なのは+『心のちから』   作:黒影翼

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秘録八・見せ掛けの大団円

 

 

 

秘録八・見せ掛けの大団円

 

 

 

Side~トーマ=アヴェニール

 

 

 

皆がそれぞれに分かれて龍の各重要施設を破壊し、最低限の証拠集めを済ませた後、突入に参加していたメンバーはそれぞれに治療を受けていた。

フッケバインの皆や速人さん達、一応犯罪者扱いになっている人達はアースラで、元々局員として活動してた俺達は修繕した特務の施設でと分かれての治療になっていた。

 

 

 

 

そして、比較的早めに目が覚めた俺は…

 

 

 

 

計器に繋がれたままで、次の指示を待っていた。

 

 

深呼吸。

緊張している。

 

 

「それじゃあ…元に戻って。」

「はい。」

 

 

シャマル先生の指示に従い、変身状態を解くと…

 

 

計器全部が異常値を振り切って、俺の身体に刺さっているタイプの計器は分断によって砕け散った。

 

分かってた事だけど…やっぱりそうなんだ…

 

 

 

俺は鏡に映った全身赤黒い黒騎士モードの自分の姿に溜息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

「裏返った?」

「うん…」

 

少し前、特務の医務室で目を覚ました俺を待っていたリリィは、聞き返した俺に深刻な表情で頷いた。

深く深く、より感染者として進み、それを制御してやろうとリリィとフルパワーを振り切った結果、俺はこの黒騎士状態が『通常の正常な状態』になったらしい。

 

つまり、感染の治療所か俺は感染兵器として完成してしまったらしい。

 

全身が赤黒い変身なのは、ただの感染者だった時に出てた模様が全身を染め上げたものらしく、それがびっしりと言うか、完全に白い肌をなくすように出ているのだとか。

 

 

 

 

 

回想を終わらせた俺は、なんだか実感が沸かないまま人間の状態に『変身』する。

これがあっさり出来るなら何も変わっていないような気もするけど、一応こっちが変身状態らしい。あっさり人間の見た目に戻せるのは、あの完全黒騎士状態を維持していると…

 

 

とんっでもなく燃費が悪いからだ。

 

 

目が覚めて、おなかがすいて、食べ終わった食器量を自覚した瞬間『あ、これはヤバイ』と割と真面目に思った。

スゥちゃんと同じ位食べてしまっていたのだ。…って、それはそれでスゥちゃんに失礼な気もするけど。

とにかく…人間状態になることまで含めて兵器としての機能らしく、早い話コンピュータで言うスタンバイモードって感じだ。

 

「それにしても…原初の種とは言え一度は感染して暴走まで行っているハーディス専務まで完全に普通の人間に戻しちゃうなんて…凄い力だわ。」

 

原初の種を引き剥がそうと全力で放ったディバイドは、ハーディス専務を完全なただの人間に戻したらしい。

この結果から、今の俺のディバイドは、『狙ったものの完全分断』って状態だと言う予測が伝えられた。

 

「不治の病とかでも治せるって事ですか?」

「消して治る類の病気とかなら多分…ね。癌みたいに自分の細胞が変化してるようなのは無理だと思うけど、ウイルスとか呪いとか、そう言うのを狙って引き剥がすのは完全に出来るように…って」

 

思わず手に入った便利で優しい力にちょっと興味が出た俺に、医者としてシャマル先生が何かを考えるようにして…その後に俺を見て怒った。

 

「そもそも感染者の状態なのは病気なんですっ!活用する気になんてなるものじゃないですからねっ!」

「はい、すみません…」

 

使わないとまでは断言しなかったけど、ちょっと浮かれて軽く見てた感じはあった俺は、素直に謝った。

 

「とにかく、人間形態を特に意識しなくても制御できるなら、普通に出回ってても問題ないわ。ただリリィとは一緒にいて、何かあったらすぐ言って頂戴ね。」

「はい!ありがとうございましたっ!」

「ありがとうございましたっ!」

 

 

俺とリリィはシャマル先生にお礼を告げると、医務室を出た。

 

 

 

で…

 

「これからどうするか、何だよなぁ…」

 

 

俺はリリィと一緒に部屋に戻ってきていた。

と言うのも…元々俺達が特務なのは、エクリプス案件の最中にフッケバインその他にゼロドライバーとしてリリィと俺が狙われていたからなのだ。

フッケバインの皆が捕まる…と言うか、速人さん達の元進退を決めるって言うなら、当然俺達を狙うとかそう言う話についてもなくなるだろうし、最大の問題であるハーディスは捕まり、ウイルスの母体である原初の種は消滅してる。

