秘録最終話・心のちからが紡ぐ奇跡
Side~フェイト=T=ハラオウン
すさまじい衝撃だった。
なのははいつもこんなものを受け止めながら最後の一撃を任されているのかと、一応は砲撃魔法も使える私が戦慄する程の代物だった。
私自身の骨も危ないし、バルディッシュも結構な負荷だったらしく嫌な音を立てている。
でも…持ち堪えた。大団円だ。
これでヒドゥンが倒せていたのなら。
バチバチと、全身揺らめいて傷だらけのような様相だったのが落ち着いていくのが見える。
ダメージが通らなかったって訳じゃない。けれど…消しきれなかった。
気絶した皆も含めて集まって漂っている私達は、言葉もなくその光景を見つめていて…
「…皆さん、ありがとうございました。」
「元々こっちの仕事だもん…ね。後は任せて。」
「アミタ!キリエ!ッ…」
止めようと手を伸ばすも無駄だった。
反動のダメージが大きくて体がロクに動かせない中、二人はヒドゥンに肉薄する。
そして…
二つの大爆発が起きた。
オーバーブラスト。
アミタ達の全てを使い切る切り札と聞いてる。
直撃こそしたけれど、結局倒しきれるわけもなくて…
「…まだ。」
呟くように漏れた声がリライヴからのものだと気付いて顔を向けると、リライヴはシュークリームを丸ごと一個無理矢理口に押し込んでいた。
プットアウトで取り出したんだろうソレを飲み込むと、イノセントを握る手に力を込めるリライヴ。
吸収の早い糖類を、少しでも魔力の足しにしたつもりなんだろう。
「最初ユーリの攻撃すら効かなかったけど…」
言いながらリライヴが指差したヒドゥンは、またいくつかの箇所が型を成していなかった。
アミタとキリエには悪いけど、二人の攻撃よりユーリの攻撃の方が弱いわけが無い。
つまり…消耗させられてはいるんだ。
「有限なんだ、フォートに速人にアレだけさせて繋いだこの一戦…世界云々関係なしに、絶対に譲れない…譲ってたまるかっ!!!」
意思は十二分に時の空間を翔けるリライヴ。
けれど、体がそれでついていくわけでもなく、バーストセイバーをありったけ以上の力を借りて放った彼女にも、当然あんなものと戦う力はない。
「だからって…放っておけない。」
「だ…ね。」
ボロボロのデバイスを手に、私となのはは最後残った魔力を込める。
「ディバイン…バスターッ!!!」
咆哮のような叫びと共に放たれたなのはの砲撃に続くようにして、私は高速移動で距離を詰めて斬りかかった。
命中と同時にバルディッシュが砕け、拳に魔力を乗せて殴りかかって…
尾が動くのが見えて…そして…
Side~フェアレ=アート
アイシスとエフスにちょっとだけ離れて貰って一人で立つ。
皆が…フォートが飛び込んだ空間があった場所に。
エクリプスに関わって、アンチエクリプスを…イデアシステムって言うものの改造をされた結果、私は色々なものをなくしてしまった。
フォートが手放しで可愛いと言ってくれてた顔の半分は機械になって、練習してた洋裁は指先に残る麻痺のせいで今は殆ど出来なくて、それどころか普通の生活がやっとの感じ。
形も硬さもばらばらのおにぎりを、それでも私が頑張って作ったからってだけで喜んで食べてくれたフォート。
だけどそれが、フォートから見ても今の私が頑張って出来る事がその程度なんだって証明してるみたいでかえって悲しくて…
フォートが想い出を見つめながら、色々なくした私をそれでも助けて心の底から喜んでくれた私。
そんな私が私のままで、今のフォートに届けられるもの…エフスとフォートに助けられたあの日から、ずっとソレを考えていた。
全てが終わったと勘違いした、傷だらけのフォートが帰って来た日に丁度出来上がったソレは、本当はフォートと二人きりの時に届けたかったんだけれど…まだ残っていた問題があって、フォートは戦いに行ってしまった。
戦いの前には足かせにしかならないと思って何も出来なかった。
でも、もし厳しい状況なんだとしたら…届けたい。
ちゃんと帰って来て欲しいから。
だから…唯一私そのままの物を…
声を…歌を…貴方に。
祈るように、私は大きく息を吸い込んだ。
Side~アイシス=イーグレット
フォートとの想い出と、フォートへの想いをそのままにした歌詞を、旋律に乗せてまるで宝物のように一つ一つ紡ぐフェアレ。
その歌は、決して特別技術的に凄いとか、そんな事はなかった。
でも…これまで聞いた事がないほど綺麗に感じた。
当たり前だ。
