なのは+『心のちから』   作:黒影翼

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記録三十二・フォースドライブ

 

記録三十二・フォースドライブ

 

 

 

Side~フォート=トレイア

 

 

 

混戦の中、俺は苛立ちを感じていた。

 

「っ…」

 

飛来する無色の魔力弾をどうにかかわして撃ち返す。

が、こっちはあっさりかわされた。誘導性も何もないから当たり前といえば当たり前だが。

 

苛立ちは別に敵を倒せないからじゃない。大した才能も無い無能と評判だし、それでも足掻くと決めてここにいる。

だが…

 

「く…っそ!」

 

振り下ろされた剣をぎりぎりでかわす。

なんだ…さっきからなんか変だ…!

 

「はっ!」

 

振り下ろしで体が泳いで隙だらけのところに剣を振るったはずだが、ガードされる。

なんだよ…なんでこんなっ…

 

掌を翳される。砲撃魔法だ。回避、間に合わない。

動く、盾展開、固定無し、斜めの盾で受ける、吹っ飛ぶ。

 

体勢を立て直した俺は、銃を再展開して砲撃を放つ。

が、こっちのは不可視の剣の一振りでかき消された。

 

『何を苛立っているのですか?』

 

リベリオンから不思議そうな声が聞こえてくる。

確かに、俺が押されるのは割と日常的で当たり前の現象のはず、苛立ちなんて感じる理由はない。

 

もし理由があるとすればそれは…

 

一瞬だけ、エフスが他のクローンから守っているフェアレの姿を見る。

 

『自分の為に尤も大切な人が命を削り続けるなど、彼女が受け入れると思うか?』

 

エフスの言葉が思い起こされる。

俺が命を削り、危険な戦いをしてきた事が、フェアレがあんな芝居を演じる事になった理由。

 

 

早い話、俺の実力がフェアレに不安を抱かせる程度である事が理由。

 

 

フェアレが嬉々として語っていた都市伝説のヒーロー、高町速人。

アイツと同じだけの…アイツを超えるだけの力があれば、そもそもフェアレを不安にさせずに何でも幾らでも頼めるだけの姿でいられれば…泣きながら俺に謝って口付けの演技なんて真似をさせる必要なかったんだ…

 

だから…こんな所で…フェアレの目の前でっ!!!

 

 

 

「こんな有様でいられるかぁっ!!!」

 

 

 

俺は嫌な気分を振り切るように二丁の銃を手に空を駆けた。

こっちからの、突進気味の飛行。当然丸見えの俺。

そこに、ちょっと避けた程度ではかわしきれないシューティングスターが放たれる。

 

何の備えも無い中放たれる弾幕、それは絶望的な攻撃。

分かってる、分かってるんだよ。こんなもの突っ込んで捌ける奴なんている訳がないって。

 

なのに…なんで…

 

 

『何でこんなに遅いんだ』よっ!!!

 

 

 

Side~ルーテシア=アルピーノ

 

 

 

とりあえず、連れてきたクローンの拘束等の処置を済ませて援護に来た私達が見たものは、弾幕に飛び込むフォートの姿だった。

 

 

確信があった、間違いなく『死んだ』と思った。

 

 

クローンとは言え出力や攻撃力は本物さながらのシューティングスター。

直撃は一発だけでも死ねるレベルの数百の弾幕。

防御魔法で凌ごうにも並じゃ防御魔法ごと抜かれるし、そもそも対多数技。

よりにもよって、その渦中に盾も無しに飛び込んで…彼の魔力値や防御力で無事に済む手立てなんてあるわけが無かった。

 

 

だから…

 

 

 

まるで通り抜けるかのように直撃する弾だけを撃ち壊しながら弾幕の中を抜けるなんて光景は、まるで信じられないものだった。

 

 

「…は?」

 

 

呆けている間に、接近を済ませたフォートが銃身でリライヴのクローンを殴りつける。

大魔法の中を直進されたせいか、さすがに回避もなにも出来ずに直撃した。

不可視の剣を使って反撃したクローン。だけど、横薙ぎをくぐるようにして避けたフォートは、その勢いのままに足を掴んでぐるぐる回って縦回転のジャイアントスイングみたいにクローンを放り投げた。

 

 

…いや待て、おかしいって。

 

 

動きがキレ過ぎてる。フォート自身はそんなに何かが上手ってわけでもないのにあんな反応や動きが出来るなんて、一つしか思い当たるものがない。

 

アクセルドライブ。

 

身内ではヴィヴィオとフェイトさんが使える、超反応の総称。

相手の動きが緩やかに見えるらしく、格闘戦では超能力者かと思うほ…あれ?

