なのは+『心のちから』   作:黒影翼

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余録・試合以上の理由

 

 

 

余録・試合以上の理由

 

 

 

Side~フォート=トレイア

 

 

 

準決勝。

しっかりと作られた石床の競技場フィールド。

こういうしっかりした足場が得意だろう高位技能者の一人であるフレア空尉とこの場で当たるのは中々厳しい。

ジークリンデさんとだってこんな競技場で当たってたならもっと手こずってたろうし、足がしっかり使えるような場所だと危険だ。

 

「っ―!!」

 

風切り音…とも思えない槍の先端をぎりぎり回避するが、右手に持っていた剣が斬れた。

よく折れる俺の剣だが、剣が槍によって切断されるというのはどうなんだ。

 

「ええい!」

 

ソードウイングを展開しながら、俺は無手で距離を詰めた。

俺を避けて周囲から射出しつつ、打撃で攻めるか槍の攻撃を止めてソードウイングを回避させないように…

と思ったが、踏み込みながら横蹴りを放って来るフレア空尉。

左腕で蹴りを受けて後退させられる。次いで向かっていった8本の剣の翼を、空尉は回転させた槍で全て弾き飛ばした。

 

 

引く…かっ!!

 

 

弾かれ宙を舞った剣の1本を右手で掴み、そのまま振り下ろす。

が、槍の柄で直撃をそらされ、先端が俺に向けられる。

右肩を貫こうとする突きに対して俺は…

 

まともな回避を選択せず、バク宙を行った。

 

剣を振り下ろした結果閉じていた右脇…二の腕と右胸の間を貫いていく槍。

閉じた腕と胸の間を刃物が貫いた訳で、骨はともかく両方の肉が裂かれる感触がする。

が、その代わり、脇に槍を引っ掛けた状態で思いっきりバク宙を行った結果、槍がへし折れた。

こっちから攻撃してもカウンターを貰い、向こうの攻撃と同時に反撃しても回避、迎撃をあっさりしてみせる空尉だが、さすがに槍本体を狙いにすれば破壊できたか。

魔力を集中させた先端は全てを貫く鋭さと強度を持ってるが、本体なら折れない事も無い。

 

槍を折るために勢いを使ったせいか回りきれず、頭こそ過ぎたものの膝から着地する感じになった俺に向かって、左足で蹴りを放ってくる空尉。

膝立ちになっている為、空尉の蹴りはローキックの鋭さで顔面に向かって来ていて…

 

咄嗟に左腕を頭と蹴りの間に挟んだが、思いっきり吹っ飛ばされた。

ぐらぐらする頭のまま地面を転がるが、それでも右脇だけは開かないよう心がけて立ち上がる。

 

右脇に挟んである槍の先端部を床に落として空尉を見る。

右腕と胸の間が裂けて出血、鋭く重い蹴りを受けた左腕も『完全に』使い物にならなくなっていた。

そもそも左手は、殲撃を引っつかんで押し込んだ午前のダメージが抜けきっておらず、武器を握る真似が出来なかったんだが、折れたお陰で武器どころか左腕そのものが鞭みたいにしか使えない有様だ。

 

ま、空尉から槍を奪えたのは大きいかな。

 

左腕に盾を展開する事で、同時に腕を包むように金属部が展開される。

肘までは動かせるから、折れた部分を金属部で包めば盾も普通に使える。

右手に剣。

 

フレア空尉は、折れた上に引き離されたデバイスを修復できない為か、折れたデバイスをベルトに差して固定し、拳を握り目線と水平に引く。

射抜…か、拳でだけど。

槍での突き技が得意な空尉なら拳でも突きは相応の威力だろう。

俺は盾を展開した腕を前に、構える。

 

地を蹴って一瞬で詰めてくるフレア空尉。

だが、槍でなければ空尉の拳の内側に盾をつけた腕を突き出せば、仮に顔面に右拳が届いても振りぬくまでには至らない。クロスカウンターは拳と拳だから成立するものだ、盾が邪魔になって拳を振り切れない筈だ。

 

 

そんな事は分かっていたのか、踏み込んできた空尉は、スライディング気味の低姿勢での足払いだった。

 

 

「だっ…あ。」

 

姿勢を崩して空尉を飛び越えるような形で転ぶ俺は、空中にいる間に狙いを察した。

 

 

