なのは+『心のちから』   作:黒影翼

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記録四十一・心喰らう種

 

 

 

記録四十一・心喰らう種

 

 

 

Side~トーマ=アヴェニール

 

 

 

エクリプスについての話になるって事で呼び出された俺は、なんだか管理局員とか思えない状態で…

 

ガラガラとケーキの載った台を押しながら歩いていた。

 

凄いおいしそうなのはいいんだけど、これ重要な話をするタイミングでいいんだろうか?

しかも全員分ホールって言うとんでも量。

 

 

「うーん…けど、シグナム隊長達ですら来てないのにあたしがいるとさすがにちょっと気後れするなぁ…」

 

 

Pチームって事で呼び出された為アイシスも一緒だけれど、エリオ君達やシグナム隊長達を差し置いてって感じだから少し戸惑っている。

 

「それを気にする程神経の細い人間がエクリプスに首を突っ込むものか。」

「む、そりゃ厄介ごとに首突っ込むのは好きだけどそれとこう言うのって話違うでしょ?」

 

呆れるエフスを横目で睨むアイシス。

…彼も一般的に言う犯罪者ってイメージじゃないんだよな。

 

賢者と言うか、隠者と言うか、何か疲れて諦めているみたいに見えた。

フェアレちゃんを助ける為だけに敵組織を裏切って命を掛けるあたり、悪人って片付けるのは躊躇う感じなんだけど…

 

「あ、エフス。お前も来たのか。」

 

軽く話しかけてきたフォートは、何か怪我が増えてた。頬にガーゼを当て、所々に包帯が見える。

い、一体この短時間で何をしでかしたって言うんだ…そもそも回復だってしてないはずなのに…

 

「驚いてるなよトーマ。」

「え…」

 

いきなりフォートに内心を言い当てられてどきりとする。

そりゃいきなり怪我が増えてるのに目が行ったけど…

 

「多分、進退決める最後の機会だぞ。それに…あの馬鹿なら嫌がる奴を戦闘に混ぜるなんて絶対やらないからな。逆に言えばノンビリしたけりゃそう言うつもりでいればいい。」

「進退って…俺は…」

「高町速人は絶対、誰一人に戦えなんて『指示』はしない。やれるだけやるってんならここで事件片付くまでお茶飲んでろって話になる。」

 

チクリと胸に刺さるものがあった。

フォートは…『何を言われても』止まらない。その意志で以ってここにいる、ここまで来た。

 

じゃあ俺は?

 

よくやったと頭を撫でられ、事件を終わらせてくるからと出て行くだろう皆に並んで…俺は命がけで戦いたいのか?

 

リリィをつれて?

 

 

「っ…」

 

 

一瞬、リリィを巻き込まない事を言い訳に逃げそうになった自分に気付いて嫌になる。

違う、そうじゃない。

 

 

俺は…どうしたい?

 

 

役に立てる自信は無い。さっきだって疲れ切ったCAシリーズの残り相手に時間稼ぎが一杯一杯だったんだ。

 

「ちょっとフォート、こんな急にそんな話」

「あの馬鹿のせいだよ。」

 

抗議しようとするアイシス相手に少しバツが悪そうに応えるフォート。

 

「女子供、いや、自分以外の出来る限り多く、戦わないほうがいいと本気でそう思ってる奴だからな。俺も詳しく聞いた訳じゃないけど、力に関してろくでもない目にあってるんだろ。」

「夢想家だな。さすが貴様の師だけの事はある。」

「お陰で苦労したぜ。諦めるほうを薦める人間相手に齧り付くのは、諦めるなって叩かれるよりよっぽどな。」

 

笑いながら、けど、苦労したなんて珍しい台詞を吐くフォート。

今の一瞬だけでリリィを言い訳に逃げかけた俺には、それがどれだけの事かなんて想像もつかなかった。

 

ただ…一つわかってる事がある。

 

「ありがとう。」

 

耳に痛い話。それをちゃんとしてくれる事。

それは、俺がフッケバインの仲間だと言った時と変わらず、心配してくれている証。

 

決めないと…俺がどうしたいのか、ちゃんと。

 

辿り着いた会議室の扉が開くのを眺めているのに、随分覚悟が必要だった。

 

 

 

Side~高町なのは

 

 

 