 

後は散った野良感染者だけど…ニルが結構な数殺してしまっているらしいから、ハーディス子飼いの人数によってはもう…

 

「リリィはどうしたい?」

 

暗い方向に向かう思考と止める為と、運命共同体になってしまったリリィに何も聞かずに決めたくないって事もあって話を振ってみると、リリィは浮かない顔をしていた。

 

「トーマの力になるのは勿論…特務に来て、頑張って、皆の役に立てたらいいなって思ったけど…私達の…エクリプスの力って、この案件が終わって使っていい物なのかな…」

「それだよなぁ…」

 

別に俺はリリィを戦わせたい訳じゃないから、このまま人間形態維持しながら普通の仕事についてもいいんだけど、殆ど離れられないって特別な事情を抱えて一緒の仕事をさせてくれる場所とかあるだろうか?とか考えてしまうとやり辛い。

かと言って、このまま管理局に勤めたとして…俺達、そもそも戦っていいんだろうか?

 

 

後は…

 

 

「フッケバインの皆が誘われてた所…か…」

「トーマ…」

 

 

今回の一件で速人さん達が関わっていた、地球の『凶を屠る凶』の部隊。

フッケバインの皆が誘われてるらしいそこに加われば…危険で怖い仕事にはなるだろうけれど、きっとこの力を全力で活用できる方法だろう。

 

…俺がそれでいいのかって問題があるけど。

 

人を殺すの何だのは望みじゃない。

でも、ゼロドライバーとして頑張りたいならそれが…

 

「とりあえず考えててもしょうがない、皆のお見舞いにでも行こう。」

「うん。」

 

フォートを含めて、死闘激戦だった皆は重傷重体で休んでいる。

俺は感染者だから栄養足りたらそれだけであっさり回復してしまったけど、生身の皆はそんな軽いダメージじゃない。

 

事件を終えた皆の様子とか見れば、何か考えが出るかもしれないし、何よりこれでもう事件は終わったって言っていい。焦らずに考えよう。

 

 

 

Side~シグナム

 

 

 

「しっかしザマねぇなオイ、正規局員のベルカの騎士が揃いも揃ってダウンするとは。」

 

同じ病室になったヴィータが吐き捨てるように呟く。

感染者であるフッケバインの連中はもう、管理局と地球の警防部隊に混じって交渉活動中と聞いている。

いくら連中が再生怪人とは言え、同行した正規局員としては確かに情けない所だ。

 

「はやてにも…無茶させちまったしな…」

「…そうだな。」

 

ねぎらいに顔を出してくれた主はやてだが、何があったのか右目を失っていた。

 

「くそっ…速人のヤロー…」

「言うな。」

 

苦い顔で漏らすヴィータを制する。

『速人がいながらにして主はやてが目を失う程の事態に陥った。』と言う事に苛立つ程に、速人を信用していた…寄りかかっていたと言う事でもある。

詳細を聞けていない事も苛立ちを助長させる理由になっているんだろうが、詳細を広めない為に部隊を分けたのだ、言っても仕方の無い事だ。

 

「失礼します。って…」

「む、トーマとリリィか。」

 

見舞いに来てくれたらしいトーマとリリィが、私とヴィータの様子を見て顔をしかめた。

 

「お二人とも何してるんですか?」

「見りゃ分かんだろ?報告書作りだよ。」

「体が動くようになってからデスクワークに時間をとられて訓練や仕事に入れんようでは勿体無いからな。」

 

二人は我等の返答に苦笑いする。

病室で座って療養中とて、上半身を起こして指を動かす程度の事はできるのだ。

今回の一件はややこしい事も強敵も多い為、必要な情報も多い。

治ったらすぐにでも身体を動かしたい所だし、今の内に片付けられる事は片付けてしまっておきたい所だ。

 

「お前等がハーディスを捕縛したらしいな。」

「あ、は、はい。」

「よくやったな。」

 

緊張気味のトーマ達を、珍しく褒めるヴィータ。

 

だが、実際よくやった。

 

ハーディスを生きたままで捕らえられるか否かは、今後の後始末の進捗に大きく影響するだろう。

大事件を片付けるのも確かに大変だが、後始末をどれだけ完全なものにするかは、次の事件への遺恨や対策などに大きく関わってくる。事実、スカリエッティから情報を引き出し損ねたエフスの存在は今回の一件にも少なくない影響を及ぼしている。

