なのは+『心のちから』   作:黒影翼

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記録六・幻の席

 

 

 

記録六・幻の席

 

 

 

Side~アイシス=イーグレット

 

 

 

ああもう何がなんだか。

トーマは正気に戻ったんだか操られてるんだかって感じで定まらない様子で攻撃したり止まったりするし、トーマを助けようって戦ってたはずのフォートは唐突に空の彼方へすっ飛んでいくし…

 

局の人は爆薬使いのあたしより物騒な装備で固めてトーマにぶっぱなすし。

 

…一瞬局の白い人の方を攻撃したほうがいいんじゃないかとすら思うくらいだった。怖いってあれは。

とはいえ、慣れない人だけれど共闘だったし、トーマが調子悪かったから、割と簡単に無力化まではいってくれた。

憔悴してるトーマの元に、管理局の船にいたリリィがわざわざ飛び出してきて、なんかトーマと融合して、それでようやくトーマが元に戻った。

 

で、後は…

 

「トーマを実験材料にしようって算段の組織員に囲まれちゃってるわけで…」

「あらら…」

 

わざとらしく口に出すと苦笑いを返してくる、治療担当とかいう緑服の女性。

それに金髪ロングの女性とさっきまで一緒にトーマと戦ってた白い女性に囲まれて大ピンチって言うか積んだって言うか。

逃げたいところだと警戒しきっているのを察してか、誰も彼も笑顔で話しかけてくる。

 

「ウチのエースの大事な子を実験動物扱いなんてしないから。」

「何ですか!そのエースさんだって結局ただの公僕の癖に!」

 

フッケバインの飛空挺から逃げ出したトーマの一番傍にいたらしい、トーマが旅の最中によく話してくれたスゥちゃんさん。

けれど、あたし達が感染者でもない要救助者だったせいか何か、トーマよりあたしを優先した。

 

組織として、仕事として間違ってない。

けれど…スゥちゃんさんを信じてたトーマより、仕事を、手順を選んだんだ。

 

早い話、『それでたくさん助かるならトーマをどうするかわからない』以上、信用なんて出来る訳がなかった。

 

「大丈夫だ、預けとけ。」

 

と、唐突に知った声。

あたしが慌てて視線を向けると、そこにいたのは…

 

「フォート!!」

 

聞こえてきた声に視線を移すと、ぼろぼろの様相のフォートが浮かんでいた。

任せるとかいってトーマを放って空に飛んでった事を思い出すとちょっとアレだけど…

 

全身余す所無く裂けたような傷跡を負った状態を見ると怒るに怒れない。

中には結構な深手もある、どれだけ無茶したんだこの怪我の量。

 

そして、そんな状態を意にも介さずあたし達のところにわざわざ顔を出してくれたんだ。余力があるなら逃げればいいのに…だ。怒れる訳がなかった。

 

「こいつらは『当たり』だ、ゆりかごの英雄達なら人体実験なんて真似はやらないさ。失敗しないかは保障できないが、前も言ったけどお前治療出来ないだろ?」

「う…ぐっ…」

 

痛いところを突かれて口ごもるしか出来ないあたし。

目を逸らすために他の局員の人の表情を見て…そんな事をやってる空気じゃなくなっていた。

 

なんだか、フォートが睨まれていた。特に白い女性に。

 

「君も、任意同行…お願いできるかな?」

「お断りだ。アイシスほどじゃないが危惧があるのは俺も同じ、仕事で人命救助やってる連中に抱えられておとなしくしているわけにはいかない。」

 

フォートは、こんな状況でまったく揺らぐ事無く張った声で返した。

 

「どっちかって言うと、君も保護対象なんだけどね。フッケバインに顔知られちゃってるし。」

「誰が保護されるかっ!」

 

強がって返すフォートだったけど、なんだか駄目そうな気がした。

フォートの方は気を張っているのに金髪の女性はなんかこまった子供相手に話すような口調だ。

 

「とにかく俺はもう行く、トーマが無事ならそれでい…っ!」

 

嫌になったのか飛び去ろうとしたフォートの足首に、桜色のバインドがかけられる。

 

「…おい、任意じゃねぇだろこれ。」

「君は捜索願が出てるんだ。ついてきてくれないとなると引きずっていかなきゃいけない。事情があれば実力行使は考えるけど…犯罪者と関わってると予想されるとさすがにそういうわけにはね。」

「あいつら…ぁっ…」

 

目を閉じて、憎そうに呟くフォートの声。

 

捜索願で…憎む。

それはつまり、両親や兄弟の誰かを憎んでる事になる訳で…

 

