記録五十三・『イデアシステム破壊組』~人造天使の激突~
Side~ニル
振るわれる斬撃を後退しながら避けつつ、リインの力を借りて氷結魔力弾を放つ。
それなりの幅とは言え外ほど自由の利かない坂道で全ては避けきれず防御魔法で受けるスザク。
「スパイラルバスター!」
「ち…っ!」
私が放った砲撃に対して同じく砲撃魔法を合わせ、直後に炎の鳥を飛ばしてくるスザク。
無駄に巨大魔力弾にデザインをつけた訳じゃない、強度と貫通性を持つ嘴状の部位で障壁や硬度を破り、着弾炸裂で炎熱を相手に届かせる。翼は旋回誘導をよりやりやすくするため。
いい加減何度も見てるから…これ位は分かった。そして…対処も。
「ふっ!!」
「な…」
冷気魔力で保護した左手で鳥の嘴を掴んで投げ返した。
魔力刃が爆発しないのと同様、着弾炸裂する部位は嘴でなく本体。
だったら出来ると思ったけど、予定通りだ。
自分の魔法だから威力は把握してるんだろう、斬撃で消し去るスザク。
私は再び右手を構え…
「ストレートバスター・フィフスバースト!!」
「っざかしいっ!!!」
五発の砲撃を通路を埋めるように放ったが、そのど真ん中を狙って単発で砲撃を放ってくるスザク。
内側から裂けるように外に開いていく私の砲撃。対してスザクの炎熱砲撃は私に向かって接近してきて…
さすがに着弾前に消えた。
幾ら真ん中だからって五発全部逸らしながら着弾までされたらどうしようかと思った。
しっかしさすがの出力だな…ユニゾンすれば互角だと思ったんだけど、OAシリーズが使ってる融合騎っぽいの、リインより高出力なんだろうか?
『リライヴさんの魔法は制御が難しくて慣れないので、あんまり合わせられてないです、ごめんなさい。』
『今の所どうにかなってる、気にしないで行こう。』
『はい。』
それた五発の砲撃が通路の周囲で炸裂する轟音が響く中、私にあわせようとしてくれるリインの声が届く。
主から離されて私みたいなのに付き合うのに思うところの一つもあるだろうに、素直に明るい返事を返してくれるリイン。
彼女をちゃんと帰してあげるためにも、今回は捨て鉢にはなれないな。
とは言え…
「リイン一人いれば勝負になるあたり、言うほど大それた力量じゃないみたいだけど。」
「…貴様もCAシリーズの後期型だろうが。」
私相手に優勢を取れないのにいらついているのか、苦い表情をするスザク。
なんとなく、その意味を察する。
OAシリーズとして、強い者として作られた身として、要求通りの用件が果たせているかどうかが重大なんだろう。
親とか夢とかで動いてる訳じゃない彼女達にとって、強くないと言う事はそれだけで生まれた意味を成せないと言う事に繋がる。
それ自体精神的な弱点とするなら…実戦だし、ガンガンついても構わないんだけど…
もし私が弱点として、男の裸体を羅列されて挑発されたらと考えたら嫌になった為、止めておく事にした。
私独りならいざ知らず、ヒーローさんの味方についてる時にやることじゃない。
「何が可笑しい?」
「捨て身はアリで、卑怯は無しってどうなのかってちょっと自分に呆れただけ。」
それだけ言って構えると、スザクもそれ以上言葉を重ねる事無く戦闘体勢をとった。
Side~フォート=トレイア
強敵に出会ったら通信、連絡を。
結論から言って、ティアナさんから事前に受けた指示は守っていると思う。
「よっと。」
「ぐ…っ…」
まぁ、その結論…ティアナさんを強敵でなくあっさり捌くって言う結果を出すのに、聖王の鎧持ちのエフスを全面に射撃ノーダメージで格闘仕掛けて貰って、捌ききれなくなった所に峰打ちを放り込むって言う二人掛かりって以外にも色々せこい戦法で気絶させたので、全うな試合だったら大分失礼な気はするが。
とは言え、時間をかけてられないのも確か。
「エフス、ティアナさん見張っといてくれ。俺は遊を探しに行く。」
「分かった。」
気絶させれば解けるかどうかなんて保障も無いし、どの道出入り口は押さえておかないといけない。
