なのは+『心のちから』   作:黒影翼

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余録・収まる黒槍

 

 

 

余録・収まる黒槍

 

 

 

Side~フェイト=T=ハラオウン

 

 

 

重傷とは言え芯までやられているなのはと違って割と早めに回復できた私は、リハビリも兼ねて模擬戦をしていた。

 

 

…フレアと。

 

 

「っ!!!」

 

 

振るわれた槍の先端をどうにか避けて斬り込もうとするけど、角度を変えた柄によってあっさり斬撃をそらされ、踏み込まれたフレアの膝蹴りが私の鳩尾に直撃する。

 

模擬戦とは言え加減はないだろうとは思ってたけど…アクセルドライブの域に入っても優勢にならない。

 

速人達みたいに『奥義』として昇華しているかどうかはともかく、あの距離での達人は皆この域の集中力は当たり前に持っているんだ、フレアも。

 

後方に転がりながら起き上がりに合わせて魔力弾を放つ。

高速弾4発。

追い討ちをかけようとしたフレアは足を止めて直撃コースの二発を切り払う。

 

二発はわざと外した。そして…

 

 

「はあぁぁっ!!」

 

ターンをかけて斬りかかる。魔力弾二発と私での挟み撃ち。

これなら…と思ったけど…

 

「っ…あ!」

 

通り過ぎるようにして斬撃を潜られた上に足を軽く叩かれた。

強打じゃないからソレそのものは大した事ないけれど…

 

ターンさせた魔力弾が私に迫ってきていた。

 

アクセルシューターのような常時誘導ではなく、高速直射と方向指定を繰り返すタイプの為、私を避けて背後に通り過ぎたフレアを狙うような操作は出来ず、とりあえず直撃を避けるために魔力弾をとめ…

 

「これまでだな。」

 

背中に突きつけられた冷たい感触に強張った後、私は深く息を吐いた。

 

 

 

 

さすがにすさまじい腕前だ。

起き抜けに勝てるとまで思ってなかったけど、全力で行ってまともにダメージを与えられないって言うのは悔しい。

 

それにしても…

 

なんだか容赦が無さ過ぎた気がする。

いや、うん。あのフレアが模擬戦で容赦するわけが無いんだけど…

 

それにしたってその…

まともに時間取れたのが…アレ以来なのに…

 

 

岬で抱き合って口付けを交わしたのを思い出して少し頬が熱くなる。

 

 

アレ以来…なのに、すさまじい気迫で模擬戦って何かちょっと悲しい。

 

折角だから色々話とかもしたいと思ったんだけど…

 

 

なんか、フレアが私を見て怖い顔をしていた。

 

 

「あ、あの、フレア?どうかした?」

「いや…なんでもない。」

 

 

フレアはそう言うと、さっさとデバイスをしまって踵を返して去ってしまった。

別に休みと言うわけでもなく仕事中、リハビリと言う事で時間を割いて貰ったのだから当然といえば当然なのかもしれないけれど…

 

 

 

 

 

「…何かあったんですか?」

 

仕事終わり、ティアナに心配そうに声をかけられた。

戦闘のリハビリが出来る程度に回復したという事もあって、他の仕事についてはもう普通に捌き始めている今、まだ解散まで至っていない六課としての事後処理を一緒に行っているんだけど…

 

仕事しながら分かる位動揺していたんじゃ、私も相当弱ってるなぁ。

 

 

 

「あー…」

 

少し悩んだ結果、フレアとの昼の模擬戦の事を話した。

惚気話や自慢…と言うか、人の色恋沙汰なんて聞きたがらないのに話すものじゃないとは思ったけれど、平静を装いきれないくせにそんな所だけ意地はっても仕方ないと思って話す事にした。

案の定、ティアナは困ったように笑みを浮かべている。

 

「あの人真面目な人ですからね…私達が一時とは言え逮捕対象のフッケバインと共闘する事になった挙句、その扱いも微妙な事になってしまいましたし。」

 

