余録・一回戦決着
Side~ティアナ=ランスター
生まれもっての天才、希少技能保有者、人間を超える存在として改造、生産された子。
そんな人に囲まれた…普通。それが私。
特別高い魔力も無かった、特別高い技術も無かった、特別な能力も無かった、特別な生まれでもなかった。悲劇に分類される知り合いのそれすら羨ましいほど、私には何もなかった。
貶められた兄の名を特別にしたくて焦って…馬鹿な間違いをした、取り返しがつかなくなる所だった。
それに気付いてから、私は手にした普通を磨いた。
何処にでもある魔力量の、何一つ変哲の無い魔力弾。
それをただ、早く狙いをつけてトリガーを引く。
その果てが…
「ち…っ!」
動き出そうとしたフォート、その足を抜き打ち、止める。
瞬間射撃。
思考より早く反応する高速射撃。
中距離での抜き打ちから着弾までの速度が人間の反応限界を上回る域に達している。
『ティアナさんが撃っているのは誘導性すらない速射魔力弾!にも拘らず、開始からこれまで一つも距離を詰められていないフォート!これは成す術無しかぁっ!?』
「はは…悪い、ティアナさん。この間即リタイアしてたから正直こんな凄いとは思ってなかった。」
アクアの解説に続いて、失礼な感想を躊躇いがちに暴露してくるフォート。
…まぁ、それはしょうがない。
実際問題、魔力射撃が効かない相手にはこれほど意味の無い能力もないし、フッケバインくらいならいざ知らず、ハーディス元専務のような人の域を逸脱した相手には役立たずの烙印を捺されるだろう。
ただ…そんな身ながら、伝えたい事があった。
「普通の身でも、積み重ねで辿り着ける場所よ。貴方のような滅茶苦茶をやらなくてもね。だから」
「サンキュー。」
大切な人が助かって傍にいる今、もうあんな有様でいるのは止めて、強くなりたければ何かを磨けばいい。と、そう言いたかったのだけれど、言い切る前にフォートは礼を良いながら掌を此方に向けて、私の言葉をとめた。
「けど…一緒にされても困るぜ。」
言いながらフォートは…
両の手に二丁拳銃を生成して私に向けた。
コイツは本当に全く…いい度胸してるわ!
Side~アイシス=イーグレット
『あーっと!正確無情の早撃ちにさらされ動けていないと言うのに、よりによって銃を展開するフォート!一体何をする気だぁっ!?』
「何もなにも…銃でやること何か一つだろ!バレット…ッ!!」
あれっだけ銃に苦しめられてる相手に射撃で挑もうとするフォート。
案の定と言うべきか、銃口を向ける間もなく放たれた6連の早撃ちによって両腕、頭二発、右足二発と撃たれて動きを止め…
「…スコールッ!!!」
「な…ったくッ!!!」
ずに無理矢理射撃を撃ち始めた。呆れた様子で応じるティアナさん。
ほぼ同じ数撃ってるのも凄い話だけど、乱れ撃ちになってるフォートに対して、直撃コースのものだけを打ち落としながらフォートに当たるように連射しているティアナさん。
抜き打ちの時程の射撃音が一発しか聞こえない連射は長々とは出来ないみたいだけど、それでも乱れ撃ちと同じ数撃ってこの精度の高さは異常と言っていい。
撃ちながら急所に直撃を受けていればいくらフォートだって…
「…とまんないね。」
「だね…このままだとティア姉まずい。」
フォートが止まらないのは、よく見れば身じろぎしたり力んだりと、着弾にあわせてダメージを減少させているいつもの無意識動作みたいだ。
で、ティアナさんの方は…四六時中無茶ばっかりしてるフォートに付き合って撃ち続けられるほど魔力も…『指』も余裕が無いだろう。
指での連射動作なんて長時間続けるものじゃない。筋が切れる。
フォートも条件は似たようなものだろうけど、そういう無茶にどれだけ慣れてるかって点で大きく違う。
当然、撃ってるティアナさん自身がその流れに気付かない訳もなく、新たな動きに出る。
今までの直射弾の連射を止めて、誘導炸裂弾を二発放ってフォートの眼前に飛ばす。
連射を続けているフォートの魔力弾に撃ち抜かれて爆発したけど、視界をさえぎったその間を使って、数発の射撃を放つと共に跳躍した。
爆煙を裂いて迫る魔力弾を迎え撃つフォートに、ティアナさんは短剣形態にしたデバイス二本を振りかぶって飛びかかる。
