記録四十・世界の裏で踊る災厄
Side~カレン=フッケバイン
管理局とは別で先に話があるって事で呼び出されたあたしは、目の前に座る黒髪の女を油断なく眺める。
多少年を重ねてる感はあるけど、衰える…って言うより、その分危険度を積んでるような気配があった。
すさんだ日常を送ってるとなんとなく分かる事もある。
コイツからは血の匂いがする…殺人者の匂いが。
「私達は君達の知る、都市伝説のヒーローである彼等の力を借りて、地球への脅威を払うためにここにいる。」
地球は管理外世界、次元移動して戦うって言うなら他者の力が必須になる。
そこまでは別に意外な話ではなかった。
「単刀直入に言おう、君達に私達の傘下に入って貰いたい。」
「本当にいきなりねぇ…あんた達がどんな奴かも大して聞いて無いってのにさ。」
まさか傘下に入れなんて言われるとは思わなかった。
あたしらが何をしてきた一団か位は聞いてるだろうに。
詳しく話を聞くと、地球内に存在する国家間の枠組みを超えて排除する必要のある程の重度の悪を裁く為の『最凶』の治安維持部隊らしい。
であるが故に、世界を跨いで排除する必要のあるものを追って出てきたのだという。
境界線に縛られていると管理局を嗤っていたあたしらとしては中々に面白い連中だ。
「次に動いた時に主要関連施設を排除する。そして、その後速人君達の力を交渉材料に今回の一件に関する許可をさせる交渉を行う。」
許可をさせる。
名前の通り本当凶の一団らしい。
今までやってきた次元世界での犯罪が『今回の一件』に関するものだというのなら、それを許させる事は彼等や…八神はやて達に罪をかぶせない為の交渉になるんだろう。
そして、それを許さないと言うのなら、逆に次元世界にまで出てきた地球にある違法組織として彼女達が狙われる。
彼女達にしたって管理局に恨みがなかろうと世界間治安維持の最終兵器と言っていい身で滅んで上げる訳には行かないだろうし、最悪地球が監視下に置かれるような横暴が行われるなら…噂のヒーローさんなら、自分達が捕まる程度ならいざ知らず、弱き民の味方として地球対管理局なんて構図、ほっとかないだろう。
「スムーズに要望が通るなら、今後速人君達の力を借りて此方の…異界から地球に出回るような災厄の調査が難しくなる。通らなければ…最悪管理局システムを相手に速人君達だけで戦う事になる。どちらに転んでも、彼等以外の異界で動ける力が欲しいと言うのが本音だ。」
「あたしらにソレになれ…って訳ね。」
この一件を起こした連中の壊滅はあたしらとしても望む所。
傘下になれって言うのはへんな犯罪行為をするなって話になるだろうからやりづらくはなるんだろうけど…
「断ったら?」
「私達は地球の災害にならない限り何もしないさ。私達は…ね。」
「…そういう事。」
自分達はと繰り返す彼女に、あたしは後を察する。
本当凶の名にふさわしい部隊らしい。
傘下に加わるなら彼女等の指揮下に入るって事になる訳で。彼等の求める活動以外での犯罪を許可されないようになり、度が過ぎれば降ろされる。
加わらないなら…無関係の犯罪者を庇い立てする理由は無いから、被害者が出回るのを嫌ったあの刀を持つ高町速人含め管理局が普通に敵に回る。
悪く無い手だ。…ある一つを除くなら。
「随分と頼りにされているのね、物語のヒーローさんは。」
この計画の主柱がまるで自分達じゃない事への皮肉を込めて嘲ってやる。
彼一人…ないしはそのお仲間がどこかで折れればそれで全部台無しだ。あたしらや時空管理局相手に矢面に立って世界一つ守るための交渉材料になる…とてもウチ等と同じような小規模組織の負う役柄じゃない。
「君達にも無理か?毒として私達より優れているだろうに。」
だが…女はよりにもよってそこで初めて笑って見せた。
馬鹿にされたかとも思ったが、君達に『も』って物言いにそうではないと思いなおす。
「…分かっている筈なのに…いや、私達と同じ筈なのにな。」
「え?」
「君だって分かるだろう?あんな刀を夢見る子供が持てる筈がない事位。」
感染者さながらの…否、それ以上の憎悪を悪意を害意を闇を湛えた刀。
確かに…あれはきっとアイツ以外に持てる奴なんていないだろう。
何で笑いながら持ってたのか正直未だに理解できないくらいの代物だ。
何でかは考えなかったけど…アイツが感染者かそれ以上の憎悪か悪意かに『慣れている』事位は容易に想像がつく。
「昔…彼は私達の元へ誘ったんだよ。本当に世界の命運を繋ぐ位置に立って見せる所まで来るとは思わなかったからね。こうなると現実を知っているって言葉が虚しい諦めに聞こえるね。」
