なのは+『心のちから』   作:黒影翼

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そして秘録は伏せられた

 

 

そして秘録は伏せられた

 

 

 

 

消し炭となった資料を踏み崩した上で水をかけて後始末を済ませた僕は、そこで一息吐いた。

 

…本当、どうかしている。

 

正直全情報を聞いた上でラルゴ元元帥の判断が間違っていたと言い切れない自分がいる。

時に関する記録を排除するために、任務に携わったわけでも無いのに記憶を残されているからこそ言える話ではあるけれど、この、時の操作に関する技術知識が無い状態で今回の件を片付けようとすれば、それは並大抵の事ではすまないだろう。

 

と言うより、技術があって並大抵の事で済んでいない。

それは、世界の一つや二つ救えるだろうメンバーが揃いも揃って一人も意識を残していなかったと言う結果が物語っている。

戻って来た時、たまたまその場に転移術の得意なエフスがいなかったら死者も出ただろう。

それ位の惨状だった。

 

特に…速人とフォートの二人は酷かったらしい。

 

皆重傷から重体という有様だったけど、二人はまるで『穴の開いた袋を振り回したような出血』を体内に抱えていた。

戦闘データはすぐに消したらしいから詳細は聞いていないけど、何をしたかなんて聞かなくても分かる。

 

どうせ胴に直撃食らって尚手足が動く限り戦ったんだろう。

神風なんてまともに使ったら骨折必死の移動法編み出す速人とその唯一の愛弟子だ、そこまで馬鹿やっても何も不思議はない。

 

 

 

尤も、それはそれ、これはこれ。

難度の高い案件だからとラルゴさん達が無条件で見逃される事はさすがになかった。

 

管理局の対面上、また、理由に十二分に納得できるだけの重さがあったため、表向き引退と言う形で地位から外れる程度で済まされたラルゴさんだけれど、当然監視下で余生を送る事となる。

そして、内部犯が誰もいなかった事にも出来ず、ランド少将がかぶれるだけの罪を全て被って終身刑となっている。

 

 

と言うのも、氷結刑は消される事になった。

 

原因は、刑罰の倫理とかの話じゃなく、ヒドゥン誕生の経緯についての分析結果のせいである。

当たり前だけど、元々『時の流れ』なんてものに意識は存在しない。

それに対して、ただ永い時を苦しめる刑罰を与えるために封じられた人…つまり、次元氷結刑だのなんだのを受けた人々の精神、意志、怨念、憎悪…それが幽霊、イデアシードのように束になって力を得て、時の流れと融合した結果、現世を憎む時の怨念と言う形で時竜となった…

 

って、予測があるらしい。

 

去り際のアミタ達専門家ですら予測の段階の情報なので正解はわからないが、万一でもなんでもこんな物に何度も誕生されてはたまらない。

時の話を伏せたまま法を弄る事になるので大変ではあるが、それでもやるしかないと言う事だった。

 

 

そして…ラルゴさんが時竜を排除した後の全てを、人生と引き換えに託そうとしていた事を知ったはやては、地位欲しさ…と言う訳じゃないけれど、世界の安定と守護の役を継ぐために頑張っている。

隻眼になったからか、そんな事態に巻き込まれて尚平然と激務に繰り出しているからか、小娘扱いするような高官は目立たなくなったらしい。

 

 

そんなはやてがやりやすくなっている要因がもう一つ。

 

 

「邪魔するぞユーノ。資料の処理終わったのか?」

「って、伏せるためにやってるんだからそんなべらべら喋らないでよ…」

 

その要因の核を担っている速人が、僕が処理している灰を見ながらあっさり危険な発言をする。

残せない物を処理してるとは言え、何も知らない一般人から見ればとんでもない事をしでかしているように見えるんだから、あまり声にしないで欲しい。

どこかで誰か聞いていたらどうする気なんだか。

 

「分かったって心配性め。それより、これ検索頼む。」

「あ、うん…ってオイ、そんな片手間に言わないでくれよこの量。」

 

