秘録二・奇跡を起こすデバイス
Side~リライヴ
速人が重体でカプセル入りして少しした頃、たまたまアースラがミッド近くにいて、ユーリの反応を感じ取れたらしいアミタとキリエの来訪。
それは災厄の真実を紐解く事となった。
「時竜…時を凍らせるって?」
「はい。」
あまりにも突拍子の無い話に戸惑う私を前に頷くアミタ。
時を越えるのは歴史の操作となって未来にどんな影響を及ぼすか分かったものじゃないって話は前回彼女たちが来た時にしてある。
にも拘らず来たと言う事そのものが、その話が本当である事を示していた。
世界の時が止まる事で、過去も未来も今も関係無く終わりを迎える。
「博士が復活させた時を渡る装置…こんなものを開発できるだけの頭脳がありながらこんな危ないものを完成させてしまったのは、それ以上に危険なものの存在があったからだと思います。」
「それが、時竜って事だね。」
とんでもない話だ。
世界の滅びとなると何より優先して協力しなきゃならない。
が…
「当然ユーリより強いんだろうけど、今それを相手に立ち回るのは少し厳しいかも…ね。」
「えっと…なのはさん達は公務員で治安維持を業務にしてるんですよね。やっぱり忙し」
「ちょっと単純でなく大変でね。」
私か速人からなら時関連の話をその辺の人には伏せた上で話を上手く回せるだろうと思っていたらしいアミタ達に、私は今度は此方の現状を伝える事になった。
「あらら…」
軽い口調で困った様子を見せるキリエ。
余裕を装っているけれど、事の重さが伝わっているのは感じられた。
速人が瀕死で局内部にテロリストが絡んでる上に私達が手配されてるなんて状態が軽い訳がないのだけれど。
ともあれ、龍の狙いは力の蒐集と言う所までは見当がついている。
エクリプスから近代兵器、私のクローンまで研究開発している位だ、一体何をする気なのかと思うくらい大げさな戦力だ。
そして…当然ながらそんな状況で、『時渡り』なんて超希少能力…この時代には存在すらしない能力を持つアミタとキリエ。存在すら龍に知らせる訳には行かない。
当人達も自覚はあるのか、苦い表情をしていた。
「まいったわね…せめて祈祷型デバイスだけでも探したいけど…」
「祈祷型デバイス?」
キリエが呟いた耳慣れない言葉に首を傾げると、アミタが説明を続けてくれる。
「時間移動システムに記録されていた、ヒドゥンについての情報にあったものです。多量の力を消費する事で、願いを叶える如く力を発揮するデバイスで、何をするにも必要な力が足りてればかなりの変換効率のいいデバイスって所ですね。」
「時の操作が叶う前は、多量の力を揃えて祈祷型デバイスを使用する事で凌いでたんだって。私達がヒドゥンと同じ位置に立つ事が出来ても勝てなきゃしょうがないからねぇ…」
時を渡る空間に入る事が出来る二人だが、そこで実際にヒドゥンと相対したとして、勝てるかどうかは別の問題だ。
「祈祷型デバイス…か。」
『…再起動します。』
「へっ?」
私が呟いた言葉を聞いて、いきなり妙な事を言い出すイノセント。慌てて手にとると、光を発して何かの処理をしているようだった。
そして…
『あー…すみません。お探しの祈祷型デバイスですが…どうやら私のようです。』
「「「…は?」」」
あっけらかんと言い放つイノセントに、私達は揃って呆けたように声を漏らす事しかできなかった。
Side~八神はやて
「って事で、知り合いの持ってきた情報を聞いて再起動する事で、その正体を伏せてた祈祷形デバイス、イノセントハートが、あえて封じてた全ての情報を思い出した。祈祷型デバイスとあわせて力の素として使用していた、イデアシードについてとか、貴方の出身世界とかの情報を…ね。」
アミタ達時の操手の事は伏せて説明をしてくれたリライヴちゃん。
けれど、話の最中私達は封じられていた時に関する記憶を取り戻していた。
アミタ達本人の記憶は消されていなかったと言うのもあるのだろう。
ラルゴさんは息を吐いて目を閉じる。
