なのは+『心のちから』   作:黒影翼

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最終記録・ディバイドゼロエクリプス~望まぬ全てを断ち切る感染者~

 

 

 

最終記録・ディバイドゼロエクリプス~望まぬ全てを断ち切る感染者~

 

 

 

Side~アイシス=イーグレット

 

 

 

殴り飛ばされたトーマにディバイダーを向けるハーディスをみたあたしは、砲撃による追撃を予測して止めようと接近を図ったけど、どうやら狙われてたのはあたしのほうだったらしく、接近したあたしは胸元のど真ん中を狙われた刃を肩に外すしか出来なかった。

 

「っ…ぐ…」

「消耗もあるだろうにいい反応だ。が…」

 

突き刺された状態で地面から浮かされたあたしは、右脇腹を綺麗に深々と左拳で殴られた。

衝撃が肺を含めた内臓を麻痺させて、身体に力が入らなくなる。

 

 

「ぁ…ぅ…」

「さよなら。」

 

 

霞む視界に、突き刺さったディバイダーが光るのが僅かに見えて…

 

 

 

直後、紅い光が視界を満たした。

 

 

 

金属が身体から抜ける嫌な感触についで、誰かに抱きとめられるような優しい感触がある。

 

「もう休んどけアイシス、ちゃんと俺が終わらせるから。」

「フォート…」

 

素早く、でもそっと地面に降ろされたあたしは、フォートの酷い状態を見た。

胸部辺りに三つの線が入って、足にも出血の跡みたいな血の汚れ。

例によって出血を止めるためにか、デバイスで生成したんだろう金属膜で身体と足を覆ってて、その隙間から塞ぎきれてない血が漏れてきている。

 

血と埃で汚れきった白い衣装に紅いマントが映る。

自分で名乗るヒーローさながらに立つ、他人の恋人の姿。

 

ああもう、だからなんでいちいち一番きつい、怖いタイミングで必ず助けてくれるのか。

こんなボロボロで立てる方がおかしいって言うのに。

こんなの積み重ねるなんて、酷いつり橋効果狙いだ。

 

 

 

「第三ラウンド…行くぜコピー馬鹿。」

 

 

 

視界が涙で滲むのは、傷の痛みのせいにした。

 

 

 

Side~フォート=トレイア

 

 

 

フォースドライブでの高速移動からありったけの連続砲撃でどうにかアイシスが撃たれる前に吹っ飛ばせたハーディス。

だが、やっぱりと言うべきなのか、当たり前みたいに起き上がってきやがった。

 

「いい加減にしてくれないかな、君も。感染者でもないのにいつまで死に損なうつもりだい?」

 

大物ぶりたいんだろうがさすがにイラついているらしいハーディス。

どうせノーダメージなんだろうし気にしなきゃいいだろうに。

 

「あと90年くらい死に損なうつもりだ、フェアレを泣かせるつもり無いからな。」

 

自分で言っててアレだが、多分何度も『死に損なう』事にはなるんだろう。

楽に何事もなくは終わらない予感がちょっとある。

 

さて…と。

 

『トーマ、クリムゾンスラッシュ…行けるか?』

『え、あ、うん。でも…』

『ただ撃っててもしょうがない、色々やってみないとな。』

『色々って…はは、了解。』

 

トーマから苦笑いで返事が返ってくる。

 

言いたい事は分かる。色々も何もそんな余裕ないだろうってとこか。

肋骨も砕けたし、足も結構やばい。

確かに普通に考えたらそう何度も余裕のある状態じゃない。

 

ただ、そのへんはいつも通り『知った事か』って所だ。

 

「消えろ。」

 

ハーディスが俺でなく、トーマを目掛けて砲撃を放つ。

一部が千切れたり吹っ飛んだりしても持って帰る方針に切り替えたようだ。

俺は射線に割って入り、剣を縦にフォースドライブに入る。

 

分断効果まである強大な破壊の一撃を前に、盾代わりにしている剣を支える手すら悲鳴を上げる中、それを無視して前のめり気味に立ち、防御魔法の連続展開。

 

砲撃がおさまった所で…

 

 

「『クリムゾン…スラッシュッ!!!』」

 

