なのは+『心のちから』   作:黒影翼

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余録・同じ高さにいる為に

 

 

 

余録・同じ高さにいる為に

 

 

 

Side~高町なのは

 

 

 

私を庇って犬を殺した少年。

兄となった、少し優しくてとても冷たい少年。

 

「…どうして?」

 

犬の断末魔に、血の赤に、命の終わる姿に、泣きながら聞いた。

 

私を守るため。分かってはいた。

けれど、そこまでする訳が分からなくて…それが嫌で…嫌で…

 

「分かった!もう殺さない!」

 

笑顔でそう言って無手で飛び出した少年が…

 

 

 

私を庇って真っ赤に―

 

 

 

昔は、そんな夢を時々見ていた。

 

何も知らない子供の頃は、ただ動かなくなったあまりにも可哀想な犬さんの結末に泣いて、それは『一般人』の私にとっては普通の反応で…

そして、生死の境で命を…大切なモノを守る為の手段として、既に嫌と言うほど現実を思い知らされていた少年にとっては…

 

それは、果て無きマラソンのような無間地獄。

 

 

事件一つに関わる度に、何も知らなかった『一般人』から遠ざかる度に思い知る。

傷つけずに、奪わずに守れ、何てどれだけの贅沢か。

 

その贅沢を成す為に自身の身を傷つけ、すり減らして来た彼。

挙句今回の事件では…とうとう失敗して命すら失いかけてしまった。

 

 

 

 

 

「私自身一回墜ちてからは、覚悟できた…出来てるつもりだったけど…知ってのとおり、全然出来てなかったしね。」

 

フェイトちゃんと二人きりで食事しながら、特に話したりしてこなかった昔からの話を伝え、暗い話題を、空気を晴らす意味も兼ねて照れ笑いで締める。

速人お兄ちゃんが生死不明でいなくなった結果大泣きして思いっきり飲み倒して潰れたのに付き合ってくれたフェイトちゃんは静かに頷いてくれた。

 

「『やれ』と言っておきながら…本当にやってきた速人お兄ちゃんに、自分はいつまでも届かない。そんなの…嫌なんだ、やっぱり。どうしても。」

 

勿論、速人お兄ちゃんが自分で決めて自分でやってきた事だ。

やらせた。何て言えば、侮辱にしかならない。

それでも…そのきっかけは…何も知らない私。その涙。

 

なのに、追っても追っても追いつかず、知れば知るほど茨の道だって実感を得ていくのに『まあいいや』なんて思えるはずが無かった。

 

 

暗い話で相談事でもなんでもない愚痴。

トラウマってほどずっとならともかく、たまに見たり思ったりした程度の話だったから、今まではわざわざしなかった。

 

それを、今話すのは…

 

「だから…これが最後になるかもしれないなら、尚更全部使いたいんだ。ここで。」

 

限界近い身体を引きずってまで試合に出ようとしている訳の全てを、私の心配をするフェイトちゃんに伝えておくため。

 

「そっか…」

 

どうしても戦い、使い切らなきゃならないのか。

そう聞きに…きっと、止めに来たフェイトちゃんは、何かを思い出すように目を閉じて笑みを見せてくれた。

 

分かってる。

魔法の無茶、反動の結果は、この身で一度味わってる。

 

けれど、安静にしていればそのうち完治するというならいざ知らず、もういつまで全力を維持できるかも分からないとなれば、心残りなんて残したくは無い。

 

「まぁあんまり心配しないで。万が一って言うなら皆危険はあるし、エフスが診てくれる限りじゃ、ちょっと不都合が出たってなんとかしてくれるらしいしね。」

「元がアイツの知識だと思うと少し安心できないけど…彼自身には関係ない…か。」

 

プロジェクトFがらみでスカリエッティをずっと追ってたフェイトちゃんとしては、その遺産になるエフスの知識と力は安心できないのかもしれない。

納得しようと頑張っても、笑顔では頷けないところもあるんだろう。

 

「分かった、頑張って…ね。」

「うん、見ててね!リライヴちゃん相手に勝ちをもぎ取ったの、まぐれじゃない。勝算あるんだ。」

「うん、楽しみにしてる。」

 

