記録五十五・『イデアシステム破壊組』~エクリプスシードの力~
Side~ニル
元となったリライヴの才能か、それとも化物じみた下の奴のせいか、その両方か。
阻害効果でも使ってるんだろう、通信も繋がらない状況。
それでも尚、下方から強大な力を感じていた。
地上部分の部屋は地下に降りる前に覗いて制圧済みの為、その辺の椅子のある部屋に入り、スザクを寝かせ、道中歩いている間に眠ってしまったリインを置いていく。
スザクには逮捕用の魔力錠をかけてあるから、多分何もないだろう。
それよりも…地下の化物の方が危険なのは、火を見るより明らかだ。
私はもう、自分の生にロクな意味が感じられないけれど、だからこそ…
「死ぬ気ですか?」
眠っていたはずのリインの声がした。
力は足りず、相変わらず回復した訳ではないらしいけれど、それでも何とか起きているらしく、疲れて落ちそうな瞼を必死で開いて私を見つめていた。
融合していた以上、私の消耗だって正確に把握している事だろう。
装備もなく下ろうとする私を止める気なのだろうか。
「…ま、確かに自殺行為に見えるんだろうけどね。」
「駄目ですよ、それを止める為に」
「自殺行為に『見える』って言ったでしょ?死にに行くんじゃない、生きに行くんだ。」
止めようとするリインの言葉を断ち切るように宣言する。
『自分の生』に意味が感じられないのなら…
その私が安全域にいる為に、トーマ達のような幸せに生きられる余地の有る人が死んでしまうなんて、そんな馬鹿な話は無い。
だから、生きに行く。
無意味なこの命を尤も『生かした使い方』をしに行く。
私の言葉尻からろくでもない意味の方も汲み取ったのか、リインは目を閉じた。
「ソイツの見張り、誰かはついてないと。だから…下は任せて。」
「…はい。」
不承不承と言った感じではあるけれど返事を返したリインに微笑みかけ、私は部屋を出た。
さぁ…行くぞ。
スザクじゃないが、作りものがその全てを使い切らずに…子供や局員を死なせる訳には行かないからね。
Side~ヴェイロン
エフスの奴にガキを任せてゼロの坊主の援護に向かったが、大穴の開いた先にいやがったのはあのハーディスだった。
姉貴と同時にかかって涼しい顔してやがった化物だ、力の大半を使わねぇ坊主と俺じゃ勝ち目は薄い。
「おおおぉぉぉぉっ!!!」
中距離を維持してエネルギー弾を乱射。
直撃炸裂を繰り返すが、相変わらず涼しい顔して突っ立っているハーディス。
「よっと。」
「っ!ぐ…っ!」
何事も無かったかのように爆撃の中からディバイダーを振るってくるハーディス。
莫大な威力を持つ粒子斬撃によって、俺は思いっきり吹っ飛ばされた。
ガードしたもののディバイダーはひび割れ、俺も受けきれず身体が裂ける。
「クリムゾンスラッシュ!!!」
と、ディバイダーを振り抜いたハーディスに、坊主が分断斬撃を放つ。
が、俺があれだけ撃っても通じない相手、単発斬撃でどうにかなるわけもなく少し姿勢を崩すに留まる。
『なにやってんだクソガキ!てめぇが捕まったら終わりなんだぞ!』
『時間を稼いで、ヴェイロンはどうする気なの?』
『テメェがいなきゃどうにでもなるっての!』
どうもこうも、この状況だと離脱しか選択肢はねぇだろうが…と、少しばかり思いつつ、あっさりと立て直したハーディスの野郎が放ってきた砲撃を回避する。
背後ですさまじい衝撃音がする。地下が潰れる不安も無くは無いが、コイツが茨姫を周囲にひしめかせた結果支えになってるっぽいからそこまで気にする必要はねぇだろう。
「らぁっ!!」
脳天目掛けて打ち下ろしたディバイダーの刀身での一撃。
だが、直撃したにも関わらず当然のようにこっちの刃が砕け散った。