 

トーマのこの日最大の斬撃が放たれた。片腕なのによくやる。

ばかばかしいと言わんばかりに左手の手甲を構えるハーディス。

 

俺は、それをスローモーションの世界の中で見る。

 

 

高速移動魔法の発動で、俺も間合いに移動。

トーマの放ったクリムゾンスラッシュが接近するが、このまま当たった所で今まで通り涼風のように掻き消えるだけだ。

 

 

 

だから…重ねる。

 

 

 

速人達が使う貫通斬撃『徹』。

命中の瞬間の握りなんかの繊細な技術で、人間の筋力だけでどうにもできないはずの金属切断なんかの偉業を成す。

 

人の筋力や刀の振り、握りなんかの微細な力加減の差で金属切断まで行くのなら…

 

 

魔導師や感染者のフルパワーの衝撃二つを使ってそれを再現できたら、金属切断どころじゃない威力が出るはずだ。

 

 

完全完璧なタイミングが再現できるかは分からないが、俺だって喰らってるし見てる。

命中の刹那に衝撃を『押し込む』ようなタイミングだったはずだ。

 

 

 

「っらぁっ!!!」

 

 

 

フォースドライブの状態だからこそ試せる、緩やかな世界の中での重ね当て。

俺を抜いて迫っていたトーマの斬撃と殆ど重なり僅かにずれるように、俺は全力の斬撃をあわせた。

 

足が完全にやられているので低空飛行の勢いを利用したため、後先考えなかった俺は、フォースドライブの終わりと共にハーディスを通り過ぎるようにして地面を転がる。

 

 

 

「だから、無駄なんだよ。」

 

 

 

吐き捨てるように言ったハーディスが、地面に転がった俺目掛けてフレシェットシェルを放ってきた。

胸や頭の内から走る痛みを無視して再度フォースドライブにて、防御展開。

だが、砲撃でなく爆破型射撃の連射にした理由は、剣を盾にしながらの防御をさせないためだったようで、正面に突き立てた剣に当たらず側面や足元でも爆発が起こる。

分断効果まである爆撃に飲まれた俺は、さすがに防御魔法だけでは全てを止めきれなかった。

 

「っ…そ…」

 

身体から走る焼けるような感触を無視して、俺は突き立てた剣を杖代わりに立ち上がり…

 

「あ…」

 

視界に映った光景に、思わず声を漏らした。

右手のディバイダーを俺に向けて渋い顔をしているハーディス。

 

 

 

その左腕が手甲ごと斬れて、地面に落ちていた。

 

 

 

呆けて腕を見る俺にさすがに違和感を覚えたのか、ハーディスは自分の左腕に視線を移し、硬直した。

 

 

 

「チェックだな、おっさん。」

 

 

 

想定外だと言わんばかりに硬直しているハーディスに、さっき自分で吐いてた自慢げな台詞を返してやった。

 

 

 

…あと一息だ。

 

 

 

とは言え、あの程度の怪我あっさり再生してくるだろう。

トーマも感染者としてフル活動しないようにしてるせいかふっとんだ左腕は未だ治ってないし、早めにケリをつけたいところだが…と、ハーディスの様子を窺っていたのだが…

 

 

左腕を見ながら動かず突っ立ってたハーディスは…

 

 

 

「っ…ぐっ…」

 

 

唐突に苦しみだして、前腕半分程度吹っ飛んでいる程度の左腕、その肘辺りを、ディバイダーを取り落とした右手で押さえる。

 

そして…

 

 

 

 

ポコリ、と言った感じで、小さく左腕の傷口から肉が膨らんだ。

 

 

 

 

自己対滅とか言うのになった肉塊に似てるが…まさか…

 

 

 

一気に膨れ上がる感じではなく、小さくポコポコと肉塊のような部分が見えてきて、少しずつ大きくなっていく。

 

『制御…出来てなかったのかな?エクリプスシード。それとも、いっぱいいっぱいだったとか?』

 

ある意味一番エクリプスに関わっているリリィが見解を伝えてくれる。

一杯一杯って見解は多分当たっているんだろう。

 

「原初の種が強いだけで本体まではその器じゃなかったって事か…」

 