ずっと届かなかったリライヴちゃんと速人お兄ちゃん。

フェイトちゃんと揃って昔からずっと知ってるから、逆に今回そのリライヴちゃんを破っての挑戦って事もあって、少しは期待もしてくれているんだろう。

楽しみにしてる、って言うのもきっと本心だ。応える意味でも勝ってみせる。

 

 

 

 

 

話が話だけに小部屋で二人きりで食事をしていたのだけど、昼食を終えて部屋を出てすぐ私は少し驚く事になる。

扉のすぐ脇に、壁を背に立っている恭也お兄ちゃんの姿があったから。

 

恭也お兄ちゃんは、無理をおした結果膝を壊している。

下手をすると命がけにすらなりかねない、ある意味で我儘みたいな戦いをとめる為に来たのかも知れないと身構え…

 

「どうなっても見捨てたりしない。」

「え…」

 

予想外の台詞に頭がついていかずに止まる。

表情ごと凍り付いて固まっている私に向き直ったお兄ちゃんは、軽く私の肩に手を乗せて笑いかけてきた。

 

「後の事は考えるな、お前の全てを掛けてこい。お前の原点に。」

「…うんっ。」

 

憂いとか色々が全て無くなって、はまるべきものがぴったりはまったような感じに、私は笑顔を返して頷いた。

 

 

原点。

 

 

そうだ、原点なんだ、私の。

力になりたくて、支えになりたくて、危ない目にあって欲しくなくて…磨いた力を届かせる事。

 

「…レイジングハート、よろしくね。」

『どこまでも、マイマスター。』

 

最初からずっと私に応えてくれた相棒を手に、私は試合会場へ向かった。

 

 

 

Side~月村恭也

 

 

 

試合観戦場所に行くと、意外な姿を見つけた。

 

「美由希?」

 

しっかりしてないほうの妹だった。

任務含めてごたごたで来ていなかったはずなのだが…

 

「間に合うなら見に行ってあげなさいって、母さんが送り出してくれて。仕事片付けたはやてちゃん達と一緒の便で来たんだ。母さんも抜けない怪我負ってるからちょっと躊躇ったけど…やっぱり…ね。」

「そうか…」

 

総仕上げとなる前回で全て使い切ったと言ってもいい美沙斗さんの身体は容易に実働隊を引き受けられる状態ではないはずだが…下手をするとなのはの最後の舞台になるかもしれないこの一戦を美由希に見せる為に無理をおしてくれているのだろう。

 

「…止めなかったんだね。」

 

細かく言う必要など無く、それだけで伝わった。

自らの未来を無理を押した結果絶ち掛けた俺が、今なのはを止めない事が意外だというんだろう。

 

これが任務、仕事の類なら、人の命を預かるなら、それに限界まで心身を費やし、自身を壊しかねないのなら…壊れた結果、支えようとした人を巻き込む以上、叩き伏せてでも止めたかもしれない。

 

だが…

 

「速人に…なのはの傍で支えになってきたアイツに届くようにって言う願いに、俺達が口出しできる訳がない。」

 

美由希にだって、今更事細かに説明なんている筈が無い。

それなりに成長しても辛いだろう孤独と言うものを、美由希も御神の剣をずるいと称した同級生によって味わっている。

父さんの怪我に剣の修行にかまけ、そんなものを数歳の子供に味あわせた挙句いい子に育ってしまったなのは。

 

そんななのはと一緒にいて、その涙に黒から白を目指した速人。

その姿をその無茶を実戦に事件に関わる事で徐々に実感していっただろうなのはが、追いつきたいと願うのは無理も無い。

 

ただ…感情がどうあれ、無理は無理。

身体が確実に無事である保障も、その結果どうなるかも決まっては無い。

だから…

 

「俺達に出来るとすれば、後顧の憂いを絶つ位だ。」

「だね…」

 

リンカーコア…魔力の損傷でも、身体に影響が出る事は既に知っている。

これで動けなくなったり、その結果管理世界に拒まれる事があったとしても、問題なく過ごせる様に。

 

