なのは+『心のちから』   作:黒影翼

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記録七・磨かれた路傍の石

 

 

 

記録七・磨かれた路傍の石

 

 

 

Side~八神はやて

 

 

 

フォートとの一騎打ちを任せるにあたって、事前に説明を…と言う事で一通りの話を終えた所で…

 

「そんなお戯れを…」

 

なのはちゃんに思いっきり肩を落とされた。

医務室で誰もいないとはいえお仕事モードだからか、いつもほどぐいぐいは来ないなのはちゃん。

 

これが『上司』の『決定』やなかったらメッタメタに言われるんやろうなぁ…

と、ちょっと想像して怖なる。

 

「エクリプス関連施設を単騎で襲撃、被験者の数々を救ってきた子がタダ同然で拾えるなら結構お買い得な話やろ。」

「タダ同然って…」

「一尉が負けるほどの実力はないでしょう?」

 

当然の話、あんな破格の条件をあの子一人を引き入れる為につける必要はない。

にも関わらず言えたのは、天地がひっくり返った所でフォートがなのはちゃんに勝てるはずがないから。

 

「どうしても気が乗らん?彼を監禁するより。」

「そんな事は…分かりました、きっちり倒して鍛えます。」

「ん、お願いします教官。」

 

話が済むとすぐに去ってしまうなのはちゃん。

 

「あの…いいかな?」

「ん?何?フェイトちゃん。」

 

フォートとのやり取りを聞いとった身として一緒にいてもらったフェイトちゃん。

砕けた口調で振ってきたから、『私事』の話やと理解して、他に人もいないから特にとめずに促す。

 

「はやてはその…どう見てるの?二人を戦わせるの、フォートを拾うためだけじゃないんだよね?」

 

教導を主導するなのはちゃんが彼の相手をするのは流れ的に普通…普通ではあるけれど、いくらなのはちゃんが大人って言うても、限度がある。

行方知れずから一年程度しか経ってない兄、その原因となったような戦い方や行動をしてる少年。

気が気じゃない筈や。力試しを兼ねるだけならヴィータや他のエースに任せたっていい。

 

なのに、わざわざなのはちゃんを指定したのが心配なんやろう。

 

「奇跡なんて起きないって吹っ切るにしても、速人君の席を他に譲らんって張り切るにしても、フォートは倒しといたほうがええかと思って。」

 

彼本人になのか、それともその行動なのかは分からないが、なのはちゃんから見て思うところがある存在なのは間違いない。

煮え切らない状態を終わらせられるきっかけにでもなればいいとは思っている。

 

「それに…」

「それに?」

「…や、なんでもない。」

 

私は言いかけた言葉を飲み込んだ。

もし、なのはちゃんが全力を出しておきながら負けるなんて奇跡をその身で体感したら…その先を考えようとして、止めた。

 

一番その奇跡を望んでいるのが、自分のような気がするから。

神頼みで部隊運営する訳にも行かん。そう念じて、浮かんだ考えを塗りつぶした。

 

 

 

Side~アイシス=イーグレット

 

 

 

問答無用で見習い扱いのあたしとしては、殆ど負ける前提って言ってもフォートの挑戦がうらやましくはあった。

ので、ちょーっとごねてみたけど…

 

「客将とか言ってたからな、食事や設備のサービスくらい受けられるだろうが、給与はお前等と違ってほぼ出ないはずだけど、それでもか?」

「うっ!それは…」

 

先の約束事以外は確認してないらしいけれど、フォートの予想だと、出来高制って言うか、出撃時のみ雇われてる感じになるって事らしい。それで局に詰めっぱなしって言うのは損な気がする。

でもフォートにしてみればフェアレって娘が助けられればそれでいいみたいで、まるで気にした様子がない。

 

「けどフォート…勝算は?」

 

トーマが苦い表情で一番気になる所を聞く。

 

フォートだけ戦う相手がわかってないのは不公平だって事で入った事前に入った通信で、一騎打ちの相手が、トーマと戦ってた高町なのはさんだと分かっている。

 

魔導殺しで防御を無効化、盾を破壊しながらの暴走トーマの攻撃を凌ぎながら、直撃をさせないように体力だけ削っていって装備破壊。

さらっとこんな事をやってのける魔導師なんて並…どころか、エースって表現ですまないレベルだ。

実際、エースオブエースなんて呼ばれてるらしい。フォートも結構イケるけど、さすがにそんな超一級の相手には届かないだろう。

全く動揺してないあたり何かいい手でもあるのか、それは気になる。

 

