なのは+『心のちから』   作:黒影翼

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記録三十三・約束の場所で

 

 

 

記録三十三・約束の場所で

 

 

 

Side~ルーテシア=アルピーノ

 

 

 

絶対終わった、と二回は思ったのにあっさり乗り切ったフォートの馬鹿。

だけど、予想通りいつまでも格好はつかないようで、事態が沈静化した段階で倒れて眠りこけてしまった。

 

理由は、アクセルドライブにもある集中力の酷使による過度の疲弊と…魔力エンプティ。

低い発揮値の割には高い魔力量だけど、アクセルドライブのペースにあわせて使いすぎたんだろう。

 

終わったら早々に眠るのが通例なのかとフレア空尉が少し呆れていた。

でも、間違いなく彼が居なかったら相当の人間が無事で済んでなかったと考えると責められない。

 

 

施設が使い物にならないからって事で、フォートが眠っているのは彼の特等席…フェアレさんの膝枕。

当のフェアレさんも、外で布一枚引いただけのところに座っているのは足が痛むんじゃないかと心配したけど、フォートの為に出来るだけの事をさせて欲しいって本人の強い希望もあって結局そのまま。

 

 

後始末に追われてるアイシスが物凄く不機嫌だったけど、まぁ今くらい見過ごしてあげよう。

で、一方私の方は、フレア空尉と一緒にそのフェアレさんと集まっている、『チーム犯罪者』の面々の話を聞く事になった。

 

と言うのも…

ヴォルフラムに合流させろという要求が、よりによってエフスとカートから同時に出たためだ。

 

「何故だ?」

「んなもん決まってんだろ?お巡りさんの施設の何処に収監されんのか知らねーけどよ、本隊さんが居ないとは言え本拠地がこの有様なんだぜ?事件関係者としておちおち休んでも居られねぇよ、これじゃ。」

「此方も同じだ。彼女を無事返すために離反したが、雑兵に任せるわけには行かない。また、管理局の全てを信じてもいない。此方は英雄八神はやての部隊なら信が置けるし、行き先がエクリプス担当の責任者の元なら其方も問題はないはずだ。」

 

犯罪者が収監場所を選ばせろなんて、何を好き放題…と思わなくも無いけど、心当たりは無いでもない。

局でも、犯罪者なり扱いの困る人相手に冷たい場所もある。

規律馬鹿になって頭が固いのか、それとも犯罪者って面だけで端から見下しにかかってるのか。キャロもエリオも、フェイトさんに会うまでは素直に心を開けない面があったって話だ。

それにこの襲撃、ラプターを数機配備していたにも関わらず全滅して施設も壊滅なんて状況にされた戦力に狙われているとなると、変なところに預けられない。

特にフェアレさんは、今回最後殺されかかってる。調べられるのを避けるための処置か何なのか…とにかく放置は出来ない。

 

「ヴォルフラムはフッケバインを追っている、対エクリプスの最前線だ。その危険に巻き込まれる可能性があるのと、彼女達の重荷を増やす事になるという此方の問題がある。」

「許可が出るならば俺は特務に協力しよう。」

「俺等も…ロロは運転手なんでアレだが、元々坊主の教育協力は申し出て通ってんだ。出来る事はやるさ。」

 

フレア空尉の提示する問題に、戦力の提供という好条件を返すエフスとカート。

それに…これ以上を拒むと、離脱しかねない。

 

今このメンバーで更に彼等を完全捕縛するための戦闘を行い、感染者の拘束を見張りながら護送し、かつトーマ達だけはヴォルフラムへ…

 

そんな余裕ある訳ない。

 

エフスが転送を手伝ってくれるなら手早く皆を送り届けられるし、私とフレア空尉は元々別件を抱える身。

クローン体の出所や施設を追わなきゃいけない。その件に関して詳しく話を聞きたいけど、壊滅した施設でノンビリ話してたらいつ増援が来るか分からない。

どの道信頼できて連絡のとりやすい人の所に預けるほうが無難だ。

 

「空尉…」

「待て、通信だ。」

 

嘱託を抜けた程度の私の一存で決めるのはアレなので、空尉に許可を取ろうとした所で、通信が入った。

待てって言うくらいだから、大声で喋るような内容じゃない秘匿通信なんだろうけど…

 

「…ルーテシア、彼等をヴォルフラムへ合流させて聖王教会へ。私は直接向かう。」

「へ?あ、ちょ!」

 

言いたいだけ言って駆け出すフレア空尉。

ここの後始末とかどうすればいいのか混乱してて全く決まってないのに!