なんだか、それが少し気になった。

 

 

 

Side~トーマ=アヴェニール

 

 

 

一応犯罪者のカテゴリーに入っちゃうことをやらかした訳で…

俺はアイシスとは個別に質問され、それに答える形になった。

 

フォートに聞かされた話、フッケバインに捕まった時に聞いたゼロドライバーって単語や俺の故郷を壊滅させた犯人がフッケバインの『偽者』かもしれないって話。

 

それらについてあらかた話し終えて、リリィの目が覚めた所で俺たちは呼び出された。

 

怪我の治療と回復を待っていたフォートが目を覚ましたものの…あまりにかたくな過ぎるから俺たちに顔を出して欲しいって用事で。

 

 

で…ビックリした。

 

 

口を真一文字に結んで目を閉じて、どれだけ質問されても、局の人が怒鳴っても無視。

なんかの訓練でも受けた人なのかと思うくらいの頑なさだ。

俺だってすさんでた時期はあるけど、ここまでは無理だ。

 

「…と言う感じで。」

 

俺の話を聞いてくれたフェイトさんが、その映像を俺達に見せて苦笑い。

 

「普通に話すことすらままならないってなると不便じゃすまない。ここまで頑なになる原因とかだけでも知りたいから、皆にもついて来て貰えないかなって。」

「俺もお礼を言いたかったし、話させて貰えるならむしろありがたいです。」

「私も。」

 

俺とリリィは笑顔で答えて、アイシスを見る。

アイシスは、浮かない表情をしていたものの、小さく頷いた。

 

「あたしもまぁ…言いたいことはあるし。」

「ありがとう。それじゃ、入るね。」

 

フォートは一応拘束されている身なのか、カードキーを通して扉を開くフェイトさん。

俺たちはその後に続いて部屋に入った。

 

「素人絡めたら最早捜査じゃないだろ。」

 

呆れたように息を吐いたフォートは、俺たちを見て渋い顔をする。

 

「君の状況とか色々と話はあるけれど、今のままじゃそれもままならないから。言う通りこの状況は捜査にはならないから、砕けて話してもらっていいよ。」

 

フェイトさんはそう言うと、俺たちから一歩下がる。

捜査にはならないって言うくらいだから、本当に俺たちに話をさせるためなんだろう。

 

「ありがとう、それとごめん。俺の為にわざわざ戻ってきてくれて捕まったんだろ?」

 

お礼を言って頭を下げる。

一回管理局に捕まって、そこから抜け出せたのに消耗後先度外視で空に来てくれたって聞いてる。

探し人がいるって言うのにそれで捕まったとなると、結構申し訳ない。

 

「元々犯罪者だから自業自得だよ、助けにって言っても結局ろくな事してないしな。」

「なんか思ったんだけどさ、悪びれもせずに言うよね、犯罪者って。」

 

アイシスが何気なく発した言葉に、俺はある光景を思い出す。

にこやかにさわやかに自分達の事を凶悪犯と言い切ったフォルティス達…フッケバインの皆の事を。

フォートも、そう言う悪事を省みない人間なのかと少し身構え…

 

「当たり前だ。法律上使える装備が揃わないって理由でフッケバインにボロクソにやられてきた管理局に怒られて反省する気になれるか。あいつ等に限らずエクリプス関連で何人死んだと思ってる。」

 

鋭い視線と迷いのない声で放たれた、善悪を決め辛い話。

それは、俺たちの奥にいるフェイトさんに向けられたものだった。

 

「俺が独りで暴れてるだけの無力で分からずやなヒーロー気取りの子供だって言うなら尚更…尚更、あんた達がどうにか出来なきゃいけなかったんだ。」

「フォート…」

 

アンチエクリプスを追っている、フォートはそう言っていた。

それはつまり、フォートの探している人にしたって、エクリプス関連でって事になる。

何かを噛んで飲み込むように搾り出されたその声に、俺は何も言えなかった。

 

 

『君がそれを言うなら、いくつか負わんとあかんもんがある。』

 

 

唐突に、通信が開いた。

 

 

 

Side~八神はやて

 

 

私は自分の医務室から、フォートの部屋へ画面つきの通信を開く。部屋にいたフェイトちゃんが予想通りと言うか不安そうな表情を見せた。

 

『は…八神司令?』

「フェイト執務官、怪我の事なら問題ない程度にしとくから少し話させてな。」

『は…はい。』

 

軽く骨まで行く感じで背中から斬られたんでさすがに軽傷ですんでない身。

長話と言うわけにはいかん。

 

