余録・飼い犬は牙を願う
Side~ディーゴ
「おい犬、テントの一つや二つさっさと張れ。」
「う、うるせぇっ…」
口答えしながらもテントを張っているあたり、情けなくて泣けてくる。
無理矢理に倒して連れてこられた俺は、初めこそ逆らってみたが…リアクトも出来ないまま逆らう俺をあざ笑うかのように、ボコボコに叩きのめされた。
勝てたら自由にしてやるから奇襲でも何でもかかってこいとまで言われたが、結局三人の内誰一人にも勝つ事ができなかったのだ。
痛いは疲れるは逃げられないわで、終いには諦めるしかなかった。
いや、逃げるは逃げられるんだが…
ヴァンデインの野郎が俺の頭に爆弾を仕込んでいたらしく、こいつ等が処置して取り出してみせてきた。
使い捨てのいい例だって事で、他にも何人も死んでるらしい。
そして、こいつ等は何処で拾ったのか殺人衝動を抑える術を持っている。
誰彼構わず定期的に殺して回っていればあっさり捕まる事になるし、ヴァンデインのサポートは期待できない。
捨て身で暴れる気ならそれも出来ない事は無いが、文字通り身を捨てる事になる。
しかし…
「ふむ…まぁこんなものだろう。サバイバルでは市販の材料の利便性がよく分かるものだな。」
エプロンをつけてカレーをすすって味見している姿を見ていると、このガキが王を名乗ってやがる事もこのガキに奇襲まで仕掛けて一回も殺せていない事もあまりにも納得行かなかった。
「ただいまー!」
「戻りました。」
「うむ、こちらも犬のテント設営以外は済んだ所だ。皿をもってこい。」
性格こそ違うが全員ガキだってのに犬扱いされている事には死ぬほど納得がいかなかったが、逆らったら嬲られるか殺されるかの二択。
ぎりぎりと音を立てるほど歯軋りしながら、俺はテントを設置し終えた。
「レヴィ、余りは貴女がどうぞ。」
「我も特に疲労は無い。一番飛び回る貴様が食べておけ。」
全員に同じ皿で分けられたカレー。
エネルギー効率がどうのと言ってはいるが、レヴィと言う俺を連れてきたガキが一番好みらしいから譲っているようだ。
こんな事、分かったからと言ってどうでもいい事なんだが、そんな事を分かる程度に同行させられていた。
俺は自分の分を食い終えて皿を下ろす。
適当に放り投げて皿を割った時は、ソレが原因で片腕を一回もがれた。感染者相手だから拷問が自由だとでも思ってるのか容赦がねぇ。
お陰様でかこんな状態だ。
「んー…」
レヴィの奴が鍋の残りを見て俺の顔を見る。
そして、鍋に残った半分を俺の皿に流しこんだ。
「レヴィ?」
「男だから足りないでしょ?ボクだって今日戦闘あった訳じゃないし。」
「…まぁ、貴女がいいならかまいませんが。」
興味が無いと言わんばかりにディアーチェの分の皿も拾って片付けにはいるシュテル。
俺を見ながら笑ってくるレヴィを見てると、少しイラついた。
ひっくり返してやろうかとも思ったが…空の皿を割っただけで腕一本もがれるんだ。
ろくな未来が想像できず、俺はイラついたままで結局何もせず二杯目のカレーを平らげた。
「くそっ…」
「まるで薬の切れた中毒者だな、いたぶれる人形が無いと落ち着かんのか?」
「うるせぇよ。」
ディバイダーに残っていたデータから俺が何をしてきたか見ている。
リアクトプラグであるフィフスを叩きのめしていた事を知ったこのガキ三人は、やれるものならやってみろと言わんばかりに俺に奇襲を薦めてきやがった。
間違って殺すぞなどと言おうものなら、かかって来いと言われる有様だ。
「そろそろ理解できたのだろう?」
「あ?」
「勝てる相手に暴虐を振りまく事で八つ当たりを続けているだけの小物だと。」
さすがに沸いてきた怒り任せに、俺はディバイダーを抜く。
「…ほう、久々にやるか?」
「なめんじゃ…ねぇっ!!」
ディバイダーを振りかぶって斬りかかる俺に向けて掌を翳したディアーチェ。
その手が光ると、放たれた砲撃によって俺は地面を転がる。
「アロンダイト。」
「っぐおおぉぉぉ!!!」
体勢を立て直して射撃姿勢をとった瞬間に放たれる砲撃魔法。
俺は向かってくるソレを消し去ろうと射撃に入り…
ディバイドですら消しきれ無い砲撃で昏倒させられた。
目を覚ますと、額につめたいタオルが乗っていた。
珍しく甘い倒し方だ。たいした怪我も無い。
「自身の弱さを認めるも、抗うと決め、抗い続けるも、それぞれ違う意味で強さと呼べなくも無いだろう。だが…貴様はそのどちらも半端だな、雑魚。」
言われるまでもなかった。
役立たず扱いで、雑用以外ろくな事をやらされていない。
「…なら何だってわざわざ俺を連れてんだよ。」
「放置してもどうせ犯罪者になるか、その挙句殺されるか程度のオチが待っているだろうからな。レヴィが助けると決めた以上、殺して終わりと言う訳にもいかん。それに…」
