なのは+『心のちから』   作:黒影翼

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余録・人を殺せる凶器の幕

 

 

余録・人を殺せる凶器の幕

 

 

 

Side~八神はやて

 

 

都合上出撃のタイミングが最後になる為、一応それまでに艦内の人の様子とか情報を出来るだけ把握しておこうと思ったのだが…

 

美沙斗さんと恭也さんの姿が無かった。

 

何処かの部隊で出撃していれば当然居ないのは分かる。

 

…が、妙だ。

 

今回の出撃部隊は放送護衛のフォワード陣と襲撃チーム2つ。

しかも、いくら二人が強くても、魔導師ならいざ知らず、感染者には絶対的に対処がきかない事情がある。

首を落とすか頭を潰さないと殺しきれない感染者相手に、武器を破壊される能力をもたれては、どうしようもないはずなのだ。

神速の持続時間の事もあるし、今回の襲撃対象に混じるのはさすがに厳しいと思うけど…

 

「忍さんは何か聞いてません?」

 

丁度操舵室に来た私は、さすがに恭也さんからは話が通っていそうな忍さんに聞いてみると、一瞬表情を歪めてから笑顔で塗りつぶした。

 

「艦内待機の私がそんな話聞いてても外に漏れるだけだし…」

「って事はどっか出撃したんですよね?けど管理世界…いや、エクリプスが関わってくる相手やと恭也さん達でもどうしようもないんですけど…」

 

そして、そんな事速人君でも想像ついてないわけが無い。

艦内待機の忍さんが聞いていたら不味い動きをしていると、『忍さんは知っている』。

 

「あはは…やっぱり英雄になる部隊長さんにはごまかしきかないか。速人君には…黙っといてね。」

「え?」

 

速人君に知らせずに動いているらしい。

それはそれで意外だった。確かにそれなら今私に話してしまうのも分かる。

隠すような何かがあるのかを、私が速人君に聞きに行ったら気付かれてしまうから。

 

「CAシリーズとか作ってたクローン技術、その大元も地球の研究機関だったんだけど…魔導師や管理世界と無関係の組織から、管理世界に『持ち出す者達』が必要になる。」

 

確かにそうだ。各地に魔法なしで潜り込んで、首尾よく抜け出したところで次元移動なんて出来ないんだから。

 

どれほど最低限でも通信端末の一つも用意する必要はある。

って…まさか…

 

「その、地球から外へ繋がる中継地点の壊滅に向かった。そこを絶ってしまえば後は地球のは地球で片付けて余所のを局や速人君達任せに出来るから。」

「…二人で?」

 

とんでもない話に、恐る恐る質問を重ねると、忍さんは静かに頷いた。

 

どうかしている。

 

いくら地球のそれと言っても、管理世界との中継地点なら魔法が何か仕込まれている可能性が高い。

魔法を使えない、魔力に気付けない二人だけでは、罠や敵の種類によってはいくらなんでも…

 

「そうじゃないよ。そうじゃ…ないんだ。」

「え?」

「速人君に話せないのは…止めに行くから。『恭也達を止めに行かなきゃいけなくなっちゃう』から。」

 

そこまで言われて気付かないほど無知じゃなかった。

ただ、そうなるとそれはそれで…私が無視していい事でも…

 

「地球で活動している部隊もいるんだよ、美沙斗さん達以外にも。だから…」

 

目を伏せ、祈るように告げる忍さんの言葉をないがしろに出来る筈も無い。

何より…対処法は…ない。人手なんか無く、一杯一杯だ。

 

とはいえ頷き返す事までは出来ず、私はただ口を閉ざして目を伏せた。

 

 

 

Side~御神美沙斗

 

 

 

辺境と言うほど辺境でもなく人が来る可能性があり、目立つというほど目立つことも無く、ライフライン自体交通網くらいが精々の散村の傍に、その入り口はあった。

 

 

想い描くは唯一つ、静馬さんを奪ったあの日。

 

 

忘れる事など出来るわけもなく忘れるつもりも毛頭ない。

しかし…

 

「恭也…いいのかい?」

「お気遣い無く。」

 

ある種、血に塗れに行く…それに親類を付き合わせる事実に、少しばかり躊躇いが無いわけではない。

だが、同じ御神の剣士。

復讐心は無くとも、その剣の意味までは変わらない。

 