空尉は、俺が落とした槍の先端を拾っていた。

 

 

転がって体勢を立て直した頃には、槍の修復を終えた空尉が再び突きの体勢になって…魔力の集中を感じる。

ただの突きじゃない、それは―

 

 

 

「乾坤一擲…アブソリュートランサー!!!」

 

 

 

軌道上の全てを問答無用で刺し貫く黒き槍が突き出された。

 

 

 

Side~高町速人

 

 

 

ダメージを軽減してその場しのぎを繰り返すフォートが、ジークとフレア相手に二連戦。

どっちも即死級の、受けることそのものがままならない攻撃を持つ相手。

逆に言えば…ここを勝ちぬけたならアイツは、受けても倒れない者から攻撃を受けないものに昇華するんじゃないかと、そんな事を思っていたんだが…

 

ジーク相手には殲撃を蓄えた手を逆に叩きつけるなんて使い方をして見せた。

そして今…

 

 

 

使い物にならない左腕を上げてあえて掌を貫かせたフォートは、槍が貫いた後に腕を横に開く事で、全てを貫く槍を直撃コースから逸らした。

 

 

 

「…ははっ。あの馬鹿大したもんだな。」

 

あまり贈りたくは無いんだけど、思わず漏れる賞賛。

全力の突きを、その勢いを止められた訳でもなく逸らされたフレアは、フォートの目の前で体勢を崩す事になる。

そして、そのまま右拳によるジャンプアッパーを顎に放りこまれた。

戦いで何度も使って慣れてきたのか、不器用なアイツにしては綺麗なフォームで…

 

吹っ飛ばされたフレアは、飛行でその勢いを止めて、斜め下に蹴りを繰り出しながら下降する。

レヴィに教えた飛行の勢いを利用した蹴りだが、咄嗟にモーションだけ行ったためか、ただの蹴りだった。

アブソリュートランサーみたいに魔力や砲撃纏わせて放てば必殺域だが…モーションの大きい分威力も高いジャンプアッパーを顎に喰らって切り替えしたってだけで十分か。

喰らったフォートは競技場に斜めに叩き付けられる様に落ちたものの、受身を取って立ち上がる。

傷だらけの左腕を平気な顔で叩き付けて体へのダメージを減らすあたり、超アイツらしい。

 

一方で、切り替えしたにも関わらず、着地したフレアはふらついて槍を杖代わりにしていた。

頭、さぞ揺れてることだろうに。ホントあの状態でよく切り返したもんだ。

 

平然と…出来るダメージではないだろうに立つフォート。その背に靡く真紅のマントを眺める。

 

本当に大したものだよ。このままフレアを破ったなら…

 

「決戦…だな。」

 

なのはにも思惑があったように、俺にも思う所がある一戦。

決勝当たりになった上、途中当たるメンバーもアイツには荷が重いと思ってたから正直成立しないんじゃないかと思ったんだけど、決勝で当たれるなら願っても無い話だ。

 

とは言え、技量でも攻撃力でも到底及ぶ理由もないフレア相手だ、依然不利は否めない。

…何とかしてみせろよフォート。

 

 

 

Side~フレア=ライト

 

 

 

認めよう、『こいつが強い』のだと。

 

よく知らない間、スタミナ馬鹿程度の認識でしかなかったフォート。

リライヴクローンとの一戦も含めて、フォースドライブが無ければ大した相手には見えなかった。

速人が鍛えたにしては技量が無く、魔法の扱いも奴より上手い程度でエースに及ばん。

フォースドライブこそ警戒していたが、それも使わずこの有様。

 

速人が仕立て上げただけの子供と言う認識は、完全に捨てねばならない。

 

 

負けてたまるか。それも、切り札を切らせないままで。

 

 

「おおおぉぉぉぉっ!!!」

 

 

気勢と共に突っ込んでくるフォート。剣を両手に展開しなおしている。

渾身の一撃を放つ気か…頭を揺らして平行感覚が鈍っていると判断してのトドメか?

