記録二十四・狙われた護送任務
Side~カレン=フッケバイン
「さて…たびたび集まらせちゃってごめんね。」
「妥当な判断と言えるだろう。あの話が真実と言う可能性がある内は。」
普段は結構急がしくあちこち飛び回って『仕事』を片付けてるあたし等だけど、今はちょっと警戒中。
だもんで呼び出したんだけど、サイは神妙な面持ちで頷いた。
あの堕天使が危険、という事も勿論の事…サイとビルが交戦中に聞いた、高町なのはとあの堕天使との会話。奴が偽物と言う話。
作られたなら、作った組織がある。
こないだアンチエクリプスとか言うのをかましてくれた妙な三人組もいる内に、あの堕天使がバックアップ付きとなると、さすがにやばい連中に遭遇率が高くなる。
会うのがたまたまならともかく、狙って情報収集されたのが伝わってる可能性も考慮すると、危険極まりない。あいつら特務のお嬢ちゃん達と違って殺人者だし。
「『原初の種』…だったか、そいつを手に入れれば」
「ま、間違いなく現状打破くらいは楽勝ね。」
「そいじゃあ絶対手に入れようっ!すぐにでも!」
現状打破が可能と聞いて、飛び上がるように反応するソニカ。
彼女はお金命なのに、ここ最近商売に単独で動き回るって真似が下手に出来ずにあんまり効率のいい商売が出来ていない。
あたしらもお金はいるって事で、大きな仕事には護衛についてって食費やらにいくらか貢献して貰ってる。
早々に単独で稼ぎまわれるようになりたいんだろう。
「って訳で、ハーディス=ヴァンデイン専務のところにお邪魔したいんだけど…ね。」
「なるほどな…」
納得したように頷くビル。
特務の戦力だけで、ビルも殺されかけた位だ。
特務、堕天使、対エクリプス能力を持つ三人組…
それらを含め、野良感染者まで同時に入り乱れるような事になってしまえば、危険極まりない。
離脱しようったって、それなりにサポートがいる。
「潜入までは少数で行って、なんかあったら近場から駆けつけて…って程度には備えときたいのよねぇ。とはいえ、当然ながら本拠地を空には出来ないし…」
「それならアルとビルは離脱援護で確定だろう。」
メンバー考えるに当たって、役割を話すとサイが真っ先にアルとビルの名前を挙げる。
「ま、そうね。」
「確定って…まぁあたしは別にいーけど。」
「ああ。」
アルのディバイダーは潜入とかここの防衛に使うには火力が大きすぎる。
その点、援護役としては妥当だ。ビルの短距離瞬間移動も、接敵離脱には最適の能力だ。
「ソニカに尋問して貰いたいから、あたしと…ヴェイでいきましょ。」
メンバーが決まった以上、ノンビリはしていられなかった。
今は人目を避けた辺鄙な拘置所にいるって分かっているからいいけれど、本局とか目立つところに移されたら襲撃なんてやってられない。
さて…と、それじゃクールにいきましょうか。
Side~トーマ=アヴェニール
ケインズストリートでの乱戦、地方の違法研究所の崩壊の一件があったあの日から4日、ハーディス=ヴァンデイン容疑者をミッドチルダ東端のレゾナ拘置所から地上本部へ護送する事になった。
「Pチームの皆にはその遠隔警戒について貰う事になるんだけど…質問とかはある?」
「いや、質問は大丈夫だけど…エリオ君大丈夫なの?」
って…説明はいいんだけど、説明に来てくれたのがこの間の一件でそれなりのダメージを受けているはずのエリオ君なのは気がかりだった。
装備整えてる辺り出撃するつもりらしい、大丈夫なんだろうか?
