余録・課題『限界突破』
Side~八神はやて
直接会話をするには、フォートにも必ず聞かれるリベリオンとの会話。
そういう訳でかは知らないが、何故かリベリオンから『通信』で文書が届けられた。
その内容は、フォートのマントは速人君がCW社襲撃を『行う前』に事前にリベリオンに伝言と共に預けられていたもの。
つまり、後継と言っても別に速人君の『遺物』では無い…つまり、死んだから着てる、という訳ではないという事が一つ。
なのはちゃん達に心配かけるようなら教えてもいいとの事で伝えられた。
そして、それに伴う情報と、頼みごとがその文書には添えられていた。
何かあったから渡されたわけじゃないと言う事は、フォートには、マントを預けられるだけの…速人君が『合格』を言い渡す、少なくとも直前位の『何か』が出来かけているらしいという事。
リベリオンも詳細は知らないらしいが、それを目覚めさせるのに少々無茶をさせてやって欲しい、という依頼だった。
話に聞く速人君から出されていた訓練、どう頑張ってもぎりぎり『出来ない』と予想される課題を与え、心折れそうになったらフェアレの写真やら映像データを使った挑発を繰り返し、極限状態だろうと折れない精神を作ったらしい。
鬼のようだが速人君の気持ちも分かる。
自分が目指している段階のものに『なろう』って言う者が現れたんだ、それが本気だと言うなら、自分が辿った道以上はこなして欲しいと思うのも無理は無い。
こなしてきたのは基本的に、基礎鍛錬か戦闘訓練。
それらで、どう頑張っても今のフォートに出来そうも無いレベル。
なのはちゃんは一度倒した。
ウチのエースのことごとくを叩き潰してきた薊を押し切った。
そんな彼が、どう頑張っても出来そうに無い事を課題としてあげて欲しい…意外に難題を願われたんじゃないだろうか。
「ま、やりようはあるけどな。」
浮かんだ考えが無茶すぎて、苦笑交じりに呟く。
問題は…教導官様が引き受けてくれるかどうかやなぁ…
Side~トーマ=アヴェニール
「いやいやいやいやっ!無茶だって絶対!」
あまりにも馬鹿げた模擬戦の話に俺は意気揚々と準備を進めるフォートを思わずとめた。
リリィが喋るのも躊躇うようにがくがくと首だけ頷かせて俺に同意する。
なのはさん、フェイトさん、シグナム一尉、ヴィータ教官による4対1。
一人一人がPチーム全員でかかって勝てるか怪しい、特務六課最大のエース4人。
普通に対でやって勝てる気があんまりしないフォワードの皆、スゥちゃん達の『師』ってだけでそのレベル考える必要もないほどで…
「つーか、お前はそんな事言ってる場合じゃないんじゃないか?一対一で怪しいエクリプスドライバーってのも格好つかないだろ。リアクトした時点で二対一みたいなもんなのに。」
「う…ぐっ…」
痛いところを突かれる…どころの話でなくて。
感染者の補正がある事を考えたら素の実力を十二分に補ってくれるはずなんだから、それで役に立てないとどれだけ実力不足なのかっていう話になる。
「ま、俺も俺で止まってる訳にも行かないんだよ。コイツの後継としてな。」
背中に足されたマントを指して笑顔で言うフォート。
検査が済んで一緒に模擬戦を観戦する事になったアイシスがそんなフォートを見て呆れたように肩を竦める。
「もー、ホント子供みたい。ま、かっこいいとは思うけどね。」
「本職の服飾人お墨付きならくれた人も喜ぶだろうな。」
まるで心配してる様子がないアイシス。
確かに味方同士の試合だしフォートがぼこぼこにされるだけで特に心配は…いや、嫌だけどそれも。
誇らしげにマントをしているけれど、噂の高町速人さんのものって事くらいしか聞いてないから、それがどれだけ重いものなのか俺にはよく分からない。
ただ…いきなりこんな無理難題を貰うほどには重いんだろう。
それは分かるんだけど…
「よし、それじゃ…行ってみるか。」
絶望的な試合に挑むにはあまりに意気揚々としたフォート。
重い物なのは分かるけど…現実問題、マント一つでそこまで桁違いの差が出るわけないのに…
Side~フォート=トレイア
隊長格四人を前にたった一人立つ。
壮観だな…とはいえ、アイツなら何とかできるって言うなら、尚更俺だけこの程度の事で俯く訳には行かない。
「好みじゃねーけど…部隊長と教官直々の頼みだからな…全力で潰すぞ。」
「容赦はせんぞフォート、奴と本気で並ぶ気ならば凌いでみせろ。」
デバイスをこっちに向けて交戦意欲を示す騎士二人。
俺はそれに笑顔で頷く。
「こっちは気にすんな、そのほうが都合いい。フェイトさんもな。」
「えと…うん。」
魔法戦好きなほうではあるが同時に隊長格の中では一番優しいフェイトさん。
4対1って状況に少しばかり引け目とかためらいかそういうものがあるらしく、乗り気じゃない様子だ。
そして…
「じゃあフォート、準備できたら始めるから…仕掛けてきてね。」
やたらと楽しそうな教導官…アイツの妹、高町なのは。
反応はそれぞれだが、指示を出した部隊長含めて共通の見解があるんだろう。
高町速人相手なら、この組み合わせで戦っても大丈夫…って見解が。
「不可能への反逆を…行くぞ、リベリオン。」