結構重い話になるって言うのに、がらがらとケーキの乗った台車を押してくるトーマ達の姿になんかほっこりする。

 

「ごめんね、お客さん使っちゃって。適当に空いてるとこ座って。」

 

皆を席に促したリライヴちゃんは、台車に乗っていたケーキとティーカップに浮遊魔法をかけてそれぞれの席に置く。

結構な数があるのにあっさりやるあたりはさすがだなぁ。

 

「とりあえず話は耳に入ればいいから食べながらでいいだろ。」

「適当だなおい、大勢の人生左右してる事件だってのに。」

「実戦真っ最中ならともかく今からがちがちでも疲れるだけだろ。フレイアの腕は保障するし。」

 

軽いノリで話す速人お兄ちゃんとフォート。

とは言え、こんな所にいきなり呼ばれて普通平気な顔でリラックスできないだろう。

 

私はさっさとケーキに手をつけて、皆に微笑みかける。

上司がこんな感じなら皆も馴染みやすいだろう。こんな所で堅苦しい事を言ってもしょうがない。

 

フレイアさん御手製のケーキは相も変わらず美味しくて、おっかなびっくり手をつけた皆も笑顔になる。

初めから緊張感の無いフォートと黙々と食べてるエフス以外の皆は楽しめてるようでなによりだ。

 

 

「とりあえず…エフスを呼んだ訳を聞いてもええか?」

 

食べながらの軽いノリで、はやてちゃんが話を切り出す。

名前が出たエフスはフォークを置く。

 

「俺はCAシリーズが生まれた原因だが…エクリプスがらみの話となると、彼女に搭載されているアンチエクリプス、本来の目的が『その手前』にあること…についてか?」

「ちょ、ちょっと待って。CAシリーズの原因って、彼女達を作ったの?」

 

エクリプスの話も気にはなったけど、それよりも引っかかる重大事項があった。

 

多分目下最大の問題だと思うOA、CAシリーズとか言うリライヴのクローン。

アレの原因だなんて話は初耳で大事だ。

 

けれど、まるで驚かずに咳払い一つしたリライヴちゃんが口を開く。

 

「私のクローン。って、言うのは簡単だけど、どうやって…『どこから材料調達して』作ったと思う?」

「何処からって…あ…」

 

そこまで言われてようやく思い至る。

クローンを作るには遺伝子が必要…それも髪とかじゃ成功率が酷く低い。

少なくとも、血液や何かが必要なはず。そして、それは…

 

リライヴちゃんから血液を採取できた誰かがいる…って事になる。

 

「…俺の正体にも見当がついているようだな。」

「面影はあるしな。エフス=スカリエッティ君…でいいのか?」

「な…っ!?」

 

笑顔の速人お兄ちゃんからサラッと明かされた名前に今度はエフスが注目の的に。

スカリエッティにもクローン技術にも因縁のあるフェイトちゃんが思いっきり反応を見せた。

 

「クローンを戦闘機人の子宮に仕込んでおいたが…ガジェットの中でも比較的大型のⅢ型なら、培養液と素体を保護するスペースさえ仕込めれば保護することは出来た。俺はその少数から生まれた一人だ。」

 

JS事件の折山程破壊したガジェット。

当然その全てを管理局だけで押収処分し、数も規模も把握できているなんて上手い話はある訳が無い。

確かに、人工子宮による培養、出産が可能である以上、それなりのサイズが確保できれば子供を仕込む事は可能なんだろうけど…

らしくも無いのにノンビリ逮捕されているなとは思ったけど、まさかそんな仕込みをしていたなんて。捜査協力なんて取引しない訳だ。

 

「今クローン生成に使われているリライヴの血液は、グリフが重傷を負わせた際にジェイル=スカリエッティが採取、研究していたものだ。関連機関に流されているからどこまで広がったかは分からん。」

「やっぱりあの時か…逃げるので一杯一杯だったのなんてそれくらいしかないし。」

 

リライヴちゃんにはスカリエッティに血液を回収される機会に覚えがあったらしい。

逆に、そこしかなかったからエフス君の正体も予測出来たんだろう。

 

「それじゃ虹色の魔力光はスカリエッティの奴のなのか。」

「えっ…」

 

フォートが何気なく呟いた言葉に、私は思わず声を漏らしてエフス君を見た。

当のエフスは、分かってないフォートを横目に睨んで肩を落とした。

 

