なのは+『心のちから』   作:黒影翼

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記録二・ヒーロー気取り

 

 

 

記録二・ヒーロー気取り

 

 

 

Side~フォート=トレイア

 

 

 

状況を調べるのと荷物の補充で町に向かったアイシスを待って、俺達は森に潜伏していた。

アイシスにはエクリプスに狙いがある俺とトーマたちを一緒にしておく事を心配されたが、とりあえずは納得してくれた。

トーマが発熱しだしていたし、あまり押し問答を続けていられなかったのもあるだろう。

 

「このまま進行したら俺…」

「エクリプスは人が作ったウイルスだ。元通りに戻れるかはともかく、調整調節は可能だろうさ。暴走したらしたで俺が止めてやる、不安ならリリィの記憶が戻るように考えたらどうだ?」

『ごめんなさい…私のせいで…』

 

殺戮者になると言われて平静を保てないトーマと、その制御のための記憶を失っていることに落ち込むリリィ。

こういう時どうすりゃいいんだか…こっちはしばらく人付き合いなんてしてないからな、励まそうにも慰めようにも…

 

「いやだから、今知ってる記憶を辿ったり、予想を喋ったりしてだな、記憶の整理をしていこうって話なんだよ。なんとなくでも思い出せる事ないか?」

「施設から出たがってたリリィに…そこでの事を思い出せって言うのは…」

 

高熱にさいなまれているくせに、何も言わないリリィを庇うトーマ。

とんでもウイルスに感染した身でよくもまぁ…とはいえ、女の子に苦い思いさせたくないってのは同感だ。

 

「分かった、とにかく休んどけ。スゥちゃんだっけか?その当たりの知り合いと合流できるまでどうにか持たせないとな。」

「…あぁ。」

『あの…フォートは?怪我一杯…』

「俺はいつも通り、ベストだよ。」

 

炸裂射撃、しかも感染者レベルの攻撃となると結構な威力だったが、どうにか持ちこたえた。

ダメージは当然あるが…修行期間は完全回復したこと殆どないから、別にそれと代わらない。

 

だから…気付ける。

 

「何の用だ?」

 

声をかけると、木の陰から一人の女剣士が姿を見せた。

ただでさえ強そうだな、感染者となると不死身だから厄介だ…削り倒して追い返せるか?

 

「そこの少年を引き取りに来た。引け、出なければ…」

「トーマは殺人お断りだそうだ。俺は公務員じゃない、今帰れば見逃してやるぞ?」

「お前がヴェイの言っていた面白い少年、か。なるほどな、だが…」

 

刀を抜く。

たったそれだけの動作がずいぶん様になっていた。

 

「未熟な身で、上からが過ぎるな。」

「トーマ、ちょっと待ってろ。すぐ片付ける!!!」

 

俺はデバイスを展開して、女剣士に斬りかかった。

斬撃。

 

「軽いな。」

「っ!」

 

身体ごと弾かれ姿勢を崩された所に返す刀が向かってくる。

どうにか防いだが、軽く左肩に刃が食い込んでいた。

片手剣を両手で持って無理矢理に押し返すと、女は刀を鞘に納めた。

 

 

「仕舞だ。」

 

 

両手と片手でどうにかって感じなのに、居合い抜きなんて剣で防げる訳がない。

両断するかの如く向かってきた一撃に俺は腕を構え…

 

 

剣を消して出現させた盾で、どうにか刀を止めた。

 

 

「二重構造の盾?何処から…」

「っらぁ!!」

 

左拳を水月に向かって叩き込む。

身体兵器の感染者って言っても、強度やパワーはともかく、食事もするし、構造上の弱点はそこまで変わってない。

諸に受けた女は軽く下がった。ダメージはなさそうだが、盾に驚いたらしい。

 

「魔導殺し対策のデバイスか?つくづく面白い。だが…使い手がそのザマではな。」

「どのザマだよ、掠り傷と一撃、イーブンだろ?」

「そう死に急ぐなよ。」

 

笑いながら刀を振り上げる女。

 

 

「全員動くなっ!!!」

 

 

声と共に空から炎の鎖が伸びてきて、刀を持つ女の腕を縛り上げた。

見れば、小さいのとまたも女剣士が空に居た。

 

「管理局特務六課だ、危険物所持及び暴行の現行犯で逮捕する。」

 

管理局…特務?