「…そうそう何でもかんでも上手くいってたら感染者なんて生まれないわよ。」
誤魔化す様に言ってみて、リアクトプラグの娘を連れ帰ってきてからのヴェイの気分を思い知る。
憎い憎いと言いながら憎んでいる世界の悲劇と同じ事をしている自身の姿を。
「彼等は手を繋いだ者を不幸になどさせはしない。その上でもう一度聞こう。我等の傘下として次元世界を動いてくれないか?」
女の再度の問いに、あたしはくしゃりと髪を鷲づかみにして肩を落とす。
妥当な選択肢がそれしかない状況を作っておいてくれてよく言う。
彼等の敵方に協力するって手もあるし、逃げるって手もある。
けれど、何をしでかすか分からない大悪党相手に協力するのもゴメンだし、今更逃げ手に回っても詰められるだろう。
「…とりあえず持ち帰らせて貰っていい?ウチの子達と話してこなきゃならないし。」
「あぁ。ただ…出来るなら作戦会議までに決めてくれ。人手が多いほうがいいからな。」
「そんなにはかからないわよ、ちゃんとあの娘が起きるまでに決めてくるわ。」
部屋を出て出口へと足を向ける。
ったく…何をどうしてもしがらみばっかりね、世の中ってのは。
Side~八神はやて
完全に液体に浸かると殆ど眠ってる状態になっていたらしく、長い間を感じずに目が覚める。
けど、ポッドから出るとダメージはかなり抜けていたし、魔力にいたっては完全回復といってよかった。起きて早々素っ裸で全身濡れているって状況さえ味合わなくていいのなら一家に一台欲しいくらいや。
…こんな栄養の吸収効率ええと、太っていそうで怖いけど。
服装を整えたところで残されていたメモにしたがって会議室に顔を出す。
六課からは、フェイトちゃんとティアナとなのはちゃんは既にそこに集まっていた。
「心配かけてごめん。ティアナとフェイトちゃんは大丈夫やった?」
「シャマル先生に診て貰いましたので戦闘でなければ何とか。」
「私の方もどうにか。」
さすがに傷は癒えてないみたいで包帯を巻いてはいたが、芯へのダメージは無いか抜けたか、二人とも杖とかはなく普通に座っていた。
空いている奥の席に座ると、しばらくして部屋の扉が開いた。
速人君とリライヴちゃん、美沙斗さんにさくらさん、それに眼鏡をかけた知らない女性が入ってくる。
知った顔が多いけど、結構な緊張感を感じる。
それだけの重い話を抱えとるって事やろう。
「さてと…代表者を中心に集まって貰った訳だが…多いなぁ。」
「雰囲気台無しやなぁ。」
が、集まった人数に肩をすくめる速人君のお陰で、割と張りつめた空気だったのに一気にぶち壊しになった。
軽い空気にしたかったんだろう速人君の狙いを断ち切るように、美沙斗さんが咳払いを一つしてから話を切り出した。
「…まず、簡潔に私達について名乗っておこう。私達は地球在中の国際警防部隊…国家の枠組みを超えて秩序を守る番人だ。」
美沙斗さんがしてくれた、自分達の紹介。
その紹介にある、国家の『枠組みを超えて』と言う内容に、なんとなくだけどこんな形での再会になった原因を察する。
とは言え、説明は今ちゃんとしてくれるだろうから話の続きを待つ。
「速人君には我々の管理世界の手足として力を貸して貰っていた。」
「…みたいですね。」
美沙斗さんの説明にうなずく。
次元移動技術の存在しない地球の美沙斗さんがここにいる。手引きがないと無理な話だ。
「無論、君達管理世界の都合…と言うのも簡潔には把握している。自然界で言う『生態系に手を出さない』と言ったところか。」
苦い表情で言う美沙斗さん。
技術の進んだ管理世界から見ればありえる見方だ。
けれど、地球からしてみれば馬鹿にしていると見えて仕方ない。進んだ技術があれば救える人もあるだろう事を考えれば観察の末見殺し、と言うことになるのだから。
それでも、技術干渉は本来の歴史をひっくり返すくらいの大事になってしまう。管理世界と交渉した上で管理下を選んでいない世界すらある位なのに技術的に近づいてもない世界にそんな滅茶苦茶は出来ない。
美沙斗さんもそのあたりの話については魔法と関わった段階で把握しているし、酌んでくれているはずだ。
「それは承知で、無理を押して強行してここにいるのには訳がある。」
だから、そんな地球だけ、管理世界だけと分けられた話では無いんだろう。
「フェイトは覚えてるだろ?地球に横流しされてた馬鹿機体。」
「あ、うん。…まさか、また?」
終始シリアスな美沙斗さんに割ってはいるように話す速人君。
嫌な予想に辿り着いたフェイトちゃんが苦い顔で問いを投げかける。
