なのは+『心のちから』   作:黒影翼

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余録・始まりの夢

 

 

余録・始まりの夢

 

 

 

 

Side~フォート=トレイア

 

 

 

 

「小遣いぃ?…いくらだ?」

「1万。」

「ぶっ!!!」

 

欲しいと言った額が子供の値段じゃなかったからか、父さんが思いっきり咳き込んだ。

 

「馬鹿言え!父さんそんなにお金ないぞ!」

「しばらく飲み会とか行かなきゃ何とかなるだろ。」

「マセた事覚えてるなこら、駄目だ、話にならん。」

 

ばっさりと断られたが、それくらいは考えてる。

 

「魔法戦。」

「は?」

「俺が勝ったらくれ。」

 

昔管理局に勤めようとしてたらしく、今でもインターミドルとかのファンの父さん。

俺がこれで誘えば引けないだろう。

 

 

 

 

 

懐かしい…幼い頃の夢。

 

 

 

 

 

休日に休まないといけないという事で、学校と仕事が終わった夕暮れ時。

 

「あ…つ…うぐ…」

 

俺は先手を譲って貰っておきながら一発の誘導弾を受けて地面を転がっていた。

 

「いくら魔導師に才能が絡むから子供でも大人と戦える人がいるったってな…お前は俺の子供何だから、大した才能ないだろ。」

 

倒れてる俺を前に呆れたように呟く父さん。

…うるさい、わかってる。

魔法には才能が絡んできて、母さんは一般人で父さんは局員を諦める程度の才しかない。

 

でも…それでも!!

 

「お、おいおい…」

「ぅ…ああぁぁぁぁぁ!!!」

 

右手の短杖型の簡易デバイスを振りかぶり突撃。

呆れたように迎え撃つ体勢をとった父さんに向かって…

 

 

「うぁ!」

 

 

左手に隠し持った砂を投げた。

顔面に直撃した父さんが目を閉じ腕で擦ったその瞬間…

 

「あごぉ!?」

 

右手の杖でただ思いっきり股間をぶん殴った。

前かがみになった父さんの顔面が下がる。

 

「フォトンバレット!」

 

空いた左手を使っての射撃魔法を顔面に向かって放つ。

初歩も初歩の魔法で、俺が使える数少ない魔法の一つ。

それでも、視界を奪われ急所攻撃にのた打ち回ってる父さんにとってはそれなりのもので、直撃した父さんはその場にひっくり返る。

 

俺はなりふり構わずに飛び掛った。

分かってる、ただの子供の力で、まして単発で倒しきれる訳が無い。

だからって…諦めるか!千載一遇のチャンスなんだ!

 

 

「フォトンバレットフォトンバレットフォトンバレットフォトンバレット!」

 

 

マウントポジションをとって顔面目掛けての魔力弾の連射。

慣れれば名前をわざわざ言わなくても出来る超初歩魔法だけど、言ったほうが楽だ。

自分が下手なことくらい分かっているから、ひたすらに叫び続ける。

 

「フォトンバレットフォトンバレットフォトンバレットフォトンバレット!」

 

疲れてきた。でも、まだだ。分かってる。

それでもひたすらに…ひたすらに繰り返して…

 

「フォロンバレット…フォンファレッド…ホロンアエット…っ…」

 

手が光もしなくなったのに気付いて立ち上がった。

これで父さんが起きる様なら…もう杖だけでやるしかない。

 

 

でも…父さんは起きなかった。

 

 

「…っし!!ぁ…」

 

 

思わずガッツポーズをとった俺は、そのまま意識を失って倒れた。

 

 

 

 

 

 

もぎ取った1万を持ってって買った人形を手にして、フェアレの家に向かう。

 

何でも、管理外世界経由での代物で、魔法技術一切ない世界だからこそ眠っているらしい『しょくにんげい』とか言うのが使われているんだとか。

 

「ったく…子供のプレゼントじゃないだろ…」

「勝ったんだから子供も大人もないだろ。」

「誰に似たんだか。」

 

値段が高すぎて子供に持たせられないと買い物についてきた父さんの言葉を聞き流しながら、辿り着いたフェアレの家で俺はインターホンを押した。

 

「はい…あ…フォート…」

 

やがて出てきたフェアレに、俺は買って来た人形を渡す。

フェアレは包み紙を開いて中身を見て、息を呑んだ。

 

仕事の都合で半年から一年位家を離れるって事になって寂しがっているフェアレ。

さすがについていけないまでも欲しがっていた人形くらいはと思って、今回の挑戦に踏み切った。

 

値段の事も知っていて、傷だらけの俺と父さんの様子を見て何があったのか分からないと言わんばかりに人形と俺を見比べるフェアレ。

 

「…やる。」

「っ…ぁ…」

 

やがて俺の意図に気付いたフェアレは、人形を抱えて泣き出した。

泣いて欲しくないから色々やってるんだけど…中々思うように行かない。

 

