記録四十二・インターミッション
Side~八神はやて
「しかし、なんでこんな入り乱れる感じになっとるんや?」
ティアナにも一旦スバルたちフォワードメンバーへの協力の可否を聞きに行かせるために帰らせて、殆ど地球の身内だけみたいなあつまりになった所で私は速人君に気になってた事を聞いてみる。
個別に呼んだり帰らせたりと、わざわざ出入りが激しい。
「地球の組織について、管理世界の人にべらべら広められないし、イデアシードの話なんかの管理世界の違法技術を地球側に広めるわけにも行かないだろ?龍の殲滅に関わる所だけしか伝えないって形で美沙斗さん達にも話は通ってる。」
「そっか…」
此方の事情も察する所はある。確かに美沙斗さんはそう言うとった。
「それともう一つ…これから隊を分けて行動する。」
「分散する気なん?」
「龍のやり口については言ったでしょ?各組織に潜り込んでて技術を持って『逃げる』って。今判明してる大施設を同時襲撃で潰す事でこれ以上散られるのを避ける。ただ…テレパス持ちとか敵にいると、他の施設や構成員に情報漏れる可能性が高くなるから、分けた部隊の作戦はそれぞれで知らないまま片付ける予定なの。」
リライヴちゃんの説明に納得半分、不安半分。
確かに用意周到各地に散る敵を叩くなら分かれる必要があるのは分かる。
が、敵大施設に戦力を分散するって事になる。
OAシリーズはさすがに数多く無いだろうけど…CAシリーズレベルなら量産されていてもおかしくない状況で戦力分散は厳しいと思われるが…速人君は笑顔で自分を指差す。
「俺達だけなら、俺とリライヴとユーリとディアーチェ達って分担でもやるけどな。それよか楽だろ。」
とんでもない馬鹿を自信満々に言い切った。
私はわざと大きく息を吐く。
「…ついこの間まで死に掛けとったくせに馬鹿言うわ。」
「ぐ…」
あえて大きく出るのは速人君にとって儀式みたいな所もあるのは承知の上だが、これまでのこっちの心労が頭になさそうな様相に、ぐうの音も出ない所を突いてしまう。
…ま、速人君の通常営業はおいといて、どの道局外部でフッケバインまで共闘させよう言うんがそもそも無茶なんや、今更言ってもしょうがない。
「とにかく…だ。ここのメンバーと各リーダーでだけ分担と大まかな事を決めて、詳細は各チームで練る感じで進める。リーダーだけでも各チームの目的地知ってれば後から合流とか出来るしな。」
「了解や、手早く済ませよか。」
こっちもノンビリしとったら封殺されるやろから、動くなら速やかに。
…とは言え、作戦を立てても皆の消耗を回復させる必要があるから立ててすぐって訳にも行かんけど。
Side~カレン=フッケバイン
結論としては、共闘せざるを得ないと言う事になった。
無論、脅迫気味の状況を作られたからといって、凶烏たるあたしらが聞く必要は無い。
ただ…あの有名人の特務のお嬢ちゃんを前に公然とあんな自律駆動兵器を使う局員達をほったらかしに、捨て身で彼等に逆らう利点が無かった。
ドゥビルも治して貰ってる最中だし。
いずれ出し抜く事も考えてもいいとして…彼等が敵対して追ってきたという連中についてはあたしらも片付けるべき敵と見て問題なさそうだ。
で、その旨を伝えると、今回の作戦では部隊を分けた上で部隊同士では作戦共有を行わない為、誰と組みたいとか、どんな相手が得意、苦手などがあったら要望として伝えてと言われ、一通りの相談を済ませた。
ドゥビルが戦闘不能の為、一応見張りと言うか過激派とかいられても困るから備えにフォルティスについて貰う必要があって、非戦闘員のステラとソニカもいるので、三人をアースラ待機にさせるようにと言った。
フッケバインを内に置いたまま主力が離れるという状況に苦情の一つも出るかと思ったけど、何も無いまま承諾された。
馬鹿にされてるように思えるが…馬鹿なのが向こうなのか、大物なのか、どっちかなのだろう。
