なのは+『心のちから』   作:黒影翼

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記録三十八・毒を喰らう剣

 

 

 

記録三十八・毒を喰らう剣

 

 

 

Side~高町なのは

 

 

 

賢明な判断と言うべきなのかそれとも何か理由があるのか、ビャッコは高速移動でいっきにゲンブ達の下へ下がって距離を取る。

 

「ようこそ、お待ちしていましたよ。」

「人質代わりに加減してたみたいな言い方だな。そんな事しなくても俺は来るし、お前等じゃ誰も殺せなかったさ。」

「無根拠な信頼をお持ちのようで。」

 

余裕有り気に言ってくれた速人お兄ちゃんだけど、正直今は彼女の意見に頷かざるを得なかった。

慣らしとか言いながら普通に戦ってくれたけど、墜落した戦艦を狙われたらその時点で戦闘不能の皆や非戦闘員は守りきれなかったはずだ。

 

「さて…勝てるなら殺してしまってもいいのですが…控えの方々がまだ出てくる事を考えると、コレで引いたほうがよさそうですね。」

 

ここまでやっておいて逃げる気らしい。

タイミング的には分からないけれど…余程お兄ちゃん達を警戒しているんだろうか?

 

 

「逃がすか!!」

 

 

引いてくれるならこっちも色々立て直したいタイミングだったのだけれど、血気盛んな犯罪者が周囲にいる状況でそんなのすんなり行くはずもなくて…

 

カレンが書のページを飛ばし、ニルが鎌を振り上げ特攻する。

が、直後転移してきた影に止められたニルは…

 

「灰被り!!」

 

カレンが飛ばしたページの爆発に影と一緒に飲み込まれた。

 

「っ、何してるんですか!」

「アイツはうちの仇だし、特務だって味方って訳でも無いけど?」

 

思わず注意してしまうが、彼女の返しはご尤も。本来全員私達だけで止めなきゃいけないんだ。

この状況じゃ空中楼閣もいい話だけれど。

 

「心配しなくてもどっちにも効いてない。」

 

あっさり言い放った速人お兄ちゃんの言葉通り、煙が晴れると鎌を防がれているニルの姿があった。

防いでいる影は…感染者。

 

 

 

「OAシリーズ初期の失敗作…CAシリーズ『感染体』。制御できないので片付けてしまってください、では。」

 

 

 

言うだけ言うと、ゲンブとビャッコとスザクは三人それぞれに飛び去ってしまう。

追おうとしたシグナムさんとヴィータちゃんだったけど、残されたCAシリーズが向かってきたせいでままならない。

再度、混戦。

一番厄介な三人が引いたとは言え、そもそもリライヴちゃんのクローン体と言うだけでPチームの皆やグレンデル一家には荷が重いし、ニルもフッケバインも殺害を躊躇わない。

私達でどうにかするしか…

 

 

『あー…皆、嘔吐に注意な。』

 

 

緊迫する状況の中、速人お兄ちゃんから念話が届く。

ソレと同時に、見慣れない背中の刀に手をかけ…

 

 

 

次の瞬間、視界が黒紫赤とどろどろとした形にぶれた。

 

 

 

咄嗟にと言うか反射的にこらえたが、周囲を見回すと何人も宙域で吐いていた。

話に聞いていただけの感染者の症状、憎悪や殺人衝動のような黒い気持ちの塊を見せられたような、そんな感覚。

 

 

その中心は速人お兄ちゃん…が抜いた刀。

 

 

この黒い思念の中心に突っ立っているなら平気な筈が無いのに、お兄ちゃんは剣を構えると…

 

 

 

「はいはい、騒がしいってのまったく。」

 

 

 

何一つ気負わずさらっと呟いた後、瘴気の全てを抑え込んだ。

 

…どうかしている。

同じ場所にいる事すらままならない剣を手に、その力をまともに受け止めて平然としているなんて。

 

大なり小なり皆が先のどす黒い力の波に耐える中、動く影が一つ。

 

 

 

「あああぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

ゲンブ達の置き土産であるリライヴちゃんの感染クローン。

完全に暴走しているらしく、今の憎悪に当てられたかの如く速人お兄ちゃんに向かって黒い銃剣を振り上げて突撃してくる。

 

彼女が感染者なら、歩行用魔法陣も機能させられなくなる可能性がある。

それに、殺す気の無いお兄ちゃんに感染者の相手は…

 