施設で改造されてた所から救出されて、髪が命とか言うレベルじゃないくらい傷だらけになっちゃった顔と動かなくなった身体で、くじけずに考えたんだ。
見た目を元に戻す方法とか、麻痺を治す方法とかじゃなくて…
フォートが助けようと頑張ったフェアレ=アートって娘が元から持っていて、今も尚そのままに残っている、フォートに届けられるモノを。
敵わない。ホント、敵わないなぁ…
そんな事をしてしまう娘だから、アンチエクリプスなんてシステムに適合してしまったんだけど、誘拐されて生き残ってたのが適合したからなら、それすらギフトのように見えてしまう。
お世辞にも綺麗と言えない状態で、高い技術を誇るでもない声を響かせているのに…
絵に描いた天使より、全然綺麗だった。
「ってあれ?」
と、あたしはあることに気付いた。
フェアレにつながれた機材が、淡い光を帯びていた。
あれ…ひょっとして起動してるんじゃ…
とめようと思って近づこうとしたあたしは、唐突に腕を掴まれた。
「ロックはかけてある。俺が整備担当だったんだ、間違いは無い。」
「で、でも…」
技術班であるエフスが言うのだから間違いは無いんだろうけれど、今実際に光っている機材を見ていると不安になる。
もし彼女が記憶を失ったらあまりにも…
「エクリプスと同じだ。」
「え?」
「エクリプスが、発生した憎しみをエネルギーにしているのと同じ反応だ。」
エフスの言葉の意味に気付いたあたしは、その意味を反芻しながら改めてフェアレを見る。
エクリプスが憎しみに反応してその力を発揮していて、同じように、今彼女が歌に込めている気持ちに反応してアンチエクリプスが…イデアシステムが発動しているのなら…
想い人へ伝えたい気持ちをエネルギーに光っているんだ。
綺麗に見えて当然だな。
「届いてるよね。」
「ああ…」
何処に行ったのかもよく分からない彼らに声なんて届く訳が無い。
理論的にそんな事はありえない。そんな事分かった上で、祈らずにいられなかった。
Side~高町なのは
捨て身とばかりに飛び込んだものの、あれだけのブレイカーですら倒しきれなかったヒドゥンを倒す力なんて残ってる訳もなくて、接近戦を図ったリライヴちゃんとフェイトちゃんが倒され、私も力を使いきったところに光弾の一撃を受けて動けなくなっていた。
そんな中、奇跡が起きた。
歌が聞こえるという奇跡が。
…それだけが。
祈りや願いの力で活力が戻ってきたりする事もないし、眼前の危機が消えてなくなるわけでもない。
「ぅ…ぁ…」
意識があるだけ不幸なんだろうか?
何も出来ずに絶望的な光景を目の当たりにする。
ブレスを溜めるヒドゥン。
魔法の発動所か腕一つまともに動かないのに、防御魔法を発動出来たって防げない攻撃なんて撃たれたら…
ヒドゥンの頭が光った。
視界も霞みつつある今の私には、それがとどめの一撃が放たれる瞬間に見えた。
でもソレは…放たれた赤い砲撃魔法の雨が、ヒドゥンに直撃した結果だった。
ボロボロの体を無理矢理に動かして見れば…
フォートがデバイスを構えていた。
Side~フォート=トレイア
真っ暗な視界の中、身体から力が失われ続けていく中、俺はソレを耳にした。
「昔からずっと傍にいて、ずっと護ってくれてた。」
それは歌。
それも、俺の尤も大事な人の。
「やきもちがなんだかうれしくて、ヒーローの話してた。」
小悪魔的な昔話は、恥ずかしそうな気持ちと共に…
「傍にいてくれるって約束だけで嬉しかった。なのに…」
俺の約束に喜んだ事は、この上なく大切な宝物を扱うような気持ちと共に…
「何もかも無くした私との、貴方を信じなかった私との、約束を…身を削ってまで守って、本物になってしまった。」
俺を忘れたと偽った事を裏切りと言いながら泣きそうな気持ちを、それを真に受けた上で諦めなかった事に感激した気持ちを…
音を超えた心そのものが届いてくるようだった。
イデアシステムに記憶を蝕まれる中、俺の事だけは忘れないようにと覚えている限りを繰り返しノートに綴っていたらしいフェアレ。
繰り返すうちに焼き付けられるように重ねられた想いが、距離も空間も関係なく、一切の劣化無く…むしろ、ただ声で聞くより強く届く。
「本当は止めたいの、平和より貴方を失うのが怖いから。だけど…もう二度と疑わないと決めたから。だから…」
フェアレの救出が終わって、ずっと一緒にいられるようになった以上、俺が戦う必要なんてない。
本当の本物の事件を戦いを知って、ソレに関わろうとする俺を…俺を失う事を恐れる不安。