『皆さん昼食は堪能しましたかー!見逃さない備えは出来ましたかーっ!!ここからはこんなデタラメな大会を勝ち進んだ人達の準決勝!!多分外じゃ見る機会も無いからしっかり焼き付けといてねーっ!!!』

 

物思いを晴らすアクアの明るい声に従い、変化するフィールドに目を向ける。

構成されるのは草原。思い出の地に似せたのだろう。

幾人かは知っている為、見回せば感慨深げにそのフィールドを見つめる人の姿もある。

 

『今試合の二人共通の希望により、今回のフィールドは草原となりまーす!それじゃ、準決勝第一試合!高町なのはさん対高町速人さんです!!』

 

歴史に関わるような大事件の解決にすら携わる程の魔導師となったなのはと、既に二試合で英雄の評を本物と証明した速人の試合を見れるとあってか、知り合いを集めた程度の人数にも拘らず、割れんばかりの歓声が巻き起こる。

 

色々な意味で希少な機会だ、しっかり見せてもらうか。

 

 

 

Side~高町速人

 

 

 

広がる草原にて相応の距離を開いた状態でなのはと向かい合う。

試合開始の合図は出してくれたが、俺となのははすぐには動かなかった。

 

「…レディーファースト?」

 

心底この試合が楽しみだったのか、笑顔で問いかけてくるなのは。

 

「レディには程遠い鬼教官様だけどな。ただ…今回は使わせて貰うがな。」

 

笑顔で返しつつも、俺はナギハを展開する。

 

『あーっと!ここまでデバイスを使わずやってきた速人さん!予選以外で初めてデバイスを起動するのが、なんと戦闘開始前!時空管理局が誇るエースオブエースだけあって相当の高評価をしているという事かぁっ!?』

 

ナギハの初展開を待っていたのかノリノリでコメントを叫ぶアクア。

少しだけ気になって客席の方に視線を移すと…やっぱり無手で倒した二人には複雑そうな表情をされていた。

…ま、実際デバイス無しでも何とかできた訳だからしょうがないと言えばしょうがないんだが。

 

「失礼だなぁ、遠くないもん。…でも、ま、そう言う事なら。」

 

遠慮なく魔法の準備に入るなのは。

悪いが、ある程度の予想は出来ている。

 

先手を譲ってなのはのような中遠距離型の魔導師が、単発で仕掛けてくるなんて勿体無いことする訳も無い。

それに、高位魔導師と違い、俺の強さは『当たらない』事によるノーダメージ。

 

なら、自由な先手を譲った俺に対してやる事は当然…

 

『おぉっと!32個の誘導弾が空を桜色に染めている!高位の射撃魔導師でもないと制御仕切れない代物ですがっ!さすがはエースオブエース!当たり前のように高速展開したぁっ!!』

 

誘導弾による多角多段攻撃。

なのはがやるならそれ以外ないだろう。

 

そしてもう一つ…

 

 

見ていると、桜色の光が一つ増えた。

 

 

『い、今増え…ぁ…あーっ!?』

 

 

アクアが、まともな実況を放棄して叫んだ。

無理も無い。何しろ…

 

次から次へと増えた結果、空には64個の誘導弾が展開されているのだから。

 

「32発までの制御ならティアナも含めて何人か出来る奴もいるが、そこから先の差はそうない。その理由は…魔法の制御が演算だから。」

 

演算機器に使う2進数は、1桁増やす事に倍の数を扱うことが出来る。

ティアナとなのはが同じ技量なわけが無いが、制御数は同じ32だった。その理由は、33発制御できるなら64発制御する事が可能だから。

逆に言えば、64発の制御が可能でなければ33すら届かないから、ティアナもなのはも同じ数『だった』訳だ。

 

だが…

 

「リライヴが『使っていい』と言い切ったあの全身AEC装備…あんなもんの全機能フル活用、今までありきたりのマルチタスクで出来る訳が無いよな。」

「そう言う事。」

 

俺の解説に、なのはは誇らしげに笑う。

 

「マルチタスクと別方向で極めた結果で、一つを突き詰め優れたものにした。多数の機能を同時に使える便利な魔導師が追いつかない唯一つを扱える。それが、速人お兄ちゃんたち『業』の使い手で、だからこそ一対一で戦えば絶対負けない。速人お兄ちゃんは常々そう言ってたよね。」