心配も一瞬、銃剣の一閃を回避しながら刀を一振りした速人お兄ちゃん。

クロスレンジ担当でもない私が見ても明らかに浅い、撫でるような一閃を受けた次の瞬間…

 

リアクトが解けて普通のクローンと同じ姿になっていた。

完全に気を失っているらしく、お兄ちゃんの肩にもたれかかるようにして意識を失っている。

 

「霊剣、禍喰乃太刀。効果は名前の通り、斬った対象の『憎しみを喰らいつくす』。」

 

言いつつ太刀を背中の鞘に収めたお兄ちゃんは、気絶させたクローンの娘を私に向かって投げてくる。

咄嗟にバインドをかけて空中に静止させる。

 

 

「さて…残りを片付けるか!!」

 

 

こっちの様子などお構いなしに、速人お兄ちゃんはCAシリーズと私達の混戦に飛び込んだ。

 

 

 

Side~カレン=フッケバイン

 

 

 

『力』はそれほどでもなかった。けれど、噂のヒーローは『上手すぎた』。

 

疲弊した残り物とは言え、死角をとった訳でも無いのに、あの堕天使のクローンに肉薄した瞬間首を小太刀の峰で打ち抜いていく。まるで的でも斬っているかのようだった。

あたしだってアクセルドライブを使ってもこうはいかない。

 

気に食わない事実はもう一つ…

残っていた局の剣士…確かシグナムとか言ってた達人まで含めて特務の隊長メンバーは誰一人、彼の強さを疑いもしていなかった。

 

近づけさせさえすればいい…いや、近づくまでの援護だって必死だったさっきまでと違って、まるで『放っておいても何とかする』と言わんばかりに肩の力が抜けたものになっている。

グレンデル共もトーマ君達もまるでする事がなく、呆然と倒れたクローンを受け取っているだけになってしまった。

 

特務六課の人間は化物揃い。その六課の人間に全幅の信頼を置かれる実力…

噂だけでも都市伝説だって言うのに、絵に描かれた様な噂以上の実力と見るのが妥当だ。

 

『…どうする?』

 

さっき墜ちたヴェイから秘匿通信が届く。さすがは感染者と言うべきか、とりあえずアルもヴェイも回復したらしい。

 

どうするとは、決まってる。

 

クローンが全部片付いたら、さすがに奴はこっちに敵対するだろう。

あの背中の刀は、その為の物だ。

 

ヒーローとか夢物語を名乗りながら、不死身近い再生能力を持つ感染者を殺さずに止める為に作った刀だ。アイツと、アイツの仲間が。

 

馬鹿げてる。

特務だって『兵器』を持ち出して来たってのに、あんなものを用意するなんて。

 

『そりゃこの状況で全部相手にする理由は無いし、とんずらしましょ。』

「ソレをさせない為にあるんだよ、私とベノムハウンドは。」

 

撤退を決めた直後、傍から聞こえて来る声に咄嗟に回避機動を取る。

直前まで私がいた位置を容赦なく鎌が薙いだ。

 

コイツ…あたしらも念話傍受できるとは言え、感染者の秘匿通信をあっさり盗み聞くか。

 

「アンタも捕まるでしょ?」

「私の身より毒の排除が優先、逃げるって言うなら殺すまで。」

「この…っ!」

 

ここに居続けて無事ですまないのは自分だって同じはずなのに、コイツ…

コイツには仲間を殺されている。

コイツだけでも殺してから離脱できるかと一瞬考え…何かが飛んできているのに気付いた。

 

「は?」

 

あたしは思わず硬直した。

あたしが見たのは、背中にジェットウイングのようなものを取り付けたメイドさんが空をすっ飛んでくる光景だったから。

 

「そこまでです。」

「そこまでって言われてもね…」

「貴女達が逃亡、殺人を図るようなら、高町速人一向は味方をする事が出来なくなります。」

 

味方ができなくなる。

その妙な言い方にさすがに引っかかるものが出来た。

 

「もし貴女達に、彼と本物の堕天使と、完全回復したディアーチェ達三人…以上の戦力と管理局員の残りを敵に回す勝算が無いのなら、抵抗は避けたほうがいいでしょう。」

「完全回復って…っ!?」

 

前者二人はともかく、あれだけ消耗していた三人がいきなり全回復なんてするはずが無いと思った直後、強大な力の反応と共にさっきまで肩を並べていた力が復活するのを感じた。