私はカウンターを狙って構え…

 

唐突にフォートは手にした剣を投げはなってきた。

 

確かに少しは予想外だが、この奇行も正攻法の判断を狂わせる要因の一つと分かっている。今更驚くほどでもない。

向かってきた剣を槍を回して弾き飛ばした私の前で、フォートは銃を展開している。

射撃か、冷静だ。

 

「フォトンバースト!!」

 

次いで放たれた砲撃。だが、下手をすると私の砲撃魔法でも相殺できる程度の特徴の無いそれは、集束刃の一振りにてあっさり掻き消え…

 

「っらあっ!!」

 

直後、銃を手にした右手で、そのまま一声と共に殴りかかってきた。

ついさっき冷静かと思った直後の捨て身の一撃に、即座に反撃できずに回避。

 

振り切った筈だと言うのに、無理矢理地面を蹴って、側面に避けた私に向かって再び銃を振りかぶって接近してくる。

今度は見えていた為、迫ってくる足元目掛けて槍の先端を突き立て、突進をとめる。

 

前足を着地のタイミングで刺し、地面に…

 

 

「フォトンバースト!」

 

 

『直後』フォートは、突き立てた私の槍の中腹目掛けて砲撃を放った。

 

っ…これだ。

普通、攻撃を喰らうのは『予定外』なのだ。

無論、ハードヒッターなどで回避しきれないと割り切って攻め手に回る事はあるが、それはそれで覚悟を決めて初めからある程度は喰らうつもりでいる。

そうでなければ、仮に無理を押してもリズムががたがたに崩れたり、対応を修整するための間が数瞬でも必要になる。

 

だがこいつには…フォート=トレイアには、その『予定外』が存在しない。

オマケに、捨て身の如き無謀な攻撃を繰り出しておきながら普通に此方を見ている。

だからこそ、回避が間に合った私では無くデバイスの方を狙って砲撃を放ったのだ。

 

無能。非才。故に…

勝てる要素が無いと心の底から信じ、勝つまで戦えばいいと意思し続けている。

カウンターを直撃しようが、攻撃がただの一度も当たらなかろうが、こいつは諦めないどころか動揺一つしない。

 

「っらぁ!」

 

折れたとは言え、貫かれた槍が地面に刺さって縫いとめられている左足は動かない。

そう判断して打撃で追撃しようとした私に、フォートは…

 

足を貫く槍をそのまま通り過ぎさせるように、左足でハイキックを放ってきた。

 

咄嗟に右腕を挟んだものの、側頭部に蹴りを受けてぐらつく身体。

 

 

まっすぐに見えないままで、ただ踏ん張る。

 

 

速人ならいざ知らず…その弟子になど負けていられるか!

 

「奴は私が倒す!!」

 

傷ついた足での蹴りが祟ってか姿勢を整えるので手一杯だったらしいフォートに対して踏み込んだ私は、左拳を握り…

 

砲撃と共に突き出した。

 

アブソリュートランサーの要領で放たれた一撃は綺麗にフォートの鳩尾に吸い込まれる。

 

くの字に曲がったフォートは…

 

目を見開いて私を見据えた。

 

「それは譲れないんだよっ!!!」

 

いつ変えたのか、右腕に展開されているブースター。

紅い魔力光を吹かすブースターの勢い任せにフォートが振るった右拳が、この試合最後の光景だった。

 

 

 

Side~アイシス=イーグレット

 

 

 

『フレアさんとフォートと言う、最高に心臓によくない組み合わせの試合は、漢の語り合いとも言うべき拳による強打の交換の結果、フォートの勝利に決まりましたぁっ!』

 

アクアじゃないけどまったくだ。本当に心臓に悪い。

って言うかこれで準決勝ってホント大丈夫なんだろうか。

 

「止めなくていいの?」

 

どう考えても試合のノリじゃない何か。

管理局に就職するんでもなければもう戦う必要すらないはずのフォートの無茶を、折角落ち着けるようになったのに見続けてるフェアレの気持ちが分からず聞いてみる。

 

「止めたいよ。だから止めないの。」

 

フェアレはそう言って微笑む。

祈るように手を握り、それでも陸戦場に立つフォートから目を離さない。

 

「アレだけの…フォートにとっての大事な理由があるのに、私が止めたからって理由で我慢しちゃうから。」

「だからって…」

「ヒーローの帰りは待たないと。ヒロインになるなら。」

 

短く告げられた彼女の言葉に覚悟みたいなものを感じてあたしは何も言えなくなる。

フェアレの救いになるって決めたフォート。それがヒーローって言う、昔二人が知った象徴。

それを自分の為にさせている上、何があっても捨てないと決めているフォートを見続けているフェアレが出来る事は…

 

フォートに救われる事。

対を成すにふさわしいヒロインである事。

足を引っ張るでも、その挫折を疑うでもなく。

 

…ダメだ、これはまいった。

まるで勝てる気がしない。だって今飛び出したいとすら思ってたんだから。

 

でも…だったら!

