なのは+『心のちから』   作:黒影翼

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記録二十七・霞む願いに手を伸ばす訳

 

 

 

記録二十七・霞む願いに手を伸ばす訳

 

 

 

Side~氷村薊

 

 

 

接近してくるフォート。

馬鹿正直なそれは、いつも通りなら末摘花で吹き飛ばす所やけど…

 

 

洗脳術を使うなら、全力で攻撃させたほうが都合はいい。

 

 

『右斬撃…』

 

 

目を合わせ、軽く念を送る。

 

万能のように自信満々に語っているのは、そう言う便利な力を扱っているのだと『思い込ませる』為。

どうやって破る?どう対処する?

そう考えれば考えるほど、純粋な戦闘感からは遠ざかって、『選択』の回数が増える。

それはすなわち、選択肢を誘導する技法であるウチの洗脳術が働く機会が増える事に繋がる。

 

実際には、手品師の仕込みの如く、細部に気を配らなければ失敗するほど繊細で危うい術で、万能には程遠いのだ。

 

けど…

 

「ふっ!」

 

だからこそ、油断なく翳りなく、この力を使えるように心がけてきた。

送った通りに振るわれた右の一閃を右の扇で受け流し、開いた脇腹を左の扇で強打する。

 

『左拳。』

 

続けて念を送り、今度はわざと攻撃せずにガード。

そのまま続けて振るわれる剣を二三度扇で受け手に回って凌ぐ。

 

『刺突。』

 

タイミングを見計らって念を送り、攻め手に回っていた彼は躊躇いなくその通りに動いてくれる。

望みに沿って望みに合わせて、気持ちよく動かしてあげる。

 

 

そうして、決定的な一打を放り込む。

 

 

雑魚はそれで決まる。

決まらなくても、今度はだんだん自分の判断や感覚が信じられなくなっていく。

迷えば、踏み込み、反応、何もかも乱れ弱り拙い物になる。

 

人が逆らえぬ欲望の僅かな誘導。

今回も例に漏れず、迷うことなく放たれた突きにあわせてすれ違うように右の扇を顔面に叩き付けた。

 

鈍い音と共にひっくり返るように仰向けに傾いていくフォート。

ヒトである限り例外なく打ち倒す反則技、無敵を嘯こうが、本当に無敵並の技量を持ち合わせていようが関係なく…

 

 

 

「っあ!」

 

 

 

右肩に走る衝撃と痛み。

空中で身体を倒していったフォートがそのまま右足を思いっきり振り上げたのだと気付いたのは、姿勢を整え振り返って、逆さになったフォートの姿を見てようやくの事だった。

 

空戦機動が割と地上より自由とはいえ、無重力空間と違って重力はあるのに、逆さのフォートはそのまま身体を捻りながら迫ってきた。

半回転しながらの剣の一閃をガードして、構え直した。

 

 

…この戦闘洗脳術、捨て身の人間にはこういう事がある。

 

 

とは言え、そんな事試用の段階で承知済み。

承知済みなら対処も鍛錬してある。

 

捨て身で攻撃に専心している人間は、総じて自分のダメージを省みない…否、そんな余裕はない。

つまり、全力でかかってくる相手に対して連撃を続けられない程度に姿勢を崩すカウンターを放り込み、次までに離脱する。

カウンターを狙うにあたり危険は伴うが…

 

『左。』

 

二本の剣を手にしたフォート。

だが、左右どちらが来るかわかっていれば、いかな渾身の一撃と言えどウチに見切れん訳がない。

 

振りおろされる左の剣をかいくぐり、右の扇を鳩尾に突き出し…

 

 

「っぐ…っ!」

 

 

身体を捻って回避され、軌道を変えた左の剣の柄で背中を殴られた。

 

 

回避…した?

 

 

捨て身による渾身の一撃なら、そんな事考える余裕はないし、第一途中で軌道を変えるなんて真似もほぼ不可能に近い。

何がどうなっとるんやこれは?