ティアナの言葉に、嫌な予感が増していく。

 

あのフレアだ、もしかしなくても怒ってるだろう。

ただでさえ正規局員として真面目に仕事をしてたフレアと敵対して、犯罪集団だった速人やフッケバインも交渉相手、その上いきなり大怪我リハビリ詳細不明。

 

無辜の民を守るのに尽力しているフレアにしてみれば、何をやってるのかと見えるのかもしれない。

 

「とにかく話をしてみないことには分かりませんよ。フェイトさんには失礼かも知れませんが、あの人普通の人とは呼べませんし。」

「そう…だね。ありがとうティアナ。」

 

ティーダさんがらみで一悶着あったティアナはあまりフレアの事を好評は出来ないらしく、それでも理解は示しているのか苦笑いで締め括った。

 

と、そこで通信が入る。

…フレアからだった。

 

『この後時間はあるか?話したい事がある。』

「あ、うん。」

『ではそちらに向かう。』

 

簡潔に用事を済まされて通信が切れる。

話をしないといけないとは思っていながら、フレアから持ちかけられた急すぎる展開に緊張で肩に力が入るのを感じた。

 

 

 

Side~エリオ=モンディアル

 

 

 

ティアナさんから状況を聞いた僕達…フォワード4人は揃って隠れて、フレアさんの到着を待つフェイトさんの様子を窺っていた。

 

「しっかし…完全な出歯亀よね…」

 

ティアナさんが呆れ混じりに呟くが、僕はそれですまない理由があった。

いや、色恋沙汰の見張りなんて理由があっても出歯亀なんだろうけど…

 

 

僕はキャロの騎士だ。

 

 

速人さんのように、全てを抱えてずっと絶対守るなんて言い切れない。誰も彼もに寄り添うなんてありえない。けれど…

 

フェイトさんだって姉みたいに慕う大切な家族の一人なんだ。

 

呆れるほど硬く厳しいフレア空尉の在り様は尊敬できるけれど、今回の事件の複雑さは全てを知らない僕にだって予想はつく。

なのに、そんな事を理由にフェイトさんを嫌って傷つけるようなら…

 

 

 

誰が止めたとしても、許すわけには行かない。

 

 

 

万一の時は誰が止めてもこのまま空尉に挑んで叩き潰す気で、僕はここにいた。

 

 

 

しばらく様子を窺っていると、フレアさんがやってきた。

 

「…で、あの…話って?」

 

緊張した面持ちのフェイトさんが恐る恐る口を開く。

フレア空尉は、真剣な表情のままフェイトさんを見つめる。

 

「言うべきではないのかもしれないが…」

 

あの空尉がいきなりでなく前置きなんてしながらする話。

その程度には嫌な話になるということだろう。

 

フェイトさんの表情に少し翳りが見えて、僕の手にも力が入る。

そして…

 

 

 

 

「結婚式の式場や形式についてなのだが、どうするかを決めかね…」

 

 

 

 

ドグシャアッ!!!

 

と、派手な音を立てながら僕達は四人揃って隠れていた茂みから崩れるように飛び出した。

 

「え!?み、皆!?」

「…気付いていなかったのか?随分緊張していたようだし何かあったのか?」

 

フェイトさんが驚いて僕達を見る中、フレア空尉は分かっていた上で特に気にしていなかったらしく、僕達よりフェイトさんの心配をする。

 

 

「あ…貴方は…っ!」

 

 

望んでいた、問題のない結果ではあるんだけど…上官相手の台詞じゃないのは承知してるけど…

 

 

この人…一発殴りたい…

 

 

 

 

 

ティアナさんを主に、謝りながらフェイトさんを心配して隠れていた事を説明する。

ついでに、プロポーズや何かもふっ飛ばしてとぼけた事を言い出した空尉に、フェイトさんが不安がっていた事についても許可を得た上で話す。

と、空尉は驚いた後頭を抑えた。

 