で…
「ワタシがこの部隊の作戦指揮を担当します、菟弓華言いまス。よろしく。」
眼鏡を掛けた地球出身らしい何の力も感じない女性が、よりにもよってあたし等の指揮をするとか言い出した。
血の匂いは黒髪の女同様に感じるあたり、本職の方なのだろうが…さすがに舐めてるんじゃないかと不安になる。
それに…
「しかし、戦力を割るという割に我々を随分と纏めたな?」
腕を組んで座るサイが言う通り、ここにはヴェイ以外のフッケバインの出撃メンバー全員…あたしとサイとアルが揃っていた。
こうなると何でヴェイだけはぶられてるのかちょっと気になる。
ちなみに、管理局の方からはあのシグナムって女剣士とそのパートナー。それから、目つきの悪いちっちゃい…ヴィータって娘。
二人だけとは言え、特務の中でもトップクラスの騎士の筈だ。
「ワタシ達の担当が、ヴァイゼンの兵器生成機関だからデス。CAシリーズやエクリプスウェポン、最新質量兵器のデータをここに集めているようで、今回別々に使われたソレを纏めようとしていると予測されマス。」
「CAシリーズには感染者がいた方がいいな。トーマ達は…不足と言う事か。」
サイが纏めるように漏らした呟きに頷く弓華。
…あいつ等の『生産工場』と来たか。
むしろここに全員を集中させたほうがいいんじゃないだろうか。敵だって馬鹿じゃない、余分に作ってその辺の警備に使われてたら厄介の一言ですまない。
一対一が限度だ、あんなもの。
「ごっそり破壊スルなら手はあるのデスが、あえて突入するのは人命、情報、環境の問題があるからなので、SS級の広域破壊は避けてください。フツーのミサイルなんかはがんがんイってOKです。」
普通のミサイルとか言うのが笑いながら出るあたり、やっぱりコイツもイカれた人間らしい。
…ちょっと地球が気になる。こんな奴が必要な部署があるのか。
「がんがん打たれても困るっつの。…ま、確かにアレ相手にすんのに加減できねーってのは分かるがな。」
「大丈夫だって。環境汚染激しいブツを撃たなきゃいいんだろ。」
局員として釘を刺しつつも、CAシリーズを脅威と見てるヴィータちゃんが渋い顔をする中、アルが片手を上げて軽い口調で告げる。
ガンナーのアルは、撃ち放題撃てるか否かで随分立ち回りに影響が出るからか、指揮官と局から許可が出て肩の力が抜けたようだ。
「そレから…CAシリーズ含めたクローンなのデスが…彼等は脳を薬漬けにサレて破壊されてイます。文字通り、『動く生肉』にされていて、治る事はもう無いので…死なせてあげて下さい。」
「…承知した。」
だろうとは思ってた。とは言え…実際に口にされた災厄に、簡潔に答えを返したのは、意外にもシグナムだった。
公僕とは思えないってサイが楽しそうに言ってたけど、正直ちょっと好感が持てた。
ソレが出来る奴じゃないと勤まらないからって事でここにはあたしらが集まってるのか。
「それから…CAシリーズと感染者以外に気ヲつけナイといけない相手が一人いまス。」
言いながら、弓華がモニターを操作すると…知った顔がでかでかと映し出されたニュースが流れた。
Side~トーマ=アヴェニール
担当が決まったって事で説明を受ける事になった俺達Pチームとフォートとエフスは、速人さんに呼ばれて集まっていた。
今更どんな事でも驚かないと思ってたんだけど…
「なっ…なんで!?」
俺はモニターに映し出された姿に、思わず大声で驚いてしまう。
映し出されたのは一つのニュース速報で、見出しは…『ハーディス=ヴァンデイン氏仮釈放。』とでかでかと書かれていた。
淡々と語られる内容としては、証拠不十分との認定を受けたヴァンデイン氏が一時的に釈放されたと言うものだった。
ありえない…あれだけあって不十分な訳がないのに。
