余録・雫と競技者達
Side~月村雫
9つ目を潰した段階で、私はさすがに苛立ちを感じていた。
特殊融合兵器生成所、直接変換武装研究施設、クローン魔導師製造施設等々…中小合わせて9つ。
それだけ潰しても、遊と薊に当たらない。
優秀な魔導師を『惚れさせて』遺伝子含めた材料採取、その後帰宅させる。
そうやって、クローンだの何だのの研究に必要な材料を集めて渡しているはずだから、引き渡されてる研究機関を潰したりしてれば在中施設に当たったり、罠なりなんなり仕掛けてきたりするかと思ってたんだけど…
ここまで来て、何もなかった。
何百人もいる競技者を襲撃から守るのは無理が過ぎると判断してこうして動いてるって言うのに…肝心の襲撃犯であるあいつ等本人達を止めないと意味が薄い。
勿論、材料が必要が機関が『全て』潰せれば意味もあるけれど、それを私とヴィヴィオとアインハルトでやろうって言うのは馬鹿が過ぎる。
「…さすがに飛ばしすぎたわね、少し休もう。」
血を貰えたお陰で一回は回復しきったとは言え、こうも次から次へと関連施設を回れたのは、私が洗脳能力を使って無理矢理記憶を引き出して、関連組織とその所在地を引き出したから。
つまる所、施設で動き回る体力と夜の一族の力を使ったお陰でまた底をつきかけていたのだ。
ヴィヴィオとアインハルトは、トレーニングよりは軽くしか魔力を使ってないらしく、むしろ時間が経った分造血が進んで調子がよくなってきている。
とは言え…さすがにこの短時間に二度も三度も貰う訳にも行かない。
雑魚なら振り切れるけど、誘拐案件が関わってるからか、私達を追ってきてるのはあのフレア空尉だ。捕捉されたら不味い。
離脱までは速やかに…っ!
「はい、ちょう待ってな。」
後始末を管理局に任せる為、近場の目立たない物陰から様子を窺っていたのだが、そろそろと離脱しようとした所で、聞きたくもなかった声を聞く羽目になった。
「チャンピオン…」
現れた人影を苦い表情で見据えるヴィヴィオとアインハルト。
それもその筈、そこにいたのはあのジークリンデなのだから。
三対一だし…そもそも一対一でも、『倒せない』訳じゃない。
でも、もし彼女が私達を止めようとするなら…戦闘するなら、すぐにここにいる事が局にばれる。既に施設に人は来ている、今騒げば局の一部隊に捕捉されかねない。
だったら…私がやるしかない。
「何で…貴女がここに?」
問いかけつつ、私は抜刀の体勢をとった。
騒ぎを避けた上で…一撃で仕留める。
奥義の極みに至らないまでも、神速の抜刀を防御を『貫』いて放り込めば…
「聞きたい事があるんよ。ウチが倒されると同時に大騒ぎにする程度の仕掛けはしてきてあるし、通報とかせぇへんから…着いて来てくれんかな?」
私の考えを全部見通したかのように告げるジークリンデ。
私との試合でひねくれた事への対処までするようになったのだろうか?
「断る、って選択肢は無い訳ね。」
「捕まったらアカンのやろ?」
ともすれば殺す気ですらいる私を前に落ち着き払った様子の彼女相手に、どうやらここで逆らう余地はなさそうだと判断する。
私は剣にかけていた手を外して構えを解いた。
それを承諾と見たのか、彼女は笑みを浮かべた。
やれやれ…世界最強と思えないと言うべきか、競技者で女の子と言うべきか…
殺気全開で睨んでた相手にこんな表情がよくできる。
「とりあえず落ち着いて話せるとこ行こか。」
「「はいっ!」」
「…忍んでね、二人とも。」
とりあえず話が落ち着いた方向でまとまったためか、明るく返事を返す二人を軽くたしなめつつ、私達はその場を後にした。
Side~ジークリンデ=エレミア
魔力砲撃を回避しながら低空ダッシュ。
両足を抱えて後頭部から地面に叩きつけ…ようとしたけど、両手を地面について、ウチが抱えている足を伸ばしてきた。
おされるように引き剥がされたウチに向かって、手にしたデバイスを振りかぶる襲撃者に対し…
「殲撃。」
調整効かない自動発動が起こらなくなってきた殲撃を、カウンターで放り込んだ。
骨を数本持ってったけど、いきなり襲撃されたんやし、そこまで気を使う筋合いはない。
倒れた襲撃者の仮面が外れ顔が見える。
ずっとエレミア。
そんな切って切れない縁もあってか、ハルにゃんも含めて昔がらみで因縁ごとに巻き込まれる事は昔から多々あった。
とは言え…そんなウチでも少しばかり今回の襲撃者は驚いた。
「リライヴ?」
白い堕天使、リライヴ。
ニュースでもとりあげられた星斬りの魔導師。
犯罪者言うにはあまり被害出して回ってなかったらしいけど、最近になって少しばかり物騒な事件に顔出しとると噂の人。
それが、なんでウチに襲い掛かってきたのか?