「シャマル先生から許可は出てるし、切り傷と失血だからね。」
笑いながらなんでもないように腕を回して答えるエリオ君。
面で潰れる打撃や、体の芯にダメージが残る射砲爆撃と違って、切られた傷は回復魔法で塞いで失血を補えば治し易い…って、理屈までは分かるけど、それでも結構な重傷だったのに。
「何事もなければいいけど…今回の件に関わってる襲撃者は誰も彼も危ない人ばかりだから。フェイトさんが休養しないといけないし、僕までノンビリしてるわけにはいかないよ。」
そう言ったエリオ君の表情は、少し険しいものだった。
エリオ君の中で、フェイトさんやシグナム隊長が敗戦気味で帰ってきたのがそれなりの事件だったんだろう。
フレアさんって人は、俺はよく知らないけど、お二人と同等以上の力量で『バトル馬鹿』とか言われてるシグナム隊長達の模擬戦仲間、剣友会の人達とも結構戦ったりしてると聞いている。
そんな人達がこぞって負ける相手も関わってる、余裕は無いんだろう。
「って事は、動ける人全員出るとか?」
「いや、本部から外れた辺鄙な場所だから護送する必要があるんだ。そんな場所まで全員で出張ってミッドでエクリプス関連の事件起きたりしたら対応できないからね。」
「それもそっか…」
メンバーは、エリオ君、キャロちゃん、スゥちゃんティア姉のフォワードチームとウェンディ姉。それから、なのはさんとシグナム隊長とアギトさん。に…俺たち。
見習い組み以外メンバーは誰も彼も一流揃いだけど…既に一流でも立ち行かない相手だって判明してる辺り、ちょっと不安はある。
でも…やるしかない。
そもそもスゥちゃんだって、こんな凶悪事件じゃなく、人命救助なんかを専門に行っているはずなんだ。なのに、戦力が必要と借り出されている。
そうやって、誰も彼もと引きずり出した結果、虫食いみたいに救える力を奪われた人が足掻いてJS事件が起きたんだって聞いた。
戦えるって意味では相当に強いノーヴェ姉達が特務に来てない…呼んでいないのは、その為だ。人数が欲しいなんて言ってられない。
「という訳だから、頼りにしてるよ。」
「りょ、了解!」
「「はい!」」
エリオ君に声をかけられて、リリィもアイシスもちゃんと返事できてるのに、俺の方はどもってしまった。
…男の子が情けないとか言われないように、もうちょっといろんな意味で頑張ろう。
Side~アイシス=イーグレット
特に止められてはいないお見舞い。
出発前にそれくらいはとフォートの眠る病室に顔を出した。
「事情があるって言ったって何にも知らないまま犯罪者にはしておけないよね。だから…機会があったら幼馴染…フェアレを止めて、連れてくる。」
言われた通りにしてると手玉に取られてる気がして癪だけれど、なのはさんの言うように、フォートが動けないならあたしが引き受けてあげる方が前向きだ。
この怪我で、絶望して、まだ平気で動ける訳なんて無い。
でも…
「フォートが…それで納得できるとは、あたし思って無いからさ。だから…」
聞こえてるか聞こえてないか…どっちにしてもデバイスのリベリオンには届いているはずだから、お構いなしに喋り続ける。
「もしちゃんと片付くまで事件から離れたくなかったら、あたしからも頼んでみる。今度は見習い組み扱いかもしれないけど…それでも、外されたりしないようにさ。」
いつ何をするか分からないような扱いで置いておけるほど特別扱いは出来なくても、人手不足を補う役位は任せてもらえるはずだ。
フォートは十分隊長達と近い戦力なんだから。
「…ま、どうするにも治して起きなきゃね。身体が資本って言うし。」
独り言のようであれだけど、リベリオンを通じて聞こえてくれるならそれでいい。
伝える事だけ伝えて、あたしは病室を出た。
Side~高町なのは
辺境のレゾナ東中央拘置所、ここにいるヴァンデイン専務の本局への護送が、今回の任務だ。
ハーディス=ヴァンデイン専務。
局の追及をのらりくらりとかわして来たエクリプスの研究者。
正直只者と思えないんだけれど、何の抵抗もなく普通に捕まってしまった。
他者や状況をまるで駒や盤面を見つめるようにして企み考え惑わし操る、嫌な意味で『大人』の犯罪者。
