なのは+『心のちから』   作:黒影翼

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秘録三・そして終わりは始まった

 

 

 

秘録三・そして終わりは始まった

 

 

 

Side~アクア=トーティア

 

 

 

折角いい所だったって言うのに余韻に浸る間もなく乱入してくる男の人。

事前に話に聞いてた、はやてさん達を嵌めたらしいランドさんだ。

 

「さて…もう十分でしょう?本当なら貴女が所持していることが判明した段階で割り入っても良かったのですが、旧ベルカの偉人の目覚めとなれば妨害も躊躇いましてね。ですが、願いは叶ったのですから。」

 

話を聞く限り、わざわざ邪魔しないでいてくれたらしく、いい所を邪魔しに来た無粋な人ってのは間違いらしい。

 

とは言え、それとこれとは話が別。

私はアクアリウムを手に自分のジャケットを展開して、首を横に振った。

 

ローブで覆われていた姿はジャケット姿になる事で分かりやすくなってしまったけど、どうせ正体がばれてるなら中継ももう終わってる以上関係ない。

 

「冗談。大事な知り合いから託された相棒、本人も知らない間にテロリストなんかに渡せないって。」

 

首にかけたイノセントを指し示してきっぱりと断る。

それにもう一つ使わせられない理由がある。

 

「加減とか何も考えないで使ったらイノセントまで全機能失う事になるしね。どうせ配慮なんてない人達に貸せる訳がない。」

 

わざわざ話したのは、彼等がイノセントを使いたがっているから。

これを話しておけば、少なくとも変な使い方は安易に出来ないはずだ。

 

「…イノセントハート自身はどうですか?」

 

少しの間をおいて、ランドさんはイノセントに向かって問いかけた。

 

「此方の目的はご存知でしょう?素直に此方に使用させていただければ誰にも何もせずにすぐにでも帰りますが?」

『機能停止自体は構いませんが、マスターが認めた方以外に使用させるという点で承諾できません。』

「成程…あの堕天使を上回る使い手は中々いませんからね。」

 

イノセントの答えに大げさに肩を竦めるランドさん。

想像通りの答えだったんだろう。

 

「仕方ないですね。」

 

ちっとも問題が発生したようには感じない口調のままでランドさんは一歩踏み出して…

 

 

 

 

 

瞬間、閃光が私の目の前に現れた。

 

 

 

 

強打の衝撃音が辺りに響く。

 

「アクア!」

「姉さんっ!!」

「OAシリーズでも速さに特化するビャッコの奇襲…世界の危機なので過ぎた手段には目を瞑ってください。」

 

スバルさんとクラウの叫びに続くように、ランドさんの解説が聞こえてくる。

確かに…これはびっくりだ。

 

 

「確かにっ…ふせいでも痛いのは結構反則だよねっ!」

 

 

 

鳩尾目掛けて放たれたビャッコの拳を左手で掴んでいた私は、それでも止めきれずに俯いていた。

その体勢のままで右手に握ったアクアリウムから単発速射の魔力弾を放つ。顔面狙いのそれをあっさりかわしたビャッコは、その勢いのままで回し蹴りを放ってきたけど、私はウェイブステップを使って距離を取った。

 

「…おや?」

「こいつ、『面白い』よ。って言うか、高町速人の関係者は誰も舐めないほうがいいと思う。」

「奇襲失敗しておいて注意とは…貴女一応登録上私の部下なんですけどね。」

 

あのリライヴさんの強化クローンであるビャッコから面白いとまで言われたのは光栄だけど、こっちはちっとも笑えない。

拳は咄嗟に掴んだけど、左手が痺れて握れず、止めきれずに鳩尾に拳が食い込んだせいで少し気持ち悪い位だった。

この速さでこの威力は本当反則だと思う。アインハルトの打撃だって断空未満なら止めようあるのに。

 

「やれやれ…急がないと色々厄介な方も増えそうですし、本気で行きましょうか。」

 

事も無げに言うと、ランドさんはデバイスを起動させる。

一般的な杖型デバイス…局の人が持ってる量産支給品と殆ど変わらない見た目だ。

さすがに中身は違うだろうけど…それでもちょっと意外だった。

 

さて…と。折角イクスも起きた事だし、大団円で済ませる為にもイノセントを死守して必ずリライヴさんに返さないとね。

 

インターミドル前半で退場の身で相手にするにはあまりにも強大な、世界最強の一角を前に、私はアクアリウムを構えた。

 

 

 

Side~ギンガ=ナカジマ

 

 

 

中継扱いで繋がっていた光景に、私は少しばかり呆然としていた。

最初紙芝居を手にしたどこかで見たことあるような雰囲気の怪しい少女を見て考えている間に、新作らしい今回の話として、実際に演者が現れた。

 