それに、そもそも…全身にぴったり張り付くようなボディスーツで動いとるような話は聞かへんし、こんなあっさり倒せるとも思えんけど…
正当防衛って事で倒したリライヴを管理局の人に引き渡して、襲撃を受けたって事で心配したヴィクターに迎えに来てくれた。
連れ立って、二人でお茶を囲みながら襲撃の話をすると、険しい表情を見せるヴィクター。
そして、一つのレポートを取り出した。
ウチはそれを受け取って見て…目を疑う。
「家の関係者に調べて貰った、ヴィヴィとアインハルトをつれて雫が逃亡した後、彼女たちが襲ったと思しき…人体実験、違法兵器施設のリストですわ。」
「うわぁ…」
思わずすっとんきょうな声をあげてまう。
専門家でもこんなハイペースで探して襲って出来へんやろし、雫ちゃんにいたっては魔導師ですらない。
ヴィクターは重い表情のままで続ける。
「こうなると、雫が起こしていた競技者襲撃事件も妙な話が絡んできそうですし…エルス選手の話も気になりますわね…」
「委員長?」
いきなり上がった名前に首を傾げる。
ヴィクターは周囲に人影が無い事を改めて確認した上で、関係者以外には話さないように念をおした上でその話をし始めた。
委員長が、見に覚えの無い内に処女を失っていたらしい。
しばらくの間誰にも話さなかった(当たり前やけど)らしいけど、雫ちゃんが競技者襲撃しとるって話になってから、ヴィクター含めた密接な競技者仲間に話したらしい。
幸いにと言うべきか、他にそういう話は無かったみたいやけど…
「こうなると是が非でも話を聞かないと、私達にも無関係で済まされる話じゃありませんからね…」
「わかった、ならウチも手伝う。」
レポートを睨むようにして呟くヴィクターにそう言うと、ヴィクターが意外そうにウチを見る。
「ヴィヴィちゃんとハルにゃんの魔力反応は知っとるし、手分けして近場で反応見つけたらそこへ向かえば話くらいできるやろ。」
「ですけどジーク…貴女先程襲われたばかりですのよ?」
ウチの心配をしてくれるヴィクターに対して、ウチはレポートを指差す。
「ウチ一人と今のヴィヴィやハルにゃん…どっちが危ない?」
一人、『自信がある』とか『大丈夫』とか言うてもヴィクターは安心出来へん。
けれど、こんな事になっとる以上放っても置けんのは、ヴィクターとしても同じ。
だからこそ、こんなレポート調べて貰っとるんやから。
不承不承といった感じではあるものの、ヴィクターはウチの提案に頷いてくれた。
Side~月村雫
町を避けて、森で焚き火を囲んでジークリンデの話を聞き終えた私は、ドンピシャで遊の犯行だろう事例に小さく舌打ちした。
少し言い難そうだが、それでも照れているというよりは怒りを感じさせる表情で話すジークリンデ。
「動いとる娘には偶にあるらしいけど、バインド使いやし、前衛ほどのダメージない筈やのにおかしいってなって…な。」
いくら心当たりが無いとは言え…聞かれた訳でも無いのに処女喪失の話を自分から切り出すとは、度胸あると言うかなんと言うか。
護り切れなかったエルスさんがそうまでして知りたいとなると、さすがに全部黙ってるのもちょっと気が引ける。
「それで、競技者襲撃事件の犯人として名前があがっとった雫ちゃんなら、なんか知っとるかと思って…ヴィヴィちゃん達連れまわしてるのもあるし、聞かせてくれへんかな?」
『なんか知っとる』所か、主犯を把握した上で追い回してる所だ。
…地球対管理局間の戦争に絡むのは、管理世界で犯罪になる武装や戦い方をして無許可で龍と戦ってるから何だけど…それが『速人御一行』の犯罪と認知されるだけなら問題ない。
と言うか、それを盾に地球の組織運営に沿って動いてる事実を伏せているんだ。
地球が絡んでる話さえしなければいいだろう。それに、そろそろ片付けて本格的に局とも交渉に入るだろうし。そうなれば伏せておく意味も無い。
「あの…雫さん…」
「分かってる、私が話すから。」