「若い女性陣の貞操観念などが廃れつつあり、恋愛程度は数度経験するのが普通なのは知っている。だが…」

 

そこまで言って言葉を切った空尉は、僕達をゆるぎない瞳で見据える。

 

「リライヴと昔なじみでその過去を知る上、執務官を志したフェイトがそんな現代の軽い人間と同じ訳がない。そんなフェイト相手に冗談で口付けなど交わすものか。」

「あぅ…」

 

照れも何もなく、心底今の言葉を…フェイトさんを信じているフレア空尉に、僕達の対応の方が悪い事をした気にさせられる。

 

「あんただったら冗談で襲ってくるけどね。」

「やだなぁ、あたしとティアの仲じゃない。」

 

ティアナさんとスバルさんの会話には苦笑いしか出来ず、目を逸らす。

女性陣の日常にはさすがについていけない。

 

「しかし…それでエリオの気配が鋭かったのか。」

「…さすがに筒抜けでしたか。」

 

一応話を聞いている間は大人しくしているつもりでいたけど、気質まで見抜けるらしい空尉にしてみれば、僕の内心や気構えなんてお見通しだったらしい。

 

「誤解も解けたのならもういいな。フェイト、予定がなければ先の話を纏めがてら夕食に付き合って欲しいのだが…」

「え、あ、う、うんっ。」

 

空尉の誘いを受けて、しどろもどろになってしまっているフェイトさんの様子が見たことないもので、ちょっとビックリする。

ちょっとキャロを見ているようで、『女の子』なんだなぁ…と、姉のように慕ってきたフェイトさんの一面にちょっと落ち着かない。

 

「…良かったね。」

「…そうだね。」

 

会釈程度に別れの挨拶を済ませてフレア空尉と一緒に帰路につくフェイトさん。

二人の背を見送りながらのキャロの呟きに、僕は緊張感を一息で抜いて頷いた。

 

困った人だとは思うけれど…どうやら僕なんかより余程フェイトさんをちゃんと見てくれているみたいだ。

となれば、もう人の心配なんてしてる場合じゃない。僕の大切な者を僕が護り切れるよう…

強くなるよう自らに誓いつつ、傍らにいるキャロを見つめた。

 

 

 

Side~フレア=ライト

 

 

 

局の異端扱いである私についてくる変わり者の実力者などほぼ折らず、私自身中、大隊指揮を完全に放り出して前衛兵に徹しているため、たった二人の部下。

…尤も、私の運用そのものが『対一強敵用』のようになっているから、その二人とも任務を共にする事はほぼない。

 

局員としての鍛錬を共にして終わりみたいなことが多いんだが…

 

「私用に残って貰ってすまない。」

「「いえ!」」

 

そんな彼らに今日のように相談で残って貰うとなると少し悪い気がした。

 

揃って直立不動で応えてくる二人。

真面目なのはいい事だ。力んでいるのはどうにかしたほうがいいと思うが。

 

「…女性にはサプライズを自力で用意するのが好ましいと言う話を聞き、結婚式場の資料を漁ってみているのだが、どうにも決定打が無くてな。」

 

口が堅く噂がフェイトまで回らないだろう相談相手がよりによって部下の二人しか思いつかなかった。

指示には確実にと言っていいほど従う彼ら相手に私用の相談と言うのは出来れば避けたかったのだが…

私の知り合いが少ないせいか彼女達の交友関係が広すぎるのか、自身の部下以外からは話が伝わりそうという厳しい状況だ。

 

「結婚式の形式と言う話であれば…サプライズでないほうが良いのではないでしょうか?」

「と言うと?」

 

前提から覆る話を切り出される。

模擬戦の後フェイトに聞こうとしたが結局止めた身としてはここで覆られるのは完全に予想外だった。

 

「プロポーズなどならサプライズも喜ばれるかも知れませんが、式場や形式の選定となると本人の意向を確認せずに決めてしまうのは…普通なら一生に一度の事ですし。」

「そうか…」

 

