なのは+『心のちから』   作:黒影翼

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秘録四・切り札争奪戦

 

 

 

秘録四・切り札争奪戦

 

 

 

Side~スバル=ナカジマ

 

 

 

ランド少将。

噂程度しか知らないが、少なくとも間違いない事がある。

次元規模の大事件を主に扱う海の部隊を預かる人間で少将。

 

 

絶対に強い。

 

 

戦闘スタイルとか知ってる訳じゃないけど、どうにか倒してアクア達を助けないと。

OAシリーズの娘達にいたっては…強い所の相手じゃないんだから。

 

「逮捕…とは言いません。でも、大人しくしないなら、この場で止めさせてもらいます。イクスは離れてて。」

「は、はい。」

 

宣言と共にジャケットを展開。

一応正規局員から追われるような立場になってる今、少将相手に逮捕と言い切れない。

ほんの少しの引け目を押し殺して構えたあたしを前に、少将は頷き一つ返すとデバイスを構え…

 

 

「うおぉぉぉっ!!!」

 

 

たのを確認した瞬間、あたしは全力で駆けた。

劇の撮影が出来るほどのサイズとは言え民家の一室。

魔導師の戦いとしては殆どない距離、近接特化のあたしにしてみれば有利!

 

「いっ!?」

 

ランド少将のデバイスが光ると同時に、あたしの眼前に何かが針のように大量に飛び出した。

防御とか攻撃ならその質を上げるのに多量の出力が必要だけれど…

 

災害救助なんかにも使う、クッション展開魔法だった。

 

殴る蹴るであっさり破壊できるけど、突進しておなかや足の前にあるクッションを突き破るまでは出来ず、足を止められる。

マッハキャリバーに全速力を出して貰った結果、かえって反動が大きくてよろけたあたしを前に、展開されたクッションが魔力弾へと変わっていく。

 

バリアジャケットのリアクティブパージ、防御魔法のバーストと言う風に、運用が上手い人なら展開した魔法に使用してある魔力をそのまま別の魔法に変化させることも可能だけど…っ!

 

「プロテクション!!」

 

クッションを誘導弾に変化され、至近距離から全方位攻撃を仕掛けられたあたしはさすがに回避も強行もできず防御魔法を普通に展開して受ける破目になる。

 

その間に、少将は砲撃の体勢に入る。

予定した通りって位華麗な流れだ。けど…

 

 

あたし達が誰の教え子か分かってない!そんな普通の砲撃っ!!

 

 

プロテクションでそのまま止めきったあたしは、距離をつめようと…

 

 

「遅い。」

「っ!?」

 

 

思った瞬間、首を掴まれていた。

そして、その状態のまま掌から単発貫通系の魔力弾を放つ少将。

 

形振り構わずつかまれている腕を払うように裏拳を繰り出すと、あっさりと手を放した少将は、握っているデバイスを振りかぶっていた。

 

魔力付与打撃…ッ!

 

振りぬかれた一撃を防御魔法で受けたあたしはすべるように後退して…

 

 

止まった所で、目眩と共に膝を折った。

 

 

 

「が…はっ…」

「スバル!」

「っ!!」

 

 

首に受けた魔力弾の一撃によって、血流が悪くなってた所で強打を防御して踏ん張ろうとしたせいか、盛大に血を吐いたあたしは、それでも膝をついたままイクスの声に応じるように顔を上げる。

少将は少しだけ驚いたようにあたしを見ていた。

 

 

…強い。

 

 

近づこうとしていたのがあたしだったから向こうから距離をつめてくるって言うのが予想外だった。

けど、強いって言うのはそこだけの話じゃない。

 

今まで少将が使って来た魔法は、どれも素晴らしい出来だったけれど、下手をすると魔法学科がある初等科でも教われる程度で、あんまり特殊な処理のない魔法ばかりだ。

 

 

 

あたし達みたいに、『何が出来る』って人じゃない。

出来る全てを駆使した結果、『強い』人…だ。

 

 

 

ティアから聞いたクロノ提督の話もそんな感じだった。

こういう手合いの人には、弱点って言う明確なものが存在しない。

 

「これで墜ちたと思ったのですが…さすがあの高町空尉のとっておきだけの事はあります。ですが…」

 

褒めているとは全く思えない冷たい表情であたしを見据える少将。

けれど…理由はすぐに分かった。

 

 

「あの姉弟の援護に行きたがっているようですが…貴女まさか、私が人形に劣ると踏んでいたのですか?」

 

 

褒めるも何も、舐めているのはあたしのほうだったって事らしい。

まさか、援護にいくどころかあたしがやられて少将を増援にする訳にはいかない。

 

歯を食いしばって立ち上がったあたしは、再び構えた。

 

…急いでって言うのは無理みたいだ。

アクアごめん、しばらく持ち堪えてて。

 

 

 

Side~アクア=トーティア

 

 

 

イクスを巻き込みたくなくて外への逃亡を図りながらしのぐ事にしたけど…

 

「遅い。」

「っ…」

 