願うようにして私を見るヴィヴィオに、話していい事を選べる私から喋ると告げる。
ヴィヴィオもアインハルトも暗い表情だが、それでも安心したように息を吐いた。
一休みするって事でヴィヴィオとアインハルトに軽食の準備をして貰いつつ、私は話せる事をジークリンデに話す事にした。
洗脳にて何もなかったように帰されている事と、採取した遺伝子を研究材料に使用している機関、そしてそれらと私の家で敵対中と言う事を、地球の話を伏せてざっくりと説明すると、ジークリンデは目を細めて拳を握り固めた。
「…酷い話やな。」
短い語句だが、女の子としてよりも、競技者として材料扱いされている事についての方が比重が重いのだろう。泣きそうと言うより拳に力が篭もっているんだ。
「とは言え…貴女だって手配犯にはなれないでしょう。話を聞く限り無関係とは言えないけど、私達に任せて引いて貰えない?」
エレミアの継承者にして魔法戦技のチャンピオン。
この世界で生きる身として、それらの名を思いっきり汚す破目になる。
後から管理局員にでもなるかどうかは知らないが、少なくとも今事件に関わっていい事はないだろう。
と、そんな話をしてる所で通信が入る。
ミッドにいる間から、不定期に状況を伝えるために送られてきていた通信。
その内容を見てみると…
『ご苦労様。終わったら迎えに行く。』とだけあった。
はぁ…私をミッドに残して、競技者を守れ。なんて役割振っていく辺り、なんとなく感づいてないでもなかったけど…
やっぱり子供の私を本題に関わらせない為だったか。
ヴィヴィオ達を連れまわしている今となっては、確かに言う通りにしておいたほうがいい。
けれど…懸念材料はある。
「いくら達人だって相応の対策なしで遊や薊と当たったら危険だろうに…」
ぼやいては見るが、おそらく襲撃先はミッドじゃない。
遊に当たらなかったのも、私が思っている以上に終わりが近かったから、もう材料集めに回ってないとかなのだろう。
ジークリンデの話を聞く限り、彼女に当てたのは余ったCAシリーズのようだし。
そうなると…次元航行手段はさすがに持たない私達は、どうしても大人しくしているしか出来ない。
「必要なら頼んでみよか?」
「え?」
「次元航行をヴィクターに。」
ジークリンデの提案に少し驚いた。
ヴィヴィオとアインハルトを連れ立って危険な違法事に首を突っ込んでいる事を怒っている…少なくともとめたいはずだと思っていたから。
「や、まぁウチが頼んで無理やったら合図するから逃げといて…って感じになると思うけど…事情あるんやろ?」
「それなりにはね。でも、いいの?下手すると共犯者だよ?」
「たはは…確かにようは無いけど、もうすぐ終わるんやろ?」
苦笑いしながら、それでも真剣な瞳で私を見てくるジークリンデ。
「ウチ含めて競技者皆無関係やないし、雫ちゃんが陰ながら皆を守る為に一人で身をけずっとったなら、放っておけんよ。何しろ、初対面のウチへ説教をしてくれる為に命かける娘やしな。」
胸が痛んだ。
地球の事情を話せないから伏せているというのに、そんな心の内まで真っ直ぐ語ってくれるとは思わなかったから。
応える方法は…
「…ありがとう、ジーク。」
「あ…うん!」
親しい友人はそう呼ぶ、と聞いている彼女の呼び名。
事実、ヴィクトーリアとか含め、そう呼んでいるのを聞いている。
話せない何かがある事まで察した上で協力を申し出すらしてくれた彼女に応えたくてそう呼んでみたが、意図が伝わったようでジークは満面の笑みを浮かべ…
「どういたしましてシズシズ!」
なんとも微妙なあだ名をつけてくれた。
ちなみに理由を聞いたら、『二刀小太刀の雫ちゃんでシズシズ』だそうで…
切っても切れない宝物を絡められたあだ名に、全く拒むことが出来なくなった。
天然なんだろうけど…確信犯なら母さんとかと同じタイプの怖さだな…
ヴィヴィオとアインハルトが用意してくれた軽食を手早く食べてしまって、ジークに交渉に行ってもらう。