けれど…それでも彼の事は確認しとく必要があった。

 

「さて…まずは盗み聞きみたいになったのを謝っとくな。ただ、フェイト執務官が聞いた内容はどの道聞くつもりやったからその前倒しやと思って欲しい。」

『トーマ達を連れてきた時点で姑息の卑怯の気にしないさ。で、ゆりかごの英雄の長ともあろう方が俺みたいな小物に何のようだ?』

 

この状況で物怖じしない子が自分から小物だなんてよく言う。と思い苦笑い。

とはいえ、あまりにこにこと話していい内容でもないため表情を引き締めなおす。

 

「君は私達が出来きれてないから動いてると言った。それなら…君が勝手で動いた件で、全てが救えたか?」

『いや…全員逮捕させときたかったような連中も何人も逃がしてる。つい最近だって教会のシスターを助け損ねた。』

「自覚はあるようでなによりや。」

 

ここまでに何度か施設襲撃を行ってきたフォート。

たった一人で活動して、しかも違法施設にいる職員全てを殺さず拘束、かつ情報を消されないよう取得し、被験者も救出する。そんな事が出来きる人間なんてそうそういない。

一人じゃ六課のエースでも難題だ、当然フォートが一人で完璧に全て出来て来た訳やなかった。

 

「そこまで自覚があるなら…逃がした人がおとなしくしとらん事も分かるな?」

『それで出た被害もある…だろうな。許せとは言わないさ。それが俺が負うべきものだって言いたいのか?』

 

無論、直接的には犯罪者…各地で人を傷つけとる者達のせい。

フォートは私達に『救えなかった』と責めた。そして、私はそれに頷き、許されない事だと受け止められる。

ただ…もしそれを理由に、私達と同じように違う括りで動くと言うのなら…

 

「それで、私達と同じように出来るとして…異なるルールで動く者同士が敵対した場合…譲れない領域に触れた場合、どうなるかわかるな?」

 

私やフェイトちゃん、ティアナなんかが戦わんといかん内なる敵。

勿論、救えるもんを救うために使えるあらゆる手を使いたい。そんな思いはわからんでもない。

 

けれど…それを個人が勝手にやるって事は、それを禁じる『集団』と争うという事。

 

そして当然の話…私はAEC装備を用意し、それを扱う環境と技術を得て、一人で戦艦を動かし、なのはちゃんやスバルたちみたいな直接戦闘で大活躍し、救った人の治療技術を…なんて真似、闇の書の力があったって出来ん。

 

管理局が常に正しい選択を出来取る保障は当然ない。ただ、それでも一人の救い手が身勝手扱いされる理由は…

 

「なら答えを聞こうかフォート。君は、『たった一人で管理局全員丸ごと敵に回して』でも自分のやりたいようにやりきれるつもりでいるか?」

 

これが出来ないから。

 

普通に考えて試す気にすらならない事で、彼が一人で動くのに必要なもの。

大抵の勘違いした子供達が気付いていない、意識できていない事。

一人の堕天使が十年の歳月抗い続けた現実。

 

 

 

そして…全部丸く納めてみせようと足掻いてきた英雄ですら失敗したもの。

 

 

 

だから、多少強くても才能がある子供でも、どうしようもないと気付ける現実で…私達の内に、六課の施設にいる今、口先だけでも偽らないとどうしようもない状況で…

 

 

 

『必要ならそうするさ、約束があるからな。』

 

 

 

一瞬も迷わず、モニター越しに映る私を真っ直ぐ見て、フォートはそう言い切った。

 

「く…あはははあたたたた!!」

「ちょっ!?笑うとこでもないし怪我に触りますって!!」

『おい、この司令頭大丈夫か?』

『えっと…否定できない。』

 

傍らについていたシャマルが傷の痛みに悶える私をたしなめるも、笑わずにいられなかった。

だってこのアホは何の迷いもなく言い切った。

 

彼らと同じ事を。

 

いいやろ、上等や。十分や。

 

 

「フォート、君にヒーローの席に座るチャンスをあげる。」

 

 

楽しくて仕方なくて、笑ったままの緩んだ顔で、私はそう言った。

 

 

 

Side~トーマ=アヴェニール

 

 

 

高町速人…スゥちゃんもヒーローとか呼んでた人。

その人とは、俺も面識はあった。

 

と言っても、会ったのは彼の洋菓子店にケーキを買いに行った時にちょっと見かけただけで、その後事件を起こして手配されてしまった。

ヒーローなんて笑って言ってたから、命の現場で働いてるスゥちゃんの涙を押さえ込んだ笑顔を見てる俺は、明るくいい人とは思いながらも、正直軽いなぁって思ってた。

 