捕らえていてもこの有様なのだ、死なせてしまってはより面倒になるのは明白だ。

 

「フォートや皆が頑張った最後になってちょっとだけ力になれただけです。」

「そうか。」

 

過ぎた謙虚…と言う訳でも無い。

フォートの奴は、全身ボロボロで奴が手に入れた切り札であるフォースドライブが使えない状態で尚立ち上がり戦ったと聞いている。

 

奴に限って誰も驚かんが、実際問題当たり前かと聞かれれば、そんな訳が無い。

 

「ならあいつ等の見舞いにも行くといい。」

「だな。あたしらみてーな真似はさすがにしてねーだろうし、暇してんだろ。」

「ご自分で言うくらいならご自愛下さい…」

「お、言うようになったじゃねーか。」

 

トーマについて控える感じだった、戦闘に一切かかわっていなかった筈のリリィからの指摘にヴィータが笑う。

自信がついたか明るくなったか人に慣れたか、なんにしてもいい事ではある。

 

二人が去った後の扉を眺め、私はシャマルからあった話を思い出す。

 

 

「不死…か。」

 

 

兵器として完全に裏返ってしまったらしいトーマが今人の姿をしているのは、あくまで兵器としての機能の一つだと聞いている。

一応細胞で形成されている元人間だが、感染兵器の身体となった今正常な成長、老化をする保障が全くない。

不死が確定したわけでは無いらしいが、それは実感のある我等としてはあまりに重い話だった。

 

「事件が片付けば、後は当人達がどう幸せになるか…あいつ等もいい未来が掴めりゃいいんだけどな。」

「そうだな。」

 

永きに渡る時に振り回された身として安易には保障できないが、それでも幸福を願わずにいられなかった。

 

 

 

Side~ティアナ=ランスター

 

 

 

操られて気絶させられた私は、後始末に奔走する事しかできなかった。

真っ先にやられたのに、ハーディスとまともに戦った皆が重体で正直とても気まずいものがあった。

 

参加メンバーの殆どがダウンしてる今、動ける怪我で済んでいる人員は貴重で、スバルの見舞いに顔を出すのに結構な時間がかかった。

 

「ティア!」

「ティアナさん!」

「ちょ、元気ねアンタ達…」

 

入るなり景気よく名前を呼んでくるスバルとエリオに苦笑いする。

結構なダメージを受けて入院してるはずなんだけどね。

 

「キャロとは入れ違いになっちゃったみたいね。」

「魔力を根こそぎ消耗させられて疲れてるはずなんですけど…」

「あたし達のチーム、キャロとギン姉しか動けないからね。」

 

私以外のフォワードチームにギンガさんを加えて向かった警護部隊。そのうちスバルとエリオがダウンしてるんだから確かにそういう事になる。

 

「今回は…って言うか、なのはさんの教え子ってなってから楽な任務ってほぼないからね。」

「世界平和も大変って事だね。」

「はは…」

 

私とスバルのやり取りに苦笑するエリオ。

私達よりはまだ物騒じゃない任が多いから、このクラスの案件を笑って締める気にならないんだろう。

 

「スゥちゃん、エリオ君お見舞いに…ってティア姉も来てたんだ。」

「っ…」

 

聞こえてきた声に思わず体が震える。

トーマを襲った事態は、隊長陣と執務官と言う役職の関係上私には伝えられていた。

人でなくなったなんて話、スバルを前にどうすれば…

 

「トーマ!大丈夫だったの?ハーディス専務と当たった人は皆結構大変だったって聞いてるけど…」

「大変の部分は殆どフォート達が引き受けてくれて。ゼロを使えない関係で最後の最後まで全力も出せなかった上に感染者だからあっさり治っちゃって。それでお見舞いに。」

「そっかぁ…でも無事でよかっ、ケホッ…」

 

考えている間に話が弾んでしまった上、心底安心した様子で話していたスバルが突然咳き込んだ。

全身って言うか、首だけピンポイントで大ダメージを受けているって聞いてる。あんまり喋らせちゃまずいのか。

 

「スバルさん、寝てた方がいいですよ。首って重要機関ですし。」

『たはは…ごめん、そうしとく。仕事も任せちゃってるわけだしね。』

「な、何かごめんスゥちゃん。ゆっくり休んでね。」

 

エリオに促されて横になって目を閉じたスバルは、念話で謝ってくる。

見舞いに来て悪化させるわけにも行かないと、挨拶だけ済ませて去っていくトーマとリリィ。

私もそれに続いて出ようとして…

 