ウチの術が機能しとらん訳やない、なんになんでこんな事が…

 

 

「バレットスコール!!」

「っ!」

 

 

困惑の中、まともに技巧を駆使する間もなく、広げた二対の扇で弾の雨をまともに受けた。

 

 

 

 

Side~高町なのは

 

 

 

「あ…ぅっ…」

「ゴメンねアイシス、ちょっと休んでて!!!」

 

さすがにまともに一対一で当たってまだ簡単には負けない。

レストリクトロックでの拘束にもがいているアイシスを、私はディバインバスターで撃ちぬいた。

 

アイシスの気絶を確認した後、さすがにフォートを放置しておくのは不味いと判断した私は、遊とトーマがいる近辺には近づかないようにしてフォートの様子を見に近づいて…

 

 

 

薊と互角以上の戦いを演じているフォートの姿を見つけた。

 

 

 

最初、思わず硬直してしまった。

その登場に、その持ち物に、その姿に心動かされたものの、彼我の戦力差は薊に傾いているはずなのだ。

オマケに、シグナムさんやフェイトちゃん、フレアさんですら破れない反則技まで持っている。

 

なのに、押している。

 

 

間合い、踏み込み、型、魔力、全ての判断があっているかどうかまるで信じられなくなっていく、洗脳術による選択ミスを繰り返すと積み重なる弊害。

どんな達人でも迷いを抱えて恐る恐るではその力は半分以下に落ちる。

自棄に戦ったほうがまだマシだって言うのが、シグナムさんとフレアさんの見解だった。

 

 

自分を信じず戦いなんて出来る訳が無―

 

 

「あ……」

 

 

原因に気付いた私は、呆然と声を漏らしてしまった。

 

フォートのマント、それは高町速人から渡されたもの。

強力な無能、それは莫大な経験と修行の成果。

 

今でも、私達と捨て身で同等、あるいはそれ以下の可能性もあるフォート。

そんな彼がいくら頑張った所で…きっと未だに課題を出していただろう『師』に一触れすら出来ていない。

 

押している、と言っても無傷じゃない…否、無傷には程遠い。

たった今も直撃を受け…身をよじるように急所だけ外した。

そのまま即座に反撃するフォート。薊のほうはきちんとガードした。

けど、ガードすることになると思わなかったのかぐらついて、追撃の弾幕を浴びせられて何発か直撃する。

 

ダメージは明らかに薊の方が軽いのに、その表情は初めて見かけた焦りと戸惑いに満ちていた。

でも当たり前だ、戸惑うのも無理も無い。

 

 

 

 

フォートは自分の力を全く信じてないんだから。

 

 

 

 

打ち負ける、失敗する、上を行かれる、その全てを当たり前と頷いておきながら…

ただひたすらに、『諦める』だけを拒否して戦ってる。

 

信じる心を崩す薊の、ひょっとしたら次元世界唯一の『天敵』かもしれないな。

 

変わった強さのフォートに苦笑しつつ、私はこの場をフォートに任せ現状打破の一手を撃つ事にした。

 

 

 

Side~シグナム

 

 

 

「ったく…さすがサイのお気に入りだけの事はあるわ。」

 

愚痴るカレン=フッケバインだが、その身体は特有の再生能力で傷跡も残っていない。

ランスターが放り込んだ対感染者用薬剤を込めたインジェクションバレットの効果のお陰でやりやすくはなっているが…

それでも此方は少々ダメージを受けていた。

アクセルドライブを使用可能な感染者と地上戦と言うのは、厄介が過ぎる。

 

アギトとユニゾンを行い、エリオと同時に仕掛けても尚直撃を奪えないあたり、さすがに速人達と張り合う為に調べを進めた技能だけの事はある。

 

「おおぉぉぉぉっ!!」

「ぐ…っ!」

 

スバルの声と共に、衝撃音が結界内に響き渡り、もう一人の男の方が吹っ飛ぶ。

地下施設で見たものの凄惨さが記憶に新しいのか、今回も気合が入っている。

外にトーマを放ってある状況も一因ではあるんだろう。

 

気合が入る分にはかまわんが、空回りにならないようには見ておかんとな。

 

「…動いたか。」

「一体何…っ!?」

 

外から感じる、慣れ親しんだ力の気配。

結界を隔てているような状況でも使える一撃だけあって、中にいても十分それは分かった。

 

 

結界が、一瞬でひび割れていく。

 

 

離脱目的かフッケバインの連中が何度か流れ弾を放り込んでいたが、連中の予想通りその程度では崩れなかった結界。

だが…

 

 

星の一撃に耐えうる結界など、そうそう存在するはずもなかった。

 

 

「あの堕天使と戦ってきたってのも冗談で済まないわけね。大した力量だわホント。」

 

 

空に浮かぶ、結界を一撃で破壊した高町の姿を見て息を吐くカレン。

ブレイカーを撃つ時間が出来る程度には外を押さえる事に成功したらしい、それは此方にしてみれば、フッケバインの包囲を完全なものにするのに都合が良かったのだが…

 