「…地獄じゃよ。」
そうして吐いた一言は、重く、悲しい声だった。
「封印刑などと言うものが死刑と別に用意されておるのがよく分かる。一瞬を強制的に永遠にされたものの身になってみればよい。」
何処へも進めず何も変わらず、死ぬわけでも意識が途絶えるわけでもない。
しみじみ地獄と言う理由も想像は出来た。
「たまたま自分のいないタイミングで世界一つの時が止まり、周辺世界に侵食しかねないと気付いた貴方は」
「自らの故郷を世界ごとロストロギアを使って消滅させた。」
「っ…」
リライヴちゃんの言葉をさえぎるようにラルゴさん自身で口にした内容は、あまりにも重い物だった。
…私も、日本を滅ぼすか否かの選択肢に関わった主犯、夜天の書の所有者。
その選択をしなければいけないと言う想像は、指揮官になってから一度もしない…という訳には行かない代物だった。
「世界中を悲劇に巻き込み、下手をすると世界規模の騒乱に発展しかねない事すらする理由は、発動すれば世界や歴史そのものが確実に滅ぶ災厄を止める為。地球にアルカンシェル撃ちかけた闇の書事件の一幕を思い返せば想像つかない選択肢じゃないが…まったく。」
どこかやり切れなさそうに呟く速人君。
レジアスさんの時も糾弾するといった雰囲気じゃなかったし、この手の事実にあまり責め手になる気持ちが沸かないんだろう。
「その反応を見る限り、大人しく祈祷型デバイスを渡す気はなさそうだな。…尤も、分かっていたからここに招いたわけだが。」
リライヴちゃんを真っ直ぐ見据えるラルゴさん。
対して、リライヴちゃんの方は…
軽く息を吐いて、肩を竦めて笑った。
そして…
「別に私が持ってるなんて一言も言ってないんだけどね。」
言いながらリライヴちゃんがデバイスを取り出して起動させると、綺麗な大鎌が出現した。
「…CAシリーズの鎌…か。成程、狙いが分かって持ってくる筈もないか。」
「馬鹿言え、老人ホームに入ってないのが不思議なじーさん一人相手に負ける準備するわけないだろ。」
楽しげに言う速人君。
けれど、正直あんまりいい予感はしなかった。
速人君が楽しそうやと大変な事多いからなぁ…
Side~アクア=トーティア
昔々ある所に心優しい女の子と彼女の為に頑張る男の子がいました。
女の子は、自分に襲い掛かってくる犬の心配をする程優しく、男の子はそんな女の子の為に、見える全てで誰も何にも傷つかないようにと頑張りました。
そのうち、頑張っている男の子を放っておけずに女の子も手伝うようになりました。
頑張れば頑張るほど、見える全てはだんだん多く大きくなっていきました。
女の子はやがて、自分に出来る事を目一杯頑張ろうとおまわりさんになりましたが、夢見がちな男の子は見えるものが多くなっても頑張り続けました。
そうしていつしかヒーローとまで噂されるようになった男の子は…
頑張りすぎた結果、一回の失敗で、眠り続けることになってしまいました。
けれど…それでも諦めなかった男の子は…
世界が真っ黒になってしまうその時、もう一度起きて世界を光で満たしました。
ここまでが、私とクラウが各地で見せて回った紙芝居による『仕込み』。
割と平和な場所から、実際にエクリプスやらなんやらでやられた場所の残りの人達の集落など、色々広めて回った実話に基づく紙芝居。
そして…
「男の子が起き上がったものの、その時おまわりさんとして頑張っていた女の子は、男の子のいない世界で頑張りすぎた結果、呪いをかけられてしまっていました。」
カメラ前で言いながら私は、装飾に満ちたベッドに横たわるイクスを指し示す。
知り合いでも凝視しないと分からないくらいになんとなくなのはさんの雰囲気に近づけた衣装を着せてあるイクス。
何も知らない子には『本物!?』と思って貰ったほうが都合がいいから、モデルにしたなのはさんに近づけている。
「心優しい女の子に誰かが傷つく様をみせないようにと頑張ってきた男の子は、当の女の子の危機を知って駆けつけます。」