「久しぶりに面白い相手だからな、思いっきりやらせてもらうさ。」

 

けれど、不敵な笑みを浮かべて放った一言は、あたし達全員を呆然とさせるのに十分だった。

 

「は、はぁ!?なにそれ!負ける気!?」

「何でだよ?」

「あの人とちょっとは一緒に戦ってたんじゃないの?アレ人型の鬼だよ!?」

 

さらっと口に出してしまって、トーマとリリィが苦笑い。

ま、まぁ鬼は言いすぎか。だけど…

 

あれは…あの人は強い。それくらいは分かる。

 

あたしだってこれでも護衛業イーグレットセキュリティサービスの一人娘だ。

…ばらしたくなくて伏せてたのにさすが管理局と言うべきかあっさりばれてて実家公認の公僕見習いだけど。

 

「敵と状況を選べないのが本当の戦闘だ、装備にしろこの間使ってたの使ってくるか分からないし、模擬戦の空域どんな状況にするかも聞いてない。」

 

あっさり言ってのけたフォート。

そりゃ事実っちゃ事実だけど…

 

「俺が他人の施設に襲撃をかけてきっちり離脱できてるのは、どんな状況でもなんとか出来るからだ。アイツを倒すのがフェアレを助ける最短ルートみたいだし、必ず倒すさ。」

 

拳を握り、迷うことなく告げるフォートに、呆れたのかもどかしいのか分からないけど、あたしはそれ以上なにも言えなくなった。

 

「…頑張って。」

 

結局素直にエールを送ったリリィにうなずくフォートを最後に、その日の面会は終わった。

 

別に局の人達が悪い事してる訳でもないし、施設襲撃に一人で回ってるのも危ないしそっちの方が悪い訳だけど…

何というか、夢を手玉に皆をいいようにしてる気がしてどーも管理局のやり口は好きになれなかった。

 

フォートの馬鹿…これで無策であっさり負けたら見習い確定が遅くなったって事で下っ端扱いしてやる。

 

 

 

Side~高町なのは

 

 

 

フッケバインも空戦が出来るし、障害物の展開はこっちが慣れたものになるからって事で、遮蔽物なしの宙域で一本勝負。

 

正直な話、航空戦技教導官の私が遮蔽物なしの空戦なんて、有利極まりない状況を貰ってるも同然なんだけど…

とりあえず正々堂々ではあるし、相手が強い事は負ける言い訳にならない。

 

それが分かっているのか、過信に満ちているのか、なんの動揺も緊張も見せないままで、会場に姿を見せるフォート。

 

 

当たり前だ、この子が座ろうとしてる椅子は…

 

 

軽く頭を振って浮かびかけたものを打ち消す。

本当は、そんなものあっちゃいけないんだから。

 

「ずいぶん機嫌悪そうだな。体調不良なら落ち着くまで待ってもいいんだぞ?」

「生憎、時間がないのはこっちの部隊だからね。普段はあんまりやらないけど…」

 

本人としては気を使ってるつもりなんだろうけれど、軽くセクハラめいた問いかけに返って怒りたくなる。とはいえ、試合前に冷静でないのもどうかと思うのでとりあえず流す。

 

レイジングハートを展開、定着しつつある初手からのエクシードモードとブラスタービット。

昔は出力が相当にないと展開すら出来なかったビットだけど、技術さんのおかげで模擬戦で出力制限かけた状態でも使えるものになってる。

フォートレスも似た感じで扱える武器だし、空間制圧系の戦術を組むのに無理なく練習で使えてありがたい。

 

「いきなり倒しに行くから。」

 

普段は何もさせずに潰す、って事をあまりしない教導。

何しろ、まだ足りていない前提の子達に、技術や作戦の問題点と解決を体感させていったりする必要があるんだ。初手から本気で叩き潰しに行ったら、それこそ普通の子じゃ悪いけど何も出来ずに終わる。

 

「別に悪くない、元ヒーローの席なんだろ?アンタ一人じゃ釣りが来る位だ。」

「そっか…」

 