 

一を何処までも何処までも完璧に近づけていく。それが俺や兄さんが積んでる修行。

マルチタスクは、複数の事をある程度同時に扱うもので、方向性が間逆故に、言い方は悪いが、多数の『粗悪品』をぶつけるマルチタスクでは俺や兄さんの技量に届かない。

昔から言ってはいる事だが、最近ヴィヴィオとフェイトが辿り着いたアクセルドライブによって、『神速』について教えなくてもある程度理解してきたはずだ。

 

「実際、アクセルドライブでもマルチタスクの運用なんてできないだろ?飛行すら出来ないんだから。」

「そうなんだけど、方向性が違うだけで同じだけ極められているのなら、使いこなせているのなら、マルチタスクが負ける物なんて納得いかなかったんだ。だから、単に速人お兄ちゃん達がアクセルドライブやその先に辿り着いてるほどに、私がマルチタスクを使い切れていないだけなんじゃないか…って思ったんだ。」

 

ただの近接戦闘を超えて辿り着く極度の集中状態アクセルドライブなら、ただの魔導師を超えて辿り着く『超分散演算』の域がある筈。

おそらくは、そんな不確かな希望だけでずっとここを目指してやってきて、辿り着いたんだろう。射撃型の達人でも未だ例が無い64発の制御に。

 

オーバーS級の達人って言っても、騎士であるシグナムやヴィータは勿論、フェイトもクロノだって32発自体制御できない筈だ。

射撃型の達人が辿り着く限界値と言ってもいいそれを超えたんだ、誇らしげなのも分かる。

 

実際、こうまで行くと中々捌き辛い。

神速は必須だろう、本当大したものだ。

 

 

 

「だから…アクセルドライブを超えた『奥義』を使えるお兄ちゃん達に追いつくなら、私も魔導師を『二つ』超えないとって…そう思ってたんだ。」

 

 

 

言いながら、笑顔で瞳を閉ざすなのはの言葉を噛み砕くのに、少しの時間を要した。

だが、噛み砕く必要そのものが無かった。

 

 

直後、思考が追いつく間もなく光の弾が一つ増えたから。

 

 

俺は、ただ呆然と口を開けてその光景を眺めていた。

次々広がっていく、光、光、光。

 

 

 

そうして瞬く間に、空に128の光の弾が形成された。

 

 

 

馬鹿げている。

 

神速は、確かに人の域を外れる程すさまじい代物だが、古来からある御神の奥義。

既に前例があって、使えるようにって継承者が身に着けただけのものだ。

 

単に『届くはずだ』ってだけで、確証も前例も何もなくここまでやったのか?

 

 

 

「プリズムドライブ…アクセルシューター…」

 

 

 

顔中から汗を滲ませつつ呟くなのは。

おそらくは、それだけ呟くのがやっとな程に大変な制御を行っているんだろう。

 

何しろ、神速にマルチタスクで挑むために逆側に二つ限界突破した代物だ。

こっちだって十数秒の維持で神経肉体限界まで使うってのに、これだけやって楽な訳がない。

 

つーか、楽に使えてたまるか。何しろ…

 

 

 

これ捌くの、この光が狙ってるの、俺なんだから。

 

 

 

「シュートッ!!!」

 

愚痴の一つも出る前に、光の雨が見事な位全方位から襲い掛かってきた。

 

 

 

Side~リライヴ

 

 

 

凶悪な数の光を操るなのはに、私は軽く肩を竦めた。

 

…AEC装備のフルオプション全部を使った高速機動射砲戦闘なんて真似が出来た訳だ。

アレ全部を同時に操作するなんて、絶対人一人の手に余る筈だった。それをあっさりやってのけたなのはなら、64発制御まではやると思ってたけど…

 

まさかもう一つ先に行ってるなんて予想外もいい所だった。

 

「で、でも速人ならアレ位の数」

「弾数はシューティングスターの方が上だけど、ただの直射弾と誘導弾じゃ訳が違う。」

 