「では行こう。」

 

私達は、揃って入り口になっている、草に埋もれた地面の扉に手をかけ…

 

 

開いた直後、光が襲い掛かってきた。

 

 

「あーあ、地球人がこんな所に来るから…」

 

 

呆れるように呟きながら迫ってくる足音。

既に切断した設置型の拘束魔法にかかったと思い込んでいるのだろうその男に上から飛び掛って…

 

 

 

首を落とした。

 

 

 

警報が鳴り響く。

一応外には狙撃部隊を用意してある、猫の子一人逃がすつもりはないが…ここから異界まで直接転移できる人間が居ても困る。

片付けなければ。一気に…確実に。

 

 

事情は聞いているし理解も出来る、『外』の事は速人君達に任せよう。

けれど…地球の災厄を…私達が片付ける事に、口を挟ませるつもりは…無い。

 

 

鳴り響いた警報にしたがってぞろぞろと魔法の杖や重火器を持った人間が姿を見せる。

 

並んで構えられたら平射されて避け切れない。

考える間もおかず神速に入った私と恭也は一気にその人波に飛びこんだ。

 

 

 

Side~月村恭也

 

 

 

こんな感想を持つのはあまり感心しない事だとは思ったが…

 

 

楽だった。

 

 

魔力弾を潜り、接近した相手の頭に向かって徹の拳を叩き込む。

加減無し、脳破壊。

向かってくる魔導師らしい人間が杖を振り上げ、振り下ろしてくる。

右で側面からデバイスのコアと思われる部位を叩き、軌道を逸らしつつ破壊。

がら空きの喉目掛けて左の小太刀を突き出す。

 

首の右半分くらいを貫き、そのまま腰から反転。

背後に居た人間目掛けて首を切り開きながら刀を投擲する。

咄嗟に障壁で弾いた男目掛け…

 

 

射抜。

 

 

なのはのソレと同じような強度はないらしく、投げた刀程度はともかく、剣術にて殺傷力最高位に位置する突きの奥義まではとめることが出来ず、俺が放った一撃は障壁を破って深々と男の左胸を貫いた。

宙を舞う刀を左手で掴み、先を見据える。

 

 

 

…楽だ。『殺していいというのは』。

 

 

 

分かっている。油断するためでなく、確実に全てを片付けるためだという事は。

元々人間の扱う代物じゃない限界を、過度の集中力や極限状態に追い込む修行で引き出せるようにした神速を使う前提の俺達は、なのは達魔導師のように数時間がけで任務につける人間じゃない。

無論生身対生身なら神速を使わず何時間でも続けられるが、射撃や爆発物、魔法に対応するには絶対に神速が居る。

 

だが…

 

「野郎ぉぉぉぉ!!!」

 

考えを断ち切るように現れた男が銃を此方に向けてきた。

AK…セミオートか。

 

一発目の光が見えた段階で俺は、天井に向かって神速で跳躍、電灯の出っ張りに足をかけて止まったと同時に飛針を投擲、自然落下を始める前に天を蹴り男に迫る。

 

飛針が刺さって男の頭上の電灯が割れ、ガラス片と粉が男の顔に降り注いだ所で、その身体を深々と斬り裂いた。

 

殺さない気でいたのなら、誰も彼も腕か足を狙い行動不能にしなければならず、また、内臓や脳へのダメージで昏倒させるしかないが、ソレも浅ければ目覚めてしまう。

 

 

殺してしまえるのは本当に楽だ。

だから…かえって嫌だった。

 

まるで命の価値が感じられない。

今の俺にはむしろ現状の方が、不殺の戦いより作業感が強くなる。

 

一人ではさすがに無茶が過ぎるし、復讐心に飲まれて判断を誤らないようにと美沙斗さんについてくることにしたが…

殺すと言う辛い事を引き受けるというより、殺害が作業に成り代わりかねない自身の方がむしろ危険なんじゃないかと思うほどで…速人の奴が散々甘い事を口にしていた元凶に触れている気がした。

 

 

「く、くそっ!アレを出せ!」

 

ばたばたとあわただしい人の声がして、機械の駆動音が近づいてくる。

逃げようとする連中が見えるあたり、護衛に居たらしい戦力はもう片付いたのだろう。

 