魔導殺し対策の部隊なら…

 

「おい!こっちは感染してるが被害者だ!」

「話は後で聞く、一歩でも動いたら誰であろうと斬り伏せる。」

 

トーマの事情を説明してスバル=ナカジマとやらの知り合いか聞こうと思ったんだが、とんでもない台詞が返ってきた。

 

あれは駄目だ、やばいタイプの連中だ。

エクリプスを軽視してない証拠だろうが…命預けられるタイプじゃないな。

 

「ふっ…面白い。」

 

拘束をないが如く断ち切った女は、局員の居る空へ向かって飛び立つ。

 

「少年!死なせたくなければ二人をしっかり護っておけ!」

 

さっきまで殺しにかかって来てた奴がよく言う。

ともあれあんなのに任せてもおけないのは確か。

 

「リリィ、トーマは?」

『体調が悪くなってる…』

「お前は自力で移動できるな?とりあえずアイシスと合流して逃げるぞ。」

「動くなって言ってんだろこら!」

 

空で交戦を始めた局員と感染者の剣士二人。

それを放ってきたのか、一人外れて傍に居た小さいのがこっちに向かってきた。

 

「やかましい!開口一番女子供斬り殺そうとするような奴に友人任せられるか!」

「お前そいつが何なのか知ってて」

「知ってるよ!」

 

話に来てる局員相手に攻撃するのも躊躇われるが、かと言ってこいつらに任せていい気もしない。

どうするか…と、考えをめぐらせていると

 

「あ…がっ…」

『トーマ!トーマッ!!』

「ち…」

 

トーマの症状が悪化していた。

…仕方ない、ここはいちかばちかトーマを連行させてみるか?

 

 

 

巨大な衝撃音。

 

 

目を向ければ、感染者を押している局員の姿があった。

よく見れば通常デバイスだ。よく押せるな…

 

「あれで感染者どうする気だよアイツ…」

「やべ、シグナム!!」

 

全力の衝突に押し負けたらしいが、リアクトを止められずに、感染者の刀が双剣になっていた。

慌てた様子で空に戻るチビ。

と、丁度そんな戦況の中にアイシスが飛び込んできた。

 

「フォート、状況は!?」

「アイシス!丁度良かった、トーマは任せるぞ!!」

「任せるって…フォート!?」

 

放って逃げる事は出来なくもないが、そうすればあの局員は殺される。

トーマとリリィはとりあえずアイシスに任せ、俺は空の戦闘に割ってはいる事にした。

 

攻撃を次から次へと無効化される、局の剣士。

隙を見つけて攻撃を放り込むが、デバイスの方が砕け散る。

 

「ば…っか野郎!!!」

 

武装を失って斬られかけた局員と感染者に割って入る。

盾で斬撃を受けたものの、盾を叩き斬られた。

さすがにリアクトの一撃には耐えきれないか、くそ!

 

「今の私に向かってくるか、つくづく馬鹿な事を。」

「死人を出すのは趣味じゃないんだよ!!!」

 

盾を消し、二丁拳銃に切り替える。

 

「何…」

「バレットスコール!!!」

 

やったらめったら着弾炸裂弾を乱射。

デバイスのおかげなので自慢にはならないが、ディバイドされない為魔力の残滓で視界を塞げ

 

 

 

「生憎だが、五感も生身でないのでな。」

 

 

 

声と共に、魔力の残滓を吹き飛ばすように飛び出てきた女の剣、それが見えたときにはもう遅かった。

 

ゾブリ…と、嫌な感触がした。

腹部を深々と、完全に背中まで貫通する形で貫かれていた。

 

 

「っ…らぁ!」

「は?ぐっ…」

 

 

無視して右の銃を一閃。

懐まで深く入ってきていた女の喉元を強打する。

頭か心臓が潰れればやばいのは人間同様。二つを繋ぐ器官を強打されればさすがに効果があるらしい。

 

