なのは+『心のちから』   作:黒影翼

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余録・風に向かう強打者の拳

 

 

 

余録・風に向かう強打者の拳

 

 

 

Side~ミカヤ=シェベル

 

 

 

昨日時点で敗れてしまっているため、観客として丁度いいと言う事もあって、ナカジマちゃんの元に顔を出す。

 

「さて…と、ヴィクターの意趣返しは上手く行きそうかい?」

 

何かしら作戦なりはあるんだろうとは思って聞いてみたが…

 

彼女は静かに首を横に振った。

 

指導者としてそれはあんまりだし、その手の反応を返して私がどう返すか知らない程の仲じゃない。

けれど、力なく、浮かない表情をしているナカジマちゃんに叱責を投げるより疑問が出た。

反省や無力だと言う話なら、悔しそう…悲しそうなはずだ。

だが、今の表情を見ているとまるで『それが決定事項と知ってしまっている』ようで…

 

「…彼について、其処までの何かを知ってるのかい?」

「あたしと…同等やそれ以上の力量の『小隊』と、アイツ一人が戦った事があるんだ…それも、自分の動作だけで気絶する位魔力も体力も限界寸前だった重傷のアイツと。」

 

その時点で、それ以上を聞くまでも無かった。

いかれている。

彼の出力は私と同じようなもの…それどころか、前回に至っては魔力を使用した様子すらなかった。

旧ベルカの王様達対一兵士…なら容易く起こり得る事態だが、その王様の力を継いでるジークやヴィクターと試合を行う私と同程度の位置にいると言っていいナカジマちゃん。

当たったら終わりだろう防御能力しか見られない彼がそんな彼女級の『小隊』に挑むなんていかれているとしか言えない。

 

「あたし含めて三人があしらわれ、四人目が落とされかけた所でアイツが限界迎えたけど…消耗してなけりゃ多分全滅してた。勿論、雫も加えてできるだけ考えた手は伝えたが…」

 

それが事実なら言い淀む訳だ。とても責められた話ではなかった。

しかし…

 

 

『さぁそれでは本日も行って見ましょう!二回戦第一試合、高町速人対アインハルト=ストラトス選手っ!!今日の試合からは見ての通りランダムに競技場を変化しまーす!廃墟となりました今回、果たしてどんな試合を見せてくれるのか!!』

 

 

アクアの司会に伴い、灰色の建造物に囲まれた道路に飛び込んでくる速人さん。

前宙でくるくると回りながら登場して手を上げると言う、まるでお子様にしか見えない派手な登場をして見せた彼が、そんな超達人の域にいるとは、どう見ても見えないのは私が未熟と言う事になるのだろうか?

なんだか納得しづらい話だった。

 

相対するアインハルトちゃんは、ただ静かに歩いてきて、一礼だけして構える。

 

「…本気じゃないか、脱力してないで応えてあげないと。」

「だ…な。」

 

先の話を聞いた限りでは到底前向きな想像なんて出来るわけも無いのは承知の上で…それでも闘志をみなぎらせ立ち会おうとしている彼女を前に、さすがに脱力するわけも無く、その目を鋭いものに変える。

 

さて…と。

 

話通りの実力なら、昨日のヴィクターすら完全に馬鹿にされたまま終わった事になる。

全力を引き出すことすら出来なかったヴィクターの落ち度と言われればそれまでなのだが、できるなら…

 

 

「「「「アインハルトさんガンバレーっ!!!」」」」

 

 

割れんばかりの声援を送るチームナカジマの後輩勢にユミナちゃん。

私としても彼女達と同じ気持ちだ、頑張って欲しいものだった。

 

『それでは二回戦第一試合…始め!!!』

 

アクアの声と同時に、おそらく前回同様目を閉じるだろうとか考えていたのだが…

 

 

そんな間も言葉を発する間も無く、アインハルトちゃんは地を駆けた。

 

 