ウェイブステップで逃げてるのに、逃げたその先に悉く現れる彼女相手だと、あんまり意味なかった。

普通なら先回りなんて真似が出来ないようにするすると避けるんだけれど、移動先移動先にと完全に回られると、まるで容器に詰められている水のごとく、動く先がない。

 

 

「風車!!」

 

 

と、飛び込んできたクラウが回転から大剣を打ち下ろす。

 

何もない廊下に突き刺さった大剣。

それを振り下ろしたクラウの背後に既に移動しているビャッコ。

あっさり高速移動で回避して背後を取ったらしい。

 

「邪魔だよ。」

「っ…はぁっ!」

「む…」

 

クラウは突き刺さった剣を軸に、そのまま身体を前に回す勢いを使って足を振り上げた。

背後にいたビャッコは蹴り上げられた足を受ける。けど、無理な体勢から振り上げただけの一撃でダメージはなく、逆に離れ際に魔力弾を放り込まれる。

着地できずに転がるクラウ。あの程度なら大丈夫だ。

 

 

「ディザスターフリーズ!!」

 

 

あえて背後を取られたクラウを助けるためでなく、攻防が終わるまでを溜めに回した氷結三連砲撃。

一瞬とは言え時間を作ってくれたから撃てたんだけど…

 

 

「スパイラルバスター!!」

 

 

今度はよりによって、回避するどころかこっちの砲撃を全部速射砲撃で貫いてきた。

アクアリウムを構えた姿勢のまま砲撃を待ち受けた私は…

 

 

「アブソリュートランサー!!!」

 

 

お返しとばかりに砲撃を貫いてやる。

 

って言っても…こっちは腕ごと砲撃魔法で放つような全力突き。

ここまでしないと砲撃一つ消せないって時点で問題だ。

 

「本当やるね。」

「っ!?」

 

砲撃を消しただけで本体がいるのを失念してた。

一突き振るってる間にもう既に目の前にいるこの娘がおかしいだけとは思うけど、相手が強い事に文句を言ってもどうにもならない。

 

 

胸元に向かってくる拳。防げないと判断した私は…

 

 

四肢の力を抜いて、吹っ飛ばされた。

 

 

「今の…」

 

 

外に吹っ飛ばされた私は、転がるようにしてその勢いを殺しながら立ち上がる。

 

っぅ…怖かったぁ…

 

ウェイブステップの…脱力技術の発展系。

打撃の命中にあわせて、緊張でなく力を更に…って言うか、出来れば完全に抜き、命中方向にあわせてウェイブステップのみで跳躍移動。

 

斬撃はともかく、打撃なら2、3分までダメージを落とせる。

 

とは言うけど、実際にノーガードであんな打撃を食らうのはさすがに怖いものがあった。

力抜いてる分めり込むため、失敗してたら内臓グシャっと逝ってた可能性高いし。

 

「本当面白いね。一般人って聞いてるけど、ここまでやるなんて。」

 

体勢を立て直した私の前にスタスタと歩いて現れるビャッコ。

 

「まぁでも、これで仕事は済んだけど。」

「へ?あっ!」

 

言いながら彼女が見せた右手には何かが握られていた。

俯いて手をやるが、首にかかっていたはずのものがない。

 

今殴られた時に引き手で奪われたのか!

 

 

 

 

私は左手に握ったボタンを押す。

直後…

 

 

 

 

ビャッコの右手から、爆発音が結界内に響き渡った。

 

 

 

 

狙われてるの分かっててずっと首からイノセントをぶら下げておくほど自信家じゃない。

始めの打撃を凌いだ時点で、アリシアから受け取っていた『イノセント型爆弾』に変えておいたんだけど…

 

 

け、結構な威力だなぁ…これ彼女大丈夫なんだろうか?

 

 

爆煙に包まれているビャッコ。

その姿は見えないけど…右手吹っ飛んだ状態とかで現れたらどうしよう。

 

ちょっと嫌な映像を想像していた私を前に、煙が晴れていく。

彼女は想像していたような姿でなく、煙を受けて煤けた姿で棒立ちしていた。

 

幸い…と言うべきかは、正直微妙な所だ。

 

確かにスプラッタになってないのはよかったけど…逆に言えば、今ので殆ど無傷の彼女から、イノセントを守り抜かなきゃならない訳で。

 

「…本当に君面白いね。」

 

私を見ながら淡々と言うビャッコ。

台詞の割に目が笑ってないなぁ…当然だけど。

 

「出来るだけ殺すなとは言われてるけど…イノセントを持って帰るのは必須任務らしいし…君だけは殺してもしょうがないかもね。」

 

最初の一撃から直撃してたら病院送り確定だった気がしないでもないけど…それでも殺さないようにはしててくれたらしい。

わー、ありがたいなー…

 

 

冗談じゃないってもー!!