左手を伸ばしてくるハーディスに対して同じく俺も左手のクローグラブを合わせ…ナパームファングを放つ。
「やれやれ…わかってないね。」
「っ…ぐっ!」
つかみ合った手は、零距離で炎に包まれたにも関わらず無傷で、そのまま俺は無造作に振り上げられる。
胸部にディバイダーを突きつけられ…
「させるか!」
横から坊主がハーディスのディバイダーをぶっ叩いた。
コイツ、俺がここにいる間逃げねぇ気かくそ…さすがシュトロゼックを『助けた』馬鹿だ。
振り上げた俺をそのまま坊主にぶち当てて放り投げるハーディス。
俺等は纏めて吹っ飛ばされ、床を転がる中、ディバイダーを向けられ…
砲撃魔法がすっ飛んできた。
一発一発は大した事なかったが、十数発が束になったように放たれたそれは、ハーディスの身体を吹っ飛ばす。
今の紅い魔力光は…
「さ…てと、第二ラウンド、行ってみるか。」
左手に握った銃を回して、全身ボロボロの様相でフォートが姿を見せた。
Side~フォート=トレイア
「オイコラテメェその様で何ノリ気で出てきてんだ。」
平然と現れた俺の姿を見てヴェイロンがただでさえ悪い目つきを更に細めて俺を横目で睨んでくる。
その様…うん、吹っ飛ばされて壁数枚貫通するような勢いで射出された結果、内臓痛めてるらしく血を少し吐いてきたし、亀裂骨折っぽい右腕は、リベリオンで直接骨を覆って補強している。が、治る訳じゃないので無理矢理剣ごと手を覆って手放さないようにしているだけで、斬る所か動かすだけで痛い…
程度だ。
特に何の問題もない。
「しぶといね君も。」
呆れたように言いながらディバイダーを構えるハーディス。
構えられたディバイダーから放たれたエネルギー弾の雨。
凶悪な威力があるだろうそれに、俺は真正面から突っ込んで…
剣を縦に構え、裏から防御を展開した。
攻撃本体の衝撃を、あのユーリが叩いても折れないらしい剣で止めてもらって、余波だけを防御魔法で防ぐ形にしとけば、普通に俺の魔力だけで受けるより余程消費が少なくて済む。
それでも直接突破するには、フォースドライブを用いた障壁連続展開は必須だったが…
「おや?」
さすがに直撃コースで直進されて無事で済むのは予想外だったらしく驚いているハーディスの顔面に砲撃魔法を数発叩き込む。
そして、跳躍。
「っらぁ!」
「おおぉぉぉっ!!!」
天井に跳躍したタイミングで、ヴェイロンとトーマがそれぞれ射撃と砲撃を繰り出す。視界をふさがれた状態で直撃を受けるハーディスだが、突っ立ってられる辺りやっぱノーダメージか?
だが、把握してる。
天井に足をつけた俺は、重力の勢いも重ねて天井を蹴り、斬撃を振り抜いた。
肩に当たったが斬れるどころか傷一つつかずに腕が痛む。
突っ立ってたハーディスの目の前に着地する事になった俺に、無造作に足を蹴り上げるハーディス。
咄嗟に展開していた銃を盾に変えて左腕で受けるが、あっさり砕ける音がして思いっきり宙に蹴り上げられた。
「っおおぉ!!」
宙を舞う俺を狙おうとしたハーディスに対して斬りかかることで妨害に走るトーマ。
右手のディバイダーで受け止めたハーディスは…
いつの間にか左手に持つ、猟銃のような形状のディバイダーを振り下ろした。
確かカートが何もない所からいきなり物を出してたな、模倣能力者だけあって何でもありかっ!!
いきなり二対になった武器を振り下ろされたトーマは…
ヴェイロンによって押しのけられ、ヴェイロンの右肩に深々とその刃が食い込んだ。
「ぐ…」
「君は消えていいよ。」
そのままで射撃を連射され、ヴェイロンは腕を残して吹っ飛んでいった。
壁に激突し、崩れた壁に飲まれてその姿が見えなくなる。
…一般人ならともかく、あれくらいならアイツなら大丈夫だ!