右拳から始まり、即座に左拳を続けるアインハルトちゃん。

速人さんは一撃目を捌いて二撃目を軽く下がって回避する。

奇襲気味に突っ込まれた上で瞳を閉じているのに、距離感に全くと言っていいほど誤りが無い。

続けざまに放たれた右脚による蹴りも下がって回避した彼に対し、蹴りを振り切ったアインハルトちゃんは、そのまま床に右拳を叩きつけた。

 

破城槌だ。

 

近距離で広範囲の床を砕かれ、軽快に動き辛くなる。

そこへすかさず立ち上がりながら、アインハルトちゃんは左右で空破断を連続で放つ。

 

あいも変わらず目を閉じたままで、空破断すら捌く速人さん。だが、砕けた地面を足場に下上で中距離攻撃とはいえ強打者の二撃を捌いた為か姿勢を崩す。

 

が、そこで終わらなかった。

 

「っはああぁぁっ!!」

 

距離を詰めてからでは間に合わない。

だがアインハルトちゃんは、蹴りで空破断を扱ってみせた。

崩れた所に飛来した一撃を受けた速人さんは、吹き飛ばされそのまま後方の建物に背中から突っ込んで行った。

 

「…当てたじゃないか。」

「ここしかなかったから…な。」

 

作戦だったのか、決まって一息吐いて微笑むナカジマちゃん。

直撃だったはずだ。これでいくらかでも動きが悪く出来ていれば、ここから全力でこられても勝機はある。甘く見ているようだが、ヴィヴィオちゃんのアクセルドライブに対応するだけの力はアインハルトちゃんにだってあるんだから。

 

面白くなってきた…かな?

 

 

 

Side~アインハルト=ストラトス

 

 

 

『ぁ…あーっと!速人さんはまた先制を譲る気でいたのか連撃を一切とめずに吹き飛ばされた!これはアインハルト選手大金星か!?』

 

レディーファーストとか言う気で先制を許す彼に、その気構えが出来きる前に戦闘開始。

彼が何処まで先制攻撃を見逃そうかと考えているだろう間に全ての工程を終了させる。

 

お説教を終えてやつれ気味になった雫さんが薦めて来てくれた勝機。

気は進まない部分もあったが試合に油断なんてものはするほうが悪いと言う事で躊躇わずにそれに乗った。

そして見事にはまり、大振りこそ避けたものの、完全に防御を頭から捨ててかかった私に対して一つの反撃もする事なく直撃まで受けた。

これで…足の負傷でもしていてくれたなら…

 

すたすたと、ゆっくり歩いて空いた穴から出てくる速人さんの姿があった。

瞳は…開いている。

 

防護服ですらなかったのだろう胸部の裂けた服ですたすたと歩いて…

 

「ぇ…っ!?」

 

唐突に拡大した速人さんの姿に気付いた時には、私は鳩尾に打撃を受けていた。

軽い…けど…

次が思いつく間も無いほどの速さで左拳が顎に入る。

やっぱり軽いが、そこからいきなり鳩尾に衝撃。

今度は少し重く、後方に押される様に下がらされ、何をしたのかが見えた。

 

春光拳で見たような、深く沈む姿勢での肘鉄だった。

 

 

…ありえない。

 

 

その前の綺麗なアッパーは、ヴィヴィオさんのそれに近い系統のものだったはずだ。

全く別系統の技を組み合わせるなんてそうそう出来る芸当じゃない。

 

多数の型を…流派を覚える人間はいる。ジークさんだって総合戦技者だ。

ただ、それぞれの型を『別々』に覚えたとしても、普通は身体が勝手に動いてはくれない。

極端な話をすれば、剣を振り下ろして、手放しながら倒立を行って、地面に自分の名前を書くと言うような、『心身で繋がりの無い動作を自然且つ高速で行った』事になる。

全部個別に出来る事だとしても、そんな無理な繋ぎ方そうそうありえない。

 

組み合わせを事前に練習しておいたならいいが…もしそうならそうで、本来剣士の彼が剣の絡まない事まで考え馴染ませている事になるし、そうでないなら、戦闘センスで繋がりの良い物を勝手に身体が選んでる事になる。コンマ数秒のクロスレンジ戦で…だ。

 

どっちにしてもデタラメな話だ。ダメージが軽いのが唯一の救いか。

 

「くっ!」

 

脳を揺らされすらしなかった為、蹴りでの反撃を試みた。が、蹴り上げた足を撫でるように触れられた直後、私は姿勢を崩して背中から倒れていた。

押されるような強い感触も無かった。一体何を…っ!