 

虹色の魔力光…カイゼル・ファルベ。『聖王の家系』に発現する魔力光。

当然、ただのスカリエッティのクローンなら全く関係ない。

 

 

苦い予感を感じながら、エフスの言葉を待つ。

すると、彼は自分の瞳を弄り…

 

鮮やかな金色と緑色の瞳を顕にした。

 

手には、暗い青色のカラーコンタクトが二つ。

 

「『ゆりかごの子供』にふさわしい素体を作ってみようと、当時のゆりかごの起動キーであった聖王ヴィヴィオとジェイル=スカリエッティの子供として作り上げられた素体に記憶転写を行った俺がたまたま目覚めたらしい。ただのクローンは十数体も作ったからと遊びのつもりだったんだろうな。」

「こ…どっ…」

 

フェイトちゃんが隣でパクパクと口を開閉させている。

緑の右眼は聖王の、金の瞳は…スカリエッティの特徴。見れば見るほど間違いない。

言葉にならない気持ちが渦を巻いているんだろうな。

 

突然、手元から陶器が割れる音がした。

 

ゆっくり視線を落とすと、カップの取っ手を完全に握りつぶしてしまっていたらしい。

落ちたカップが割れてしまっていた。

 

「ママ二人、おっかない反応するんはええけど、彼はジェイルやないから怖がらせたらあかんよ。」

「あ、ご、ごめん…」

「っと…ごめんね。」

 

はやてちゃんにたしなめられて、フェイトちゃんと揃ってエフスに謝罪する。

 

彼が生まれた事自体は何も悪い訳じゃないんだ。

フェイトちゃんやエリオがそうであるように。

 

けれど、彼は冷めた目で首を横に振った。

 

「今更管理局員に謝られた所でどうにもならないさ。」

「今更?」

「言っただろう、ジェイル=スカリエッティの記憶を持っていると。生体操作技術を狙う者からJS事件への関与を明かされたくない者まで命を身柄をと狙ってきた。組織があるわけでも身体が出来上がっていた訳でも無い俺が生き残るには、尤も俺の命を保障する組織に進んで協力するしかなかったのさ。」

 

彼は言いながらフェアレさんを見て…ここに来て初めて微笑んだ。

 

「言い訳しながら悪事に関わるか、心底の悪党か、何も知らない子供ぐらいしか知らなかった俺にとって、自身を改造しようとする俺に挨拶までしてくるお前の存在は唯一と言っていい光だった。出会えて本当に感謝している。」

「そんな…私助けられてばかりで何が出来たわけでも無いのに…」

 

殊勝に返すフェアレさん。

だけど、エフスの話は信じられないほどの偉業だった。

 

家族を殺され、囚われた先で自分の改造に関わる人間相手に脅されたわけでもなく応えるなんて真似、普通出来ない。

 

助けられた事をきっかけに速人お兄ちゃんと仲良くなったアリシアちゃん達と同じように、エフスにとってフェアレさんの事が本当に綺麗に見えたんだろうって事は容易に想像できる。

 

「俺は裁かれて構わない。だが、彼女には何の罪も無い。だから」

「この状況でそんな事突っ込む奴なんていないって。話を聞くために呼んだだけなんだから楽にしてていいぞ。」

 

覚悟を決めて言葉を紡ごうとした事は目に見えているエフスの言葉をあっさり一蹴する速人お兄ちゃん。

あまりにあっさりと片付けられたエフスは、呆然と速人お兄ちゃんを見る。

 

「無条件で許す…とか言う訳にもいかんけど、状況次第言うんは手配犯の彼等と共闘するって決めた私達もわかっとる事や。酌量の余地もあるし、今から気にせんでもええよ。」

 

裁かれるって自分から切り出したんだからそれなりに覚悟もあったんだろうけれど、一応は局員のはやてちゃんまでそんな事を言い出す環境に、ただただ呆気にとられるエフス。

どうしていいか分からないといった表情で止まってしまっている。

 

ヴィヴィオとスカリエッティの息子…か。

 

私は複雑な気分で彼のことを眺めていた。

 

 

 

Side~フォート=トレイア

 

 

 

「そんな事よりフェアレとエクリプスについてだろ?アンチエクリプスの狙いが『その手前』ってのはどういう事だよ?」

 

