記録八・不可能への反逆
Side~フォート=トレイア
何も出来ない。
それが俺を示す全てだった。
剣は狙った振るい方すらままならなく、型に沿って振るえば間合いが合わず、間合いをあわせようとすれば型が崩れた。
銃は引き手を引く際必ずと言っていいほど照準がずれ、遠近感もそれほどないため、どんなに頑張っても弾を弾で打ち落とすような器用な真似を狙っては出来なかった。
ダカラ―
鍛えたところで魔力も総量はともかく、最大発揮値の方がさして上がらず、砲撃なんてあっさり止められる程度のもので、魔法の扱いにしたって器用でないためデバイス任せの術意外簡単なものしか使えなかった。
ソレガ―
朝から晩まで負けっぱなしで地面を転がって、体中に痛みや疲れを抱えて砂を舐めて、そんな日常を繰り返して…
だから!それがどうしたってんだッ!!!
「は…あぁぁぁぁっ!!!」
空から落ちる中、俺はどっちが上かも分からないような状態から無理矢理に意識を保った。
ああ全く、本当俺は馬鹿だった。こんな事すら忘れてたなんて。
トーマと出会ったあの日、シスターの一人も救えず命からがらの状態になってしまった時から覚えていた苛立ちの答えを思い出せてようやくすっきりする。
それまで襲撃した施設に大して出来る奴がいなかったから天狗になってたみたいだ。
勝てる気がしない?当たり前だ、勝てる気、なんて俺にそんなものない。
勝てる訳がない。だって俺には何も出来やしないんだから。
答えろフォート。
『俺が護ってやる。お前の傍に居るのは俺なんだから。』
お前はそれが出来ない事なら…
『俺がお前の―』
この約束を捨てるのか?
そんな訳がない。
出来る出来ないの話じゃない、初めから俺は、出来るからやってる訳じゃないんだから。
叶わぬ願いに手を伸ばす為、不可能への『反逆』を。
「アクセルシューター…シュート!!」
接近を図る俺目掛けて16発の魔力弾が放たれる。
全誘導弾…普通の奴なら4とか8がせいぜいだろうに、ビットまで制御しながら軽くこんな数撃つか、化物め。
両腕に盾を展開し、突撃。正面から来るのだけを回避して、他を盾で受けながら突っ切る。
包囲する形で撃たれると言う事は、ガードして吹っ飛ばされても反対側にも弾があるって事。盾が破壊さえされなきゃ受けるものを選んで受けながら進む事も可能だ。
ピンボールのように弾かれながら弾幕を受けつつ距離をつめる。
クロスレンジに入る。離れたら向こうの間合いだ、ここで…
不可能への反逆を。
先に念じたばかりの言葉を思い出し、俺は空で止まった。
Side~高町なのは
距離をつめるために捨て身に近い突撃…にしては妙にはまっている動きを見せたフォート。防御力を利用した突撃ですらなく、攻撃を受けながら進む方法が身に付いていると言うのも怒るやら呆れるやら複雑な感想を抱いていた。
それでも接近を図れるのなら必要な手なのかと思い、対近接戦に備えようとして…
フォートが突然、接近を止めて止まった。
盾を消して二丁拳銃を展開するフォート。
「フォトンバスター!」
何をするのかと思えば、砲撃してきた。
右の銃から放たれたそれを回避すると、左の銃が私に向けられている。
「ダブル!」
二発目。
避けるのも面倒に思えてきた私は、応じるようにレイジングハートを構えてショートバスターを放つ。
塵でも吹き飛ばすように拙い砲撃を打ち破った私の砲撃は、避ける間もなくフォートを飲み込んだ。
「エクセリオンバスター、マルチレイド…」
ビットも使用した分割多段砲。
個人戦でバインドもなしだと収束してる暇はない。
それに…
砲撃によって覆われた視界が晴れると、左腕に盾を構えたフォートの姿が現れた。
予想通り、この子はこの程度で墜ちたりしない。
いや、『何が直撃しても』勝つまで油断できない。
「シュートッ!!!」
計5発の砲撃がフォートに向かって迫る。
避けられないタイミング、耐えられない威力。
これなら…っ!?