そういう見方で見るなら、彼はちょっとやんちゃな子供達と違ってかなり危険な人間だ。
その彼の護送…嫌な感じがする。
…ま、危険なのはいつもだし、言っててもしょうがない。
フェイトちゃんも怪我してるんだしここは私が頑張らないと。
「皆は私と一緒に遠隔警戒だから、一旦施設から出よう。」
「「「はいっ!」」」
見習いの皆に声をかけて、一緒に施設の外へ向かう。
キャロとウェンディも遠隔警戒になるから、人数的にはこっちが多いことになってしまうけれど、見習い組み…って言ってるくらいの皆には、指揮なしでの活動は少し不安が残る。
それと、フッケバインみたいなトーマそのものが狙いの人間がいる以上、こっちのほうが危険だ。
専務の襲撃する意味は無いと見てるから、今回彼等が関わってくるって予想は立てて無いんだけど…
例に漏れず、襲撃者の情報が足りない間は受け手に回らなきゃいけないようで、こっちの予想を思いっきり裏切ってフッケバインが襲撃をかけてきた。
突入して犯人の確保…は、近接警護のシグナム隊長とアギトのコンビに、スバルとティアナとエリオが担当してくれる。
遠隔警戒は、空や周辺を見張って援護や逃亡を防ぐために動く必要がある。
って事で外に出たんだけれど…
結界を展開された。
拘置所を丸ごと封じる結界。
中にはフッケバインもいる、魔導だけならディバイドであっさり壊されるはず…一体何処の誰が…
「さすがエフス…フォートはきっちり沈んだようやなぁ…」
訛りを伴った女性の声。
ここ最近でそんな犯罪者、一人しかいない。
空に視線を移すと、着物の女性…薊が、見知らぬ細身の男性と肩を並べて拘置所を包んだ結界の上空に浮いていた。
Side~カレン=フッケバイン
感染者対策まで施された結界術。
当然並の技量でも普通の技術でもない、かなりこっちに踏み込んだ連中の使うもののはず…
横目でハーディスを睨みつけるが、当の本人は局員の拘束にかかったままで肩を竦めた。
「おいおいこれまで私のせいにするのか君たちは…だったら何故私までこの結界内に巻き込まれてるんだい?」
しれっとすっとぼけるが、この男、特務の前衛が突入してくるまでの間あたしとヴェイで波状攻撃をかけたのにも関わらずノーダメージなんて化物だ。
こんな結界、局の拘束も含めてあっさり破れるだろうに…
真犯人がコイツかどうか、そんな事はさておき、一つ分かりやすい事がある。
「えぇと…誰さんだっけ?」
「シグナム。」
突入してきた一同の隊長さんっぽい、AEC装備らしい盾と剣を手にした、サイファーお気に入りの女剣士。
話の通じなさそうな堅物っぽかったけど、名前を答えてくれたし少しなら融通も利くだろう。
さすがに見逃して…って訳には行かないだろうけど。
「予想ついてるかも知れないけど…この結界、あたしらを外に出さないのが目的…で、外で狙われるのが誰かなんて想像ついてるわよね?」
「トーマ…っ…」
傍らの青髪ちゃんが悲壮な表情でその名を呟く。
あたしは頷いて、構えていた剣を下げた。
フルパワーで一撃放り込めばさすがに破れるはずだ、あたしら同士で戦ってたら結界を破る溜め技なんて撃ってる暇はない。
それを伝えようとして…
「これはこれは、裏取引の瞬間を目撃したって法廷で証言しておいたほうがいいのかな?」
「あんたねぇ…っ!」
「いやいやだって私は正当防衛だったのにコレだよ?襲撃者の君達が野放しと言うのはさすがに不公平じゃないかな。」
にこにこ笑いながら、腕を取り巻く拘束具をコッチに見せてくるハーディス。
こ…の男っ…一瞬で破れるくせに…
直後、鋭い風切り音と共に、膨れ上がる魔力と炎の明かりが、結界の中に満ちた。
傍らにいたちっちゃい娘と融合を果たしたらしく、全身の配色が変化して炎の翼を背にしたシグナムの姿があった。
「忠告は感謝する、速やかに『全て片付け』よう。」
感謝って言葉がこれほど似合わない冷たい口調もそう無い。
ただの正義の味方のお巡りさん…ってわけじゃないわね彼女。さすがサイのお気に入り。
コイツ、周りの若手と違って最悪殺しに来るタイプね。
『どーすんのこれ!?あんた等でもさすがにやばいでしょ!?』
