記録三十・明かされた優しい裏切り
Side~エフス
「形質不明のフィールド防御を確認、攻撃力主体で戦闘を続行します。」
「ち…っ、まだだ!」
降り注ぐ色とりどりの魔力弾を防御任せに凌いで魔法を構成。
「ディバインバスター!!」
近場の一人…覇王の系譜の娘のクローンに向かって砲撃を放つ。
拳でかき消された。
記憶転写、改竄等の調整によって出鱈目な高難度技以外は普通に使えてしまう以上、余程特殊な相手でない限りほぼそのままの戦力だ。
「っ!?」
バインド使いのクローンによって拘束される。
競技者ほぼそのままの戦力と…5対1。
CAシリーズも逃がしていると言うのに…このままでは彼女も結局…
転送魔法を感知した。
高出力砲撃魔法を準備していたクローンが、転送反応の方に照準を切り替えるが一瞬遅く、直撃を受けるクローン。
バインドを破り距離を取ると、転送されてきた奴の姿が目に入る。
「色々と聞きたい事もあるにはあるが…とりあえずフェアレの頼みが先だ。助けてやるよエフス。」
今、尤も見たくなかった奴の…フォート=トレイアの姿がそこにあった。
Side~フォート=トレイア
壮観だった。
二回三回と転移を重ねて顔を出した先に居たのは、いくらか知った顔だった。
高町ヴィヴィオとアインハルト=ストラトス。
それから、確かエルス=タスミンとか言うバインド使い。
誰も彼も全身タイツみたいなのを着て無表情で並んでるあたり、趣味の悪い人形館みたいだ。
後二人…出てすぐ砲撃打ち込んだ奴ともう一人はよく知らないけど、競技選手かなんかなんだろう。
「フォート=トレイア…戦力評価A+。任務続行に支障なし、殲滅します。」
「おいこらA+な訳あるか、薊に打ち勝ったってデータに入れとけよ。」
「人形相手に抗議している場合か!何しに来た貴様!」
叫びつつこっちに来るエフス。
疲れは見えるが目立った怪我がない。
妙な虹色の光に包まれているが、この防御膜のお陰だろうか。大した戦力だ。
考えている内に、ヴィヴィオが迫ってきた。
接近しながら放たれる砲撃魔法を盾で受けると、宙に現れた魔法陣から出て来た鎖が俺の身体を拘束する。これはエルスって奴の魔法か。
動けなくなったところにヴィヴィオが拳を放り込んできた。
下から、顎に直撃。
したと同時に、例によってシュートエッジで鎖を切った俺は、顎を叩いた拳を左手で掴む。
頭を揺らして意識を飛ばす類の攻撃は、見慣れていると言うか喰らい慣れていると言うか。
喰らう前提でこらえて、ふらつく頭を無視して反撃。
「主人公必修!前、下、前下Pコマンドッ!!!」
そして、ブースターをつけた右腕を全力で振り上げた。
綺麗に急所とか選んで狙う技量が俺にあればかえって止められたのかも知れないが、俺の狙いが変だったらしく、鳩尾を庇うようにガードの体勢を取った腕をかすり、胸の間を、喉を削るように擦っていった後で深々と顎を跳ね上げ吹っ飛ばした。
打ち上げられてくるくると回ったヴィヴィオのクローンは、それでそのまま墜ちていく。
あ、やりすぎたか?下砂漠だし大丈夫だとは思うけど…
「お前な…やるなら真面目にやれ。」
「文句は速人に言え、アイツが『コレは必修だ』とか言ってただけだ。さっさと残り片付けるぞ。」
「脅威認定、フォート=トレイアの排除を優先します。」
今更ながらに俺を脅威と判定する人形4人。
4対2だから不利って言えば不利なんだが、六課の化物相手の4対1とかやらせてもらえてたお陰でそんなに脅威を感じない。
色々と聞きたい事はあるが、とりあえずこいつらを黙らせよう。
強敵を引き受けてさっさと俺を送ってくれたルーテシア達も危ないしな。
Side~アイシス=イーグレット
ああもうなんだかついてない!