もしそうなら、確かに『いい加減にしろ』と言いたくなるのも分かる。
「その程度なら良かったんだけどな。」
「は?」
が、あろうことかその程度とか言った速人君に続くように、リライヴちゃんが口を開いた。
「彼らが追っている生死問わずの殲滅対象、非合法テロ組織『龍』の中核、管理世界みたいなんだよね、どうも。」
絶句。
言葉を失う、という表現がこれほどふさわしい状況はなかった。
「まさか…管理世界の力を用いて管理外世界で暗躍する奴もいるけれど…地球みたいに文化を幾分取り入れてる世界で見つからないなんて…」
純粋管理世界人のティアナは私達より衝撃が少なかったのか、驚きを素直に漏らす。
手続きが少々面倒だったり、その結果高ついたりするが、管理外世界からも文化は収集している。
私達みたいに出身世界の物が欲しいと思う管理外世界出身者何かもいるからなのだが…
文化を取り入れていると言うことは、取り入れる人員が違反者警戒も含めて、存在する。その状態で暗躍すると言うのは驚愕の事態だ。
「百足の脚を千切っても千切っても、本体は死なない。」
眼鏡の女性が意味深な言葉を口にする。
重い空気のまま言葉を紡ごうとする彼女を制して、速人君が再び説明に入った。
「そこが連中の厄介なとこでな、各地の犯罪組織に紛れ込んだり構成員拾ったりしてやがるみたいだ。んで、その無関係組織が潰れても一人二人でも逃げ出せれば技術や資産の一部は手に入る。地球のも、地球の組織に紛れ込んだり関係ない奴の組織化に手を貸したりだけしてきたんだよ、管理世界の事を伏せてな。」
「連中がバラバラの技術を良いようにせしめているのは説明するまでもないよね。」
リライヴちゃんの捕捉に、私は小さく頷く。
彼女のクローンが暴れてて、誘拐事件が起きて、高性能機体に襲撃されて、エクリプス関連の技術も持っている。
なんて連中だ。
そう思わざるを得なかった。
「そんな訳で、こっちの法規上放置できない龍の根絶の為に動いてたってわけだ。警戒対象の管理局には内緒でな。」
「警戒…対象?」
地球から出張ってきているとなれば、質量兵器を使用は必須になる。
その上で殺傷を躊躇わない団体となれば、管理局を警戒するのも無理はない。
でも、今の言い方はどうにも引っかかる。そういう事情以外で初めから局を敵視しているような…
「国外逃亡パスポートなしで超有能な稀少人材魔導師をかっさらい、その魔導師集団抱えてる法務組織。しかもそっちからきた連中が動いてるんじゃ信用は無いだろ。」
「私達のせいって事?」
「理由の一因を担ってはいるな。ともかく、龍を止めるための活動で『おまえ達に何か言われる筋合いはない』ってのが美沙斗さん達の見解だ。この上で局が苦情を言い出すなら、その時は管理局と一戦交えるのも辞さないらしい。」
「他人事みたいに言わないでくれ…」
美沙斗さんが速人君の様子に疲れたように息を漏らす。
けれど、少し考えれば疲れてる事情も理解できた。
管理世界に関わる上で唯一力を借りられる存在、速人君達一向。
その速人君が、『不殺のヒーロー』を志している以上、殺人を躊躇わないの管理局との交戦も視野に入れるの言った所で、彼が制限をかけたらそれで終いだ。
当然、速人君が地球対管理局なんて一戦は望む訳も無いから思うように動けず大変だったんだろう。
ただ…それは勿論『地球側』だけの事情。
もし万一、管理局の方が彼等丸ごと危険因子と判断すれば、『地球対管理世界による戦争』と言う最悪もあった…いや、あるはずだ。
その際は、おそらく速人君達は彼等側に着く様に説得されているだろう。
でなければこんな綱渡りできないしさせられない。
「さて…今の話を聞いた上で、龍の殲滅に関して協力してくれるか?」
一見、問題ないように思える速人君からの依頼。
けど…一つだけ大きく、重大な問題がある。
「局内のも…って事になる訳やな。」
さっき局の部隊と口喧嘩になったばっかや、あれからしてその龍の狙いとするなら、当然局にも乗り込む必要が出てくる。
私が安易に頷いて部隊の皆に協力させたら、最悪謀反で隊の皆も故郷を追われてまう事になる。
「管理局システムそのものは必要ってのは分かってる、殲滅する気も無いが…まさか俺達が顔パスで通れる訳もないし、龍がらみの連中を倒した後から事情説明…って流れになるんだが…」
犯罪者を追跡していた部隊がその一同と協力して管理局に殴りこみ。
事情こそあるとは言え、相当上手い事いかない限り無実では通らないだろう。
見逃しても同様。
なら、見逃さずに速人君達を逮捕するか?