けれど、目の前の微力な少年は、あっさりそう言ってみせた。

目つきは鋭くて悪い癖に、何の曇りも躊躇いもない。

 

地上で数メートルはさんで向かい合う。

 

 

「先手は譲るよ。」

 

 

教導官としてのせめてもの配慮のつもりで初手だけはやらせてあげる。

フォートは、一振りの剣を展開して…高速移動で背後の死角に移動する。

 

 

その速さも精度も…『悪くはない』。

 

 

悪くはない、つまり特別良くもない。

エリオやフェイトちゃんみたいな高速技巧特化のレベルに満たないのはおろか、私以下。

魔法発動の予兆も、軌跡も見えるから終点も分かる。

 

ビットの一つをフォートに向けて突撃させ、振り返りながら飛び立つ。

私を斬るつもりで振りかぶってたらしい剣を使って向かってきたビットを弾き飛ばすフォート。

剣を振りぬいた動作の間に、残りのビットを使ってバインドを狙う。

 

斬撃そのものも悪くはないけれど、ビットを破壊するような威力も、次から次に繋がる連携の片っ端からを切り払うほどの速さもない。

二つまでは回避したフォートだったけど、最後の一機のバインドで拘束できた。

 

 

これで…終わり。あまりにもあっけない終幕。

 

 

 

「ストライク…スターズ!!」

 

 

メインとなる砲撃と展開したスフィアからの射撃を降り注ぐように放つ砲撃。

拘束状態で彼の魔力値で凌げる訳…

 

 

 

着弾炸裂し、魔力の残滓が地上を覆う中から一瞬速く人影が飛び出てきた。

 

 

 

「フォトンバスター!!」

「っ…」

 

あまりにも基本的な何の細工もない砲撃魔法。

当然とめるのに支障はないけれど…そんな事よりも。

 

飛空挺に追いついたとき、一応は拘束具をかけられていたはずのフォートがどうやって脱出したのか?

そして今、バインドで動けなかったはずなのにどうして砲撃を回避できたのか?

 

 

一瞬見えた、フォートの身体に出来ていた傷が、全てを物語っていた。

 

 

ああもうこの子は本当に!!!

 

 

 

Side~トーマ=アヴェニール

 

 

 

どっちにしても肩を並べる人の試合だからという事で、観戦も仕事と許可された。

 

開始早々、バインドに完全にかかった上での高威力砲撃。

いきなり決まった。そう思った矢先の出来事。

 

フォートは体内から皮を破る形で刃を射出してバインドを断ち切った。

 

痛い。見てて痛い。

 

ってかフォートは別に感染者でもなんでもない普通の人間だろうに、あんな事平気でやって大丈夫なのか?

 

「躊躇いも覚悟もなかった。」

「え?」

「ああいう身を削るような事、する人がいないとまでは言わないけど…一声すらあげなかった。」

 

当たり前のように空戦を続けるフォートを眺めながら呟くように漏らすアイシス。

それで気付いた。痛みに耐えたり気迫負けしないために声を上げたり歯を食いしばったり、そういうあって当たり前の反応がまるでないことに。

 

つまり、フォートにとってあれは、思い切ってやるような事じゃないって事になる。

 

 

俺は、少しだけリリィに視線を移す。

 

 

俺が助けるって決めた娘、友達。

エクリプスに関わるって事が、フォートのような覚悟を当たり前に必要とするものなら…

 

…やってやる、俺だって引くわけには行かないんだから。

 

 

 

Side~高町なのは

 

 

 

強い子、強くなりそうな子。

職業柄鍛える子の特徴特性を見抜いてそれを伸ばしてあげる必要がある上、結構そういうのが楽しかったりする私は、見る目はあるって自負している。

元々特務のメンバーは…こう言っちゃ失礼かもだけど、一人一人が中隊位と当たれる人間ばっかりだから、そういう意味で言えば今のトーマや黒髪ちゃんにしたってこの間の戦闘を見返す限り、現時点でも並の局員は軽く上回る戦力って事になる。

当然、今のままだとここでは話にならないけど、それも基礎力を底上げして得意分野を伸ばせば面白いくらい化けるだろう。

 

けれど彼…フォートは…

 

 

 

彼は…こんな所にいるだけの力なんて持たない筈の、普通の少年だ。

 

 

 

