なのは+『心のちから』   作:黒影翼

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余録・描かれた夢の様に在り続ける為に

 

 

余録・描かれた夢の様に在り続ける為に

 

 

 

Side~高町速人

 

 

 

CW社襲撃によって夜の一族からの流出データをコピー、破壊を試みた俺が飛び込んだ部屋。瞬間に放たれた二発のシューティングスター。

横殴りの雨のような弾幕を前に、当然ながら回避を選択しようとして…背後にあった出来かけのラプターの存在に気付く。

 

 

一瞬だった。

一瞬、ノエルさんみたいなもんかなーとか思っちゃったら、つい…

 

 

神速でその雨の全てを斬り払いにかかるなんて馬鹿な真似を始めていた。

 

当然追いつくわけもなくて、何発か肩や足で受けて、それで…

 

 

 

 

 

それから…それから…

 

 

 

 

目を開く。

液体にどっぷりと浸かっていた。

 

表には何やら計器を見つめているアリシアの姿。

 

しばらくして、俺が瞬きをしている事に気がついたアリシアは、慌てて機器を操作する。

ポッドが開いて、俺は多分久々に自分で立った。

 

「悪い、心配かけたな。」

 

泣きながら抱きついてくるアリシアの頭を撫でながら、俺は現状を…自分の身体の感覚を確かめ、それから皆に状況を聞いた。

 

心臓近辺に喰らって大出血。

普通死んでた所だが、気配遮断に必要な代謝の低下に慣れていたせいか、失血状態での生存能力が高く、アリシアを助けた際に使ったポッドを回収していた事もあって速攻ぶち込んで治療した結果どうにかなったらしい。

 

リライヴはかねてから感染者対策に必要と思われる最強の剣を作っている最中で、ディアーチェ達とは完全に別行動中。

それから…フォートが管理局に捕まったらしいとかなんとか。

 

 

 

一年近い…寝すぎだ、全く。

 

 

 

アースラのメンバーに、無茶しない程度に情報収集を頼んだ俺は、やる事があると言って船を降りた。

 

 

 

 

行く先は…地球。

 

 

 

 

 

 

退魔の一族として名を残している神咲の本家に赴いた俺は…

 

「単刀直入に言います、霊剣の扱いを教えて下さい。」

 

言いながら深々と頭を下げた。

幽霊…霊として残っている精神の塊。

憎悪と言う精神を感染に扱っているエクリプス相手にまともに通じる技として元々睨んではいた。

 

ただ…

 

「…その有様で舐めとんか。」

 

俺を睨みながら告げる、霊剣十六夜の継承者、神咲薫さん。

別に彼女が失礼な訳じゃない。

 

表舞台にひけらかすものじゃない秘伝のソレを…

 

 

完全に鈍った身体を治しながら身に着けようと言い出しているのだから。

 

 

電気信号か栄養調整か、筋力はそこまで落ちない様にはされていたようだが…全身鉛がついているような鈍い感覚の身体で、他人様の家業の秘伝を教わる。

 

失礼なのは完全に俺のほうだ。

 

「時間がないんです、無理なら霊剣の方はぶっつけ本番で扱う事にしますが…他人事、でもないでしょう?」

「…人の家まできて脅迫とは随分ですね。」

 

失礼ついでに無茶苦茶言ってみると、神咲さんは立ち上がって傍らにおいてあった刀を手に取る。

 

「一週間で一本取れなかったら…諦めてください。」

 

逆に言えば、一週間以内に一本取れればOKって事だ。

俺は二つ返事で頷いて、用意しておいた太刀を抜いた。

 

 

 

 

 

 

期限となる最後の日、俺は伸びて床に倒れ付していた。

 

「さすがに元々達人だっただけあって確かな腕。けど…一年近く何も出来なかった身でどうにかなるとでも?」

 

褒めているにしては冷めた声。

きっと、戦う者として現実を弁えろと言う観点で見ているんだろう。

 

まして、兄さんと知り合いである神咲さんは、俺の本来の獲物が小太刀二刀である事も知っている。

作ろうとしている剣が太刀にならざるを得ない為、太刀で戦っているのも軽く見られている原因だ。

 

立ち上がって、深く息を吐く。

背中に差しておいた鞘を腰に移し、落ちている太刀を鞘に収める。

 