「捜査中の案件って事で詳細まで放送してなかった事もあって、局内の龍関係者が証拠を握りつぶしてハイおしまい…って事でこうなった。エクリプス事件の全権を握ってた六課のミッド基地は破壊されてるし、はやては無許可で俺達と共闘する事もあって今音信不通だしな。」
特務としてエクリプス関連の全権を引き受けて、実験台とかにされないためにって俺達やグレンデルの皆も抱えてもらって…逆に言えば、関係の無い部隊は局内でもそこまで多量の情報を持ってないんだ。
フェアレちゃん回収未遂の襲撃で六課の基地も…データバンクも巻き添えを喰っている。機密性の高さが仇になったのか。
「ちょっと待て、じゃあまさかエフスが逃げたところから狙ってたって言うのか?」
フォートが呟いたあんまりな内容に、このまま戦っていいのか少し不安になる。
エフスが逃げて来たのは向こうにとって想定外の事件のはず…それに、慌てて襲撃部隊を出撃させたはずなんだ。
でもそれが予定通りなら…もし個人の思考まで計算に入れてるとしたらとんでもない事だ。
「元々襲撃用に揃えて置いたクローン達を、急遽出したって感じだと思うがな。さすがにそんなもん読める奴」
「薊だ。」
速人さんの言葉を断ち切るように言い切ったのは、エフスだった。
意外な積極性に彼を見ると、苦い表情をしている。
「これでもスカリエッティの頭脳を持っている、読まれないようにと思考すれば並の事で気付かれんとは思うが…奴とは長く動いたからな。それに…色恋沙汰が生命維持に関わっている奴なら俺の覚悟が決まる前の内心にも気付いておかしくはない。」
「確かに恋バナは女の子の嗜みだからねぇ。」
見透かされたって自分から明かしているからか浮かない表情のエフスに対して、同意見なのかアイシスが苦笑いでコメントする。
『『フェアレが先だ!!!』』
『こ、この色ボケ共ー!!!』
フェアレちゃんが危険だって分かった瞬間他を放置して飛び出してたフォートとエフスの姿を思い出す。
…あんなノリをずっと間近で見ていたって言うなら、薊が凄いんじゃなくて案外誰でも読めた事態だったんじゃないだろうか。
きっとアイシスも同じ事を思って苦笑いしてるんだろうけど、真面目に考えている速人さんとかは気付いてないのかもしれない。
なんとなく…なのはさん達が大変だったんだろうって、俺でも察しがついた。
「とにかく…だ、トーマは接触を禁止されていたと思うが、こいつが何処かに出てくる可能性があるから、それに関連して言っとくことがある。」
それていた本題に話を戻す速人さん。
確かに、特務でも接触するなって風に念を押されている。理由はまだ聞いていなかったけれど。
「ハーディスはエクリプスウイルスを生み出す原初の種…エクリプスシードを保有している。はやて達から確認も取ったが、模倣能力を持っている。」
「模倣…って、『ゼロ』もって事…ですよね。」
自分で言うのもなんだけど、そりゃ接触させない訳だ。
使うだけで一定空間の人間全部を昏倒…場合によっては死なせてしまうような威力なんだ。
「あぁ。だから、誰が相手でもゼロを撃たない事と万一コイツとあったら黒騎士モードを止める事。この二つを徹底して貰う。」
「それ、かえってトーマが危ないじゃないですか。」
完全にエクリプスの力を使うな。って指示にアイシスが難色を示す。
一応、元から『ただの子供』のつもりは無い。けれど…エクリプスの力無しじゃ特務の皆からすれば動く的のレベルである事も間違いない。
アイシスの心配は尤もだ。
けど、速人さんは笑って…
「そこは頼れるヒーロー君と同チームだから問題ないさ。」
笑顔でフォートに丸投げした。
名指しされたフォートの方も笑みを浮かべて座ってる。
「任せろ。」
俺の視線に気付いたフォートが自信満々に言う。
フォートの実力を疑うわけじゃないけれど…話を聞くと、ハーディスはフッケバインの皆の襲撃を受けて無傷だったらしい。
『火力』で足りないんだとしたら、防御を抜けないとどうしようもないんじゃないだろうか?
