記録五・灰被りの堕天使
Side~カレン=フッケバイン
拠点を離れている最中、あたしはその死地に顔を出していた。
「…無事、ソニカ?」
「あー…うん…」
飛空挺を離れて活動中の私に舞い込んできたとんでも連絡。
慌てて駆けつけるも、ソニカの救出が手一杯だった。
瓦礫に変わった村、殺された人の山、その中に…『ソレ』は立っていた。
村自体はエクリプスの衝動の元、破壊に来たウチの子の一人がやった所業ではあるんだけど…
そのウチの子は『ソレ』に殺されていた。
「堕…天使…」
白い髪に桜色の首輪、ドレスのようなジャケット。
ジャケットの色は白ではなく灰色だけれど、大方噂のヒーローとやらがしくじった一件の後弄ったんだろう。
「ちょっと待ってて、アレは潰しておく。」
「…分かった。」
周辺の安全をあらかた確認したところで、私は震えるソニカを置いて飛び出す。
ソニカも止めなかった。
「…やってくれたわね。」
「カレン…フッケバイン。」
「各地を回って片っ端からウチの子殺してくれてたみたいじゃない?よくもまぁ…」
「法の外に自分の意志で居るくせに怒るなよ。」
ゾッとした。
管理局は勿論、感染者からもこの殺意は感じた事はない。
何だ、これ?
氷のような瞳で大鎌を持つ彼女から感じられる空気は、明らかに異常だ。
感染者にもこんな殺意を湛えた奴、いるかどうか…
…ま、何でもいい。
あたしらに害を成そうとする者に、容赦する謂れは無い。
「アンタはやりすぎた、少し灸を」
「寝ぼけろ殺人兵器。」
大鎌を手に斬りかかって来る堕天使。
あたしはその一撃を避けて踏み込み、右手で剣を振るう。
左手の書のページを利用しての攻撃と併用するスタイル。
弾幕と斬撃を同時に行うようなもので、並以上の相手ならこれでどうにでも出来るんだけど…
超至近なのに爆弾を投げやがった。
あたしの剣が当たり、炸裂…
「っ…」
「生きてるか、しぶといな。」
なんてものじゃなかった。
気付けば村から弾き出されていた。
小型…水爆?
都市破壊級の実弾兵器を至近距離で爆発って…頭イカれてんじゃないのコイツ!?
しかも防御魔法で防いだのか無傷だしっ!直接こっちの攻撃を当てた訳じゃないからディバイドも大して意味がなく、ちゃんと防御魔法が機能したらしい。
だからって、あの爆発を無傷で凌ぐなんてどうかしてるけど。化物め…ッ!
「どの道これで終わりだ。」
「こ…の…っ!」
魔力を込めた斬撃を、書のページとディバイドで防ぐ。
通常魔力の癖にいくらかページをもって行きやがった。ただ、鎌も砕いてやったけど。
「魔力武装では話にならないか。」
「茨姫!!!」
砕けた武装の変わりでも用意しそうな仕草を見せる彼女を前に、咄嗟に魔力隔絶の茨を展開。そして…
逃げた。
剣も勿論砕けたけど、防御と瞬時の再生によって書も体力も削られた。
勝てる気がしなかった。力そのものも強いけど、やる事がおかしい。
「ね、ねぇ何なのアレ!?」
「あたしも知りたいわ…」
ソニカを回収してとっとと撤退、煙に巻くことには成功したけど…
アイツ…早めに確実に消しておかないと拙いわね…
このままあんな奴に襲われたら、いくら飛空挺フッケバインがあっても危なすぎる。
まして、皆にはまだアイツの行動伝わってないんだから。
とにかく、落ち着けて合流しないと。
「って、飛ばして合流に来たのはいいけど…」
来て早々追いつかれた上、局員もいるって言うのにあんなキチガイ魔法ぶっ放してくるし。
とっとと転移して逃げるべきね、まさか無いでしょうけど、アレと局員が協力しだしたら、こっちもさすがにヤバイ。
「ステラ、相転移。とにかくアレを局員に任せて逃げるのに集中する。」
「で、でもお姉ちゃん、ゼロドライバーの子が」
「多分大丈夫よ。」
少し見てきたが、あの子はまだ死なない。
戦ってた白い子も、非情なように見えるがきっちり急所や致命は避け、とにかく武装を削る事に集中しているようだったし、進行症状もまだ大丈夫。