「…抜刀術か。」

 

半身から肩後ろまで傾くように構える神咲さん。

 

何度か打ち負けている彼女の必殺の一撃の構え。

だが…知った事じゃない。

これで決めなきゃ終わりなら、決めるしかないんだ。

 

俺が抜き放つと同時に、弧を描いて振り下ろしてくる神咲さん。

衝突と共に、尋常じゃない威力の衝撃が走る。

両手持ちでの打ち下ろしに対して右手のみで速さを重視して抜き放った一閃で持ち堪えられる訳もなく…

 

「だあああぁぁぁっ!」

「な…」

 

取り落としかけた刀の裏に当たるように、左肩から突進した。

体当たり気味に刀を押しこんで、神咲さんごと部屋の壁に叩きつける。

 

刃をつぶしてあるとはいえ金属製の刀の切っ先が、確かに神咲さんの右肩に触れていた。

 

「有効?」

「浅い、そもそも剣術ではありません。」

「でも一発入れましたよ。」

 

壁に押し付けられていた神咲さんは、やがて呆れたように息を吐くと刀を下ろした。

 

「…滅茶苦茶ばかりする人ですね。」

「それが目標ですから。」

 

俺の返しに怪訝な表情を見せる神咲さん。

まぁ確かに、滅茶苦茶が目標なんて言われてもピンとはこないだろう。

 

 

誰もが出来ないと予想される問題が起きた時…誰も予想できないことが出来る人間が傍にいるのなら、それは可能性を繋ぐ事になる。

 

 

ヒーローとして、なのは達にとってそんな予想以上の自分であり続けたい。

だから、間違っても死に掛けて弱った有様なんて見せられないんだ。

 

 

「手加減はしませんよ。」

「ありがとうございます!」

 

 

承諾を得られた俺は、深々と頭を下げて一礼した。

 

 

 

霊力の認識までには手間がかかったが、認識できてからは魔力を扱っていたからかさして扱いに困らなかった。

そういう星の元に生まれたのか、俺の霊力は魔力同様エースに及ばぬ並かちょっと多い程度と言う微妙さだったのは何か笑えた。

 

なんにしても修行は終えた。後は…剣を用意するだけだ。

 

 

 

Side~リライヴ

 

 

感染者みたいな武装破壊系特殊能力者相手にも使える武器。

私には、それに一つ心当たりがあった。

 

外部から悪影響を及ぼそうとする力の影響をほぼ受けず、蓄積放出域が大きい、原子加工物質。

科学だけで発展していった世界だったから存在してた代物だとは思うけど…存在を知ってただけで作れる訳もない。

そこで、ユーリの力…闇の欠片を生み出していた、意志の残滓を引き出す力を借りて、ただの宇宙空間となった私の故郷から記憶を引き出して貰って製法を学んだ。

 

数百万度とか言う馬鹿げた温度でなければ加工もままならず、そこまでやっても鍛冶の様に強打が必要になるため、二重に防御魔法を張って、間に真空空間を作って熱伝導を避け、その中から外に向かって魔法を行使して加工するって手間が必要になった。

 

 

そうして仕上がった、禍喰乃太刀。

 

 

丁度仕上がった所で速人から呼ばれて、刀を持って合流する。

かつて速人に案内された、慰霊碑の地。

 

そこに、速人は女性と立っていた。一目でかなりの達人と分かる。

 

隠してたつもりなんだろうけど…きっと修行相手だったんだろう。

人前で平然を装って必死な速人らしいと思うと少し笑みがこぼれる。

 

「しかし…貴方は霊剣の製法など知らないでしょう?」

 

女性が手にした刀から声が聞こえる。

デバイス…とも違うみたいだけど、エクリプス対策だし種がらみなのかな。

 

「確かに本物の霊剣の製法なんて知らないし、名前を知ってて精々ってとこです。けど…アテはある。リライヴ、太刀をくれるか?」

「うん。」

 

鞘なんて作ってる余裕はなかったので、剥き身のまましまっておいた禍喰乃太刀をプットアウトで取り出して渡す。

受け取った速人は、刀身を指で軽く叩いてその感触に驚いたようだった。

 

冷めて完全に固まったら、バーストセイバーでも斬れない代物。

物質って範囲を余裕で逸脱している強度だ。

 

