なのは+『心のちから』   作:黒影翼

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記録二十五・迫る毒牙

 

 

 

記録二十五・迫る毒牙

 

 

 

Side~トーマ=アヴェニール

 

 

 

未知の相手には視界モードの切り替えが必須。

この間普通には見えなかったエネルギー斬撃を使ってきたクインとの戦いで身に付いた経験を、4対1という状況に溺れず油断なく生かしたつもりだったのだけれど…

 

 

 

その考えそのものが油断だったのだと、思い知らされた。

 

 

 

特務の皆をあれだけ罠に嵌めてきた着物の少女が、4対1という状況を何の問題もないとして離れて行った事実があると言う事を、軽視していたんだ。

 

切り替えた視界モードに表示された、彼の最悪な情報がそれを物語っていて…

 

 

 

「っ!眼を見るなぁっ!!!」

「え?な…」

「っ…身体が…」

 

 

叫んだけど、遅かった。

アイシスとなのはさんが、その身体を硬直させ、動かなくなる。

 

 

魔眼。洗脳及び意識、記憶操作。

芳香。強度魅了、異性服従特化。

 

 

これが、俺が視界モードの切り替えで拾った情報だった。

つまり要約すると…

 

 

視線で動かなくした相手を匂いで好かせて、異性に関しては特にその両方で自分の意のままにする事が出来る能力者。

 

 

しかも、『視えている』分だけでこの能力。体液成分や他の技を見た訳じゃない。

匂い…『気化した体成分』に魅了効果があるなら、体液の交換とかはもっと強い筈だ。

 

最悪だ…この人言う事もだけどその能力まで最悪だっ!

 

 

 

「…ふん、さすがに感染者か。」

 

 

 

彼…遊が告げた通り、俺は感染者だから…というか、視界フィルターをかけていたせいか、視線を交わしても洗脳がちゃんと通らなかった。

なにしろこの視界フィルター、まともにかけると人も風景も認識できなくなって、ただ敵性反応と脅威反応のみしか分からなくなる。視線で洗脳も何も視線そのものが認識できないんだ。

そのくせ、脅威判定はきっちり出来るから、視線に込められた洗脳能力は判別できたわけだけど。

 

なのはさんもアイシスも動けなくなってしまった今、二人にもしコイツを接近させたら…想像すら嫌な未来しかない。

 

 

「っ!はあぁぁっ!!」

 

 

俺はディバイダーを振りかぶって遊に突撃した。

けれど、焦りすぎて視界フィルターを切り替えた本来の目的、『相手の脅威を見切る』事を失念してしまった俺は…

 

「騒がしい。」

「っあぁぁぁ!!!」

 

振るわれた爪が紅く光り、爪から放たれたエネルギーをまともにディバイダーで受けて、空から地面まで吹っ飛ばされた。

 

 

 

…とんでもない破壊力だ。

目の前がちかちかする上にディバイダーが壊されてる。

 

『トーマ!アイシスが!!』

「っ…」

 

俺のダメージを殺してくれたのか、苦しげなリリィの声が内から響く。

視界はまだまともに戻ってない。

 

けど…駄目だ…

 

俺が立たなきゃアイシスが…

 

 

フォートなら立った!

立て!立たなきゃ!

 

 

「ぅあぁぁぁっ!」

 

 

立ち上がり、視界フィルターを切って俺が空に見たのは…

 

 

 

無抵抗のまま爪を腹部に突き刺されたアイシスの姿だった。

 

 

 

刺さっている爪が引き抜かれる光景を、冗談みたいな気分で見つめる。

予想外に、血が吹き出る事はなかった。ただ…

 

 

 

アイシスが自分から遊に抱きつく姿に、手遅れだったのだと思い知らされた。

 

アイシスの頬を撫でながら笑う遊。

 

 

 

「さて…俺はタカマチで遊んでくるから」

「シュートっ!!」

 

 

 

従順に遊に従うアイシスの姿を眺めていた俺は、唐突に割り込んだ声と砲撃の爆発で正気を取りもどす。

砲撃の放たれた元を見れば、カノンを構えたなのはさんが距離をとって『目を閉じていた』。

 

『私もやりようはある。けど、彼には近づいたら不味いみたいだから…アイシスを封じるまでなんとか彼と戦っててくれる?』

『あ、は、はいっ!』

 

答えて、俺はディバイダーを再構成。

…よし、いける。一撃の強打で全身が痺れてただけで、回復したからまだ動ける。

砲撃を防いだらしい遊がなのはさんを睨む。

 

近づかせる訳にはいかない!!