 

「分かった、任せて。」

「え?」

「あたしが聞いとく。フェアレがお姫様なら、あたしはパーティーメンバーなんだから。変な話だったらぶっ飛ばしてでも止めてくる。止めなかったら、納得してあげて。」

 

フェアレは右の瞳を数度瞬かせると、笑って頷いた。

 

「…ありがとう、アイシス。」

「へへん、アイシスさんは友達絡んだら頑張っちゃうんだから。」

 

謝ったり、確認したりしてこないフェアレ。だけどなんだか見透かされてる気がして…

それでも強がる位はしたくて、あえて胸を張って応えて見せた。

 

 

 

Side~フォート=トレイア

 

 

 

昼便で着たらしいはやてさん達が混ざった結果のどんちゃん騒ぎから、食事もそこそこ済ませたあたりで離れ、一人で外に出ていた。

 

いよいよ明日…か。

無理気味の回復魔法で治して貰った身体の動きを確めながら、夜風の冷たさに身をさらす。

痛みや火照りがあるから少し寒いくらいが心地いい。

 

「や、邪魔するよフォート。」

「アイシス?」

 

元々仲間だ、意外とまでは言わないが、試合前日にわざわざ声をかけに来るとは思っていなかったアイシスの来訪に、俺は少し驚いた。

 

「どうしたんだよ、事件も片付いてのパーティーだってのに。リライヴとかあれで可愛いもの好きだし話して来れば可愛い夢ある戦闘服とか出来るかもよ?」

「あはは、確かに。普通に話す分にはすれた所無さすぎてお嬢様みたいだもんね。」

 

物珍しさか何かは知らないが、さすがに話してはいたらしい。

が、わざわざそんなパーティー抜けて、外に一人でいる俺のところに来たんだ、話があるんだろう。

 

「その、事件が片付いた楽しいパーティーの余興で、何人か…さ。まるで最終決戦って感じの空気なんだもん。気になってね。」

「あぁ、さすがに感じるか。なのはさんとかえらい必死だったもんな。」

「フォートがその筆頭だと思うから来たんだよ。」

 

はぐらかすような感じの俺を、真剣に見るアイシス。普段なら存在自体冗談みたいなコミカルな動きで話してて明るいんだが、そんな空気じゃない。

 

「フェアレだって、気にならないから何も聞いてない訳じゃないよ?ゴールで…フォートにとって全部終わった時に側にいる身でいたいからって、気になったり止めたいの我慢してるんだから。全部聞いた訳じゃないけどわかるよ。女の子同士で話ながらフォートの試合見てたんだから。」

 

アイシスの言葉に、さすがになにも言えなくなった。

当たり前だ。あちこち怪我しながら参加する『パーティー』何て代物無いことくらい誰だってわかる。

 

そして、非才の身でそこまでするだけの『何か』あることは察して、そして、それでも聞かずに止めずに居てくれているんだ。

 

信じると言う言葉に沿って、そうあり続けるのが『ヒーロー』が救出する『ヒロイン』に相応しいと。傷ついた見た目や身体が役に立たない事を気にしながら、在り方くらいは綺麗に…ヒロインの名に相応しい者に成ろうと。

そんな奴だから…アンチエクリプス何ていい加減なシステムに適合して生き残ったんだ。

 

「だからあたしがフォートのパートナー。トーマとリリィもそうだけど、二人は二人で同士だから、気づいて聞きたかったあたしが聞きに来た。フェアレには教えるなって言うなら教えないって約束する。だから…戦う理由なら、あたしには話して欲しいな。」

 

照れ笑いでしめるアイシス。

トーマとリリィが気づいてないのか気にしてないのか、一人で来たから理由が薄くなるとでも思ってるのかもしれない。

でも…

 

「パーティーで心配だけかけて悪かったな。詫び…とも違うけど、答える。」

 

『何で』そこまでするんだよ!