本当は、この歌は…イデアシステム研究施設の破壊に向かう前に届けようとしていたんだろう。
本当は、もう必要のないはずの暴露だったんだろう。
それが今…
『俺を疑って傷つけた』ってただそれだけを繰り返さないために、施設一つなんかより余程危険な相手に向かう俺を見送る不安を飲み込んで…
「フォート…守って…大切な物。幸せに繋がる全部を。守って、そして、帰ってきてね。私だけのヒーロー。」
フェアレが嬉々として話して、俺が目指した『本物』になる事を願って信じて、待つ事を選んでくれた。
ドクン。
胸の奥の方で怒りのようなものが強く爆ぜる。
それは、いつもの…何度も味わってきた脈動の最大級。
無能の俺にフォースドライブを仕込む為に極限の鍛錬を課した結果生まれた副産物。
力尽きるまで、逃げたくなるまで、心折れるまで課された訓練の末に、俺を立たせてきたアイツの嫌がらせ。
『やっぱ俺が助けてやるからお前帰って待ってろって。』
自分以外を戦わせたくないアイツの…本音九割。
そして…そんなアイツを目指した俺への期待一割。
動かない身体、届かない課題、逃げたい苦痛、そして…
示された不可能への…反逆の脈動。
一瞬でもなのはさんに繋ぐ事は出来たと安心してた事を恥じる。
そうだよ、あの馬鹿が…俺の目指したモノが、それでいい訳がない。
何より…今この歌に、俺が応えないなんて…ありえない。絶対に!!!
『魔力エンプティ内臓損傷数箇所骨折多数、動けば死』
『リベリオン。』
俺の意図を感じたらしいリベリオンから矢次に放たれる機械音声を断ち切る。
分かってる。動けばってかそもそも今だって目を開いてんだか閉じてんだか、視界がはっきりしてないくらいなんだから。
でも…そんなもの関係ない。
『アイツの声に応えないフォート=トレイアなんて、存在しちゃいけないんだ。』
『…了解。』
それは、たとえ不毛の道となったとしてもフェアレを助けると決めたあの日と同じ。
まして、真紅のマントを、折れない聖剣を、ヒロインの心を…
全てを手にしている今になって俺が投げるなんてそんな事あってたまるか!
『『不可能への反逆をっ!!』』
まともな意識で念じるのは唯一つ。意識としてまともに残ってるかすら分からないまま、俺は動いた。
Side~高町なのは
動けるはずがない。
明らかに内臓破裂を起こしている吐血量。
出血もさることながら、そんなダメージで動けるはずがない。
なのに、それが当たり前であるかのように…
当たり前なんだ。
彼にとってのヒーローは、フェアレさんの憧れた姿。
フォートがソレに成ったのなら…フェアレさんが奇跡まで起こして届けた声に応えるのは…きっと彼にとっての当たり前。
「ぁーっ!!!」
もはや声にもなっていない音を多量の血と共に吐きながら、フォートは翔る。
どこからひねり出しているのか分からない魔力で魔法を放ち、動けるはずがない身体で剣を振るう。
体を包む淡い光はリベリオンの精いっぱいの補助だろう。
獣や嵐さながらに翔るフォート。その姿は燃え尽きる前の蝋燭の様にも見えて…
あれじゃ、せっかく頑張っても無理だ。
助けたい、死なせたくない。
でも、もう何一つ出来ない。
出来ることを精一杯してきた私には、彼のような真似は
「ぁ…」
…あった。
今の私に出来ること、今の私が力になれること、気付いてしまった。
でもそれは…辛くて悲しくて…
それでも…出来ることまでしないわけには行かなかった。
Side~高町速人
剣を抜くどころか、指すら動く気がしなかった。
フォートの奴が戦えているって言うのに、歌に応えたって言うのに…
けれど、願っても意志しても体が動く気配すらなくて。
超えなきゃ行けない限界に飲み込まれ…
駄目…戦…俺は…
『…て。』
声。
知っている声、聞き知った声。
『…す……た…て』
混濁する意識の中、その声は酷く遠く近くから聞こえてきた気がした。
誰の?知ってる、どこから?これは…
『助けて…』
なのはの…泣き声。
思考は回っていなかった。でも、心が感じ取った。
何で泣いているのかを。
俺の力になろうと、助けられてばかりは嫌だと鍛えてきて、出来ることを懸命に積み上げて来て、その最後の最後…
唯一残った『出来る事』が、フェアレがフォートを動かしているように、ヒーローを…『不可能を覆す者』を立ち上がらせる為に『助けを請う』事だから。
『助けて…速人お兄ちゃん…』
その言葉は、どれだけ心で泣きながら発しているのか。俺はよく知っている…
ここまでさせて…寝てられる訳が無い!!