管理局はどうか知らんが、どーせ速人の奴が誰かを裁くの罰するの話なんてまともにする訳が無い。

CAシリーズについて聞くって言うならともかく、気にする必要なんか全くないことは後回しにしときたかったんだが、そんな事呼ばわりするのは無神経が過ぎたかなんか全員に見られた。

 

が、速人も部隊長も締めた話。結局エフスも自分の事は置いておいて続きに入る。

 

「彼女に搭載されているアンチエクリプスは彼女の記憶を消費する事で発生したエネルギーを使用して稼動する機関。彼女にそのシステムを搭載した老人の目的はアンチエクリプスそのものの発動だったが、彼を利用していた連中の目的は、あの感染者を広域停止させるほどの強力なエネルギーそのものだった。」

 

エフスの説明に俺が見たアンチエクリプスの発動を思い返す。

トーマを含め、本物の感染者である集団が纏めて行動不能と言っていいほどにその機能を狂わされていた。

大して、フェアレが忘れている昔の事は軽い虐めにあった経験や、元クラスメイトの存在などで、発生したエネルギーに比べれば随分と軽いものだった。

 

記憶を消費するって話は実験段階から判明してただろうから、何度か使ってもその程度の消費って事になる。

一見無理して得るエネルギーには見えないが…もし『人一人分の記憶を丸々一発で使う事が出来るなら』その力はSSすら笑えるほどの代物になる筈だ。

 

「そいつが全ての元凶だ。」

 

珍しく冷たい声で放たれたその一言に、一瞬誰の声か分からなかった。

 

声の主が速人だと気付いた所で俺も居住まいを正す。

アイツが笑えない代物だ、単なる不幸や悲劇で片付いていい物じゃないんだろう。

 

「全ての?」

「アルハザードから残る大迷惑の根源で、ジュエルシードにも夜天の書にも融合騎にもエクリプスにも関わってくるからな。全ての元凶って表現もいいすぎじゃないだろ。」

 

言いすぎと言わんばかりに聞き返した八神部隊長に対して、肩を竦めて返す速人。

確かに、軽く聞いた、速人やなのはさん達が関わってきた大事件全部って感じになる。

 

 

 

「その元凶の名前はイデアシード。人の意思…『記憶』を材料に生み出される高純度エネルギーだ。」

 

 

 

言われる前からわかっちゃいたが、相応にろくでもない代物らしい。

つまりは、何処のどいつか知らないが、本物の人力発電をもくろんでる奴がいるって事だ。

便利だろうが強かろうがイカれてるとしか言いようが無い。

 

「守護騎士システムのブラックボックスにもオリジナルの融合騎にもコイツが使われてる。身体をシステムで構成して中身に『当時の本人』丸々封じ込めてるんだ。ただのコピー&ペーストで増やせない訳だな。」

「クローン体に記憶の『データ』をコピーしても同じ人間として生まれないのもコレで説明がつく。データを入れただけじゃ思いの強さがまるっきり違うんだから、同じ事柄への印象とか何もかも変わってきて当然。」

 

速人とリライヴの説明に重苦しい空気が漂う。

守護騎士システムとかよく分からん話も出てるが、皆関わってる話なんだろう。

 

「エクリプスについては、原初の種って言われてる感染源があるんだけど、それがイデアシードを元に改造して作られたものみたいなの。憎しみを増幅させるシステムを追加してその憎しみの力をエネルギーとして使えるようにすれば、自力で強い思いの力を生み出して扱うことが出来る。戦火の中、『敵への憎しみ』に感染させればかなり安定して強力無比な兵器になるからね。」

 

人を殺さずにはいられないエクリプス感染者。

逆に言えば、感染できれば誰でも躊躇いなく人を殺せる存在になれる。

 

イデアシードのままだと使用したらそれで消費するが、敵への憎しみを強大な力に変換し、殺戮衝動を晴らすためにその力を存分に振るって戦うとなればかなり効率のいい兵器だ。

消費するのが新たに生まれた憎しみってのもポイントだ。古い記憶を消費する必要が無い。

 

「イデアシードを生成する技術は既に失われてるけど、エクリプスは…本人の意思力を媒体に力を発生させるシステムは残ってたから、そこからイデアシードの生成技術を手に入れようとして作った試作システムがフェアレに組み込まれたアンチエクリプスってことだね。」