 

 

 

投げられて墜落したクローンの眼前に、『高速移動魔法』で現れたフォートの姿を見て、ある事を思い出す。

 

 

 

 

 

アクセルドライブなら…魔法使えないんじゃなかったっけ?

 

 

 

 

 

魔法を併用できないはずのアクセルドライブ、そもそも空に居る事も変だ。

決定的な弱点のそれがもし解決しているなら…

 

「ルーテシアちゃん!」

 

声をかけられてハッとする。

見てる場合じゃなかった、うろついて暴れてるクローンは他にも居るんだ。

 

 

理由は後でいい。ともかく、今のフォートはかなり頼りにして大丈夫そうだ。

 

 

他も襲われているんだ、私達で収めないと。

 

 

 

Side~フォート=トレイア

 

 

 

地面に叩き落したリライヴのクローンの頭を殴ったところで、自分でも訳が分からない程あっさりと押し切れた事に俺は首を傾げる。

 

『フォースドライブ。』

「は?」

『貴方用のアクセルドライブ…速人が辿りつかせようとしていた力です。』

 

リベリオンからの話に、俺は再度先の状態を思い返す。

そういやなんかやたら何もかもスローに見えたけど…

 

 

仰向けになっていたクローンが左手を動かすのが見えた。

 

 

此方にゆっくり向けてくる、多分射砲のどっちか。

左腕の肘に剣を突き立て、此方に伸ばせないようにしつつ、左足を振り上げる。

 

仰向けに倒れているクローンの鼻先に踵落とし。

 

やりすぎな気はするんだけど、確実に気絶させないと不味い上に魔力ダメージの通りはそこまでよくないから頭揺らさないといけない関係で顔狙いが多くなる。

剣で抑えていた腕が力なく落ちるのを見た所で、俺は今の動きを反芻する。

 

…うん、確かに、見てから動いて間に合うなんてのは普通におかしい。

でもなんか当たり前な気もする。まぁ自分の体が出来る事が自分で分かってるってだけだろう。

 

『浮かないようですね?』

 

リベリオンが不思議そうに問いかけてくる。

確かに、アイツが事前にマントをリベリオンに預けておけた本当の理由は、なんとなくでもこの域に達する兆しが見えていたからだろう。

 

つまり、名実共にこのマントを譲り受けるに値する所に、今辿り着いた事になる。

だと言うのに、喜ばないのは変に見えるかもしれない。

 

けど…

 

「足りない。」

『は?』

「アイツから貰った力でアイツを超えられてるとも思えない。ま、便利だから今は使ってくけど、そのうち超えないとな。」

 

先は見えない。

そもそも、この力だって今いきなり自覚した位なんだ。

それでもいつか…

 

「っと、いつかより今だな。」

 

まずはこの惨状を作ってるクローン集団をどうにかしなきゃならない。

動いてるラプターも大分数を減らされてきている、さっさと片付けにかからないとな。

 

 

 

Side~フレア=ライト

 

 

 

「…あの馬鹿ガキ単騎で堕天使のクローン落としやがったぞ。」

 

牽制役として遠距離攻撃を行っていた感染者の少女が呆けたように呟きを漏らす。

 

 

余所見をしている余裕までは無かった私は、それを聞いて硬直する。

クローンとは言え、スペック自体は本物と相違ない。

今奴が倒せるとは到底思えないが…

 

 

グレイブを握る手に力が入る。

薊にあしらわれ、速人の奴にも届かず…奴の残り物に頼りきり。

 

大切なものが出来た矢先にこの有様でいい訳が無い。

 

 

クローンが私に五指を向ける、おそらくは五発の砲撃。

 

 

「ブレイクブースト!!」

 

 

回避軌道を取ればかわす事も出来なくはなかったが、私は黒い光の柱と化して突撃した。

砲撃を身に纏って、自身ごと打ち出す直進突破用魔法。

 

普通に打ち合いで出力を比べあうことになれば間違いなく押し負けるが…五発撃つ分一発分の威力はどうしても低くなるフィフスバースト相手なら、一発なら相殺できる。

 