 

 

『エリオ!トーマの手伝いに向かって!』

 

 

 

高町の方がなんだか焦った様子だった。

もし急ぎならこっちの開放を急いだ理由が分からない。

 

『近接戦ならならあたしが』

『女性は相手が出来ないの!氷村遊って男性!』

 

トーマが心配なのかスバルが名乗り出るも、一蹴する高町。

完全な新手の襲撃らしい。

近場の味方を放置して交戦中の教え子に丸投げするなんて真似をする程だ、相性が悪い…程度の相手ではないんだろう。

 

エリオが離脱し、高町が空から砲口をカレンに向けた瞬間…

 

 

空からミサイル郡が飛来した。

 

 

「ナイスタイミング!」

 

言いながらカレンが手持ちの書からページを切り出す。

何か発動させる気だと察して斬りかかるが、阻止にはさすがに間に合わ…

 

 

私を背後から抜いていった弾丸が、取り出されたページのど真ん中に風穴を開けた。

 

 

「はいッ!?」

「させませんよ。」

「見事だティアナ!」

 

近日抜き打ちと連射の速度が異常な域に近づいてきているティアナの射撃。

特殊効果を持たせる工程を踏むと弾丸の生成そのものに時間を食うためここまで早くは打てないらしいが、ただの抜き打ちなら瞬きより速い。

 

AEC装備はバッテリー式、もう限界間近だが…最後の一撃位!

 

「おおおぉぉぉぉぉっ!」

「っ…冗談じゃないっての!」

 

両手持ちでの袈裟切りを流されて、右肩を貫かれる。

アクセルドライブ相手では、大剣での渾身の一撃など当たらんか。だが!

 

「いっ…」

「此方が本命だ!!」

 

身体の重要器官はアギトに防御警戒をしておいて貰い、グラディエーターを手放した右手で剣を突き出したカレンの腕を掴む。

振り切った溜めを利用した左手の一閃。胴を両断する気で放った一撃は、脇腹の半分ほどまで食い込んで止まった。

 

密着状態のせいで当たった刃の位置が悪かった。鍔元では切っ先ほど威力が乗らない。

 

「っぅ…たく、茨姫!」

 

胴体半分まで武装が食い込んでいると言うのに顔をゆがめるだけで済ませてしまう辺りさすがにフレアから逃れた感染者集団の一人という事か、そんな状態であっさりと書を開きなおして茨を展開する。

 

金属質の茨を使用した広域拘束能力。拘置所一つ覆い尽くすレベルの上、かかればそう簡単に破れない。

 

『あ、あいつグラディエーターを!』

「…抜け目ない奴め。」

 

茨に拘束された間に空に逃れたカレン。

腕に装着している盾こそ奪われなかったが、脇腹に食い込んだ状態の剣の方を持ち逃げされた。

スバルの方も拘束されているようで、相手をしていた男が、非戦闘員の女を抱えて飛び出す姿が見える。

 

「逃…がすか!」

 

脱力から深い姿勢をとったスバルが、全身を押し出すように駆動させて空に蹴りを放つ。

スバルの身体に纏わりついていた蔓が、それで断ち切れるように千切れた。

 

アンチェインナックル…いや、今のだとフットか。

 

見事なものだ。

と…感心している場合ではないな。

 

「行くぞ!レヴァンティン!」

 

グラディエーターを使うにあたり待機状態にさせていたレヴァンティンを起動させ、カートリッジをロード。

 

 

「焔乃大蛇!」

 

 

炎熱を纏った蛇剣を舞わせ、私とティアナの拘束を断ち切り、ティアナを伴って空へと飛び立った。

このまま逃がすか。

 

 

 

Side~フォート=トレイア

 

 

 

精彩を欠いた扇の一閃を剣で受け止め、競り合いの状態から力任せに振りぬく。

薊は姿勢を崩して、俺の剣がその肩を軽く裂く。

 

追い込まれた事がないのか、リズムが崩れてからは見る間に弱っていった。

上手いし、技巧をよく使い直接力比べをあまりしなかったから判り辛いが、遊をお父様とか言ってたから種族的にもコイツの身体能力は高い筈。

 

よっぽどの戦力差で戦わない限り、追い込まれるって経験できねぇんだろうな、うらやましい限りだ。

 

とは言え…ここまでか。

俺は手にした剣を分解した。

 

 

「今日はここまでだ、このままだと包囲されるだろ?今回は見逃すから帰ったらどうだ?」

「…は?」

 

 