あの堕天使に殺されなければ、大丈夫だろう。
それよりもこっちがもたない。
アレにはちょっと対応策を考えないと、別々に行動してたら他の子等みたいに一瞬で殺されかねないし、そもそもあんなに兵器の使用に躊躇いの無い奴、危険極まりない。
純粋とはいえ、水爆すら使ってくる位だし。
「って、ちょ、っと待ちなさいよあの馬鹿…ッ!?」
とんでもない事実に気付いて、あたしは目を見開く。
空に、先の数倍規模の魔法陣が展開されていた。
あのサイズのが転送されるにしろ、あの幅の中を通って流星が降るにしても、確実に防ぎきれない。
「冗談…きついわよっ…」
おそらくは、止めに入れば各個撃破、全員で止めに行けば転移で逃げれずステラ以外局に捕縛かアレに殺される。このままじゃ撃たれて撃沈。しかも、破壊に使うエネルギーそのものは空からの質量と重力の為、本人はアレだけやっても物理的な破壊と違い、転送魔法の魔力分しか消費していない。
「お、お姉ちゃん…」
震えるステラの声。
当たり前だ。全うな人間のやる事でも、出来ることでも無い。あの特務のお嬢ちゃんの氷塊すら規格外だったって言うのにこれは…
どうする…どう…
「はあああぁぁぁぁぁっ!!!」
状況に惑う中、金色の一筋の閃光が、空を舞う堕天使に向かっていった。
Side~フェイト=T=ハラオウン
フッケバインもエクリプスも放置は出来ない、確かにそうだ。
でも、だからってこんなものを見過ごすわけには行かない。
流星なんて大気圏の内側に落とされたら、星一つ丸ごと人が住めなくなる。
「何…」
双剣を分離、二刀にして斬りかかる。
と、転送魔法を解除したリライヴは、私の斬撃を防御魔法で防いだ。
「…フッケバインを優先するべきだろうに。」
「ふざけた事を…言うなっ!!!」
全速力で飛行、四方八方から斬りかかる。
大して彼女は、大鎌何て装備の癖にさして動きもせずに次から次へとかかる私の斬撃をいなす。
やっぱり並の技量じゃない、けれど、大型武器なら私にもまだ勝機はある。
彼女と近接で戦えるだろうもう二人、シグナムは消えた三人組を追って異世界に向かったし、エリオは擬似空戦が限界だから飛空挺フッケバインが小さく見えるようなこの高度で飛び回るのは無理。
なのははトーマと戦ってるし、下にまだフッケバインがいる。
私が…私が止めるしかない。
「環境破壊未遂他の容疑で貴女を逮捕します!!」
私の宣言を聞いて、リライヴは目を閉じ、そして…
「所詮管理局…か。」
何かを諦めたような呟きの後、大鎌を振りぬいた。
速い。
「くっ!」
咄嗟に受けるも、吹き飛ばされる。
さすがと言うべきか、重い。
けれど―っ!?
「バーストセイバー!!!」
「くっ!」
体勢を整える間もなく振るわれた一撃。
彼女最強の代名詞の一つである、星斬りの斬撃。
直撃コースで向かってきたソレをぎりぎりでかわす。
左腕が裂け、血が流れ出す。
殺傷…設定…
相手は犯罪者で敵で私は逮捕しようとかかった執務官。だから、驚くべき事じゃないのに…彼女が私に向かってソレを振るった事に衝撃を受けていた。
「今のは避けられるタイミングを狙ったけど…これ以上邪魔をするなら次は無い。」
灰色。
灰色に変わった…変えた衣装。
その姿が、彼女の意志そのもののように見えて…
私は全てを忘れるようにして、目の前の咎人を打ち倒すべく全神経を集中させた。
Side~カレン=フッケバイン
あんの堕天使、どんだけ規格外よっ!!
あの娘と戦ってるフリしてあわよくば墜とそうって気で撃ったらしい、『魔法攻撃』。
艦載魔導武装すら通らないエクリプスウェポンだって言うのに、ディバイドが出来る魔導斬撃の一撃を、姿も霞む超高度からフッケバインに届かせやがった。
損傷そのものは軽微で切断こそされなかったとはいえ、『個人』で出せていい出力じゃないっつーの!