あの娘はフォートを一体なんだと思ってるのかってとんでもない頼みごとをするし、それが泣きながらだからか、それとも元々そのつもりだったからか、笑ってエフスとか言う奴を助けに行っちゃうし。
フッケバインとトーマを会わせないいい理由になるからかPチームとして一緒に来れたはいいけど…
「シューティングスター。」
堕天使の相手なんて聞いてないしッ!!
首から上だけ出た全身タイツみたいな白いボディスーツを着込んだ無表情の堕天使に弾幕を撃たれ、あたしはトーマと揃って防御体制をとる。
「でええぇぇぇぇぃっ!!!」
「『ディバイド!!』」
振り注ぐ魔力弾幕を、トーマのディバイドとあわせて防御するも、何発か抜けてくる。
ちょっと待て冗談じゃないっ!多重弾核でもないのにディバイドと防御纏めて抜いてくるような出鱈目弾幕なんて喰らったら絶対死ぬ!!
「くっ…カート達にディバイド制御とかも習ったのに…」
「上出来だ!」
どうにか凌いだだけのあたし達に声だけかけて空を翔けるのは、フレア空尉。
あたし達だけで勝手は出来ないって事で、例によって直接戦力の空尉と、補助移動のルーテシアちゃんが一緒にいる。
つまり4対1…って言うか、融合してるリリィも含めて5対1。
十分だから先に行けってフォートを送ったんだけど…
フッケバインの一人をただの魔力攻撃力で貫いたらしい空尉の槍と片手剣で打ち合っている。
化物だ…空尉も大概だけど、アイツ絶対化物だっ!
「っ…ランブリングスパロー!!」
斬りあいを続けさせておく理由はない。背後から爆撃してやろうと火薬鳥を飛ばす。
爆発の瞬間に強く輝いたと思ったら、いつの間にか目の前に堕天使の姿があった。
バーストモードとか言う奴か!滅茶苦茶だ!
「おおおぉぉぉっ!!」
あたしを押しのけるように進み出たトーマが、振り下ろされる剣を受けてあっさりと左腕を切断される。
が、無視したトーマは更に接近して…
「喰らえ零距離!シルバーハンマー!!!」
砲撃を放つ。
一瞬の事だが当然のように防御魔法を展開する堕天使。だけど、零距離でディバイドの効果が強いからか、大して強度もなく簡単に貫かれた。
「ったく、男の子は皆無茶するんだから!」
愚痴るようにいったルーテシアちゃんが、斬れたトーマの腕をインゼクトに運ばせつつ、魔法陣を展開する。
「こっちも本物に教わってるのよ!シューティングスター!」
「ストレートバスター・フィフス。」
「え、あ、やば…っ!」
同じ規模の弾幕を放ったルーテシアちゃん。
それも凄いけど、堕天使の方が弾幕を飲み込むような砲撃を五指からそれぞれ放つ。
砲撃を弾幕で止められるわけもなく、慌てて防御魔法を展開するルーテシアちゃん。
直撃して5発は防ぎきれないと思ったから、爆薬を飛ばして防御魔法と砲撃の中間で炸裂させた。
ちょっとでも勢いなり威力なり削げればと思ったけど…
「大丈夫ですかっ!?」
「ど、どーにか…ありがとアイシス。」
どうやら上手く行ったらしく、荒い息をついているものの無事のようだ。
散々悪態をついておいてなんだけど、そんな事よりも思うことが一つ。
あの全身タイツみたいなのに、機械と見まごう無表情。
どう見ても確実に鎌を持ってたアイツとも違うし、噂に聞く本物とも違う。
つまり、これは偽物で…
つまり、これ…何体も出来てる可能性が…
嫌な想像、頭から振り払いたかったけれど、先に行ったフォートがエフスを救う…救う必要がある状況に陥ってるのなら…
早く片付けたいけどそれも叶わない相手に歯噛みしつつ、ただフォートの無事を祈る位しか出来なかった。
Side~フォート=トレイア
連携のなってない、技と魔力だけコピーしたような出来損ないに囲まれながら襲い掛かられたが、エフスに拘束してもらって俺が叩き落すと繰り返して、アインハルトのクローンのみになった所で、放たれた断空拳をかわして腕を掴む。
「さすがに強打は見えるからな!」
ブースターを使ってのジャイアントスイング。
