記録四・思惑入り乱れる戦嵐
Side~高町なのは
呆然と私の名前を呟くフォート。
面識のない彼が私の名前を知ってる理由も聞いてみたくはあったけど、ソレは後の話。
今は…
「トーマ、久しぶり。」
とりあえず説得でどうにかと思ったんだけど…
トーマは話しかける私を無視して武器を振りかぶった。
振りかぶった武器を狙って、フォートが射撃を放つ。
「発症時は五感が戦闘用のソレになる。リリィなしで暴走中の今、武装はがすしかない。後、自己対滅起こす危険があるから直撃は避けろ。」
五感が変わる。
フォートの言葉に、説得が難しい事を悟る。
感染者の協力者が居る訳じゃないから、戦闘データとかからの研究成果だけでそこまでは把握できていない。
剣を振りかぶるトーマ。攻撃したフォートに切りかかろうとするのを、間に入って盾で防ぎつつ、フォートを一瞬見る。
今は彼の情報は惜しい。
「自己対滅って?」
「再生暴走の結果肉の塊になる。リリィがそういうの防ぐ役割をもってるんだが、トラウマか何かで記憶障害起こしてて喋る事すらできないアイツにソレは無理だ。」
「それで武装破壊ね、情報ありがとう!」
説得と行きたい所だけど、五感が変わってるんじゃそうも行かない。
盾の向きを変え、砲身をトーマに向ける。
プラズマ砲。
「エクサランスカノン、ヴァリアブルレイド…シュートッ!!!」
吹っ飛ばしたトーマに向かって、分離したユニットから多角砲撃を放つと、トーマを中心に空を爆炎が埋めた。
顔をしかめてこっちにくるフォート。
非殺傷設定で感染者と戦う子だ、さすがにと言うべきか呆れるべきか、『あの程度』でトーマの心配をしているみたいだ。
「…おい、人の話聞いてたのか。」
「あの本。」
爆炎の中心を指差す。
全てが晴れると、トーマの周りを本のページが覆い隠していた。
「便利みたいだけど、無限じゃないはず。攻防に使えるみたいだし、削れるだけ削り倒して本とディバイダーを破壊する。」
「なら撃ってろ、中距離は俺がやる。」
左に銃、右に剣を手にして言うフォート。
こういう子だから戦ってたんだって事くらい分かってるけど、やっぱりちょっといらいらする。
「巻き込みそうだから離れて貰える?」
コンビネーションがどうこう、素人が云々、って言うのもあるけれど…
何より、無茶しすぎだ。
医療班に預けられていたのを無理して破って飛び出して、あのブースターみたいなのに『魔力を通して』飛んできて、心停止する子すら出るような分断を受けた状態でトーマと戦闘。
肩からだらだらと血を流しながら、一体まだ何をする気だって言うのか。
「感染者は管理局にとって抹消しても問題ない存在、殺傷兵器ぶん回してる奴だけに任せられるか。」
「今の君を殺されないようにトーマをとめるほうがかえって大変なの!私にとっても知り合いの子なんだから無茶はしないよ。」
「全方位殺傷砲撃なんて真似が無茶じゃなかったら何なんだ!」
「大して威力もないのに殺傷攻撃嫌って結果戦闘長引かせた癖に何を…」
口論の真っ最中、フッケバインから構成員二人と、黒髪の女の子が接近してくる。
できればトーマだけに集中したいけど…
ミスでもなければ簡単には殺されなさそうだし、彼が誰か一人を相手にする状況を作ったほうがいいかもしれない。
3人まとめて一人で制圧するのは少し難が…
唐突に、空域に力が走った。
ディバイド…じゃない。私には何の影響もない。けれど、何かの反応。
「が…ぁっ…ぎ…」
「トーマ?」
『犯人二人も悪影響が出ているようです。』
レイジングハートの声に視線を移せば、犯人二人も空中で身体を押さえている。
「トーマ!大丈夫!?」
「ァ…イシス?ぅ…ぐっ…」
「トーマ!意識が?」
苦しんでいる犯人二人を無視して突っ込んできた黒髪ちゃん。
その声に答えるように口を開いたトーマを見て、一瞬コントロールを取り戻したのかと思ったけど…
本は普通に生きていた。
「っ!シュート!!」
不用意に近づこうとする黒髪ちゃんに先駆けて命中するように、本を狙って射撃。
管制はまだ働いているらしく、トーマはソレを本のページで防御する。
「な…のはさん?」
「トーマ聞こえる?ディバイダーを止めるまでもう少し我慢してね。」
「っ…ぁぃ…」
トーマの瞳の色が、赤になったり紫になったりとぶれる。
五感が狂うって話だったけど、エクリプスの機能が正常に働いてない?