一度言葉を区切ったディアーチェは、腰に手を当ててふんぞり返って笑みを見せる。
「世の中、大半が優秀でも特別でも無い普通の人間なのだ。王たる身としてその扱いを考えるのも悪くは無い。」
重犯罪者、人類の天敵となった俺を前に、コイツは本気でそう言っていた。
力欲しさにヴァンデインの提案に乗り、感染者に仕立てられた俺。
衝動の赴くままに手に入った力を使うのはいい気分だったが…
真性の感染者所か、ただのガキに負けてこの有様。
八つ当たりは大概暴力となるが、その暴力で手も足も出ずに居る俺は…当たることすら出来ない憤りを暴かれて、虚しく地面を叩くだけに終わった。
そんな八つ当たり気味の戦いと、暖かな日常を繰り返す内、俺は苛立ちを感じなくなってきていた。
諦めにも似た落ち着き。
犬だなんだと言われ続けてプライドこそささくれ立って来ていたが、それで死ぬわけでもない。
牙を抜かれた犬じゃないが、いつからか本気でささくれだっていた気分は落ち着いていた。
ただ…それでも、こいつ等に一泡吹かせてやりたいという気分は消えず…
「フィフス!…力を貸せ!!」
俺は、墜落したフッケバインに駆け込むと、そう叫んでいた。
Side~ロゼリア=シュトロゼック
びっくりした。
道具としてちゃんとやらないと、殴られたり蹴られたりされて。
それがずっと当たり前だったから…
ディーゴが、私に『力を貸せ』なんて言うと思わなかった。
「今更何のつもりか知りませんがね、彼女は貴方のせいで故障していたのですよ?それを…」
自分の船が壊されて意気消沈しちゃったステラと、彼女についているために残ったフォルティスが、一応侵入者になるディーゴ相手に強い風当たりを示す。
「…ちっ!」
振り返って、部屋を駆け出そうとするディーゴ。
私は慌てて立ち上がっていた。
立ち上がった私に視線が集まって、思わず小さくなってしまう。
座りなおそうとまでしたけど…
「ぁの…なんで?」
「あ?」
「戦い…たいの?」
それでも、なんとか我慢して聞いてみた。
確かに暴れたがりだったけれど、こんな危ない事態に関わって痛い目を見るのはらしくないと思ったから。
「…何でもいいだろ!あいつ等負けたら俺等だってやばいんだよ!」
「貴方が戦力になるとは思えないんですが…」
「うるせぇっ!!」
呆れるフォルティスに叫んで今度こそ部屋を出るディーゴ。
「どっちが騒がしいんですか……ロゼリア?」
私は、後を追うようにして部屋の扉の前に立つ。
開いた自動ドアの先に見える背中を追う前に、ちょっとフォルティスとステラを見る。
「…まぁ、壊れない程度に頑張ってください。貴女の治療費、ただじゃありませんからね?」
許してくれたフォルティスと手を振るステラに一礼だけ返して、私はディーゴの後を追った。
駆け足で追って、追っている事に気付いたのか振り返ったディーゴが私を見て足を止める。
「ぁの…リアクト…」
「……頼む。」
腕を差し出してくるディーゴに触れて、私はリアクトして…ビックリした。
リアクトすると意識で繋がるからか、なんとなくでも心の雰囲気って言うのが伝わってくる。
けど、敵を潰そうって倒そうって感じが無かった。
ただ急いでた。
つまりそれは…
「っ…くそ…がぁっ!!!」
考えている間もなく、地面に叩きつけられた女の子の姿を、その子に向かって放たれた砲撃を目にしたディーゴ。
瞬間、ディーゴは、その子の目の前に飛び出して…
私は、咄嗟に全力で防御を合わせた。
『貴方が救いになればどうですか?』
私を助けてくれたヴェイロンが、ずっと苛立っている女の子の言葉。
流されて、怯えて、ただただ使われていただけの日々。
使えない道具なんて捨てられるだけだから、痛くても苦しくてもそうするしか出来なくて…
私が、誰かの救いになるなんて、考えた事もなかった。
だから…
「ありがとうございます。」
目が覚めて、いつか見た炎の射砲を扱う女の子にお礼を言われた時には、思わずキョトンとしてしまった。
そもそも、ありがとうなんて言われた事もなかった。
「え、と…」
「彼が貴女をどう扱っていたのかは私達も把握していました。それなのに、貴女は飛び出そうとしてきた彼に力を貸して、私とレヴィを守ってくれた。大変感謝しています。」
…改めてお礼を言われてどうしていいかわからなくなる。
しばらくそうしていると、彼女は小さく息を吐いた。
「しばらくは此方でゆっくりしているといいでしょう。では…」
「あ、あの…」
「はい?」
慌てて呼び止める。
混乱してるけれど、聞かなきゃいけない事がある気がして…
「ディーゴ…は?」
今聞く話として妥当だからか、それともリアクトプラグだから気になったのか、怯えていたはずのドライバーの名前を口にしていた。