と、言いたいのも無理はない。ならせめて、『何で』の部分には答えないとな。

 

「最終決戦なんだよこれが。俺にとっても…アイツにとっても。」

「アイツ…って、速人さん?」

 

速人の事まで知った風に言うのが予想外だったのか驚くアイシス。

ま、俺も直接言われた訳じゃない。だが…

 

展開しているジャケット、その背にある真紅のマントをつかんでアイシスに見せる。

 

「コイツはヒーローの証…それも赤は、その中心の。だから俺は…コイツを借りられた。今回フェアレのヒーローになるのだけは絶対に俺だと、アイツの課した訓練に折れなかった俺を認めてくれたから。」

 

それは半端じゃあり得ないことだった。

自分の夢、願い、目標、その象徴を貸し渡す何て、普通には有り得ない。

エフスとの偽装で傷だらけの心のままでも強く立つのに、十分過ぎる理由になった。

 

だが…

 

「フェアレのヒーローだからこいつを貸してくれたが、そうでなきゃ俺が中心名乗るなんて有り得ない。今回の件片付けた結果、動けるようになって世界中の事件解決に首突っ込むアイツのものなんだよ、この『証』は。」

「解ってるなら返せばいいのに…って訳にもいかないんだろうね男の子。」

 

それなりに年の差がある相手だが、アイシスの呆れ混じりの『男の子』がピッタリで笑ってしまう。

アイシスの予想通りだ。『返してやる』で返されるのではなく、名実共にそれがふさわしい者足る為、俺に勝つ必要がある。

 

そして…

 

「別に俺の方は返した後でもいいんだが…ヒーロー高町速人に勝利する事が、俺の最終決戦なんだ。」

 

こんな言い方をすればアレだが、ヒドゥン『なんか』どうでもいい。

逆に言えば…世界の危機をどうでもいいと言い切る程重要な一戦が、速人との戦いなんだ。

 

「俺は…フェアレの事でアイツに負けた。俺がフェアレを諦めて復讐に動いた時、アイツはフェアレが生きてる可能性を見いだしていた。」

 

フェアレにとってだけヒーローになれていればよかった俺は、星の数ほど救う気でいるアイツに、フェアレの救いとして負けた。

そしてこのマントも、アイツが今回だけ認めて貸してくれた代物なら…越えられた訳じゃない。

 

「俺から一瞬でもフェアレの視線を奪った天下無敵のスーパーヒーロー…それを完全に越えること。フェアレにとっての一番であるために、絶対に譲れない決戦なのさ。」

 

かつてフェアレが、燃え盛る空港から拾われた俺のプレゼントを握りしめ嬉々として語っていたヒーロー、高町速人。

 

勝たなきゃならない…越えなきゃ終われない。

 

「フェアレが素直に喜べる話じゃないのは分かるよね?」

「分かってるさ。フェアレの為とは言わない。アイツとの約束を誰にも何にも譲らなかったという結果が欲しい、俺自身の為だ。」

 

それは、エフスとの恋人演技を信じた時に決めた事。

俺を忘れ、手に入るとか好かれるとか無くたってアイツと約束したヒーローになる。

 

それは、俺の宝物。

 

「分かった。しょーがないから止めないよ。…頑張れ、フォート。」

「あぁ。」

 

素直に答えて、俺は…

 

「頑張った所で、届く保証なんかまるでないんだ。」

「えっ?」

 

わざわざ聞きに来てくれた仲間に、素直に本心を語ることにした。

驚くアイシス。その驚きは、俺が弱気な台詞を言うと思ってなかったという物だろう。

 

「アイツの戦闘能力はこの二日で見たばっかだろ?」

「そりゃまぁ…強いなんてものじゃなかったよ。でも、それを取り立てて言うならなのはさんだって」

「それだけじゃない。」

 

強いというだけなら、こんなこと言いやしない。だけど…

 

「不可能への反逆を。無能でエースや大事件に抗うと決めた俺がデバイスの名に込めた意味。アイツはそれを俺よりずっと前から望んでやって来てるんだ。リライヴが未だに局の直下を外れて活動してるのだってアイツの諸行だ、本当に凄え奴なんだよ。」

 

才も力も仲間も在りながら尚、俺と同じような不可能事の成功を望む。

その不可能事は、『全てを救う』何て大事。

無能な結果ただ一人を助ける事すら不可能事だった俺とは、決定的に規模から何もかも違う。本物の

 

 

 

唐突に、首が横にずれた。

 

 

 