 

唐突に、宙から鉄パイプが顔面に向かって飛んで来た。

 

咄嗟に右手を振って弾くと、光に照らされた線のようなものが見えた。雫さんの扱う糸と同じモノで近場の建造物から絡めとったのだろうけど、いつそんな間が…っ!

 

考えた刹那、目の前に靴の裏が見えた私は、踏まれるかと思って左腕を眼前にはさみ…

 

頭の上から着地音が聞こえた。

 

「…両足飛びで倒れてる女の子の顔面潰すってヒーローのやるこっちゃないな、どー考えても腕組んで高笑いとかするような悪党の仕業だ。」

 

目を庇うつもりだった腕をそっと下げて視線を確保すると、私に背を向けたまま脇に手をあてそんな事を呟く速人さん。

一応コロナさんのゴーレムの一撃だって耐えられるのだから別に成人男性の体重で飛び込んでこられた程度なら直撃したからって何て事はなかったのだけれど…当の速人さんは首だけで振り返りながら寝転ぶ私の顔を見る。

 

「と、言う訳で起きてくれ。まだ全然やれるだろ?」

 

目が合うと、微笑む速人さん。

私は無言で少し見つめあい…

 

 

「っとぉ!」

 

 

頭上にあった足に手を伸ばして掴もうとしたが、速人さんは咄嗟に前に逃げた。

 

「おいおい覇王流格闘戦技継承者さん、仰向けで寝転んだまま足掴むってソレでいいのか?」

 

振り返って左手を弄る…五指から伸ばしていたらしい糸を仕舞う速人さんの姿を見ながら立ち上がる。

 

「正道に徹底的に拘るなら目を閉じて奇襲を待っている人相手に全力で仕掛けたりしません。勝ち残れず私に託してくれたヴィヴィオさんや雫さん達の為にも、勝利に拘らせていただきます。」

 

答えて構えた私を見た速人さんは、それを聞いて楽しげに微笑んだ。

 

言っては見たものの、付け焼刃でどうにかなるわけもない以上、不意打ちでもない限り格闘戦技で行く他ない。

私は拳を握って地を蹴った。

 

 

 

Side~ユミナ=アンクレイヴ

 

 

 

うぅーっ…

ファンで憧れの競技選手や友達に全力を出してくれない英雄さんにちょっとだけモヤモヤした気分はあるんだけど…

 

 

強い。って言うか、上手い。

 

 

あんなハンデを自分から笑いながら負ってみせるだけの腕があるって、見る専の私ですら分かってしまう位決定的に。

だって…アインハルトさんがまともに触れることすら…いや、ガードさせる事すら出来ていないんだから。

 

でも、アインハルトさんだってダメージって言うダメージは受けていない。

 

「大丈夫…だよね?」

 

希望が無いかと思ってヴィヴィオちゃんに聞いてみる。

けど、ヴィヴィオちゃんは真剣な表情のまま否定も肯定もしなかった。

 

「勝算は正直見えないですけど…当たりさえすれば。」

 

当たりさえすれば勝てるのに勝算が見えない。

それは…触れられる見込みが無いって事で…

 

「でもヘンだね?雫さんが使うあの貫通撃、使えるはずでしょ?何でアインハルトさんまだ持ち堪えてるんだろ?」

 

直撃と言うだけなら何発も当たってしまっているアインハルトさんを見ながら、貫通撃なんて聞かないものの話をするリオちゃん。

 

「防護服じゃなく、身体強化の要領で身体そのものの防御力を上げてるの。だから効かないはず…」

「効くんだけどね。」

 

ヴィヴィオちゃんの言葉を断ち切るように、雫さんがそう言う。

言いながら、雫さんは四枚のクッキーを重ねて、箸を手に持つ。

箸を振り下ろすと、四枚目のクッキーだけが割れた。

 

「ってぇ嘘ぉ!?何!?何今のっ!?」

「家の剣の一つで第二段階。速人さんは私なんかよりはるかに精度よく使えるはずだから、当然魔法防御と身体強化があったって、その内側までダメージを届けることは出来る。」

 

反則だっ!!