人の心配をする余裕なんてある訳もないが、根拠の一つもなく余裕そうな二人に俺は少しばかり緊張しながら頬を引きつらせる事しかできなかった。
Side~ティアナ=ランスター
「私が…ですか?」
八神部隊長が告げた内容に、思わず聞き返してしまった。
イデアシード…として抽出する所まで辿り付けていない為、『イデアシステム』と呼称する事になった、フェアレに組み込まれたアンチエクリプスのベースシステム。
その研究機関の破壊、技術情報の殲滅部隊の指揮を、『私が』担うらしい。
勿論手抜きをする気も無力だと俯く気も無い…無いが、だからと言ってフェイトさんや八神部隊長が居る六課での任で、部隊員の域をあっさり出るリーダー役を任される事になるとは思ってなかった。
しかも、エクリプスより余程残しちゃおけない、最悪の技術の殲滅。
とんでもない重役だと言うのは、説明も想像も必要なかった。
「私は速人君とリライヴちゃんを連れて局内に行かないとアカンから。最悪真っ向から交戦する事になること考えると、こっちに地球関係ない人を連れてくわけにもアカンし…フェイトちゃんとなのはちゃんにも来て貰う。」
犯罪者として扱われてる速人さん達を伴い局の人間を排除に行く。
結構可能性の高い最悪として、管理世界での手配なんて結果が存在する任務。
そんな所に混ぜられる人間なんて本当の身内位だけだろうし…その身内の中でも最強クラスの人間で無いと、数人相手で相打ちになるような人じゃただの足手纏い。
隊長達がその任から外れられないのは仕方ない。
「捜査と違って指揮は六課での経験くらいのティアナに、いきなりこんな大役任せて悪いとは思うけど…」
「すみません、少し驚いただけです。任せてください。」
本当に申し訳なさそうな八神部隊長…
否、はやてさんに向けて、真っ直ぐに言い切った。
分からない筈が無かった。
管理局特務六課部隊長として指示を出している訳でなく、八神はやてと言う女性に頼まれているのだと。
人間を道具扱いし、あちこちに潜り込んでは逃げ、情報を、技術を持ち出しそれを元にまた資産を技術を開発し…今の今までそれを繰り返しているらしい組織、龍。
管理世界も管理外世界も関係なしに止めなきゃならない相手なのは明白だ。
はやてさんも、何が何でも止めて見せると覚悟を決めている事だろう。
でも…それでも犯罪気味…いや、犯罪者との共闘なんだ。
それを普段から上に居続ける身で押し付けられる訳が無い。
命令じゃないって口先で言った所でそれまでの立場がそう簡単にそれを許さない。
だから…本当に申し訳ないと思いつつ…出来るなら自力、友人までで片付けたい問題を…それじゃ処理しきれないと分かっているから私に頼んでいるんだ。
これに胸を張って応えないなら今回戦う資格なんて無い。
実力上不安が無い訳じゃないが…気持ちの上で迷いは無いんだから。
CAシリーズもエクリプスもイデアシステムも、管理する技術ですらない。
あんなもの基本的に存在してちゃいけない代物だ。
叩き割りそうな勢いで机に拳を振り下ろしたフォートの姿を思い出すが、態度に出してないだけで私だって本心は同じだ。
だからこそ強く答えた私に対して、はやてさんは微笑んで…
「フッケバインのヴェイロンとニル、それからフォートがメンバーにおるから上手く手綱握っといてな。」
笑顔のままで恐ろしい事をあっさり言い放った。
誰も彼も手綱なんてあっさり引きちぎりそうな暴れ馬の羅列に、私はついさっき自信満々に応えたのを早くも後悔しはじめていた。
Side~スバル=ナカジマ
ティアを除くフォワードメンバーとチンク、ギン姉が集まった部屋に居たリーダーの姿に、あたしは少しだけ驚いた。知ってはいたけど…
「本当随分鍛えられたんですね、レジアスさん。」
瓢箪とかダルマみたいだったはずのレジアスさんが懐かしい程に鍛え上げられていた。
「走って逃げ回るような事態も考えられるから最低限動けるようにしろと言われてな…全く、この年になって連中の訓練には付き合ってられん。」
仏頂面のレジアスさんが愚痴るものの、付き合ったからこそのしまった身体だろう。
正直大したものだと思う。
話を本題に戻すためか、レジアスさんはモニターにハーディス氏仮釈放の映像を映し、指差す。
「八神はやてについて何も報じられていないのが不気味だが…今現在敵が持っている情報と、釈放されているハーディス=ヴァンデインを見る限り、情報統制について向こうが握っていると見ていい。」
あの状況でヴァンデイン氏を開放できるとなるとそれしかない。
となると…
「そうなれば、局内に手配を回されている可能性が高い。部隊を分断した状態で、正規の局員に死傷者を出さぬようテロリスト集団のみ狙うのは難度が高くなる。」
それは分かる。
けれど…手立てがあるんだろうか?
襲撃先がどこなのかは分からないけれど、相手にはわかっているはず。
こっちの襲撃を予期さえしていれば、正規部隊を手配しておく事くらい出来そうだけど…
「そこで、陽動代わりに放送を行う。」
「放送…って…」
まさか、管理局員にテロリストが居ると全世界発信する気なんだろうか?