結局ここを張らなきゃならないエフスにティアナさんを任せて、俺はティアナさんが戻って来た脱出路の方へ向かう。
『ティアナさんが洗脳されてた。気絶させたけど、遊がいるっぽいからアイシスとニルは気をつけて!無事なら返事をくれ。』
『いっ!?分かった、気をつける。』
『報告どうも!』
『ああ。』
傍受とかは無視して全員に連絡を送る。
アイシスとニルからすぐに返事が返ってきて、その後にヴェイロンから返事が来た。
アイシスは今トーマと一緒だから、問題があったなら教えるだろうし、そうでないならわざわざトーマがここに来てることを敵にばらすことはない。
特に追求はせずに、エフスから貰った地形情報にあった通路に行ってみると、壊れた車両と気絶した研究員っぽいのが転がっていて…
通路横に穴が開いていた。
…そりゃ壁抜きくらい向こうだって出来るか。
って事は遊は、ティアナさんこっちにけしかけといてこの穴の先に行ったって事になる。
後を追うために俺は空けられた穴から先に向かって駆けた。
Side~ニル
「っ…」
踏み込みからの斬撃を下がって回避しながら右手を翳し、射撃魔法を放つ。
単発じゃ片手であっさり払われて、追撃に振るわれた斬撃から魔力刃を飛ばしてくるスザク。回避しきれず脇腹辺りが裂ける。
やっぱり近接武器無しだと少しきついな…集束魔力刃は喰らったら終わりだし。
『フリジットダガー!』
「っち…ざかしい!」
リインが展開してくれた多量の氷のダガーに対して、スザクは剣を振るって爆炎を起こす。
空間制圧系炎魔法って言うと、シグナムがアギトと使う火龍一閃があるけれど、あっさり似た真似してくるあたりはやっぱりOAシリーズって事だろうか。
ダガーごとこっちまで焼き払いそうな炎を防御魔法で止めるが、当然その間に接近してくるスザク。
バーストモードから、左拳の突き。
不意打ちも不意打ち、下手したら相打ち覚悟ななりふり構わない一撃に対して、既に剣を振るっていたスザク。
結果、胸元に一撃叩き込んだはいいけれど、その後、吹き飛びながらも手放さなかった剣によって左腕を落とされる。
義手だからいいけど、ここから片手か…まいったな。
「っ…無茶苦茶をする…」
胸部を押さえて顔をしかめるスザク。
今ので肋骨ちょっと壊せた感触はあったし、多少効いてるんだろうけど…
片手じゃやってられないか。
『リイン、そろそろアレ行くよ。』
『はい!』
予定通りとどめの一撃の準備に入る。
射砲撃の撃ち合いに斬撃や炎熱攻撃の結果、罅入ったり崩れたりした坂、その床に私は手を当てる。
ひび割れた床…地下施設…その中には配水管もある。
研究員が、施設内で、溶液の配合や機器の洗浄を行い、そもそも生活するなら絶対水やら電気やらはいるんだ。
「『氷柱蛇!!!』」
私もあのリライヴの偽物の一人。リインが割と得意分野としている氷結変換を以って補助して貰いつつなら、人の魔法だって使える才は有る。
そして…トドメ用って事で後先考えず威力強化した氷結魔法は、施設中を走る配水管を伝いその水分を伴って次々と巨大な氷の棘を床から壁から発生させる。
「き…さまっ!!!」
非殺傷って事で、刺し貫くのでなく触れたら凍っていく設定にしてある為、床壁天井まで凍っていく上出てきた氷柱に触れても凍る。
当然避け切れる訳も無くスザクの体は氷に包まれていく。
この後まだ戦えるかって言われると厳しいけれど、魔力消費だけでOAシリーズを確実に戦闘不能に持っていけるなら、私の仕事としては十分…
「舐めるなっ!!!」
体を徐々に凍らされながらスザクが炎熱砲撃を放つ。
私が狙われても防御でダメージを軽減する事は出来るけど、何故か全く別の所…
スザクが捨てた、私達全員を道連れにするための強可燃物を搭載した砲に向かって行った。
放ってから…撒いてから引火させて広域を炎に包む予定だったろう砲内部の薬剤。
そんなもの全てをいきなり炎が包み込んだらどうなるか。
分かりきった答えが思いつく前に、地下室を崩すような爆音高熱が辺りを包み込んだ。
Side~ヴェイロン