 

記憶を消費してる分本物に近づいてはいるんだろうが、抽出までは出来て無いって事か。

が、ここまで聞いて一つ嫌な事に思い至る。

 

「なぁ…イデアシードってのを引っ張り出すのに必要なのは記憶ってだけ…別にフェアレでなくてもいい気がするんだが…なんで成功体がそんなに少ないんだ?」

 

フェアレ本人を改造してるあたり、まだ『エネルギーを取り出して使う』って事が出来て無いんだろうけど…それにしたってフェアレ以外に適応しないのは妙な話だ。

 

「アンチエクリプスは、エクリプスが憎しみを持つ者に適合するのと同様に…『憎悪、分断を否定する者』に適合する。」

 

予想通り、速人が説明を始めたのはアンチエクリプスについてだった。

憎しみを持つ者に適合する…因子や肉体じゃなく感情に適合ってのは少し以外かもしれないが、イデアシードとか言う意志を元にしたエネルギーが関わってるならそれも不思議な話じゃないのかもしれない。

 

「エクリプス感染者を出すために手当たり次第やってもそうそう適合しなかったのは、殺されそうなタイミングで人を憎むような思考回路が働くような奴なんていないからだ。同様にアンチエクリプスにしたって人体改造されてる身で憎しみを持たないなんて聖人が滅多にいないからだよ。」

 

何を持つでもなく暮らす平和な開拓地や田舎町にエクリプスウイルスを散布していたヴァンデイン。

局に見咎められず邪魔されづらい場所って事で狙ってたんだろうが…そんな所で強い憎しみを抱いている連中なんてそうそういないだろう。

つまり…フェアレが聖人じみた優しさを以って憎んだり繋がりを絶ったりを望まなかったからこそ、アンチエクリプス用の改造を受けて耐えられて、今まで使われてたって事になり…

 

「本当の目的がイデアシードであってアンチエクリプスでないのなら…」

「アンチエクリプスは隠れ蓑扱いの研究…だから、彼女以外の子達は『そのほうがばれにくい』って程度の扱いで捨て駒になってた訳だな。」

「そんな…」

 

躊躇う事もなくそれを告げる速人。

 

「ふ…」

 

俺は息を吐いて笑う。

冷静になりたかったんだけど…

 

 

 

「っざけんなあっ!!!」

 

 

 

無理だった。

ぶるぶる震えるほどに握った拳で机に振り下ろす。

 

フェアレが生き残ったのはたまたまで、それ以外にも多数死んでいるはずの、フェアレが身を挺してこれ以上を出すまいと願った被害者達は、本当の狙いにすら全く関係ない所で死んでいた。

 

不出来なクローン体をエネルギー扱いしたり、薬漬けにして手駒にしたりとろくでもないのはわかっちゃいたけど…いたけどな!

 

「訳あってとは言え、俺達は管理世界で犯罪者になってる。説明はするつもりで呼んだけど、管理世界住人の皆には落ち着くまでアースラで待ってて貰うつもりなんだが…」

「寝ぼけんな、俺はフェアレのヒーローだぞ?イデアシードとやらに近づいているフェアレをいつ狙ってくるか分からないそんなふざけた連中放っておける訳が無い。」

「…だろうな。頼もしい弟子だ、全く。」

 

やっぱり戦わせる気はなかったらしい速人を睨みながら言い切ると、諦めたように笑う。

 

世界を救うってだけならほっといても速人がやるだろうし別にいいんだが、今回に関しては他人事じゃない。

エクリプスからイデアシードとやらに関わる件全部片付くまでは、フェアレが助かったからはいさようならって訳には行かない。

 

何が相手か知らないが、絶対止めてやる。

 

 

 

Side~トーマ=アヴェニール

 

 

 

フォートの怒声を耳に、俺は自分の心と向き合うように目を閉じていた。

 

 

脳裏に映るのは、俺の故郷を滅ぼした炎と感染者の二人組。

 

 

…憎い。

こんな気持ち、いいのか分からなかったけど、唯一つはっきりと言える気持ちだ。

目を開いて、俺ははっきりと通るように声を出した。

 

「俺も…戦います、戦わせてください。」

「トーマ…」

 

アイシスが少し意外そうに俺を見る。

 