私の隣で見ているアリシアが心配を払拭したがるように告げた言葉を断ち切る。

私が使うシューティングスターは数こそ多いけど、発動体の魔法陣から連射する弾幕だ。

そういう直射弾なら光った瞬間だけ、弾の発生の瞬間だけ捉えられれば、直線上を外す事で、あるいは直線上に置いておくように斬撃を振るうだけで捌くことができる。

けど、誘導弾はそうは行かない。

この規模の誘導弾を扱える人間がいなかったからこそ、弾幕になるシューティングスターの方が危険物扱いされていたけれど、100を超える誘導弾なんか速人だって捌ける保障は全く無い。

 

それともう一つ。

 

128発が光の壁みたいに全部同時に迫ってきて着弾するわけではない。実際今も弾が連続で速人目掛けて降り注いでいる。おそらくは神速で捌きかわし続けている速人。

これで10秒程。そして誘導弾も減っている。

 

だけど…情報処理を扱う人間なら誰だって知っている事がある。

 

 

空になった領域では、『次の処理』が可能である。

 

 

 

つまり…

 

 

 

「ダブル…シュートッ!!!」

 

 

 

初期の全弾消滅前に、64発の誘導弾を追加で展開したなのはが、光の雨に晒されている速人目掛けてその光弾を解き放った。

 

 

 

Side~高町速人

 

 

 

神速を以って捌かなきゃならない弾の雨。

進行方向を塞ぐように円周機動を描く弾と、俺を直接狙ってくる弾、あえてタイミングと位置をずらして狙ってくる弾。

普通に100人対1人で戦えば同時に接するのは精々3、4の攻撃だけだが、拳サイズの小さな弾が全方位にあるとその程度じゃすまない。

自分から近づいてくる弾に向かって近づきながら切り払い、その結果離れた逆側からの弾を止まって切り返しで掻き消して。

 

柄で殴り消して足に向かうものを回避し地面にぶつけそれでも追いつかず腕で足で…

 

「っ!!!」

 

神速が保つ訳が無く頭痛がする。

身体強化だけは併用できるから生身の兄さん達と違って足や腕は疲れても壊れるほどじゃないが…それでも…荒い呼吸なんかで済む域は当に超えていて…

 

神速が強制的に切れる。それと同時か前後かも分からないくらいのタイミングで、唐突に周囲に浮かんでいた全ての魔力弾が俺目掛けて全方位から突っ込んできた。

 

咄嗟に刀を手離し、背のマントを掴む。

そして、全力で振り抜いた。

 

一度の爆発や重量の少ない弾程度ならマントそのものの強度と風による障壁で防ぎきれるが、連続して全方位から襲ってくるなのはの魔力弾相手だとさすがにダメージを殺しきることは出来ず、魔力ダメージの爆撃に晒される。

とは言え、どうにか直撃だけは避けられた。

神速の消耗に魔力ダメージでふらつく頭でどうにか倒れずこらえる。

 

が…

 

 

「ディバイン…」

「おい…っ…」

 

 

なのははあれだけやってまだ、砲撃体勢をとっていた。

魔力に余裕が無いのか、連続制御による疲労なのか、顔色は悪く、多量の汗を滴らせて歯を食いしばっている。

が、それをどうこう言えるほど、俺も余裕がなかった。

汗の感触は顔中をうっとおしいほどにしめているし、足がろくに動かない。

そして、神速に入りなおして回避するだけの余裕もないうちに…

 

 

 

「バスターっ!!!」

 

 

 

砲撃が放たれた。

それも、俺を絶対逃がさない為か、カートリッジまでロードして強化した魔力を使って範囲に回した砲撃。

光の壁のように迫って来る桜色の光を前に、俺はただ真っ直ぐ向かい合って…

 

 

 

Side~高町なのは

 

 

 

プリズムドライブと名付けた、限界に触れるマルチタスクの処理。

アクアちゃんのインフィニティーアナライザーじゃないけど、頭はもう限界だった。

普通のマルチタスクすらもう使えない。

そもそも200近い魔力弾を放って広範囲砲撃に繋げて魔力も限界近い。

 

魔力消費以外に、癒えない傷となりつつあるリンカーコアのダメージが更に増したのか、全身が悲鳴を上げる。

 

 

でも…

 

 

や…った?