鍛えて航空隊の一員がせいぜい、それすら適正外で弾かれかねないような、そんな子。

何をどうしてそうなったのか、そうなれたのか分からないけれど、恐ろしいくらいの鍛え方で、体力と保有魔力量の底上げをされている。

けれど、才覚の影響が大きい最大発揮値は、上がった総魔力にまるでついていっていないし、何かが特別上手いわけでもない。

 

「はああぁっ!!」

「っ…」

 

思ったより近くに来ていたフォートの声で余計な思考から覚める。

マルチタスクが出来るって言っても、戦闘から思考が逸れ過ぎた。

ビットからの射撃を足に肩にと数発受けながら強引に接近してきた、左右に剣を手にしたフォートは斬撃を繰り出してきた。

右の袈裟切りをデバイスで受けると、左で私の肩目掛けて突きを放ってくる。

私はそれをかわしながら近づいて…

 

 

「ぷっ!」

 

 

衝突した。

距離を私が見誤った訳でなく、フォートの方から顔面を近づけてきた。

咄嗟にやったせいかまともに頭突きにすらなってなくて、鼻と鼻を空戦の勢いで強打してちょっと痛い。

っとに無茶苦茶する…?

 

 

スカートが、剣を手放した右手に掴まれていた。

 

 

掴むって言うより、スカートの長さを利用して拳に巻きつけるように握っている。

おそらくは簡単に引き剥がされないようにするため。これじゃ勢いよく飛んだって、バリアジャケットを分解しなきゃ外れずフォートもくっ付いてくる。

 

「逃がすか。」

「っ…」

 

銃に変化させた左手のデバイスをフォートが私に向けるのと、私の掌が光ったのはほぼ同時だった。

 

 

 

 

「っ…の…」

 

 

 

よりにもよってあの距離で…フォートはバレットスコールとか名付けてた無作為乱射を放ってきた。

狙いのよくない無作為乱射と言っても、零距離じゃ全部当たる。

オマケに準備してたディバインバスター・インパルスを撃ってしまう方を防御より優先したため、さすがに防ぎきれなかった。

 

けれど…

クロノ君すら墜とした超近接砲の一撃を直撃して耐え切れるはずもなく、彼は真っ直ぐに落ちていった。

 

 

 

終わりだ、分かってる。

 

 

 

力の差は覆らないし、覆すにもそれなりのものが必要だ。

私がスバルたちそれぞれに教えられるだけ教えたものも、それぞれの持ち物を伸ばしただけ。

何人もの教え子を受け持っているんだ、中には痛い位の努力を繰り替えしている子もいた。

下手をすると、私でもビックリするくらいに。

だけど、それで全て上手く行くはずなんてなくて…無意味じゃないにしても、結局私を追い越して強くなるような子だってそうは会えない。

そういう私だってリライヴちゃんやお兄ちゃんにはまだ…

 

それが現実なんだって、そう言い聞かせるように目を閉じようとして…

 

 

 

 

「は…あぁぁぁぁっ!!!」

 

 

 

 

まるで私の心の声を断ち切るかのように響いた声に目をやると、墜落寸前で立ち直ったらしいフォートが私に向かってきた。

 

…分かってる。

フォートにイラついていた理由も、それを隠したかったのも全部本当は分かってる。

 

高町速人ですら成りきれてないものになろうとしている彼がこの程度なのが許せないから。

 

フォートを倒す事は、自分自身で速人お兄ちゃんを打ち砕くような気がして、でも彼がこの程度でお兄ちゃんの真似事なんかしていたらいずれ死んでしまう。

彼を止めるのも望んでないけど放ってもおけない、二律背反。

 

 

だからきっと、私は今どこかで、手加減せずに全力でやって負ける自分を望んでいる。

 

 

もういい、吹っ切る。

フォートにはどう頑張っても私を倒すだけの力はない、それが分かった上で、全力全開で戦う。

 

 

この席に着きたかったら、これ位超えて見せてフォート。

 

 

はやてちゃんが私を出した気持ちが少しだけ分かった気がした。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 




魔力で編まれた防護服…バリアジャケットって触るとどんな感触なのかとふと疑問に。
埃の発生しない生地+ある程度耐熱耐冷防御能力ありなら、寝る時に着てればすっごい気持ちよさそうなものです(笑)。
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