「重傷ですが生きています。心臓と頭が無事なので、擬似とはいえ感染者の彼ならそのうち治るでしょう。」
ほっとしている自分に気付いてビックリする。
なんでだろう、いい目を見たわけじゃないはずなのに…
「見舞いに行くなら案内しますが?」
女の子の問いかけに、私は恐る恐る…それでも、はっきりと頷いた。
Side~ディーゴ
「っ…ぐ…」
目が覚めて、腕を動かそうと思った所で走った痛みに一気に覚醒する。
両腕を交差させて砲撃を分断しにかかって…まったく消しきれずに…
「フン、目覚めたようだな。」
傍らから声がして首を傾けると、ディアーチェの奴がそこにいた。
「シュテルとレヴィを守った事に関して礼を言っておく。助かったぞ。」
「…けっ。」
まさか礼を言われる何ざ思わなかったから、少しばかり頭がついていかなかった。
動揺を隠すように顔を逸らす。
「駄犬から狩猟犬程度には成長したようだな。」
「テメェ…」
「牙を剥く元気があれば充分だな。」
言いながら、どっか行くかと思ったら椅子を用意して傍らに座るディアーチェ。
「貴様にその気があるのなら、仕事の席を用意してやろうと思っている。」
「あ?」
唐突に切り出された話に、俺はディアーチェを睨む。
結局利用価値を見出して助けておいたのかとイラついて、それを読み取ったかディアーチェは鼻で笑った。
「別に嫌なら断ればいいが、貴様今更ファーストフード店で接客したり、スーツ着て社畜になれるのかは自分で考えておくんだな。できると言うならそっちでもツテはあるぞ?」
「ぐ…っ…」
具体的に仕事の話を持ち出され、俺は言葉に詰まる。
ち、きしょう…丸め込まれてる気しかしねぇ…
そんな俺の様子を見て楽しげに笑ったディアーチェは、その後真剣な表情に変わる。
「今、貴様等を生み出したエクリプスと、その根源を手玉に取っていた連中の大部分を殲滅するべく動いているが、奴等のような類の害虫は、ぢりぢりにちり隠れた後繁殖するというのが歴史上の決定事項のようなものだ。」
「そいつ等の殲滅か?」
「まぁな。調査も含めてだが、そのための人員の不足が想定されている。フッケバインの連中も加わる予定だが、その程度で数は足りまい。」
確かに、感染者向きの仕事ではあった。
命がけではあるが、今更先の話のように店舗勤めなど出来る訳が無い、ってか冗談じゃねぇ。
「寝ている間に考えるといい。ただ、フッケバインに治療費の借金がある貴様の相方は、フッケバインが協力する事が決まっているから自動的にそこに加わる事になるだろうがな。」
相方と言われて一瞬マティの奴が生きてるのかと思ったが、俺が取り外された自壊装置が既に発動している事を考えるとそれはない事に気付く。
となると…フィフスか。
気付いた所で丁度部屋の扉が開く。
扉の先には、シュテルとフィフスがいた。
「おや、目覚めていましたか。」
「そっちもか。」
二人の姿を確認したディアーチェは席を立つ。
「見舞いだろう?後は二人でノンビリするといい。」
「そうですね、それでは。」
あっさりそう言うと、明らかにうろたえているフィフスを残して部屋を出るシュテルとディアーチェ。
こういう時のあいつ等は…楽しんでワザとやっている。
俺が健常ならフィフス一人を放置しねぇんだろうが、両腕消し飛ばされて修復も出来て無い今は特に何がある事もない。その辺も分かっているんだろう。
「くそ…いいように遊ばれてんじゃねぇよ。」
苦々しくぼやくと、扉を見ていたフィフスが俺を見て表情を歪める。
…いっちょまえに不満そうだ、物陰でビクビクしてただけだったんだがな。
「『お前が言うな』って顔か?」
「えぅ…あの…」
図星だったらしいフィフスは、肩を竦めて視線を彷徨わせ…小さくだが頷きやがった。
本当変わってやがるなオイ。
「…あの…」
「あ?」
「私…助けになった?」
恐る恐る何を言い出すのかと思ったら。
んなもん、リアクトプラグなんだから力になって当然…
『テメェこら!あんでもっとさっさと捕らえやがらねぇ!何か恨みでもあんのか!ええ!?』
捕まる前の最後の戦闘。
俺がコイツに言った台詞。
……ちきしょう…分かった。分かっちまった。
ズタボロに負けて負けて負けまくって、『俺が』弱い事を思い知らされて…
フィフスに『助けて貰って』今回割って入って一撃とは言えあんな殺傷攻撃喰らって生きてられたんだ。
「あの…痛い…の?」
「るせぇっ!」
自覚して表情をゆがめた俺を心配したらしいフィフスを怒鳴りつける。畜生…首しか動かせねぇから顔をそらすのが精一杯だ。
「助かったよ!」
顔を逸らして、目を閉じて、誰にでもないようにそう叫ぶのが精一杯だった。
SIDE OUT
本編では出て来て落とされだだけでもそれなりに裏はあるって事で余録で。…余録に残る間も無くマティさんは(以下略)。