全身をローブで隠した私が話を進行させると共に…
速人さんっぽい衣装で胸を押さえ込んだスバルさんが姿を見せた。
Side~スバル=ナカジマ
「イ、イクスを起こすッ!?」
護衛放り出してあうように組まれたアクアとクラウとの対面。
それ自体からビックリしたけど、其処で告げられた内容はあまりにも驚くものだった。
けれど、冗談半分でもなんでもない。
真顔で真っ直ぐ私を見ているアクアは、静かに頷いた。
ビックリするほど真剣だ、らしくないとすら思う。
「事件だらけ、被害だらけなのを『利用して』、イクス一人を起こそうなんて計画だけど…そんなでも付き合ってくれる?スバル=ナカジマ防災士長。」
「っえ…?」
真剣に問いかけるアクアの姿が珍しくて、何処か責められているようにすら感じてしまって萎縮する。
「すみません。でもこんな事聞いておかなきゃいけない理由があるんです、迷わないで欲しいから。」
イクスを起こす。
それに迷う理由はない。
ただそれでもアクアがこんな事を聞いているのは…あたしが、死んじゃわなくてもいい命を一つでも多く助ける事を仕事にしているからだ。
「私がやろうとしてるのは…一回だけ何でもできる力をイクスに使う事。スバルさんは、それに頷いてくれますか?」
「っ…」
何でもできる力。
きっと誇大広告ではあるんだろうけれど…それでも、『イクスと同じような境遇の別の人だって助けることが出来る力』なんだろう。
それを、イクスを…イクス『だけ』を起こすために使う事。あたし自身の選択で。
「何で…それを聞かなきゃいけないあたしに協力を?」
イクスを助ける事に迷いのない人ってだけなら、聖王教会の人とかなら一杯いるだろうし、アクア自身だっていい筈だ。なのに、なんで今逡巡しなきゃならないようなあたしを選んだのか。
「貴女にとっては無数の内の一つに過ぎない貴女に救われた命でも…イクスヴェリアから見れば貴女が唯一だから。高町なのはさんに出会った貴女が、その気持ちを分からない筈がない。」
「クラウ…」
普段姉のアクアに仕えるようにしているクラウが、珍しく口を開いた。
アクアにとってすら珍しい事なのか、驚きを隠せず首を動かしたアクアが呆然と彼を見ていた。
イクスにとってのあたしが、あたしにとってのなのはさん。
救う側になれた今ならともかく、もし当時のあたしがなのはさんに『二度目』に見捨てられたなら…
「スバルさん?」
「ぁ…」
想像だけで泣いてた。
胸が痛いなんて代物じゃなかった。そして、あたしはもう既にトーマを一度…
ディアーチェ達が言ってた、『法律によって死を決められた』と。
誰の手も差し伸べられなかった辛さも確かに辛い。
けれど、本来救い手、救わなきゃならない筈のものに見捨てられる絶望は、想像だけですら比べ物にならなかった。
ティアがなのはさんに散々怒られたあの時だって、何も知らない間のあたしは、相棒の誇りと努力を信じていた人に潰されたと心底傷ついていた。
「イクスを助けなきゃ、他に何十人でも助けられるの?」
「…ううん、イクスを起こすように準備したから、今から別には出来ない。」
「なら何の迷いもない。あたしにイクスを助けさせて。絶対…絶対助けるから。」
不可能という訳じゃないけれど、方法なんてロクになかったはずのイクスの目覚め。
いつ何処でどうやったら起きるのか、全く分からなかった筈なのに…本当に見つけて準備までしたアクア。
こんな中でよりによってあたしが断って救われなくなるなんて、そんなの絶対に嫌だった。
Side~アクア=トーティア
すさまじく似合う男装に仕立て上げられたスバルさんは、最初のように照れる様子とかはなく真剣にイクスの元に駆け寄って、ベッドに縋り付いて俯いた。
「男の子は…彼は、彼女の為に本当に頑張ってきたのに、よりにもよってその彼女が呪われてしまっている事に傷ついて涙を流しました。」
私のナレーションと共にスバルさんが閉じた目から涙を流し、その涙が眠り続けるイクスの頬に落ちる。