やがて、通路を埋めるように飛び出してきたのは、箱型の胴体から四足を爪のように突き立てながら動く機体だった。

…機械で作る場合、効率を考えれば二足より四足のが安定した戦力が持たせられると忍から聞いたことがある。

どのみち地球の機体じゃないが、やることは変わらない。

 

「美沙斗さん、左を。」

「ああ。」

 

それだけで済ませた俺と美沙斗さんは、同時に駆け出し、走りながら左右の壁に移る。

そのまま数歩程度進んだところで、箱の両側から出現させた火器をそれぞれに俺達に向ける四足機体。

 

直後、神速。

 

弾道を外しつつ着地し、俺は右の前足に一閃。

機体を斬り崩す事は出来ないが…内部のケーブルは徹で切断できる。

 

美沙斗さんも同様に左足を止められたようで、前足が動かなくなった機体の懐に潜った俺は…

 

 

 

左の抜刀で箱型機械を『両断』した。

 

 

 

神速による動作加速…身体反応の加速を最大限に利用した、ただそれだけの抜刀。

たったそれだけ。だが…たったそれだけの事を、今の今まで使わなかったのには訳がある。

 

全身を連動させて振りぬく抜刀は、神速なんて無くても指先に痺れを伴うほど血を集めてしまう。

 

 

そんなものを、移動速度すら加速する神速の状態で全力で行えば…壊れる。

 

 

俺の左腕は、滴る血に滑るように刀を取り落とした。

少し小さめの手袋を嵌め、関節保護用のテーピングを施しておいても、内側から血管が裂け、筋肉が切れ、しばらく使い物にならなくなる。

もう殆ど片付いているから使ったが、下手に出来ない大技だ。

 

俺は取り落とした刀を右手で拾い、右の鞘に収め、機体の残骸を見る。

 

 

ミッドに移って以来、例え相手が『何であろうと』通じる剣を目指して来たが…代償は大きいものの、理想の足元には届いたらしいな。

 

 

 

Side~御神美沙斗

 

 

 

「く、くそおぉぉ!!」

 

あの機体は彼等にとってもそれなりの代物だったようで、あっさり破壊されたせいか、控えていた魔導師が半狂乱気味に杖を向けて光らせる。

 

その姿に気付いた時点で、飛針を投擲。

眼球に突き刺さったそれに魔法発動を阻害されたか、杖を取り落として顔を手で覆う。

 

 

「っがぁ…」

「お前達に…死を嘆く権利などない!!!」

 

 

痛みに身悶える男の顎を左の拳で跳ね上げて、上向きになった顎の下…喉に、右の小太刀を突き出す。

首に深々と刺さった刀、その隙間から吹き出してきた返り血をシャワーのように浴びながら、私は男が倒れる前に刀を引き抜いた。

 

 

動く気配が付近に恭也のものだけなのを確認して、刀を納め恭也に視線を移す。

無茶をする恭也が少しばかり心配になったが、こんな仕事に来ておいて今更心配も何も無い。

どのみち、そろそろ敵も片付いて来ている。中の非戦闘員は仮に逃げても外の狙撃班が片付けるし…制圧は済んだと見ていいだろう。

 

 

それで無くとも…私もそろそろ終わりだった。

 

 

「…大丈夫ですか、美沙斗さん。」

「今君に聞かれると大丈夫と言いたくなるけど…ね。」

 

恭也にも分かってるらしかった。

 

 

幾らなんでも、歳だ。

 

 

無論、ただ数時間任につく、魔導師を一人二人倒す…程度なら、限界など来ない。

が…集団に重火器に魔法まで備えられては、神速を連発しなければならない。

そして…さすがにそれが出来る歳は過ぎていた。

 

近年既に神速の発動に際して足腰に痛みがあったが…龍を片付ける最後の大掛かりの任とあっては引けない。

無理を承知でここについて…施設内に居た魔導師と武装集団あわせて百前後。

 

 

恭也と二人で割ったとは言え、身体が保つ筈もなかった。

 

 

膝や腰などの負荷の高い関節から、水っぽい感触と痛みが続く。

これは…さすがに限界…かな。

 

「…恭也のほうは治るのかい?」

「おそらくは…美沙斗さんもアースラの施設を使えばしばらくすれば」

「そういう訳にも行かないさ。」

 