フォートはそれを見て…
右肩から体当たりした。
振るう筈だった刃に振るう前に直撃するフォート。だけど、振りぬく前だったから魔力刃が食い込む程度で済む。
刃ごと体当たりされて姿勢を崩したティアナさんに向けて、だらりと垂れ下がった右腕を無視して左手に持ったままの銃を向けたフォートは、また射撃の連射を再開する。
左手の一丁分とは言え、魔力刃を展開した結果射撃が使えなくなったティアナさんは、刃で捌こうとするも捌ききれず、射撃の雨にさらされて意識を失った。
うっわぁ…
刃まで含めたら絶対フォートの方がダメージ大きいだろうに…滅茶苦茶だなぁホント。
「あの様子じゃ心配じゃない?」
生命研究者の知識があるエフスは、母親になったなのはさんの身体を診にいくって事で残ったフェアレに、ただの試合二回で滅茶苦茶をしでかしたフォートについてさすがに不安じゃないかと思って声をかけたんだけど…
「信じるって決めたから、きっと勝ってちゃんと帰ってくる。ちょっと…見辛いけどね。」
屈託の無い笑顔でそう返されて、話を振った事をすぐに後悔した。
『帰ってくる』のオマケつきであのフォートの無茶を前に信じると言い切られる。
完全に薮蛇だったな…
あーあ、揃って馬鹿なんだから。
Side~ジークリンデ=エレミア
「フォートはんはほんにやんちゃな方どすなぁ…」
番長でも見ない無茶な戦い方で勝利をもぎ取ったフォート君の戦いに呆れ混じりのコメントをする…氷村薊さん。
彼女…のお父さんは、委員長に催眠をかけて襲った最低男。
そして彼女は…そんなお父さんを心底大事にして、協力してきた娘。
直接責める謂れがあるような無いような…そんな娘。
「複雑そうやなぁ…嫌うなら素直に嫌うてええんに。」
人の気も知らんと、彼女はそう言って笑う。
「まぁ…試合で鈍る程甘ないならええでしょう。」
「それは約束する、皆見とるしな。」
言われるまでもなく、手加減も…容赦もできん。
初手から鉄腕を展開したウチを見て、彼女は気負うでもなく楽しそうに構えた。
『いよいよ一回戦も終盤になってきました!妖艶な和装少女氷村薊さん対、誰もがご存知ジークリンデ=エレミア選手っ!!』
アーちゃん気合入っとるなぁ…
元気で明るい彼女らしい司会に、色々考えとったもんを取っ払われる。
肩の力は抜けた。後は…
全力を以って勝ちに行こう。
Side~エルス=タスミン
チャンピオンの戦い。
私を襲った男の、娘との戦い。
大分ショックもあるし、平然と見てはいられないのだけれど…
それ以上に判ってしまう事がある。
チャンピオンの弾幕を二対の扇で捌きながら、アクアさんが使っていたウェイブステップと同系統の高等移動術を使って距離を詰めた氷村は、開いていた扇を閉じると、チャンピオン相手に扇で近接戦闘を始めた。
決して素早くは無いけれど、無傷で近距離を維持している彼女。
その技量が…その精神が…
堕落や悪意で歪んだソレで身につけられる物じゃない。
犯罪者ではあったんだろうけど、ヴィヴィオ選手やアインハルト選手が庇い、試合をしたいと思うくらいに凄い代物なんだ。
「ったくひらひらひらひら見ててうっとおしいなオイ!」
「戦った事のない貴女は知らないでしょうが、アレはうっとおしいで済む代物ではないわ。それでも…使えるだけではジークの攻撃を捌ききれると思えないけれど。」
傍で苛立つハリー選手に、冷静に状況を見るヴィクター選手。
ヴィクター選手の言う通り、チャンピオンの攻撃を捌く技術がただの一芸だけなわけが無い。
…勝てない。
今の私じゃきっと氷村に勝てない。
それが理解できてしまって、悔しかった。
「っ…頑張ってください!チャンピオンッ!!」
せめてとばかりにこの悔しさと願いを込めて応援をと声を張り上げた。
Side~ジークリンデ=エレミア
委員長や番長達の声援が聞こえてくる。
競技者として本物になりたいなら、声援に応えるのもプロの勤め。
それに…いくら高等技術でも、これだけ見とれば!
「ふっ!!」
「あ…」
ジャブ気味に最短距離を最速で伸ばした手で、左肩に向かってきた閉じた扇を掴む。
やわらかい動きやろうと、掴んでしまえばっ!