 

 

「『クリムゾンスラッシュ!!』」

 

 

分断効果を持った中距離斬撃を飛ばす、俺の固有技。

直進するそれを、面倒そうに手甲で受け止める遊。

受け止めて、止まった瞬間にあわせるように加速して距離を詰め…

 

斬撃を飛ばして振り抜いていた溜めを使って、直接斬撃を叩き込む。

感染者相手と遠慮しないで振るった刃は、遊に掴んで止められた。

 

白刃取りでもなんでもない鷲掴み。それでディバイダーの刃が砕けた。

こ、コイツどんなパワーと強度なんだ!?

 

「賢しいんだよ、家畜風情が。」

 

空いた手で振るってくる拳。無造作に鳩尾目掛けて放たれたそれを、俺は身体を捻ってかわして距離を開け…

 

 

 

「シルバーハンマーっ!!」

 

 

 

砲撃を放つ。

銃剣装備ならではの近中遠連続攻撃。

位置関係と体勢さえ考えれば、延々と攻撃を続けていく事も出来る。

 

まだ俺はそこまで上手く立ち回れないけど…とりあえず砲撃を直撃させる事は出来…

 

 

「貴様…」

「いっ!?」

 

 

煙に包まれた遊の姿があらわになったが、殆ど掠り傷程度で、それも感染者としてもおかしいくらいの早さで回復してしまった。

嘘だろ、手甲で無造作に受けただけだったぞ今!?

 

「…まぁいい、先に仕事を片付けるか。」

 

いかにも面倒と言いたそうな口調で言った遊は、冷たい目で俺を見て構えた。

く…っ…間違えるな、なのはさんはアイシスを封じるまで何とかと頼んだんだ。

時間稼ぎくらい出来るはず、集中だ集中!

 

 

 

Side~高町なのは

 

 

 

私は目を閉じたまま、ただレイジングハートから送られてくる映像データを頼りに周囲を認識する。

幼少期、戦闘訓練の際に使ってたレイジングハートが擬似再現した空間。

脳内イメージとして送るものを、レイジングハート内の擬似データでなく、実際の空間情報に変えて貰う事で、暗視戦闘が可能。なんだけど…

 

元々出来合いの仮想空間に対して、実際の映像を貰うのにはどうしてもラグがある。

フェイトちゃんみたいな高速型や近接戦闘絡みになるとさすがに危なくて使えないし、止まっててくれない相手には射砲の狙いも少し怪しくなる。

 

 

「っ…く…」

 

 

おかげさまで、アイシスの相手すら苦戦を強いられていた。

直撃狙いでなく、空間を埋め尽くすように周囲で起こる爆発に耐えながら、内心で苦笑する。

 

元々強い娘だった上に特務の訓練を摘んだアイシス。

挙句こっちは視界不良のハンデ戦。

自分で鍛えておいてなんだけど、厄介極まりない。

 

とはいえ、普通に目を開いて戦って万一遊と目があって、もう一回動きが止められたら今度こそ終わりだ。

さっきは遊がトーマに攻撃したと同時に解いたけど、それまではどれだけ意識しても指先一つ動かせなかった。

 

どうにかアイシスの軌道を先読みして、砲撃を放つ。

射撃じゃ的が小さいからラグが発生すると当たらないし、バインドも同様。

砲撃なら太めに撃てば多少ずれても当たる。

 

「ディバイン…バスター!」

 

生身のアイシスにフォートレスをそのまま使うわけにも行かないので、通常魔法攻撃を放つも、あっさり止められる。

レイジングハートが映像データの扱いにリソースを振っているため、魔法を扱うのに補助をさせられないって言うのもあるけど…

 