 

 

演者の名は、冥王イクスヴェリアと妹のスバル=ナカジマ。

 

 

 

本当に眠り続けている少女と、その子を救った救助隊員。

演技じゃない眠りは、茶番劇のような口づけによって本当に覚めてしまった。

何が起きてるのか全く聞かされてない私にはよく分からないけれど…

 

少なくとも、とんでもない奇跡を起こせるような何かがあることは間違いなかった。

 

『此方はもういい。』

「え?」

 

呆けている間に通信機から届く音声。

それは、一時的に映像が彼女達のものに変わっているから問題なく出来る、レジアスさんからの通信だった。

護衛中の私達全員に届いている。

 

『八神嬢達の話も済み、この放送と敵の『本当の狙い』が今明かされている。どこぞのヒーローと違う意味で馬鹿な、たった一人起こす為だけに旅までして回ったあの姉弟を守ってやってくれ。』

 

放送の全てが終わるまで完全に安全という訳じゃない。

そんな事、レジアスさん自身だって承知しているはずだ。

 

けれど…

 

 

「分かりました。」

 

 

私は通信越しにそれだけ返して、撮影会場を出る事にした。

目指す先は、中継が繋がっているらしい聖王教会傍の建物。

 

今更中継先を見れば、わざわざ近隣に住民のいない場所を用意したらしい。

用意がいいって言うのかまったくもう…っ!

 

 

「エリオ、私は気にせずキャロとできるだけ急いで!」

「あ、は、はいっ!!」

 

 

速度で図抜けている騎士のエリオとそのパートナーのキャロに先行して貰った上で、私自身も会場を抜けて全力で駆けた。

 

 

 

Side~八神はやて

 

 

 

「…使ったのか?」

 

ラルゴさんが目を細め、速人君を睨む。

使った…と言うのは祈祷型デバイスの事だろうけど、元々リライヴちゃんの持ち物だし、ラルゴさん自身使う気だろうに何故怒っているのだろうか。

 

速人君は小さく肩を竦め、浮かんだ私の疑問に答える形で口を開いた。

 

「リライヴの大事な相棒だ。機能停止するような真似させるわけないだろ。」

「機能停止?」

「イノセント本人から聞いたんだけどね、全力稼働で機能停止起こすんだって。」

 

まったく事態についていけてない私が首を傾げる中、リライヴちゃんが補足をしてくれる。

ラルゴさんは目的の代物の無事が保障されたことで小さく息を吐いた。

 

「姉妹機のレイジングハートがその機能を失っていなければ、心配も面倒もなかったのだが…」

「姉妹…機?」

『はい?』

 

いきなり出てきた名前に、なのはちゃんが困惑を隠せずに声を漏らす。

用事でもなければ基本黙っているレイジングハートすら機械音声で疑念の声を出していた。

 

「非売品の上初めて手にした所有者の適正に沿って望まれるまま形を変えてたろ?あの時点から管理世界のデバイスと比較しても明らかに異常だったんだよ。」

 

速人君の説明に手にしたレイジングハートを見るなのはちゃん。

確かに、よくよく考えればなのはちゃんとレイジングハートの馴れ初めに関しては異例の面が多い。

地球のオーバーS魔導師と言う時点で異例も異例なので誰も気にかけなかったけれど、確かに妙だった。

 

「イノセントもそうだったように、必要がなければ普通のデバイスとして振舞ってたから、手にしたユーノがデバイスと勘違いして、何の知識もない俺達がデバイスだって聞いて、そのつもりで扱って来たからな。」

 

願いに沿う祈祷型デバイス、使用者の願いに沿って変化したのだろう。

挙句、当時の技術で完成もしてないカートリッジシステムを、改造で無理矢理突っ込んで以来、元に戻すのではなく新型のパーツが出るたびガンガンチューンしてきたレイジングハート。

姉妹機から別物になっても全然不思議な話はない。

 

世界救済の切り札が普通のデバイスになってしまっているからか、レイジングハートを見ながら一息漏らすラルゴさん。

 

「…まぁよい、外はランドに張らせてある、誰に任せたか知らんが隠すのではなく使うのならば確実に見つけられよう。」

 

敵に案内されて仕事と言って去っていくのをあっさり見送ってしまった事を今更ながらに少し後悔する。

少将の実力は海でもそれなりに知れたものや、シグナムとかなら渡り合えると思うけど…そういうレベルの相手を放り出しとるのは少し不安や。

 