フォートは、盾を構えたまま私が放った砲撃に飛び込んだ。
5発の砲撃が着弾地点で炸裂するのに耐えられないなら、自分から早めに1つを選んで飛び込んでしまえばいい。
なんて無茶苦茶な発想。だけど単発じゃ…
予想通りに凌いだフォートが、ぼろぼろの盾を投げてきた。
何をするのかと思えば、右の銃を盾に向けて、砲撃を放った。
着弾炸裂した砲撃が、盾を爆発四散させ、私に向かって破片が飛んでくる。
殺傷力はそこまで無い。とりあえずバリアジャケットでも凌げる程度の代物なので顔だけ腕で覆って凌ぐ。
一瞬埋まる視界。それを利用して詰めてくるのかと思えば、その間にフォートは二丁の銃を展開していた。
この子…本気で…
「私と空で撃ち合う気!?」
思わず聞いてしまった。
だって、そんな事をして勝とうなんて言うのは、六課でもティアナくらいのものだ。
フェイトちゃん相手だって、クロスレンジ抜きなんて制限かけたら9割負けないだろう。
対してフォートは…
「近接戦より難しそうだからな。そういう席なんだろ?」
当たり前のようにそう言うと、銃のまま私にデバイスを向けた。
難しそうだから。
馬鹿だ。あまりにも素直すぎてそれしか言葉が出てこない。
「バレットスコール!」
「セイクリッド・クラスター!」
乱射される弾幕をそれを上回る散弾で相殺、貫きながら思う。
この子…ホント、どっかの誰かと同じ大馬鹿だ。
Side~シグナム
フォートの戦闘データの確認として、マリエル技官と共に試合を観戦しているが…
どうにも高町の旗色が悪い。
「…どうしたんだよシグナム。やけにきつい目でみてっけど?」
付き合いの長さからか、一緒に観戦しているヴィータが私の様子に気付く。
「この調子で高町が気付かなければ、下手をすると負ける。」
「は?」
ヴィータも分からないらしく、怪訝そうな声を出した後戦局に再度目をやる。
どう考えても高町の方が優位な、空射砲戦。
だがそもそも…それでこれだけ撃ち合って詰め切れていない事がおかしい。
「マリエル技官、フォートのデバイスについての私の考察は?」
「本人にも教えて欲しい所だけど…概ねあっていると思います。」
デバイスと言うのは元々、魔力の使いようで結構な可変が利く。
私のレヴァンティンも、鞘から弓へと変える事が出来るほどだ。実体として機構もあるにはあるが、元々コアが無事で魔力を通せば結構な融通の利く代物だ。
故に感染者に普通に振るっても無価値な砂糖細工のように砕かれるのだが…
「可変機構のデータを組み込んで、質量か制御性能が追いつく限り、何にでも変形できるようにしてある、かなりの万能デバイスですね。」
目を輝かせながら解説するマリエル技官。
ヴィータはそれでも高町が負ける理由まで想定できないらしく、私を苛立った目で見ている。
何にでも変形する、それは金属が勝手になどという事がありえる訳もなく、当然展開修復変形ごとに魔力を消費しているはず。
「使用者の魔力を用いて可変させているはずのデバイスをああも壊され変形を繰り返し修復させ、何故平然と空戦が繰り返せている?」
「そりゃアイツ、最大発揮値こそ低いものの魔力量はやたら鍛えこんでて…」
言いかけて言葉を止めたヴィータは、空を舞う二人を…なのはを注視する。
その息が若干乱れつつある。
フォートも呼吸を乱してはいるが、奴の方は無茶を繰り返しているからどの程度疲弊しているのかわからない。
一度は直撃を食らったにも関わらず持ちこたえているのも、殺傷攻撃でない魔力ダメージだからだろう。
「低い最大発揮値で高出力攻撃を繰り返す高町と撃ち合いを繰り返して…『墜ちずにいられるなら』消耗は高町の方が圧倒的に多くなる。しかも、高町の方は普段使っているバインドを、奴が身を切りながら破るためか戦法に組み込めていない。」
もし仮に、フォートの怪我を考慮せず平気で戦えるのなら、怪我が増えれば増えるだけ失血によってフォートの消耗は加速するだろう。
それでなくても、戦術的に一つ警戒するものが増えるだけでも詰め手は違ってくるはずだ。
だが、仮にも管理局員の試合。自爆とはいえ怪我を誘発するような真似をさせ、おまけに詰め手としての効果まで薄いとなれば、それを多用はできない。
「それともう一つ…」
初の邂逅から驚いていた事。
私ですら奴以外見たこともない特殊な能力…習性。
初めて会ったフォートに庇われたあの時。
目の前のフォートが『僅かに身体を傾けた』瞬間に『背骨を避けて』背中から突き出してきた、あの感染剣士の剣。そして直後、何の迷いもなく距離が詰まったからと言わんばかりに喉に向かって強打を放り込むと言う、生命体にあるまじき異常反応。