 

直撃する。回避は間に合わない。

放たれた光を前に、速人お兄ちゃんは間違いなく動かなかった。

さすがに防御では防げない。

 

そして…

 

 

 

「二連!楓陣刃っ!!!」

 

 

 

声と共に、砲撃の光が裂けた。

裂けた光の先に、淡い光を宿すナギハを手にしている速人お兄ちゃんの姿。

 

剣の光から魔力を感じない。

シューターの雨に飲まれてノーダメージで済んでないだろうにも関わらず光るあの剣の力は、魔力で無いからこそなのだろう。

 

でも…

 

両手でレイジングハートをしっかりと握る。

つまりそれは、魔法だけですら凌げないからこそひねり出したという事。

つまりそれは…

 

 

「もう…一押しっ!」

 

 

目を見開いて駆け出す。

体は痛むが、リンカーコアのダメージと繋がってるからであって、決して動き回って消耗した速人お兄ちゃんと違い、体の…筋肉の疲れじゃない。

神速を使い通した挙句魔力弾の雨に晒され砲撃を断ち切る為に力を使った筈。

 

なら…この一撃で!!

 

二刀を手に俯いて動かない速人お兄ちゃんに向かって迫り、レイジングハートを振り上げる。

残る魔力はほぼ無く、それを扱うことも出来ず、フラッシュインパクトにすらならないけれど…

 

「はああぁぁぁっ!!」

 

私はありったけを込めたレイジングハートを真っ直ぐに振り下ろした。

がむしゃらで、近接戦闘の下手な私のおざなりな一撃。

でも、残った魔力を使って振るう一撃は、疲れきった人に止められるわけも無く…

 

 

左手に逆手で持つナギハによって、横に逸らされた。

 

 

「っ…!」

 

 

振り下ろしの一撃を、左逆手で放った一閃を以ってずらす。

振りぬいた体勢は…右の一閃を放つ為の力と成る。

本来は納刀状態から放つ二連攻撃…

 

 

 

「聖…十字っ!!!」

 

 

 

がら空きになった胸元に吸い込まれるように放たれた縦の一閃が、私のジャケットを断ち切りながら打ち上げた。

普段なら綺麗に切断できるだろうに、首のプレートで止まった速人お兄ちゃんの一撃は、私を押して持ち上げた。

 

技量を突き詰めた速人お兄ちゃんが、それでも断ち切れないのだから…本当に疲れきっていたはずなんだ。

でも…軽く浮き上がった状態から、着地しようとして、それも出来ずに背中から転んだ。

 

逆手の刀を振り抜いた体勢から腕を下ろして真っ直ぐ立つ速人お兄ちゃんの姿。

仰向けになった私は、動く力もなくその姿を首だけ動かして眺める。

 

「…続ける?」

 

笑いかけてくる速人お兄ちゃん。

私は自分のバリアジャケットを見る。

最後の一撃で綺麗に縦に裂けたジャケットは、私を切断可能だった事を示している。

そもそも、目の前で立っているお兄ちゃん相手に、飛び起きて戦闘続行なんて出来る余力はなかった。

 

傾けていた首から力を抜いて草原のフィールドに倒れこんで、私は首を横に振った。

 

 

 

Side~八神はやて

 

 

 

凄い。が、大騒ぎする気になれんかった。

どちらかと言うと、全身の力を抜いて息を吐いて、人の限界に触れていた二人の舞に緊張していた身体から力を抜いて、余韻に浸るって感じやった。

 

「は…あぁ…」

 

息を忘れていた事に、自分の漏らした声で気付く。

仕事を片付けて飛んで来た甲斐があった。

 

「…速人がアレを捌くのもそうだけど、なのはがあんな制御できるようになってたなんて。」

 

フェイトちゃんが素直に驚きの声を漏らす。

けれど、内容は感心しているソレなのに、なんだかその響きは悲しそうだった。

 

「…やっぱ心配?」

 

優しい…仲間内や子供達には甘いとすら言えるフェイトちゃん。

だから、過剰になのはちゃんの身を案じているのかと思ったんやけど…

 

「…と言うより、やりきれない…かな。」

 