だとしたらさっきの力は…
ばたばたと動く状況を正確に判断しようと勤め…
「フェアレエエェェェェェッ!!!!!」
傍らに居たはずのフォートが一つも動いていない事に気付いたのは、彼が叫んで空の一角に浮かぶ小さな三つの人影目指して飛び立ったのと同時だった。
Side~フォート=トレイア
アンチエクリプス。
AEC『装備』のソレとは別に、エクリプス感染者を、その力を『狂わせる』力。
ゼロのように広域に、そして感染者のみを狙って発動されたソレは…俺の追っていたもので…
それを扱ったと思われる、力の中心に居た三人の人影。
その一人。
頭、顔の半分が謎の機械に覆われている上、もう5年も経っている為か半分見えている髪も少し色あせているようにも見える。
でも…分かる。
写真を見なかった日はない、あの日の記憶も翳った事はない。
それに、今のアンチエクリプスに乗せられた意志と魔力が、間違いなくアイツのものだって、俺の体が言っている!!
だから、空を翔けた。ただただ一直線に。
「少し頼む。」
「あんじょう捌いときます。」
紫色の髪の男がフェアレを抱えて転移魔法を展開する中、馬鹿でかい扇を二つ手にした女が間に割ってはいる。
「どけえぇぇぇぇ!!」
「やんちゃはあきまへんなぁ…」
女の顔面向かって左の銃を二連射。
扇を開いて体を覆い隠すように俺の魔力弾を防ぐ女。
防いでいる扇の上から防御ごと叩き切るつもりで右の剣を叩き付けたが、衝撃音と言うよりは軽い接触音と、やわらかい感触のまま扇を動かされ、剣をそらされる。
「末摘花。」
ノーガードの体勢になった俺を扇ぐように、もう一つの扇を振るう女。
魔法として構成されているらしい風に吹き飛ばされる。
頬や肩、足、風の通った身体の何箇所かが裂けた。
風の中に鎌鼬のような魔力刃が混じっていたらしい。
…知った事か。
「はあぁぁぁぁっ!!」
体勢を整えなおして再びかかろうとした所に、女は扇を二回連続で振るう。
全身を包む強風と刃が俺の身体を削っていく。
…が、無視して風の中を突っ込んだ。
「はぁ…」
俺を見て溜息をついた女は、扇を閉じて振るってきた。
振り下ろされた一撃を剣で受けとめ…
た筈なのに、するりと内側に入って来た扇は、俺の剣を外に跳ね飛ばした。
左の銃を向けるも、余った左手の扇を開いて射撃をあっさり防ぐ。
そして、勢いをつけたままノーガードの俺の右脇腹に向かって左の扇を閉じながら叩き込んだ。
「ぐ…っ…」
「凶悪犯の逮捕に協力に来た、言わばボランティアの女性相手に武器を振り回すんは殿方の作法として問題と違います?」
「ぅ…るせぇっ!!!」
左の銃を剣に変換。
ダメージを無視して全力で横に凪ぐ。
「峰打ち?なんや口の割にええ人どすなぁ。」
閉じた右の扇で防がれ、そのまま水月を突かれる。
「茉莉花・零。」
扇が紫色に光ると同時、俺は魔力爆発に飲まれて墜ちた。
Side~シグナム
感染者の調子が狂う波動のようなものを放った少女。
おかげさまで対フッケバインの方はどう見ても優勢になったが…
その力を放った少女が、明らかに違法改造されているようでは放置も出来なかった。
頭の半分が機械で覆われ、左目があったと思われる部分にケーブルが突き刺さっている。
しかも、トーマを助けようとしていたはずのフォートが、我を忘れたように突っ込んでいき、改造された少女と転送魔法を準備しだす少年を庇うようにして進み出た着物の少女によって墜とされた。
「あらあら、おまわりはんまで。」
「そちらの少女について聞きたい、同行して貰えるか?」
「二兎追う者は一兎も得ず…こんでフッケバイン取りのがしはったら、おまわりはん等の評価改める必要ありまんなぁ。」
呆れ顔の着物の少女。
公務員相手だから会話で引き伸ばそうとしているのだろうが、生憎転送魔法の発動を待ってやるほど甘くもない。
「飛竜…一閃!!」
鞘に収めたレヴァンティンをシュランゲフォルムを使って砲撃のように打ち出す。
フォートとの戦いを見る限り、この一撃だけなら彼女は捌くだろうが、狙いはあくまで転移詠唱中の男の方。
防いだ合間を利用して、そのまま連結刃を通す。そのつもりでいたのだが…
「花水木。」
淡く光る扇で砲撃を受けた少女は、放った私の魔力ごと纏めて投げ返してきた。