「せぇ…ぇえっ!!」
せーのと言いながら思いっきり引っ張り、同時に拳を叩き込もうとしたウチを襲ったのは、まるで空気を引っ張るかのような軽い感触。
一瞬、扇だけ手放したんかと思ったけどそれも違うて、よろけたウチの横まで踏み込んできとった薊はウチを見て微笑むと、扇の先端を軽く下げた。
たったそれだけやったのに、姿勢を思いっきり崩され取ったウチはそのまま背中から地面につく。転ばされただけやからさすがにダメージはないけど…っ!!!
掴んどった扇の先端が顔面に向いているのに気付いた瞬間、ウチは扇を手放して地面を叩くようにして跳ね起きた。
「懸命に掴んどってくれたら今頃終わっとったんどすが…そうも行きまへんなぁ…」
一歩分間をおいて構えなおす薊。
冗談じゃない…このレベルの高等技術を誘いに使うなんて。
「歩法、駒草も捕らえられ、誘いに仕掛けたんも決め手んさせてもらえへん…となると、次切らんとあきまへんなぁ。」
言いながら、彼女は大きく開いた扇同士を合わせる。
デバイスの変形のようで、一瞬光った次には傘になっていた。
薊は傘を閉じながら…
「うぇ!?」
防護服を投げてきた。
一応服やのに脱いで大丈夫なんやろか?とは言え視界を塞ぐように投げられたそれを無視も出来ず、殲撃を準備し…
「鳳仙花。」
「っ!」
投げられた防護服が魔力弾の雨に変化した。
確かに魔力で編んだもんやけど、こんな使い方せんやろフツー!!
殲撃で防護服を消しながら奥にいる薊を吹っ飛ばすつもりやったけど、弾の方が消しきれん為防御体勢をとる。
幸い一撃で致命傷と言うほどの威力やなかった為耐え…
「が…」
「模倣…射抜・追。」
鉄腕を交差させ顔面に向かってきた弾を防いだウチに対して踏み込んできていた薊は、下からウチの鳩尾に入るように傘で突きを放ってきた。
身体をくの字折ったウチは…
「へ?」
そのまま交差させていた腕を開いて薊の両肩を掴んだ。
掴まれた彼女は目を丸くしてウチを見る。
「が、顔面交差防御しとったら鳩尾狙いで接近してくれる思た…ちょう効いたけど、来るんわかっとったら防御魔力集中させとけば耐えれるし。」
ヴィヴィちゃんのセイクリッド・ディフェンダーほどでないにしろ、防御箇所に大体想像がつくならそこの防御力を上げておく程度は誰でも出来る。
正直息が詰まって結構痛いんやけど、無視して力を込めてそのまま彼女の身体を地面から離し持ち上げる。
これで駒草とやらでの回避は出来ない。
「はっ!!!」
左膝を狙って全力で蹴りを放つ。
宙に浮かせたため直撃と同時に身体を傾げた薊は、地面に手から落ちてウチから距離を取った。
けど…
「っ…さすが破壊者はん…」
左足が伸びきって震えとった。
折った…に近い感触はあった、歩法どころかまともな回避も難しいやろう。
「続ける?」
右手に殲撃を準備した状態で微笑みかけると、薊は呆然とウチを見て…
デバイスを戻すと同時に下着姿みたいな状態から私服に戻って両手を上げた。
Side~月村雫
系統の違いか、その異質さに気付かれたか、私達…私とフレア空尉の試合には、騒がしいお子様達も声を発する事はなかった。
「っ!」
横薙ぎに振るわれた槍から間合いを離しながら作った溜めを以っての射抜。
右肩を貫くつもりで放ったそれがジャケットを掠めて裂いていく。
が、着地する足を狙われ、前のめりに転ぶ事になった為そのまま前転。
着地にあわせて、黒く光る槍が容赦なく真上から振り下ろされ、私はそれにあわせるように左逆手に抜刀。
先端部は異常な強度と破壊力を持つ空尉の槍だが、逆に言えば其処さえ外せば私でも止められる。
が、先端を僅かに外した部分に当たった私の刀を支点に槍を回転させた空尉は、その柄で私の顎を跳ね上げようとする。
回避は不可。まともには当たれないので首の力を抜いて命中にあわせて跳ね上げさせながら後方跳躍。
どうにかダメージは殺したものの、軽く視界が歪む。
…知るか。
着地までに両の刀を鞘に納めた私は…
神速での薙旋を放った。
神速だと言うのに左右の抜刀による二撃まで槍で止める空尉。
けど、三撃目と四撃目は的確に入り…
後退した空尉が私の足元に砲撃を放った。