 

と、大声で叫びたくなるような裏技だった。

何これ見たことないっ!バリアジャケット全く意味無いし!

そう言えば、予選で斬れても無い機械が煙吹いてたっけ?あれこの技のせいだったのか。

 

「え?じゃあなんで」

「速人さんなら理由は簡単。防護服と皮の内側にあるものに打撃を届かせるって事が、どういう事か分かればね。」

「ぁ…」

 

淡々と告げた雫さんの言葉を聞いた三人の顔から血の気が引く。

私はその人体の構造系統の知識と技術を持ってるからよく分かる。

 

胴体じゃなきゃいいってものでもない。皮も裂けずに太い血管が破裂するような事があれば、多量の内出血に浸った血管とか神経がダメになる可能性は十分にある。

 

「追い詰められて使ったりとか」

「追い詰められてるなら喜べるけどね。」

 

心配になって聞いた事は、複雑な返しになって返ってきた。

本来の装備、対魔導師用の防御無視攻撃を封じて、古流武術者相手に近接戦闘。

これだけ縛って尚一撃も当てられてない。

 

「そういう化物なのよ。」

 

肩を竦める雫さんに、もう何も言えなかった。

後出来るとしたら…

 

ヴィヴィオちゃん達と顔を見合わせ、頷きあう。そして…

 

 

 

Side~アインハルト=ストラトス

 

 

 

「「「「アインハルトさん頑張ってーっ!!!!」」」」

「はああぁっ!!!」

 

はっきりと聞こえる声援を乗せるように、打ち下ろしの断空を放つ。

が、近づきながらかわした速人さんは、私の手に触れ、前ではなく下に斬って落とすようにして投げた。

頭から落ちる形になるのを避けるため、左手をついて無茶な体勢のまま足を振り回してみるが、当たらずに避けられる。

体勢を立て直した私の顔面に向かって掌が近づいて来ていて…

 

「っ!!」

 

無視する気で此方から顔面をぶつけに行って見た。

防御だけは貫通攻撃を喰らわない為に常に皮膚まで通してある。大した攻撃、防御力の無い彼なら手を痛めさせられるかと思ったのだけれど、さすがにその程度ではダメージにはならなかった。

 

「攻撃された箇所自分からぶつけに来てのダメージ狙いって…どっかの馬鹿の真似はよくないぜ?」

「あまりに当たらないので。」

 

原因はそれだけではなくもう二つほど。

一つは、未だにデバイスも使用していないこと。

もう一つは…ヴィヴィオさんのアクセルドライブと違い、余裕を削った神業ではない事。

戦闘経験と読み…なのか?とにかく、アクアさんや薊さんの戦いと同じく、別に彼は無理をしていない。

 

つまり…このまま続けても、彼の消耗が私より早くなる事はない。

 

いつまでも続ける訳には行かない、勝ちたければ、余力があるうちに仕掛けなければ。

 

私は魔力を最大に発揮し、拳を振り上げる。

そして…

 

 

「はあああぁぁぁぁっ!!!」

 

 

それを、地面に叩き付けた。

廃墟を再現した床が、私の拳を中心に大きく…それこそドームを逆さにしたかのようにへこむ。

 

「っと…地形変化?ってオイこれ…」

 

単にへこむだけなら崩れる地面で姿勢を崩さない程度にバランスを保つ事は出来るだろう。まして彼なら尚更。

けれど、フィールドは廃墟。

高層ビルなどの建造物を再現されたバトルフィールド。

 

私に合わせたつもりか、特に必要も無かったのか今の今まで廃屋に飛び込んだりせずに私が最初の軽い破城槌で崩した道路で戦い続けてくれていた速人さん。

 

 