『トーマの事…許可出たら、何があったか聞かせてね?』

『…ったく、長年やってるとあっさり気付くわね本当。』

 

多分、私がトーマの声を聞いた一瞬の反応で、トーマに何かあった事を見抜いて、その上で何も気付かせないように私だけに絞って念話を投げてくるスバル。

 

何て言うか本当、強いわコイツ。

 

 

 

Side~高町速人

 

 

 

「そっちの皆はどうだ?」

「シグナムとかひょっとしたら気付いとるかもしれんけど、まぁ大丈夫やろ。」

 

引っこ抜いた片目の治療もままならないはやてと俺は、ひそかにあって話している最中だった。

勿論時竜を相手にする話だが…あまり時の操作に関しては広めたくないというのが本音だ。

無論、それを理由に戦力を削って負けてたら元も子もないが…

 

 

 

ユーリと戦える位でないと、そもそも話にならないってのが俺達の見解だった。

 

 

「なのはちゃんとフェイトちゃんは都合つけたから、後はそっちに任せてええか?」

「あぁ。吉報待ってゆっくりしててくれ。」

「よく言うわ。あー右目痛い。」

 

笑顔の俺に対してわざとらしく右目を抑えて愚痴るはやて。

うぐ…気絶させられて援護が間に合わなかった身としては正直何も言えん。

 

言葉を詰まらせた俺を前に、はやては優しい笑みを浮かべた。

 

「けど…速人君が『一緒について』負けるとは思ってへんよ。忘れんと帰って来てな。」

「…あぁ。」

 

はやての言いたい事はよく分かってた。

龍の組織について把握している情報も時竜の事も覚えていたくせに、三提督と呼ばれ肩を並べた友の事を綺麗さっぱり忘れていた…そもそも、龍の種を作り巻くより、独り力を集めるより、何より先に求めなきゃならない最高の力を頼ろうともしなかった、その末路。

 

 

ああはなれないな。

 

 

「帰ってきたら、速人君には死ぬほど働かせたげるんやから、ちゃんと無事に帰ってくるんやよ。」

「はいはい、分かってるって。」

 

楽しそうなはやての言葉に苦笑しながら頷く。

 

地球からの頼みごとや龍の調査殲滅が終わった今、後は地球の国際警防と管理局が直接対立さえしなければ、俺は特に色々伏せて活動する必要がなくなる。

アクアの頼みの元放送したあの紙芝居の効果もあって、管理世界を飛び回って世界を救った広告塔として、表立ってあちこち飛び回る事を約束しているのだ。

栄誉賞のような形で嘱託権限だけ貰って、すぐさま動ける便利屋になるらしい。

 

『白い堕天使リライヴが出した被害の全てを引き受ける』と言う契約の元、ニルが出した損害の分も引き受けてやる事にした俺は結局しばらくただ働きなんだろうが…ま、別にいい。

 

元々ヒーローを名乗ってる位だ、やる事が多くあるなら片付けるまで。

 

「それよりも」

「こっちもわかっとるよ、ニルやフッケバイン、OAの皆の扱いとか、氷村遊の命の保障やろ。」

「頼む。」

 

お見通しだったらしく先に言われてしまった。

 

世界規模での事件も片付いて、そのあちこちに関わってる龍の大本も消せた。

後は虱潰しにはなるけれど、大事件の乱発はこれでとめられるだろう。

 

その後の世界を出来る限り皆が幸せに堪能できるように…まぁだからニルの出した被害とかも俺が引き受ける事にした訳で。

 

「そう言えば、フォート君はどうする?」

 

俺に成ろうとして、ある意味ではなのは達すら超えてみせたとんでも馬鹿。

俺がアイツに渡せる唯一と思ったフォースドライブの力すら超える所で強い人間になってしまった予想外。

頼りにならないって訳じゃない。だが…

 

「アイツの出力でどうも出来ないだろ。牽制役がいるにしても俺がいるし、お姫様も助かってその悲劇も片付いたんだ。ノンビリさせてやればいい。」

「やな、わかった。怪我の治療とイデアシステムの除去までちゃんと六課で見とくよ。」

 

あいつにもう戦う理由は無い。それも、全て叶ったって意味で。

そんな幸せを賭けのチップに使う事はない。アイツは元々普通に過ごしていればいいただの一般市民なんだから。

 

 