 

 

 

…そんなフェアレが、空港火災に襲われて笑顔で帰ってきた。

 

 

 

 

今にして思えば、俺があげた人形を大事に抱えていたのだから、本当の所はちゃんと見れば見えたのかもしれない。

けれど、その時の俺には、フェアレが嬉々として話す、猛火の中から命でなく人形一つを探しだすために飛び込んだ、真紅のマントを背にしたヒーローの奴が、どうしてもうらやましかった。

 

負けたくなかった。絶対。

それ位フェアレの為なら俺だってと思った。

 

けれど…本物が…俺と違ってフェアレ個人に思い入れがある訳じゃない噂のヒーローとやらが…

その馬鹿を『誰に対しても』やっているって事がどういう事なのか、まるで分かっていなかった俺は…

 

 

 

 

 

世界を救うのに命を懸けて、追いつけたんだろうか?

 

 

 

 

 

「…ト…フォ……」

 

いまいち実感が沸かない。

沸かないけど…

 

 

 

「フォー…きて……ト…」

 

 

 

とりあえず、実感だの何だのより、分かってる事が一つある。

 

 

 

 

「フォート起きて…目を覚まして…お願い…」

 

 

 

 

聞こえてくるフェアレの声に今の俺が応えないなんて、そんな事は絶対にありえない。

これは物理法則より優先だ、文句があるなら止めてみろ。

 

医者にも世界にも喧嘩を売る気で一念を込めて、俺は無理矢理起きた。

 

 

 

そもそも自分がどんな状態になってるのか分かってなかった俺は、ベッドの上で身体を起こして、そのまんま血の塊を吐いた。

 

腹?胃?よくわかんないが痛い上に口に広がる鉄の味が不味い。

 

ま、そんなのはいい。とりあえず…

 

 

 

 

「「寝てろ馬鹿!!」」

 

 

 

 

フェアレに応えないとと姿を探して、すぐに見つけた呆然と硬直しているフェアレ。

その後ろから、アイシスとエフスが並んで凄い剣幕で怒鳴ってきた。

 

「ホント馬鹿!筋金入りのフェアレ馬鹿!起きろって言ったら治らないまんま起きちゃうよって話してたら本当に起き上がるし!」

「貴様死体寸前の重体だったんだぞ!血中に溶剤が混ざるからとポッドも使えなかったというのに何をあっさり起きている!死ぬ気か!!」

 

言い返そうとも思ったが、口を開くと何かがこぼれる感じになってしまう。

ホラーさながらの様相になると自分で想像ついたので、とりあえず楽する事にして横になりなおした。

不安にさせてたら元も子もない。

 

「フォート…」

『何か悪いな、念話でいいか?』

「っ…うん、生きててくれたらいいからっ。無理しないでお願い…」

 

半泣きのフェアレの言葉に、他人事のようにそりゃそうだと思った。

起きて敵も問題もないのに重体の身体で血を吐きながら起きてる理由がない。ってかそんなの傍にいられても気が休まらないだろう。

殆ど無意識だったせいで起きなきゃと思ったが、今起きる必要は全くないな。

 

『…大丈夫。』

「え?」

『お前の願いならこの身体だって動けるんだ、治す位軽いさ。だから心配しなくていい、すぐ治すからとりあえずデートにでも行こうぜ。』

「っ…うん…っ!」

 

安心させるつもりだったんだけれど、俺の手を包む暖かい感触と共に残った瞳から涙を零すフェアレ。

俺はその様子に、走馬灯みたいに見てた夢の光景を思い返す。

そして、今度はリベリオンのみに向けて質問を投げかけた。

 

 

『リベリオン、速人はどうしてる?』

『マスター同様重体でしたが、ポッドが使える状態では済んでいた為最低限の回復を済ませて活動中です。』

 

追いつけたかと思ったが…確信した、やっぱ駄目だ。

 

フリでも何でも普通に動いてれば、それ見て泣く奴はいないだろう。

重体で、ようやっと目を覚ましてるような有様だから、フェアレを泣かせてるんだ。

 

 

だから…

 

 

目を閉じて、集中。

リベリオンから送られてくる設計データそのままに、繋がるべき血管、塞がるべき傷を覆い、意図的に全力でリベリオンに魔力を流す。

俺が回復魔法を使える訳じゃないが、『組み込まれたデータ通りに形成される』能力を持ってるリベリオンに魔力の全ての使用を許せば、回復の進みは早くなる。

 

尤も、『傷が塞がる』と言うだけで、神経系や疲弊の回復にはならないが…

 

 

…いつまでも寝てる訳には行かない。

 

 

 

Side~フェアレ=アート

 

 

 

人形が好きで、フォートが無理して手に入れてくれた管理外世界の人形を貰ってからはそれをずっと持っていた。

 

