なのは+『心のちから』   作:黒影翼

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秘録六・あらゆる力を集めた始まりの英雄

 

 

秘録六・あらゆる力を集めた始まりの英雄

 

 

 

Side~高町速人

 

 

 

単なる若作りと言う訳じゃなく、元々英雄と称されるだけの魔力もあるラルゴ。

その膨大な経験と魔導技術を持ったままで若返ったとなれば、単なる全盛期を余裕で上回る相手って事になるが…

 

 

相手が何だろうが、こっちのパターンが変わる訳じゃない。

 

 

俺は真っ先に駆ける。

俺の牽制から魔導師組の強攻撃と言う、変わることのないいつもの流れに持ち込むためだ。

 

だが…

 

 

 

腰深く沈めて半身で構えたラルゴの姿を見た瞬間、俺は足を止めた。

 

 

こい…つ…

 

 

「賢明だな…こちらも本気でいかせてもらう。」

 

 

刹那、ラルゴが一歩で間合いを詰めてきた。

力は馬鹿げた魔力の身体強化だがこれは…

 

 

魔法じゃないただの歩法だ。

 

 

左の裏拳、顔面に向かってきたそれを左に避け…

途中で止まる。

 

「っ!」

「ほう…」

 

姿勢を崩すほど仰け反って顔に向かってきた拳をかわす。

が、拳を振り切った勢いから今度は蹴りを繋いできた。

 

咄嗟にナギハに足裏に垂直に壁を作って貰って蹴った。

 

仰け反った状態からなので倒れ込むようにして回避するしかなかった。

直後、ちょうどいいタイミングでなのはとフェイトから射撃が入る。

 

後転しながら体勢を整えると、両腕を回転させて弾幕をあっさり払ってやがった。

 

直後リライヴが鎌を振りかぶり斬りかかるが、懐に潜り込んだあげく蹴りあげられたリライヴはそのまま天井に叩き付けられる。

 

「はっ!!」

 

ナギハを抜いて縮地一歩で詰め寄り、右の徹を放つ。

 

が、左腕で受け止められた。

オーバーS相手で俺の通常攻撃じゃジャケット抜けないのは当然なんだが…

 

衝撃を徹す形で『受けられなかった』。

 

徹はあくまで技術。硬いものやその内の物だけを斬る『打ち込み方』。

逆に言えば、打たれた瞬間に位置をずらすなり角度を変えるなりで崩すことができる。

ったって、打ち込むこっちだって繊細な技巧、崩すのにも同じ位の精度が掴めてなきゃ出来る芸当じゃない。

 

 

「あらゆる力を集めていたと言ったろう。」

 

 

徹を止めた左腕がそのまま踏み込みと共に突き出された。

直後、何かに跳ねられたかのように吹っ飛んだ俺は、壁に衝突する。

 

 

 

中国…拳法…

 

 

 

ぶれる視界の中、拳をつき出したラルゴの影に崩拳の姿を見ながら俺の意識は途絶えた。

 

 

 

Side~高町なのは

 

 

 

牽制を仕掛けた速人お兄ちゃんがあっさりと破られるなんて、驚愕の事実以外の何物でもない異常事態に、私はただ呆然とその光景を振り返る。

ラルゴさんがお兄ちゃんを倒した一撃を。

 

「中国拳法…」

「さすが高町の一人娘、なのは嬢は気付いたか。」

 

レンちゃんの喧嘩を何回も見てる私にとって結構懐かしい型。

中国は広い。異色な物なら私じゃ分からなかったろう。

けど、崩拳はさすがに分かりやすかった。

 

あの速人お兄ちゃんすら破るレベルでの攻防が可能な域まで、管理局の職務をこなしながらこの歳まで地道に研鑽を積んでいた事になる。

それが、ただ時竜に対処するために集めたあらゆる力の内の一つに過ぎないと言う彼に、さすがに敬意を感じざるを得なかった。

 