「…仮にイノセントを手にしたとして、アンタ一体どうする気なんだ?」

「時竜と戦うには時の影響を受けず、奴と同じ空間に立つ力が必要だ。力の総量さえ足れば変換する種類を選ばぬ祈祷型デバイスを使って奴のいる空間に乗り込み、エクリプスに夜分断やOAシリーズによる全力攻撃を重ねて消し去る。種類によっては通らぬ力もあるだろうが、それも見越して多種の力を用意した。」

 

速人君の問いに丁寧に答えてくれるラルゴさん。

 

確かに、エクリプス、核動力使用の質量兵器、OAシリーズの桁外れの魔力値、イデアシード。

これだけの種類と質の力はそうない。しかも、イノセントがあればある程度種類の変換まで可能らしい。

確かにいくらすさまじい天災だろうとどうにかできるだろう。

 

それに、時に関しては…今話を聞いて封じられていた記憶が戻った、アミタ達の力がなければ私達だって何をどうしても対処法はない。

イノセントを最重要として、過ぎた力を集める理由は分からんでもない…

 

「分からんでもないけど、やっぱさっきの速人君の言うとおりやな。老害言うたら失礼かも知れへんけど、広い規模見すぎて踏み潰し取るもんの大事さに目を向けてへん。」

 

しかも性質が悪いんは…レジアス中将の一件等で局内粛清も色々とあって未だ尚続けている以上、一度も気付いてない訳やない筈や。

 

 

つまり…気付いてあえて無視した事になる。

 

 

ラルゴさんは私の目を見ながら、僅かにその瞳を鋭いものにする。

 

「それは、たかが次元世界ごとき全て無傷で護り切れる…と言う事か?」

「っ…」

 

『お前が言うな』と言わんばかりのラルゴさんの指摘に、今度は私が黙らざるを得なくなった。彼等のせいとも言える被害もあるにはあるが、それが私達が護れない者が出ていい理由にはならない。

同時に、全てを護りきる事も出来ないって現実も存在

 

 

 

「当たり前だ馬鹿。たかが時トカゲ止めるのに被害者なんかいるかっての。」

 

 

 

何の迷いもなく言い切られた一言を前に、私達は誰も彼も沈黙する他なかった。

リライヴちゃんが小さく笑う中、速人君はわざとらしいほど思いっきり肩を竦める。

 

「ったく…あんたの考える事なんか一つでよかったんだ、犠牲のなんのと考えなくてよかったんだよ。」

 

子供に向けて常識を語るように、さも不思議だと言うように、息を吐いて少しの間をおいた速人君は…

 

 

 

「俺に頼めばよかったのさ、『ヒドゥンから世界を守れ』ってね。」

 

 

 

いつも通りに大それたことを何でもないように言ってみせた。

 

それは、私達を安心させるだけの姿を見せる為で、同時に自分がありたい理想の形である為の暗示。

 

解ってるし頼もしい。

次元規模の災厄何て最悪を前に普通を装えるんだから。

 

いつも通りの速人君を前に、洒落を交えた感想を抱く余裕さえ出てくる。

 

 

あぁ…でもなんだろう…

 

 

「悲劇の重さに目を向けたことのない子供の台詞だな、いつまで夢を見ている?」

「あんたが作った現実の悲劇はまるで無視か?」

「割りきる事ができねば世界が滅ぶだけだ。」

 

 

安心して肩の力が抜けて、そうして、だんだんともやもやした気持ちが型をを成して来る。

 

私はいつも通り無敵のヒーローを懸命に装っている速人君に背後から近づいていって…

 

 

拳を振りぬいた。

 

 

後頭部を殴られた速人君は、思いっきり盛大に前にすっ転ぶ。

いきなりの私の行動にラルゴさんすら驚いて言葉を止めて私を見て、皆は呆然としていた。

 

「あったぁ…はやて?」

 

本当の意味で直撃してたらデタラメに振りぬいただけとは言えSS級の魔力の持ち主の拳を直撃して痛いで済むはずのない速人君。

おそらく自分から前に倒れてダメージを殺してすっとぼけた反応をしているんだろう。

 

 

私はそんな中、思いっきり息を吸い込んで…

 

 

 

「世界を舐めんなぁっ!!!」

 

 

 

吸い込んだ全てを吐ききるつもりで叫んだ。

その上で、空いた肺に軽く息を戻して速人君を見下ろす。

 

「速人君のなりたいものもその理由もわかっとるよ。だから、本当はそんなん言えんのもわかっとる。でもな…それでも言うてよ。」

「え?」

「『俺』じゃなくて、『俺達』って。」

 

何も知らないまま事件を追い進め、速人君達…って言うか、リライヴちゃんを引き出す材料としてランド少将に嵌められ追い詰められた私達としては、正直自信を持っては言いづらい台詞やった。

 

それでも…

 