「っ!?」
自分の相棒の刃が私目掛けて向かってくると言う屈辱の中、どうにか防御魔法でそれを受け止める。
反射…いや、旋衝破のように投げ返してきたのか。
実体部分を含むとはいえ、砲撃を投げ返す?…すさまじい技量だ。
「ウチの舞花が傷つきますか、世の中楽しい方がぎょーさんおられますなぁ。」
軽く戦慄を覚える中、少女の方は罅の入った扇…デバイスを見て笑う。
「待たせた。」
「ええ頃合どす。」
いつまでも完成しないものでもなく、発動した転送魔法によって三人は宙域から消えた。
しまった…少女への警戒心を高めたせいで一瞬とはいえ転移妨害に来た事を失念していた。
「追跡は?」
『孤立せん程度に頼む、こっちは問題ないから。』
「了解。」
主はやての指示に従い、転移に入る。
魔導殺し対策が済んでいないままだと感染者戦では雑用のような形になってしまうな…
自身の魂とも呼べる剣を使い切れずにいる現状に歯噛みしつつ、私は戦線を離れた。
Side~八神はやて
墜とされたフォートはアギトが救助に向かってくれて、フッケバイン構成員はほぼ出撃中やけど、先の力のせいかリアクトすら出来てない。
構成員達は一度引き上げて再出撃したライオットチームに押されているし、トーマも調子を崩したのかなのはちゃんと黒髪の少女が抑えてくれてる。
後は…無敵気取りの飛空挺を落とすだけ。
やったんやけど…
そのための…海水を使用した大氷塊を落とす魔法、ヘイムダルを発動しようとした所で背中から斬られた。
振り返った先にいたのは、フッケバインの首領…カレン=フッケバインだった。
「悪いわね、こっちも急ぎだから逃げさせて貰うわよ。」
「な…ま、待て…」
さすがに重傷を負わされて大魔法は行使できず、甲板で膝をつく私。
「てめえぇぇっ!!!」
丁度そばに居たヴィータがウォーハンマーを手に、首領に向かっていく。
けれど…
「が…っ…」
「はい残念。」
ヴィータが一瞬で全身を斬られた。
いくら大型武器って言っても、騎士のヴィータがその辺の相手に近接戦で一瞬で負けるなんてありえない。
ありえるとしたら…アクセルドライブ。
感染者ってだけで厄介なんに…なんて奴。
「ったく、殺さないであげたんだからそんなに怒らないでよ。」
「そういう問題や…」
「わかったわかった、お役所仕事も大変ね。」
呆れたように言うカレン。
けれど…変だ。
どうみても余裕のある状況やのに、私もヴィータも生殺与奪を握った状況やのに、その表情は無理をして余裕を作っているように見えた。
その作った余裕が一瞬で崩れ、鋭い瞳になって空を見上げるカレン。
傷の影響か、一瞬反応が遅れた。
が、私も気付く。空に大規模な魔法が展開されていた。
これは…転送魔法?
『転送元…大気圏外宙いッ!?』
通信からの声が息を呑む音に変わる。
大魔法の行使こそままならないものの、意識はしっかりしている。
だから、そこまで聞けば何が起こるかは大体わかった。
そして…予想通り…
星…流星が、近隣宙域の隕石の破片が、大気圏内にいきなり転送された。
狙いは飛空挺フッケバインらしいが、その数を見る限りこっちにもくるし海中にも落ちる。
勢いとサイズから見て、落ちたら『下』も無害ではすまないだろう。
「っ!アル!サイ!」
『フェイト執務官!空の隕石を!』
『了解!』
私が念話を送った直後、カレンが真剣な表情で私を見る。
「悪いわね。私達は逃げるから、あの化物は任せるわ。」
「待て…っ…」
とめようにも、身体は痛むし、まして動けた所で勝てない。
飛び去ったカレンにそれ以上何をする事も出来ず、指揮を執る為に現状を改めて確認しようとして…
硬直した。
遥か空高くにある、転送魔法を発動したと思われる犯人の姿。
肩口で切りそろえられた白い髪、灰色のドレス調のバリアジャケット、桜色の首輪。
何より…うっすらと空気が揺らいでいる程度にしか映ってない無色の魔力光。
「…リライヴ?」
大鎌を手に透明の魔法陣の上に立つ、見知った堕天使の姿があった。
SIDE OUT
あっさり色々使いましたってなってますが、戦艦を墜とせる氷塊も流星も『あ、失敗した』で軽く都市一つ…場合によっては幾つか消し飛ぶレベルですよね…ああ戦記怖い(汗)