中々便利だが、狙っても大体しか上手くいかないから、大体で狙える範囲を狙う。
つまり…下、砂の地面。
途中で投げて、地面に向かって吹っ飛んでいくクローンに狙いをつけて直射砲撃。
元々重力を加算される形で下方に投げられていた状態で砲撃まで受けたクローンは、砂漠にめり込んで動かなくなった。
一応、魔法攻撃は非殺傷設定にしたが、エフス曰く薬品と洗脳で指令に従って動くしか出来ない人形にまで貶められているとか。
無傷で止めた所で助からない…と言うか、元々人間として作られていない、細胞を『材料』に生産された文字通りの人形らしい。
「っておい、何処に行く気だ。」
物悲しい気分を味わっている間に転移魔法を準備し始めていたエフスの腕を引っつかむ。
ついでにリベリオンの機能を使って拘束具を展開。俺とエフスの腕をがんじがらめにした。
無理すれば引きちぎる事も出来るかもしれないが、これで簡単には一人で転移はできない。
エフスは不機嫌そうに俺を睨む。
「局に捕まるつもりはない。」
「そうは言ってもフェアレは局に転送しただろ。お前アイツをおいて何処に行く気だよ。」
「彼女から何も聞いていないのか?」
妙な話の振りに、元々あった疑念が強くなる。
今更遅すぎたと散々に言ったのはコイツ自身のはずだ、なんでその今更になって心変わりして、管理局にフェアレを逃がしたのか。
「以前の話…殆どは本当だ、だが…お前の事を忘れている事とあの口づけに関してはただの芝居だったんだ。」
「は?」
急な事実に頭も身体も硬直する。
芝居って…何でそんな…
「考えても見ろ、女性にとってはかなりのファクターを締める見た目を失い、脳を改造されて体にも障害を残し、挙句記憶まで削れていく、いつ失うか分からない。そんな状態の自分の為に尤も大切な人が命を削り続けるなど、彼女が受け入れると思うか?」
何でも何もなかった。
フェアレはそういう奴だった。
ああ…そっか…
ずっとごめんっていい続けてたのは…俺の事を忘れたとか言ってたのに、妙にその姿が、対応が懐かしかったのは…全部全部、泣き虫で傷つきやすいくせに、俺や周りの為に気を回す、弱くて優しいあいつそのままだったからで…
俺を死なせない為に、俺に苦労をさせないために、あえてそんな汚れ役を演じたのか。
「分かったらさっさと帰れ。フェアレが助かった今、彼女の一番大事なお前がいれば…がっ!?」
馬鹿な事を喋り続けるエフスと繋がる腕を引っ張って、額目掛けて頭突き。
こっちも痛いが、俺の方は慣れてるので特に問題ない。
「助けに来た、って言ってんだろうが。大体お前こそ、捨て身で自分を助けた奴が死んだりまた犯罪者になったりしてアイツが笑えると思うのか?」
「…管理局に捕まれと?」
苦い表情で聞いてくるエフス。
フェアレを逃がした、ってだけで無罪じゃないんだ。投降すればその分マシな扱いにはして貰えるだろうとはいえ、捕まるのは避けられない。
「ペナルティなし…ってのは無理かも知れないが、多少の刑期を片付けるだけで済むようにはさせてやる。約束するし、俺は約束を守る。」
「お前…」
不満気なエフスだったが、俺が約束を口にして驚いたらしく俺を見て呆然としている。
約束に従って5年間フェアレを追い、芝居に騙されて尚やり通そうとした俺の『約束』だ。
それなりに信憑性はあるらしい。
「で、自由になったらお前には、『フェアレの友人代表』で俺とアイツの結婚式に参加してもらうぜ。」
「…大したありがた迷惑だ。」
イタズラっぽく笑った俺に対して、エフスはどこか諦めたように肩を落とした。
Side~フレア=ライト
質のいいクローン。
本物と同じ出力、同じ魔法を使用する出来のいい器。
使用する魔法も同じ、技もある程度再現してくる、出力等のスペックは本物と比べても劣らない。
だが、やはりと言うべきか…
「拙い。」
「っ…」
振り下ろされた剣とすれ違うように突き出した槍が、クローンの肩口を捉える。
同じスペックの同じ武装の機体を別人が操縦している…と言うべきか?