質量兵器を使い、あれだけのクローンやら兵器を量産し、エクリプスにも関わっている。
そんな一団を差し置いて彼等を逮捕し、事情説明して局のどの地位に食い込んでるかも分からん奴を敵にまわして礼状取ったりなんだり手続きをちゃんと踏んで龍とか言う連中を逮捕…
此方も此方で現実的とはいえない。
そもそも、このまま全力で交戦に入った所で今の話を本局に届ける事すら確実と言えないくらい、彼等は異常な戦力なのだ。船も墜ちてるし。
「協力してくれるって言うなら、基本指揮権はそっちに任せる。管理世界のルールに則って動くって意味ではそのほうがいいだろう。こっちの武装と敵の排除に関しては承知して貰う必要があるけどな。」
龍の構成員を倒せなきゃ意味が無いが、基本逮捕で進める管理世界のルールに則って動いてくれる、と言う事だろう。
許可もなしに倒しにかかる時点でアレだが、それでも基本的な指揮権をくれるというのならまだ滅茶苦茶をされづらくはなる。
何より…これだけの災厄を引き起こす集団が居る、と言うなら放置は出来ない。
「やるしかない…よね。」
「うん。」
なのはちゃんとフェイトちゃんの返事の方が早かった。
部隊全ての命運を握っている私よりはまだ自分の意志で応えやすいのかもしれない。
どうしてもスパッと頷けん状況やけど…かと言って、それらを放置する訳にもいかん。
結局、共闘するしかない。
「私は参加する。ランスター執務官はどう判断します?」
地球や彼等と全く関係の無いティアナに、信用とか身内って点を抜きに答えて貰いたかったため、あえて事務的に問いかける。
「現時点で私達だけで彼等とOAシリーズの全て、それらを統括する人間を敵に回して局内に潜む者まで排除するのは不可能に近いです。正規の手順を全て取っていては蜘蛛の子を散らすように逃げられる可能性が高い。管理世界での違法を承知の上で、管理外世界が絡む一件である事を加味して一時共闘を推奨します。…あらかた片付いたら代表には全て話しに出ていただきたいですが。」
「それも確約しよう。此方としても世界間を渡る犯罪者への対応と龍の残りの殲滅についても話をつけたいからね。」
仲良くって雰囲気になれん状況やけど、それはしょうがないと我慢する。
ともあれ、美沙斗さんからも後の事情説明や話し合いの確約が取れ、世界級の危機となれば緊急措置と判断していいだろう。
「他のフォワードの皆には声かけて決めて貰うけど…艦のメンバーには待機を命じていく、それでええか?」
「あぁ。」
どうせ必要なのは襲撃戦力。しかもヴォルフラムは使い物にならん。
万一私達が裁かれる事態になったとき、知ってて私に協力した、と言うより知らないうちに上司が暗躍していた…の方が皆には体裁がいい。
正直、躊躇いがない事もない。
レジアス中将のように凶行になって無いか、局内に知らせて監査と共に暴いてと手順を踏むべきじゃないかなど、危うい所は山ほどある。
けれど…
一つ、何がどうなろうと変わらない事がある。
私の命を繋いでくれた、闇の書事件から連なる数多くの支え。
グレアムさんやリーゼ、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ夜天の騎士達や、フレイア。
私の命を救ってくれたなのはちゃん達。
多くの支えと救いに答え、闇の書の罪を負って最後の夜天の主として、この身に宿した力を皆の為に。
エクリプス感染者襲撃による町の崩壊。
人間を材料のようにした感染実験。
高性能クローンを生み出す過程の命の使い方。
これら全てを、掌の上で転がしている者がいる。
それは、到底許せるものじゃない。
そして…それが眉唾でない事は、あの速人君が地球対管理局の図式を作りかねないような事をしているって所を見れば分かる。
逆に、それでも排除しなきゃならないほどの集団と言う事だ。