 

 

バチバチと放電するビャッコの両手。指が主に光ってる上に手を開いてる。

そして…

 

 

「っ!?」

 

 

礼によってあっさりいきなり目の前に現れた彼女が開いたままの手を振るうと、辛うじてかわした私のジャケットがあっさり裂けた。

指に魔力を通して爪みたいにしてるらしい。

斬られたら衝撃吸収も何もないから、これじゃ指に触れただけでおしまいって事になる。

 

「雲斬!!!」

 

と、追って出てきたクラウが斬撃に乗せて魔力刃を飛ばす。

背後からの一撃を左手で払ってかき消したビャッコは、そのまま一瞬でクラウとの間をつめ…

 

「旋輪!」

 

足を止めた、遠心力に負けないよう短く素早い回転斬りを放つクラウ。

高速移動魔法直後だからか、ビャッコはその一撃を障壁で受け止める。

けれど、止まらず続いた回転による二撃目で障壁が砕けた。

 

「ッ…君もやるっ!」

 

直撃を嫌ってか下がったビャッコは、光る掌を地面に叩きつけ…

 

 

「神雷!!!」

 

 

全方位に雷撃を放った。

大剣を加減なく振り切ったクラウはまともにその一撃を受け、私は少し離れた場所でそれを眺める羽目になった。

 

雷撃が収まると、前のめりに倒れて動かなくなるクラウ。

そりゃそうだ、耐えられるわけがない。

映像記録でも漁ったのか知らないが、あのヴィクターさんの必殺の一撃なんだから。

 

あっさりラーニングしてる辺り、魔法に関してはリライヴさんの高い才能も本当に複製されているみたいだ。普通にやってたら私じゃどうにもならないな、これは。

 

 

「これで後は君だけだ。」

「…みたいだね。」

 

 

勝ち誇った笑みと共にビャッコの姿が掻き消える。

私は…

 

 

「っぐ!?」

 

 

見向きもせずにアクアリウムを右に振りぬいた。

側面から攻撃しようとしていたビャッコにまともに直撃する一撃。私はそのまま右に向かって体当たり気味に肩からぶつかって彼女の姿勢を崩す。

よろけた彼女に向かって誘導弾を放つが、『これは捌かれる為、バインドの準備に入る』。

 

「は、な、何!?」

「ディザスターフリーズ!!!」

 

設置型バインドを自分の移動先に的確に置かれるとは思ってもなかったんだろうビャッコは、私が放った三連砲撃によって氷に包まれた。

 

アブソリュートランサーを放っても避けられるから、休憩に入る為…

 

 

 

一旦インフィニティーアナライザーを切った。

 

 

 

後どれだけ保つか…怪しいけど、無いと話にならない。

 

私が一向に追撃に動かないからか、氷に包まれていたビャッコは力任せに自分を包む氷を破って私を睨む。

 

 

「…未来予知?」

「さてどうだろう。試してみたら?」

 

 

大物を装って向かい合う。

これで少しは焦ってくれるとありがたいんだけど…

 

実際ホントのホントの切り札を切ってる身として、緊張しながら向かいあった。

 

 

 

Side~スバル=ナカジマ

 

 

 

「はぁ…っく…」

 

近づこうにも近づけず、離れてても安全でなく、近づいても離される。

デタラメな少将の技量に、あたしはまともに攻め手に回れずにいた。

 

「ふむ…時間稼ぎは此方の仕事だった筈ですが…こうもビャッコの動きが無いと急ぎたくなりますね。」

 

言いながらデバイスを構えるランド少将。

 

「させないっ!!!」

「む…」

 

射砲のどっちかわからないけど、リボルバーシュートを放って防御させる事で出鼻をくじく。

直後、一気に加速して接近。

 

「でええぇぇぃっ!!」

 

リボルバーシュートを防いだ障壁目掛けて、マッハキャリバーの加速を乗せた蹴りを叩き込む。

障壁に衝突したのもつかの間、無視するようにぶち破ったあたしは、そのまま振りぬいた右足をウイングロードで地に走らせ、右拳を握る。

 

 

 

「惜しい。」

 

 

 

一言、少将がそう言った直後、あたしの喉に何かが直撃した。

ただでさえ一撃零距離で受けている喉に想定外の追撃を放り込まれたあたしは、そのまま力なく首を下に傾ける。

 

防御魔法に使っていた右手のデバイス、その影で、左手を開いてこっちに向けていた。

 

速射魔力弾…

 

「あ…ぅ…」

 

撃たれたのが首のせいか、なんか重要器官がやられたようで、勝手に意識が落ちていく。

 

「まぁお見事でしたよ、救助隊レベルは軽く超えていました。それではこれで」

「「させないっ!!!」」

 

遠のいていく意識の中、淡々とあたしを褒めるランド少将の言葉を断ち切るように、聞きなれた二人の声が続いた。

 

 

とりあえず…任せていい…かな…

 

 

選択の余地もなく、あたしの意識はそこで落ちた。

 

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 




戦闘用じゃないとは言え、広域を覆うクッションやネットを展開出来るって案外使い道ありそうなものです。変換も出来るとなると、魔法ってかなり便利ですね。
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