 

…まぁ意味なく仕事をサボる類の人じゃない、何か重大な事態なんだろう。

となると私も合流を急がないといけない。

 

次元転移が『出来る』ってだけならともかく、人を伴い、遠くに急ぎでって条件が増えれば増えるほど使用者は少なくなる。

同世界まで行けば乗り物は現地支部とかから借りたり、最悪単独飛行で行けばいいけど…とりあえず同世界までは飛ばさないといけない。

 

…向こうへの細かい説明は見習い組の皆に任せるか。

 

「コレ、ヴォルフラムの進路データと世界座標データ。転移準備しておいて、私はトーマ達を呼ぶから。」

「分かった。」

 

エフスは手早くデータを見て、転移先の地形情報なんかをカート達にもまわして転移準備を始める。

私もトーマ達が集まり次第、転送準備を始める。

 

「それじゃ、八神部隊長によろしくね。」

「うん、それじゃまた!」

 

元気よく返事をするトーマ。寝たままのフォートを含めて見習い組とフェアレさんを転送する。

エフスの方を見ると、既にグレンデル一家と一緒に居なくなっていた。

…フェアレさんは私が転送した訳だし、エフスの転移での移動になるからまさか今更逃げたりはしないだろう。

現地で一悶着起きる可能性はなくもないけど…フォートが起きればそれも何とかなる。

とりあえず転送術は移動が完了するまで術の制御をしてなきゃならないから、しばらくはここに居ることになる。

 

 

空尉、一体どんな通信受けたらあんな急ぎなんだろうな…

 

 

六課隊舎の襲撃といい、なんだか事件が急激に動き始めている気がした。

 

 

 

Side~カリム=グラシア

 

 

 

「フレア=ライト一等空尉、ただいま参りました。」

「お忙しい中及びたてして申し訳ありません、空尉。」

「気にかけていただけるなら飲食物は下げていただけると助かります。」

「空尉…!」

 

部屋に入るなり、扱いづらいが優秀な一兵と評判の空尉らしい言葉を…一見、告げたように見える。シャッハが失礼だとでも言うように睨みつける。

けれど、空尉からどこか焦りを感じた私は、逆に申し訳なくなった。

私がそれを片手で制すると、空尉は小さく頭を下げた。

 

「失礼しました。つい先刻隊舎壊滅の憂き目を目の当たりにし、事件も解決に向かっていない為落ち着いていられず…」

 

無辜の民を守る、と言う点では彼は他の局員より真面目な位だ。

隊舎内には給仕や事務の非戦闘員が殆どだ、被害状況もまとまってない中ノンビリ茶菓子を片手に会話はしづらいのだろう。

ただ…

 

「心中お察ししますが、どうか召し上がっていただけませんか?…少し位休まないと身体がもちませんよ。」

 

服装が防護服でないため分かり辛いが、傍目に分かる程度にダメージを負った身で、話を済ませたらまたすぐにでも飛び出しそうな彼をそのままでは送り出せなかった。

 

「…ありがとうございます。」

 

少しの逡巡の後、席についてくれる。

そうしないと私が話を進めないと思ったからかも知れないけれど、合わせてくれる分丸くなったといっていいのかも知れない。

 

 

 

「それで、ヴィヴィオとアインハルトが誘拐されたと言うのは?」

 

 

 

本題となる話を訊ねてくるフレア空尉。少し余裕が無いようにも見える。

…けれど、無理も無い。誘拐事案について捜査中で、知り合いの名前が挙がる…と言う意味でも、今のあの二人…局でも直接対決で倒せる人間など数えるほどの超一流になっている彼女達が居なくなったという点でも落ち着けないだろう。

 

ただ…彼が想像している事態とは若干異なる。

簡潔に伝えるために危機感を煽ってしまったみたいだ。

 

 

 

「事の発端は…昨日、競技者襲撃事件について注意を促した事でした。」

 

 

 

安心させる…と言うのは違うけれど、誤解を解くためにも速やかに話を伝える事にした私は、手持ちの資料を映し出して説明を始めた。

 

 

 

Side~高町ヴィヴィオ

 

 

 

「魔法戦競技者の襲撃事件?」

 

なのはママが大変な事件を担当している最中、私達…チームナカジマの四人はオットーとディードから最近起きてる事件の話を聞いた。

 

「ええ…辻斬りのように勝負とだけ言われ、次から次に襲われているのですが…物取りでも売名でもないようで。」

 