心配をしているのはあってたけど、単に身体の心配をしている訳じゃないらしかった。

 

「あれだけの制御能力、並大抵の事じゃ身に付かない。速人達の奥義だって命がけで身に付けたって言うのに、それと張り合うマルチタスクなんて…」

「そうやね。」

「なのに…その魔法を失いかねない癒えない身体になってしまったなんて…」

 

フェイトちゃんが悲しんでいる理由がよく分かった。

限界を迎えたなのはちゃんの身体。もういつまで今の状態を維持できるかも分からないし、そもそもこの試合の疲れがちゃんと抜ける保障すらないほどに消耗してるはずだ。

 

あんな偉業を成したのに、もう使えないとなると…

 

「なんて、心配は無用やと思うよ。」

「え?」

「なんやかんや言うても、なのはちゃんはあの馬鹿の妹なんやから。」

 

自分だってがたがたの身体だろうに、お姫様抱っこでなのはちゃんを抱え上げてフィールド上を去っていった速人君の背を眺めながら、私はこの後彼がどうするかなんとなく想像出来ていた。

速人君ならきっと、あの手この手でなのはちゃんの欲しいものを握らせる筈だから。

 

 

 

Side~高町なのは

 

 

 

平然を装って私を抱え上げて医務室まで来た速人お兄ちゃんは、私の身体をベッドに下ろすと…

 

「あー…さすがに限界だ。」

 

そう言って、床なのも無視してべしゃりとへたり込んだ。

その足は痙攣でも起こしているかのように震えている。

 

「いやさすがに負けるかと思った。プリズムドライブ…だっけ?命名もそうだけど、とんだ限界突破だな。」

 

プリズム。光を分散させる透明体。

集中で反応の速さの限界を突破するのにアクセルドライブと呼称するようになったのに対して、マルチタスクの為に分散の限界突破をして数多のシューターを操作する為にそう名付けた。

速人お兄ちゃん達の奥義と同じく、1分も保たずに魔力じゃなく頭の方がついていかなくなるような代物だけど、そこまで搾り出せるようになったからこそ、追いつけたと思った。

 

けど…結局届かなかった。

 

「つか殆どまぐれだな。ジャケットの分の魔力、薊みたいに攻撃に回したり、なんならバリアバーストで弾き飛ばすだけでも俺負けてたかも知れないし。本当大したもんだよ。」

「…そっか。」

「で…」

 

手離しに近い勢いで褒めてくる速人お兄ちゃんの姿を何処か不思議に思っていると、へたり込んだまま私の顔を見てくるお兄ちゃん。

 

 

 

「満足したか?」

 

 

 

笑顔で問いかけてきた速人お兄ちゃんの言葉に、傷より、リンカーコアの負荷より、後遺症より、消耗より…

 

痛かった。心が。

 

 

「意地悪…意地悪、意地悪!意地悪ッ!!」

 

 

ヒーローなんか名乗って、本当は弱っていても強がってみせる速人お兄ちゃんが、どうして私をおろしてこんな所でへたり込んだのか、ソレが分かってしまって、私は泣きながらそう言うしか出来なかった。

 

後もうちょっとなのに諦めるのか?

 

こう言われると、とても悔しくて勿体無くて諦め切れない。そんな気持ちになるものだ。

もういつまで保つかも、回復するかも分からない、って言うか回復しなくなっていくと見られている魔力。

だからこの一戦で届かなかったら諦めようと、届けばいいなぁと、そう思っていたのに、『思おうとしていた』のに…

 

やっぱり全然諦めたくない気持ちに気付かされた。

 

いっそフリでも、平気な装いで私を笑って去って行ってくれれば諦めもついたかもしれないのに、期待しても身体が完治する見込み無いのに…

でも…気付いたら、やっぱり諦める気になれなくなった。諦めたくない本心に気付かされた。

 

意地悪だ。本当意地悪で…優しい。

 

 

「ま、それじゃまたやろうぜ。兄さんみたいにでも身体治してさ。」

 

 

ポンポンと頭を優しく撫でる速人お兄ちゃんの掌の感触に、私は泣きながら無言で頷いた。

 

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 




歴史上最大のマルチタスク間違いなしです(苦笑)。
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