速人君の失踪以来、心身とも追い詰められた状態から、当の速人君を止める気ですらいたなのはちゃんを主に、本当に頑張ってきたんだ。これ位言わせて欲しかった。

 

私はそのまま、今度はラルゴさんを見る。

 

「貴方も貴方だ。世界世界言うて、その世界は、『何で出来とる』のか分かってへん。」

 

言いながら、私は杖をラルゴさんに突きつける。

 

 

 

「貴方も絶対に一回ぶっ飛ばす。」

 

 

 

ラルゴさんは俯いて息を吐く。

話が通じない。そう思ってるのはきっと彼の方なんだろう。

 

「ではこうしよう、はやて嬢。君達がその理想に沿って尚儂が今持つ力の全てを上回るというのなら、儂の全てを君達に任せよう。煮るも焼くも、龍の関連情報を引き出すも、集めた全ての力の扱いを自由にするも、儂の及ぶ限りをな。」

 

龍を滅ぼし、ヒドゥンをとめる。

それらを行うにあたっては都合のいい話だ。

 

煮るも焼くもと言う事だから、普通に逮捕したければそれもよしって事なんだろう。

 

「で、こっちが負けたら俺等の手持ちの力の全てをアンタに任せろってか。成程な。どっちみちヒドゥンをとめるのは同じだし、俺も構わない。テロには貸せないがヒドゥン相手ならディアーチェ達も協力するだろ。」

「万一負けたなら…ね。イノセントにも私が許可を出した事は伝えていいよ。」

 

立ち上がった速人君と鎌を構えたリライヴちゃんが承諾の意を示して、私を見る。

正規局員側として、私にも別に返事をしろと言う事だろう。

 

速人君じゃないが、もとより負けるつもりもなく負けていい戦いでもない。

何より、ここでの勝ち負けよりもヒドゥンを止める事が尤も優先なのは同じ。

 

私もしっかりと頷く事で答えた。

 

「全くなんの話も聞いてくれなかったリライヴちゃんの説得より簡単だね。」

「味方の今言わなくても…」

 

長年説得を突っぱねられてきたなのはちゃんの軽口に苦笑するリライヴちゃん。

懐かしい話にフェイトちゃんも私も笑みを漏らす。

肩の力が抜けて何よりだった。

 

 

 

「交渉成立じゃな。」

 

 

 

ラルゴさんからぼそりと呟かれた一言。

瞬間、場の空気が一変する。

 

伝説の英雄を前にしとるんやから当然かもしれんけど、それでも…多少甘く見とった部分はあった。

別にラルゴさんを下に見たわけやない。

 

ただ、英雄扱いは私もなのはちゃん達も同じ事。

次元世界の災厄と渡り合える力があっても、老体一人で私達全員を止められるとまでは思っていなかったのだ。

 

白髪を左手で撫でるラルゴさん。その耳の辺りに何か妙な金属みたいなものが見えて…

 

 

 

次の瞬間、光に包まれたラルゴさんは突然若々しい青年男性へと変貌していた。

 

 

 

左手で軽く握り拳を作った彼は、空にジャブを放つ。

空気を裂く音が恐ろしいほど鋭かった。

 

変身魔法…やない!?

 

 

「…おっさん、イデアシステムはいいけど乱用して負けた時に今の話コロッと忘れてないだろうな?」

 

 

速人君が口にした名にぞっとする。

アンチエクリプスを作るにあたり、巨大な機械を顔面半分を削るように取り付けられたフェアレさん。その本当の狙いであるイデアシステムの改良品が完成している?

 

話を聞く限り、人の記憶を純正エネルギーにかなりの力を搾り出すそうだけど…ソレを使って若返ったって事?

祈祷型デバイス無しでもある程度力の使い方調整出来るんか…厄介極まりないな。

 

「ヒドゥンを相手にする量の記憶を残しておく必要があるから乱用などせん。それに、記録としてはデバイスに残してある。」

 

数歩、歩を進めるラルゴさん。

それだけで空気が違った。ただ人間一人を前にしとる気分やなかった。

 

「ヒドゥンを破ると口にしたのだ、今更儂一人を前に引くなよ?」

「二言はない。俺達で止めてやるよおっさん。」

 

強大な威圧感を放つラルゴさんを前に、なんでもないかのようにいつも通り佇んで…

 

 

速人君は、俺達と告げてくれた。

 

 

 

「いいな!?」

「「「「うん!!!」」」」

 

 

 

しっかりデバイスを握り、立ち会う。

もう迷う理由はなかった。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 




他のデバイスが一応製作、開発されたものなので、なのはに合わせて変化した事になってるレイジングハートも異例って言えば異例かな…と言う事で(苦笑)。
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