「さて…と、共闘するって決めた訳やし、そろそろ色々聞いてもええかな?」
「それなんだが、一つ一つ話してく事になるんだ。地球の事、俺の剣の事、エクリプスの事、全部ばらばらに秘匿事項が関わってくるもんでな。」
「と言う訳で、我々は少し席を外そう。」
「ではまたアトで。」
美沙斗さんと眼鏡の女性が部屋を出る。
「つーわけで…次さくらさんお願いしても?」
速人君に促されて一礼したさくらさんは、何処か申し訳なさそうな表情だった。
「今回の一件に関わっている氷村遊は…私の腹違いの兄なんです。」
何処かも何も、申し訳ないと思う理由に十二分だった。
身内が世界規模の犯罪に関わっていればそれは苦い表情の一つ二つするだろう。
「昔…私と夫が学生だった頃、町一つ落とそうと画策していた彼を止め、追い払ったのですが…その後も最終型自動人形イレインをけしかけたり私の周囲で動いていたので手配…排除する事に決めたのです。」
「イレイン…」
確かエリオが戦って逃げられた自動人形がそんな名前だったはずだ。
フェイトちゃんがかみ締めるように呟きを漏らす中…
「あー悪い。イレインの奴今は俺等の連れ。」
「は?」
さらっと速人君がおかしな事を言い出した。
重ねて謝るように一礼したさくらさんは説明を続けてくれる。
「イレインには指揮機体としての能力があるのですが…遊はそれを利用して遠隔同期機構の設計図をCW社に入手させる事でラプターにそれを組み込ませ、主要タイミングで使う事で混乱を起こす予定だったみたいで…」
「それで、イレインにはラプター達の妨害操作をして貰った訳なんだけど…彼女自我系統強すぎる上に暴れたがりで廃棄された機体なんだって。一応無茶はしないようには言っておいたけど…仕掛けられて黙ってられる程大人じゃなかったみたいで…」
さくらさんの説明に続けるようにリライヴちゃんが申し訳なさそうに言う。
速人君がまだ動けなかった時の話だから、イレインに頼るのを決めたのはリライヴちゃんや美沙斗さん達なんだろう。
でも、主要タイミングって言うのはおそらく『トーマ誘拐』の為だったはずだ。
あの時、ラプターが緊急停止でなく同時にいきなりトーマに襲い掛かっていたなら…そう思えば止めて貰えたのはありがたい。
「殺傷兵器まで使った罰で武装はいで出力制限かけて雑用係。やらなきゃ武装返さないって事になってるからぶつぶつ言いながら雑用やってるよ。」
その様子を想像してちょっと笑う。随分可愛い扱いされている兵器さんだ。
「っと、話が逸れたな。とにかくさくらさんとこの家系に命狙われる身になった遊はこっちの連中に接触して逃れ、薊…だったか?を育てて今まで過ごしてきたって訳だ。」
「感染者になっとったのは力を得る為か…」
「え?」
命まで狙われてたら賭けに出てでも力を得ようとするのは分からなくも無いとそう思ったんだけれど…速人君達は遊が感染者になってる事まで知らなかったらしく、困惑の表情を見せる。
「…エクリプス感染者について何か知っとるん?」
「あー…それは次だな。この刀の話と一緒にフォート達にも話さなきゃいけない。」
速人君は言いながら背中の刀を指差す。
抜いただけで気分が悪くなるような刀なんてとんでもない代物、一体どう作ったのか。
気にはなるが、順番ってことなら今はさくらさんの話からだ。
私達が静かになったのを見計らって、さくらさんは再び話を進める。
「魔導師の誘拐事件が少し騒がれていたと思うけれど、それは彼の仕業。魔導師を生み出す為の遺伝子をかき集めるのと…自分の食事の為に、競技選手の映像なんかに残っている優秀な人を襲っていたの。ただ…実際の被害者はきっと騒がれていた量より遥かに多い。」
言われて思い出す。確か洗脳能力があったはずだ。
血を飲んで、奪って、やることが済んだら帰してしまえば誘拐にも被害にもならないから届けも出されていないような事態は多いんだろう。