俺を訝しげに見る薊。

フェアレの行方を追うならとっとと捕えて尋問なり何なりして貰ったほうが妥当だ。

折角厄介だった結界を星の一撃が破壊したって言うのに、そのタイミングで見逃すとかどうかしてる。だが…

 

「お前等はあの時俺を殺せた筈だ。しかも、見逃してくれた理由が、フェアレとの約束を守ってくれたって言うなら尚更ここでは詰めないさ。」

 

って、言った通りの義理が一つ。

もう一つは…このままただ捕まえたら何の交渉の余地もなくそれなりの裁きに遇うだろう。

 

速人の奴がこういう時どうするか知らないが…ともかく準備がいる。

 

少なくとも、エフスとフェアレは確実に『助けて』やれないといけない。それがたとえ次元世界相手だろうとも。

 

…が、こっちの心中など知る由もなく。見下されたとでも思ったのか俺を睨む薊。

 

 

「…その有様でこの一撃に耐えられると…っ?」

 

 

扇を開いた腕を交差させた薊が何かを告げている最中に、唐突に転移魔法陣が間に展開され、エフスの姿が現れた。

 

「よ。薊にも言ったが俺は今回は見逃すぜ?」

「結界が破られた、奴を連れて引け。俺もすぐに追う。」

「っ…」

 

状況は薊も分かっている。

味方に告げられてか、お父様とやらが心配なのか分からないが、すぐに遊の元に向かって飛んでいった。

 

「向こうがフッケバインと騒いでる間に帰ったほうがいいんじゃないか?」

 

逃がすつもりだったんだが、エフスは何故かゆっくり近づいてきて…俺の胸倉を掴み上げた。

 

「…何故だ?」

「え?」

「理由があるなら、貴様のような馬鹿な無茶を繰り返せる人間も稀にいるだろう。だが、貴様にはもうその理由がない筈だ。」

 

俺を睨むエフス。分かりきってるが、相当怒ってるな。

 

「それだけの力があれば、局員なり魔導師なりとして普通に勤まったろう、普通に幸せになれただろうに、何故薊を押し切る程の無茶をする。」

「フェアレとの約束を思い出に、新しく恋人探しでもして…だろ?」

 

ま、普通ならよくある事なんだろう。

初恋は実らないとか聞くし、学生時の恋人とそのまま結婚してるような奴の方がむしろ少ないだろうさ。

 

ただ…それこそが、俺が起きてきた訳だった。

 

 

 

 

 

 

 

初めて会った俺が斬りかかった時、速人は俺に謝ってきた。

挙句、ただの八つ当たりにしかなってなかった避けるも防ぐも簡単だったろう俺の一撃を棒立ちで受けて斬られた。

 

森での修行の最中話せるだけの時間が出来たタイミングで、その不可解な行動の訳を聞いてみる事にした。

 

「なぁ…アンタ何で謝ったんだ?」

「何でって…ヒーローを名乗る以上助けられなかったで済ませていい訳ないからな。」

 

笑って言う速人。

その姿に、俺は少し苛立ちを感じる。

 

フェアレが目を輝かせて語った、俺が取って代わろうとしてるヒーロー。

その正体が、嘘八百並べてへらへらと笑っている程度のものだって言うのなら、コイツの語る姿そのままなんて目指すものじゃない。

 

「俺には真意を聞く資格があるはずだ、それとも…アンタは本当に、その出来もしない軽口をべらべら言い続ける程度なのか?」

 

俺は速人を真っ直ぐに見て聞いた。

 

分かってる。

安い雑魚やただの馬鹿ならとっくに心折れるだけの事を、コイツはやってきてる。

でも、なろうとしてるのは、子供の物語に出てくるような、現実に程遠いヒーロー。

 

コイツを追うなら、俺はその差異の真相を知らなきゃならない。

 

「…出来もしない事を言い続ける程度…か。否定できないな。」

 

笑みをそのままに告げた速人。だが、何故かどこか寂しげに見えて…

 

 

 

その姿を見失った。

 

「は?なっ?」

 

辺りを見回すが、気配も音も一切しない。

今の今まで向かい合って話していたはずだって言うのに、森ったって木々の隙間はそこらじゅうにあるのに、枝葉も落ちていて、足音が立たない訳ないって言うのに、何処に言ったか分からない。

 

「これまでの事件、俺は一瞬で事件を終わらせて家族を守ることが出来た。」

「っ!な…」

 