「前にここに来た時に感じた違和感…魔力でない力の感覚だったから、多分霊力に類するものなんだろうとは思ってたんだ。そして…それを生み出すモノに、俺は一つしか心当たりがない。」

 

驚くのもそこそこに、逆手に太刀を握った速人は…

 

 

慰霊碑の前にソレを深々と突き刺した。

 

 

しばらくして、奇妙な力が刀ごと速人を包み始める。

 

「これは…」

「まずい…すさまじい怨念だ…」

 

女性が口にした怨念と言う言葉に嫌なものを思い出す。

 

この慰霊碑は、速人と地獄を共にした子供たちの眠る場所。

その地で速人を取り巻く怨念って…

 

嫌な思考に囚われている間に、速人はゆっくりと刀を地面から引き抜いて此方に向く。

俯いていて表情まで見えないが、刀を手に私達に向かってこんなぴりぴりとした空気になる事自体がおかしい。

 

「っ…乗っ取られた…か。」

 

顔をしかめて刀を構える女性。

対処する…斬るか何かするつもりなんだろうけど…

 

私は彼女と肩を並べ、彼女の眼前に手を伸ばして止めた。

 

「何を?」

「まだ待って下さい。」

「何を待てと?こんままでは彼はアレを持って逃げるか襲い繰るか…」

 

分かっている、逃がすわけにも行かないし、かかってきたら無視も出来ない。でも…

 

まだだ。まだどちらも起こってない。

 

それに…速人は信じるんじゃない。

誰一人も信じられない事が出来る人なんだ。

 

だから…たとえ危うくても待つ。

本当の本当に結果が出てしまうまでは。

 

 

 

Side~高町速人

 

 

 

『痛い止めて死ねお前だけ殺す眠らせよくもなんで』

 

ひっきりなしにバラバラに襲ってくる意志の羅列。

そりゃそうだ、ここで死んでたのは何百何千…

一体何人が霊力を持ち、一体何人が幽霊になれたか知らないが、その全てを詰めた場所。

 

誰も近づかなかっただけで、全員綺麗に成仏してくれてるなんてありえない話だ。

 

迫ってくるイメージがバラバラなせいで中々意志を汲み取り辛い所はあるが、大半は『眠っていたのに何で起こした』って感じだと分かってきた。

 

確かに、前回俺達が来た時に取り憑かれる事も何かされる事もなかったって言うのに、霊力の扱いを覚え、そのための刀を用意してこんな所まで来て無理矢理起こしたんだ。

 

 

それも、唯一眠らなかった人間が。

 

 

皆が怒るのも無理は無かった。

 

霊剣を別に借り受けて改造しても、他に霊を探して封じるのでも良かった。

別によりにもよって、ここで皆を起こす『必要』は無かった。

 

でも…

 

「皆に…力を借りたいんだ。」

 

皆の言う通り、俺だけが生きてしまっている。

だからって言うか、連れ歩くなら皆がいい…って、ただの俺の願望、悔恨だ。

 

『誰が何でもう嫌だ貴方ならお前なんよくも殺す殺す殺す』

 

心をすりつぶされる、と言った感じだ。

入り乱れた意志の波が乱流のように襲いかかって来る。

 

殺すってのが多いな、さすがに。

 

「ただでとは言わないさ…隙があったら俺の身体をくれてやる。自殺も他殺も好きなようにやってみろ。」

 

だったら…望み通りにさせる。

させるさ、その上で…ソレを超える。

 

 

俺が見つけた光を、皆にも見て欲しいから。

 

 

 

Side~リライヴ

 

 

 

「これは…」

 

私には何も分からないうちに、女性が何かを感じたらしく刀から手を離す。

よく見ると、速人を取り巻いている力が刀に向かって集まっていた。

 

しばらくして顔を上げた速人は、瞬きを数度したあと深呼吸をして…微笑んだ。

 

「ちょっと騒がれたけど、どうにか…な。」

「まさか…そんな訳が…」

 

相当驚いている女性の様子を見る限り、かなりの異常事態なんだろう。

予備知識がない私は、ただ速人の様子を見ることだけに集中する。

 

時折、目の光が消えているように見える。

 

「速人、その剣の殺意ごと心を殺して押さえ込んでるの?」

「なっ…は!?」

 