幸い貫かれたのは左脇腹で脊髄は避けている。俺はそのまま身体に刺さった剣を横に叩いて脇腹を斬らせて体から刀を外し…

 

「よっ。」

「ぶっ!?」

 

アウトプットさせた携帯粘弾ジェルブリッドを投擲、女の顔面をジェルで覆う。

 

付近のものとくっ付こうとする粘財。視界や移動を制限するには感染者相手でも丁度いい。

 

この隙に離脱して…

 

とか思ったけど、さすがに脇腹を半分くらい切られてるのは問題らしく、意識が遠のいてきた。

 

「リベリオン…治癒モード…で…」

 

言うだけも言えず、何かに捕まれるような感触を最後に、俺は意識を失った。

 

 

 

Side~シグナム

 

 

 

民間人…でもないだろうが、庇われた挙句重傷を負わせたのは事実。

武装も破壊された状態では、少年の保護、離脱のみが限界だった。

 

内臓を思いっきり横に向かって切断されている。並の人間なら致命傷なのだが、少年の傷口は金属で塞がれていた。

内部の状態も詳しくは分からないが、斬られた部分同士を覆うようにして金属が…おそらくはデバイスが纏わりついているらしい。

縫われた傷口のように隙間なくふさがっているため出血もなく、自然治癒で細胞がくっつくだけで治るような状態だ。

 

「にしてもコイツ一体…」

「エクリプス関連施設に襲撃をかけ、被験者を救助、施設構成員を戦闘不能にして去っていた少年だろう。」

「そう言えばそんな奴もいたな。ヒーロー気取りが危ないって八神司令が呆れてたっけ。」

 

複雑そうに少年を見るアギト。

 

ヒーロー気取り。

 

速人達が手配された今、主はやてに高町、テスタロッサ達にとってはその言葉と存在は、確かに複雑なものだった。

私は奴らを手配する可能性も十二分に受け入れられた為、些少の衝撃で済んだが、それでも無視できる事実ではない。

特に高町にとっては重い。平静を装ってはいるが実際どうか…

 

だが、私としては速人の一件とは別に複雑なものがある。

何しろ、武装を破壊されトドメを刺されかけた所を庇われたのだ、しかもそれで重傷を負っている。

ヒーロー『気取り』などと安易に嘲りの言葉を投げかければ、ある意味自虐になる。

 

「付近に被害者少年一同も居た、逃がす訳にはいかん。合流して奴らを追う。」

「おう!」

 

ともかく、今は彼を医療班に預ける事が先決と飛行を急いだ。

修復だけなら次の出撃までに間に合う筈、次は失態を晒すまい。

 

 

 

Side~フェイト=T=ハラオウン

 

 

 

「シグナム、大丈夫ですか?」

「情けない事に民間人に庇われたがな。」

「装備もねーのに無茶やらかすからだ、今回はあたしらに任せておとなしくしとけ。」

 

合流するなりきついヴィータだけど、表情を見る限り安心している様子だ。

リアクト状態の感染者に魔導装備で戦うなんて無茶をして無事で済んだんだから、ホッとするのもわからなくはない。

 

シグナムを庇ったって言う子も、民間人と言うには無茶をしているみたいだけれど…

 

 

ヒーロー気取りの少年犯罪者。

 

 

複雑な言葉に、私は目を伏せた。

 

 

 

 

 

去年速人の起こした事件、その直後があまりに平気そうで、私は何も気付けなかった。

傍にいて、接し、話せる機会もあったのに、何一つ気付けなかった。

 

…なのはがボロボロに傷ついていることに、私は長い間気付いてあげる事が出来なかった。

 

「なのはを助けてって…」

『わかんない…わかんないけど…お願い、なのはママを…助けて…』

 

ある日、ヴィヴィオに通信で懇願されるような勢いで言われ、なのは宅まで赴いた私が見たのは…

レイジングハートを握って何かに耐えるように俯いているなのはの姿だった。

 

「…ぁ、フェイトちゃん、いらっしゃ」

 