砲撃に向かって突撃してぶつかる。相殺した爆発の中を、更に飛行で直進。

 

迎撃に振るわれた剣を払い、そのまま突きを繰り出す。

槍がクローンの右肩を貫くが、空いている左手を此方に向けていた。

 

「舐めるな。」

 

突き刺さった部分を支点に槍を下げ、柄で左手を上から叩いて逸らす。

反転しながら槍を両手で持った私は、そのまま振り切ってクローンを地面に叩き落した。

 

左肩に向かって槍を投擲、動こうとしていたクローンをそのまま地面に縫いとめ、落下の勢いを乗せた下段突きを鳩尾に叩き込む。

血の塊を吐いたクローンはそのまま動かなくなった。

 

「…あんた等マジで化けもんばっかなのな。」

「デッドコピーに手間取ってはいられない、連れの目も覚めたようだし他を片付けるぞ。」

 

重傷を負っていた剣士の少女が、ディバイダーと思われる武器を手に立ち上がる。

さすがの回復力だ。

 

「命令するな、あたしの首領はカートだ。」

「嫌なら寝ていろ、逃亡しなければ特に咎めん。」

 

重傷を負ったのは逃げずにここで戦っていたからだろうに…未だ信じられている首領の器に少しだけ感心しつつ、私は他のクローン体を一掃に向かった。

リライヴのクローンが片付いたとて、ヴィヴィオや噂の覇王のクローン体も混ざっている。

本隊の離れた残りには荷が重い相手だ、早々に排除に回らねば。

 

 

 

Side~アイシス=イーグレット

 

 

 

ルーテシアちゃんとエフスが送還術を使って施設内から外へ生存者を転送して、あたしとトーマはその護衛遊撃についていた。

…流れ弾と言っても、AAAオーバーのメンバーの射砲撃。

直撃の結果いつ崩れるか分かったものじゃない屋内にいつまでも人を放置して置けないためだ。

と言っても、外に出したら出したで戦闘の真っ只中な訳で…

 

「でええぇぇいっ!!」

 

可燃物の先行射出から、酸素を織り交ぜる量を増やす事で爆発の規模を強化する。

広範囲を一気に爆破燃焼させる一撃が、文字通り爆音と共に空を埋める。

 

…数体一気に巻きこめるのはいいけど、正直直撃させたら全く無事で済む保証がない。

殆ど人形にされてるクローン体って言ってもちょっと気が引ける戦術だ。

 

「っ…おおぉぉぉっ!!!」

 

一方、トーマは近場でアインハルトって子のクローンと相対していた。

重い攻撃を繰り出しては来る彼女だが、感染者の再生能力と魔法阻害はやっぱり効果的なのか、削りあいで押していた。

 

あ、斬撃が入った。

斬られたクローン体の子はそのまま倒れて動かなくなる。

 

あたし達がついたのが…と言うよりは、堕天使のクローンが押さえられたのが大きかったようで、少しずつ事態も沈静化に向かっていた。

戦ってくれてたグレンデル一家にも感謝しなきゃならない…素直にはしづらいけれど。

 

少し離れた所で、フォートとフレア空尉が暴れまわっていると言うのがふさわしいくらいの勢いで次から次へとクローン体の人達を片付けていく。

 

空尉の槍は先端に触れれば殆ど防御ごと断ち切る上に近接技能も高いから分かるけど…フォートの方は、なんか妙な事になってた。

ジャブすら見えるんじゃないかと思うような異常な反応速度で高速移動魔法や射砲撃を行使している。遠目に見ていて、時々攻撃の発生に後から気付いて回避するなんて真似すらしている時がある。

思い返せば、無茶な多対一の中でがむしゃらに凌いだ中でそんな時もあった気がする。

今自覚して使いこなせるようになったってだけなのかもしれない。

 

なんにしても…凄いや。

あたし達だって頑張ってはいる筈なのに、一杯一杯まで既に鍛えていたはずのフォートに離されている様な気すらする。

 

一瞬、それも遠隔警戒だからそんなに長い間周囲から気を外した訳じゃなかった。

でも…その一瞬の間に、とんでもない事になった。

 

 

放置しておけずに近隣につれてきた堕天使のクローンが拘束を破って起きていた。

 

 

淡い光…魔力を全身に纏った、バーストモードとか言う異常形態。

単発出力に限界がある技に、収束砲撃のように外部に纏った魔力を上乗せして凶悪な威力を叩き出す技法らしい。

本物はコレで『星斬りの一撃』を放った事で白い堕天使と呼ばれるようになった。

 

