なのは+『心のちから』   作:黒影翼

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記録三十七・絶望を絶つ者

 

 

 

記録三十七・絶望を絶つ者

 

 

 

 

Side~トーマ=アヴェニール

 

 

 

 

グレンデル一家の運び屋、ロロ。

彼女は電気系の固有能力を持っているらしく、局支部の普通の車両をマッハオーバーで突っ走らせるってとんでもない事をしでかした。

おかげさまで車両に乗ってからはかなりの速さで、先行したヴォルフラムの皆の元へ辿り着く事が出来たんだけど…

 

 

飛空挺フッケバインと一緒に不時着していた。

 

 

AEC装備みたいな新型っぽい武装を持った堕天使クローンに、ソレより強そうな反応の服装、色違いが三人。

確認するなり空の戦闘に向かって飛び立っていったフォート。

 

一方で、エフスとカートはどうするかを決めかねていた。

それが俺達Pチームが飛ぶに飛べない理由になっている。

 

「しっかし妙だな。」

「あ?」

「墜落したこっちの船を狙えば、局の連中は庇うなり何なりしながら戦わなきゃならねぇからこの戦力差ならもう片付いてるだろうに。」

 

カートが珍しく真面目な顔で状況を見て呟いた言葉にグレンデルの皆も周囲の様子を見る。

 

「ロロさん!」

「はえ?特務のお医者さん?」

「大技を受けて何人か墜落しているんです、搬送を手伝ってくれませんか?」

「んー、OK?」

 

慌てた様子でヴォルフラムから出て来たシャマル先生の頼みに、ロロはカートを見る。

首領の方針を確認するためだろう。

 

「…離脱っても無人世界だしなぁ、んじゃ頼むわロロ。」

「りょーかーい!」

「って事は…あたしらはアレ…か?」

 

心底嫌そうに空を見るマリーヤ。

正直あれは俺も怖い。でも…

 

「行こうリリィ、アイシス。」

 

カート達が逃げたり暴れたりって方向で動かないと決まったのなら、俺達だって下でノンビリはしていられない。

 

「うんっ。」

「オッケー!相手は量産型、なんとかなるっ!」

 

二人がいつもより明るく返してくれて、一瞬違和感を感じ…俺から自信満々に何か言い出すのって珍しい事に気がついた。

 

フォートや隊長達に頼りっぱなしじゃいられない、力になってみせる!!

 

 

 

Side~高町なのは

 

 

 

フッケバイン対策にフォートレスフル装備だったお陰で、ただの防御魔法より余程守りが堅かったため、あの天災じみた連撃は殆どノーダメージで凌げたんだけど…

 

それでも尚、スザクと名乗った彼女は強すぎた。

 

「紅翼弾!!!」

 

名の通りに鳥を象った炎が飛来する。

リオちゃんの双龍破に似てるけど、砲撃と言うよりは巨大な弾で…桁外れに速く、旋回まで速い。

逃げ切れず、防御魔法で受け…

 

「っぁ!!」

 

きれずに砕かれ、炎に飲まれた。

あのリライヴちゃんをベースに融合で出力強化されているんだ。

彼女の砲撃だってようやく受けるのがせいぜいなのに、それ以上なんて止めるのは無理がある。

 

「アクセルシューターっ!!」

 

受けてたら押し切られる。

多少無理はあったけど、反撃に8発の誘導弾を放つ。

 

止まった彼女は、掌を回してその全てを『止めた』。

 

これ…アインハルトちゃんの…

 

「旋衝破!」

「っ!」

 

投げ返されて結局防御する破目になる。

自分の弾を受けている間に、恐ろしいものを見た。

 

彼女が、両手に炎の鳥を作っていた。

 

「慣らしにはなったか。さらばだ、星の魔導師。」

 

二体の炎の鳥が、並走しながらこっちに向かってきて…

 

 

 

斬り裂かれた。

 

 

 

無色透明な斬撃。

確実に私を殺せていたはずの一撃をかき消されたスザクは、上を見上げる。

 

「貴様の相手は私だろう?」

 

リライヴちゃんと見まごう姿に灰色のバリアジャケット、そして大きな鎌。

 

「貴女は…」

「ニル、とでも呼んで。スザクは私の獲物、貴女は他のデッドコピーを。」

 

左腕が機械になってしまっている彼女…ニルは、私とスザクの間まで下りてきてそう言った。

 

 

 

Side~カレン=フッケバイン

 

 

 

「茨姫!!!」

 