だって…速人お兄ちゃんや、それを超える恭也お兄ちゃんが何をしてきたか、私はよく知っているのだから。

 

「歴史の面で言って彼等ほど敬意を払える者達はそうはいない。日本剣士も見事だが、現代の剣豪もその有り様。」

 

言いながらラルゴさんは、壁にめり込んでオブジェになったかのようにピクリとも動かないお兄ちゃんを指差した。

速人お兄ちゃんの異常な強さは、一撃も当たらないからこその強さ。

オーバーS級の攻撃を直撃して無事ですむほど硬い訳がない。

 

最悪死…

 

「甘く…見ないで。」

 

嫌な妄想をかき消すようなタイミングで、リライヴちゃんが立ち上がった。

 

「仕留めきれんか…さすがに技量が近ければ出力がものを言うな。尤も高町速人程の技量は無いようだが。」

「半分正解、私に速人程の技量はないよ。でも…」

 

鎌を手に、リライヴちゃんは笑う。

 

「半分不正解。力の差なんて関係ない、貴方は速人が必ず破る。」

 

迷いなく言い切るリライヴちゃん。

…そうだ、私が不安がってどうする。

 

速人お兄ちゃんに安心してもらえるように…むしろお兄ちゃんを守れるように…頑張ってるんだから。

 

 

速人お兄ちゃんが起きたとき全部終わってるくらいじゃなきゃダメなんだ。

 

 

「フェイトちゃん…『アレ』行ってみよ。」

「…うん。」

 

フェイトちゃんと練ってた、『対高位技能者』とっておき。

前衛をお兄ちゃんが張れない相手には無謀が過ぎる気もするけれど…当たれば危ないのは誰も同じ。

 

 

「ブラスター3…ACSフルドライブ!!」

 

 

ACSによる突撃。

正面は勿論周囲を衝撃が取り巻くそれは大きく回避するかまともに受けるかの二択になる。

 

ラルゴさんは回避を選択し、大きく私の左に飛ぶ。

回り込まれて後ろから狙われたら厄介だし突進である以上そこまで急に方向転換はできない。

だけど…

 

「はあぁぁぁっ!!!」

「む…」

 

高速移動を得意とするフェイトちゃんがラルゴさんの着地点に先回り。

二刀にしたライオットザンバーを振るう。

 

跳躍移動の真っ最中に斬りかかられたラルゴさんはさすがに斬撃を防御魔法で受け止める。

 

「まだっ!!」

 

フェイトちゃんを捌いている間に再突撃。

 

 

「…そう言うことか。」

 

 

気づいたラルゴさんは小さく息を吐く。

私を止めればフェイトちゃんのトドメが入るし、逃げればフェイトちゃんが先回り。

繰り返すことで多少の誘導もできるし、フェイトちゃんの攻撃を受け損なったらほぼ間違いなく私の突進が直撃する。

 

フェイトちゃんが速く、私が当てれば吹き飛ばせる相手に使える『ACSマニューバ』って切り札だ。

 

魔力含めて消費は大きいけど…そもそも上手の相手を倒すためのシフト。

後先なんか気にすることはない。

 

「ち…」

 

回避を繰り返していたラルゴさんは、やがて業を煮やしたのか、深く構えて私に向かって拳をつき出してきた。

ACSによる突撃とまともに衝突する。

 

 

 

今だ。

 

 

 

動きを止めたラルゴさんの背後上に移動したフェイトちゃんは…

 

 

斬りかかるのではなく、バインドを展開した。

拘束されたラルゴさんの拳の力が緩んだ瞬間を狙って、私は本気で突撃し…

 

 

「っ!!」

 

バインドを千切りながらの半回転から回し蹴りを振り切ったラルゴさんによってレイジングハートの先端を蹴られて突進を逸らされた。

あらぬ方向にそれた私とバインドを展開したフェイトちゃん目掛けて誘導弾が放たれる。

私たちはどうにかそれを防御する。

 