『はい、マスター。』
俺は二本の剣を展開して、アイツの影を越えるべく四人のエースに向かって挑みかかった。
右の剣を振り上げ、真っ先にシグナムさんに斬りかかる。
が、両手でレヴァンティンを手にしているシグナムさんを押し切れるわけもなく、難なく止められたどころか、身体ごと泳ぐように弾かれた。
「ぶっとべぇっ!!」
「っ…」
ヴィータさんがグラーフアイゼンを思いっきり振るってくる。
左の剣で受けるが、そのまま飛ばされる。
止めようと踏ん張れば剣ごと身体まで砕かれる。
この辺は咄嗟の判断…と言うかもうただの勘だ。
飛ばされつつ魔法発動、高速移動で空に…
「っ!?」
「はぁっ!!」
行ったんだが、下にいるシグナムさん達にバレットスコールを叩き込もうと思ったのに、そんな事してる暇もなく先回りしていたフェイトさんに叩き落され…
展開された仮想建築物のビルに叩き込まれた。
Side~フェイト=T=ハラオウン
高速移動で私の先を行ける訳も…って言うか、この4対1自体無茶が過ぎる。
よくよく反応はするから頑張って防いだけど、私の一撃で剣がくだけてたし、ビルにめり込んだ時点でさすがに終わっ…
「シュート!!!」
「え?」
ビルを打ち貫くようにして、なのはが砲撃を放った。
斜めから貫かれて、轟音と共に崩れ落ちるビル。
いや、ちょっ…
凄惨な光景から目を逸らすのも兼ねてなのはに視線を移すと、その眼前に迫る影が見えた。
「さっすが!」
フォートが、剣を手になのはに斬りかかっていた。
プロテクションで受けたなのはは、楽しそうに笑っている。
シグナムがフォートに向かって背後からレヴァンティンを振りかぶって斬りかかる。
フォートはなのはのプロテクションに振り下ろしていた右の剣を、振り返りながら横に振るってシグナムの斬撃を凌ぐ。
左腕にはブースターを展開しているフォート。そのまま旋回の勢いを利用して拳…ではなく、開いた掌をシグナムの顔面向かって伸ばした。
かわしたシグナム。その背後で揺れるポニーテール。その束を掴んだフォートは…
「お前…っ!?」
「はああぁぁぁぁっ!!!」
右手から剣も手放したフォートは、両手でシグナムの髪を掴んで…ブースターを吹かして空でぐるぐる回り始めた。
傍にいたなのはが距離をとってシューターを放つ。
3発の誘導弾の内2発を、回りながらシグナムをぶつけて消すフォート。
一発は当たったけど、無視して振り回していたシグナムをなのはに向かって放り投げた。
避けるまでもなく命中せず、シグナムはある程度飛ばされた後姿勢を立て直した。
慣れない事が下手なあたりはフォートらしい不器用さだ。
でも…
「らあぁぁっ!」
グラーフアイゼンを振りかぶって向かっていったヴィータ。
それが振るわれたと同時に、フォートはヴィータとの距離をゼロにして…
脇腹に柄が食い込むのも無視して、ヴィータの顔面目掛けて額を叩き込んだ。
「フォトンバスター!」
「っぶぁ!!」
顔面…目付近に強打を受けて視界の閉じた一瞬に直射砲撃を放り込むフォート。
防御をする余裕なんてなかった。
なのは級の砲撃なら、いくらヴィータでも今のタイミングじゃ終わってたかもしれない。
フォートの出力が低いから、ダメージを受けた程度で済んでるけど…
『テスタロッサ、アレは間違いなく奴を継ぐ者だ。遠慮はいらん。』
呆けてしまっていた私に、シグナムからの念話が届く。
思わず見ると、髪をつかまれてのジャイアントスイングに、首への負荷が大きかったのか首の付け根を押さえて首を回しているシグナムの姿があった。
確かに、見てる場合じゃなさそうだ。
上手かった訳じゃない。シグナムの一撃を逸らしたのも、別に特別技巧があったとかじゃなくただ剣を振って当てただけだし、砲撃も特殊な効果もない。投げも外すし…
ただ、単純に積んでいる。
これだけの人数と…強い相手との戦闘経験を。
行こう。
過ぎた多対一だけど…気にしていい相手じゃないと、認めてあげないと。
Side~フォート=トレイア
分かってはいたが、この4対1はデタラメだ。
ひっきりなしに斬られる殴られる、受けても剣が砕ける、離れようにも俺より速いし、離れられても撃たれる。
多対一用の訓練ってだけならレヴィ、シュテルとの2対1や、ディアーチェ生成のゴーレム集団のど真ん中から戦闘開始とかはやったけれど、自分より上の近接型に囲まれた挙句射砲援護つきってのはさすがに経験がない。
とは言え…ここで折れてはられない。
アイツに出来るって言うのなら…そんな所で止まっていられない。
右手に剣、左腕に二重構造盾。
こっちに接近する三人の内、一番先に来ているフェイトさんに向かい、その距離を即座につめるようこっちからも接近。
作戦も何もない。考えたところでどうせ相手が上回る。教官二人もいるし。
ただ、三対一を射砲を警戒しながら待つよりは近い順に迎え撃ったほうがいい。たったそれだけの判断だ。
フェイトさんが手にしているのは二本の剣、高速系のフェイトさんが今一番よく使う形態だが…武器に合わせて対応を変えられるほど器用でもないから、これも知った事じゃない。
なら何をするのか?