彼の好みを考えれば…無自覚の内に暴行を受けた被害者もいるはず。ふざけてる。
「此方でも幾度も騒ぎを起こした身。処分してしまって構わないのですが…調べられると困るので、彼と彼の娘に関しては引き渡して貰いたいのです。」
「取調べできんって言うと困るとこもあるんですが…」
「取調べ…というより、生態と家系の調査ですね。」
つまり、夜の一族について情報を残しておきたくないって話だろう。
それなら少しは話も分かる、ただ…
「氷村遊に接触した者達が何処でどうやって何処まで知って、どれだけ情報を広げたか判明していない以上、ウチ等が全く何も聞かずにいるって言うんはあまり現実的やないかと。犯罪者間でだけ噂になる状況になってでも伏せておきたいと?」
別に要望に応えるだけなら、管理世界の管理を拒んだ世界として存在している管理外世界も存在する。誘拐されようが被害が出ようが後手に回ろうが構わない、と胸を張って言うのなら仕方が無い。
ただそれは…局員としての話。
夜の一族となるとすずかちゃんもそうなんだ。友達がそんな状態になるのは個人的に嫌や。
私情で少し冷たくなってしまった問いに、さくらさんは目を伏せる。
私とさくらさんを見比べて速人君は苦笑いしながら口を開く。
「まーぶっちゃけると。」
「ん?」
「無限書庫で自動人形の歴史漁ればどっかで地球に流れて夜の一族限定で渡った記述が出ると思うぞ。今の忍さんでもオーパーツの自動人形、コッチから流れた代物と見て間違いないだろうし。」
重々しい空気を台無しにする速人君の一言。
…確かに、それ本当にあったら情報伏せるも何も無い。
「思いついてたなら最初から言ってよ馬鹿!」
「い、いや、『それ言っちゃおしまいかなー』とは思ってたんだよ。たださ、いい加減色々進めないとまずいだろ?」
なのはちゃんに怒鳴られて逃げ腰で話す速人君。
ただ、夜の一族の話を伏せるように管理局とアレコレ交渉しても結局一族の一人が外に出てしまったんだ。速人君の見解も分かる。
「…実家の方に話を持って帰るから、その無限書庫って言うのについて少し聞いておいていいかしら速人君。」
「一般にも公開されてるから忍さんに聞けば施設紹介とか見れると思う。」
「そう…それじゃ、そうさせてもらうわ。」
部屋を出ようと席を立ち歩き出すさくらさん。
扉を開いたところで、私達を省みると、深々と一度頭を下げた。
「身内が迷惑をかけてごめんなさい。」
「いえ…さくらさんのせいじゃありませんから。」
何処か疲れたような彼女の足音が離れていく中、速人君が口を開く。
「魔女狩りとか、聞いた事あるか?」
「常識程度には。」
「夜の一族は人の血を欲する長命種族としてその煽りを受けてる。俺等にしてみれば大昔の出来事でも、さくらさんや氷村遊にしてみれば一、二世代前に親族をモルモットにされてるんだ。そう簡単に笑顔で握手って訳にはいかないんだ。」
速人君は元モルモットの一人として、それがどういう事かよく分かっているんだろう。
やわらかく言うつもりで言えていなかった。
私も私で少し関わってる古代ベルカ関係にしたって未だに因縁が残ってるくらいだ、さくらさんの警戒を堅苦しいなどと言うつもりは毛頭なかった。
「さて…ここまでは地球の話題。後は管理世界の問題であるエクリプスとフェアレに組み込まれたシステムの目的についてだな。つーわけで…」
話を区切った速人君は通信を繋ぐ。
「フレイア、豪華なお茶菓子よろしく!後フォート叩き起こして下のエフスも呼んでくれ!」
『はい。』
何をしだすかと思えば一息入れるらしい。
ま、まぁ話通しやし別にええ気もするけど…相変わらずとんでもない連中を敵に回してる真っ最中とは思えんなぁ…
SIDE OUT
どうにか明るく…と言っても無理な内容ですね(苦笑)。