辺りの部屋をぶっ壊しまくってこの辺最後の部屋に行き当たる。
その…牢に繋がれている幾人ものガキの部屋に。
死んだ目…何かを諦めたような目で、入ってきた俺を見るガキ共。
その頭には、大小様々な形状ではあるが、何かしら機器のようなものが取り付けられている。
イデアシステムとか言うのに都合がいいのか、多感な時期…トーマやフォート達と同じような年代の連中が多い。
…イラつく。
『貴方が救いになればどうですか?』
この世界に神はいなければ救いも無い。
俺の思い知った真実に、あのガキの言葉が何をどうしていても引っかかる
分かっている。
憎むべき敵相手に力の限りを振るう間は爽快だ。
腹の中をかき回すようなどす黒い何かをことごとく吐き出して何もかも『無くせる』ようで。
分かっている。
そうして…神もいなけりゃ救いも無く、憎むものすらなくなったら…
何一つ残らない事を。
ギシリ…と、手にしたディバイダーと手がすれる鈍い音が聞こえる。
こいつらごと葬りたくすらなって…
牢の鍵をぶった斬った。
ついで、腕に繋がれている鎖を片っ端からぶっ壊していく。
神もいなけりゃ救いも無ぇ…それが、俺にとって望む事か嫌な事か。
結局の所、後者だからイラつくんだ。
「生きたけりゃ…救われたけりゃついて来い。」
うつろな目をしているガキ共にそれだけ言って、俺は踵を返してゆっくり歩き出した。
しばらくして、続々と足音が続きだした。
あのクロチビがここまで予想ついてたならと思うと、結局苛立って仕方が無かった。
Side~ニル
氷柱蛇の発動中で其処まで強固な防御も張れない状態。
当然、全滅狙いの薬剤なんかに引火した爆発に閉鎖空間で巻き込まれればそんな防御で耐え切れる訳が無い。
だからと言うか何と言うか、殆ど咄嗟だった。
制御中の氷柱蛇を使って、『自身を丸ごと氷塊に包み込む』と言う手を選んだのは。
「っち…」
凍らせたもののあっさり溶け、防御魔法の発動稼ぎ程度しかできず、どうにか凌いだ感じでボロボロだ。
そしてそれは、同じ空間にいたスザクも同様らしく、よろよろと立ちあがる。
「人に破滅願望持ちとか言っといて、随分やってくれるね。」
「貴様ごときに、そうそう負けていられるか…」
歯軋りが聞こえてきそうな感じで立つスザクを前に私は床を蹴った。
右の拳を握り飛び掛るようにして振るう。
バックステップで避けたスザクは、着地ですっ転んで転がりながら、魔力弾を撃ってくる。
単発魔力弾で相殺し、砲撃魔法を放つ。
「まだだ!」
紅翼弾を放つスザク。
未だ魔力は残しているのか、此方の砲撃をあっさり相殺、爆発がこっちに押して来る。
こっちは大技に続いて防御を使って結構一杯一杯だっていうのに全く…!!
「っはああぁぁぁっ!!!」
バーストモードを用いて押し寄せる熱の中央を強行突破する。
迫る熱の壁を斬り破るように強行突破した私は、未だ立ち上がりきれていないスザクの頭に向けて…
バーストモードの急加速をそのままに頭から突っ込んだ。
頭同士がぶつかった上で吹っ飛ぶスザク。
こっちも額が避けて血が出るが、吹っ飛んだスザクは壁に後頭部から激突する。
今しか…っ…
頭同士でぶつかったせいでぐらついた。
「…そぉ!!」
ろくな制御も出来ないまま砲撃を放つ。
スパイラルバスターすら撃てずにただただ普通の直射砲撃。
それでも、直撃してれば決められた筈なんだけど…
「だから…舐めるなっ…」
一瞬遅れたせいか、ぎりぎり防御の発動を間に合わせたスザクの姿があった。
ああ全く、しぶとい奴。
なんかおかしくなった私は、笑みを漏らしていた。
「つくづく…諦めないよね。」
「何?」
「高町速人や時空管理局が…仮に捕まえたからって貴女を殺す訳も無いのに。」
管理局の方は私としても全員信用はならないが、それでも有用な魔導師は利用する方向で組んでいる。
JS事件関係者だってバリバリ働いてるくらいだし、その辺拘りが無い人相手なら割と緩いはずだ。彼女にこうまでして犯罪者でいる理由があるんだろうか?