後は俺達で…世界を襲う災厄を止めるだけだ。

 

 

 

Side~トーマ=アヴェニール

 

 

 

その部屋は、何と言うか俺にも分かる位居辛い場所だった。

 

声をかける事すらないまま、たどたどしい手つきでフェアレちゃんから差し出されたおにぎりを口にするフォート。

大容量魔導師の宿命か大量の魔力が必要なのか、それともフェアレちゃんの好意に対しての無条件降伏なのか、フォートは傍目に分かる位嬉しそうにおにぎりをついばんでいた。

見た所変哲も無い…と言うか、麻痺が身体に残る中で作ったからか不恰好ですらあるそのおにぎりをまるで宝物でも目にしたように食べているフォートは本当心底フェアレちゃんが大事なんだと思う。

 

同時に…そんな場所で飽きたように二人からそっぽ向いて肩までシーツを被っているアイシス。

 

温度差と言うか空気の壁と言うか…うん、この居辛さは尋常じゃない。

 

「よ、トーマ。」

「こんばんは。」

 

口にある分を飲み込んだフォートが片手を上げて挨拶をしてくるのに続くように、フェアレちゃんも会釈をする。

俺とリリィも頷く程度に返して、とりあえずアイシスの傍に向かう。

 

「点滴の栄養剤引っこ抜いてまで、『こっちのほうが元気になる』とかって。お医者さんまで馬鹿にするもんじゃないってのに…」

「うわぁ…」

 

肩を竦めながらアイシスが指差した場所には、空になったバスケットが一つ。

弁当箱が数個入りそうなそのサイズ分を、病室に押し込まれる重体で点滴を引っこ抜いてまで食したというフォートに俺は思わず声が出た。

 

そのままフォート達の方を見ると、フェアレちゃんが目を伏せて、フォートが胸を張っていた。

 

「お医者様に止められたなら止めたほうがいいと思ったんだけど…」

「フェアレの手作りだぜ?薬を針から流し込まれるより絶対効くからな。」

 

自信満々のフォート。

イデアシステムやエクリプスの詳細を聞いていると、フォートほどの思いの強さだと本当にフェアレちゃんのおにぎりを食べてあっさり骨とか繋がる様すら想像出来てしまう。

 

「もー二人がこうなのはこの際いいけど、あたしも美味しいものがいい…」

 

疲れたように漏らすアイシス。

大ダメージで休んでいるんだから消化器官だって休めたほうがいい。

点滴を打たれてるアイシスの状態が本来正しい状態なんだけど…

たどたどしいフェアレちゃんのペースで心底嬉しそうに食べ続けているフォート。

長い時間そんな様子を見てるだけだと、栄養足りてる足りてない関係なくおなかすくだろうな…

 

「それじゃ、私はそろそろいくね。」

「ん?あぁ。」

 

ゆっくりと席を立ったフェアレちゃんは、立てかけておいた杖をつきながら空のバスケットを持って病室を出て行った。

元々フェアレちゃん自身脳の付近を改造されている身だ、人の見舞いをする体調になんてなる訳もない。

リハビリも兼ねているんだろう。大変だな本当に…

 

「フォート、大丈夫…な訳ないか。アイシスもどう?調子は。」

「おいおい勝手に決めるなよ、リベリオンのお陰もあるけど内部からも治療できるから俺は大分調子いいぞ。」

「不死身じみてるよフォート…全身のダメージ絶対あたしより酷いはずなのに…」

 

肩口とは言えまともに貫かれてるアイシスが呆れるくらい、フォートの怪我は酷いものだった…筈なんだけど。

ベッドから足を下ろしたフォートは、その場で立って見せる。

 

「こらこら!」

「大人しくして無いと駄目だよ。もう事件も終わったんだから、しっかり治して安心させてあげないと。」

 

アイシスとリリィがフォートをたしなめるも、その空気は柔らかい物だった。

それもそうだ。少なくともこれでもう、エクリプスの絡んだ殺伐とした事件そのものは終わったんだから。

フォートだってフェアレちゃんを助けられた訳だし、後はノンビリしていればいい。

焦る事なんて無いはずだ。

 

「…そうだな。」

 

ベッドに座りなおしたフォートが、息を吐いて微笑む。

 

一見、納得しているかのような、そんなフォートの反応。

 

けれど…窓の外に視線を向けたフォートが、何かを見ているような気がした。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 




『秘録』の為、何も知らない人には無かった事に近い扱いに。軽く世界の危機なんですがね(苦笑)。
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