背後から首筋に刀の刃を突きつけられ聞こえてきた声。

慌てて振り返った俺は、誰もいない空間を見て息を呑む。

 

何がどうなってる…

 

「ぐっ…あ…な?」

 

唐突に目の前に手が現れ、鼻の下を叩いたと思ったら、いきなり俺の身体が意思に反して崩れ落ちた。

速人は、そんな俺の前に姿を見せて小太刀の先端を俺に突きつける。

俺がヒーローになり代わると言った時より…いや、比べるのも馬鹿らしい程に冷たい瞳。

 

「フェイト、時空管理局、八神はやてとその家族、ジェイル=スカリエッティについて知る人間…知る限りの人体の壊し方を駆使し、拷問の末に殺していく。それが俺には出来た。効率よく『出来る事件の片付け方』だった。」

 

出来る事、どころの話じゃない。きっとコイツは、それが正解だと考えている。

戦えば怪我人死人が出るって現実そんなものだって認識の、ある種究極の形だ。

 

小太刀を納めた速人は、深く息を吐いた後、涙が見えそうなくらい悲しそうな眼のまま笑みだけ作って俺を見る。

 

「昔兄さんに試験を受けた時は子供の身でまとまらない言葉を必死に考えたんだけどさ、今なら一言で片付く。」

 

速人が出来もしない事を言い続けて目指し続けてる理由。

そして…俺が立ち上がれた、あまりにも馬鹿な分かりやすい一言。

 

 

 

 

 

 

「そんなの嫌だろ。」

 

速人が俺にそうしたように笑顔で告げると、呆然と硬直するエフス。

だが、たったこれだけの話だった。

 

フェアレとの約束、その時の俺の気持ち、全部を『昔は若かった』なんて言葉で片付けて、知らない女性と並んでスーツに身を包んだ自分の未来。

それはそれで、ある種幸せな光景と言えるのかもしれないが…今、俺、フォート=トレイアは…そんな自分の存在を許せない。

 

 

故に約束の形で在る、約束の形に成る。

 

 

「フェアレは俺に謝った…何か後ろめたいか悲しいか、そんな事がある証拠だ。それに犯罪に好んで関わるような奴でもない。事情があるのは分かるが、だったらその事情とやらを完全に問題なく俺が片付ける。」

 

出来るから、ではなく、『そうでない自分など嫌』だから。

速人の奴が寂しげな笑みと共に告げた、現実に出来てない本心。

 

「フェアレが記憶を失ってようが、アイツのヒーローに成るって言うのは『俺の』約束だ。これだけは譲らない、たとえフェアレに頼まれてもな。」

 

さすがに、惚れ直せと言わんばかりに無理やり迫るようなストーカー紛いの真似はする気はないが、エフスといる研究所か何かが幸せな場所でもないだろう。

それに…記憶が削れる事を受け入れたって事は、フェアレはきっと『消える』気だ。冗談じゃない。

 

今のフェアレの一番の幸せなら…コイツを定職につかせて普通に式でも挙げられるまでこの案件に首突っ込んで全部片付ける。

それが、フェアレのヒーローになるって約束を…軽んじず、捨てず、大事に持っている証になると思う。

少なくとも今、『もういいや』と言うフォート=トレイアの存在を、俺は絶対に許せない。

 

「しけた顔するなよ、俺を忘れたとは言えフェアレに選ばれたんだろ?」

「っ…馬鹿が…」

 

とはいえ…だ。正直な話、強がっては見てるがコイツに思う所がない訳じゃない。

アイツの為のヒーローになると言うなら、アイツの大切な人を傷つけるものじゃないと思って我慢してはいるが…本音を言えば殴りたい。超殴りたい。

 

少しだけ声に苛立ちが出てしまったか、目を逸らしたエフスは掴んでいた俺の服を乱暴に放した。

 

「一応言っとくが、罪状少ない方が楽なんだから、あんま下手な事してくれるなよ?…お前もな。」

「知った事か。」

 

吐き捨てるように言ったエフスは、転移術を展開する。

俺の目の前で術の準備を始めるあたり、馬鹿だ何だといいながら信用はしてるらしい。

 

さて…と、フッケバインの方には義理がある訳でもない。

トーマの恩人ってあたり上手い事やれればいいが、放っておくには危なすぎるか。

 

俺は少し離れた宙域で交戦している連中の下へ向かう事にした。

 

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 




高校、大学あたりで出来た初恋人とそのまま結婚までなんて上手い事いくケースなんてそうはないと思うんですが…実際どうなんでしょう(苦笑)。
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