 

…あの三人を一瞬で回復させるナニカ、ソレの方がよっぽど桁外れだ。

 

「…あくまで交渉よ。」

「構いません。貴女はどうです?」

「高町速人の狙い…と言うなら、邪魔はし辛いね。」

 

堕天使の偽物…ニルとか言ってたっけ?も、鎌を一振りして待機状態に戻す。

 

これで後は…

 

あたしは特務のお嬢ちゃん達に視線を移した。

限界を超えたとは言え、頭としてこの状況で寝てはいられないのか、ぺた子ちゃんに支えられながら浮いていた。

 

管理局特務六課が、全犯罪者のあたし等相手に交渉なんて状況を作られて受け入れるか否か。

 

元々OAシリーズが引き払い、数対しか残っていなかったクローン軍団。

一交差で倒せるのならそれほど時間がかかる訳もなく、息をするように共闘していた高町速人は、管理局勢…八神はやてと向かい合う。

 

「まずはご協力感謝します。ですが、貴方達にはCW社襲撃含めいくつかの容疑が…」

 

形式ばった台詞を告げるお嬢ちゃん。

ああ言うのは管理局員として最低限必要な手間なんだろうけど…あのダメージでよくもまぁ。

 

どう返すものかと思って見てると、まるっきり無視したヒーローはデバイスから一枚の紙を取り出し、そして…

 

 

 

「対異界脅威対策部隊支部長、高町速人より通達。日本国籍保有者、高町なのは及び八神はやてには現在、『異界違法組織への協力容疑』がかかっております。両名には出頭の上詳しい事情のご説明を願います。」

「…は?」

 

 

 

まるでさも『取り締まる側』であるかのように、自分の妹とゆりかごの英雄の名を口にした。

 

振って沸いたような話に呆然とする特務の一同を見ながら、手にした紙をくしゃっと握りつぶした彼は、肩を竦めて笑う。

 

「って名目になっててさ、とりあえず代表者会議って事でこっち集まってくれるか?怪我人も面倒見るし。」

 

お子様抜け切ってないただの馬鹿とばっかり思ってたけど、なんか相当厄介な事情抱えてるみたいね。

急展開極まりないが、ただのお子様よりはなんだか面白そうだった。

 

 

 

Side~高町なのは

 

 

 

会議、と言っても、特務の頭であるはやてちゃんがいつ倒れても不思議じゃないくらいのダメージを抱えているせいですぐには出来ない。

執務官のティアナやフェイトちゃんにしたって、凶悪な全体攻撃に重傷を負わされてヴォルフラムで休んでいる。

そこで、はやてちゃんだけでもすぐに回復させる手立てを持ってるって事で私が付き添いとしてそこに来ていた。

 

色々…ね、うん、色々…色々言いたい事はある。それこそ捨てるほど。

でも、そこに辿り着いた瞬間言う事は一つしかなかった。

 

 

 

「クッ…クロノ君の馬鹿…」

 

 

 

私は宙域に停めてあったアースラの中で頭を抑えて呟いていた。

 

廃艦したはずのアースラを回せる知り合いなんてクロノ君かリンディさん位だし、地球にいるリンディさんが手続きとか根回しが出来る訳が無い。

 

「いやぁ丁度良かったんだよな、普通には船として完全に寿命だったわけだし。船一つ分の材料そろえる資金なんて早々無いからさ。」

「寿命で解体する船に何で乗れてるんや?」

「動力部をユーリに担って貰って細部はナノマシンによる修繕。出来たてより調子いいんじゃないか?俺が寝てる間に忍さんとアリシアが弄くり回したっぽいし。」

 

そりゃユーリなら船一つ分のエネルギー賄ったってちょっとした運動になるかどうかって程度だろうけど…それでいいのかちょっと聞きたかった。

お兄ちゃんが、本人が嫌がってる事をさせるはずはないけど…なんだかなぁ。

 

「詳しい話の前にフェイトもはやてもある程度回復しといて貰わないとな。」

「さすがに一日二日で回復せんと思うけど…」

 

平然と…を装いつつも限界なんだろうはやてちゃん。

確かにこんな状態で話も何もあったものじゃない。

 

医務室につくと2つのポッドがあった。

一つには、心臓を貫かれたフッケバインの感染者、ドゥビルの姿がある。

 

