なのは+『心のちから』   作:黒影翼

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記録二十三・傷だらけの果実

 

記録二十三・傷だらけの果実

 

 

 

Side~八神はやて

 

 

 

「ドアホ。」

「ぅ…」

 

フレア空尉の一通りの説明を聞いた後、私は素で感想を切り返してしまった。

 

「フェイト執務官の身になんか会ったほうが後々大問題。薊の方も殺してもうたら実働隊の要っぽいし、確保して情報を拾うって手が減る。一応大罪人かつ危険人物ではあるけど、感染者ほど『抹消許可』もされへんし。変な事変に気にするん止めといて。」

 

大敗で頭が煮えてたんか、いざって時に殺害を手段に入れんのに躊躇いの無い彼らしいと言えばらしいけど…

彼の言う父親の汚職に関しては完全にただの悪事、肩肘張りすぎなんよなぁ…私も一昔前そうやっただけにあんま言えんけど。

 

「気にする程やない…というか、気にするような間違いはしてへんよ。ミスった言うなら私の方や。」

 

施設襲撃と言ってもエクリプスがなければフレア空尉とシグナムで殲滅、スバルが救助、フェイト執務官がフォートのエスコートをすれば十二分に足りとる戦力かと思っとった。

と言うか、これだけ揃って潜入まで出来れば飛空挺フッケバインの制圧も可能やろう。

 

 

まさかちまちま顔出してた程度の連中の戦力があの凶烏を軽く上回るとはさすがに予想外が過ぎた。

それに…達人の判断ミスを誘発すると言う、薊が扱う戦闘洗脳術。近接戦闘で崩し辛いその相性も問題や。空尉とシグナムが、近接戦闘で敗北する…なんて予想が、速人達以外相手でできんかった。

 

と、今回の問題点をあげるまではいい。

本当の問題は、『ここからどうするか』や。

 

ウチの主案件は今はあくまでエクリプス。

そっちも纏めて請け負うってなると捜査方針もばらけるし…感染者相手には空尉も専用装備が無いとグレイブのみではあまりに厳しい。

対して、ただの誘拐騒ぎとちまちま捜査しとった空尉やルー子の請け負っとる捜査の方の主犯は、たった一人でエース3人を蹴散らすって意味で言えば堕天使級の危険人物付きと判明。

 

そう言えば、堕天使がクローンって説もあったな。

今回の襲撃施設、ないし関連施設で作られたならあながち関係なくも無い…か?

それやと彼女が独りで暴れまわっとって、それが見逃されとる理由もイマイチ分からんけど…

 

「当面は此方で対処します、人員等問題があればルーテシアと考慮しつつ申請をする形で。」

「そか、強敵や大事になりそうなときにはこっちにも連絡くれれば増援の手配について考えるから。」

 

捜査系の能力をもっとるルー子と、実働能力の高い空尉とその数名の部下。

各地から情報を集めて、何かあったら現地に出向いて…と、少数で動いとるけど、正直、『七課』を編成して当たってもええ位危険な相手な気がする。

 

ただ…自信があるって言うより、何処も人手不足と割りきっとるんやろう。

その辺から人借りたってオーバーS級相手やと時間稼ぎにもならんし、事務員と部屋だけあったって何も調べられんし。

 

空尉との話を締め、次に移ろうかと思った矢先、通信が入る。

 

『失礼します。』

「シャマル、何か緊急?」

 

容態の確認って言うならこっちからでも出来た話やし、何かあったとかで無い限り報告とかは全部済んでからくるはず。

 

『はい、その…フォート君…いえ、リベリオンからなんですが。』

「リベリオンから?」

『はい。突入後見聞きしていた情報について開示したいという事で。フォート君のプライベートも関わってくるので、指揮官他数人の大人にだけ直接記録を見せたいって。』

 

ありがたい方の緊急の話やった。

フォート自身が意識不明、会話出来ない状況やと何があったのか分からん。

フェイトちゃんから聞いた限りやと、フェアレが仲間やって匂わせとったらしいけど…正確なところは出来るだけ知っときたい。

 

「分かった、口が堅い数人で聞きに行く。」

『はい、それでは。』

 

一通り決めて通信を切る。

 

「空尉も聞いてってな。フォートは男の子やし、同世代の女の子に直接聞かれたない話もあるかもしれへんから。」

「了解。」

 