けどまさか、お世話になった事もあるって、こんなお偉いさんが知ってるような形だなんて全然思っても見なかった。

 

『あの宙域の戦闘中の事は六課も把握しとる。それに君の探し人、フェアレ=アートの事件も。君の目的は彼女の救出…違うか?』

「だったら何だ?」

 

楽しそうな…八神司令の映るモニターを真っ直ぐ見ながら聞き返すフォート。

 

『彼女の件、エクリプス関連ってことで六課でまとめて引き受けるから、君も見習い組みに…来んやろ?』

「分かってるなら聞くなよ。」

 

フォートにしてみれば、このまま捕まってたり保護されてたり、何もできなくなるよりよっぽどましな話のはずなのに、あっさりと断った。

 

「今の話が本当ならフォートの目的達成にもなるし、まだ力を貸して欲しい。駄目なのか?」

 

元々話を進めるために呼ばれた身として口を挟んでみる。

フォートは俺の方を見て小さく頷いた。

 

「見習いって言っても、トーマとリリィは保護対象だろ?それに組み込まれるってどう考えても最前線じゃない。それに、適正や利点だけ考えて配置を決めるなら、お上の都合で情報操作されたりして、都合いいように動かされるだけになりかねない。」

「そ、そこまで疑わなくても…」

「フェアレは死亡扱いで探されてもいなかった…って言っても、疑うなって?」

 

話を振られた俺は、よくある話に口を閉ざす。

捜査に手がかりがなかったり、発表で世間や状況がどう動くか考えたり、色々事情があって一人二人知ってる程度の事実は、そのまま扱われない事だってある事は俺だって知っている。

鉱山事故の一件が事故って扱いになっているって意味じゃ、人事じゃないんだから。

 

『そこで…や、一勝負受けてみんか?』

「勝負?」

『うちのエースと一騎打ち。君が負けたらおとなしく見習いチームに入って大人の掌で踊って貰う。けど…もし君が勝ったら、作戦参加の可否を自由に決められる形で六課に客将扱いでおいといたげる。』

 

無許可での施設襲撃なんて無茶は無理だけれど、調べに出たい場所とかあれば話しさえ通してくれれば出来る限りで融通も利かせるとまで言ってくれた。

破格の条件…だけど…

局のエースってのが誰か分からないけど、いくらフォートでも一騎打ちなんて無理が過ぎる。

絶対負ける。それで俺たちの傍に置いておこうっていう事なんだろう。

 

『昔、どっかの人命最優先のヒーローが、指示通りに動かない可能性もあるからって事で置かれた立ち位置や。ちなみに、断るなら君の保護者からのお願いを最優先するのと共に、これ以上色々させん為に、安全なところに軟禁状態で保護させて貰う。さっきの条件に不満がないなら、全員相手にするよか一騎打ちの方が楽やろ?』

 

断ったら全力で確保する、暗にそう言う八神司令。

な、何だろう…笑顔なのに…これが大人の掌って奴なんだろうか?黒い…

 

フォートはどうするのかと思ったら、少し何か考えた後モニターに向かって指を立て…

 

「さっきの条件に、あの時現れたフェアレを含む3人に関する全情報の提供を加えるなら、その勝負受けてやる。」

 

 

勝った時の条件を追加した。

 

 

…冗談でしょ?

俺だってエクリプスの力があったとしても、一騎打ちなんてやる気になれないって言うのに。スゥちゃんにだって勝てると思えないし、そのスゥちゃんが尊敬するような人がぞろぞろいるって言うのに。

 

『あっはっは!ええよ、外には漏らさないようにして貰う話もあるけど、君にはあの3人組関連の情報はあげる。君が勝ったらな。』

 

俺ですら戸惑う位だからかも知れないけど、八神司令の方は心底楽しそうだった。

め、滅茶苦茶だ。まぁ俺としてはどっちみちフォートが残ってくれるって言うなら心強くもあるし、助けて貰ってばっかで何にも出来てないから、恩返しはしたい。

そう考えるといい方向に進んだの…かな?

 

「なんて言うか…皆、面白い公務員さんですね?」

「優秀な人ばかりではあるんだけれど…ね。」

 

冷めた目のアイシスが投げかけた問いかけに、フェイトさんが苦笑いで返した。

確かに…お役所の固いイメージは、あんまりわかないかもなぁ…

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 




あっさり描写してますが…戦争にもなってないのにあちこちで死者が町単位でごろごろ出る世界って相当怖いですね。
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