腕を動かす。動かない、うるさい黙れ動かす。
背にした禍喰乃太刀を握る、抜き放つ。
『ナギハ…やれるな?』
『私…あ…たの…風の刃…当然…す…』
フル稼働した上、刀身も砕けたナギハから届く、途切れ途切れの機械音声。
その癖、今までで一番頼りに出来そうで笑える。
身体が鈍うるさい動かな黙れ意識がと知るか!!!
「っだああぁぁぁぁっ!!!」
ナギハにより展開された足場を蹴りながら時空間を全力で駆ける。
そのまま渾身の一撃を…
振り下ろす前に、羽根を振るいながら回転したヒドゥンに弾かれた。
フォートも吹っ飛ばされて、赤い何かを吹き出しながら宙を流される。
口に滲む血の味を噛み潰すように歯を食いしばる。
ヒドゥンがブレスを吐いてきた。
防げる訳がない。
避けるしかないが、気がついてようやく体勢を整えられた現状、間に合うわけもなく…
「『ディバイドゼロ!!エクリプス!!!』」
閃光が、ブレスを横から貫いた。
光にのまれたヒドゥンのブレスは、まるで霧の様に細かな光の粒になって消えていく。
閃光を放ったのは、初手で全快のヒドゥンが放ったブレスをまともに受けに行ったはずのトーマ。
「俺にっ…消せない災厄なんか…」
言い切る前に力を使い切った反動か、トーマはそのまま眠るように動かなくなった。
ヒドゥンもブレスを抜いたディバイドの一撃を受けて動かなくなっている。
今だ。
神速も何も考えない、ただ一足に全てを集中させる。
ナギハが展開した魔法陣に全てをかけ、跳躍。
「っ…らぬけえぇぇぇぇっ!!!!」
刀が、深々とヒドゥンの顎から頭の先まで突き刺さった。
刺さったまでは良かったが…全く動かない。
言ってる場合じゃない、動かないじゃないんだ動け。動け動け動けッ!!
「ぁああぁぁぁっ!!!!!」
突き刺さった刀を振りぬいてヒドゥンを両断しようと力を込めていると、丁度そこにフォートが飛んで来た。
回転から、俺の刀と交差するようにフォートが振るった一撃が、俺の刀の真裏に添えられ…
そのまま、ヒドゥンを頭から十字に切り裂き四つに分けた。
やった。
一瞬そう思って…四つに分かれた光が揺れながらまとまろうとしている事に気付く。
「っ…まだだぁっ!!!」
俺は、叫んで、デタラメに禍喰乃太刀を振り回した。
力の続く限り、意識の続く限りとそう思って。
俺の声を聞いたフォートも無意識かソレを選んだらしく、体裁も体勢も型も何もなくひたすらがむしゃらに斬撃が空間を薙ぐ。
そして…フォートが動かなくなった事に気付いた俺は…
周囲が何の力も無い空間になっている事に…ソレが意味する事に気付いて、動かなくなった。
SIDE OUT
歌ってモノによっては一瞬で泣けたりするので、気持ちを届けるのには結構な代物だと思います。