オーバーSの魔力を剣一本に纏める事が出来ないからか、纏めて耐えられるデバイスにならなかったからか、彼女が放ってきたのは砲撃魔法だった。

 

 

それでも…凶悪極まりない一撃。

下手をするとスターライトブレイカー以上。ディバイドがあったからって受けられるものじゃない。

軌道上の地面をまるで砂糖細工のように吹き飛ばしながら、こっちに…

 

 

フェアレに向かってくる。

 

 

ルーテシアちゃんから『逃げて』と念話が響いた気がした。

判断、なんてまともに思考が回る時間は無かった。

 

あたしは、斜線上で防御魔法を展開するエフスと並んで防御の体制に入っていた。

 

物理破壊のこんな砲撃、二人掛かりだからって止められる訳も無い。

でも、彼女が死んじゃったら…

 

 

フォートの全部無駄になっちゃうのかなって、頭をよぎってつい割って入ってしまった。

 

 

あぁ…確か走馬灯って形でならアクセルドライブって誰でも入れるんだっけ?

ゆっくりと自分を確実に殺すだろう光の壁が迫ってくるのが見えるのは、なんかちょっとやだな…

 

 

 

 

 

赤いマントが目の前に現れて…え?

 

 

 

 

 

直後、あたしの少し前方で、大爆発が起きた。

 

 

 

 

余波だけを防いだあたしは、急激に現実に戻ってくるような感覚に襲われる。

間で受け止め、貫通だけでもさせなければここまで届かない。

 

けどそれは…今の一撃の力の全部をフォートが受けた事を示していて…

 

 

 

「ぁ…」

「フォートォォッ!!!!!」

 

 

 

 

声にならない現実に息が詰まる中、背後からフェアレの絶叫が響く。

漠然と、そんな声が出たのか、と思った。

 

あぁ…でもコレで、少しは報われたのかな?彼女が生きてる訳だし。

あたし達としてはたまったものじゃないけれど。

 

 

 

 

完全に視界を覆い尽くす魔力の残滓が晴れていき…

 

 

 

 

 

「ぇ?」

 

 

 

 

 

相も変わらず真紅のマントをたなびかせたフォートが防御魔法を展開して突っ立っていた。

 

 

…う…っそぉ?

 

 

 

Side~フォート=トレイア

 

 

 

回避じゃどうにもならない状況を前に、フェアレを中心に集まっている避難者全員を守りきるのに必要だったから、止めに入った。

 

別に知識があった訳じゃない。

ただ…『それが出来る』と思った。

 

 

 

遅い遅い世界、スローモーションに見える…認識できる世界。

 

 

『周り全てが遅く見えるほど脳が働いている』世界。

 

 

俺は当初からの才能の無さのせいか、はたまたフォースドライブとやらに辿り着くために必要な処置だったのか、模擬戦は散々やったのに高度な魔法技術を修得させられなかった。

 

高等技術からは程遠い、基本以下とすら言えるレベルの魔法。

演算制御により、発動する魔法。

そして、異常なほど加速している知覚速度。

 

 

 

 

耐え切れるだけの防御膜が張れないなら…砲撃の威力を殺しきるまで『防御魔法を連射すればいい』。

 

 

 

 

そんな馬鹿な結論に至って、それがあっさり出来てしまった。

スローモーションの世界の中、防御魔法が壊され拮抗した一瞬の間に同一箇所に防御魔法。

それを30回ほど繰り返した、ただそれだけ。

 

元々倒されていたのに無理をして限界だったのか、バーストモードで砲撃を放ったクローンはばったりと倒れて動かなくなる。

 

俺はそこまでを確認して一息吐いて、振り返った。

 

少し遠く面白い顔をして俺を見るアイシスとエフス。

その背後で残った右の瞳からボロボロと涙を零して呆然としているフェアレ。

 

 

 

「信じろ!!俺はお前を泣かせない!!!」

 

 

 

俺はこれを言い切るだけの資格であるマントを握って堂々と告げた。

速人はその場にすらいない人の死すら当然としていないんだ、この場に居て守りきらない訳には行かないし…

 

 

あの馬鹿みたいに居なくなって大切な人を泣かせる訳には行かないからな。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 




主人公(メインキャラクター)特権、技能入手回(笑)。
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