それにしたってきっちり防ぎきる辺り、さすがだと思う。

 

黒い鳥…可燃物を操作した爆薬が迫ってくる。

通常の爆弾と違い、任意で炸裂位置を変えられる為、なかなか厄介だ。

 

右前方から迫ってくるそれを誘導弾で打ち抜…

 

「っ、くっ!」

 

見事にかわされた。鳥型とはいえただの爆薬の筈なのに…器用な操作だ。

諦めてプロテクションで受ける。さすがに抜かれないけど…

 

止まって受けたら当然距離をつめられる。

 

「っぐ…っ!」

 

元々体術は不得手。

カメラで撮った高速移動物体のような、伸びた線のような映像を伝えられても防ぎきれる訳もなく、右拳をガードした直後、左足のいい蹴りが脇腹に入る。

いつまでもいられないと思って、打撃のダメージは無視してフラッシュムーブで離脱…した先が、黒い鳥に包囲されていた。

 

つくづく出来がいい。って、感心してる場合じゃないけど。

 

魔法で受けてたらいつまでたっても攻め手に回れない。

フォートレスの盾を飛ばして周囲からの爆発を受ける。

 

折角多量の爆薬を操作して仕掛けてきて…止まってくれたんだ。

狙うなら今しかない。

 

 

バレルショット。

 

 

フォートレス越しに爆音が届く中で、私は拘束複合砲撃を放った。

衝撃を伴う拘束魔法。砲撃形式で放ち、対象を捉えるとバインドで拘束する。

レストリクトロック程の拘束能力はないが…砲撃補助としては便利だ。

何しろ…

 

初撃が当たっていれば、そのまま同軌道で二発目がほぼ確実に着弾するんだから。

 

 

 

「エクセリオン…バスターっ!!!」

 

 

 

直撃。

爆発に呑まれたアイシスは…ふらついたものの、戦闘態勢を保ったまま宙にいた。

 

まったく…丈夫だ。

 

早めに決めないといけないのに、予想外に出来のいい教え子に嬉しくなっている自分がいた。

 

 

 

Side~トーマ=アヴェニール

 

 

 

「おおおぉぉぉっ!!」

 

振るわれた左の爪を避けて空いた脇腹に向かってディバイダーを振りぬく。

直撃して、少し刃が食い込んだけどそれで止まった。

 

「ち…うっとおしい!」

「っぐああぁぁっ!!」

 

右掌を翳されたと思ったら、いきなり衝撃が走った。

思いっきり吹っ飛ばされて俺は空中をくるくると回り、体勢を整える。

 

…何だ今の!?視界フィルターかけてたのに見えない力場!?

 

 

「堕ちろ!」

『トーマ!』

 

吹っ飛ばされた勢いを殺して止まった…空で動きを止めてしまったところに振るわれるさっきの紅く光る爪。

普通にディバイダーだけで受ければ危険極まりない一撃。危険を感じたリリィからも悲鳴じみた声が伝わる。

 

 

「銀十字!」

 

 

でも…さすがに備えはある。

銀十字の書からページを展開、威力をそいだ上でディバイダーで受け…

 

 

展開したページが抜かれてディバイダーがぎしぎしと鈍い音を立てた。

 

 

すっごい威力だけど…これなら凌げる。

 

 

「っ…貴様ぁっ!!」

「いっ!?」

 

 

どうにかこらえた、そう思った直後、遊が『左の紅く光る爪』を振りかぶっているのが見えた。

あの威力で連発って…嘘だろっ!?

 

 

 

 

「そない焦らんでももう終わりましたよ。」

 

 

 

再度の攻撃に警戒したところに割って入るように、着物の女性…薊が姿を見せた。

 

 

一瞬、それが意味する事に理解が追いつかなかった。

 

 

つまり、キャロちゃんとウェンディ姉が倒されてて…

つまり、なのはさんか俺とリリィのどっちかで二人を相手にしなきゃいけなくて…

 

ゼロは…撃てない。

 

気絶してる人が傍にいる中であんなもの撃ったら、下手したら死んでしまう。

 

 

「お父様はタカマチとオマケ二人を堕としてもうて下さいな。」

 

 

にこやかに告げる薊。

その言葉の意味する光景が嫌でも頭に浮かんでしまって…

俺が…俺が何とかしないと皆…っ!