暗に私が治らないと感じている事を察した恭也が希望を投げかけてくるが、私はそれを断ち切るように断った。

私達も、管理世界の事情は理解しているつもりだ。

私にそんな待遇が許されるというのなら…速人君もリライヴちゃんも、きっと迷わず魔法を用いた、管理世界の進んだ医療技術を世界にばら撒いて片っ端から不治の身に苦悩している人々を救っていく事だろう。

 

「それに…地球にもまだ御神はいるからね。」

「美由希…ですか。」

 

私は自信を持って押した一人娘だったのだが、恭也は自分の弟子だというのに何故か浮かない反応だ。

 

「いい加減誰か見つけていれば俺も少しは安心できるんですが…なのはも仕事漬けの上少し厄介な想いがあるようですし…」

「それはまぁ…御神の跡継ぎを探すために適当に結婚しろとは言えないからね。」

 

腕の方はともかく、心配は尽きないようだった。

硬派な彼でも結ばれたのだから、美由希も探せば見つかるだろうが…

 

「…雫が理想通りに成れたのなら…技は残せます。」

 

技は。と、わざわざ言い足す恭也に少し違和感を感じる。

それはきっと、共に戦っている間から感じていた、どちらかと言うと速人に近いような感覚のせいだろう。

 

「殺して戦うのが、楽に感じるようになって来ていました。」

 

静かに告げられたのは、優しくも恐ろしい言葉だった。

殺さずにとめるのは、殺してしまうより技術的に楽…だが、命を掛ける場でその感覚になるのは、一体どれほど相手より強くなければならないのか。

 

楽…と言う事は、逆は『難しい』と言う事。

 

それは…少なくとも途中までなら、下手をするなら最後まで、この人数の魔導師や火器で固めた集団相手に不殺でも戦えたという事。

 

管理世界で速人君達と何をしてきたか知らないが…恐ろしい域に達しつつあるみたいだ。

 

ただ…私達がこの刀で殺すのは手段だ、目的じゃない。

もし、元から不殺で何とか出来てしまう実力が備わってしまっていたら…

 

いざと言う時が、躊躇うものかそうでないのか迷ってしまうだろう。

当たり前だ。人を殺すのに躊躇いが全く無い人間の方が異常なのだから。

 

「…天啓…かもしれないな。」

「天啓…ですか?」

「不破の身で護衛を主としていた兄さんが生き残り、恭也や美由希がその剣を継いで…復讐と共に、私は限界。」

 

これから先に残るべき形として、綺麗とは言えないまでも、綺麗なものを守れる剣として恭也や美由希、雫ちゃんの剣が残り…私の方は、この毒と共に終わる。

そして、恭也に至っては、殺すほうが楽だなんて言えてしまう域になってしまった。

 

人を殺せる凶器…その本質、領域をすら上回りつつある。

 

「…後は…頼めるかい?」

 

即答しようと口を開きかけた恭也は、私が言う『後』がこの任務の話じゃない事を察して一度口をつぐむ。

 

絶え掛けた御神の剣。その新たな未来の形。

一度決定的に間違えた私と違い、恭也や美由希なら望まれるべき形で残してくれるだろう。

 

「俺も…出来る限りは…続いて欲しいですから。」

 

恭也はそう言って頷いてくれた。

 

祖先が、両親が…大切な人がくれた剣と業、宝物を大切にしたい。その気持ちに変わりはない…か。

 

 

「アイツが上手くやれてくれればの話ですけどね。」

 

 

そう言って、小さく笑みを浮かべる恭也。

小馬鹿にするような発言の中、確かな信頼を感じていた。

 

彼の二番目の弟子にして、世界の命運を担う場に立つのが当たり前になりつつある青年。

思えば御神の剣を完全な護り刀として振るって来たのは彼が最初かもしれない。

 

私個人としては未だ不安はある。子供じみた夢を持つ彼に世界規模の命運を託すのは。

けれど、さっきの天啓が本当なら…彼は誰より上手く進めるだろう。

 

 

何にしても、後は託すだけ。私は深く息を吐くと、身体を支えきれなくなっていた膝を折って、血溜まりの一角に座り込んだ。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 




(魔法も無い)田舎の施設警備担当してて、管理局員でもない現地のこんなの相手にする羽目になった彼等に少々同情したくなります(汗)。
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