答える空尉の表情は、どことなく複雑そうだった。

さすがに、私達みたいな元々甘めな人相手に諭されるように告げられても、はいそうですかと納得いかんのやろう。

まして、魔導職、指揮官待遇の出世で上役になったとはいえ、私は妹分に近い年代やし。

 

 

「今の所、もし速人君達のような高位技能者と直接戦う事になれば、空尉とフェイト執務官位しかまともに戦える人がいません。過去の傷を流すのは難しいと思いますけど…」

「心遣い感謝します。」

 

 

問題ない、気にするな、そんな台詞が帰って来る…とか思っとったんやけど、あまりにも意外な返しをされて私は一瞬硬直してしまった。

 

「…なんでしょうかその笑みは。」

「何でもありまへんよ空尉。」

 

自然とにやついてしまったらしいが、怪訝そうな空尉の問いかけは流す事にした。

大事な人が出来て変わる、それはきっととてつもなくええことやと思うから、下手に弄って壊したくなかった。

 

 

お幸せに。

 

 

 

…なんて、そんな明るい事を思えとったのは、ある意味であまりに悲惨なフォートの味わった絶望の一部始終を知るまでだった。

 

 

 

Side~フェイト=T=ハラオウン

 

 

 

執務官、という役職柄…というか、まだ医務室入りしている最中だからか、私もリベリオンからフォートに何があったのかを見せられたけど…

 

フレアの顔どう見ればいいか分からないとか、そんな間の抜けた感じになっていた自分が本気で恥ずかしい。というより、フォートに全力で謝り倒したくなった。

 

 

 

5年がかりで助けに来た子が、無残な改造を受けていて、記憶喪失で、敵になってて、敵地で恋人作ってて、それでも八つ当たり気味に怒るのはこらえて、我慢したまま戦って挙句重傷。

 

 

 

悲惨だった。

 

生死がかかった戦いに参加してる身として、それがどうした、なんて思う人もいるかもしれないけれど…失恋とか数年単位で泣けるほど傷つく人だっているし、それだけが原因で寝込むようなことがあるくらいだ。

命にこそ別状はないらしいけど、起きる気配がないのは仕方ない。

 

「あー…ともかく。」

 

触れ辛い話に沈黙が降りていたので、空気を変えるようにはやてが一区切り告げる。

 

「これで判明したんは、エフスと名乗る転移術を使うとった紫色の髪の少年が話す限りやと、フェアレさんが要救助者であると同時に記憶を失った状態で敵に協力しとる言う事。それと…」

 

ベッドに横たわり、点滴を打たれているフォートを見るはやて。

 

 

「これ以上…フォートは戦わせれん…って事やな。」

「ぁ…そう…だね。」

 

 

あくまで表情に何も出さずに、彼を外すと告げるはやて。

仲間はずれのようで少しばかり躊躇う話ではあるけれど、それも仕方なかった。

 

エリオと同等以上のダメージを負った状態で、あの無茶な運転の中でも眠って休める程に消耗していたと言うのに戦闘を続けていたフォート。

 

私より先に、敵であるはずのエフスとか言う少年が気付いたくらいだ。

もっと早く気付くべきだったのに…フェアレが助けられるって事でハイになって、意志力と我慢で無理矢理動いていたんだって。

 

元々無茶を押して戦うフォートの戦い方に加えて、これ以上無いほど心に傷を負う出来事、その上で無理を押してトドメで気絶。

命に別状のない怪我とはいえ、精神力の衰弱とあわせれば命の危機も考えられる。

事実、意志の強さで奇跡の回復を見せたり、精神的ショックだけで死んでしまったりした例も山ほどある。

 

「フレア空尉、誘拐犯の調査に際して彼女達とあたった場合、フェアレさんについては捕縛の方向で対処して貰うようお願いします。」

「了解。」

 

それでフォートが救われるとは言えないけど…それくらいしか出来ない。

 

地力の差を意志力で埋める。

たまにある光景ではあるものの、毎回の如く繰り返せば、それは身を削っていく。

傷だらけで眠っているはずのフォートなのに、なんだかようやく休む事を許されている気がして、しばらくこのままでいたほうがいいような、そんな気がした。

 

 

 

Side~アイシス=イーグレット

 

 

 