どうやら、サプライズと言っても仕掛けて良い物と悪い物があるようだ。

イベント事全てにおいて良いという訳ではないらしい。

 

一般的な話には疎いのだと改めて思う。

 

私は二人に礼を告げ、フェイトへ通信を繋いだ。

 

 

 

 

 

 

「と、そんな経緯で誘った訳だが…不安にさせてすまなかった。」

 

レストランの一席にて、注文を待つ間にフェイトにこれまでの経緯を説明する。

私が俗世の話に疎いが故の失態だと言うのに、フェイトの方まで頭を下げた。

 

「私こそごめん。フレアほど真面目で真っ直ぐな人が気分で女性を捨てたりなんてする無いのに…」

 

フェイトに真面目などと称されて光栄だが少しばつが悪い。

手続きや縄張り意識で二の足を踏む上官や他部隊の人間の指示を無視した結果、同期のクロノが既に提督だと言うのに未だ一尉の身で、しかも前衛足る為にソレを自ら望んでいるのだ。

全ては無辜の民を守る為…とは言え、真面目と言えるのかは些か微妙な所だと自身でも思う。

 

「でも…それじゃ、模擬戦の時に凄く張り詰めてたのは?」

 

驚いて、ありがたく思う。

まさか気付いていたとは思わなかった。何しろ、私は普段から手抜きなどする訳もない身、区別など付かなくて当たり前だと思っていたが…よく見てくれている。

 

ただ…少し話しづらくもあった。

 

「…呼ばれなかったからな。」

 

搾り出すように言うと、少しの間をおいてその意味を察したのかフェイトは表情を翳らせた。

 

どう称しても精鋭である速人とリライヴ、予言に直接名を連ねるほどの星と雷たるなのはとフェイト。

そんな一同ですら、悉くが半死半生になるような一戦があったのに、呼ばれる事はなかった。

 

「それは、その…話を広められない事情があって…」

「分かっている。それに、フッケバインや地球の一団を残し、事件の後始末も終わりきっていない中で誰でも局をはなれる訳には行かなかったと言うのも…分かってはいるんだ。」

 

言いながら、それでも…とフェイトを見る。

 

「お前や高町達が半死半生の状態で戻ってくるような状況に私は何も関われなかった。」

「フレア…」

「私は…お前を失いたくない。」

 

悲しげな彼女を前に私はいつか伝えた言葉を繰り返す。

 

『それでも私は…お前を失いたくなかったんだと…そう思う。』

 

薊の…災厄の排除より優先した、フェイトの命。

 

「誰にも…何にも…お前を失いたく、渡したくない。だから…」

 

言いつつ、私は荷物から小箱を取り出す。

特に今渡す必要もないと思い込んでいた物、既に終わっていると思ってしまっていた…告白。

 

けれど、不安にさせる程度にはおざなりだったのだと気付かされた今、絶対に必要だ。

 

仮に誰より強くなれたとして、誰より傍にいられなければ、守ることは叶わない。

何より…傍にいたい。

 

 

「共に…居てはくれないか?」

 

 

金色の輝きを持つ宝石をあしらった指輪の入った小箱を差し出し改めて問いかけると、フェイトは予想外だったのか目を丸くして数瞬固まった後、小箱を受け取って頷いてくれた。

 

「…ずるいよ、サプライズを諦めて声をかけたんじゃないの?」

 

照れている彼女の言葉を反芻し、そう言えばこれはフェイトにしてみれば予定外か。

まぁいいのか。重要なのは彼女が喜べる事であって、予定通りか否かなどどちらでも構わないのだから。

 

嬉しそうに笑顔を見せてくれたフェイトと共に、夕食を食べつつ式に関しての話を進めた。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 




彼に平和な話ができるようになったのは事件一通り片付いたのだなぁ…と感じます。冒頭こそ物騒ですが(苦笑)。
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