その道路が思い切りへこめば、当然周囲の建物は『へこんだ箇所に向かって傾く』事になる。

 

 

上を見上げ回りを見回して息を吐いた速人さんは…

 

 

「…とりあえず俺はな?こー言うのは格闘戦技者の戦法じゃない気がするぞ!!」

 

 

呆れ交じりの苦情を漏らし、その声は廃墟群の崩れる轟音に消えた。

 

 

 

『む、無茶苦茶な発想の範囲攻撃!って二人とも!無事なんですか!?』

 

完全に埋まった状態でアクアさんの司会が聞こえてくる。あまり長時間埋まっていれば心配させて中止捜索になりかねない。

ここからが狙いなんだ、ボーっとしていられない。

 

 

「ふ…ぐ…う…っ!!!」

 

 

真上の瓦礫、そのうちでもしっかりとした部分を掴み、押し上げる。

リオさんの龍王破山墜の真似事。

一見ただの力技だが、ただ持ち上げると弱い部分で折れてしまう。

狙ったサイズと形状を維持してもらうには、武器強化のように魔力を通して形状を調整する必要もある。

 

『で、えええぇっ!?ア、アインハルト選手超力技だあっ!!崩れた廃墟の一部を持ちあげたぁっ!!』

 

驚くアクアさんと観客からの声は無視。

何処かにいる速人さんにこれを放り、仮にデバイスを起動させて凌いだとしても足場の悪くなったこの場を利用して追撃に出れば…

 

だから、先に姿を見つけなければならない。少なくとも背後や表には…

 

 

「っひっ!?」

 

 

右脇に走る痛みに届かない、くすぐったい感触に力が抜けて…

目の前に揺れる、数本の光が見えた。

 

糸…っ!!

 

気付いた所でもう遅く、右膝を地面につきながら、そのまま瓦礫に潰されるのを避けるように左手の力を維持して右手を下げる。

地面にはさまれた状態で瓦礫を斜めで支える羽目になった私は、右腕を瓦礫にあてた状態で左手を離し、左拳を叩きこんで瓦礫を砕く。

降り注いで来る破片から視界を庇い

 

 

「っ…は…」

 

 

鳩尾に衝撃。

全力での破城槌で消耗した上、格闘戦中でなかった為、防御の意識が薄かった。

 

 

「射抜。…拳だけどな。」

 

 

鳩尾を押さえて後ずさり…踏みとどまる。

ダメージが通るようにはなったとは言え…それでも、一撃で潰されるような力じゃないっ!まだ負けない!!

 

左右の拳を連続で…と思ったが、ぐしゃぐしゃの地面に足を取られて二撃目の前に踏みとどまる。

 

「さすがに高威力と防御の重戦士系って所か。」

 

右手を握り拳のまま、刀も無いのに抜刀体勢をとる速人さん。先の突きのように拳を振りぬくつもりなんだろうけれど…いくらなんでも右だと分かりきってる状態で!

右腕で急所を庇う体制になりつつ左拳を突き出す。

 

が、一歩下がった速人さんは右手で私の左拳を払った。

左手が先の右拳と同じ抜刀体勢になっている。

 

「よっと。」

 

顎の下を通り過ぎるように左手を一閃。

空気が触ったような触ってないような、そんな感触がした。

 

この期に及んでまだ女の子だから顔はとかそんなことを思って…え?

 

わけも分からないまま地面が目の前に見えてきた私は、そのまま意識を失った。

 

 

 

Side~高町ヴィヴィオ

 

 

 

「化物め…」

 

何処か呪詛のように呟く雫さん。

雫さんでも貫通攻撃や、アクセルドライブの上位技らしい奥義を使わずにアインハルトさんと戦う事なんて出来ないんだろう。

魔法使えるはずの速人さんが、それらに加えて武器まで指の鋼糸以外使用せずにああも人を手玉に取るのには思うところがあるんだ。

 

「最後当たってなかったように見えたけど…」

「当たってたのよ、4発。」

 