そんな事して仮に片付いても、管理局の混乱が洒落にならない事になるんじゃないだろうか。
「JS事件の折にあった、ドゥーエによる変装潜入。アレと同じく、『管理局にテロリストが潜り込んでいる』という形で、判明している人員を公表する。そのために、ニュースではなく特番の形で放送枠を買ってある。」
事実をそのまま分かってすぐ全部伝えるのが、必ずいいとは限らない。
それくらいは分からなくもないけれど…実際にそういう事例に関わるとちょっと微妙な気分だ。
「私達はその護衛ですか?」
「うむ。正規局員はいざ知らず、それ以外の連中はどこから出てくるか分からんからな。それに、上手く実行犯を捕らえることが出来ればかえってこちらの有利に話が進められるだろう。」
話を聞く限り、命がけになるのはレジアスさん自身だろうに全く動揺が無い。
私達がそれを守るということは…信用されてるんだろうか?
少し意外だった。
「番組の放送時間はどれくらいなんですか?」
「生放送で2時間だな。放送局の見取り図も配布するから一通り目を通してくれ。」
その間護衛につくって事は、他の部隊の手伝いに回れなさそうだ。
トーマ…大丈夫かな…
「自信があるのは結構だが、相手は一度あの高町速人の親戚を嵌めた組織だ。弟の心配より此方に意識をむけてくれ。」
「っ!?え、あ、は、はい。」
トーマの心配してたのを当てられてドキリとする。
自信がある…って言うのは、そんな重大事件に当たるって言うのに人の心配をしているところに釘を指したんだろうけど…
「よく分かりましたね。」
「指揮者として少し人を見る事にしているだけだ。今更だがな。」
自嘲気味に告げられた一言だけど、武闘派として押しに回ることばかりしてきたはずの人の発言としては凄いものだ。
単純に任務って事で守ろうって気で居たけれど、この人の護衛って言うのが少し嬉しい気がした。
Side~カート=グレンデル
確実な減刑に繋がるならいざ知らず、危険に首突っ込んだ挙句罪状として足されかねない上に大した旨みのない、ヒーロー様の大暴れ。
気持ちいいんだろうが、何か奪ってくるってんならともかく破壊仕事なんざ協力してもしょがないので、俺等はアースラとか言う戦艦の方でノンビリさせてもらう事にした。
「暇しててもしょうがないけど…あれ?クインの奴は?」
「アイツなら訓練場使ってるよ。」
「へぇ…」
ノンビリしてていいのに訓練たぁ、あの短期間で毒されたんだろうか。
「勝てればこんな所で捕まってなくていいから、もっと強くなるんだって。」
「そいつぁ…また。」
笑顔でロロが告げた内容に、スナック菓子を齧っていた手を止める。
ま、当然の話、一日や二日鍛えたからすぐどうこうなるってものでもねーだろうが…
「クインにそうまでさせといてノンビリってのもな…俺も行ってくるか。」
手にしていた菓子の残りを口に放り込んで、俺は席を立つ。
訓練場に顔を出すと、クインが水色の髪の嬢ちゃんと斬りあっていた。
片手に一本ずつ握ってるくせに両手持ちのディバイダーをぶん回しているクインと斬りあって押し負けてない。
怪力能力持ちの俺が言うのもなんだがとんだ馬鹿力だ。
「は…はっ…あ、首領…」
「いよう、クイン。俺も混ざろうと思ってな。」
「ひよこ一人無茶したってしょーがねーしな。」
息を切らせているクインに、俺と…着いてきていたマリーヤが順に声をかける。
クインと戦っていた青い嬢ちゃんが俺達に気付いて武器を向けてくる。
「お!次の相手か!よーし誰が相手でもかかってこーい!」
クインが息を切らすくらいにはやりあってた筈の嬢ちゃんだが、まったく疲れた様子が無い。…コイツも特務の連中と同じような奴って事か。怖い怖い。
「艦内待機とは言え大規模作戦の直前なのですから、あまり一人で張り切らないで下さいレヴィ。」
「お?」
俺等の背後からはいって来た黒服の嬢ちゃんが、通り過ぎるようにしてレヴィと呼ばれた青い嬢ちゃんの元へ向かう。
「アースラへようこそグレンデルの皆様。私はシュテル=ザ=デストラクターと申します。以後お見知りおきを。」
「ボクはレヴィ=ザ=スラッシャー!よろしく!」
雰囲気通りのテンションで自己紹介をしてくる二人。
向こうはこっちの事をご存知らしいが適当に名乗り返して紹介をすませる。