「ここまで行くと維持が精々だけど、全臓器がちゃんと無事で傷や疲労だけなら数時間ここで寝ればバッチリだ。」

「数時間…ね…」

 

はやてちゃんがポッドを眺めて苦い顔をする。

ノンビリしている場合じゃない。とは言え、今この有様で会議とはいかないと自分でも分かっているんだろう。

フェイトちゃんも何とか凌いだとはいえ重傷。フォワードの皆も重傷前後と言ったダメージを受けてヴォルフラムの医務室で休んでいる。

 

 

はやてちゃんの付き添いの形でアースラに先行してきた私は、当のはやてちゃんをポッドに入れると、局から来た唯一に…医務室を出ると、表で待っていた速人お兄ちゃんと二人きりになる。

 

こうなるから、守護騎士なのにシグナムさんもヴィータちゃんも私に付き添いを譲ってくれた。

 

向かい合う。

 

「…何してたの?」

 

ただ淡々と口にした。

当たり前みたいにやってきたけれど、生死不明だったはずなんだ。

速人お兄ちゃんは苦笑いしながら自分の左胸を親指でトントンと叩く。

 

「あのポッドも心臓やられるような重傷だと維持が一杯一杯でさ。」

「っ…」

 

表情に出さないようにってそう思ってはいたんだけど、多分失敗した。

一年前、CW社に残っていた多量のお兄ちゃんの出血痕の原因。

 

「まさかあの時点でリライヴのクローン潜ませてるとまで思わなくて、閉鎖直線空間でシューティングスター二発同時に撃たれてな。大方凌いだけど全弾回避は無理だった。トドメさされる前に気付いたリライヴが助けてくれたらしい。」

「そっか…」

 

ほぼ絶対に当たらない、って意味で最強無敵に見える速人お兄ちゃんだけど、一発でも直撃すればどういう事になるか…分かりやすく示されたんだ。

 

他にも聞くことは山ほどある、あったはずなのに…

 

 

 

「悪い、心配かけたな。」

 

 

 

ポン、と頭を優しく撫でられた所でもう限界だった。

 

「馬鹿…よかっ…たよぉ…っ…」

「遅れてゴメン。」

 

私は握り拳を叩きつけるように縋り付いて泣いた。

 

 

 

Side~フォート=トレイア

 

 

 

ベッドから降りた俺は、軽く片手剣を展開、一振り二振りと振り回してみる。

 

「よ…っと。」

 

剣をくるくると回転させながら宙に放り、その柄を掴む。

…うん、大体いい感じだな。

 

「あ、呆れた回復力…魔力エンプティまで行ってた筈なのに…」

 

シャマル先生が俺を見ながら呆然と呟きを漏らしていた。

まぁ、驚くのも無理は無いのかもしれない。

 

一回魔力の使いすぎでぶっ倒れてそのまま爆睡…の、真っ最中にマウクランに飛んできて、戦闘反応に気付いて起きて、加減も無しにフォースドライブとか言うのを使い倒した後戦闘終了。

確かに1、2時間寝た程度で起きるダメージじゃない。

 

ただ…『限界値を突破する』事が目的だった速人のヤローの訓練は、こんな程度じゃすまなかったし、まず栄養完備でまともな休息を貰う事の方が稀だったくらいだ。

五体も無事だし、あの地獄の数年間に比べりゃこの程度はなんでもない。

 

勿論完治ではないけど、それより色々知っておく事、しておく事があった。

 

「俺は管理局員じゃないからな、フェアレと一緒に師匠様の所に顔出したいんだが…とめる理由はあるか?」

「え?うーん…医師としては…無理をしなきゃ止める理由は無いわね。」

 

医師としては…それ以上は越権行為って奴なんだろうか。

 

ま、別に何でもいい。

変な理由が無いのならさっさと行きたい。

建前上、あいつら犯罪者のカテゴリーだが、今の現状だとそんな事気にしてる場合じゃないだろう。ヴォルフラムも動かない上、本部への連絡すら躊躇う状況だし。

話を聞く限り、少将だかなんだかにはめられたとかそうでないとか…でもここまでやっといて殺しに来る感じでなかったのも妙な話だな…証拠隠滅さながらに全員消し去ったほうが俺等残しておくより自分の立場を守れるだろうに。

 

 