フォート達が帰ってきた翌日…と言うか、深夜に帰ってきたから当日の仕事の終わり。

不機嫌に見えるようないつものきつめの顔でヴィータ教官が告げた内容に、あたしは思わず礼儀とか色々頭から抜けてしまった。

 

「なんでっ…」

 

フォートとの契約の解約。

いきなりすぎるそれに、あたしは抗議の声を上げる。

 

「何でも何も、もう戦力にならねぇしあいつがそこまで気張る理由もなくなったからな。」

 

助けるつもりでいた幼馴染が、自分の意思で敵に協力している上に記憶を失っている。

確かにフォートが戦う理由は薄れちゃったけど…でもだからって本人と話しても無いのにそんな勝手に…

 

「正式な手続きはフォートが起きてからになるけど、保護者さんからの要望もあるから、多分家に帰ることになると思う。話す事があったら機会は作るから考えておいてね。」

 

いつも通りの感じで話すなのはさん。

何でそんな皆してあっさり…

 

 

 

「ふられて業務に支障きたすような奴にいられても困るだけだ。」

 

 

 

ブツン。

って、頭の中で何かが切れるような音がした気がした。

 

 

「好きな人すらいた事あるか怪しげなくせに勝手な事ばっかり言って!」

 

 

物言いが酷かったからか、さすがに眉を吊り上げるヴィータ教官。

でも、あたしだって引けない。

 

 

『身体が確実に生きながらえたとしても、アレコレ捨ててたら、結局俺は死ぬんだよ。』

 

 

自分の胸を、心を指して何淀むでも躊躇うでもなく言い切ったフォート。

きっと物凄く強い思いだった筈…ううん、そうでなきゃ、本職のエリオさんより意志を張るなんてありえない。

 

相手は上官だし一方的に殴られたりするかもしれないとは思ったけど、もし模擬戦扱いで仕置きでもしてくるならフォート以上にでも頑張って一泡でも吹かせないと気がすまない…

 

 

そんな事を考えて向かい合っているあたしとヴィータ教官の間に、なのはさんが割って入った。

 

 

笑顔じゃない、でも教導で叱責を飛ばす時のような鬼教官の顔でもない。

少し、悲しそうな目で、あたしを見る。

 

 

 

「大切な人に手が届かなくなる痛みなら…知ってるよ。」

「っ…」

 

 

 

フォートのそれとは意味は違う、決定的な離別を示す話に、あたしは何も言えなくなった。

 

「でも、戦って失敗して、自分が怪我しても、誰かを護れなくても…そんな大切な人に向かって、『貴方がいなくなったせいだ』なんて…言えないでしょ?」

「それは…」

「任務馬鹿になって、大切な物を軽く見てるって…アイシスがそういうのに怒るのは初めて会った時から知ってる。だから今回はフォートの為に怒ってる。夢破れた可哀想な人で終わらせたくなくて。」

 

言って、なのはさんはあたしの肩に手を置いた。

ちょっとだけ痛いくらいの力でしっかりとつかまれる。

 

「フェアレさんの救出引き継いでみればいいんじゃないかな。どのみち犯罪集団にいるなら止めないといけないし、記憶だってまだ確かな事を医療班で調べたわけじゃない。もし六課が救出に関われたなら、皆が強くなってれば任せてもらえるかも…ね。」

 

責めるでもなくそんな事を薦めてくるなのはさんを前に、これ以上怒れなくなった。

 

「…すみませんでした、騒いで。」

「うん。」

 

素直に謝ると、笑顔で頷くなのはさん。そして、そんな様子を複雑な表情で見ていたヴィータ教官の方に視線を移す。

 

「ヴィータ教官も、フォートは浮かれて失敗した訳でも…高町速人でもないんだから。色恋沙汰『なんかで』…みたいな言い方よく無いよ。」

「…まぁ…そーだな、悪ぃ。」

 

浮かれて失敗する、という話が持ち上がって気付く。

普通の若手の局員…お廻りさんなら、デートの待ち遠しさに仕事に不平不満を言ってみたり、浮かれててやる事失敗したりする人もいるんだろう。

フォートはそういうのとは違うけど、なのはさんを倒したりと偉業をなしてるからそのぶんの落差があったのかもしれない。事実、今謝ってるし。

 

 

 

 

とは言っても、無理に納得した所で結局明るい気分にまではなれず解散した帰り道。

 