まるで一昔前の、私達と会う前のアインハルトさんみたいだ。

そう思ってチラッとアインハルトさんを見てしまい、思い出しているものが伝わったのか、アインハルトさんが恥ずかしそうに俯いてしまった。

 

「素性を明かさない為か深くローブを着込んでいて、その様相のまま魔法戦競技者を次から次へと破るほどの実力者です。」

「うわ、それって相当だよね?」

 

リオが目を丸くして驚く。

無理もない。

ノーダメージかそれに近い状態で次から次へと勝利…なんて、今の私でも中々難しい。

エリートクラス位までならどうにかできるかもしれないけど…

 

それに…もう一つ、とんでもない事実が。

 

「犯人の素性は分からないの?」

「…陛下もお察しのようですね。その通り、判明していないのです。素性…技も、デバイスも、魔力光も。」

「ってそれ全部無手で倒したって事!?」

 

頷くオットーとディード。

私達は呆然とその話を聞くしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

リオとコロナと別れ、私はアインハルトさんと二人、恒例になった雫さんと分かれた地のベンチに並んで座る。

普段は一緒に訓練するんだけど…去年の私達のダブルKO以来、秘密特訓を増やしたのか二人はなんだか大変そうだった。

私の方は、去年ちょっと無茶したし、なのはママが忙しくなったのもあってあまり無理はせずに、急ぎで身に付けたものを完全にする為に丁寧な練習を心がけている。

 

「どう思います?」

 

私はカゲハの片割れを手に、アインハルトさんの意見を聞いてみる。

 

生身…使っても身体強化までがせいぜいでそこまで出来るような腕の人間なんて数えるほどもいないはずだ。

雫さんなら…元々喰らったら終わりって言う点でノーダメージの問題はクリアできるし、魔法使用無しもリスクじゃない。元々使えないから。

 

「ですが、そんな事をする理由がないでしょう。私が言うのもどうかと思いますが、ストリートファイトなんて…」

「あの雫さんと同系統で同等以上の力量の人がこの近辺にいる可能性と、雫さんに理由がある可能性、どっちが大きいと思いますか?」

 

しかも、速人さんや恭也さんでも同じ事はできる筈だ。

あの人達と無手で同等の別人がいるって言うよりは…

 

憶測をしていても仕方がないし、近づかないほうがいいとも思う。けど…

 

「確かめたい…ですか?」

「…やっぱり、分かります?」

 

選手達が数々打ち破られているんだ、今の私なら大丈夫…って言うのは慢心だろうけれど、アインハルトさんと二人でいて尚危険とはさすがに思えない。

ただ、アインハルトさんは少し浮かない表情を見せた。

 

「確認して、雫さんと判明したとして…そこからどうします?」

「あ…」

 

投げかけられた問いに硬直する。

気がかりが先行して何も考えてなかった。

とりあえず『お話聞かせて。』ってなるけど…仕事って言うか、御神の剣士としての活動なら、引く訳がない。

そうなると、通報するかしないかって話になっちゃうし…

 

「勝手に首を突っ込む訳にもいけませんから、たまたま目撃するか私達が標的になったときしか確認…ッ!」

 

言いかけて勢いよく立ち上がるアインハルトさん。

私も同時に立ち上がって、同じく別の方を見ていた。

 

木々の生い茂る方、人通りから外れたほうから魔力の反応。

訓練…って可能性もあるけど…

 

「行ってみましょう。」

「はい。」

 

さすがに誰かが襲われているかもしれないとなると放ってもおけない。

様子を見るだけ見ておこうと、私達は魔力反応のした方へ向かって駆ける。

 

 

 

 

飛び込んだ私達が見たものは、決着の瞬間だった。

キレのいい誘導弾、その包囲をまるで何もないかのごとく一瞬で潜り抜けての体当たり。

木に押し付けられた女の子は、そのまま掌底を顔面に叩き込まれた。

 

ただの掌底なら、木も折れないような一撃で魔導師が気絶なんてありえない。

でも…指先で一度たたきつけた反動で跳ね返ってきたところに本命の掌底を叩き込まれて、木と掌の間で細かくバウンドさせられては、脳が揺すられて意識を保つのは困難だ。

 

かつて見た、刀を抜かなかった雫さんが競技選手を打ち倒した高等技術。加減次第で殺すことだって簡単な殺人術。

 

「雫さん?」

「ヴィヴィオ…っ!」

 