なのはさんみたいな化物威力じゃないが、ジャケットすらない私にとっては石を砕く程度の一撃は十分当たれない代物。けど、いくら神速に入ってるからって薙旋直後動ける訳も無く、足元で爆発を起こされまともに吹き飛ばされる。
…薙旋の軌道自体大体知ってるんだ、魔法防御を強化して凌いだのか。
槍だけのフレア空尉とは練習試合をするが、その勝率は奥義まで使えば私の方がよくなってる。
けど…速人さんもそうだけど、お父様と修行になる技量に加えて魔導師の力を持っているこの人は、まともに相対するには今の私では厳しいのか。
なら…『閃』を。
身体が治る関係でお父様を超える域で扱える『龍殺』と違い、神速と貫を極めないと機能しない集中力と見切りの…業の極致。今の私に使いきれる保障は無いが…やるしかない。
私は刀を再び鞘に納め全神経を研ぎ澄ま…
「っ!?」
数発の魔力弾が向かってきた。
別に捌けないわけじゃないけど、さすがに構えて立っている場合じゃないためそれらを斬り払い…
目の前に空尉の姿が現れた。
一瞬、何が起きたのか分からなかったが、直後に痛みを伝えだした右肩に、全てを察する。
魔力弾に気を取られた一瞬を『貫』かれたんだ。
御神の剣士が魔導師に意識の間を貫かれるようじゃ話にならないな…
「ここまでだな。」
「…です…ね。」
肩口を貫いた空尉が静かに告げるのに、私は目を閉じて頷いた。
傷が致命だからではなく、肩口を完全に槍に貫かれた…魔導師の槍に貫かれた密着状態。
無理矢理持ち上げて地面に落とされたりすればソレで終わる。
そして、多分この怪我だけでも騒ぎそうな観客もいるのに、其処までやって頭割れたスプラッター映像なんて見せようものならさすがに申し訳ない。
『あ、あーっと雫選手降参だ!しかし無理も無い!早い所怪我見てもらって下さいね!!』
「分かってるわよ!この程度の怪我が普通にあるの家だけなんだから!!」
大した事じゃないとアピールするつもりで大声を張り上げて返す。深刻そうにしてたら一般人には痛々しいだろうし。
空尉がデバイスを消すのと同時に、貫かれた肩口からの出血が派手になる。
…見た目にアレだけど、重要器官は外してくれてるらしい、感覚で分かる。
全く…優しいのか容赦ないのか。
「技の完成度、技量、集中力、反応速度等は私や速人とも遜色ないが、狙いが若干分かりやすいな。経験を重ねつつ貫を完全にするといい。」
「覚えときます。」
わざわざアドバイスなんて真似してくれるあたり、やっぱりフェイトさんと上手く行ってるからか少しは丸くなってるのかもしれないが…
言い訳なのは百も承知だけど…こっちだって、貫だけで相手の見切りを超えたとしても奥義や徹でないとバリアジャケットが抜けないって事情があるんだ。
全身防護ってなんだくそっ…やっぱり魔導師なんて大嫌いだ。
完全に負け惜しみだけど、思わずにはいられなかった。
Side~トーマ=アヴェニール
肩貫かれたのに普通とか言い切っちゃった月村雫ちゃん。
あんな人達と訓練してたんならフォートのネジの外れ具合も分かる気がする。
…正直ちょっと気の毒ですらあった。
何しろジークリンデさんの試合の時には声援熱狂凄かった子供達の方からの声がぱったり止んでたからなぁ…
二人して無言、殺す気バリバリって感じであんな息吐く暇も無いような高速戦闘こなされたら見てるほうも気が気じゃない。
「ただいま、フェアレ。」
「お帰りフォート。肩大丈夫?」
「自分から行ったから魔力運用さえ出来てれば防御力全振りとかできるからな。俺は其処まで上手くないけど、意外と安全なんだよ。」
笑いながら話すフォートに納得したように頷くフェアレ。
安全な訳が無いが、一応理屈は通ってる為か専門家じゃないフェアレは安心したようだった。
「ま、今までちゃんと怪我診て貰ったからってのもあるけど…次が一回戦最後の試合だったよな。」
「うん、ミカヤ選手とシグナム隊長が…っ!!」
言いながら会場を見直すか否か位で聞こえてきた甲高い衝突音に思わず肩が強張る。
…そー言えば、速人さんの家ほどぶっとんでるかは知らないけど、シグナム隊長も割とバトルマニアで剣士だし、ミカヤ選手って一瞬に全てを賭ける居合い剣士だっけ…