受け取って思わず突っ込んでしまった。

紙にびっしり書き込まれた名前や情報。

一人や一時期、一つの事柄ならともかく、関連事項を検索するとなると、紙一枚分を『書庫内全ての資料から探し出す』なんて馬鹿みたいに重い魔法を制御する必要があるわけで…少なくとも投げ渡して世間話の合間に済ませるようなノリの量じゃない。

 

 

嘱託権限持ちのフリー魔導師、高町速人一行は、はやてを中心に局からの無茶振りを片っ端からこなす日常を送っている。

 

表では、あの紙芝居とランド少将の逮捕から、『英雄八神はやて率いる特務六課を救ったヒーローの正体』として救世主代表のような扱いを受けている。

その上で、ちょっと危険な話があってもあっさり引き受けて片付けてくれる一団となってしまっている。

 

特に速人は完全気配遮断を使えば、礼状なしで証拠を拾うって言うある種反則技を持っている為、犯人と『予想される』一団相手にも調査が可能と言う、グレーゾーン全開の使われ方をしている。

今回の資料も、その犯人予想を絞るための物だ。

 

そんな高町速人一行の一人と認識されているリライヴも、戦闘要員として危険な任務を請け負っている為、今回伏せられたヒドゥン撃破の実績も含めて魔力制限を解除される事になった。

尤も、元々自力で解除できた上に速人の許可が出た内容に関わる時には勝手に解除していたらしいので、あまり封印自体意味は無かったみたいだけど。

ただ、これで私用や訓練でも全力を出せるようになったと言う事で、本人より世界最強に挑みたい知り合いの方が喜んでいる。

 

平和に繋がる友人からの依頼、迷わずこなしたいけど、量が量だけに恨みたい気持ちもこうヒシヒシと沸いて来るんだよなぁ…ま、それだけ沢山の事件を止めて回ってるって事だけど。

 

「しかし君も大変と言うか、君に付き合ってる皆が大変と言うか…」

 

管理局は今、どたばただの再編だので予算を多量に裂けない所がある。

だから、速人はこれだけ沢山の事件を捌きながら…嘱託扱いで事件を捌いている為、時給換算だと…お巡りさんの一般正規局員より低い。

その上で、速人は白い堕天使の出した被害の責を負うという契約を、あろう事か作られたニルやOAシリーズの皆への風当たりを軽くするため全部負っている為、返済含めて火の車状態だ。

 

「俺は望む所だし、俺の望みに力を貸してくれてるのは皆の望みなんだ。ありがとうとは言っても申し訳ないとは言わない。だからどっちも言うな。」

「そっか…」

 

速人が笑ってやるのは当然だとは思ってた。ただ、後者はちょっと予想外だった。

皆に負担をかけること『だけ』危惧してるようなら忠告の一つもしておこうかと思ったけど…余計なお世話だったみたいだ。

 

 

「…コイツに恥じないだけ頑張らなきゃならないしな。」

 

 

背中の太刀を少し抜いて刃の鍔元を光に晒し、再び納める速人。

 

 

呪いの刀との話だった太刀からは、なんの声もしない。

 

 

何があったのかまでは聞いていないけれど…アミタとキリエも、戦闘不能の状態で帰ってきた。

 

それは、あの空間から誰が何をして帰ってこれたのか。

きっとその辺に関わる事なんだろう。

 

憎悪に満ちた…それでも、自分から連れて行く事を選んだ声。それが失われている。

 

 

「どうせすぐには無理な量だし、少しゆっくりしていくといいよ。」

「…さんきゅ。」

 

 

心も身体も傷ついているだろうに、笑って当たり前みたいにしている速人。

直接力になれないまでも、できるだけは…ね。

 

 

灰に変わった速人達の死闘の記録に視線を移す。

平和になった今が…この時間が、この先の時間が、タダで拾えた物じゃない事を知っている。覚えている事を許されている僅かな人間の一人として、生きている間くらい目一杯速人達の力になろう。

 

灰を捨てつつ、僕は自身に念じるように小さく頷いた。

 

 

 

 

 

 

 




未整理区画なんてものが未だに残っている時点でこの記録の排除を延々と任されたユーノって命がけでないだけで一番大変かもしれないです(汗)。
※15/9/2、追加修整
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