完全気配遮断に必要な、意志の封殺。

太刀に封じたのが何かは知らないけれど、物理エネルギーや魔力じゃないのは私でも分かる。

となれば、乗っ取ろうとするのは精神関係。

洗脳にかかったとしても思考の異常を自力で分析しながら異常部分を自力で紐解いていける速人にとって、精神汚染をこらえるのは不可能事じゃない。

 

とは言え…収めている力のすさまじさは雰囲気で分かる。

それに、専門家の女性の驚きようも異常さを証明している。

 

「…大丈夫なのですか?」

「当ぜ…っ…まぁどうにか。」

 

女性の刀から心配そうな声が聞こえてくる。

余裕ぶって答えようとしている速人だけれど、表情がなんか強張ってるあたりは無理をしているんだろう。

 

 

素直に信じられたらいいんだけど、本当に安心できないなぁ。

起きてまだ二月も経ってないって言うのにいきなり見る事になった、限界とか現実って言葉の方を倒してみせるヒーローさんの滅茶苦茶に、復活したんだなぁと思って、はらはらしながらも何処か嬉しい自分が居た。

 

 

 

Side~高町速人

 

 

 

本家の後継者ともう一人霊剣使いが残ってるから大丈夫と、わざわざ見張りとケアに薫さんと十六夜さんが付いてきてくれた。

薫さんは地球から見てSFのアースラにさすがに驚いていたようだったが、十六夜さんの方は現代の地球が既に昔から見てSFじみてるからか割と慣れている様子だった。

 

ディアーチェ達との合流前に感染者の存在を感知したため、現地に急行。

実験…と言う言い方をするとあれだが、感染者を止めるために使えるか、禍喰乃太刀を振るってみた。

 

 

結果は予想以上。

 

 

深々と斬らずとも当てればエクリプスウイルスの力の源になってる憎しみを根こそぎ喰らい尽くせて、餌の無くなったウイルスは死滅して感染症状による暴走なんかも収まる。

 

 

そして…

 

 

『死ね憎いお前殺す消えろよくも―』

 

 

剣の力も増える。

別に使う予定もない力だから、耐えとけばそれでいい話…話なんだが…

 

本当に容赦なく飲み込んでこようとする力に対して精神を封殺。

 

脳内異常無し、思考異常発生、殺人衝動の発生。

殺害対象…無し。

外部からの強制と判断、衝動の封殺開始…

 

終了、敵性反応無し。

 

「ふ…ぅっ…」

 

一通り終わって息をつくと、一緒に出ていたリライヴが俺を訝しげに見ていた。

 

誤魔化そうとも思ったが…なんとなく悟る。

 

「…どれくらい硬直してた?」

「20秒って所かな。」

 

リライヴの返答に俺は頭を抑える。

まいったな…抑え込めるのはいいが、相当集中してないと無駄に心配かけそうだ。

 

俺は薫さんに貰った、封印処置を施した背中の鞘に太刀を納めて一息吐く。

大分マシだか、それも完全無視ってわけにはいかない。

 

「無茶するな、って言っても意味ないとは思うけど…あんまり心配かけるような事、駄目だよ?」

「分かってる。けど、入用だろ?」

 

俺は倒れている感染者を指す。

 

『無力化』させるのに…この太刀か殺すかしか手がない。

 

逮捕したところで拘束具すらディバイドであっさり。それでなくてもいずれ破壊してしまう感染者相手だと、取れる手段は限られてくる。

 

「全員止める気なら…確かに入用だね。」

「だろ。」

 

暗に、無理はしなくてもいいと言いたいんだろうリライヴ。だが、俺がそれで投げる訳もない事はリライヴだって分かってる。

俺が無理しないってのもそもそもありえない話だしな。自分で言ってりゃ世話無いが。

 

 

物語のヒーローのように…こんな有様じゃ遠く霞む話だが…

 

背中の太刀を…俺が連れて来た、眠ってた怨念達を見る。

 

俺一人完成させる為に使われたスケープゴートの皆。

…命を使用して兵器に仕立て上げる技術なんか、放ってはおけない。

こんな事を繰り返す世界に、当たり前と頷かないために俺は夢に挑んでいるんだから。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 

 




割と『修行してきた』、で終わってる舞台裏って期間とか量考えると緊迫感以外実戦より遥かにきついんですよね…
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