「銃刺突!!!」
深い体勢の溜めを使い、強い踏み込みと同時に放つ殺傷力の高い突きを、ハーディスの鳩尾目掛けて放つ。
直撃したが、剣もこいつの身体も異常な強度の為、まるで棒で押しているような感じになる。押して吹っ飛ばせるだけマシなんだろうが、面倒な奴だ。
「っ!?」
「これ…っ!?」
唐突に、茨が周囲から伸びてきて俺とトーマを取り巻いた。
展開中だった茨姫を引っ張ってきたのか。
「君は確実に殺しておく。」
ぞっとするような冷たい殺気が俺に向けられ、同時に砲撃が放たれた。
トーマ、アイシスは勿論、ヴェイロンも全く『敵』とみなしてなかったんだろう。だからこそ今の今まで感じなかった殺気。
明確に向けられたそれと共に放たれた砲撃は先までより更に威力が増していて…
「油断するな、貴様が死ねばフェアレが泣く。」
俺の目の前に割って入ったエフスが、防御魔法を展開して直撃を引き受けていた。
Side~エフス
ヴェイロンから預かった子供を預けた俺は、ニルを伴って騒ぎの大本へ向かった。
丁度殺されかけていたフォートを見かけて割って入ったが、思ったより大した威力だ。
擬似とはいえ、聖王の鎧に防御魔法を足して尚、防御を展開していた手が焼けて出血していた。
「誰が死ぬかって…のっ!!」
体内から複数の刃を押し出す形で自身を拘束する茨を押すフォート。
尋常じゃない強度の茨は簡単には切断できないが、複数の刃を一つの茨に集中させる事で切断して振りほどいた。
右腕周辺を自由にした後は手にした剣で残る茨を断ち切ったフォートは、傍らのトーマも同じく開放する。まだ余裕はあるか。
『一瞬でも奴を止めろ。』
通信で一言だけ告げて、俺は先陣を切った。
防御効果のお陰で軽い連射なら盾代わりになれるだろうし、どの道聖王と同遺伝子の高町ヴィヴィオのクローンから吸収した格闘と魔法をただ使えるだけの俺は、前面に出なければ話にならない。
初手からアクセルスマッシュを放り込む。
顎に綺麗に命中したものの、まるで動かず止まる。
余裕ぶってディバイダーを振り下ろしてくるハーディス。強く速いが、舐めているのか軌道は丸見えだ。
自身の力で抜けないものなどそうは存在しないからだろう。
俺は振り下ろされたディバイダーを、セイクリッドディフェンダーで受けた。
聖王の鎧と重ねれば、二種類の絶対防御。
綺麗に重なれば、計算上はバーストセイバーを受け止める事すら可能だ。
「む…」
「はっ!!」
同様の要領で全魔力を攻勢に割り振っての左蹴りを開いた脇腹に下から振り上げる。
すさまじい硬度でダメージはないだろうが、浮き上がるは浮き上がった。
「クリムゾンスラッシュ!!!」
トーマが続いて斬撃を飛ばし、続いて接近。
分断斬撃を喰らった相手に直接ディバイダーによる追撃を加える、距離を選ばない奴の戦闘技術の一つ。
綺麗に二発とも直撃して壁まで吹っ飛んだハーディスだったが、壁を背にすると笑ってディバイダーを向けてきた。
俺は咄嗟にトーマの前に立ち、放たれた砲撃を受けた。
すさまじい威力だ。
感染者の分断効果もあって、ただのラーニングで本物ほどの精度の無いセイクリッドディフェンダーでは聖王の鎧に重ねてもゼロに出来ない。
フォートの奴は何を…そう思った直後…
「剣持ち前、下、前下Pコマンド!」
ハーディスの懐に入ったフォートが、下から上に振り上げるようにして剣を振るっていた。
跳躍しようとしたのか前足の踏み込みは強く、振り上げられた剣は…
綺麗にハーディスの股間に命中して止まっていた。
「は…が?」
「何だ、効くじゃねぇか。」
余裕の笑みを崩す事のなかったハーディス。その顔が笑顔のままで青ざめる。
そんな様子を見て、フォートは喜ぶより呆れたような呟きを漏らした。
今だ。
『ニル!』
『了解!!!』
別の部屋で集束砲撃を準備していたニルに合図を飛ばし、トーマを引っ張り適当に距離を取る。
直後、ハーディスを『物理破壊SSの魔力集束砲撃』が飲み込んだ。
幾ら感染者だろうと原初の種、エクリプスシードの力が膨大だろうとこれはどうもできんだろう、とりあえず終わらせる事はできた…か。
「フォートは…っ?」
トーマが恐る恐る口にすると同時に、左脇の壁で衝突音。
見れば慌てて回避してきたのかフォートの姿があった。
フォートは俺を目を細めて睨んで来る。
「一から十まで話せば回避されかねなかったんだ。貴様なら避けると信じるしかなかった。」
「そうかよ。」
短く返しただけで、その位の事はフォートの方も察しているのか、それ以上何も言わなかった。
着弾炸裂だと地下一帯消滅するため、貫通性にして余波は消滅するよう調整されたクリスタルブレイカー。
透明とは言え濁流のように通っていった砲撃の光は、進路上の全てを塵に変えていた。
「これだけやればさすがに局員が来るな、早めに離脱するべきだ。」
「そうしとけ、後は俺に任せてな。」
宣言すると同時に、フォートが駆け出す。何をしだすのかと思えば…
瓦礫を押しのけてハーディスが姿を見せた。
剣を振り下ろしたフォートに対して、ハーディスはノコギリ状の刃のついた大剣…クインのディバイダーを手に打ち合わせ…
「っぐ…」
左手に隠し持っていた瓦礫の破片を射出してフォートの足を撃ちぬいたハーディスは、片手で持っていた大剣を全力で振りぬいてフォートを吹き飛ばし、左手の爪を振るう。
紅い線を直撃したフォートは、吹き飛んで瓦礫に倒れ付した。
…いくら原初の種の力を持っている感染者だからといってアレをどう凌いだ?