「彼女の休憩も兼ねて2対2の模擬戦と行きましょうか。任務前ですので軽めに。」
「あんま疲れんのもたりぃしな。OK、行くぞマリーヤ。」
「名指しすんなっての…」
相応に強そうだが、クインが遣り合ってた相手だ。一人だけやらせとくわけにもいかねぇって訓練来た訳だし…ちっとは気合いれていくか。
Side~ロロ=アンディーブ
「いやぁ…ヘッドも珍しく張り切ってるねぇ。」
「らしいな。」
訓練場に様子を身に顔を出したあたしの傍に、いつの間にか銀髪の娘が立っていた。
「おぉっと王様…だっけ?」
「うむ。」
確かフッケのメンバーがそんな事を言っていた気がする。
おそらくヘッドをヘッドと呼んでいるのと同じ様なもので、彼女達の頭としての称号なんだろう。態度もそんな感じだ。
試合に視線を戻すと、マリーヤの射撃が悉く炎の砲撃にかき消されてる。
一方でヘッドと力が互角ってだけで凄いのに、二本の剣を素早く振るって元気に動きまわるレヴィちゃん相手に、さすがにヘッドも苦戦してる。
「でも、あの子達もすっごい強いのに、待機組なんだね?」
「船を空けるわけには行かぬからな。」
空けると言うには随分な戦力が残るこの船。
けれど、彼等の直接の仲間ってなると殆ど存在しない。
フッケバインとかあたし達を残したまんまで船から全戦力を離せないって事か。
どっちみち船を空っぽには出来ないだろうし、彼女達は残らなきゃいけなかったんだね。
「今回ロロさんはのんびり出来そうだねぇ。」
仮にここが襲われた所で運び屋のあたしはする事はないだろう。
まさかこの船任される事はないだろうし。
あ、マリーヤがいきなり狙いを変えたレヴィちゃんにぶっ飛ばされた。
速いなぁあの子。
「ノンビリ…か。出来れば越した事はないがな。」
シリアスな王様の呟きが聞こえたけれど、フッケバインやあたし達を警戒したものだとして聞き流した。
Side~フォート=トレイア
慣らしって事でトーマと一緒に訓練場に来た所で、妙なメロディが流れた。
まるでデパートか何かの案内音のようだ。
放送なんだろうが…戦艦でこんなもんいるんだろうか。
誰がつけたか遊び心としか思えない緊迫感の無い音の後、予想通り放送が流れた。
『あー…テステス…よし、流れてるな。』
「っとに緊張感ねぇな。」
「はは…あの人らしいけどね。」
ベッタベタなマイクテストが入る中、まともにあったのは今日初めてとかその程度のトーマにまで同じような感想を持たれてる。
一見、分かりやすい馬鹿なんだろう。
よく知ると、分かり辛い馬鹿なんだが。
『協力してくれるフッケバインにグレンデル、それから管理局の皆、まずはありがとう。最初の出撃メンバーが出る前にと思って急ぎで放送流させて貰ってる。』
「俺等は待機なんだけどな。」
一汗掻き終えてのんびりしてるカートがそう呟いて肩を竦める。
『懸念因縁色々あるとは思うが…あっていい。今回俺達が敵に回してる連中は、もう皆も散々知ってる通り、人間を、人の心を材料扱いしてまで力を手に入れようとしている連中だ。それを敵に回すんだ、それぞれに本心があっていい。』
イデアシステムにエクリプス。
人間を馬鹿にしたふざけたモノ。
何処の誰の望みで生まれたか知らないが…絶対に許しとく訳には行かない。
何より、フェアレに近いものが搭載されている現状を知ったなら、何処の誰が来るか分からない。ここで潰して必ず守る。
『思惑はそれぞれに…皆それぞれの意志を以って、人を消費する奴等を止めてほしい。俺達人間の心のちからで未来へ繋いでくれ!』
「それぞれにって…フッケバインとかが世界征服とか言ったらどーすんだあの馬鹿。」
ぼやきつつ、アイツらしいとは思った。
そして、その結果皆が災厄になるのなら…それを止めるのは自分の望みだと、そういう事なんだろう。
そんなの…嫌だろ?
この一言だけで、可不可以前の所で今までを決めてきたアイツにとって、やる事は出来る事じゃない。望んだ事だ。
「締め括るぞトーマ、こんな事件。」
「…あぁ!」
俺は、笑顔で力強く頷いたトーマと拳を合わせた。
SIDE OUT
この規模で事件数年に一回発生されたらおちおち寝ても居られない気がしますが…
ある意味管理世界の人相当たくましいですね(苦笑)。