ちょっと、と言うか大分手加減していられる状態じゃなく、空だって言うのに茨姫を展開する。

根を張れる地上向きなんだけど…ページを使って捕らえるってだけならいけるはず。

 

「歴代最強の魔導師などと言われているオリジナル、ソレを『上回る』為に生み出された私達OAシリーズを、少々甘く見すぎですね。」

 

感染者である私の固有能力である以上、当然魔力隔絶能力を持っている金属質の茨。

なのに、自分からその茨を掴んだゲンブを名乗った彼女は…

 

「氷柱蛇。」

 

魔法を発動させた。

次の瞬間、茨を突き破って内側から氷柱が飛び出してきた。

彼女が掴んでいる部分からこっちに向かって物凄い勢いで次々と。

 

茨型の金属、ではなく、金属質の『茨』。

 

どうやら、内部の水分を氷結させていってるらしい。対策を施した変換資質攻撃は感染者相手にも結構通るし、多分彼女もその類の準備はしてあるんだろう。

 

「冗…談…っ!!」

 

咄嗟に茨姫を解除する。

事前に見ておいてよかったかもしれない。

 

アレ多分、捕まれて発動されたら全身から氷柱が飛び出した氷の肉塊にされて死ぬ事になる。エグイ魔法だ。

 

「ったく、本当物騒な奴ねっ!!」

 

あたしは剣を手に、構える。

 

「白雪!!」

 

粒子斬撃、白雪。

粒子を発生させる斬撃は感染者なら鍛えれば大概使える。あたしの白雪は、斬撃ではなく連続突きからレーザー気味に放つ。

 

腕を翳したゲンブは、その手に巨大な氷の盾を出現させた。

 

全弾盾に当たったのに、傷一つつかない。化物め…

 

 

「いっ!?」

 

 

直後、周囲を氷柱に囲まれている事に気付く。

ゲンブが右手を握る動作をすると同時に、氷柱が一斉に集まってきた。

 

左腕で一本受け止めながら、一番薄い包囲を抜け出る。

回避した氷柱同士がぶつかって、スパイクボールみたいになった。

 

あ、まだ制御生きてるのかあれ。

 

「っのぉ!」

 

回転しながら向かってくる氷の塊を斬り砕く。

と、そこまでやっておいて左腕の違和感に気付いた。

 

氷柱に貫かれた部分が再生するどころか、少しずつ腕が凍ってきていた。

咄嗟に左腕を切り落として、再生させる。

 

「治ると使い捨てできて便利ですね…」

 

驚くとか面倒がる、と言うよりは呆れた様子のゲンブ。

彼女の様子を見るに、腕一つ治った位じゃ大したことじゃないんだろう。

 

呆れたいのは正直こっちだった。

 

 

 

Side~ニル

 

 

 

「死に損なったか。」

「そういう訳で…続きと行こうか。」

 

私は鎌を両手でしっかりと握る。

前戦った時に片腕を火葬されたけど、今回はそう簡単にはいかない。

 

「バースト…モード。」

「後先なしの玉砕覚悟か…愚かだな。」

 

限界以上の戦闘を可能にした魔力運用技術、バーストモードを初手から使う私に対して、呆れたように呟いて変換資質によって燃え盛る炎剣を手に構えるスザク。

躊躇なく間合いをつめた私は、光る大鎌を全力で振りぬいた。

炎剣で防ぐスザク。だが…

 

「何っ…」

 

私の一閃は、炎をたけらせる魔力刃を欠けさせた。

 

デバイスに細工をされていた前回と違って今回は治療中に修理してある。

融合ついでに能力の調整ができるか試したみたいだけど…

周囲に伝道する変換資質は、基本的に超高密度魔力刃に向かない。

仮に倍の魔力を持っていても、折りたためなければ魔力刃の強度も威力も落ちる。

 

「っち…」

 

近接攻撃を嫌ってか、距離を取ったスザクが炎の鳥を投げはなってくる。

『受ければ』私でも危険な炎の鳥。

 

だが…魔力収束刃なら切断なら容易い。

そして、ソレがバーストモードを使う理由。

 

全身に放出した魔力を使って直角だろうとなんだろうと減速もなしに無理矢理動かすバーストモード。

当然、武器を振り切った隙を殺して動く事も出来る。

 

一直線に肩から体当たり。密着状態から鎌を振り上げようとしたが、鎌の柄を蹴りで止められ、無手の左手が炎を発する。

 

そのまま叩きつけてこようとするスザクの左手に、私は鎌から手放した左手を…その手に隠し持った爆弾を合わせる。

 

 

「貴さ」

 

 