ローブを深く着込んでいて、その姿は見えない。けれど、ここに来たのが私達だって気付かなかったのか、思わず漏らした声は懐かしいもので…

 

失敗した。と、言わんばかりに頭のフードを深くかけなおして私達から距離を取る。

 

本当に雫さんなら、襲ってくる気なら、私達でも余裕はない。

でも…

 

 

「…私を信じて、覚悟があるのなら、明日の昼、誰にも言わずに約束の場所に。」

 

 

聞こえて来たのはか細い声だった。

姿を見せないまま、ローブを翻して去っていく。

 

言葉の意味を汲みきれないままの私は、ただ呆然とその姿を見送るしか出来なかった。

 

 

 

Side~アインハルト=ストラトス

 

 

 

一応、局員の方々に連絡をして罠を張ることも出来た。

けれど…高町速人さん達が何故誰にも何も言えずに去ったのか、その理由も把握できないままなのにそれをしてしまうのは躊躇われると言うヴィヴィオさんの意向と…

何より、願うように呟きを残して去っていった彼女を裏切るような真似はしたくないと言う気持ちもあった。

 

そして、私達は結局翌日約束の場所…昨日もいたベンチに並んで腰掛けていた。

私達がここをよく使う事は皆さん知っているので、隠密活動としてはどうかと思うのだけれど…ここを指定したのは彼女の方なのだから仕方がない。

 

 

それに、少しは人通りもある。

動物の散歩をする女性や、くつろぎにでも来たのか可愛らしい服装の少女の姿も見える。

 

「こんな所で秘密の話なんてしても大丈夫なんでしょうか…」

「多分…防音密室よりは、何かを仕込む余地の少ない外の方がいいって事じゃないですか?」

 

暇つぶしの話でもと気がかりの話を振ってみると、ヴィヴィオさんから妥当な意見が返ってきた。

確かに、周囲を見る限り人がいればすぐに分かるし、物でごちゃごちゃとしている訳でもない。

見晴らしがいいから遠くからでも私達の姿を確認できるかもしれないが、その遠くからでは会話までは拾えないはずだ。

 

 

 

「正解。ごめんね、待たせた?」

「はい?」

 

 

 

唐突に話しかけられ、目を向ける。

さっき付近に雫さんの姿なんて見当たらなかった。

いきなり現れたならそれはそれで驚きだったんだけれど…

 

 

 

視線を向けた先にいたのは、さっき見かけた可愛い服装の少女だった。

桜色のツインを葉っぱをモチーフにしたらしい髪留めで結ってあり、水玉の長袖に白のシャツ、ひらひら揺れる軽い生地で出来ているらしいロングスカート。

顔には軽く化粧でも施しているのか、頬紅のようなものがうっすらと見え、星の模様が入ったスニーカーを履いている。

 

「「…誰?」」

「いや、まぁ嬉しい反応なんだけどね。一応雫よ。」

 

照れたように笑ってもじもじとする、友人の名前を名乗るナニカ。

私達の知る雫さんは…紫色の髪を装飾も何もない紐で束ね、黒一色の服に武装を仕込んで刀を下げている、化粧などとは縁もない鷹のように鋭い目をした剣士だ。

こんな有様で名乗られても信じられる訳がない。

 

「「冗談でしょう?」」

「二回ハモらないでよ…訳は話すから、とりあえず信用してくれない?」

 

ただただ驚く私達を前に、彼女は小さく肩を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

訳を聞いて、まぁ納得は出来た。

 

修行にと地球に行ってしばらくして、一通りの修行が片付いた後、単独でこの近辺に残り素性を隠して生活していたらしい。

この姿ではさすがに雫さんだとは知ってる人でも思わない。

魔導師なら、一見戦えるように見えない人でも強い場合はあるけれど、襲撃者に魔力反応なしとなるとこんな可愛らしい姿の子が犯人とは誰も思わないだろう。

仕草まで練習したようで…正中線のぶれない内股走りという妙なスキルまで修得している。

 

「この姿で去年の大会も見に行ったのよ?夫婦KOさん達。」

「夫婦って…」

 

楽しそうに言う雫さんの物言いに苦笑するヴィヴィオさん。

ダブルKO以来偶にこんな感じでからかわれるようになったけれど、こういう形で囃し立てられるのはどうも苦手だ。

私自身は女性だけれど、記憶に残るクラウスの意志が夫婦扱いを喜んでしまうので、妙な気分を味わった後でヴィヴィオさんに申し訳なくなる。

 