リリィを守る、保護して貰うって言うならこんな戦いに自分から名乗りを上げるなんて間違ってるのかもしれない。でも…

憎しみに反応して感染するから適合率が低い、それが本当なら…

 

 

俺の内にあるのは、ゼロを起動させるほどの憎しみ。

俺の大切な物に、助けを叫ぶ声に、傷つけ襲い奪おうとするものへの憎しみ。

 

「俺も…感染者です。それも、ゼロドライバーとか言う特別な。今の話が本当なら、俺の内にある理由は、フォートや六課の皆みたいな綺麗なものじゃない。でも…きっと、本心なんです。俺は…こんな事を平気で出来る人達が、それを許すのが、何も出来ない自分がどうしようもなく憎い。」

 

はっきりと告げると、六課でも特に優しいフェイトさんが分かりやすく悲しそうな表情になる。ティア姉も浮かない表情だ。

 

「憎しみで戦うなんて褒められた事じゃないとは思います、でも」

「いいんじゃないか?」

 

速人さんがサラッと放った一言に、俺はたどたどしく紡いでいた言葉をとめて彼を見る。

ヒーローなんて言って人助けをしている人が、憎しみで戦うなんてもっと怒りそうなものだと思っていたから、意外だった。

 

「いけないのは憎む事じゃなくて、我を忘れる事だ。エクリプスなんて代物を開発した過去の戦争だってな、多かったのは敵を殺すと憎んでいた奴じゃなくて『自国の民を守る』って聞き心地のいい言葉に陶酔してる奴なんだよ。」

「我を忘れる事…」

 

エクリプスによる衝動に飲まれればそれにあたる。

リリィの力を借りて制御している時はそんなことも無い。

 

「リリィは…どうする?無理に付き合えとは…」

「トーマは私のドライバーだよ、絶対一緒にいるから。」

「…そうだね、ごめん。力を貸して。」

 

聞くだけ野暮だったみたいで、リリィは即答してくれる。

 

「あたしも当然トーマ達と一緒にいるからね。」

「アイシス?いや、でも…」

「何、トーマ。あたしだけ仲間はずれにする気?」

 

むくれるアイシスだけど、俺はそんなことよりも気がかりがある。

俺と違ってアイシスにはちゃんとした家族がいるんだ。管理世界の犯罪者になりかねない事態にはどう考えても関わったらまずいはずだ。

 

少しの後、アイシスは一息吐いて速人さんを見る。

 

「あたしはあたしの友達を守るって決めたんです。それに、八神部隊長達にとっては彼等は逮捕するような相手じゃないって事ですよね?管理局に怒られても。トーマを追い回してた融通利かない人達よりは特務の人のがまだ信用できますから。」

 

アイシスはアイシスで決めているらしい。

こうなったら何を言ってもしょうがないだろう。正直、心強くはあるし。

 

「元気な仲間だな。」

「フォート君程やんちゃやないよ。」

 

速人さんと八神部隊長が互いに顔を見合わせて楽しそうに笑う。

なんだか身内に紹介に出される気分でちょっとむずがゆい。

 

 

「よし、分かった。俺達とはやて隊長達で編成を組んでからやる事を個々に伝えるから、皆は休むなり何なりしててくれ。」

 

 

速人さんの締めくくりと共に話は終わる。

 

 

我を忘れず憎む。

 

 

そんな器用で都合のいい話が本当にあるのかどうか分からない。

けれど…

 

『トーマは私のドライバーだよ、絶対一緒にいるから。』

 

迷いなく俺に応えてくれたリリィ。

その生が、エクリプスが、ただの『危険な世界の毒』で片付けられてしまわない為にも…俺はエクリプスを使いこなす必要がある、そんな気がした。

 

「あ、ケーキは持ってっちゃっていいからね。食べ切れなかったら置いていっても大丈夫だし。」

 

ホールで置かれて話しながら食べきれる人などいる筈もなく、リライヴさんからにこやかに告げられて俺は机を見る。

美味しかったんだけど…この空気で食べるには随分メルヘンだなぁ。

 

今ついさっきまでどろどろとした話しかしていなかった中薦められた甘くて美味しい綺麗なケーキを見ながら、俺は苦笑した。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 




夢見る子供のような題名の裏…実は、心のちから(物理)。
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