『か、開始初手から抜刀対高速斬撃の衝突!全く落ち着く暇がある試合がありません!!』
司会のアクアさんもどもってしまっているが、正直同じ気分だった。
しかもこれ一回戦なんだよなぁ…本当にどんな試合なんだか。
Side~ミカヤ=シェベル
相手は管理局特殊部隊の達人、遠慮などできる訳も無いと初手から斬り込んだが、居合いに通常の斬撃で付いて来られた。
切っ先の剣速では分があったが、重さで相殺される程度の差しかないらしい。
「…速いな。」
「どうも。」
笑みを交わす。
何と言うか、近い人種のようだ。
「紫電一閃!」
「っ…はぁ!」
ミウラちゃんと同系統の分かりやすい、が、だからどうしたと言う位に速い爆発的な踏み込みから放たれる袈裟斬り。
下がるも潜るも出来ない軌道で振るわれた為、相殺するほか無いと居合いをあわせる。
が、今度は相殺も出来ず押し返される。
っ…此方から仕掛けるのでなければ打ち負けるか。
ならば選択肢など一つだ。
「はああぁぁぁっ!!!」
天月・霞。
縦横の十字を描く斬撃。
だが…
剣と逆手に持った『鞘』を使って二撃とも防がれた。だが、さすがにまともにガードさせた分押し勝ち…
「っな…っ!」
弓に変形したデバイスによって放たれた矢が、胸元に吸い込まれるように飛んで来た。
非殺傷の調整か何か、吹っ飛ばされたが貫通はされなかったが…矢自体は軽そうな見た目だと言うのに、並以上の砲撃魔法より強力だった。
「武芸百般と言う奴だ。」
「っ…なるほど…まいりました。」
高速移動魔法か、それとも単に走ってきたのか、壁まで吹き飛ばされた私が体勢を整える間もなく、目の前に現れたシグナムさんが剣を突きつけてくるのに対して、私は降参するほか無かった。
あのミウラちゃんの更に師匠役、さすがにすさまじい強さだ。
『一回戦と言う言葉は何処へ行ったのか!?と言うくらいすさまじいレベルの試合ばかりでしたが…これで二回戦進出者が決定しました!それでは明日も盛り上がって行きましょう!まったねー!!!』
落ち込む空気に一切ならないアクアちゃんの司会の締めに肩を竦めて苦笑する。
世界は広いというが…まぁ明日からは後学の為にもゆっくりと観戦させて貰おう。
Side~高町速人
「お疲れ。」
「ん、あぁリライヴも。」
人のいない所からゆっくりと試合を眺めていた俺に、丁度全試合が終わった所でリライヴが声をかけてきた。
「トーナメントじゃなくても適当に試合すればいいって言ってたけど、速人にも理由あるんでしょ?」
「…さすがにわかるか。」
以前、すっとぼける意味も含めて言って見た台詞だったんだが、そんな事をわざわざしたからか、あるいはする前からか、バレバレだったらしい。
フォートとの試合。
ただの修行や練習なんて話じゃ、アイツのノリでできる訳も無い。
いつでも勝手にやればいいと言われるかもしれないが…
「ここ最近片付けてる事件量じゃこんな事早々できる機会無いだろうしね。」
「だよなぁ…下手したら日に数件片付けてるし。」
あわただしく飛び回っている現状を振り返りながらリライヴと互いに呆れる。
今だってアースラが必要でディアーチェ達はここに来れてないって言うのに、ただの練習ならともかく、全力戦闘なんてそう出来はしない。
「叶いそう?」
「どーだか。今日のノリじゃジークとかに負けそうだしなぁ…」
「速人が私に負けるって心配は?」
「出来たらいいぞ。ただ、今回だけは譲る気ないけどな。」
言ってはみたが、対での全力戦闘ってそう言えばやったこと無かったなと思う。
まぁ、お姫様が趣味の女の子と全力戦闘なんてやる必要が全く無いからでもあるんだが。
「それじゃ、先に行ってるから。」
「あぁ。」
聞く事は聞けたからか、物思いに耽っていた俺に時間をくれるためにか先に離れるリライヴの背を見送り、俺は目を閉じる。
取り返すべき物を思い浮かべながら、軽く拳を握る。
こんな機会はもうそうそうないだろうからな…いろんな意味で。
ここで決めさせて貰うぜフォート。ちゃんと勝ち上がって来いよ。
SIDE OUT
粒揃い…ってレベルなら0ダメージの秒殺とかあるんでしょうけど、メンバーがメンバーだけに初戦から血戦じみてます(汗)。