「へ、変装だと言うのは分かりました。DNA鑑定でもしない限り貴女が雫さんだとは誰も思わないでしょう。」

 

話を切り替えるため、私から速やかに進める。

 

「どうして競技者襲撃なんて真似を?高町速人さん達が手配されているのとなにか関係があるのですか?」

「それを話す前にもう一度だけ聞いておく。」

 

質問を重ねる私を前に、改めて口を開いた雫さん。

その雰囲気が、初めて記憶にある剣士、月村雫の姿に重なったように感じて、姿勢を正す。

 

「話をすれば、私は貴女達を逃がせなくなる。私達について手伝うか、殺しにかかる私を打ち倒す…その覚悟がある?」

「殺しに…って…」

「それだけの理由はある。それこそ、あの日のヴィヴィオとの約束を踏まえた上で…ね。」

「ぁ…」

 

 

どうしても必要な時以外は、必要以上に人を傷つけたり殺したり、そういう事をしないように。ヴィヴィオさんとした約束。

 

カゲハを預かるのと引き換えにしたあの日の約束はそう軽いものじゃない。

であるなら逆に…あの約束以上に重いなにかを雫さんが抱えている事になる訳で…

 

「今なら、まだなかった事にも出来るけど…どうする?」

「私は聞きます。」

 

雫さんと戦うか…仮にも犯罪者に名を連ねるかの二択である事を承知の上で、私は即答した。

 

「この拳は守れなかった悔恨と悲願の達成の為に磨いているものですから。それに…オリヴィエと違い、貴女は私の友人です。止めるとしても力になるにしても、全力で応えます。」

「アインハルトさん…」

 

どう転んでも、見てみぬフリだけは絶対にしない。

その為には、覚悟して全てを聞かなきゃならない、知らなければならない。

全てがすれ違ったままで終わってしまった過去は、もう絶対に繰り返さない。

 

「…ですね。私も聞きます。」

「ヴィヴィオさん…お母様は良いのですか?」

 

ヴィヴィオさんのお母様は管理局員。自分だけ覚悟があればいい私とは事情が違ってくるはず。

けれど、ヴィヴィオさんは首を横に振った。

 

「なのはママや皆にとって本当によくない事をしてるなら、止めなきゃいけませんし…雫さんや速人さんがそんな事する訳ないって信じてますから。」

 

つくづく真っ直ぐだった。

私達を見ながら呆れたように息を吐く雫さん。けれど、その口元に浮かんでいたのは可愛い女の子を演じていた時のそれとは違う、安らいだような嬉しそうな笑みだった。

 

「私はあの人にだけは気を使うつもりないんだけどね…でも、ありがとヴィヴィオ。」

「お礼は私が雫さん達を選んだらにしてください。」

 

私達は真っ直ぐ、全霊で応えたが、まだ雫さんの訳の方を聞けていない。

ヴィヴィオさんが告げると、雫さんは静かに頷いた。

雰囲気が変わる。空気が緊張していた。

 

 

ただ…正直私はこの時、覚悟が甘かった。

雫さんが私達の命を取ると言う程の事が…『逆にどれだけのものが天秤にかけられているのか』の想像に至っていなかったのだ。

 

 

 

Side~セイン

 

 

 

悪いお子様の勧誘と、真っ直ぐな返答を返すヴィヴィオ達の会話を聞きながら、あたしは見張りが順調に進んでいるのを感じていた。

 

にっひっひー…さすがセインさん。

高性能音感センサーを駆使して陸の内から会話の盗み聞き。盗み聞きって言い方は悪いけど、これもヴィヴィオ達を不良にしないため。

それに雫ちゃんをとっつかまえればなのはさん達にもいい情報あげられるだろうし。

 

と、次の言葉を待っていると、ガサゴソと紙をいじるような音が聞こえてきた。

 

 

 

「なっ…え!?」

「まさかそんな…」

 

 

 

ついで二人の驚く声。

まさか、盗聴警戒して紙で情報を?

 

ふふん、上等!