直後、ピンを抜く必要も何もなく、炎熱変換を用いて攻撃を仕掛けてきたスザクの炎によって至近距離で爆発した。

 

 

 

事前に爆発物で受ける予定だったためさっさと高速移動で離脱した私は、爆心地を見つめる。一応は並の感染者なら倒せる威力はあるんだけど…

 

 

爆煙が晴れると、全身に『炎』を纏ったスザクの姿が見えた。

変換資質を保有する事によって、それぞれの特色を得たOAシリーズのバーストモードだろう。

 

殆ど直撃だったからか、それとも全身に深いダメージを喰らうのを避けるために駆使したのか、左手から血が滴っていた。

 

「初めからそうしておけばいい、局員と違って私とやる以上『殺し合い』なんだから…ね。」

「ちっ…破滅願望者め…」

 

吐き捨てるように言うスザク。

 

破滅願望…か。

当たっていようがいまいが関係はない、呼ばれたい名があって戦うと決めた訳じゃないんだから。ただ…

当たっていたら、この場で戦っている高町なのは達を前に戦うには、あまりにもつまらない理由だと思った。

 

 

 

Side~フォート=トレイア

 

 

 

ビャッコとか名乗ってた黄色い軽装のクローンは、電気変換を持つ奴総じての特徴なのか、機動系がやたら速かった。

本物だってフェイトさんと同程度の速度だってのに、高速移動魔法の移動速度、通常飛行の旋回性能等々、全部明らかにそれ以上だった。

 

ただ…それでも攻撃動作そのものは見えた。

 

素手に魔力を通しているのか、バチバチと放電している五指を開いて振るってくる。

剣を一撃で砕かれたあたり、カートリッジを使ったシグナムさんの剣程度の威力は余裕であるんだろうが…

 

「当たらなきゃ意味無い…か。まさか六課のオマケが慣らしになるとは思わなかったよ。」

「誰がオマケだ、見誤ったな。」

 

さっきまでつまらなそうだったくせに、今になって楽しそうなビャッコ。

虎ってより猫みたいな奴だな。

 

腕が動き、魔法を構成しているのが見えた。

 

「スパ」

 

聞こえた頭二文字で何を撃ってくるか分かった瞬間、高速移動魔法の発動。

 

「イラルバスター!っな!?」

 

懐に移動した俺は、両手で持った剣を全力で横に薙ぐ。

が…フィールド防御に阻まれてとめられた。

 

っち…さすがにただの一撃じゃ意識外からでも無い限り貫けないか。

 

 

「だったら…」

 

 

ビャッコの苛立った声と共に魔力の集中を感じる。

 

広域攻撃。

 

俺が一瞬で済むのは魔法の『発動』まで。高速移動魔法が瞬間移動みたいになってるフェイトさんやコイツほど異常な速度は無い。回避は間に合わない。

 

だったら…さっきのアレで防ぐしかない。

 

 

「神雷!!」

 

 

防御連射。

周囲の空間全てを埋め尽くすような雷撃を、連続展開する防御で受け…

 

 

 

胸が跳ねた。

 

 

 

こ…れ…魔力限界?

一昔前の地獄の修行中は偶にあった現象だ。

 

元々限界に耐えるのは慣れてる。こらえて意識を繋ぎとめ…

 

集中力が切れた瞬間次の防御が張れなくなって一瞬で雷に飲まれた。

 

 

 

Side~高町なのは

 

 

 

中距離援護って事で前衛に出ずに射砲撃を撃ちながら、念話で状況を拾う。

絶望的と言ってよかった。

OAシリーズとか名乗った彼女達の総攻撃で落ちた皆は重傷から重体で即座の戦線復帰が厳しい状態。

フッケバインの方は回復してきているはずだろうけど…そっちはそもそも頼る相手じゃない。

 

OAシリーズ相手には完全に不利な状態だ。

感染者と言うことを除いても私達と同等の実力者のフッケバイン首領のカレンですら優位に立てず、ニルが近接で喰らいついているだけ。

残りのクローン6体相手に、OAシリーズの攻撃をどうにか凌いだシグナムさんとヴィータちゃん、フッケバインの大斧使い。

後から来てくれたグレンデル一家とPチームが加わっているけれど、当然ながらそれでも押されている。

 

そして…今フォートが墜とされた。

 

でも!