リオの目算に対して雫さんが乱雑に言った言葉は、半分私の予想外だった。

直撃より掠めるようにしたほうが脳を揺らすのに効果的な事がある。

それを狙ったのだとは思ったけど…4発の意味が分からない。

 

「コレで顎の先端掠めて倒したのよ。普通狙ってやる仕業じゃないわよこんなの。」

 

私達の前で、雫さんは拳を硬く握る。拳の関節部の出っ張り…4つ。

コレで4回掠めさせたと言うのなら…ミリ単位の狙いが必要になる。対人格闘戦であっさりやっていい所業じゃない。

 

雫さんはこれが見えてたのか。化物とか言いたくなるのも分かる。

崩れる最中のビルから壊れ方の少ないものを選んであの状況で中に飛び込むのを選んだ事といい、本当に人間業じゃない。

 

始めの一撃以外まともに当たる事無くアレだけ捌いた速人さん。

近接戦闘で挑むのは物凄い達人じゃないと難しいんだな…

 

 

微力な『出力』でなのはママを守ってきた、私が目指した道の訳、その到達点。

今は無理かもしれないけれど、忘れないようにしておこうと思って、倒れたアインハルトさんを抱き上げる速人さんの姿を見つめていた。

 

 

 

Side~リライヴ

 

 

 

「お疲れ様。手間取ったね?」

 

医療班にアインハルトちゃんを預けた速人に声をかけると、速人は軽く肩を竦めた。

 

「強い上に『徹』対策しててな。元気なうちに大振りなんてしたらカウンター喰らうかもしれないし、ちょっと慎重に。」

「確実性が欲しいなら本気出してあげればいいのに。」

 

魔力含め殆ど手札を切らずにやる必要も無かったかとは思う。

一応理由は分かるけど。

 

とっておき、にしておきたいんだろう。いろんな意味で。

必要もないのにさらしてあげると目指す意味も薄くなってしまいかねない。もしまた機会があったときに、ここまでは使わせたって形で自分の現状を見れる。

 

それに何より…『全て』を振るう相手は他にいる。

 

その人への価値が、認めているって事が、誰彼構わず手札を晒してたら薄くなってしまう。それが勿体無いんだろう。

 

ただ…

 

バン。と、軽く音がする位の強さで速人の胸板に平手を当てる。

笑顔でそれを受けた速人。けれど、その頬が強張っている。

 

「重傷だったり戦闘不能だったりしたら、肝心の一戦が台無しじゃない。」

「まーそーなん…だけど…」

 

強張った頬をぴくぴくと動かしながら、変な笑みで強がる速人。

空破断の一撃を受けて平然を装って戦ってたけど…

丈夫とは言えバリアジャケットほどな訳が無い、装甲無しの隠密行動用の服にいつものマントを羽織っただけの状態でハードヒッターの攻撃なんて受けて無傷な訳が無い。

バックステップ他でダメージ殺しはしたんだろうけど、罅位は入ってるなこれ。

 

どうせちゃんと診て貰う気もないだろう速人に、私はそのまま回復魔法をかける。

さすがに折れてまではいないだろう。それ位で、重体とかじゃなきゃ割とすぐ治る。

 

「…サンキュ。」

「午後の試合までにちゃんとしといてよ?」

 

速人が勝ちあがったから、これで私かなのはと当たる事が確実になった訳で…

ソレで不調とか残念極まりない。

 

「俺の心配してる場合かっての。家の末っ子だぜ?」

「だね。気をつけるよ。」

 

なんだかんだでなのはを誇ってるらしい速人の口調に、少し彼女が羨ましくなる。

 

贅沢なんだけど…ね。

 

王子様に助けられるお姫様。何て受け身な夢を見ておきながら、意志と力で立って突き進んできたなのはを羨ましく思うなんて贅沢、さすがに都合が良すぎる。

そう分かっていながら、実際助けられて以来…助けてくれた『王子様』の死闘を見続けて来た身としてその贅沢な思いを抱かずにはいられなかった。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 




あっさり凌いでるから平気なものの、建築物倒壊攻撃って普通なら軽い事件な気が…ゴーレムの拳よりはマシなんでしょうか(汗)
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