 

指先のカメラを地上に出して様子を確認。予想通り雫は紙を持って二人に見せている。

 

あの紙奪って再ダイブ、やってやる。

 

 

 

あたしは床から飛び出して紙を奪い…

 

 

 

 

「だあっちゃちゃぁっ!?あづ!熱っ!」

 

 

 

 

雫が手放した紙が、いきなり発火した。

 

 

「え!セ、セイン!?」

「アインハルトは分かりやすいしヴィヴィオも人を騙して平気なタイプじゃないからばれるとは思ったけど…教会のシスターが盗聴とは世も末ね。」

 

驚くヴィヴィオに対して、冷めた声を漏らす可愛らしい女の子…雫。

確かにコレは同一人物だと思わないなうん。

 

紙を持っていた左手の指先を見れば、灰色の何かがついていた。手放す際に火打ち石みたいにアレを擦らせて紙を燃やしたのか…一瞬で燃えたあたり紙にも発火材みたいなの混ぜてあったんだろう。

くっそー…さすがに用意周到だ。

 

「で、どうする?彼女に暴露する?」

「いや、あの…」

「見せる前に覚悟は二度聞いた。」

 

雫の追及に、ヴィヴィオとアインハルトが立ち上がって顔を見合わせている。

その表情は浮かない。余程とんでもないものを見せられたみたいだ。

 

 

けどね!!

 

 

「なにを見せたか知らないけど、君達がいなくなってなのはさんから皆、沢山傷ついてるんだ!こんな状況良いわけない!」

「だから力付くでも私を捕らえる?」

「そう言うこと…ですね。」

 

近場で待機していたオットーとディードが姿を見せる。

あたし一人じゃ雫を捕らえるなんて無理な話だけど、生身の人間の彼女相手に三人なら…

 

 

 

ヴィヴィオが、あたし達に向かい合う形で雫を庇うように立った。

 

 

 

「ちょ…シャレになってないよソレは!?」

 

一応高町速人一行は手配状態なんだ。

事情があるだろう事は皆分かった上で、だからと言って公然と味方について良いわけがない。

 

「ごめん…クリス!」

 

一言謝ると、ヴィヴィオはデバイスのセットアップを完了させる。

大人モード…最近大会でも序盤じゃ使わなくなってるのに…

何でか分からないけど、完全に本気だ。

 

「ティオ!」

 

遅れて、アインハルトまで完全武装形態をとって、あたしらと向かい合う。

二人して…一体何を見たって言うんだ。

 

「…仕方ありませんね。」

 

ディードが大きく指を鳴らすと、一台の車が近づいてきて…

 

「いっ…」

「っ…」

 

二人が苦い顔をした。

こんな事態になりかねない事を想定して一応連絡だけしておいた友人達。

 

だった筈なのに、なんだかやたらぞろぞろと出て来た。

 

リオとコロナに、車を回してくれたヴィクトーリアさん。

それに留まらず、ミウラとミカヤさんまで出て来た。

 

皆何処となく悲しげで、人によってはそれを押し殺して雫を睨んでる。

 

「どの道この状況からは逃げられないだろう。罪を重ねる前に大人しく投降したらどうだ?」

「出来たら苦労はない。出来るだけ加減はするけど、死にたくなかったらそっちこそ消えろ。」

 

ミカヤさんが雫相手に忠告をするも、裁縫用らしい布きりナイフを取り出した雫は、冗談じゃない殺気を放ってくる。

 

人数的にも他にもこっちが色々有利な筈だって言うのに、気が引ける位怖い。

もうあのグリフに近い所まで来てるんじゃないだろうかあの子…手の震えが抜けない。

 

一触即発の空気の中…

 

 

 

「いいぃぃやっほおおぉぉぉぅ!!!」

 

 

 

やけに場違いな明るい声が響いたと思ったら、川が弾け、辺り一面が深い霧に包まれた。

 

「げっ…オットー!」

「分かって…ぐっ…」

 

索敵や追跡なんかの能力はこの面子じゃオットーの分野。

だけど、霧から苦悶の声が聞こえてきた辺り、何か喰らったらしい。

 

ええいどうなってんだよこれ!

 

 

「ぶっとべええぇぇっ!!!」

 

 

リオの声が響くと同時、炎龍を象った砲撃が放たれ、霧が晴れる。

雨のように水滴が降り注ぐ中…

 

 

 

 

「じゃじゃーん!水の妖精アクア=トーティア!無茶な友人に代わって時間稼ぎ!!」

「同じく、クラウ=トーティア。」

 

 

 

 

殺伐としたこの空気の中、緊張のかけらも感じさせずに、姿を消した三人に代わって立つ馬鹿がいた。

こ、コイツ…あたしより遥かにノーテンキだ…

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 




周りが全部殺気立ってる所でも笑ってられるような神経って、強大な力とか特殊な才能より貴重な気がします。良い希少能力かはともかく(苦笑)。
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