とりあえず会議をまともに出来る程度にと治療を受けながら回復に専念しているフェイトさんとティアナさんに挨拶してさっさと医務室を出る。

 

フェアレを探し食堂に顔を出すと、向かい合わせに座ってジュースを啜っているフェアレとエフスの姿があった。

魔力消費はエネルギー消費、吸収の速いエネルギーを確保して置くのは高ランク魔導師の戦闘準備だ。

見回せば最後まで戦闘に参加していられたシグナムさんとヴィータ教官と融合騎の二人がその身にあわない量の食事をがつがつと取っている最中だった。

医務室行きの俺は直接点滴で栄養打ってるから特に空腹感は無い。

って、そんな事より…

 

「エフス、お前捕まってなかったのか?」

 

さすがにこっちまできたら艦内の牢に放り込まれるかと思ったが、超フツーに飲み物飲んでやがった。

 

「その予定ではあるが、執務官二人も眠りについて、部隊長が犯罪者の横領戦艦で眠っているような状況だからな。」

「私は体に痺れがあるからって…フォートが休んでる間はついてて貰ったの。」

「なるほど。」

 

とりあえず話ができる所まで回復したら会議の予定らしいからな、エフスから事情も聞かなきゃならないって言っても執務官や部隊長が眠りこけてる今話を聞いても二度手間だ。

込み入った話を聞いて纏めるだけの事務員も足りて無いし、戦闘員はさっき見た通り次に備えなきゃならない。

 

「速人の所に顔だそうと思ってるんだけど…」

 

艦を離れるのは不味いよな。

と、続けようとした所で何か視線を感じる。

 

さっき見つけたシグナムさん達の席を見ると、何か俺睨まれてた。

 

「高町なのはが八神はやての付き添いで出向いた。」

 

エフスが淡々と告げる。全部は言わなくても察するところはあった。

はやてさんが寝てるなら、兄妹の再会って所か。ノンビリさせてやろうって心遣いか?

よくよく考えたら家族かつ守護騎士とか言ってたはずのあの二人がはやてさんについても行かず、こんなとこでノンビリ食事してるのもそういう理由もあったのか。

 

「馬鹿馬鹿しい。」

「えっ…」

「俺とアイツが揃ってて解決しない事件なんか無いんだからいちゃつくなら全部片付いてからでいいだろうに。」

 

驚いた表情のまま呆けるフェアレをよそに、通信が入る。

開くと、最近よく見た顔だった。

 

「あ、リライヴか。沢山見たけど…久しぶりなんだよな。」

『確かに…久しぶりフォート。今から船に戻る所なんだけど来るなら一緒に来れば?』

「分かった、ちょっと待っててくれ。」

 

通信を切ってフェアレを見る。

アンチエクリプスを追えとかわざわざ言ってった位だ、フェアレが攫われた訳や今回の一件について知ってるはずだ。

その確認に行くつもりだから一緒に行きたいと思って探してたんだが、フェアレはシグナムさん達の方を見ながら遠慮していた。

 

「えっと…私も出ちゃって大丈夫なのかな?」

「フェアレは気を使う事は無いさ。何か言う奴がいても俺が黙らせる。」

「け、喧嘩は駄目だよ。」

 

黙らせると断言した俺に苦笑いするフェアレ。

だが、幾ら敵に協力してたって言っても他の子が材料にされるのを避けるためだったんだから、贔屓目抜きにしても誰にも何も言わせる気は無い。

 

処遇が決まるまで大人しくしているというエフスを置いて、フェアレを連れて艦の外に出ると…

 

 

リライヴと灰の堕天使が向かい合っていた。

 

 

微妙な空気だ。

確かニルとか名乗ってるらしいけど…ろくな目にあってないからな。

本物がいるから生まれ、本物がいるから自分の全てが偽物になってるわけで。

 

自分で造った訳じゃないにしろ、リライヴの方も気まずいんだろう。

自分の力で人殺しに回っていたって所でも無視は出来ないだろうし。

 

「とりあえず、アースラ行って貰えるか?」

「っと…そうだね。」

 

話しかけられてホッとしたかのように転送用魔法陣を起動させるリライヴ。

どうやらニルの奴も来るらしい。

 

 

アースラに転移すると、走っている子供とソレを追い回す桜色の髪を編んでいる女性が居た。

 

「いつの間に?」

「え…っ!産んでない産んでないっ!」

 