 

 

 

「ウチがゼロ君を」

「っ…ああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 

 

 

なりふり構ってられなかった。

銀十字の書をありったけ展開するが…今度は防御じゃない。

 

ページの全てが光を放ち…

 

 

 

「シルバースターズ…ハンドレッドミリオン!!」

 

 

 

 

書のページを利用した、広域用『射撃攻撃』。

一発一発はただのエネルギー弾だが、規模は対『大隊』クラスの、空を埋める弾幕。

 

 

俺はそれを…薊に向けて放った。

 

 

こんな事、対人に向けてやることじゃない。

ただ、さっき頭に浮かんだ光景を現実にしないためだけに…その為だけに放った、数人相手にはあまりに過ぎた射撃の雨。

断続的な爆音が辺りを包み、全てが晴れた頃、そこには…

 

 

 

「はぁ…はぁっ…は…っ!?」

 

 

大きく開かれた傘が浮いていた。

 

「舞花が防御形態、羽二重。降り注ぐ雨も吹き荒ぶ風も弾くこの舞傘…射撃とて雨やとかないまへんなぁ…」

 

くるくると回しながら、正面に向けていた傘を肩にかけて笑う薊は無傷だった。

背後にいるはずの遊は…いない。

 

余裕のある彼女の様子を見る限り、今ので彼だけ消し飛んだとかそう言う訳じゃないだろう。つまり…

 

「ちっこいけど見えますし…興味あるなら少し眺めます?ふふふっ。」

 

言いながら、薊が視線を移した先では、目を閉じたままで遊から逃げながら戦う事になったなのはさんがアイシスに捕まって…

 

 

「や、めろっ!っぁ…」

「はいはい、まざるんならウチが相手になりますよ。」

 

なのはさんの元へ突進しようとして、いつの間にか接近していた薊に腕をきめられていることに気付く。

 

動けない俺は、ただ絶望的な状況で最悪の光景を、眺めるか目を逸らすかしか選べず…

 

 

 

 

 

爆音が、拘置所の空に響いた。

 

 

 

 

 

Side~高町なのは

 

 

 

 

近づかれるだけでトロンとした夢見ごこちな気分にされる遊の能力。

お陰で魔法を制御して戦おうと言う気勢がどんどん抜けていって、アイシスに捕まった。

 

戦う気が起きない中で、それでも残された意識でただ嫌だと目を硬く閉じていた。

 

魔法の制御も出来ず、何も見えない真っ暗な視界。

 

 

「何、痛めつける趣味はない。すぐに快楽に浸してあげよう。君は特に念入りに…ね。」

 

 

無駄なのを承知で、ただ歯を食いしばって息を止めて硬く目を閉じる。

 

嫌だ…嫌だ嫌だ嫌だ!

 

祈っても願っても助けなんて来ないことを知りながら、それでも正気が残っている最後の最後まで拒もうと意志をし続けて…

 

 

目の前で爆音がした。

 

 

次いで、背後での爆発音。

羽交い絞めにしていたアイシスが離れる感触を感じた瞬間に思わず目を開く。

 

 

 

視界に、赤い布が舞った。

 

 

 

真紅のマント、ヒーローの象徴。

 

 

 

よく見るまでもなく、こんなものを纏って現れるなんて一人しかいない。

 

マントの内に白い服が見えて…え?

 

 

 

「いいタイミングだったか?遅くなって悪かった。」

 

 

 

聞き知った声。

でも、私の想像と違う声。

最近よく聞く少年の声。

 

私を庇うように前に現れた、赤いマントを纏った白い少年は、振り返りながら微笑んで…

 

 

 

「天下無敵のスーパーヒーロー、フォート=トレイアただいま参上…なんてな。」

 

 

 

微笑んだフォートは、まるでお兄ちゃんの影を重ねるようにそう言った。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 




とっくに察せていそうなネタバレその二の回(苦笑)。
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