決まってる。
集中して覚悟して、相手の間合いに入る。ただそれだけ。
振るわれる右の剣。
俺はそれを、左の盾で受けずにただ鍔元近い位置に左手を伸ばして掴ん
通電。
身体を走る電撃に神経が狂い視界がぶれる。
痛み、フラッシュバック、駄目だ、勝てない、無理…
『そうそう寝ておけ、お前のお姫様は俺がちゃんと連れてきてやるからさ。ハッハッハ!』
ひらひらと、フェアレの写真を手にしながら高笑いまでしてくるあの馬鹿野郎の姿が頭に走った。
「…誰がお前なんかにっ!!!」
「え!?」
剣から左手を離し腕を伸ばす。
刀身を掴んでいた手から滲んだ血を伴った掌がフェイトさんの顔面を掠める。
伸ばしていた腕を途中で止め、肘を曲げて今度こそその顔面へ。
「紫電…」
右側面から、シグナムさんが向かってきていた。
剣で受けるのは…間に合わない?そもそも保たない。
「一閃!!」
容赦なく振るわれた炎の一撃。レヴァンティンの先端を、剣を手放した右手の裏拳でそらす。回転をそのまま宙の剣を左手で掴んで、剣を振り切って泳いだシグナムさんの身体目掛けて突き出す。
「そろそろ墜ちやがれっ!」
次いで飛来するヴィータ教官。
まともに受けたらお陀仏の鉄槌、それも重さの為逸らすのも剣と違って容易じゃない。
横薙ぎのソレを、少しだけ下がってかわせる距離をつくり、盾を手にした左腕を差し出す。
左足は魔法陣を展開して接地。
鉄槌を盾で受けたと同時に逆回転、旋回から右手に持ち替えた剣を横薙ぎに振るう。
ヴィータ教官の背中に届いた。
後は…
「エクセリオンバスター・ヴァリアブルレイド…シュート!!!」
いつの間にか周囲を囲むように散っていたビットと遠くから俺に狙いをつけたなのはさん本人の砲撃魔法。
両腕に大盾を展開、かつ防御魔法を構成。三面を守り…
全部砕け散
「プラズマスマッシャー!!」
間髪いれずに放たれた雷砲撃が、朦朧としていた俺の意識を完全に断ち切った。
Side~アイシス=イーグレット
「くそっ…」
『これを負っての敗北は、許されるものではありませんからね?』
「分かってる、ましてや速人がいないんだ。」
業後にズタボロにされたフォートの様子を見に行くと、とんでもない台詞を吐いている真っ最中だった。
一人一人が化物の4人相手にあそこまでやれれば十二分だって言うのに。
「まぁそんなへこまなくても。むしろヴィータ教官の方が面白くなさそうだった位なんだから、大した戦果だったと思うよ。」
「へこむって言うか義務に近いからな。こいつを任されて妥協は出来ないのさ。」
赤いマントを示してそう言うフォート。
噂の速人って人なら本当にあの4人と戦って勝てるのかな?もうそれ人間じゃない気もするんだけど…
「ちなみに、俺達は3対3やって負けてきた。」
「言わなくても…いい線行ってたじゃん。」
しょげたトーマがさっさと言ってしまうPチームの戦績。
フェイトさんは褒めてくれたけど、フォートのあれの後じゃ正直胸は張れないのは確かだ。
いい勝負こそ出来てたけど…結局負けてるしなぁ。
「ま、エクリプスの一件が解決するまではきっちり守るさ。」
自信満々に告げるフォート。
負けてるって言っても4対1のフォートとあたし達じゃ意味が全然違う。
早いとこ追いつかないと、ホントに守られてたら手伝う事もままならない。
SIDE OUT
速人達からデータや伝言を貰っているからなんですが…デバイスが暗躍するって(汗)。