非戦闘要員のソニカを連れて来ている関係で、この面子相手に巻き込まず、結界破壊後離脱、あるいは特務の殲滅。
特務の殲滅だって上手く行く保障まではないし、本気で言って潰せたところで…
一瞬ハーディスを見る。
特務が飛び込んでくるまでの戦闘で、あたしが使用した拘束隔絶能力のある蔦を周囲に走らせる『茨姫』と、粒子斬撃『白雪』。
ハーディスの奴、この二つをあっさりと模倣してくれた。
『原初の種』の力なのか、奴の固有能力なのか、模倣能力者らしいこの野郎…あたしらの相手を局員に任せた上で、自分は何もしないで能力を得ようって算段だろう。
おまけに、特務の嬢ちゃん達を倒しても、消耗を抱えたままであたしとヴェイの二人がかりでノーダメージだったコイツの相手をしなきゃいけなくなる訳で…
結界破って逃げない限り、どう考えても状況最悪っぽいわね…
アルが気づいて破ってくれればいいけど、外の状況が分からない以上、二人がみつからずに自由に動けてるってのは期待が過ぎる。
『しゃーない、適当に相手して引いときますか。』
『分かった。』
『さ、賛成っ!』
特務だってトーマ君の事は心配なはず。
結界を破る事も考えないといけないけど、捌いて機会を待つとしますか。
Side~高町なのは
「ふぅん…あれが『タカマチ』か。」
値踏みするような目で私を見ながら細身の男性が口にした私の苗字。
私は全く心当たりがない、となると、お兄ちゃん達の関係なのだろうか?
『御神』の事で高町家を知ってるなら、地球の関係者ってことになるけど…
「はい、イレインを破った二人とちゃいますけど…」
「そっちはお前にくれてやるさ、それに…その二人に現実を教えてやるのに丁度いい。」
「楽しんでかまいまへんけど…ゼロの無力化かウチの方が片付くまでは油断」
「分かっているからお前が生まれたんだ、今更騒ぐな。」
忠告を嫌ったのかあしらうような男性の言葉。
薊は肩を竦め、キャロとウェンディが警戒する空域に飛んでいく。
フェイトちゃん、シグナムさん、フレアさんで敵わない相手。さすがに後衛の二人じゃ厳しい筈だ。
手早くこっちを片付けて援護に向かおうと決めて、残った男性と空で向かい合う。
私の背後では、トーマがリリィとリアクトを行い、アイシスがアーマージャケットを展開した。
リリィ含めて、4対1。
エフスという紫色の髪の少年の姿が見えないが、結界を維持しているんだろう。
ブレイカーで結界を壊すなり、彼等を確保するなりすれば…一人で逃げない限りは姿を見せる筈だ。
「薊の共犯…ですね。次元法にのっとり貴方を逮捕します。」
「ふん、勘違いをしたままよく吠える。やはり調教が必要らしいな。」
私は手順を踏むまでは冷静にと思って確認を取ったのだけれど、返ってきた完全に上からの台詞に少し眉が引きつるのを感じる。
リライヴちゃんみたいにこの手合いに酷い目に会わされた知り合いがいたり、ヴィヴィオを誘拐された時の一件を思い出したりしたせいで余計に嫌悪が強いのかもしれない。
「…最っ低。」
背後からボソッと呟くような声で放たれたアイシスからの辛辣な感想。
けど、正直な話同感だった。
「やれやれ…家畜を調教するのは飼い主の仕事、何一つ間違えていないんだがな。どうやら少し仕置きも必要か。」
言いながら、ポケットに突っ込んでいた右手を抜いた彼は、爪のついた手袋をはめたその右手を、左手に付きたてた。
リアクト…感染者。
阻止出来れば楽ではあったけれど、さすがに自分の身体に刃を付きたてるだけで成立するリアクトを止めるのは難だ。
「氷村遊…お前達の主人の名だ、頭に叩き込んでおけ。」
血の様な紅い爪のついた手甲を両腕に、肩に金属パーツをつけた黒一色の前開きのロングコートにスーツのような同じく黒のズボン。
…野外ライブとかやりそうな服装だ。
そういう人はいいんだけど、元から好感の持てない変態さんがこんな服装だと、なんか余計に気分悪くなる。
いろんな意味で、早く片付けよう。そう心に決めて、私はフォートレスを構えた。
得体は知れないけど、どうせ止めるしかないのは変わりないんだから。
SIDE OUT
知る人ぞ知るネタバレ回。って、『知る人』は予想ついていたでしょうか(汗)。