俺の問いの意図に気付いたリライヴは慌ててぶんぶんと首を横に振る。

別に似てるとかなかったからそうなんだろうけど…相変わらずこう言う所は純な人だ。

 

「身寄りのない子供を保護したりしてて…誘拐する気はないんだけど、身内探しとかは局とゆっくり話せるようになったらって事でつれまわしちゃってるんだ。」

 

まるで悪事でも働いてるかのように言うが、出たがる奴を管理局に預ける手段くらいは持ってるだろう。ディアーチェもそうしてたし。

って事は、あの子達は助けて貰って離れたくなくて残ってるとか、本当に行くあてもない奴って所だろうな。

 

なんにしてもただボーっとしてた訳じゃないらしい。

少しだけ安心した俺は何を言うでもなく笑みを浮かべていた。

 

 

 

Side~高町なのは

 

 

 

トレーニングルームまで来た私は、その姿を女性と共に眺めていた。

 

 

無表情で棒立ちになっている速人お兄ちゃんの姿を。

 

 

泣くだけ泣いて落ち着いた後、話し始めて少し経った所で、急に速人お兄ちゃんが私を押し留めて歩き出した。

声をかけようかとも思ったけれど、デバイスは待機状態なのに背中に差したままになっている太刀から放たれる嫌な気配にそれが出来ずに後をついてきて…

 

 

途中で合流した傍らの女性、神咲薫さんと肩を並べて立っていた。

 

 

なんでもあの剣を速人お兄ちゃんに任せるに当たっての見張りとしてついてきているらしいけれど…

 

「あの刀…霊剣とか言ってましたけど、一体何なんですか?」

「彼から聞いたエクリプス…その原因となっている憎悪を喰い殺す為に作った剣。…うちらが扱う本物の霊剣とは別物の、むしろ魔剣と言うべき剣。」

 

詳細全部を今聞いていたら間に合わないかもしれない。

聞きたい事は沢山あるけれど、今はただ続きを待った。

 

「霊剣を扱うには霊力が必要で、その修行は済んでいるけど…速人君の霊力はあんな剣を扱える程じゃない。普通は乗っ取られるけど…速人君は心を殺す事で自分を操ろうする『剣の憎悪』ごと押し込んで封じている。」

「っ…」

 

ゾッとした。

早い話、感染者にある殺人衝動に対策を練るのでなく、自力で耐えているようなものだ。

しかも神咲さんは、『憎悪を喰う』って言った。

つまり、ここまで差してきた筈の刀のそれに耐え損ねたって事は、さっき相手にしたリライヴちゃんの感染クローンの分の…感染者一人分の憎悪が『増加してる』から…

 

「最悪速人君が負けたら…その為にうちがいる。けど、心を押し殺している時には剣に操られんでも何するかわからんらしいから…今は刺激しないよう見ておくしかない。」

「…はい。」

 

霊剣、についてよく分からないって言うのもあるけど、専門家としてつれてきたんだろう神咲さんがこう言っているのだから素直に見守る事にして…丁度、そこで背後の入り口の扉が開いた。

 

リライヴちゃんが、フォートとフェアレさんを伴ってそこにいた。少し離れた位置にニルの姿も見える。

リライヴちゃんは、去ったように見せかけて見張っているかもしれないOAシリーズやランド少将たちを警戒して周囲を見回っていたらしい。

会って話したいとは思っていたんだけど…今は明るい話ができる状態じゃない。

 

「速人は大丈夫、少し落ち着くまで待てば…フォート?」

 

リライヴちゃんが私を安心させる為にか声をかけてくれてる真っ最中に、全部無視してフォートがつかつかと歩いていく。速人お兄ちゃんの方に向かって。

 

 

そして…

 

 

 

「フォトンバスター!!!」

 

 

 

いきなり銃を展開したフォートは突っ立ってるお兄ちゃんに向かって砲撃魔法をぶっ放した。

私は呆然とソレを口を開けて眺める。

 

 

 

「なっ…なんばしよっと!?」

 

 

 

神咲さんの喋りがどこか少したどたどしく聞こえたのは訛りが出ないようにしてたからなんだなー…と、私は何処か馬鹿な感想を覚えていた。

 

…多分…アレだ、私の身体がこの結果を察していたんだろう。

 

驚きの中に何処か残る冷静さに身を委ねて私は考えるのを止めていた。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 




二人揃うと心労が酷い事に(汗)。
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