手当たり次第に自分のものでもない心から生まれた能力を掻き集めて使い倒した結果としては妥当な所だ。

あれだけ攻撃して傷一つつかないんじゃ、おそらく今まで怪我して治るかを試す機会なんざなかったんだろうな。

 

俯いたままのハーディスは、肩を振るわせ始めた。

 

 

 

「ふふ…ははははは!」

 

 

 

何をするのかと思ったら、唐突に笑い出す。

 

「何がおかしい?」

「私も負け組かと思ってね。よくある事とは言え、まったく予想外だったよ。」

 

苦悶の表情で汗を滲ませながらそれでも笑うハーディス。

その表情は、何か悟り知ったようなものだった。

 

「よくある事?」

「結局、知恵と力と運、全てかどれかか足りなかった、と言うだけの話さ。滅びた種族から残った現代人まで、善人だから残ったのでも、悪人だから滅んだのでもないんだから。」

 

理屈は分かる。

コイツが言うと殴りたいが、実際に『かわいそうな被害者』に、そうなる理由があった訳じゃない。たまたま標的にされた場所に住んでいた事まで含めれば、運が足りない以外の理屈は無い。

 

「エクリプスシードの制御に及んだ時点で足りていたかと思ったが…この有様ではね。っ!!」

 

喋り終わるか否かの瞬間、ボコリと大きく左腕が膨らんで、前腕の半分くらい残っていた部分が一気に肘近くまで肉塊に変化する。

笑みを維持しようとして失敗したハーディスの表情を見る限り、徐々に身体を蝕んでいくのはきついんだろう。

リリィの話じゃ自己対滅起こす時は結構な地獄絵図らしいしな。

 

「諦めがいいんだな。」

「君みたいに見苦しいのは…好かないんだよ。」

「諦めがいいから嫌いって訳じゃないが、俺もアンタは嫌いだよ。」

 

言いつつ俺は一瞬向かい側にいるトーマを見て、ふらついて首を横に振った。

 

出血か使いすぎか分からないが、フォースドライブが使えるような集中力がない。

あんな高等技術、勘で出来る代物じゃないし、今と同じ手は使えない…か。

 

だったらまぁ…後は一つだな。

 

剣を構えてハーディスを見る。

 

 

リベリオンを通して武装として登録してあるオリハルコンの剣。

あらゆる力の吸収放出と言う特性。

 

 

俺は、リベリオンを通してリンカーコアと剣を直接繋ぎ、ありったけ魔力を流し込む。

 

 

あれだけの戦闘にも関わらず白銀の輝きを鈍らせないその剣が、次第に俺の魔力光と同じ紅い光を帯びていく。

 

 

「動くなよ馬鹿眉毛、そこ斬り落とすから医者まで力使わず大人しくしとけ。」

「…は?」

 

 

俺の言葉を聞いて目を見開くハーディス。

その奥に立っているトーマも、呆然と俺を見ていた。

 

ぐらついて、視界が怪しくなった。

少し拙いが…まだだ。

 

 

 

「アンタがどうかは知らないが…」

 

 

 

剣を振りかぶる。

もう何を狙ってるのかも正直よく分からない。

映るのは、人影のような何かと、その腕についた奇妙な丸い塊。

 

 

 

 

「俺は誰も死なせる気は無いんだよっ!!!!」

 

 

 

 

 

地を蹴り、その奇妙な塊に近づいて、俺はただ残る力のありったけを乗せた剣を振りぬいた。

 

 

 

Side~トーマ=アヴェニール

 

 

 

その一撃がどういう代物なのかは、見ていれば分かった。

紅い光を…フォートの命を湛える剣。

それが描いた軌跡は、動かなかったのか動けなかったのか突っ立っていたハーディスの腕の肉塊を斬りおとした。

 

 

ハーディスを再び通りすぎて、勢いのまま俺の横で地面に倒れこんだフォートは、そのまま動かない。

 

…動けるのは、俺だけかな?