「吹きとべっ!!」

 

丁度そこに重なるように、リライヴちゃんが砲撃魔法を放った。

捻る事で貫通力を高めてあるスパイラルバスターに対して掌を翳したラルゴさんは…

 

砲撃を投げるように、フェイトちゃんに向かって逸らした。

 

「っああぁぁっ!!」

「フェイトちゃん!!」

 

誘導弾を防御している真っ最中だったフェイトちゃんは、貫通砲撃を追加されて受けきれずに吹き飛ばされる。

そのままステップインのように踏み込んだラルゴさんは、リライヴちゃんとの距離を詰める。

 

「っ!」

 

咄嗟に横薙ぎに鎌を振るうリライヴちゃん。

けれど、刃の内側に入ったラルゴさんは、鎌の柄を右手でやわらかく受け止めると、引き寄せるようにしてリライヴちゃんの姿勢を崩し、左の拳を叩き込んだ。

 

 

 

出力の低い速人お兄ちゃんとは言え、一撃で倒した崩拳をまともに受けたリライヴちゃんは、声も出せずに吹き飛ばされた。

 

 

 

「っ!はやてちゃん!」

「うん!」

 

 

一撃を狙っていたはやてちゃんと丁度挟み撃ちにできる位置に移動した私は、一声掛け合って同時砲撃を放った。

強打を放り込んだ直後の挟み撃ちでの砲撃。回避はできないはずだし、さっきみたいにその場で捌くのも2発同時なら…

 

 

 

普通に防御魔法を展開されてガードされた。

 

 

 

業だけじゃない…って言うか、元々管理世界の達人なんだから、魔法能力の方が高いんだ。

 

 

「はあぁっ!!」

 

 

防御が消えるか否か位のタイミングで、体勢を立て直したフェイトちゃんが二刀を手に斬りかかる。

が、速人お兄ちゃんすら捌いたラルゴさんにフェイトちゃんの剣が届くわけもなく、逆に掴んで私の方目掛けて投げられた。

追撃を狙っていた私は、勢いよく投げ放たれたフェイトちゃんを受け止めながら一緒になって壁に激突し…

 

 

追撃に放たれた速射砲撃を防ぐ。

くっ…速射なのにかなりしっかり威力が…

 

 

 

「ぁ…ぅあぁぁぁっ!!」

 

 

 

魔力の残滓に包まれ阻まれた視界の中から、ただ事じゃないはやてちゃんの悲鳴が聞こえた。

体勢を整え、晴れた視界の先に私達が見たものは…

 

 

 

 

右目から氷柱を生やしたはやてちゃんの姿だった。

 

 

 

膝を突いて崩れ落ちたはやてちゃんに並ぶように立って私達を振り返るラルゴさんに対して構えようとして…

 

「動くな。」

 

鋭く短くそう言われて、彼を見ながら私とフェイトちゃんは動きを止めた。

 

 

「氷柱蛇…と言えば、儂次第でどうなるか察しがつくだろう?」

「「っ…」」

 

 

警戒はしていたさっきまでの硬直と違って、その死刑宣告に一気に血の気が引いた。

当然の話だけれど、何処に誰が出てくるか分からない以上強敵の情報自体は共有しておいてある。

フッケバインの首領、カレンが見たそれは、茨の内側から突き破るように次々氷柱が飛び出してくると言う魔法だった。

眼底の傍は脳…そんなもの続けられたらはやてちゃんは…

 

「イノセントハートを渡せば、それと儂の命で片がつく。保険にOAシリーズやゼロもある以上、しくじる事もあるまい。拒絶すれば、確実に死ぬはやて嬢を含め犠牲が増えるだけだ。」

 

終わりを語るラルゴさんは、何処か優しげですらあった。

力が及ばないと言う意味での苦悩について、時竜を相手に散々味わったからこそ、こんな方法まで使って力を集めたのだろうから、逆に言えば力不足で選択肢を奪われる身の気持ちが分かるんだ。