殴られたのだと分かったのは、正面を見直して握りこぶしを振り抜いたアイシスの姿があったから。

 

「何馬鹿言って…ううん、考えてんの。」

 

向き直って俺を見るアイシスは怒っていた。

 

「今さっき自分で言ったばっかりじゃん、フェアレとの約束の大事さを誰の何にも譲りたくないって。だから負けたくないって。」

 

呆然と突っ立っている俺を前に、アイシスは続ける。

 

「負けないよ、負けるはずない。ここでこうしてる間にも次元世界探せば事故も事件も山程あるはずなのに全てを守りたいのに傷ついてない人に、フェアレにフラレて寝込みほど傷ついて、それでも同じ約束の為に立ち上がったフォートが負けるはずない!」

 

今も何処かで必ず起きている事件悲劇、言った瞬間嘘になる、全てを守るって遠き夢物語。

速人自身も寂しげに笑いながら告げた現実。

傷ついてない訳じゃない、それでも…

 

 

俺ほどには、抗いきれてない。

 

 

「それがあたしにとっての凄いヒーローなんだから…フェアレだってきっとそう思ってるよ。」

 

照れたように顔を背けるアイシス。

けど、悪い気がするのも見てられないのも正直こっちの話だった。

 

気後れなんかして勝てるわけがない。

負けるわけがいかないなら…いつも通りで、いつも以上で行かなきゃな。

 

「サンキュー、アイシス。」

 

目線をそらしたままのアイシスに、俺は最大限の気持ちを決めて礼を告げた。

 

 

ったく…思えばいつも通りじゃないか。俺より『強い』相手を倒すのは。

 

星斬りの魔導師のクローンだろうが、最強の感染兵器だろうが、時を凍らせる竜だろうが…

 

 

幾度も世界を救った英雄だろうが。

 

 

 

「リベリオン…付き合って貰うな。」

『えぇ何処までも。』

 

自身に組み込まれたデバイスに声をかけると、機械的な念話が返ってくるが、認められてなかった昔に比べると凄く一つになってる感が強い。

取り除かなきゃ離れないって意味じゃ、フェアレよりも俺に近い相棒だって事実を改めて認識すると、そんなこいつに認められたのはとても頼もしい。

 

『ただ…鈍いのは見ていられないので気をつけてください。』

「は?今更速度上げろって?」

『…いえ、休みましょう。』

 

頼もしいと思った直後の煮え切らない返事に首を傾げつつも、俺は部屋に戻る事にした。

朝一って訳でもないが基本的にはボロボロだ。回復魔法で傷口だけ塞いだといっても休んでおいて損は無い。

 

 

 

Side~アイシス=イーグレット

 

 

 

先に戻ったフォートとの話を終えた所で、一人ボーっとしていると、唐突に肩にコートをかけられた。

振り返ると、グラスとワインボトルを手にしたエフスの姿があった。

 

「付き合おう。」

「うぇ!?」

 

唐突の話に頭がついていかず後ずさりするあたしの前で、エフスは首を横に振ってグラスを差し出してくる。

 

「愚痴と自棄にだ。」

 

そこまで言われてようやく意図を察したあたしは肩を竦める。

 

「別に愚痴なんてないし自棄にもなってないよ。」

「自分に、自分の傍に無かった光に惹かれ、それをより輝きを増すもう一つの光に奪われ…いや、初めから二つで一つの輝きだったものに惹かれた気分なら俺にも分かる。悪意が無くても恨みたくなくても、傷は傷だろう。」

「うー…」

 

細かく話されると、愚痴だの自棄だのと違って的確すぎて二の句が何も告げなかった。

そう言えば、こいつもこいつで…

 

エフスの立場に気付いて、理由に納得は出来たけど…

 

「…なんか負け組会っぽくてヤダ。」

 

話を聞いてくれるって事で素直に返す事にした。

これはこれで本心だ、嘘は言ってない。けど…

 

「なら勝ち組なのか?」

 

エフスはよりにもよって、滅多に見せない笑顔をこのタイミングで見せてそう言って来やがった。

 

恨めしい気持ちを隠す事無くしばらくエフスを睨んで…

 

結局帰ることも目を逸らす事もないエフスからワインボトルの方をひったくって、思いっきり煽ってやった。

 

 

 

SIDE OUT

 




昼ドラでなくて良かったとしか言いようが無いお二人(苦笑)。
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