駄目だったら合図するから逃げてとの事で、ジーク一人でヴィクトーリアと話に行くのを少し離れた場所で待つ。
しばらくして、ガックリとうなだれ憔悴しきったジークと並んで来たヴィクトーリアだったが、約束通り話を通してくれていた。
…おそらくは、止める為に探してた私達を手伝うなんて話を切り出して散々に絞られたんだろう。
ジークを怒り倒した当人だろうヴィクトーリアだけど、とぼとぼ歩くジークになんだかんだ歩調を合わせてる辺りを見てると、なんかオカン属性って言えばいいのか、そんなイメージが浮かぶ。
仏頂面で歩いてくるヴィクトーリアは、その表情のまま私の前に来て…
「はー…」
「わぁ…」
直後、ジークが感心したような声を上げた。
背後からは見るまでも無く楽しそうなヴィヴィオの声が聞こえる。
手が届く位置まで来た瞬間、右手を私の頭に伸ばしてきたヴィクトーリアに対して、私は抜き放った右の小太刀を下側から彼女の腕に添える。
彼女の腕が私の頭に触れる、大分前。
しばらくその姿勢で硬直していると、ヴィクトーリアは小さく息を吐いて腕を引いた。
私もそれに合わせて小太刀を鞘に納める。
「…私は、貴女がジークにした事、言った事、許した訳じゃありません。」
「でしょうね。」
自分の話で喧嘩になっているような様子に、当のジークが一番困惑しているようだったが、アクアとかの話で聞く限りじゃヴィクトーリアは一番大事な友達にあんな事されて黙ってるタイプじゃない。
「ですが…あんな事を競技者に言うだけのプロフェッショナルではあるようですわね。そして、貴女がヴィヴィ達を連れ立っているのは、貴女の目で二人は大丈夫と認められているから。」
「一応贔屓目無しにね、何か間違ったら死ぬ訳だし。」
繰り返される確認に真摯に応える。
テストのつもりで仕掛けた奇襲だったんだろう。
私に実戦に関して競技者がテストとは、思う所が無いでもなかったが、彼女が協力するか否かと言うなら、彼女が自分で確認しておきたいというのはおかしな話じゃない。
「ジークからはこの一回で終わりと聞いていますが…ヴィヴィとアインハルトはそれで開放されるのですね。」
「そこだけは間違いなく約束する。」
「分かりました。ではこの一回、ダールグリュンの名において私も全力で協力しますわ。」
真っ直ぐに告げるヴィクトーリアに、私は眉を潜めた。
「そんな事言っていいの?別に上手い事だまくらかされたって私のせいにして丸投げしていいのに。まさか実戦までは巻き込めないし…」
「そんなみっともない事できますかっ!それに、ジークも話したでしょうけれど、競技者にとっても他人事ではありません!加えてジークがエレミアとして狙われたのなら、ベルカ王家の血を継ぐ者としてすら関係者です!!」
「成程ね。」
それだけ絡めば、最早無関係とは言えない。
だからこそ力を貸してくれる事になったのだろう。
思わず笑ってしまった私を睨むヴィクトーリア。
「なんですの?」
「嫌われてる所悪いけど、私は貴女嫌いじゃないわ。」
「な…」
敵視全開に奇襲でテストまで仕掛けてこんな事を言われると思ってなかったのか、目を丸くして驚くヴィクトーリア。
家と友人を大事にする真面目な人。
私としてはどっかのママと違って嫌う理由が特になかった。
私が怒ったジークには何か感謝されるし、それが原因でヴィクトーリアには睨まれてるし、なんか色々上手く繋がらない。
それがおかしくなってつい笑ってしまったんだけど…
「馬鹿言ってないで行きますわよ!急ぎなんでしょう!?」
照れて歩き出してしまうヴィクトーリアの先導にしたがって私達も歩き出した。
…ま、こんな談笑も、全部無事に片付いたら…だ。
逆恨みにかまけてこんな娘達を巻き込もうなんて馬鹿な身内を必ずとめる。
胸の内で改めて誓い、私は小太刀の鞘を撫でた。
SIDE OUT
周囲に無茶がデフォルトなメンバーばかりだと、面倒見のいい人は大変になりそうです(汗)。