 




感動の光景も、温度差があると余計に冷ややかな気分になったり(苦笑)。
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