放送に流す演技と言うだけじゃない。スバルさん自身にも心底イクスを救いたいと思って欲しいから、あえて眠り続ける事になった当時の映像をマッハキャリバーに送って貰っているんだ。
「強い強い想いを胸に口づけを交わす事で目覚める。不確かなまま得た、彼女を目覚めさせるための情報に従って、彼は祈るように彼女の手を握り…」
言いつつ、私はローブの中でイクスを目覚めさせるための切り札を握る。
祈祷型デバイス、イノセントハート。
世界の危機すら救えるロストロギア級の代物で、現代に『残しておいちゃいけない』もの。
人の意思を力として、登録術にもよるけれど、願いを叶える事すら可能と言う。
私はこれで、イクスを目覚めさせるつもりで準備をしてきた。
広く大きく世界に紙芝居をしてまわって、傷だらけで戦っている速人さんの姿を知っている人から見ていて、全部実話だと想ってくれた子供とかに、『どうか起きて欲しい』と願って貰う事。
そして…集束砲のようにそれらを束ねて、私がイクスを目覚めさせるようイノセントを制御する。これが私が考えたイクスの起こし方。
私の方に、『迷い』はなかった。
ただ…
あのリライヴさんを主とする、ロストロギア級のデバイスによって世界中の力を制御して、古代ベルカの王様を助ける。
そんな事を、ただの小娘がやる。
緊張とか不安が無いはずがなかった。
『義務ではないんです。』
「っ…ぇ?」
今更になって息すら苦しい緊張に潰されそうになっていたところに、イノセントからの声が届く。
『助けたくてここまでの事をしてきたのでしょう?その気持ちに従って下さい。何より、それが私の正しい使い方です。』
「…うん。」
自信の覚悟のって話じゃない。
でも…一つだけはっきりと言える事がある。
助けたいって思ったから、ここまでやってリライヴさんにイノセントを借りたんだ。
「祈るようにそっと、彼は彼女に口づけを交わしました。」
眠り続けるイクスにスバルさんが口を重ねたその瞬間にあわせて、私はイノセントを使った。
Side~スバル=ナカジマ
正直、アクアに頼まれたこの演技にどんな意味があるのか、詳細まで教えてくれなかったから、少し不安はあった。
でも、それ以上に、真剣な彼女を信じる事にして…
イクスと口づけを交わした瞬間に、その体が急に凄い力に包まれたように感じた。
優しいような暖かいような、光に包まれているようなそんな感覚。
傍にいるあたしまで纏めて、子守唄でもかけられているかのようなそんな空気に包まれ…
あたしは、誰かに頭を抱えられた。
「…こういうの、女性同士だとよくないんじゃないでしょうか?」
目の前から聞こえてきた声に、閉じていた目を開く。
あたしの頭に手を回していたのは、眠ったまま動かなくなっていたはずのイクスだった。
あたしを見ながら、変なこと言いながら、それでも満面の笑みを浮かべているイクス。
「人命救助だからっ…ませた事言わないのっ…まったくもぉ…っ!」
助かったんだ、助けられたんだ。
そう思った瞬間、いても立ってもいられずあたしは思いっきりイクスを抱きしめた。
「スバル…ありがとう…」
名指しでお礼を言われて、作戦前の話を思い出してしまう。
イクスにとってのあたしが、あたしにとってのなのはさん。
本当にそうなら…見捨てたり、諦めたりなんてしなくてよかったと、この役を引き受けて本当に良かったと心底思って…
「はい、OKでーす。」
突然聞こえてきた声と共に、結界の展開を感知したあたしはベッドから離れ慌てて立つ。
男の人の声。誰だ?
「さてと、家出不良のトーティア姉弟さん。お子様が握るには過ぎた代物です、無事に奇跡も起きた以上此方に引き渡して貰いますよ?」
にこやかに微笑んで現れたのは、あたし達が局を離れてフッケバインとすら共闘する事になった原因である、龍と関わってるらしいランド少将だった。
SIDE OUT
実話交じりの嘘は、嘘って分かってないと見抜くのが難しいです。…ここまでお花畑な紙芝居だと分かりやすいですが(苦笑)。