私の姿に気付いて取り繕おうと、笑顔を見せようとしたなのはを押し留めるように抱きしめた。

住宅内でのいきなりの高速移動魔法の発動で床がひび割れたけど、気にしなかった。

 

なのはの無理に気付いて、それ以上続けさせたくなかったから。

 

「ちょ、フェイトちゃん?離して」

「嫌だ…」

「…離して…よ…」

「嫌だっ!」

「離せ!」

「今離せるわけないっ!!!」

 

全力で抱きしめ、蹴られても押されても気にせずそうしていると、なのはの体から力が抜けて…

 

 

「う…ぁああぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 

泣いた。

ダムが崩れたのかと思うくらい勢いよく、ボロボロの顔で。

力ないまま私に縋り付く様に、なのはは泣いた。

 

 

 

手配されたヒーロー、その妹。

局に協力もしてた関係で因果関係も噂されたけれど、その声は小さくて…

むしろもっと大きな声が…英雄に祭り上げられた高町なのはに汚点を着せた高町速人を必ず捕縛しようと『励ましてくれる声』が、なのはを追い詰めていった。

 

 

なのはは信じてた。速人が襲撃事件などわけもなく起こす筈がなく、死んでなんか居ないって。

なのはは信じる顔でいる訳には行かなかった。被害を出した襲撃者と称されるものを身内だからと庇う体を部下や仲間に見せる訳には行かなかった。

なのはは作った。ヒーローと称されるだけの『力』を持ってる速人とリライヴを、エースオブエースとして倒せるようになろうとする自分を。

 

 

次の日の休暇を無理矢理に捻じ込み、御酒をみっともないくらい飲みながら、崩れたなのはの話をひたすらに聞いた。

当然ながら翌日は二日酔い他で私もなのはも使い物にならず、ヴィヴィオは休みの日だったのに、呆れながら私達の介抱についてくれた。

 

痛む頭でベッドに横たわって、落ち着いたなのはが苦笑しながら話す。

 

「…今更、気付くなんてホント馬鹿だよね。」

 

なのはにとって、速人がどれだけ大事で、失う事に耐えられない者だったのか。

強がり、頼らないようにしながら、呼んでも叫んでも届かないとなって初めて気付く。

 

きっと、どうしようもない本心と期待の摩擦に晒されながら、ずっと速人に戻ってきて欲しかったんだろう。

 

「仕方ないよ、私だって…未だに現実味ないんだから。私よりずっと速人を信じてきたなのはが、失う想定なんて出来る訳がない。」

 

信じる、と言うよりは想像できないって言うほうが正しいかもしれない。

 

PT、闇の書、JS事件。

 

あれだけの難事件の数々を、誰よりも無茶しながら殆ど犠牲も出さずに解決してきた救いの象徴みたいな速人が、まさか破壊行動に移った挙句誰かも分からない相手に重体を負わされ消息不明になるなんて。

 

「でも…そう思うなら、今度あったらちゃんと素直に話さないとね。」

「…うん、そうだね。会えたら…ね。」

 

力なく答えるなのはに、これ以上の気休めは届かないと思った。

あの速人が死んだなんて思えないけど、そもそもこの一件も想像していなかったんだ。

想像していなくても起こる悲劇なんて山ほどある。だからきっと、軽口を繰り返しても安心は出来ない。

 

 

 

 

何も言えない。

言った所で安心も出来ないし、頼れと言って頼るなのはじゃない。

 

だから…出来る限り、傍に居て、力になる。

何にも気付けず独り泣かせる事にならないように。

 

回想を止めて目を開くと、シグナムが私の顔を見ていた。

 

「え、えと?」

「…いや、それで気が張るのならかまわん。お前とヴィータに任せるとするさ。」

「あ?」

 

小さく笑みを浮かべるシグナム。傍にいたヴィータが睨むようにしてシグナムを見るが、シグナムの方は気にもしてないようだった。

 

どうやら、なのはの心配しているのは見透かされているらしい。

いけないいけない、仕事は仕事できちんとやらないと。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 




今のなのは達とそれにつりあう敵陣に挟まれるって…ハードモードで済まない気が(苦笑)
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