 

 

「もう良いだろう?これで全て終わるのだ、犠牲を無駄に増やす必要はない。」

 

 

けれど、その優しさは同時に、私達にとっての終わりを示していて…

 

 

 

 

 

 

「…ふざけんな。」

 

 

 

 

 

まるで地の底から聞こえてきたような声と共に、はやてちゃんが爆発した。

 

 

傍らに立っていたラルゴさんは、咄嗟に爆発を回避し距離を取る。

今の爆発…がむしゃらに撃たれたはやてちゃんの魔法だ。自分を中心に、部屋を埋め尽くすような広域にならない程度の範囲攻撃。

多少巻き込まれたようではあったけど、あのタイミングでそんなものを放たれて回避する辺り、やっぱりとんでもない人だ。

 

当のはやてちゃんから攻撃を受けたからか、躊躇わずに掌を翳そうとしたラルゴさんは、『ソレ』に気付いて動きを止める。

 

 

私たちは、回避も何もする必要がなかったから少し先にソレに気付いていた。

 

 

ナニカを包んだ氷の塊。

ソレが、赤い線を伴って床に無造作に転がっていて…

 

 

爆発の中から…片目を失ったはやてちゃんが姿を見せた。

 

 

 

Side~八神はやて

 

 

 

凍った目を引き抜いて放り捨てた私は、残った左目でラルゴさんを見据える。

 

 

「犠牲の終わりなんて台詞を…貴方が言うな。」

 

 

私は杖を硬く握る。

片目が無い分、入ってくる映像が少ないからか、思い出す光景が浮かびやすかった。

 

 

 

「速人君も…御神の家もすずかちゃん家も…トーマもリライヴちゃんも…何の罪なく滅ぼされた村や町にいた人達も!何もかも滅茶苦茶にしてきたのが一体何のせいなのか分かっててそんな台詞吐いとるんか貴方はっ!!!」

 

 

 

聞きかじっただけの速人君の過去から、エクリプスの事件映像までを一通り反芻し終えた所で、私は全力で叫んだ。

 

言わせない。

片目をやられたくらいで、この人に犠牲の終わりを決める権利なんて絶対に与えない。

 

 

あれらを『仕方ない』と言い捨てた彼に、犠牲の量なんて決めさせない。

 

 

全てまで言わずとも私の言いたい事に察しがついたのか、呆れ混じりに息を吐いて、頭を振ったラルゴさんは、私達を見据えて再び戦闘態勢に入る。

 

「殺したら殺したでまともな交渉にならん気もするが…まぁよい。其処まで言うのなら、幼き夢を捨てずに朽ちた速人と共に眠るといい。」

 

言いながらラルゴさんが手を振るうと、複数の魔法陣が展開される。

拙い…アレは…ッ!

 

 

 

展開された全方位型シューティングスターが放たれ、室内が一瞬で魔力弾の雨によって埋めつくされた。

 

私となのはちゃんはそれぞれに防御を張り、フェイトちゃんはなのはちゃんの補助をするように立っている。

 

凶悪な弾幕が収まるのと同時、私の目の前にラルゴさんが踏み込んできていた。

 

 

気張っては見たけど、結局殺されるだけに終わる予感に、悔しさとか寒気みたいなものが身体に走って…

 

 

私とラルゴさんの間を、風の刃が薙いでいった。

 

 

接近を止めたラルゴさんは、軽く私から離れると、刃の発生源に視線を移す。

 

 

 

「勝手に朽ちさせるなよ…おっさん。」

 

 

 

見えなくなるほどめり込んだ壁の中から姿を見せた速人君が、ナギハを抜いた体勢で微笑んでいた。

 

…起きんの遅いわ、ったく。

 

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 




中国…管理世界から見ても驚く歴史って結構凄い事なのではないかと思ったり(苦笑)。
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