ヴェイロンが治ってるなら二人だけど、とりあえず皆を安全なところまで

 

 

 

ボコン。

 

 

 

俺の思考を断ち切るように、奇妙な音と共に短くなったハーディスの左腕が全部纏めて肉塊に変化した。

 

「っが…は…」

 

背を向けていたハーディスは振り向くと、倒れているフォートを見ながら、激痛もあるだろうにそれでも笑みを浮かべていた。

 

現実こんなものだって、そう言いたげに。

 

 

 

ドクン。

 

 

 

黒い気持ちが沸く。明らかな憎しみが。

 

 

 

 

イイジャナイカ、ナニヲソンナニオコッテイルンダ?

 

 

俺は…何が憎いんだ?

 

 

 

コレデカタキモトレルシ、モウダレモウシナワナイ。

 

 

全て消えてなくなればいいって、ゼロを宿すほどの憎しみは何処にある?

 

 

 

コンナヤツシンデシマエバイイ。

 

 

心が真っ黒になってしまうほど望んだ事は…

 

 

 

 

 

「俺は…こんな事を平気で出来る人達が、それを許すのが、何も出来ない自分がどうしようもなく憎い。」

『トー…マ?』

 

フォートに戦うなら見つめなおせと言われて出した答えを繰り返し、覚悟を決める。

 

ディバイダーを握り締め、真っ直ぐハーディスに向けて構える。

リリィから、不安そうな声が聞こえる中、俺は…

 

 

 

黒騎士モードになった。

 

 

 

『トーマ!?』

「リリィ、全力でゼロを撃つ、手伝ってくれ。」

『で、でもそんな事したら皆』

「ハーディスだけに絞って…彼が持ってるエクリプスシードと彼自身を分断する。」

 

全身に巡る黒い気持ちと力を、正気を保ったまま『増させる』。

元に戻れなくなるかもしれない、そもそも失敗するかもしれない、それでも俺は…

 

 

「嫌…なんだ。」

『え?』

「泣き声がして、苦しんでて、悲しんでて…そっちが当たり前で。それに逆らったフォートが倒れて、このままハーディスの言い分が正解になるのが。」

『トーマ…』

 

融合してるから、きっと少しくらいは伝わっている気持ちと思い出しているもの。

それは俺が、初めてリリィとであった理由でもある。

 

そうして俺は、エクリプスに感染して、ゼロの力を手に入れた。

全て消えてなくなればいいと思って、本当に全て分断してしまう力を。

 

意志の力…心に従って生まれた力。

俺が心底消えて無くなればいいと思った『全て』、それは…

 

 

 

人が死んでいく様を見ているしか出来ないって現実そのもの。

 

 

「俺はリリィを…エクリプスドライバーとして乗りこなしてみせる。だから…力を貸してくれ。」

『…うんっ!』

 

 

感染の進行が止まらない中で、いつ対滅を引き起こすかも分からない状況の中で、リリィは頷いて感染の制御を外してくれた。

 

 

 

『いけないのは憎む事じゃなくて、我を忘れる事だ。』

 

 

 

俺は、俺を忘れない。

許せない憎しみを真っ直ぐに見て、感染が進んでいく身体を、まるでアクセルを踏み込んだ車を運転するみたいにして制御する。

気を抜けば一瞬で道を外れて何もかも破壊しだしそうなその黒い激流を、ただ真っ直ぐに見据えたハーディスに…彼の持つ元凶に向ける。

 

視界フィルターが勝手にかかる、俺の憎むものを見据えるべく、他の全てと区別すべく、はっきりと切り替える。

 

 

人のような何かの中心に埋まる、黒い宝石状の種。

 

 

コイツだ、こんなものがあるから…俺もリリィもフッケバインの皆も!!

 

 

 

 

 

 

 

「『ディバイドゼロ…エクリプスッッ!!!!!』」

 

 

 

 

 

 

 

ただ一点、見据えたソレだけを消し去るために放った俺の一撃は、俺の見据えた敵の存在だけを綺麗に消し去った。

 

 

 

消し去って…消し…て…

 

 

 

全てを終えた自分の力と身体をどうするのか、全く何も思い浮かばなかった俺は、何もかもの力を振るわないようにだけ押しとどめて意識を失った。

 

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 




という訳で最終回、いままでありがとうござ…な訳ないです、ハイ。
あくまで最終『記録』です。
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