そんな私をからかうためか何か、理由は分からないけれど、同じ歳の子にとられてしまって逃げられた。

変わった事をしていて目立ったからかもしれないし、人形が珍しかったからかもしれない。

それだけは…って追いかけたけど、乱暴とかは出来なくて、結局泣きながら逃げる子についていくしか出来なくて…

 

「あーもー…俺に言えって言ったろ?」

 

見失って一人泣いていた私の所に、人形を取り返してくれたフォートが現れた。

 

「だって…そしたらフォートも…」

 

巻き込んでしまうと思った私に取り返してくれた人形を返しながら、私の頭を撫でる。

 

「俺が護ってやる。お前の傍に居るのは俺なんだから。」

「フォート…」

「俺がお前の―お前だけのヒーローになってやるよ。」

 

炎の中から救い出してくれた人形。

私がしたその話を聞いたフォートが機嫌を悪くして…

そしてそれが、私がフォート以外の話を嬉々としてしているからだって気付いた私は、時々思い出すようにその話をしてきていた。

私の目が余所を見ている事に怒ってくれるフォートが、私を大事にしてくれてるって、そう感じさせてくれるから。

 

 

 

誘拐された時は、そんな我儘のせいで、バチが当たったんだと思った。

 

 

 

子供なんかに不釣合いな人形を欲しがって、そんな私の為に無茶して手に入れてくれたフォートを大事にしなかった私への罰。

だから…家族を失って改造された私は、その償いのつもりもあって、アンチエクリプスに適合した事もあって私が実験に協力的になる事で被害者を増やさないように交渉した。

 

そして…想い出以外全部なくしてしまった私は、その想い出すら奪われていくことになって…それでもフォートとの記憶だけは失わないようにと、時間がある間はノートにありったけの想い出を綴って…

 

 

 

 

 

「フェアレエエェェェェェッ!!!!!」

 

 

 

 

そんな私の前に、ヒーローになってしまったフォートが現れた。

 

 

私の傍にいてくれる私の為のヒーロー…じゃない。

私が嬉々として話していた、本物のヒーローに。

 

 

都市伝説のような噂で流れていた、たった一人で管理局より人々を救ってるんじゃないかなんて、そんな馬鹿みたいな噂すら出ていたヒーロー。

 

そんなものになれる力なんてフォートにはないのに。

魔導の才能は遺伝が強くて、管理局にも就職できなかったってフォートのお父さんは落ち込んでたくらいなのに。

 

なのに…最新兵器で身を固めた管理局の人と、それでも対処仕切れない感染者の戦いの渦中に、フォートは現れた。

 

それだけで充分だった。

 

改造で傷ついた身体に頭、未来のない身で仮に助けられたって幸せなんて繋がらない。

だから…エフスに協力してもらって諦めて貰おうとしたのに…

 

 

 

『そんなの嫌だろ。』

 

 

 

『私との約束を諦める自分』を見る事が嫌だと、たったそれだけの為に立ち上がったフォートの一言を、エフスが録音してくれたデバイスから聞いた私は、ボロボロと涙を零すのを止められなかった。

充分だ、なんて言葉で諦めた私にまだ尚手を伸ばすフォートを、もう二度と疑わないと決めて、そして…

 

 

 

本当に、世界を救ってきちゃった。

 

 

 

理由は簡単。

私がフォートの前で褒めた本物が出来る事なら、同じことが出来なきゃいけないから。

 

「けど、本当に起きちゃうとはね。アイツの前であんまり無茶言わないほうがいいかもね。」

「です…ね。」

 

アイシスとエフスと一緒の、フォートのお見舞いの帰り道。

傷だらけで目覚めないフォートを前に起きてと泣いてしまった私の前で、飛び起きるようにして起きたフォートはそのまま血の塊を吐き出した。

 

あんな事までされたら、もう何を言うのもおっかなびっくりだ。でも…

 

『お前の願いならこの身体だって動けるんだ、治す位軽いさ。だから心配しなくていい、すぐ治すからとりあえずデートにでも行こうぜ。』

 

治す、って約束してくれたから、もう疑わないと決めている私は、さっきの光景を思いだしても泣かないと決めていた。

 

 

私自身よりも私と、私との約束を大切にしてくれたフォートに応える為に…

信じるんだ、誰よりも何よりも。

 

 

 

 

とは…思ったんだけど…

 

 

 

 

「さすがにその怪我無理矢理治して起きるのは…ちょっと…」

『同感です。』

「ぐ…わ、分かったよ…内から外からステレオで言わなくても…」

 

 

 

翌日、速人さんが起きているからと言う理由だけで立ち上がろうとしたフォートは、さすがにリベリオンと一緒にとめた。

 

…本当、おっかなびっくりだ。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 

 




『起きてと言ったから起きた。』…いやそうなんですけどね(苦笑)。
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