 

『今や、皆の離脱援護を!』

「了解!!」

 

ディアーチェがダウンした今、威力を確保するためにはやてちゃんとリインが準備した…

 

 

ラグナロク・ファランクスシフト。

 

 

明らかにオーバーコストだけど、リインと融合した上でブラスターを併用すればどうにか使える…らしい。

はやてちゃんの身も心配だけど、この状況下だと言ってられないのも確か。

 

 

「エクセリオンバスター・ヴァリアブルレイド…シュートッ!!!」

 

 

ブラスタービットを展開してのマルチロック砲撃。

ここまで来て加減する気もなく、ブラスター3でのフルパワー。

 

そこまでやっても回避や防御で凌がれるが、どうせコレは牽制。

 

阿吽の呼吸で皆が離脱。直後…

 

 

 

「墜ちろおおぉぉぉっ!!!」

 

 

 

珍しく、怒声のように響いたはやてちゃんの声と共に放たれた白い光が、空を埋め尽くした。

CAシリーズとか言う方はOAシリーズの連続攻撃を私達と一緒に受けたから消耗していたし、OAシリーズの彼女達にしたってコレで無事で済む訳が…無いと思ってた。

 

けど、嫌な予感。

 

最初の二連広域攻撃の際、ゲンブと名乗った彼女が霧を展開していたんだろうけれど、私がスターライトブレイカーを撃つ為にその前の段階から魔力を集めやすい形で散らしつつ戦うように、彼女の霧からもそんな反応があった。

 

それが今、ラグナロク直撃前に使われた。

 

 

そして…予感は的中する。

 

 

ヘイムダルのような巨大な氷が、罅だらけになって浮いていた。

そして、その氷が砕けてばらばらになって崩れると、中から無傷のクローン達の姿が現れた。

 

「亀氷壁の全力展開でぎりぎり…予想通り慣らしには十二分でしたね。見事です。」

 

息を吐いたゲンブが笑う。

ブレイカーさながらに周囲からの魔力収束まで行いながら展開する防御魔法なんてどんな状況で必要なのか分からないけれど、それでも凌がれてしまった。

 

高威力炎熱、絶対氷壁、電迅高速移動。

…ただ変換資質を足して魔力を上げただけじゃない。

私達がそうであるように、得意分野を特化調整して役割分担できるようにされている。

 

「えほっ…ぐっ…」

 

背後のはやてちゃんが何かをはくように咳き込むのが聞こえて振り返る。

口元を押さえ、指の間から血を流しているはやてちゃん。さすがに無理が過ぎたんだ。

 

 

 

 

「お疲れ。」

 

 

 

 

 

瞬間、真横から声。

首を戻した時には既に放電しているビャッコの腕が振りかぶられて…

 

 

 

割って入ってきたフォートが、ビャッコの腕を掴んでその拳を止めた。

 

 

何処に彼女の腕を止める力があるのか、それとも無い力を無理矢理引きずり出してるせいなのか、フォートの腕は力んだせいで震えていた。

 

 

「諦めるか…」

「呆れたしぶとさだね…全く。」

 

 

右拳を止められた彼女は、フォートに向かって放電する左手を振りおろす。

けど、密着するくらい近づいたフォートの右肩に肘が引っ掛かってその腕が止まる。

 

「な…ぶっ!」

 

鼻先に頭突きを入れるフォート。彼女がたじろいだ瞬間、右手に展開していた銃を構え…

 

「諦めるかよっ!!!」

 

砲撃魔法の連射。ガトリングさながらに放たれたそれらにほぼ同時に被弾したビャッコは、防御魔法もままならなかったのか少しぐらつく。

 

 

「…そうだね。」

 

 

管理局にいる敵、破壊された拠点、理不尽な位絶望的な状況、折れるとまで行かなくとも少し心が俯いていたかもしれない。

そうだ…こんな所で挫けていられない。

 

私はデバイスを構え…

 

 

 

 

肩を叩かれた。

 

『なんの気配もなく』背後から。

 

 

「遅れて悪かったな。」

 

 

懐かしい声、忘れるわけがない声。

空中を歩いて私の横を通りすぎる、黒い服に目の覚めるような翡翠色のマントを纏い、腰に二対の小太刀、背中に一振りの刀を差した青年。

 

「今頃来やがって…寝てろよバーカ、俺が代わりに護ってやるぜ?」

「その様でよく言うな。ま、今日は多目に見てやるから下がっとけ。」

 

言いながら彼はフォートの隣に並ぶ。

 

 

 

「ここから先はヒーロータイムだ、見逃すなよ!!」

 

 

 

いつ聞いても悲劇に似つかわしくない速人お兄ちゃんの明るい声が、無人世界の空に響き渡った。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 




何事も無かった『かのように』復活…彼らしいけれど、心労他で身内が怒りそうです(苦笑)。
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