空から落とされた時も、後を追ったアギトが拾う前に立ち直ってトーマの元へ顔を出しているくらいだ、身体の芯を外しているのかあるいは…ともかく。
「フォートは攻撃を喰らい慣れている。魔力ダメージの魔力弾を砲撃への牽制に組み込んでも通常のセオリー通りに繋がるまい。」
肉体へのダメージを与えず衝撃や魔力ダメージだけでの昏倒を狙うには、誘導弾や牽制弾では効果が薄い。
なのに、連携戦術のバインドも牽制弾も繋がらないとなると泥仕合になる可能性が高い。
そして、泥仕合はおそらく…フォートの土俵だ。
「空戦砲撃魔導師の高町に砲撃で応戦するなと言うのも無茶な話だが、外して消費がかさむのは明らかに高出力砲撃。あの距離の戦闘を考えなしに続ければ危険なのは高町だ。」
「得意が泥仕合って…どんな馬鹿だよアイツ。」
苦い表情で空を見るヴィータ。
だが、言いながらもそれがどういう事か理解しているんだろう。
傷の痛みは身体の防衛本能。打撃による息苦しさや伴う麻痺なども、警鐘や警報のようなものだ。それに逆らう事が当たり前になっている、慣れている。
剣も銃も魔法にも特別無い才覚。それを自覚しながら、引く事を許さ無かったからこそ身に付いたのだ。
主はやてが出したこの難題に躊躇いも無く答える訳だな。
笑っている場合ではないのかもしれないが、なんだか妙に納得してしまった私は思わず微笑んでしまっていた。
Side~高町なのは
まいった。
漠然と墜ちないな、と思ってはいたけれど、これじゃどっちが粘っているのか分からない。
「バスター!!」
抜き打ち速射のショートバスターを放つ。
フォートはそれに対して二丁の銃を同時に構えて二発の砲撃を放ってくる。
フルチャージの一撃ならともかく、ただのショートバスターで二発は抜けず、相殺される。
さっきから空戦で撃ち合っているのに攻め切れていない。
それで向こうがだんだん消耗していってくれてるならまだいいんだけど…射砲を使ってる以上こっちの魔力消費だって馬鹿にならない。
決めに行く。
ビットの全てを直撃コースで四方から突撃させ、制御を切る。
慣性で進むビットを回避している間に32発の誘導弾を準備。
「アクセルシューター…シュートッ!!」
全方位からで、全部誘導弾。
乱射のバレットスコールでは相殺できないと踏んでくれたようで、防御態勢に入ってくれる。
一瞬止まる、けど、ここに単に砲撃を撃ってもきっと凌ぐ。だから…
「ACSドライブ!!」
加速突撃による直接攻撃を狙う。
防御で防がせる気も無いし、回避できても砲撃での追撃も可能。何しろ、この突撃でフィールドを抜いてから砲撃を押し込んだ事すらある位だ。
アクセルシューターを防御で凌いだ直後のフォートに、高速移動でこれを避ける間はあるはずもなく、突撃攻撃用に展開された正面の魔力刃だけをかろうじて回避する形で、レイジングハートのフレームがめり込…
左腕をつかまれた。
抱えて離さないと言わんばかりに右手でしっかりと。
見ればレイジングハートも左手で掴んでいるフォート。
その腕にブースターのようなものが見え…
「っ!」
「遅い!!!」
空戦って言っても施設上空、陸…と言うか海までそう高さの無い空で、仮にも飛空挺を追いかけるために使用したブースターを、『下』に向かって全力で使う気じゃ…
なんて、そんな事を考える暇もあったかなかったか、墜落の方が遥かにマシな勢いで海面に叩きつけられた。
そこまではどうにか保っていた意識。けれど、あろう事か海中に入ってもそのままの勢いで加速したフォートは、そのまま浅い海底に私を叩きつけ…
「えほ…けほっ…」
鼻や喉に入ってしまった水を吐き出そうと咳き込む感覚に、ぼんやりと意識を取り戻す。
どれくらいの間意識が飛んでいたのかは分からないけれど、咳き込む事が出来るって事はもう水中からは出てるって事だ。ただ、水を咳き込んでるならそこまで時間も経ってないはず…
軽くぼやける瞳を開くと、フォートの顔が映った。
あ…え?これ…
「な…なっ!?」
俗に言うお姫様だっこの状態だった。
一回りは年下の少年にされているのかと思うとなんだか恥ずかしいやら怒りたいやらで少し焦る。
「まだやるって言うなら、仕切りなおしてやろうか?」
意識が覚醒したばかりの私を前に、フォートは笑みを浮かべてそう言って見せた。
覚醒したばかり。つまり、気絶させられたわけで…
しかも、それを抱えたままでフォートに水中から引き上げられたわけで…
私はフォートの顔を見ていられず、目を閉じて首を横に振った。
SIDE OUT
普通『失敗した』とか思ったら瞬間でもリズム崩れるモノだと思うので、フォートの特技って何気に特殊能力の域にある気がします。