修行も模擬戦も行っているから分かる、奴とは狙いも気迫もまるで違う。
バーストモードにて即座に距離を取るクローン。
そして、そのまま魔法を準備する。
撃たれてしまえば魔法の質は変わらない。ただ適当に乱射されるだけでも奴の魔法はかなり厄介だが…
「銀十字!」
「ハミングバード!!」
近距離での交戦を避けていた見習い組が援護の準備をしていたため、離脱直後に追撃が入る。
防御されてダメージは通らなかったが、その時間があれば十二分。
ルーテシアによる転送魔法で、私をクローンの背後に転送して貰う。
完全に不意をつけた。
「アブソリュートランサー!」
「っ…が…」
突き出した渾身の一撃は、展開された防御ごとクローンを貫いた。
一応は、即死を避けるため急所は外したが…
「ちょ、ちょっ…大丈夫なんですか?」
「た、逮捕ですまないんじゃ…」
『感染者じゃないんですよ?』
見習い組からの抗議の声が強い。
多少感染者相手に惨状を見慣れたとしても、死者が出て無感情に流せるような有様にはなっていないのだろう。
職務には邪魔になりかねない感情だが…今、私に人の事は言えんな。
「ルーテシア、少々診て貰えるか?」
「はぁ…了解です。」
呆れ半分だが、しぶしぶクローンを受け取るルーテシア。
さすがに彼女も、このクローン相手に手加減する余裕などないとは理解しているのだろう。
無傷で捕縛…などと考えれば、逆に此方が何人死ぬか分からない。
斬り結べれば勝てるとは言え、リライヴの保有魔法は全力で扱われればそれだけで触れることもままならないほど凶悪なものばかりなのだ。
それに…
「やっぱり…駄目です。」
「…そうか。」
悲しげに首を横に振ったルーテシア。
詳しい事情までは聞いていないはずの見習い組の面々も、空気を察したのか黙り込む。
脳を脳としてまともに機能させられず、薬漬けか洗脳の結果か、操り人形のように組み込まれた指令や信号に従って動く人形と化しているクローン体。
心臓や自律神経が機能していない訳ではないが、『自分の意思』が働かない脳死状態で動いているような生肉で作られた機械のような有様。
スバルが突入した際に見つけたクローン体が同じ状態だった事から、おそらく救えないとは予測していたが…だからと言って初手から無闇に殺害にまでは走れない。
感染者が『生死問わず』の対処対象だと言うのに妙な気遣いだが、その辺りは公務組織の都合と言うものだ。
「む?」
「転移反応?」
唐突に現れた転移魔法の反応。
新手の来襲かと一瞬警戒するが…
「なんだ?片付いてるな。」
現れたのはフォートと、今回の救助対象のエフスだった。
ダメージを負っているのを見る限り、交戦もあったのだろうが平然としている。
単騎で先行した割にやるな、さすが奴の残した切り札だけの事はある。
それなりの危機ではあっただろうに目的をさっさと済ませたフォートに、私は少しの懐かしさを感じていた。
SIDE OUT
普通の老化でも性格暗くなったりするそうなので、顔半分改造されたら衝撃的…ですまないかと(汗)。