「いきなり過ぎるって言うのは分かるけど…アイシスはフォートをこれ以上戦わせたいの?」

 

そんな中、トーマが投げかけて来た質問に、あたしはすぐに返事が出来なかった。

 

「フォートの無茶は、普通心配する戦い方だよ。そりゃ俺だってこのまま残ってくれたら嬉しいけどさ…それ以上に、頑張る理由だった幼馴染を敵に回してまであんなの続けさせるのは…気が進まない。多分皆そうだと思うけど。」

 

仲間はずれ、使い捨てみたいで怒ってた。

でも、皆の言う通り、理由の無い状態であんな無茶、普通は止める。

 

 

 

理由の無い状態で…

 

 

 

理由の…無い…

 

 

「っ!」

 

 

繰り返して、気付いてしまったあたしは全力で駆け出していた。

 

 

 

Side~キャロ=ル=ルシエ

 

 

 

「ストップ!」

「おわ!キャロちゃん?」

 

そっと様子を窺ってた私は、アイシスを追おうとしてたトーマを掴んで止める。

 

「でも、今アイシス」

「ちょっと一人にしてあげよ、心配ならその後で…ね。」

 

泣いていたのでも見たのか、心配そうなリリィに念を押すように言うと、浮かない表情のままで頷く。

 

「フォートが戦う理由がこれでなくなっちゃうって事は…私達の助けになろうとしてないって言う事になる。エクリプスの案件が終わって無いんだから。」

「それは…」

「勿論、フォートがそんな人じゃないって分かってるよ。でも…本当の目的じゃないから、だから皆休ませてあげたがってる。」

 

トーマは、アイシスが去ったほうを見て、呟くように口を開く。

 

「アイシスは…俺がスゥちゃんの話をした時、自分は大事な人を助けるって、そう言ってた。迷いなくそれを望んできたフォートが折れる姿を一番見たくないのかな…」

「…そういう事で、ちょっとそっとしておいてあげよ。」

 

皆それる…なのはさん達はちょっと分からなくも無いけど、トーマ達までこんな感じなのに内心苦笑しつつ、私はトーマの視線を追ってアイシスが去ったほうを眺める。

 

 

フォートが戦う理由がこれでなくなっちゃう。

 

自分の理想の騎士が、自分達の為に立ってくれなくなる。

 

 

 

 

大好きな人が…心折れて立ち上がってくれなくなる。

立つ事も周りに許されなくなる。

 

 

 

 

誰だって悲しいし、きっと怒るのが当たり前。

私にもそんな人がいるから想像できる。

 

フォートの事を未熟な速人さんって形で見てたら多分気付けないし、基本的に男の人に護って貰うような人六課前線に居ないからなぁ…

落ち着いたらアイシスが上手くいくようにちょっと願っておこう。

 

 

とりあえず藪をつつくような真似だけはとめて、私は私の大事な騎士様のお見舞いにと医務室に向かうことにした。

 

 

 

Side~アイシス=イーグレット

 

 

 

気付いた、気づいてた。

ホント、何やってんだろ。

 

 

気付いちゃいけなかったのに。

 

 

修行も実戦も嫌って訳でも無いのに、仕事で人を護る…大事な物を選べないのが嫌で、それが子供っぽいと思いつつもその気持ちが変わらなくてもやもやしてて…

 

 

 

そんな正解を一蹴して大事なものに真っ直ぐ走ってたフォートが好きになってたなんて、気付いちゃいけなかったのに。

 

 

 

これでボロボロになったフォートに告白なんてしようものなら、賢しいにも程がある。

今更フェアレって子にどうこう思うところは無いけれど、それにしたって卑怯と言うか…

 

 

真っ直ぐなフォートを見て好きになって、自分がやってる事がそれじゃ、あまりにお粗末だ。

 

 

『ふられて業務に支障きたすような奴にいられても困るだけだ。』

「っ…ぅ…」

 

頭にくる訳だ。

気付いちゃいけなかった。

 

『だから今回はフォートの為に怒ってる。』

「ぅぁ…」

 

フォートの為なんかじゃなかった。

 

 

 

初めから終わっている事を知っていたから、気付いちゃいけなかったんだ。

 

 

 

 

声だけは押し殺して、あたしは一人で泣いていた。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 

 




この手の話題に一日の長がありそうなのが前線でキャロだけって(汗)。
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