その疑問の答えは、今の戦闘を見ている間に出ていた。
ハーディスの足元には、機能を失ったと思われる茨姫が一箇所に集まっていた。
壁にめり込んで動きを封じた事を利用して、制御下にある『魔力隔絶能力を持つ茨』を束ねて盾にしたのだ。
種の力で茨の力も強力なものになっている、ニルの最大砲撃でも消しきれなかったか…
「もう加減は止めだ。」
書型のディバイダーを手元に呼び出したハーディスは、そのページを周囲に展開する。
「爆ぜろ。」
展開されたページが爆発し、周囲全てが爆炎に飲まれた。
Side~トーマ=アヴェニール
地獄絵図の中、身体を起こす。
皆の姿は見えない。
俺自身炎に包まれて通常状態が少し辛くもあった。
そんな中、悠然と歩み寄ってくるハーディス。
ゼロ以外に興味も無いんだろう、他に様子を窺う事すらなく俺に近づいてくる。
「さ…せるかっ!!!」
と、炎を裂くようにして、ニルが横から飛び込んできた。
ハーディスに向かって無手の身で迫る。
振るわれたディバイダーを右手で逸らして蹴りを叩き込んだニルだったけど、彼女の方がよろけていた。
元々そんなに余裕があった訳が無いんだ。
左手の義手も無いし、きっとスザクと激戦だったに違いないんだから。
無造作に放たれたハーディスの砲撃を防御で受けるニル。
けれど、残り少ない魔力で無理して張った魔法防御なんかハーディスの分断に通じるわけもなく、悲鳴を上げる間もなくニルの姿は再び炎の中に消えた。
「出来損ないの人形にしてはよくやる…魔法で私に死の危険を感じさせるとはね。」
無表情と言ってもいい位冷めた目でニルを吹き飛ばした先を見据えて呟いたハーディスは、再び俺に向かって歩みだす。
「さぁ、チェックだ。倒されて連れて行かれるか、ゼロを使うか、選ぶといい。」
「ぐ…っ…」
『トーマ…』
このまま負ければ結局皆…だったら、賭けになったとしてもコイツを『殺して』皆の安否を確認するしかないのか…
無力感と黒い気持ちが心を満たしていくのを感じ取ったのか、リリィからも悲しげな声が届く。
歯を食いしばった直後、ハーディスの顔で爆発が起きた。
黒い鳥によって。
いつの間にか立ち上がったアイシスが、傷だらけの様相で尚ハーディスを見据えていた。
次いでアイシスが散布した薬剤によって、巻き起こっていた火が燃焼しなくなって掻き消える。
「あたしは…あたしの友達を守る…身体を変えちゃう程黒くて悲しい気持ちが生み出した力でも…トーマの大切な物なんだ。お前なんかの道具にさせない!」
「アイシス…」
俺はディバイダーを握り締める。
…そうだ、乗せられて俯いてる場合じゃない。
倒れてる人も多い中今更放置して引けないし、かといってこんな奴にゼロを渡す訳にもいかない。
やるしかないんだ。
「やれやれ、気合一つでどうなるものでもないだろう?」
「だからって!」
銀十字のページを周囲に展開。
ハーディス一人に狙いを定めてエネルギー弾群を生成。
「シルバースターズ・ハンドレッドミリオン!!」
全面からのエネルギー弾による攻撃。
ハーディスは直撃しながら顔色一つ変えずにディバイダーを振りかぶる。
粒子斬撃狙いか。
「させないっ!」
「む…」
身体を俺の攻撃による爆発で包まれている間に地面すれすれに飛ばされたアイシスの火薬を見切れなかったハーディスは、いきなり腕に上がってきた黒い鳥の爆発によってディバイダーを振るう事が出来ず体勢を崩す。
俺はディバイダーを手に踏み込んで…
ハーディスの足元から放たれたエネルギー弾を直撃した。
見れば其処には、さっきハーディスが使ってた書のページがあって…
「感染者なのに素直な攻撃が多いね。」
「あぁぁっ!」
左拳で殴り飛ばされる。
吹っ飛んで壁に衝突するが、無理矢理でも体勢を整え…
「え…」
肩口にディバイダーを突き刺されたアイシスの姿が見えた。
SIDE OUT
RPG等のボスキャラクターはHP高めに設定されている場合が多いですが、実際に常人相手の数倍叩いて当たってるのに倒れる気配も無いと何者なのかと(汗)。