「知りたければ…勝てばいい。これを…凌いでな!!!」
身体のダメージはどうやら向こうの方が大きいらしいが、ふらつきながらも両手に展開した二対の炎の鳥は、絶望的な状況を示すにふさわしい代物だった。
嘴掴んだあれも、素手じゃ手が使えなくなるだろうし…
金属製の義手に冷気を纏わせてようやくやった返しだ、素手でやればいい感じに焼肉が出来る事だろう。
「紅翼弾っ!!!」
連続で放たれる炎の鳥。
選択肢は無かった。
「っ…はあぁっ!!!」
手が焼けるのを無視して先行してきた方を引っつかんで、もう一つに向かって投げる。
強大な力を持つ炎の鳥同士が衝突して爆発、周囲を炎が包み…
炎を破るようにして剣を振りかぶったスザクが姿を見せた。
もう手もまともに使えない、斬撃を捌く事なんて出来ない。
「これで…っ!?」
スザクが剣を振り下ろそうとした丁度その時、彼女の身体を青色のバインドが取り巻く。
紅翼弾の衝突にあわせて分離していたリインによって発動したバインドが。
そんなに長くは保たないだろうけど…一瞬あれば充分。
「これで…終いだっ!!!」
跳躍から、縦一回転しての踵落としは、スザクの鼻の先端に見事に入った。
バインドが千切れるのと同時、踵落としの勢いのままに後ろに倒れるスザク。
けど、私も私で左手がなく右手も焼け痺れてるため使い物にならなくて、背中から落ちる。
「ってて…」
「だ、大丈夫ですか?今治します!」
倒れた状態からどうにか身体だけ起こした私の下に飛んでくるリイン。
「別に気にしなくていい…って言うか、他の援護に」
「応急処置くらいしておかないと右手も切除する事になっちゃいますっ!」
言いながら回復魔法を発動してくれるリイン。
…ユニゾン状態でSSのフルパワー戦闘に付き合って消耗してない訳が無いって言うのに、よくもまぁ私みたいなならず者の為に頑張るなぁ。
とは言え、優しく暖かいそれを強くも拒めず、回復されながらスザクの様子を窺う。
綺麗に意識は飛んでくれているようだけど、魔力が尽きた訳でもないだろう。
「はい、終わりまし…た?」
回復魔法を終えると同時、私の脇でへたり込むリイン。
さすがに消耗が激しいらしい。
気絶してるスザクも放っておく訳にも行かないし…
「よ…っと。」
「へ、わっ…」
とりあえず動くようにはなった右手でリインを摘んで服の胸元に引っ掛け、倒れているスザクを肩に担ぐ。
最初に塞いだ道も、可燃物の爆発で溶けている。
「この有様じゃ手伝い所か足手まといだし、コイツ見張って大人しくしとこう。」
「あ…は、はい…」
ボロボロの通路にいる訳にもいかない為、退路を歩き出した。
Side~トーマ=アヴェニール
派手な衝撃と轟音が収まると、ニルからスザクを倒したって連絡が入った。
殆ど相打ち気味で引いておくらしいけど、あのOAシリーズを破ったって結構な事だと思う。
「こっちはハズレばっかりだって言うのにね。」
アイシスが愚痴る通り、俺達が見ている部屋はここにいた人達が使ってたベッドや食堂が有る場所だった。
証拠品の押収について何も気にしてなかったのか、その辺に資料みたいなのが散乱している。
けれど、技術情報なんかが混ざってるからこれは焼き払う方の代物で、アイシスに爆薬を撒いて部屋ごと吹っ飛ばして貰うだけになっていた。
別に戦いたい訳じゃないし、ここを壊して止める人を止めて助ける人を助けられればそれでいいんだけど…
「さて…と、後この部屋位か…なっ!!」
俺達が来た先に有る最後の部屋をアイシスが開く。
先にあったのは、それなりに広い部屋に、血や鉄の匂いが目立つ器具が散乱している部屋だった。
「拷問…部屋?」
「イデアシステムとかいうのは意志を、記憶を力にするって話だから…強烈な印象が残るようなイベントを作る部屋って所かな…」
『酷…い…』
呆然と口にした俺に、予測を冷たい口調で話すアイシス。
それを聞いたリリィが、その凄惨な内容に俺の中から泣きそうな声を伝えてくる。
「エクリプスも強い憎しみが力になるって話だし、その原型だけのことはある。つくづく最低な研究…っ!!」
「アイシス?っ!」
言葉の途中で崩れ落ちたアイシスに、何があったのかと思ったけどすぐに思い至る現象が一つあった。
さっきフォートから、遊がいるって連絡があった。確か、『視線と芳香』による魅了能力。
座り込んだアイシスは口元を覆っている。こんな状況でも冷静に備えてはいたんだろう。
アイシスはきっちり対処してみせたんだ、ここは俺が引き受けないと。
『遊が傍にいるみたいだ!手が空いてたら』
「残念だが、通信は妨害させて貰っているよ。」
「っ!?」
ゆっくりと、足音が近づいてくる。
こんな悪趣味な部屋の中だって言うのに、その人影は楽しそうに笑みを浮かべていた。
咄嗟に俺は黒騎士モードを解除。リリィと融合したままで通常状態に戻る。
「始めまして…ゼロの少年。」
「ハーディス…ヴァンデイン…!?」
遭遇したら絶対に感染者として戦うなと言われていた、エクリプス事件の首謀者が、俺の前で足を止め微笑んでいた。
SIDE OUT
地形を変えるような撃ち合いの末に踵落としで終わると、『どんな足だ』とかちょっと思ったり(苦笑)実際は防御無い所で急所に入っただけなんですが。