「見たでしょステラ!アレの相手を局のお嬢ちゃんがしてくれてる間にぱぱっと逃げちゃって!あたしはビルとヴェイのフォローをして一緒に行くから!」
「りょ、了解っ!!!」
魔導攻撃をただの威力でフッケバインに通す人間。
そんなものを見てようやくステラの危機感にも本格的に火がついたのか、即答で指示通りに動いてくれる。
初撃の流星を防ぐために動いてくれたサイとアルは、その足でステラと一緒に逃げて貰う。
あたしもそっちでのんびりと…といきたいが、さっきの妙な力の影響を直撃したビルは、リアクトも出来て無い。
あれじゃさすがに局の追撃をかわすのは厳しいだろう。
青髪と赤髪の少年少女と戦ってるビルとヴェイ。
悪影響のせいか本調子が出せないままで局のエース級の子と戦うのは無理があるらしく、押され気味だ。
さて…と。
「ほいっと。」
「っ!?」
割って入って斬りかかるが、赤髪の少年はあたしの剣をあっさり大砲で受ける。
うーん、さすがに空戦じゃアレも使えないし、そうそう簡単に抜かせてはくれないか。
装備も結構硬いし。
「二人とも本調子じゃないんだからさっさと引いちゃって。」
「あぁ。」
「了解した。」
割って入った事で離脱に入るビルとヴェイ。
アタシは二人の子に睨みをきかせつつ、微笑みかけた。
「空の金髪ちゃんに、ありがとって伝えといて。」
それだけ言って、書のページを飛ばす。青髪の少女を主に、7対3位の割合で狙うと、赤髪の少年の方が高速移動魔法を行使してきた。
一瞬であたしの死角に入る少年。けれど…
「残念。」
「く…」
振るわれる大砲を振り返りながらの一撃で斬り壊し、そのまま突きを放つ。
両手で持つ大砲、その腕を突き刺すと、顔をしかめて下がった。
やっぱり、基本修練はしてるみたいだけど自分の武器じゃないらしいわね。
使えるのと自分のものにするのには、近いようで大差がある。咄嗟の判断なんかだと尚更だ。
対EC装備を用意するまでは行ったみたいだけど、個人装備までは手が回ってないみたいね。
「こっちも助かったし、この辺にしておくわね。それじゃ、バイバーイ。」
「っ、ま、待て!」
半分になった砲身のままで殴りかかってこようとした少年を捌いて逃げに入る。
青髪の子の方も無事で済んでるけど、さすがにやっとのことで凌いだって感じだ。追われることは無いだろう。
にしても…
自分用でもない武器を扱ってあたしと戦える局の子供達にあの堕天使、それにアレと空戦をやり合える魔導師。
誰も彼も、ウチの子が有利に立てる程都合いい相手じゃない。
「ちょっと…急がないといけないかしらね、色々と。」
帰り道を飛びながら、あたしは周囲を取り巻く状況が不穏なものになりつつあるのを感じていた。
Side~フェイト=T=ハラオウン
防御しようにも、鎌相手だと刃の部分を直接受け止めない限り身体に刃が届いてしまう。
初期形態に鎌がある私はその使い方を十分に知っているため、下手に防御に回らず攻め手と移動を繰り返していた。
「は…はっ…」
「…逃がしたか。」
荒い息を吐く私の前で、鎌を一振りしながら苦い表情を見せるリライヴ。
フッケバインを潰そうとしていたようで、上手く行かずに表情を歪めたのかと思った。
けれど…なんだかそれにしては様子が…
『薬物反応、禁断症状です。』
バルディッシュが告げた音声に、私は一瞬思考が凍りついた。
「…執務官相手に戦うべきじゃなかったな、そういうデータも常に持ち歩いてるのか。」
「貴女…」
「信用するかは知らないけど、私はこんなものに振り回されて誰かに使われてる訳じゃない。私を手駒にしようとした連中はこれで使えると思ったらしいけどね。」
さらっと言って見せたが、それが本当なら正気じゃない。
薬物の禁断症状なんて、耐えてます、なんて一言で済ませていいものじゃない。
死と孤独を示されても、ただ一人牢獄の中で局員を拒み続ける事を選んだ彼女なら、出来そうなあたりも怖い話だ。
「もう知ってるかもしれないけど、感染者は禁断症状が『人殺し』だ。放置していいものじゃない。これから先、フッケバイン犯行の死人は君の責任だよ。」
「…星一つ潰しかけた癖に命を語らないで。」
私を睨んで告げるリライヴに対して、真っ直ぐ見返して言い返す。
確かに、直接の被害での死者はフッケバインを取り逃がすより海への流星の方が少ないかもしれない。
けれど、巻き上げた塵や津波などの被害は相応のものになるし、文化保護地区という事もあって救助の設備もそこまでじゃない。あらゆる意味でルヴェラは壊滅するだろう。
ただ…否定は出来ない。
彼女がフッケバインを墜としていたなら、少なくとも彼女達による被害は今後無くなるのだから。
「いいさ、私はもう行く。…終わってからじゃ遅いんだよ、何もかも。」
「いかせると―」
言いかけて、一つの爆発物が投げられている事に気付いた。
逃走用の閃光弾だと判断した私は、視界を覆うように光を遮断する黒い障壁魔法を展開しつつ砲撃魔法を準備し…
爆発した弾頭から、光ではなく鋭い破片がいくつも飛んできた。
「っ…」
咄嗟に砲撃を防御に切り替えて破片を防ぐ。
その間に、リライヴはいなくなってしまっていた。
気付かないうちに額を占める汗を袖で拭う。
殺傷技術を平然と使ってくる彼女と戦うのが、こうも神経を削られるなんて…
全神経を彼女のみに集中させて全力で戦っていた。おかげで、フッケバインが去った事すら彼女が止まって気付いたほどだ。
『フェイト執務官、被害者少年の救助は必ず達成させたい。詰めの手伝いを。』
「…了解。」
はやてからの指示に頭を切り替える。
フレアならあるいは…なんて事を考えそうになったから。
SIDE OUT
AAAクラスの戦闘だと都市が崩壊するのも当たり前らしいので、都市破壊級爆発を防げても不思議はない…と思っていただけるでしょうか(汗)